(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧電素子を覆うように前記アクチュエータ基板に固定され、前記インク供給路に連通する第1貫通孔を有する保護基板をさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインクジェット装置。
前記第1貫通孔は、前記アクチュエータ基板に対向する面から順に大径部および当該大径部よりも径が小さい小径部を有している、請求項9に記載のインクジェット装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るインクジェットヘッド1の構成を説明するための図解的な平面図である。
図2は、インクジェットヘッド1の断面図(
図1のII−II線断面図)である。
図3は、インクジェットヘッド1の断面図(
図1のIII−III線断面図)である。
図4は、インクジェットヘッド1の下部電極18のパターン例を示す図解的な平面図である。
図5は、インクジェットヘッド1の圧電体膜19のパターン例を示す図解的な平面図である。
図6は、インクジェットヘッド1の保護基板4の要部を示す図解的な断面図である。なお、
図4および
図5では、説明の便宜上、
図1〜
図3で示した参照符号のうち必要なものだけを示している。
【0015】
インクジェットヘッド1は、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3と、保護基板4とを含む。
アクチュエータ基板2は、たとえばシリコン基板からなり、複数のキャビティ5を区画している。アクチュエータ基板2は、表面2aに振動膜6を支持している。振動膜6は、キャビティ5の天壁を形成しており、キャビティ5を区画している。振動膜6の上に圧電素子7が配置されている。
【0016】
アクチュエータ基板2の裏面2bにノズル基板3が接合されている。ノズル基板3は、たとえばシリコン基板からなり、アクチュエータ基板2の裏面2bに張り合わされ、アクチュエータ基板2および振動膜6とともに、キャビティ5を区画している。ノズル基板3は、キャビティ5に臨む凹部8を有し、凹部8の底面にインク吐出通路9が形成されている。インク吐出通路9は、ノズル基板3を貫通しており、キャビティ5とは反対側に吐出口を有している。したがって、キャビティ5の容積変化が生じると、キャビティ5に溜められたインクは、インク吐出通路9を通り、当該吐出口から吐出される。
【0017】
保護基板4は、たとえば、シリコン基板からなる。保護基板4は、圧電素子7を覆うように配置され、アクチュエータ基板2の表面2aに、接着剤10を介して接合されている。保護基板4は、アクチュエータ基板2の表面2aに対向する対向面11に収容凹所12を有している。収容凹所12内に複数のキャビティ5にそれぞれ対応する複数の圧電素子7が収容されている。
【0018】
保護基板4上には、インクを貯留したインクタンク(図示せず)が配置されている。保護基板4を貫通するようにインク供給路13が形成されている。保護基板4のインク供給路13は、アクチュエータ基板2内のインク供給路14に連通している。インク供給路14は、キャビティ5に連通している。したがって、インク供給源であるインクタンク内のインクは、インク供給路13,14を通ってキャビティ5に供給される。
【0019】
インクジェットヘッド1の構成を、さらに具体的に説明する。
アクチュエータ基板2の表面2aに振動膜形成層15が形成されている。振動膜形成層15において、キャビティ5の天壁を構成している部分、すなわち、キャビティ5を区画している部分が振動膜6である。
キャビティ5は、この実施形態では、アクチュエータ基板2を貫通して形成されている。アクチュエータ基板2には、複数のキャビティ5が互いに平行に延びてストライプ状に形成されている。なお、
図1では、明瞭化のために3本のキャビティ5を表している。複数のキャビティ5は、それらの幅方向に微小な間隔(たとえば30μm〜350μm程度)を開けて等間隔で形成されている。各キャビティ5は、平面視において、インク供給路14からインク吐出通路9に向かうインク流通方向16に沿って細長く延びた長方形形状を有している。インクタンク8からのインクが導かれるインク供給路14は、キャビティ5の一端部において、共通インク通路17に連通している。
図1に示すように、複数のインク供給路14が、共通インク通路17に沿って間隔を開けて配列されている。インク供給路14は、振動膜6(後述する下部電極18、圧電体膜19等、振動膜6上に配置される全ての膜)を貫通し、さらにアクチュエータ基板2を共通インク通路17まで貫通して形成されている。
【0020】
各キャビティ5は、振動膜6と、アクチュエータ基板2と、ノズル基板3とによって区画されており、この実施形態では、略直方体状に形成されている。キャビティ5の長さはたとえば800μm程度、その幅W1は55μm程度であってもよい。ノズル基板3のインク吐出通路9は、この実施形態では、キャビティ5の長手方向に関する他端部(インク供給路14の反対側端部)付近に配置されている。
【0021】
振動膜6は、酸化シリコン膜(SiO
2)の単膜であってもよいし、酸化シリコン膜上に窒化シリコン膜を積層した積層膜(SiN/SiO
2)であってもよい。キャビティ5は、アクチュエータ基板2を貫通している必要はなく、圧電素子7側の一部を残すように下面側から掘り込んだ凹所であってもよい。この場合には、アクチュエータ基板2の残部は、振動膜6の一部を構成する。この明細書において、振動膜6とは、振動膜形成層15のうちキャビティ5を区画している天壁部を意味している。
【0022】
振動膜6の厚さは、たとえば、0.4μm〜2μmである。振動膜6が酸化シリコン膜から構成される場合は、酸化シリコン膜の厚さは1.2μm程度であってもよい。振動膜6が、シリコン層と酸化シリコン層と窒化シリコン層との積層体から構成される場合には、シリコン層、酸化シリコン層および窒化シリコン層の厚さは、それぞれ0.4μm程度であってもよい。
【0023】
振動膜6上に圧電素子7が配置されている。振動膜6と圧電素子7とによって、圧電アクチュエータ(圧電装置の一例)が構成されている。圧電素子7は、振動膜形成層15上に形成された下部電極18と、下部電極18上に形成された圧電体膜19と、圧電体膜19上に形成された上部電極20とを備えている。言い換えれば、圧電素子7は、圧電体膜19を上部電極20および下部電極18で挟むことにより構成されている。
【0024】
下部電極18は、たとえば、Ti(チタン)層およびPt(プラチナ)層を振動膜6側から順に積層した2層構造(Pt/Ti)を有していてもよい。この他にも、Au(金)膜、Cr(クロム)層、Ni(ニッケル)層などの単膜で下部電極18を形成することもできる。下部電極18の厚さは、たとえば、圧電体膜19の厚さの0.2倍以下であり、具体的には、0.2μm程度であってもよい。下部電極18は、
