特許第6792232号(P6792232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792232
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】変位情報の表示装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20201116BHJP
   G01C 7/06 20060101ALI20201116BHJP
   E21D 9/11 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   G01C15/00 103A
   G01C15/00 104A
   G01C7/06
   E21D9/11 E
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-104029(P2016-104029)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-211257(P2017-211257A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】林 稔
(72)【発明者】
【氏名】芥川 真一
【審査官】 眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−087312(JP,A)
【文献】 特開平09−021636(JP,A)
【文献】 実開平03−109011(JP,U)
【文献】 特開平10−307064(JP,A)
【文献】 特開2013−238549(JP,A)
【文献】 特開昭60−066111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00− 1/14
G01C 5/00−15/14
E21D 9/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山又は建設工事における構造体の初期値からの変位量及び変位速度からなる変位情報を同時に表示する表示装置であって、
前記表示装置は、発光ダイオードが縦及び横方向に行列状に配列されたLED発光部を備え、
変位量を管理基準値毎にランク分けするとともに、それら各管理基準ランク毎に表示色を定め、前記LED発光部に上向き矢印又は下向き矢印、横向き矢印を前記各管理基準ランク毎の表示色で発光可能とし、
予め変位速度に閾値を設定しておき、計測された変位速度が前記閾値よりも大である場合、前記LED発光部に前記各管理基準ランク毎の表示色で上向き矢印又は下向き矢印を表示し、
計測された変位速度が前記閾値よりも小となった場合、前記LED発光部に変位量の大きさによって前記管理基準ランク毎に定められた表示色で横向き矢印を表示するようにしたことを特徴とする変位情報の表示装置。
【請求項2】
前記閾値は、変位速度が安定したと判断し得る数値を設定してある請求項1記載の変位表示の表示装置。
【請求項3】
前記表示装置は、無線通信機能を備えている請求項1、2いずれかに記載の変位情報の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、山岳トンネルの建設、地滑り対策、土留め工などにおいて、変位の状況(変位速度及び変位量)を現場にいる監督員や作業員、調査員等がリアルタイムに一目で把握できるようにした変位情報の表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、NATM工法に代表される山岳トンネル工事においては、発破による掘削後に、あまり時間をおくことなく、掘削壁面に対する吹付けコンクリートによる一次覆工を行うとともに、ロックボルトを打設することで周辺地山の変形を抑えるようにしている。その後、トンネル壁面の変位を日常的に管理する、所謂A計測(天端沈下量、内空変位等)が経時的に行われる。これらの計測の目的は、(1)周辺地山の変形が弾性範囲に留まっているのか、塑性しているのかの判断、(2)施工済み支保構造の妥当性の確認、(3)未施工区間の設計、施工性の検討、(4)二次覆工コンクリートの打設時期の判断などである。
【0003】
従来、この種の坑内A計測は、図13に示されるように、トンネル内に設置されたトータルステーション32により、天端及び側壁に設置した計測用反射シールやプリズム等を計測した後、この測定結果をコンピューターに入力し、図14に示されるように、モニタ34上において、各点の変位量や沈下量を表示していた。
【0004】
しかしながら、前記従来に係る方法では、山岳トンネルの各断面毎の概ねの変位量は画面から容易に把握できるけれども、具体的にどの箇所にどの程度の変位が生じているかを一目で視覚的かつ全体的に把握することができなかった。
【0005】
