【文献】
三田 宗雄 ほか,ケイ酸ソーダの最近の用途,Gypsum & Lime,1991年,No.231,p.131-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の実施形態を説明する。
1.固化体形成用組成物
本開示の固化体形成用組成物は、少なくとも、水ガラスと、普通ポルトランドセメントと、を含有する。本開示の固化体形成用組成物は、例えば、水、骨材、及びセメント遅延剤等をさらに含有していてもよい。
【0009】
(1−1)水ガラス
水ガラスは、一般的に下記の(式2)で表される化合物である。ここで、Rはアルカリ金属であり、nはモル比nである。水ガラスにおけるnは、一般的に0.5〜7.5の実数である。xは任意の値である。
【0010】
(式2) R
2O・nSiO
2・xH
2O
(式2)におけるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
【0011】
本開示で用いる水ガラスは、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム、及びけい酸リチウムから成る群から選択された1以上である。水ガラスは、けい酸ナトリウム、けい酸カリウム、及びけい酸リチウムのうちの1種であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。混合物としては、例えば、けい酸ナトリウムとけい酸リチウムとの混合物等が挙げられる。
【0012】
本開示で使用する水ガラスにおいて、下記(式1)で表されるモル比nが1.6〜2.6の範囲内にある。
(式1) n=M
s/M
R
(M
sは前記水ガラスに含まれるSiO
2のモル数であり、M
Rは前記水ガラスに含まれるR
2Oのモル数である。Rはナトリウム、カリウム、及びリチウムから成る群から選択される1以上である。)
モル比nが2.6以下であることにより、水ガラスと普通ポルトランドセメントとがすぐに反応して部分ゲル等が発生することを抑制できる。その結果、均一な固化体を得ることができる。また、モル比nが1.6以上であることにより、固化までの時間が過度に長くなることを抑制できる。モル比nは、2.0〜2.6の範囲内であることが好ましい。この範囲内である場合、環境への負荷を抑制できる。
【0013】
モル比nが1.6〜2.6の範囲内にある水ガラスは、例えば、以下のように製造できる。まず、モル比nが2.0〜4.7である市販の水ガラスを用意する。この市販の水ガラスに、微粉末のシリカゲル、沈降性シリカ、ヒュームドシリカ、シリカコロイド溶液等のシリカ源を溶解するか、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を溶解させることで、モル比nを1.6〜2.6の範囲内に調整する。
【0014】
水ガラスの固形分の含有量は、固化体形成用組成物の骨材を除く成分の合計量に対し、25質量%以上である。25質量%以上であることにより、固化体の圧縮強度、耐温水性、及び耐酸性が高くなる。水ガラスの固形分とは、水ガラスから液体成分を除いた後に残る成分を意味する。水ガラスの固形分には、SiO
2とR
2Oとが含まれる。
【0015】
(1−2)普通ポルトランドセメント
普通ポルトランドセメントを使用することにより、他のセメントを使用する場合に比べて、固化体形成用組成物が固化するまでの時間が過度に短くなったり、過度に長くなったりすることを抑制できる。普通ポルトランドセメントの配合量が多いほど、硬化開始時間が短くなる。普通ポルトランドセメントの配合量は、水ガラス(液体成分も含む)100質量部に対して、7〜40質量部以下が好ましい。7質量部以上である場合、硬化開始時間が過度に長くなることを抑制できる。40質量部以下である場合、硬化開始時間が過度に短くなってワーカービリティが低下することを抑制できる。
【0016】
(1−3)骨材
骨材としては、耐アルカリ性の特性を有する骨材が好ましい。骨材として、例えば、けい砂、セラミックス等が挙げられる。固化体形成用組成物における骨材の含有量は特に限定されず、目的や用途等に応じて調整することができる。
【0017】
(1−4)水
水は、例えば、固化体形成用組成物の粘度を調整する機能を有する。また、固化体形成用組成物が後述するセメント遅延剤を含有する場合、水はセメント遅延剤を溶解する機能を有する。固化体形成用組成物における水の含有量は特に限定されない。例えば、水ガラスの固形分の含有量が固化体形成用組成物の骨材を除く成分の合計量に対し25質量%以上となるように、水の含有量を調整することができる。