図2および
図4に示すように、アクチュエータ基板2の表面2aのほぼ全域にわたって形成されている。これにより、複数のキャビティ5は、共通の下部電極18によって覆われている。下部電極18は、キャビティ5上に配置された主電極部18Aと、キャビティ5の外方の領域まで延びた延長部18Bとを有している。主電極部18Aは、振動膜6の上面に接している。インク供給路14は、下部電極18を貫通して形成されている。下部電極18は、キャビティ5に連通するインク供給路14を取り囲んでおり、インク供給路14の内面の一部を形成している。つまり、下部電極18は、インク供給路14の内面で露出している。
【0025】
圧電体膜19としては、たとえば、ゾルゲル法またはスパッタ法によって形成されたPZT(PbZr
xTi
1−xO
3:チタン酸ジルコン酸鉛)膜を適用することができる。このような圧電体膜19は、金属酸化物結晶の焼結体からなる。圧電体膜19の厚さは、1μm〜5μmが好ましい。振動膜6の全体の厚さは、圧電体膜19の厚さと同程度か、圧電体膜19の厚さの2/3程度とすることが好ましい。圧電体膜19は、下部電極18と同様に、
図2および
図5に示すように、アクチュエータ基板2の表面2aのほぼ全域にわたって形成されている。これにより、複数のキャビティ5は、共通の圧電体膜19によって覆われている。圧電体膜19は、キャビティ5上に配置された主要部19Aと、キャビティ5の外方の領域まで延びた延長部19Bとを有している。主要部19Aは、下部電極18の主電極部18Aの上面に接している。インク供給路14は、圧電体膜19を貫通して形成されている。圧電体膜19は、キャビティ5に連通するインク供給路14を取り囲んでおり、インク供給路14の内面の一部を形成している。つまり、圧電体膜19は、インク供給路14の内面で露出している。
【0026】
上部電極20は、
図1に示すように、各キャビティ5上に一つずつ設けられており、それぞれが、平面視で各キャビティ5に沿う帯状(長方形状)に形成されている。さらに、上部電極20は、その全体が各キャビティ5の内方領域に制限されるように配置されている。上部電極20は、白金(Pt)の単膜であってもよいし、たとえば、導電性酸化膜(たとえば、IrO
2(酸化イリジウム)膜)および金属膜(たとえば、Ir(イリジウム)膜)が積層された積層構造を有していてもよい。上部電極20の厚さは、たとえば、圧電体膜19の厚さの0.2倍以下であり、具体的には、0.2μm程度であってもよい。
【0027】
インクジェットヘッド1のその他の構成として、第1水素バリア膜21および第2水素バリア膜22が設けられている。下部電極18(主電極部18Aおよび延長部18B)の下面は、第1水素バリア膜21によって覆われており、上部電極20の表面および圧電体膜19の延長部19Bの表面は、第2水素バリア膜22によって覆われている。第1および第2水素バリア膜21,22は、たとえば、Al
2O
3(アルミナ)からなる。これにより、圧電体膜19の水素還元による特性劣化を防止することができる。第1および第2水素バリア膜21,22の厚さは、たとえば、80nm程度である。
【0028】
第2水素バリア膜22上には、層間膜23が積層されている。層間膜23は、たとえば、SiO
2からなる。層間膜23の厚さは、たとえば、500nm程度である。
層間膜23上に配線膜24が形成されている。配線膜24は、Al(アルミニウム)を含む金属材料からなっていてもよい。配線膜24の厚さは、たとえば、1000nm程度である。配線膜24は、上部配線25、下部配線26およびダミー配線27を含む。
【0029】
上部配線25の一端部は、上部電極20の一端部の上方に配置されている。上部配線25と上部電極20との間において、第2水素バリア膜22および層間膜23を連続して貫通する貫通孔(コンタクト孔)28が形成されている。上部配線25の一端部は、貫通孔28に入り込み、貫通孔28内で上部電極20に接続されている。つまり、上部配線25は、上部電極20の上方から、キャビティ5の外縁を横切ってキャビティ5の外方領域に亘って延びている。
【0030】
下部配線26は、平面視においてキャビティ5の外方領域に配置されており、キャビティ5に対向しないようになっている。つまり、下部配線26は、キャビティ5の外方領域で、下部電極18の延長部18Bに対向している。下部配線26と下部電極18の延長部18Bとの間において、圧電体膜19、第2水素バリア膜22および層間膜23を連続して貫通する貫通孔(コンタクト孔)29が形成されている。この実施形態では、貫通孔29は、各キャビティ5の延長線上に一つずつ形成されている。下部配線26は、複数の貫通孔29に入り込み、貫通孔29内で下部電極18の延長部18Bに接続されている。貫通孔29が圧電体膜19を貫通することで、言い換えれば、下部電極18に対する下部配線26のコンタクト部が、
図5に示すように、圧電体膜19に取り囲まれている。圧電体膜19は、貫通孔29の内面の一部を形成しており、貫通孔29内で下部配線26に接している。
【0031】
ダミー配線27は、上部配線25および下部配線26のいずれにも、電気的に接続されておらず、電気的に絶縁された配線膜である。この実施形態では、ダミー配線27は、
図1に示すように、インク供給路14を取り囲む環状に形成されている。より具体的には、ダミー配線27は、インク供給路14の内面で露出しないように、インク供給路14から一定の距離を開けた離れた位置に内周縁を有している。
【0032】
配線膜24を覆うように、パッシベーション膜30が設けられている。パッシベーション膜30は、たとえば、SiN(窒化シリコン)からなる。パッシベーション膜30の厚さは、たとえば、圧電体膜19の厚さの0.5倍以上であり、具体的には、850nm程度であってもよい。パッシベーション膜30には、上部配線25および下部配線26の一部をパッドとして露出させるパッド開口31,32が形成されている。パッド開口31は、平面視においてキャビティ5の外方領域に形成されており、たとえば、上部配線25の先端部(上部電極20へのコンタクト部の反対側端部)に形成されている。パッド開口32は、たとえば、下部配線26の複数のコンタクト部(貫通孔29)を覆うように形成されている。
【0033】
第2水素バリア膜22、層間膜23およびパッシベーション膜30には、開口33が形成されている。開口33から、上部電極20の表面の一部が露出している。この実施形態では、
図1に示すように、上部電極20の中央部が開口33から選択的に露出するように、上部電極20の周縁部が第2水素バリア膜22によって覆われている。上部電極20に接していない膜(この実施形態では、層間膜23およびパッシベーション膜30)の開口33の外縁は、