そこで、下記特許文献1では、トンネル坑内に設置された測距及び測角が可能な測量機器により、複数の内空断面形状計測箇所を経時的に繰り返して計測を行い、この内空断面測定結果について、初期の内空断面測定値と、その後の内空断面計測値との差分から各計測時における変位量を算出し、モニタ上に、変位量を任意に設定した等量線毎に区分するとともに、各等量線の範囲毎に色分けした展開図によって表示するとともに、該展開図を同一モニタ上において経時的順序で切り換えて表示するようにしたトンネル壁面変位の表示方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−298432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に係る表示方法は、変位量に着目しこれを視覚的に表示するようにしたものであるが、対象構造物によっては、変位とともに、変位速度に着目する必要な場合がある。例えば、次工程となる覆工コンクリートは、原則として支保工(地山)の変形が収束した後にコンクリート打設を行うことになっているが、その収束判定は、「道路トンネル観察・計測指針 平成21年改訂版」((社)日本道路協会、H21月2月)によれば、「内空変位の変位速度が1〜3mm/月程度以下が2週間程度継続すれば覆工の施工に支障はない。」と謳われており、トンネル壁面の変位速度を迅速に把握する意味は、速やかな作業工程を組む上で重要となっている。
【0008】
また、初期値からの変位量を把握することも重要であるが、変位速度が急激に増加する事態は、周辺地山や支保工に何らかの異常を来していることが予想されるため、この情報をリアルタイムに現場にいる監督員や作業員が知ることは作業の安全性を確保する意味でも非常に重要である。
【0009】
しかしながら、前述した従来の計測方法はいずれも、天端や内空変位を計測を行ったデータが管理室などにあるコンピューターに取り込まれ、データを整理することによってモニタ上に視覚的に表示されるようにしたものであり、これらの結果は、管理室にいる人々は、計測結果をリアルタイムに閲覧することができるが、坑内にいる監督員や作業員にはその情報が送れて伝達されることになり、タイムラグが生じていた。
【0010】
そのため、異常な壁面変位や変位速度が確認されても、坑内にいる監督員や作業員達にその情報が伝わるまでに時間が掛かっており、迅速に施工中断や待避の判断ができず、人員の安全確保が遅れたりする危険性もあった。
【0011】
以上、トンネルの建設工事を例に説明したが、土留め掘削工事における壁面変位、地中空間構築の掘削工事における壁面変位、土工事における斜面や壁面変位などの管理においても同様の問題が生じている。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、地山又は建設工事における構造体の変位の状況(変位量及び変位速度)を現場にいる監督員や作業員、調査員等がリアルタイムに一目で把握できるようにした変位情報の表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地山又は建設工事における構造体の初期値からの変位量及び変位速度からなる変位情報を同時に表示する表示装置であって、
前記表示装置は、発光ダイオードが縦及び横方向に行列状に配列されたLED発光部を備え、
変位量を管理基準値毎にランク分けするとともに、それら各管理基準ランク毎に表示色を定め、前記LED発光部に上向き矢印又は下向き矢印、横向き矢印を前記各管理基準ランク毎の表示色で発光可能とし、
予め変位速度に閾値を設定しておき、計測された変位速度が前記閾値よりも大である場合、前記LED発光部に前記各管理基準ランク毎の表示色で上向き矢印又は下向き矢印を表示し、
計測された変位速度が前記閾値よりも小となった場合、前記LED発光部に変位量の大きさによって前記管理基準ランク毎に定められた表示色で横向き矢印を表示するようにしたことを特徴とする変位情報の表示装置が提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明では、初期値からの変位量及び変位速度からなる変位情報を表示する表示装置が発光ダイオードが縦及び横方向に行列状に配列されたLED発光部を備え、変位量を管理基準値毎にランク分けするとともに、それら各管理基準ランク毎に表示色を定め、前記LED発光部に上向き矢印又は下向き矢印、横向き矢印を前記各管理基準ランク毎の表示色で発光可能としている。
そして、予め変位速度に閾値を設定しておき、計測された変位速度が前記閾値よりも大である場合、前記LED発光部に前記各管理基準ランク毎の表示色で上向き矢印又は下向き矢印を表示し、計測された変位速度が前記閾値よりも小となった場合、前記前記LED発光部に変位量の大きさによって前記管理基準ランク毎に定められた表示色で横向き矢印を表示するようにしてある。
【0015】
従って、前記表示装置を現場に多数設置するとともに、管理コンピューターと情報伝達可能としておき、変位情報をリアルタイムに表示することにより、変位速度が現在どのような状況にあるかを現場にいる監督員や作業員、調査員等がリアルタイムに一目で把握できるようになり、瞬時に施工中断や安全確保や補助工法実施のタイミングの判断に役立てることでき、作業の安全性向上と構造物等の安定確保につながるようになる。
【0016】
