(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792237
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】硫化水素低減材および硫化水素低減方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20201116BHJP
B01D 53/52 20060101ALI20201116BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
A61L9/01 P
B01D53/52
C12N1/20 D
【請求項の数】14
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-196325(P2016-196325)
(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公開番号】特開2018-57534(P2018-57534A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506424818
【氏名又は名称】株式会社環衛
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】成岡 市
(72)【発明者】
【氏名】廣本 真治郎
【審査官】
小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−123527(JP,A)
【文献】
特開2007−167259(JP,A)
【文献】
特開平9−234454(JP,A)
【文献】
特開平4−253867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00−9/22
B01D 53/34−53/85
C02F 11/00−11/20
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程:
(a)生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得て、
(b)工程(a)で得られた汚泥を木質チップと混合し、自然乾燥させて乾燥汚泥を得て、次いで
(c)工程(b)で得られた乾燥汚泥を通気性のある容器に充填する
を含む、空間内の硫化水素低減材の製造方法。
【請求項2】
さらに、乾燥汚泥に水分を与える工程(d)を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(d)が、工程(b)と工程(c)の間に行われる請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(d)が、工程(c)の後に行われる請求項2記載の方法。
【請求項5】
工程(d)において水分が噴霧により与えられる請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(d)における水分がバチルス属の細菌を含む液である請求項2〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
バチルス属の細菌を含む液が、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液またはそれをもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液である請求項6記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により得られた材を空間内に配置することを含む、空間内の硫化水素を低減させる方法。
【請求項9】
空間内に配置された材中の汚泥に水分を与えることを含む請求項8記載の方法。
【請求項10】
水分が噴霧により与えられる請求項9記載の方法。
【請求項11】
水分がバチルス属の細菌を含む液である請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
バチルス属の細菌を含む液が、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液またはそれをもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液である請求項11記載の方法。
【請求項13】
生物学的処理装置由来のバチルス属の細菌を含む、木質チップとともに自然乾燥された乾燥汚泥が通気性のある容器中に充填されてなる空間内の硫化水素低減材であって、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液またはそれをもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液を乾燥汚泥に与えることにより硫化水素低減効果が向上あるいは持続する硫化水素低減材。
【請求項14】
下記工程:
(a)生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得て、次いで、