図2に示すように、上部電極20の外方領域に設定されていてもよい。
【0034】
保護基板4には、パッド開口31およびパッド開口32を包含するアクチュエータ基板2上のパッド領域を露出させる貫通孔34,35が形成されている。
圧電素子7は、振動膜6を挟んでキャビティ5に対向する位置に形成されている。すなわち、圧電素子7は、振動膜6のキャビティ5とは反対側の表面に接するように形成されている。アクチュエータ基板2上に振動膜形成層15が形成されており、この振動膜形成層15においてキャビティ5の周囲の部分によって振動膜6が支持されている。こうして、振動膜6は、アクチュエータ基板2に支持されている。振動膜6は、キャビティ5に対向する方向(換言すれば振動膜6の厚さ方向)に変形可能な可撓性を有している。
【0035】
そして、駆動IC(図示せず)から圧電素子7に駆動電圧が印加されると、逆圧電効果によって、圧電体膜19が変形する。これにより、圧電素子7とともに振動膜6が変形し、それによって、キャビティ5の容積変化がもたらされ、キャビティ5内のインクが加圧される。加圧されたインクは、インク吐出通路9を通って、吐出口から微小液滴となって吐出される。
【0036】
インクジェットヘッド1の構成に関して、さらに以下の説明を加える。
(1)振動膜6および圧電体膜19の内部応力
この実施形態では、振動膜6が圧縮応力を有し、圧電体膜19が引張応力を有している。たとえば、振動膜6の圧縮応力が−300MPa〜−100MPaであり、圧電体膜19の引張応力が100MPa〜300MPaである。これにより、振動膜6および圧電体膜19の平均応力の絶対値が、100MPa以下となっている。平均応力は、圧電体膜19の引張応力を正の値、振動膜6の圧縮応力を負の値として、これらの値の平均値を求めることによって算出できる。
【0037】
さらに、アクチュエータ基板2から見て振動膜6よりも上側に配置された圧電体膜19を含む複数の上層膜(たとえば、第1水素バリア膜21、圧電体膜19、第2水素バリア膜22、層間膜23およびパッシベーション膜30)を考慮して、当該上層膜と振動膜6との平均応力の絶対値は、たとえば、50MPa以下であってもよい。
(2)インク供給路13の掘り込み部37
図2および
図6に示すように、保護基板4には、インク供給路13を構成する貫通孔36が形成されており、さらに、保護基板4の対向面11には、貫通孔36に連通する掘り込み部37が形成されている。掘り込み部37は、貫通孔36を取り囲んで貫通孔36の端部に幅広部を形成している。この実施形態では、貫通孔36は、平面視において、円形に形成されており、掘り込み部37も同様に、貫通孔36と同心で貫通孔36よりも大きな径を有する円形に形成されている。したがって、掘り込み部37によって、貫通孔36は、保護基板4の対向面11から順に、大径部38および小径部39を有している。大径部38における貫通孔36の開口径が、小径部39の開口径よりも大きい。
【0038】
小径部39および大径部38は、保護基板4の厚さ方向途中に配置された段差面40を介して連なっている。この段差面40は、貫通孔36のインク流通方向(長手方向)を交差する方向に延びており、保護基板4の厚さ方向ほぼ中央に配置されている。これにより、貫通孔36は、断面視において、対向面11からその反対側の面へ向かって細くなる漏斗状に形成されている、また、段差面40は、
図6に示すように、保護基板4の対向面11の法線方向から見て、小径部38を取り囲む環状に形成されている。
(3)保護基板4における貫通孔34〜36の開口径の相違
保護基板4に形成された貫通孔34〜36の開口径は、互いに異なっている。たとえば、インク供給路13となる貫通孔36の径D1を基準とすると、貫通孔34の径D2および貫通孔35の径D3は、径D1に比べて大きい。なお、
図2では、説明の便宜上、貫通孔36の小径部39の径を径D1としているが、径D1が大径部38の径と定義するときでも、径D1>径D2,D3の関係は維持される。
【0039】
この実施形態では、保護基板4の厚さが、200μm〜500μmであり、貫通孔36の径D1は、30μm〜50μmである。一方、貫通孔34の径D2は、300μm〜1500μmであり、貫通孔35の径D3は、300μm〜1500μmである。この結果、貫通孔36のアスペクト比(開口深さ(保護基板4の厚さ)/開口径)は、貫通孔34,35のアスペクト比よりも大きくなる。たとえば、貫通孔36のアスペクト比は、貫通孔34,35のアスペクト比の10倍以上である。
(4)上部配線25の総幅が上部電極20の幅以上であること
図1および
図3に示すように、上部配線25は、上部電極20の幅W2以上の総幅を有している。総幅は、
図1のように各上部配線25が1つの配線膜で構成されている場合には、当該上部配線25自体の幅である。
【0040】
上部配線25は、インクジェットヘッド1の可動部と非可動部との境界領域43(つまり、キャビティ5の外縁)を横切る第1領域41と、キャビティ5の外方領域に敷設された第2領域42とを一体的に含む。この実施形態では、第1領域41および第2領域42が共に、上部電極20の幅W2以上の幅W3,W4を有している。一方、第1領域41の幅W3は、キャビティ5の幅W1よりも大きくなっているが、第2領域42の幅W4は、キャビティ5の幅W1よりも小さい。すなわち、上部配線25は、
図1の構成では、境界領域43を横切る領域に幅広部を有し、キャビティ5の外方領域に幅狭部を有している。上部配線25の第1領域41の幅W3は、たとえば、75μm〜85μmであり、第2領域42の幅W2は、たとえば、10μm〜25μmである。
【0041】
また、
図3に示すように、上部電極20がキャビティ5の内方領域に制限されるように配置されていることから、上部電極20の幅方向両側には、上部電極20の厚さによって段差が形成されている。そして、上部配線25は、この段差を覆うことで、キャビティ5の外方領域において、当該段差に引っ掛かるように形成された脚部44を有している。
図7A〜
図7Sは、インクジェットヘッド1の製造工程を説明するための図である。
図7A〜
図7Sは、
図2に対応するインクジェットヘッド1の断面を示している。
【0042】
インクジェットヘッド1の製造工程は、大きく分けて、
図7A〜
図7Iに示す保護基板4の準備工程と、
図7J〜
図7Qに示すアクチュエータ基板2の準備工程と、
図7R〜
図7Sに示すその他の工程とを含む。以下では、保護基板4の準備工程を説明した後にアクチュエータ基板2の準備工程を説明するが、これらの工程は、互いに順序が逆であってもよい。
【0043】
まず、
図7Aに示すように、たとえば400μm厚さの保護基板4(シリコン基板)が準備され、
図7Bに示すように、保護基板4の表面に熱酸化膜45(たとえば、15000Å厚さ)が形成される。
次に、