【0018】
(1−5)セメント遅延剤
セメント遅延剤は、普通ポルトランドセメントの凝結反応を抑制する機能を有する。そのため、セメント遅延剤を固化体形成用組成物に配合することにより、固化体形成用組成物の硬化開始時間を調整することができる。
【0019】
セメント遅延剤として、例えば、一般に市販されている有機系の遅延剤、又は無機系の遅延剤を用いることができる。セメント遅延剤として、例えば、りん酸塩化合物等が挙げられる。りん酸塩化合物として、例えば、りん酸二水素ナトリウム、りん酸ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
(1−6)その他の成分
本開示の固化体形成用組成物には、本開示の効果が奏される範囲内で、その他の成分をさらに適宜含有してもよい。その他の成分として、例えば、ベントナイト等が挙げられる。ベントナイトは、固化体形成用組成物の粘度を高める機能を有する。
【0021】
(1−7)固化体形成用組成物が奏する効果
本開示の固化体形成用組成物を固化させることにより固化体が得られる。この固化体は、圧縮強度が高い。また、固化体は、耐酸性及び耐温水性において優れる。固化体は、飛灰、汚泥等を固化させる用途、コーティング材のバインダーの用途、土木資材の用途等に使用できる。土木資材としては、例えば、地盤への注入材等が挙げられる。また、本開示の固化体形成用組成物は、硬化開始時間を適切な範囲に設定可能である。
【0022】
2.固化体の製造方法
本開示の固化体形成用組成物を固化させて固化体を製造することができる。例えば、固化体形成用組成物と、他の成分とが混在する状態で、固化体形成用組成物を固化させることができる。他の成分として、例えば、飛灰、汚泥、コーティング材におけるバインダー以外の成分、土、砂等が挙げられる。また、例えば、固化体形成用組成物を単独で固化させることができる。固化体形成用組成物の固化は、気中で行ってもよいし、水中で行ってもよい。固化体形成用組成物を水中で固化させた場合も、固化体は、耐酸性及び耐温水性において優れる。
【0023】
<実施例>
(1)固化体形成用組成物S1〜S30の製造
表1に示す原料を、同表に示す配合量において混合することにより、S1〜S30の固化体形成用組成物を製造した。
【0025】
表1におけるP1〜P17は、原料として使用した水ガラスの種類を表す。水ガラスP1〜P17の内容は表2に示すとおりである。
【0027】
表2における「SiO
2(質量%)」は、水ガラスの全量を100質量%としとしたときのSiO
2の質量%濃度を表す。また、表2における「R
2O(質量%)」は、水ガラスの全量を100質量%としとしたときのR
2Oの質量%濃度を表す。
【0028】
水ガラスP1〜P17は、以下の原料を適宜混合することにより調製した。
けい酸ナトリウム:富士化学株式会社製
けい酸カリウム:富士化学株式会社製
けい酸リチウム:日産化学工業株式会社製
水酸化ナトリウム:試薬一級 和光純薬工業株式会社製
水酸化カリウム:試薬一級 和光純薬工業株式会社製
水酸化リチウム一水和物:試薬一級 和光純薬工業株式会社製
P15において、ナトリウムとカリウムとのモル比(Na:K)は1:1である。P16において、ナトリウムとリチウムとのモル比(Na:Li)は12:1である。P17において、カリウムとリチウムとのモル比(K:Li)は2:1である。
【0029】
表1における「セメント」は、普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)を意味する。この普通ポルトランドセメントの比表面積は3300cm
2/gである。表1における「遅延剤」はセメント遅延剤を意味する。このセメント遅延剤は、りん酸二水素ナトリウム二水和物(試薬一級 和光純薬工業株式会社製)である。表1における「骨材」は、乾燥6号けい砂(旭工業株式会社製)である。表1における「水」は水道水である。
【0030】
表1における「固形分率」は、水ガラスと、セメントと、遅延剤と、水との合計量に対する、水ガラスの固形分の含有量の比率を意味する。水ガラスと、セメントと、遅延剤と、水との合計量は、骨材を除く成分の合計量に対応する。
【0031】
表1における「硬化開始時間」は、20℃にて原料を混合した時点から、固化体形成用組成物の流動性がなくなる時点までの時間を意味する。S1〜S30のそれぞれについて硬化開始時間を測定した。測定結果を表1に示す。表1における「×」は均一な固化体が得られなかったことを意味する。