(b)工程(a)で得られた汚泥を木質チップと混合し、自然乾燥させて乾燥汚泥を得る
を含む、空間内の硫化水素を低減する能力を有する乾燥汚泥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境衛生および環境浄化の技術分野に関する。詳細には、本発明は悪臭の抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
悪臭は下水道、下水溝、下水処理施設、汚泥処理施設、ゴミ処理施設、屎尿処理施設、畜舎、化学工場などから発生しており、周囲の環境を悪化させている。これらの施設から発生する悪臭の主成分は硫化水素やメルカプタン類などの含硫化合物、アンモニアなどの含窒化合物、有機酸およびアルデヒドなどである。なかでも典型的な悪臭物質は硫化水素である。硫化水素は悪臭を放つだけでなく、金属やコンクリートを腐食するので、下水溝や配管、コンクリート構造物を劣化させる。
【0003】
従来から、硫化水素などの悪臭を抑制する方法として、活性炭やゼオライトなどの吸着剤に悪臭物質を吸着させる方法、酸化鉄や酸化鉄を含む金属酸化物のスラリー等に接触させ、悪臭物質を吸収させる方法、微生物を用いて悪臭物質を吸着、分解する方法が採用されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、含水ポリマー、吸水性樹脂等の有機材料、またはゼオライト、活性炭、多孔質ガラス等に無機材料からなる担体に微生物を担持させ、臭気成分を除去する装置が開示されている。特許文献2には、気体および液体が透過可能な合成樹脂からなる不織布製の袋に水酸化鉄を主成分とする脱硫化水素剤を収容する脱硫化水素材が開示されている。特許文献3、4には、多孔質核体や多孔性セラミックス顆粒の表面に悪臭を分解する微生物を担持させる発明が開示されている。
【0005】
しかし、従来の方法・装置では、空間内の硫化水素の低減効果が十分でない、あるいは装置が大がかりになる、コストがかかる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−041670号公報
【特許文献2】特開1994−262066号公報
【特許文献3】特開1997−163981号公報
【特許文献4】特開1993−076365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決すべき課題は、空間内の硫化水素を効率よく低減させ、しかも手軽かつ安価に用いることのできる手段を得ることであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力を重ね、バチルス属の細菌を含む汚泥を乾燥させたものを空間内に配置することにより、空間内の硫化水素が効率良く低減されることを見出した。そして、上記乾燥汚泥に水分を与えたものを用いると、さらに硫化水素が効率良く低減されることを見出した。
【0009】
したがって、本発明は、以下のものを提供する。
(1)下記工程:
(a)生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得て、
(b)工程(a)で得られた汚泥を自然乾燥させて乾燥汚泥を得て、次いで
(c)工程(b)で得られた乾燥汚泥を通気性のある容器に充填する
を含む、空間内の硫化水素低減材の製造方法。
(2)さらに、乾燥汚泥に水分を与える工程(d)を含む(1)記載の方法。
(3)工程(d)が、工程(b)と工程(c)の間に行われる(2)記載の方法。
(4)工程(d)が、工程(c)の後に行われる(2)記載の方法。
(5)工程(d)において水分が噴霧により与えられる(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)工程(d)における水分がバチルス属の細菌を含む液である(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)バチルス属の細菌を含む液が、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液またはそれをもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液である(6)記載の方法。
(8)工程(b)において木質チップを混合した汚泥を自然乾燥させる、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により得られた材を空間内に配置することを含む、空間内の硫化水素を低減させる方法。
(10)空間内に配置された材中の汚泥に水分を与えることを含む(9)記載の方法。
(11)水分が噴霧により与えられる(10)記載の方法。
(12)水分がバチルス属の細菌を含む液である(10)または(11)記載の方法。
(13)バチルス属の細菌を含む液が、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液またはそれをもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液である(12)記載の方法。