図7Cに示すように、熱酸化膜45をパターニングすることによって、貫通孔36を形成すべき領域に開口が形成される。そして、この熱酸化膜45をマスクとするドライエッチングによって、保護基板4の厚さ方向途中(ほぼ中央位置)まで穴部46が形成される。この穴部46は、最終的に貫通孔36の小径部39となる部分である。
【0044】
次に、
図7Dに示すように、保護基板4の裏面(最終的に対向面11となる面)に、たとえばプラズマCVDによって、酸化膜47が形成される。次に、酸化膜47上に、収容凹所12および貫通孔34〜36に形成すべき領域に開口を有するレジスト膜48が形成される。そして、このレジスト膜48をマスクとするドライエッチングによって、酸化膜47が選択的に除去される。その後、レジスト膜48が除去される。
【0045】
次に、
図7Eに示すように、保護基板4の表面に、支持基板49(たとえば、400μm厚さのシリコン基板)が接着される。保護基板4は、支持基板49によって支持される。次に、酸化膜47を覆うように保護基板4の裏面にレジスト膜50が形成される。レジスト膜50は、酸化膜47の複数の開口に埋め込まれた部分のうち、貫通孔34〜36に対応する部分が選択的に除去される。
【0046】
次に、
図7Fに示すように、レジスト膜50および酸化膜47をマスクとするドライエッチングによって、保護基板4が裏面から選択的に除去される。エッチングの開始位置は、貫通孔34〜36に対応する箇所である。穴部46の反対側の領域からのエッチングによって、当該エッチングが穴部46の底部に達した時点で貫通孔36(掘り込み部37)が形成される。この際、裏面からのエッチングは、貫通孔36の大径部38の径で行われる。一方、貫通孔36以外の領域では、貫通孔36のためのエッチングよりも大きな径で保護基板4がエッチングされるので、保護基板4の裏面から表面まで一気に到達する貫通孔34,35が、穴部46の開通と同時に形成される。その後、レジスト膜50が除去される。
【0047】
次に、
図7Gに示すように、保護基板4が裏面から選択的に除去されることによって、収容凹所12が形成される。
次に、
図7Hに示すように、支持基板49が取り外される。
次に、
図7Iに示すように、保護基板4の表裏面を覆っていた酸化膜45,47が除去される。これにより、アクチュエータ基板2の取り付けられる保護基板4の準備が完了する。
【0048】
一方、アクチュエータ基板2の準備工程は、次の通りである。まず、
図7Jに示すように、たとえば625μm厚さのアクチュエータ基板2(シリコン基板)が準備され、その表面2aに、振動膜形成層15が形成される。振動膜形成層15は、たとえば、プラズマCVDによって形成される。
次に、振動膜形成層15上に、第1水素バリア膜21(たとえば、80nm厚さ)が形成される。第1水素バリア膜21は、たとえば、スパッタ法によって形成される。第1水素バリア膜21の形成後、下部電極18、圧電体膜19および上部電極20が順に形成される。下部電極18および上部電極20は、たとえば、スパッタ法によって形成され、圧電体膜19は、たとえば、ゾルゲル法によって形成されるが、スパッタ法によって形成してもよい。
【0049】
圧電体膜19のゾルゲル法では、PZTを含む前駆体溶液の塗布膜をゲル化させて形成されるゲル化膜を、下部電極18上に1または複数枚積層した後に熱処理して本焼成させる本焼成工程を行って圧電体膜19を形成する。ゾルゲル法は、通常、高温条件下(たとえば、本焼成工程では、700℃程度)で行われ、その後、膜が冷却される。この冷却の際に膜が収縮するため、圧電体膜19は、引張応力を有することになる。
【0050】
その後、上部電極20が所定の最終形状となるように、選択的にエッチングされる。こうして、圧電素子7が形成される。
次に、
図7Kに示すように、圧電素子7を覆うように、第2水素バリア膜22および層間膜23が順に形成される。続いて、層間膜23および第2水素バリア膜22が連続してエッチングされることによって、貫通孔28,29が形成される。
【0051】
次に、
図7Lに示すように、層間膜23上に、TiN膜(たとえば、50nm厚さ)を成膜した後、スパッタ法によって、配線膜24が形成される。その後、配線膜24をパターニングすることによって、上部配線25、下部配線26およびダミー配線27が同時に形成される。
次に、
図7Mに示すように、配線膜24を覆うパッシベーション膜30が形成される。パッシベーション膜30は、たとえば、プラズマCVDによって形成される。
【0052】
次に、
図7Nに示すように、パッシベーション膜30が選択的にエッチングされることによって、パッド開口31,32が形成される。
次に、
図7Oおよび
図7Pに示すように、上部電極20上のパッシベーション膜30および層間膜23が連続してエッチングされた後、第2水素バリア膜22が選択的にエッチングされる。これにより、開口33が形成される。
【0053】
次に、
図7Qに示すように、アクチュエータ基板2上の複数の膜が連続してエッチングされる。これにより、圧電体膜19および下部電極18(延長部18B)を貫通するインク供給路14が形成される。
次に、
図7Rに示すように、次に、保護基板4の対向面11を上方に向けた姿勢で当該対向面11に接着剤10が塗布され、インク供給路13とインク供給路14とが一致するように、アクチュエータ基板2が上側から保護基板4に固定される。次に、アクチュエータ基板2が裏面2aから研削されることによって薄化(たとえば、625μm→100μm)された後、裏面2aからの選択的なエッチングによってキャビティ5が形成される。
【0054】
その後、
図7Sに示すように、アクチュエータ基板2のキャビティ―5を覆うように、ノズル基板3が、アクチュエータ基板2の裏面2bに固定される。以上の工程を経て、インクジェットヘッド1が得られる。
<作用効果>
(1)圧電体膜19のパターンに関する作用効果
この実施形態では、たとえば
図5に示すように、圧電体膜19がアクチュエータ基板2の表面2aのほぼ全域に形成されていて、圧電体膜19の形成領域がキャビティ5の内方領域に制限されていない。圧電体膜19が形成されていない領域は、インク供給路14および下部配線26のコンタクト部(貫通孔29)だけである。しかも、これらの除去領域は、インク供給路14および貫通孔29を形成するときのエッチング(
図7K、
図7P)によって形成できる。したがって、圧電体膜19をパターニングする必要がない。たとえ圧電体膜19のパターンがアクチュエータ基板2の表面2aの全域でなくても、キャビティ5全体を覆う領域に亘って延びるパターンであれば、サイズが大きく精密なエッチング精度が要求されないので、圧電体膜19のパターニング時、圧電体膜19を簡単に加工(エッチング)することができる。これにより、インクジェットヘッド1の歩留まりを向上させることができる。また、圧電体膜19の周縁が、少なくともキャビティ5の外方の領域(つまり、圧電素子7の可動部の外方の領域)に設定されていれば、圧電体膜19の周縁がエッチングによってダメージを受けていても、当該ダメージによる圧電素子7の耐圧の低下を防止することができる。