請求項2に係る本発明として、前記閾値は、変位速度が安定したと判断し得る数値を設定してある請求項1記載の変位表示の表示装置が提供される。
【0017】
前記請求項2記載の発明は、前記閾値の設定基準を示したものである。前記閾値としては、通常、変位速度が安定したと判断し得る数値を設定する。
【0018】
請求項に係る本発明として、前記表示装置は、無線通信機能を備えている請求項1、2いずれかに記載の変位情報の表示装置が提供される。
【0019】
上記請求項記載の発明では、前記表示装置が無線通信機能を備えている。有線によって接続することも可能であるが、無線通信機能を備えていることにより設置の便宜が図れるようになる。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、地山又は建設工事における構造体の変位の状況(変位量及び変位速度)を現場にいる監督員や作業員、調査員等がリアルタイムに一目で把握できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】トンネル掘削後の変位計測システムを示すトンネル縦断面図である。
図2】(A)〜(C)は変位計測要領を示す手順図である。
図3】1断面内における変位情報の表示装置4の配置図である。
図4】変位情報の表示装置4の正面図である。
図5】変位情報の表示装置4における内空変位情報の表示態様図(A)〜(E)である。
図6】変位情報の表示装置4における天端沈下変位情報の表示態様図(A)〜(E)である。
図7】トンネルの変位計測結果例である。
図8】任意点における内空変位の経時的変化図(その1)である。
図9】任意点における内空変位の経時的変化図(その2)である。
図10】任意点における内空変位の経時的変化図(その3)である。
図11】変位情報の表示装置4の土留め壁への適用例を示す図である。
図12】変位情報の表示装置4の盛土擁壁への適用例を示す図である。
図13】坑内A計測の測定要領図である。
図14】坑内A計測の測定結果表示例を示す図である。
図15】一般的トンネルの内空変位の時間的経過曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る変位情報の表示装置4を山岳トンネルの変位計測結果の表示に適用した例について詳述する。
【0023】
NATM工法による山岳トンネルの建設工事では、図1に示されるように、切羽近傍Sにホイールジャンボ7、吹付け機8、ホイールローダなどのトンネル施工重機が配置され、例えば図示される例では、上半及び下半の一括の併行作業により掘削を行うミニベンチ工法により、上半及び下半のそれぞれにロックボルト削孔及び装薬孔削孔・装薬を併行して行った後、上半及び下半を一気に切り崩し、その後ズリ出し→当り取り→一次吹付け→支保工建込み→二次吹付け→ロックボルト打設の手順にて掘削作業が1サイクル毎に行われる。なお、支保工については地山状況に応じて、支保工建込みや二次吹付けが省略される場合もある。
【0024】
掘削及び支保工を完了した掘削済み坑内では、所謂A計測と呼ばれる計測が経時的に行われる。
【0025】
計測システムは、例えば図1に示されるように、坑内にトータルステーション5がトンネル内に配設される。このトータルステーション5は、トンネル掘進に合わせて順次盛替えるようにするが、三脚方式により測定時に設置するようにしてもよい。また、現場事務所H内に管理用コンピューター1が設備され、制御器2を介して通信ケーブル3によって計測データ等の情報を双方向に伝送可能となっている。なお、前記管理用コンピューター1と前記制御器2とは無線によって情報伝送可能としてもよい。前記制御器2は、後述するそれぞれの変位情報の表示装置4、4…に送る表示情報を整理し送信する機能を有し、無線送信のために無線送信器6が接続されている。
【0026】
前記トータルステーション5による計測作業は、先ず、図2(A)に示されるように、予め座標が既知とされる少なくとも2点の基準点A,Bをトータルステーション5により視準し、三角測量の原理を応用した後方交会法によりトータルステーション5の設置座標を算出する。このトータルステーション5の設置座標の特定作業は、設置点が変化している場合もあるため、各種測量が行われる毎に繰り返し行うようにするのが望ましい。なお、同図に示されるように、算出した座標を確認するためのチェック点を設けてもよい。
【0027】
その後、同図(B)に示されるように、所定時間毎に、又は現場事務所H内に設置された管理用コンピュータ1により計測開始の指令が出されると、制御器2からの指令によりトータルステーション5が自動的に複数の内空断面の形状計測箇所についてトンネル壁面の形状計測を行う。計測は、計測箇所に計測用ターゲットを埋め込み、これを計測するようにする。計測頻度は、測定位置と切羽との離れに応じて、計測頻度を変えるようにする。例えば、測定位置と切羽との離れが0〜0.5D(Dはトンネル掘削幅)の場合は2回/1日、0.5D〜2.0Dの場合は1回/1日、2.0D〜5.0Dの場合は1回/2日、5.0D以上は1回/1週としたり、或いは変位速度が10mm以上の場合は2回/1日、5〜10mmのの場合は1回/1日、1〜5mmの場合は1回/2日、1mm以下の場合は1回/1週というように計測頻度を変位量及び変位速度に応じて変えるようにするのが望ましい。