【0032】
S1〜S17においては、均一な固化体を得ることができた。S1〜S17における硬化開始時間は、5〜190分であった。一方、S18では、モル比nが小さいため、硬化開始時間が顕著に長かった。
【0033】
S24〜S27、S29、S30では、モル比nが大きいため、原料を混合した後、水ガラスと普通ポルトランドセメントとが瞬時に反応しゲルを生成した。その結果、均一な固化体を得ることができなかった。S19〜S
22では、固形分率が25重量%より小さいため、硬化開始時間が顕著に短くなった。
【0034】
また、S4の固化体形成用組成物について、以下に示す方法で試験体を形成した。水に浸漬した直径50mm、高さ100mmの円柱状型枠に固化体形成用組成物を打設した。次に、20℃の下、水中で7日間養生した。次に、内容物を脱型し、20℃の下、水中でさらに21日間養生したものを試験体とした。この試験体は、水中で固化した固化体である。
【0035】
(3)試験体の評価
作成した試験体について、圧縮強度試験、耐塩酸性試験、及び耐温水性試験を行った。それぞれの試験方法と評価基準は以下のとおりである。
【0036】
(i)圧縮強度試験
材齢28日の試験体を用いて、一軸圧縮試験機にて一軸圧縮強度を測定した。
(ii)耐塩酸性試験
前記(2)で作成した試験体を切断し、直径50mm、高さ25mmの試験体を作成した。以下ではこの試験体を使用した。試験体の重量測定を行った後、20℃の下、5%濃度の塩酸300mlに試験体を7日間浸漬した。その後、再び試験体の重量測定を行い、浸漬前の重量と浸漬後の重量とを用い、以下の(式3)より耐塩酸比を算出した。また、浸漬前と浸漬後とにそれぞれ、試験体の外観観察を行った。
【0037】
(式3) 耐塩酸比(%)=((浸漬後重量)/ (浸漬前重量)) ×100
そして、耐塩酸比の値と外観観察の結果とを以下の基準にて当てはめ、試験体の耐塩酸性を評価した。
【0038】
○:耐塩酸比(%)が90〜101%で、外観がほとんど変化なし。
△:耐塩酸比(%)が80〜89%で、外観がわずかに変化した。
×:耐塩酸比(%)が79%以下で、外観が大きく変化した。
【0039】
(iii)耐温水性試験
前記(2)で作成した試験体を切断し、直径50mm、高さ25mmの試験体を作成した。以下ではこの試験体を使用した。試験体の重量測定を行った後、イオン交換水300mlに試験体を浸漬した。次に、イオン交換水に浸漬した状態の試験体を80℃の乾燥機に投入し、7日間保持した。次に、イオン交換水に浸漬した状態の試験体を室温まで放冷し、再び試験体の重量測定を行った。浸漬前の重量と浸漬後の重量とを用い、以下の(式4)より耐温水比を算出した。また、浸漬前と浸漬後とに、それぞれ試験体の外観観察を行った。
【0040】
(式4) 耐温水比(%)=((浸漬後重量)/(浸漬前重量)) ×100
そして、耐温水比の値と外観観察の結果とを以下の基準にて当てはめ、試験体の耐温水性を評価した。
【0041】
○:耐温水比(%)が90〜101%で、外観がほとんど変化なし。
△:耐温水比(%)が80〜89% で、外観がわずかに変化した。
×:耐温水比(%)が79%以下で、外観が大きく変化した。
【0042】
圧縮強度試験、耐塩酸性試験、及び耐温水性試験の試験結果を表3に示す。
【0044】
S3、S4、S11における一軸圧縮強度は高かった。固化体形成用組成物における固形分率が高いほど、一軸圧縮強度は一層高かった。S20、S21では、固化体形成用組成物における固形分率が25質量%より小さいため、一軸圧縮強度が低かった。
【0045】
S3、S4、S11における耐温水性及び耐塩酸性は高かった。S20、S21では、固化体形成用組成物における固形分率が25質量%より小さいため、耐温水性及び耐塩酸性においてS3、S4、S11に比べて劣っていた。
【0046】
比較のため1:3モルタル(水/セメント比50%)についても同様な試験を実施した。1:3モルタルの耐塩酸性試験では、耐塩酸比が83.0%であった。また、1:3モルタルの表面は、塩酸に浸漬することで著しく侵食された。
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0047】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0048】
(2)上述した固化体形成用組成物の他、固化体、地盤注入剤、地盤改良方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。