【0055】
なお、この実施形態では、圧電体膜19がインク供給路14の側面に露出するが、そのインク供給路14の形成領域は圧電素子7の可動部ではないため、当該圧電体膜19の露出が圧電性能へ悪影響を及ぼすことはない。
(2)振動膜6および圧電体膜19の内部応力に関する作用効果
この実施形態では、圧電体膜19が、振動膜6とは反対向きの引張応力を有しているので、振動膜6に生じる圧縮応力を相殺することができる。これにより、
図7Rに示すように、アクチュエータ基板2をエッチングして振動膜6をリリースしたときに振動膜6にかかる張力をゼロに近づけることができる。したがって、圧電素子7の駆動時に、振動膜6を良好に変位させることができる。よって、インクの吐出に必要な大きさの変位を得ることができる。しかも、振動膜6の圧縮応力は、プラズマCVDを実施するときの成膜条件を制御することによって容易に調整でき、圧電体膜19の引張応力は、ゾルゲル法およびスパッタ法を実施するときの成膜条件を制御することによって容易に調整することができる。
【0056】
また、この実施形態では、パッシベーション膜30の上部電極20上の部分が除去されているため、パッシベーション膜30が有する応力は、振動膜6の張力にほとんど影響を与えない。さらに、第1水素バリア膜21、第2水素バリア膜22、層間膜23、下部電極18および上部電極20は、圧電体膜19に比べてかなり薄い膜なので、多少の内部応力を有していても、その応力も、この実施形態のパッシベーション膜30と同様に、振動膜6の張力に影響を与えない。
(3)掘り込み部37に関する作用効果
この実施形態では、保護基板4の対向面11に掘り込み部37が形成されているので、保護基板4にアクチュエータ基板2を固定する際に、接着剤10が貫通孔36の周囲から流れ込んでも、その接着剤10の全部または一部を掘り込み部37で捕捉することができる。これにより、保護基板4の貫通孔36(インク供給路13)が接着剤10で塞がれることを抑制または防止することができる。したがって、キャビティ5に良好にインクを供給できる。
【0057】
また、掘り込み部37が、貫通孔36と同心で貫通孔36よりも大きな径を有する円形に形成されている。そのため、掘り込み部37の形成に必要なスペースが貫通孔36の周囲で済むので、掘り込み部37の形成によって装置が大型化することを抑制することができる。
(4)保護基板4の貫通孔36(インク供給路13)の形成方法に関する作用効果
この実施形態では、貫通孔36は、まず、保護基板4の表面に穴部46が形成された後(
図7C)、保護基板4を裏面からエッチングして穴部46を開通させることによって形成される(
図7F)。つまり、貫通孔36を形成するために保護基板4の表面および裏面それぞれからエッチングすることになるが、表面から裏面まで一気にエッチングする場合に比べて、一回のエッチング深さが浅くて済む。そのため、貫通孔36の形成までの平均のエッチングレートを高くすることができる。その結果、貫通孔36の形成に要するエッチング時間を短縮することができる。
【0058】
また、この実施形態では、保護基板4に互いにサイズが異なる貫通孔34〜36を形成する必要がある。この場合に、相対的にエッチングサイズが小さい貫通孔36の形成領域に予め穴部46が形成されているので、
図7Fの工程では、保護基板4の裏面における貫通孔36を形成すべき領域からは、保護基板4の厚さから穴部46の深さを差し引いた厚さの基板材料をエッチングすれば、貫通孔36を形成することができる。したがって、貫通孔36の形成領域と、貫通孔34,35の形成領域との間でエッチングレートは異なるが、各領域に貫通孔34〜36が形成されるタイミング(つまり、エッチングの完了時期)のばらつきをなくし、貫通孔34〜36を、ほぼ同じタイミングで形成することができる。その結果、オーバーエッチングの発生を抑制または防止することができる。
(5)保護基板4の貫通孔36(インク供給路13)の形状に関する作用効果
この実施形態とは異なり、穴部46の反対側からのエッチング時、エッチングサイズが穴部46とほぼ同じであると、位置合わせずれ等が原因で、貫通孔36の継ぎ目部分(保護基板4の厚さ方向途中部)において段差が生じ、設計値よりも貫通孔36の径が小さくなる部分が生じるかもしれない。そこで、
図6に示すように、貫通孔36が大径部38および小径部39を有する構成とし、大径部38の加工寸法を、位置合わせずれを考慮した大きさにしておくことで、少なくとも小径部39に対応する径を確保することができる。そのため、小径部39を貫通孔36の設計値に合わせて形成することによって、設計値通りの径を有する貫通孔36を得ることができる。
(6)上部配線25のパターンに関する作用効果
この実施形態では、
図1および
図3に示すように、少なくとも、上部配線25の第1領域41(インクジェットヘッド1の可動部と非可動部との境界領域43を横切る領域)の幅W3が、上部電極20の幅W2以上となっている。そのため、振動膜6の変位によって上部配線25の境界領域43上の部分に大きなストレスがかかっても断線を防止することができる。
<変形例>
(1)圧電体膜19のパターンに関する変形例
図8Aおよび
図8Bは、圧電体膜19のパターンに関する変形例を示す。
【0059】
図8Aの構成では、圧電体膜19は、キャビティ5全体を覆う領域に亘って延びるパターンではあるが、各キャビティ5に対応して一つずつ形成されている。各圧電体膜19の延長部19Bは、キャビティ5の周囲に沿って形成されている。この構成によっても、前述の「<作用効果>(1)圧電体膜19のパターンに関する作用効果」で示した作用効果を実現することができる。なお、この項の圧電体膜19を形成するには、たとえば、
図7Jに示す工程で圧電体膜19を成膜した後、上部電極20を形成する前に、圧電体膜19を所定の形状になるようパターニングすればよい。
【0060】
一方、
図8Bの構成では、圧電体膜19は、主要部19Aのみを有しており、延長部19Bを有していない。この圧電体膜19の主要部19Aは、上部電極20よりは平面サイズが大きいが、キャビティ5の内方領域に制限されている。
(2)圧電体膜19上に配置された絶縁膜のパターンに関する変形例
図9A〜
図9Cは、圧電体膜19上に配置された絶縁膜、具体的には、第2水素バリア膜22、層間膜23およびパッシベーション膜30のパターンに関する変形例を示す。
【0061】
図9Aの構成では、第2水素バリア膜22には開口33が形成されておらず、上部電極20の表面は、第2水素バリア膜22によって覆われている。
図9Bの構成では、層間膜23にも開口33が形成されていない。さらに、
図9Cの構成では、パッシベーション膜30にも開口33が形成されていない。