【0028】
前記内空断面形状の計測箇所は、坑口から切羽Sにかけて、その数及び間隔などを任意に選定することができる。また、計測箇所の断面数は、計測期間中、固定的なものではなく、掘進に伴って順次断面を追加するようにする。また、坑口側の計測が不要になった断面については順次計測対象から外すようにする。計測対象となる断面については、変位の推移を把握するために、所定の時間間隔で経時的に複数回繰り返して計測が行われる。
【0029】
前記計測データは、前記通信システムによって管理コンピュータ1内に自動的に取り込まれるようになっている(同図(C))。
【0030】
管理コンピュータ1に取り込まれた測定結果は、予め管理用コンピューター1に記憶されている計測済みのデータに加えられ、計測データが更新されるとともに、モニタ上に例えば図7に示されるように表示形式で表示されるようになっている。
【0031】
また、トンネル坑内にいる監督員や作業員等がトンネル壁面の変位情報をリアルタイムに一目で把握できるように変位情報表示装置4(以下、単に表示装置という。)に変位情報(変位量、変位速度)が表示されるようになっている。
【0032】
前記表示装置4は、1断面の計測箇所の内の選定された複数箇所の近傍位置に配置するようにする。例えば図3に示される例では、天端沈下表示用に1箇所、内空変位表示用に側壁片側に2箇所づつ、計5箇所に配置されている。配置箇所は、少なくとも天端1箇所、側壁片側に1箇所づつ、最低3箇所に配置するようにするのが望ましい。
【0033】
前記表示装置4は、図4に示されるように、発光ダイオード41が縦及び横方向に行列状に配列されたLED発光部4Aを備え、予め変位速度に閾値を設定しておき、計測された変位速度が前記閾値よりも大である場合、前記LED発光部4Aに所定の発光ダイオード群の発光によって上向き矢印又は下向き矢印を表示するとともに、計測された変位速度が前記閾値よりも小である場合、前記前記LED発光部4Aに所定の発光ダイオード群の発光によって横向き矢印を表示するようにしている。また、変位量を管理基準値毎にランク分けするとともに、それら各管理基準ランク毎に表示色を定め、前記上向き矢印又は下向き矢印、横向き矢印を前記表示色で発光させるようにしている。前記閾値は任意に設定可能であるが、通常の場合、変位速度が安定したと判断し得る数値を設定する。変位速度が安定したと言える状態は、地山等級によっても異なるが、概ね1mm以下/日か1〜3mm/月程度であるため、このような数値を基準として前記閾値を定めることが望ましい。なお、前記上向き矢印は、真上方向の上向き矢印としても良いし、斜め方向の上向き矢印としてもよい。また、前記下向き矢印も同様に、真下方向の上向き矢印としても良いし、斜め方向の下向き矢印としてもよい。
【0034】
以下、更に前記表示装置4について図面に基づき詳述する。
【0035】
前記表示装置4は、ケース40の表面側に発光ダイオード41、41…が縦及び横方向に行列状に配列されたLED発光部4Aを備えている。図示例では、10×10のマトリックス配列で発光ダイオード41が設けられている。発光ダイオード41の配列数は任意であるが、少なくとも矢印と明確に視認できる矢印マークが上向き、下向き及び横向きに表示できるだけの配列数とするのが望ましい。ケース40の内部にはLED表示の制御基板や無線制御基板などが設けられいる。電源は乾電池で十分であり、ケース40の両側部には単3電池収容部42,42が配置され、外面には無線用のアンテナ43が設けられている。なお、ケース40の表面側にトータルステーション計測用にターゲット用シールなどの視準マークを貼り付け、本表示装置4を計測箇所に設置するようにしてもよい。
【0036】
前記表示装置4に表示される情報は、前記変位速度の他に、初期値からの変位量を同時に表示するようにするのが望ましい。変位量については、管理基準値毎にランク分けするとともに、それら各管理基準ランク毎に表示色を定め、前記上向き矢印又は下向き矢印、横向き矢印を前記表示色で発光させるようにするのが望ましい。例えば、変位量が20mm未満(管理基準I[通常体制]−青)、変位量が20mm以上40mm未満(管理基準II[注意体制]−緑)、変位量が40mm以上60mm未満(管理基準III[要注意体制]−黄)、変位量が60mm以上(管理基準IV[厳重注意体制]−赤)というように定める。
【0037】