(14)生物学的処理装置由来のバチルス属の細菌を含む乾燥汚泥が通気性のある容器中に充填されてなる空間内の硫化水素低減材であって、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液またはそれをもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液を乾燥汚泥に与えることにより硫化水素低減効果が向上あるいは持続する硫化水素低減材。
(15)下記工程:
(a)生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得て、次いで、
(b)工程(a)で得られた汚泥を自然乾燥させて乾燥汚泥を得る
を含む、空間内の硫化水素を低減する能力を有する乾燥汚泥の製造方法。
(16)工程(b)において木質チップを混合した汚泥を自然乾燥させる、(15)記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空間内の硫化水素を効率よく低減させることができ、しかも安価かつ手軽に用いることのできる硫化水素低減材が提供される。本発明の材の硫化水素低減効果は長期にわたり持続可能である。本発明の材は、そのサイズの変更も容易であるので、下水処理場、汚泥処理場、屎尿処理場などの比較的広いスペースのみならず下水管路溝や排水溝など、狭いスペースに容易に設置して、硫化水素発生や、金属腐食、あるいはコンクリートの腐食劣化を防止できる。また、本発明において、バチルス属の細菌の担持体に乾燥汚泥を使用するので、廃棄物を極限まで減少させることができる。さらに、本発明において、木質チップを混合した汚泥の硫化水素低減能が高い。汚泥(余剰汚泥でもかまわない)や廃材を利用して得られる本発明の硫化水素低減材はコストも安く、環境に優しいものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1の態様において、(a)生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得て、(b)工程(a)で得られた汚泥を自然乾燥させて乾燥汚泥を得て、次いで(c)工程(b)で得られた乾燥汚泥を通気性のある容器に充填することを含む、空間内の硫化水素低減材の製造方法に関する。
【0012】
上記方法の工程(a)は、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得る工程である。生物学的処理装置は、微生物や原生動物を用いて水処理を行う装置であり、具体的には下水、屎尿、畜産汚水、産業排水などの脱臭および浄化などを行う装置である。典型的には、生物学的処理装置は、汚泥を含む曝気槽や浄化槽であるが、これらの種類の装置に限定されない。生物学的処理装置の形式やサイズも限定されない。
【0013】
汚泥は微生物を含む泥状の塊であり、典型的には活性汚泥である。活性汚泥は、生きた微生物を含む浮遊性有機汚泥である。
【0014】
生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離する方法は様々なものが公知であり、遠心分離、フィルターや不織布による濾過、凝集剤を用いる方法などが挙げられるが、これらに限定されない。凝集剤を用いる場合は、汚泥中のバチルス属の細菌にダメージを与えないか、ダメージが少ない凝集剤を用いることが好ましい。
【0015】
本発明において、固液分離して得られた汚泥はバチルス属の細菌を含むものである。バチルス属の細菌はよく知られたグラム陽性桿菌である。バチルス属の細菌の同定方法も公知である。汚泥中に含まれるバチルス属の細菌の種類はいずれのものであってもよいが、好ましくは、ヒトや動物に対して毒性や病原性のない種類である。好ましいバチルス属の細菌の例として枯草菌(Bacillus subtilis)、Bacillus thuringiensis、Bacillus megateriumなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
上記方法の工程(b)は、工程(a)で得られた汚泥を乾燥させる工程である。様々な乾燥方法が公知であるが、汚泥中のバチルス属の細菌にダメージを与えない、あるいはダメージが少ない方法を選択することが好ましい。好ましい汚泥乾燥法は自然乾燥である。乾燥を効率化するために通気または撹拌を行って乾燥させてもよい。通気は37℃以下で行うことが好ましい。乾燥の程度は、水分を完全またはほぼ完全に除去してもよく(カラカラの状態)、水分が一部残る程度(例えば、汚泥の表面または内部が湿っている状態、あるいは汚泥表面が濡れているが液ダレしない状態)であってもよい。本発明において、乾燥汚泥とは、水分がほぼ完全に除去された汚泥および水分が一部残存している汚泥の両方をいう。十分に乾燥した汚泥のほうが硫化水素低減効果は大きく、含水率約70%以下、より好ましくは含水率約50%以下の汚泥を用いることが好ましい。汚泥は一般に多孔質なので、バチルス属が付着している表面積が大きく、硫化水素低減能が高い。乾燥汚泥中に含まれるバチルス属の細菌の量は、細菌の種類にもよるが、Bacillus subtilisであれば、好ましくは1x10
8cfu/gMLVSS以上である。
【0017】