特に、
図9Cの構成のように、圧電体膜19上にパッシベーション膜30が残っている場合には、パッシベーション膜30が比較的厚い膜なので、振動膜6にかかる張力を調節するに当たって、パッシベーション膜30の内部応力を考慮する必要がある。すなわち、パッシベーション膜30を含めた平均応力、つまり、振動膜6、圧電体膜19およびパッシベーション膜30の平均応力の絶対値が、50MPa以下とすることが好ましい。このようにすることで、前述の「<作用効果>(2)振動膜6および圧電体膜19の内部応力に関する作用効果」で示した作用効果を良好に実現することができる。
(3)保護基板4の掘り込み部37の形状に関する変形例
図10A〜
図10Kは、保護基板4のインク供給路13(特に、掘り込み部37)の形状に関する変形例を示す。
【0062】
図10Aの構成では、掘り込み部37は、断面視において、掘り込み部37の底部に凹状の溝部51を形成するように、掘り込み部37の全周に亘って設けられた堤防部52を有している。特に
図10Aの構成では、堤防部52は、断面視において、頂部が尖った形状に形成されている。一方、
図10Bの構成のように、堤防部52は、断面視において、頂部が平坦な形状に形成されていてもよい。
図10Aおよび
図10Bの構成では、貫通孔36に流れ込んだ接着剤を溝部51で捕捉できるので、捕捉後の接着剤が貫通孔36に流れ出すことを防止することができる。
【0063】
図10Cの構成では、掘り込み部37(大径部38)は、テーパ形状に形成されている。つまり、大径部38は、保護基板4の対向面11から反対側に向かって径が徐々に狭くなっている。
図10Dの構成では、掘り込み部37は、大径部38が複数形成されるように、1段ずつ段階的に幅が狭くなる複数の段差構造53(
図10Dでは二段)を有している。
【0064】
図10Eの構成では、掘り込み部37は、大径部38の側面から延びる放射状部54を含んでいる。放射状部54は、たとえば、複数のフィン状の溝が貫通孔36の側面に沿って等間隔で設けられることによって構成されている。
図10Eの構成では、接着剤が掘り込み部37に一気に流れ込むことを防止することができる。
そして、
図10F〜
図10Kは、それぞれ、
図6および
図10A〜
図10Eに示した掘り込み部37が、保護基板4の対向面11の表面部に形成された構成を示している。
図6および
図10A〜
図10Eでは、掘り込み部37は、保護基板4の厚さ方向ほぼ中央まで形成されていた。
(4)保護基板4のインク供給路13の形状に関する変形例
図11A〜
図11Cは、保護基板4のインク供給路13の形状に関する変形例を示す。
【0065】
前述の「(4)保護基板4の貫通孔36(インク供給路13)の形成方法に関する作用効果」に焦点を当てるのであれば、保護基板4を裏面からエッチングして穴部46を開通させる際(
図7F)、穴部46の径と同じエッチングサイズでエッチングしてもよい。この場合、掘り込み部37、大径部38および小径部39は形成されないが、貫通孔36は、保護基板4の厚さ方向途中(この実施形態では、ほぼ中央部)に、若干のエッチング位置ずれによって生じた継ぎ目55(
図11Aの構成)や段差56(
図11Bの構成)を有していてもよい。
【0066】
図11Cの構成では、小径部39が保護基板4の対向面11側に形成されており、大径部38が対向面11の反対側に形成されている。つまり、
図6の構成に対して、大径部38および小径部39の位置関係が逆になっている。この構成によっても、前述の「<作用効果>(5)保護基板4の貫通孔36(インク供給路13)の形状に関する作用効果」を実現することができる。なお、
図11Cの構成の貫通孔36を形成するには、たとえば、
図7Cに示す工程で、大径部38と同径の穴部46を形成し、穴部46を開通させる際に、小径部39と同じエッチングサイズで保護基板4をエッチングすればよい。
(5)上部配線25のパターンに関する変形例
図12A〜
図12Hは、上部配線25のパターンに関する変形例を示す。
【0067】
図12Aの構成では、上部配線25の第1領域41の幅W3と第2領域42の幅W4が同じである。つまり、上部配線25の一定の幅で形成されている。また、上部電極20の幅W2と、幅W3,W4と、キャビティ5の幅W1との関係は、幅W2<幅W3=幅W4<幅W1となっている。
図12Bの構成では、
図12Aの構成に対して、第1領域41の上部電極20とのコンタクト部(貫通孔28の近傍部分)が、上部電極20の幅W2よりも選択的に細くなっている。一方、境界領域43を横切る部分では、第1領域41の幅W3は、
図12Aの構成と同様に、上部電極20の幅W2以上となっている。
【0068】
図12Cの構成では、
図12Aの構成において、幅W1〜幅W4の関係が、幅W2<幅W1<幅W3=幅W4となっている。
図12Dの構成では、
図1の構成において、圧電体膜19が、平面視でキャビティ5の内方領域に制限される大きさで形成されている。そして、幅W1〜幅W4および当該圧電体膜19の幅W5の関係が、幅W2<幅W4<幅W5<幅W1<幅W3となっている。さらに、
図12Eおよび
図12Fの構成では、
図12Dの構成において、幅W1〜幅W5の関係が、それぞれ、幅W2<幅W4<幅W5<幅W3<幅W1(
図12E)および幅W2<幅W3=幅W4<幅W5<幅W1(
図12F)となっている。
【0069】
図12Gの構成では、上部配線25が複数の配線膜24で構成されている。この場合、一方の上部配線25の第1領域41の幅W3´と、他方の上部配線25の第1領域41の幅W3´´とを合わせた総幅が上部電極20の幅W2以上であれば、前述の「<作用効果>(6)上部配線25のパターンに関する作用効果」を実現することができる。
図12Hの構成では、
図12Gの構成において、一方および他方の上部配線25がいずれも一定の幅で形成されている(つまり、幅W3´(幅W3´´)=幅W4´(幅W4´´))。
【0070】
以上、この発明の実施形態について説明してきたが、この発明は、他の形態で実施することもできる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
なお、この明細書の内容から、特許請求の範囲に記載した発明以外にも、以下のような第1および第2発明が抽出され得る。
(1)第1の発明
<第1の発明が解決しようとする課題>
一般的に、圧電体は、高温条件下で形成され、その後に冷却されるので、冷却時の収縮のために引張応力を有することになる。そのため、特許文献1では、弾性膜の直下のシリコン基板材料を除去して圧力発生室を形成したときに、圧電体層の応力によって弾性膜が大きな張力で引かれることがある。これは、弾性膜の変位が小さくなる原因になる。一方、弾性膜が圧縮される張力では、弾性膜のたるみが大きく、変位量の制御が安定しないという不具合がある。