前記表示装置4による変位表示を具体的に詳述すると、内空変位に関しては、日変位量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が20mm未満の場合は、図5(A)に示されるように、発光色を「青」とし、上向き矢印を表示する。日変位量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が20mm以上40mm未満の場合は、図5(B)に示されるように、発光色を「緑」とし、上向き矢印を表示する。日変位量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が40mm以上60mm未満の場合は、図5(C)に示されるように、発光色を「黄」とし、上向き矢印を表示する。日変位量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が60mm以上の場合は、図5(D)に示されるように、発光色を「赤」とし、上向き矢印を表示する。そして、日変位量が閾値より小となったならば、変位速度が安定したと判断し、図5(E)に示されるように、前記上向き矢印を横向き矢印に変更する。この横向き矢印の発光色は、変位量の大きさによって前記管理基準I〜IV毎に定めた表示色とする。
【0038】
一方、天端の沈下については、沈下方向と観念が合致するように下向き矢印によって表示するのが望ましい。具体的には、日沈下量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が20mm未満の場合は、図6(A)に示されるように、発光色を「青」とし、下向き矢印を表示する。日沈下量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が20mm以上40mm未満の場合は、図6(B)に示されるように、発光色を「緑」とし、下向き矢印を表示する。日沈下量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が40mm以上60mm未満の場合は、図6(C)に示されるように、発光色を「黄」とし、下向き矢印を表示する。日沈下量(変位速度(m/日))が閾値より大であり、変位量が60mm以上の場合は、図6(D)に示されるように、発光色を「赤」とし、下向き矢印を表示する。そして、日沈下量が閾値より小となったならば、変位速度が安定したと判断し、図6(E)に示されるように、前記下向き矢印を横向き矢印に変更する。この横向き矢印の発光色は、変位量の大きさによって前記管理基準I〜IV毎に定めた表示色とする。
【0039】
更に、実際の内空変位計測結果例に基づいた表示装置4の表示例について説明する。なお、変位速度の閾値は1mm以下/日とする。
【0040】
図8に示されるように、計測初期(1日目)の計測結果が、変位量:20mm未満、変位速度:13mm/日であるため、発光色を「青」とし、上向き矢印を表示する(図5(A)の表示)。更に、経時的に計測を行い、図9に示されるように、9日目の計測結果が、変位量:29mm、変位速度:1mm以下/日であるため、発光色を「緑」とし、横向き矢印を表示する(図5(E))。その後、図10に示されるように、12日目の計測結果は変位量と変位速度の両者が変化し、変位量:38mm、変位速度:4mm/日となったため、発光色は「緑」のまま、上向き矢印を表示する(図5(B))。
【0041】
トンネル坑内にいる監督員や作業員は、トンネル壁面に設置された前記表示装置4にLED表示された矢印の向きと発光色とによって、地山の変形状態(変位速度及び変位量)を一目でリアルタイムに把握することができるようになる。
【0042】
〔他の形態例〕
(1)以上、山岳トンネルの変位計測結果の表示に対して、本発明に係る表示装置4を適用した例について詳述したが、本表示装置4は種々の建設工事における構造体の変形表示に適用することが可能である。例えば、図11に示されるように、土留め掘削工事における壁面部分に設置し、土留め壁の変位状況を監督員や作業員が一目でリアルタイムに把握することができるようにすることもできるし、図12に示されるように、盛土地盤による土地造成において擁壁に対して、本表示装置4を設置し、調査員等が変位状況を一目でリアルタイムに把握することができるようにすることもできる。更には、地滑り対策などで、地山の表面に変位が生じているかどうかの確認のために本表示装置4を適所に配置し、調査員等が変位状況を一目でリアルタイムに把握することができるようにすることもできる。
【0043】
(2)前記表示装置4における変位速度表示に関して、変位速度が閾値よりも大きい場合は、上向き矢印又は下向き矢印を表示したが、前記閾値を段階的に設定し、変位速度の大きさに応じて前記上向き矢印又は下向き矢印の傾斜角度(勾配)を変化させるようにしてもよい。具体的に天端の例で言えば、前記閾値を第1閾値と第2閾値との2段階に設定しておく。両者の関係は、第1閾値>第2閾値で、第2閾値は変位速度が安定したと言える変位速度を設定する。天端の変位速度が第1閾値よりも大きい場合は真下方向の矢印とし、徐々に変位速度が小さくなり、第1閾値より小さくなった段階で斜め下方向の矢印とし、その後、第2閾値よりも小さくなった段階で横向き矢印を表示するようにする。
【符号の説明】
【0044】
1…管理用コンピューター、2…制御器、3…通信ケーブル、4…変位情報の表示装置、4A…LED発光部、5…トータルステーション、6…無線送信器、7ホイールジャンボ…、8…吹付け機、40…ケース、41…発光ダイオード、42…電池収納部、43…アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15