上記方法の工程(c)は、工程(b)で得られた乾燥汚泥を通気性のある容器に充填する工程である。乾燥汚泥を通気性のある容器に充填したものを、本発明の硫化水素低減材とする。通気性のある容器としては、空気を容易に通過させ、しかも中の乾燥汚泥をこぼさない程度の目の粗さを有するものが好ましく、具体的には布袋(布は不織布であってもよい)、網、カゴ、ザル等が例示されるが、これらに限らない。本発明において、乾燥汚泥を皿などの上に乗せて用いてもよく、このような態様も通気性のある容器に充填したものとして扱う。乾燥汚泥の充填量は適宜調節できるが、乾燥汚泥間に隙間ができ、空気が容易に流通できるような量の乾燥汚泥を充填することが好ましい。空気が容易に流通できるとは、送風機などの手段を用いなくても空気が流通しうることを意味する。硫化水素を低減させる空間の広さおよび低減すべき硫化水素濃度に応じて、容器に充填する乾燥汚泥量、容器のサイズ、容器の形状を選択することができる。容器に充填する際に、乾燥汚泥を切断、粉砕等により乾燥汚泥を適当なサイズにしてもよい。乾燥汚泥を小さなサイズに切断、粉砕することにより表面積を増加させて、硫化水素低減能を向上させてもよい。硫化水素低減とは、空間内の硫化水素濃度を低下させることをいう。
【0018】
上記の材の製造方法において、乾燥汚泥に水分を与える工程(d)が更に含まれていてもよい。工程(d)は、工程(b)と(c)の間に行ってもよく、あるいは工程(c)の後に行ってもよい。
【0019】
乾燥汚泥に水分を与える工程を追加することによって汚泥表面および汚泥中のバチルス属の細菌を活性化し、増殖させ、あるいは胞子を発芽させることができ、硫化水素低減能を向上させ、維持することができる。乾燥汚泥に与える水分量は、汚泥表面が湿る、あるいは濡れる程度でよいが、液ダレしない程度にすることが好ましい。
【0020】
水分は、汚泥表面および汚泥中のバチルス属の細菌の活性を高める液体であればよい。水分は、例えば水であってもよく、バチルス属の細菌を含む液であってもよい。バチルス属の細菌を含む液は、生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液であってもよい。汚泥含有液の液相はバチルス属の細菌を豊富に含むので好ましい。生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離して得られたバチルス属の細菌を含む液をもとにしてバチルス属の細菌を増殖させた液も好ましい。このような液は、例えば汚泥含有液の液相を培地に添加して培養することにより得てもよく、あるいは汚泥含有液の液相から単離されたバチルス属の細菌を培地に添加して培養することによっても得てもよい。バチルス属の細菌を含む液を用いる場合は、新鮮な液のほうが好ましい。水分はまた、バチルス属の細菌の活性を高める成分、あるいは増殖を促進する成分を含んでいてもよい。このような成分として、グルコースなどの炭素源、酵母エキスなどの窒素源、無機塩類などが挙げられるが、これらに限らない。
【0021】
乾燥汚泥に水分を与える方法は公知の方法を用いることができ、例えば、水分を噴霧、散布または塗布する、あるいは液体中に適当時間浸漬する等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、噴霧により乾燥汚泥に水分を与える。
【0022】
上記製造方法にて得られる硫化水素低減材に木質チップが混合されていてもよい。木質チップの混合は、上記製造工程のいずれの段階で行ってもよいが、上記工程(b)において木質チップを混合した汚泥を自然乾燥させることが好ましい。木質チップとともに乾燥させることによって、得られる材の硫化水素低減能を向上させることができる。
【0023】
本明細書において、木質チップとは木材を破砕、切削あるいは打撃などの処理に供したものをいう。木質チップの原料は、スギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹であってもよく、サクラなどの広葉樹にあってもよい。木質チップは、例えば間伐材、剪定枝、建築廃材、あるいは粗朶などを破砕、切削あるいは打撃処理したものであってもよい。さらに本明細書において、木質チップは、籾殻、ふすま、稲わら、麦わらなどの穀物由来の材料も包含する。
【0024】
木質チップと汚泥との混合割合は適宜定めうるが、上記工程(b)において木質チップを汚泥に混合して自然乾燥させる場合は、湿汚泥に対して約1〜約50重量%、例えば約5〜約20重量%の割合で木質チップを混合してもよい。
【0025】
本発明は、さらなる態様において、上で説明した製造方法により得られた硫化水素低減材を空間内に配置することを含む、空間内の硫化水素を低減させる方法に関する。
【0026】
空間は、硫化水素が存在している空間、および硫化水素が発生する可能性のある空間であれば、いずれの空間であってもよい。空間は、例えば、下水処理場、汚泥処理場または屎尿処理場、ゴミ処理場、畜舎、化学工場など悪臭発生施設内のいずれかの空間であってもよく、地下の下水溝内や畜産設備の排水溝内であってもよい。特別な空間としては、金属材料が使用されている空間やコンクリート構造物内の空間が挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