【0071】
この発明の一実施形態は、振動膜を良好に変位させることができるインクジェット装置およびその製造方法を提供する。
<当該課題を解決するための手段>
この発明の一実施形態は、インクが貯留されるキャビティを区画するアクチュエータ基板と、前記アクチュエータ基板に支持され前記キャビティを区画する振動膜と、前記振動膜上に設けられ前記振動膜を変位させて前記キャビティの容積を変化させる圧電体膜を有する圧電素子と、前記振動膜が圧縮応力を有し、前記圧電体膜が引張応力を有している、インクジェット装置を提供する。
【0072】
圧電素子に駆動電圧を印加すると、圧電素子とともに振動膜が変位してキャビティの容積変化を引き起こす。これにより、キャビティ内のインクが吐出される。圧電体膜が、振動膜とは反対向きの引張応力を有しているので、振動膜に生じる圧縮応力を相殺することができる。これにより、振動膜にかかる張力をゼロに近づけることができる。したがって、圧電素子の駆動時に、振動膜を良好に変位させることができる。よって、インクの吐出に必要な大きさの変位を得ることができる。
【0073】
この発明の一実施形態では、前記振動膜および前記圧電体膜の平均応力の絶対値が、100MPa以下である。
この発明の一実施形態は、前記圧電素子用の領域を選択的に露出させるように形成され、前記圧電体膜の0.5倍以上の厚さを有するパッシベーション膜をさらに含む。
この発明の一実施形態は、前記圧電素子を覆うように形成されたパッシベーション膜をさらに含み、前記振動膜、前記圧電体膜および前記パッシベーション膜の平均応力の絶対値が、50MPa以下である。
【0074】
この発明の一実施形態では、前記振動膜と、前記アクチュエータ基板から見て前記振動膜よりも上側に配置された前記圧電体膜を含む複数の上層膜との平均応力の絶対値が、100MPa以下である。
この発明の一実施形態では、前記振動膜の圧縮応力が−300MPa〜−100MPaであり、前記圧電体膜の引張応力が100MPa〜300MPaである。
【0075】
この発明の一実施形態では、前記圧電体膜は、前記振動膜とほぼ同じ厚さを有している。
この発明の一実施形態では、前記振動膜および前記圧電体膜の厚さは、1μm〜5μmである。
この発明の一実施形態では、前記圧電素子は、前記圧電体膜を挟む、前記圧電体膜の0.2倍以下の厚さを有する上部電極および下部電極を含む。
【0076】
この発明の一実施形態では、前記上部電極は、Pt単膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記下部電極は、Pt/Ti積層膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記圧電体膜は、PZT膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記振動膜は、SiO
2単膜からなる。
この発明の一実施形態では、前記振動膜は、SiN/SiO
2積層膜からなる。
【0077】
この発明の一実施形態は、前記アクチュエータ基板を支持して前記キャビティを区画し、前記キャビティに連通するノズル開口を有するノズル基板を含む。
この発明の一実施形態は、アクチュエータ基板上に、圧縮応力を有する振動膜を形成する工程と、前記振動膜上に、引張応力を有する圧電体膜を有する圧電素子を形成する工程と、前記振動膜と対向する領域で前記アクチュエータ基板を下方からエッチングしてキャビティを形成する工程とを含む、インクジェット装置の製造方法を提供する。
【0078】
この発明の一実施形態では、所定の成膜条件を採用したプラズマCVDによって前記振動膜を形成する。
プラズマCVDを実施するときの成膜条件(ガス圧力等)を制御することによって、振動膜の圧縮応力を容易に調整することができる。
この発明の一実施形態では、所定の成膜条件を採用したゾルゲル法またはスパッタ法によって前記圧電体膜を形成する。
【0079】
ゾルゲル法およびスパッタ法を実施するときの成膜条件を制御することによって、圧電体膜の引張応力を容易に調整することができる。
(2)第2の発明
<第2の発明が解決しようとする課題>
特許文献1のインクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子の保護基板に複数の貫通孔(たとえば、符号33,43)が形成されている。これらの貫通孔は、通常、保護基板をエッチングすることによって形成されるが、エッチング深さが深くなるにしたがってエッチングレートが下がるため、保護基板を貫通させるまでに長時間要する。
【0080】
また、エッチングサイズが大きくなるほどエッチングレートが大きくなるので、複数の貫通孔の大きさが互いに異なる場合には、大きい方の貫通孔においてオーバーエッチング(アンダーカット)が生じる不具合もある。
さらに、貫通孔は、むろん設計値通りの大きさで形成されることが好ましい。
この発明の一実施形態は、保護基板に貫通孔を形成するときに要するエッチング時間を短縮できるインクジェット装置の製造方法、およびそれによって得られるインクジェット装置を提供する。
【0081】
また、この発明の一実施形態は、保護基板に貫通孔を形成するときにオーバーエッチングが生じることを抑制または防止することができるインクジェット装置の製造方法、およびそれによって得られるインクジェット装置を提供する。
さらに、この発明の一実施形態は、保護基板に設計値通りの大きさで貫通孔を形成することができるインクジェット装置の製造方法、およびそれによって得られるインクジェット装置を提供する。
<当該課題を解決するための手段>
この発明の一実施形態は、インクが貯留されるキャビティを区画するアクチュエータ基板と、前記アクチュエータ基板に支持され前記キャビティを区画する振動膜と、前記振動膜上に設けられ前記振動膜を変位させて前記キャビティの容積を変化させる圧電素子と、前記キャビティに連通するインク供給路と、前記圧電素子を覆うように前記アクチュエータ基板に固定され、前記インク供給路に連通する第1貫通孔を有する保護基板とを含み、前記第1貫通孔は、前記アクチュエータ基板に対向する面から順に小径部および当該小径部よりも径が大きい大径部を有している、インクジェット装置を提供する。
【0082】
この発明の一実施形態は、インクが貯留されるキャビティを区画するアクチュエータ基板と、前記アクチュエータ基板に支持され前記キャビティを区画する振動膜と、前記振動膜上に設けられ前記振動膜を変位させて前記キャビティの容積を変化させる圧電素子と、前記キャビティに連通するインク供給路と、前記圧電素子を覆うように前記アクチュエータ基板に固定され、前記インク供給路に連通する第1貫通孔を有する保護基板とを含み、前記第1貫通孔は、前記アクチュエータ基板に対向する面の反対側から順に小径部および当該小径部よりも径が大きい大径部を有している、インクジェット装置を提供する。
【0083】
この発明の一実施形態では、前記保護基板は、前記第1貫通孔よりも径が大きい第2貫通孔を有している。
この発明の一実施形態は、前記圧電素子に電気的に接続され、前記キャビティ外の領域に亘って延び、その一部がパッドとして露出した配線を含み、前記パッドを包含するパッド領域は、前記第2貫通孔から露出している。
【0084】
この発明の一実施形態では、前記圧電素子は、上部電極と、下部電極と、前記上部電極および前記下部電極に挟まれた圧電体膜とを含み、前記配線は、前記上部電極に接続された第1配線および前記下部電極に接続された第2配線を含む。
この発明の一実施形態では、前記第1貫通孔のアスペクト比(開口深さ/開口幅)は、前記第2貫通孔のアスペクト比の10倍以上である。
【0085】
この発明の一実施形態では、前記保護基板の厚さが、200μm〜500μmであり、前記第1貫通孔の開口幅は、30μm〜50μmであり、前記第2貫通孔の開口幅は、300μm〜1500μmである。
この発明の一実施形態では、前記小径部および前記大径部が、前記保護基板の厚さ方向途中に配置された段差面を介して連なっている。
【0086】
この発明の一実施形態では、前記段差面は、前記保護基板の厚さ方向ほぼ中央に配置されている。
この発明の一実施形態では、前記段差面は、前記小径部を取り囲む環状に形成されている。
この発明の一実施形態では、前記保護基板は、前記圧電素子を覆う領域に凹部を有しており、前記圧電素子は、前記凹部内に配置されている。
【0087】
この発明の一実施形態は、第1面およびその反対側の第2面を有する保護基板を前記第1面からエッチングすることによって、厚さ方向途中部に至る第1穴部を形成する工程と、前記保護基板の前記第2面における前記第1穴部の反対の第1領域から前記第1穴部に貫通するまで前記保護基板をエッチングすることによって、前記第1領域に第1貫通孔を形成する工程と、インク供給路を有する振動膜および圧電素子が表面から順に形成されたアクチュエータ基板を準備する工程と、平面視において前記第1貫通孔と前記インク供給路が一致するように、前記保護基板に前記アクチュエータ基板を固定する工程とを含む、インクジェット装置の製造方法を提供する。
【0088】
第1貫通孔を形成するために第1面および第2面それぞれからエッチングすることになるが、第1面から第2面まで一気にエッチングする場合に比べて、一回のエッチング深さが浅くて済む。そのため、第1貫通孔の形成までの平均のエッチングレートを高くすることができる。その結果、第1貫通孔の形成に要するエッチング時間を短縮することができる。
【0089】
この発明の一実施形態は、前記第1領域から横にずれた第2領域から、前記第1貫通孔よりも大きなエッチング幅で、前記第1領域のエッチングと同時にエッチングすることによって第2貫通孔を形成する工程を含む。
相対的にエッチングサイズが小さい第1貫通孔の形成領域に予め第1穴部が形成されているので、第1領域からは、保護基板の厚さから第1穴部の深さを差し引いた厚さの基板材料をエッチングすれば、第1貫通孔を形成することができる。したがって、第1領域と第2領域との間でエッチングレートは異なるが、各領域に貫通孔が形成されるタイミング(つまり、エッチングの完了時期)のばらつきをなくし、第1貫通孔と第2貫通孔を、ほぼ同じタイミングで形成することができる。その結果、オーバーエッチングの発生を抑制または防止することができる。
【0090】
この発明の一実施形態では、前記第1貫通孔の形成時、前記第1穴部とは異なるエッチング幅で前記保護基板をエッチングすることによって、前記第1面または前記第2面の一方から順に小径部および当該小径部よりも径が大きい大径部を有する第1貫通孔を形成する。
第1穴部の反対側(第1領域)からのエッチング時、エッチングサイズが第1穴部とほぼ同じであると、位置合わせずれ等が原因で、貫通孔の継ぎ目部分(保護基板の厚さ方向途中部)において段差が生じ、設計値よりも径が小さくなるおそれがある。そこで、大径部の加工寸法を、位置合わせずれを考慮した大きさにしておくことで、少なくとも小径部に対応する径を確保することができる。そのため、小径部を第1貫通孔の設計値に合わせて形成することによって、設計値通りの径を有する第1貫通孔を得ることができる。なお、先に形成する第1穴部を大径部としてもよいし、小径部としてもよい。
【0091】
この発明の一実施形態では、前記保護基板の厚さ方向ほぼ中央に底部が位置するように、前記第1穴部を形成する。
この発明の一実施形態は、第1面およびその反対側の第2面を有する保護基板を前記第1面からエッチングすることによって、厚さ方向途中部に至る第1穴部を形成する工程と、前記保護基板の前記第2面における前記第1穴部の反対の第1領域から前記第1穴部に貫通するまで前記保護基板をエッチングすることによって、前記第1領域に第1貫通孔を形成する工程とを含む、インクジェット装置用の保護基板の製造方法を提供する。
【0092】
第1貫通孔を形成するために第1面および第2面それぞれからエッチングすることになるが、第1面から第2面まで一気にエッチングする場合に比べて、一回のエッチング深さが浅くて済む。そのため、第1貫通孔の形成までの平均のエッチングレートを高くすることができる。その結果、第1貫通孔の形成に要するエッチング時間を短縮することができる。
【0093】
この発明の一実施形態は、前記第1領域から横にずれた第2領域から、前記第1貫通孔よりも大きなエッチング幅で、前記第1領域のエッチングと同時にエッチングすることによって第2貫通孔を形成する工程を含む。
相対的にエッチングサイズが小さい第1貫通孔の形成領域に予め第1穴部が形成されているので、第1領域からは、保護基板の厚さから第1穴部の深さを差し引いた厚さの基板材料をエッチングすれば、第1貫通孔を形成することができる。したがって、第1領域と第2領域との間でエッチングレートは異なるが、各領域に貫通孔が形成されるタイミング(つまり、エッチングの完了時期)のばらつきをなくし、第1貫通孔と第2貫通孔を、ほぼ同じタイミングで形成することができる。その結果、オーバーエッチングの発生を抑制または防止することができる。
【0094】
この発明の一実施形態では、前記第1貫通孔の形成時、前記第1穴部とは異なるエッチング幅で前記保護基板をエッチングすることによって、前記第1面または前記第2面の一方から順に小径部および当該小径部よりも径が大きい大径部を有する第1貫通孔を形成する。
大径部の加工寸法を、位置合わせずれを考慮した大きさにしておくことで、少なくとも小径部に対応する径を確保することができる。そのため、小径部を第1貫通孔の設計値に合わせて形成することによって、設計値通りの径を有する第1貫通孔を得ることができる。
【0095】
この発明の一実施形態では、前記保護基板の厚さ方向ほぼ中央に底部が位置するように、前記第1穴部を形成する。