本発明の硫化水素低減材を空間内に配置する方法も、特に限定されない。本発明の硫化水素低減材を空間内に吊したり、置いたりしてもよい。また、空間の広さ、硫化水素の量に応じて、本発明の硫化水素低減材のサイズや個数を選択することができる。
【0028】
さらに本発明は、(a)生物学的処理装置中の汚泥含有液を固液分離してバチルス属の細菌を含む汚泥を得て、次いで、(b)工程(a)で得られた汚泥を自然乾燥させて乾燥汚泥を得ることを含む、空間内の硫化水素を低減する能力を有する乾燥汚泥の製造方法に関する。
【0029】
上記製造方法により得られた乾燥汚泥を木質チップと混合してもよい。工程(b)において木質チップを混合して自然乾燥させることが、硫化水素低減能の向上の観点から好ましい。
【0030】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでも本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0031】
本発明の製造方法にて得られたバチルス属の細菌を含む乾燥汚泥による臭気抑制試験を行った。
【0032】
試験方法
500mLのプラスチック容器に、農業集落排水施設の自動微細目スクリーンで捕捉された屎渣(スクリーン屎渣)50gを入れた。バチルス属の細菌を含む乾燥汚泥(乾燥汚泥)50g、木質チップ(剪定枝を破砕したもの)を約10重量%添加して自然乾燥した乾燥汚泥(木質チップ入り乾燥汚泥)50g、乾燥汚泥50gにバチルス属の細菌を含む液(バチルス培養液)を噴霧したもの、あるいは木質チップ入り乾燥汚泥50gにバチルス培養液を噴霧したものをスクリーン屎渣に添加した。容器に密閉可能なフタをして、容器の気相中の硫化水素(H
2S)濃度を、ガス検知管を用いて経時的に測定した。スクリーン屎渣50gのみを入れた系、およびスクリーン屎渣50gにバチルス属の細菌を含む液を噴霧したものについても同様に試験した。試験は2回行い、各試料につき2系で行った。試験温度は常温(34℃)であった。
【0033】
試験結果
試験結果を表1に示す。
【表1】
試料1 : スクリーン屎渣50g
試料2 : スクリーン屎渣50g + 乾燥汚泥50g
試料3 : スクリーン屎渣50g + 木質チップ入り乾燥汚泥50g
試料4 : スクリーン屎渣50g + バチルス培養液
試料5 : スクリーン屎渣50g + 乾燥汚泥50g + バチルス培養液
試料6 : スクリーン屎渣50g + 木質チップ入り乾燥汚泥50g + バチルス培養液
【0034】
スクリーン屎渣50gのみを充てんした試料1では、常温下で24時間、72時間経過後、Run1からRun4すべての気相部から120ppmを上回るH
2Sが検出された。
スクリーン屎渣50gにバチルス培養液を噴霧した試料4の24時間、72時間経過後のRun1からRun3のH
2S濃度は、120ppmを上回るH
2Sが検出されたが、Run4のH
2S濃度はそれぞれ32ppm、84ppmであった。この差異が生じた要因として、Run4で用いたバチルス培養液がRun1〜Run3で用いたものよりも新鮮なものであったことによると考えられる。
【0035】
スクリーン屎渣50gと乾燥汚泥50gを充填した試料2では、Run1とRun2のH
2S濃度が4から20ppm程度検出されたのに対して、Run3とRun4では0から5ppmであった。
スクリーン屎渣50gとバチルス培養液を噴霧した乾燥汚泥50gを充填した試料5では、Run1とRun2のH
2S濃度が4から44ppm程度検出されたのに対して、Run3とRun4ではH
2Sが全く検出されなかった。
Run1とRun2、Run3とRun4との間でH
2S抑制能に差異が生じた要因は、Run1とRun2に用いた乾燥汚泥の含水率が80%程度、Run3とRun4に用いたものが35%程度であったことから、含水率の差であることが分かった。含水率の低い乾燥汚泥を用いることがH
2Sの低減に好ましいと考えられる。
【0036】
スクリーン屎渣50gと木質チップ入り乾燥汚泥50gを充填した試料3のRun1とRun2では、概ね4ppmのH
2Sが検出されたのに対して、Run3とRun4は、24時間後に1回5ppmのH
2Sが検出された以外は未検出であった。先の考察と同様に、汚泥含水率を低くした方が、H
2S低減能が向上すると考えられた。
スクリーン屎渣50gとバチルス培養液を噴霧した木質チップ入り乾燥汚泥50gを充填した試料6と試料3を比較すると、試料6のH
2S低減能が大幅に向上していた。このことから、バチルス培養液を加えた方がH
2S低減能力は向上することが分かる。また、試料2と試料3、試料5と試料6を比較すると、試料3と試料6のH
2S抑制能が大幅に向上していた。これらのことから、木質チップを混合して汚泥を乾燥させると臭気抑制能を向上させる効果があることが分かった。
【0037】
試料2と試料5について、約1年間放置した後に気相中のH
2Sを測定したところ、ほぼ0ppmであり、本発明の材のH
2S低減効果が長期にわたり持続することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、環境衛生および環境浄化などの分野において利用可能である。本発明の硫化水素低減材は、下水道、下水溝、下水処理施設、汚泥処理施設、ゴミ処理施設、屎尿処理施設、畜舎、化学工場などにおいて利用可能である。