(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792287
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】多軸通電焼結装置
(51)【国際特許分類】
B22F 3/14 20060101AFI20201116BHJP
B30B 11/02 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
B22F3/14 101A
B30B11/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-34475(P2017-34475)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-141185(P2018-141185A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】594043122
【氏名又は名称】株式会社アカネ
(74)【代理人】
【識別番号】100132964
【弁理士】
【氏名又は名称】信末 孝之
(72)【発明者】
【氏名】砂本 健市
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−259405(JP,A)
【文献】
特開2011−68975(JP,A)
【文献】
特開平11−254179(JP,A)
【文献】
実開昭63−106781(JP,U)
【文献】
特開2000−326084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
B30B 11/00−11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向の加圧軸と水平方向の通電軸とを備え、成形型内の粉体材料を前記加圧軸により加圧しながら前記通電軸により通電して焼結する通電焼結装置であって、
前記成形型に対する前記通電軸の傾斜角度を調整する傾斜角度調整手段を有することを特徴とする多軸通電式焼結装置。
【請求項2】
前記傾斜角度調整手段が、前記成形型側の第1調整板と、前記第1調整板と当接する前記通電軸側の第2調整板と、前記第1調整板と前記第2調整板との隙間を調整する隙間調整手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の多軸通電式焼結装置。
【請求項3】
前記隙間調整手段が、前記第1調整板と前記第2調整板との隙間に挿入されるジャッキボルトと、前記第1調整板と前記第2調整板とを近付けるように付勢するスプリングボルトと、前記第1調整板と前記第2調整板とを固定するロックボルトとからなることを特徴とする請求項2に記載の多軸通電式焼結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体材料を加圧しながら通電して焼結する通電焼結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体材料を加圧しながら通電して焼結する通電焼結装置として、一軸通電焼結装置と多軸通電焼結装置とがある。
【0003】
図4に示す一軸通電焼結装置200は、真空容器270内の成形型280に入れられた粉体材料に対して、上方にスペーサー211,212及び上パンチ213を配置し、下方にスペーサー221,222及び下パンチ223を配置し、上下方向の加圧通電軸210,220により加圧通電して、焼結体290を生成するものである。一軸通電焼結装置は、加圧と通電に同じ軸を使用することから、焼結部分の径方向(水平方向)の温度分布が不均一となりやすい。その欠点を改良すべく、加圧軸と通電軸とを分離したものが多軸通電焼結装置である。
【0004】
図5に示す多軸通電焼結装置100は、真空容器170内の成形型180に入れられた粉体材料を、上下方向の加圧軸110,120により加圧し、水平方向の通電軸(A)130,140及び通電軸(B)150,160により通電するようになっている。そして、通電軸による通電方法に関して、特許文献1には、加圧下にある粉体材料を収納する筒状の型の側面の周囲に、2本一対を1組とした電極を複数組配設して、各組の一対の電極に対する通電を交互に切り換えながら粉体材料に熱を付与するようにした多軸通電焼結装置に関する発明が記載されている。
【0005】
ここで、多軸通電焼結装置における成形型と通電軸との接触面について説明する。多軸通電焼結装置では、通電軸が成形型に接触して通電することにより成形型が加熱されるが、このとき成形型と通電軸との接触面は均一であることが好ましい。成形型と通電軸との接触面が不均一になると、成形型の接触部分だけが加熱されて(局所加熱の発生)、内部の粉体材料の加熱が偏ったり、成形型に割れが生じたりする原因となるためである。
【0006】
しかしながら、通電軸は長尺で重量もあるため先端部分が下がって傾く傾向があり、成形型に対して傾斜してしまい、面ではなく線あるいは点で接触することがある。また、成形型自体の配置によっても、通電軸との接触面が不均一になることがある。そのため、成形型に対する通電軸の傾斜角度を調整する必要がある。
【0007】
図6を参照して、従来例に係る多軸通電焼結装置における、成形型に対する通電軸の傾斜角度の調整方法について説明する。
図6は、従来例に係る多軸通電焼結装置300の構成図である。架台313に固定されたチャンバー312内には、成形型310が配置されている。また、架台313には、ボルト329により設置台328が取り付けられており、設置台328の上に通電軸320及びエアーシリンダー325が固定されている。通電軸320は、設置台328に通電軸固定部材327により固定されており、エアーシリンダー325の伸縮に伴い、通電軸ガイド326に沿って左右方向に移動する。また、チャンバー312の内部には、通電軸320に対する球面軸受315が設けられている。
【0008】
ここで、
図6に示す多軸通電焼結装置300には、成形型310に対する通電軸320の傾斜角度を調整するために機構は備えられていない。そのため、架台313と設置台328との間(
図6の符号Aの部分)に調整用のシムを挿入し、設置台328全体を傾けることにより通電軸320を傾斜させていた。そして、傾斜角度の調整は、シムの枚数や厚さを調整することにより行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4226674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、
図6に示す従来例に係る多軸通電焼結装置300における、成形型310に対する通電軸320の傾斜角度の調整方法は、シムによる調整を繰り返し行う必要があるため時間と手間がかかるとともに、微妙な調整が困難であった。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、成形型に対する通電軸の傾斜角度を短時間で調整でき、かつ微妙な調整も可能な多軸通電焼結装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の多軸通電式焼結装置は、上下方向の加圧軸と水平方向の通電軸とを備え、成形型内の粉体材料を前記加圧軸により加圧しながら前記通電軸により通電して焼結する通電焼結装置であって、前記成形型に対する前記通電軸の傾斜角度を調整する傾斜角度調整手段を有することを特徴とする。
【0013】
また好ましくは、前記傾斜角度調整手段が、前記成形型側の第1調整板と、前記第1調整板と当接する前記通電軸側の第2調整板と、前記第1調整板と前記第2調整板との隙間を調整する隙間調整手段とからなることを特徴とする。
【0014】
また好ましくは、前記隙間調整手段が、前記第1調整板と前記第2調整板との隙間に挿入されるジャッキボルトと、前記第1調整板と前記第2調整板とを近付けるように付勢するスプリングボルトと、前記第1調整板と前記第2調整板とを固定するロックボルトとからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の通電焼結装置は、上下方向の加圧軸と水平方向の通電軸とを備え、成形型内の粉体材料を加圧軸により加圧しながら通電軸により通電して焼結するようになっている。そして、成形型に対する通電軸の傾斜角度を調整する傾斜角度調整手段を有している。従って、傾斜角度調整手段により成形型と通電軸との接触面が均一となるように傾斜角度を調整して、成形型の局所加熱の発生を抑制することができる。
【0016】
また、傾斜角度調整手段が、成形型側の第1調整板と、第1調整板と当接する通電軸側の第2調整板と、第1調整板と第2調整板との隙間を調整する隙間調整手段とからなる場合には、隙間調整手段により第1調整板と第2調整板との隙間を調整することにより、成形型に対する通電軸の傾斜角度を調整することができる。
【0017】
また、隙間調整手段が、第1調整板と第2調整板との隙間に挿入されるジャッキボルトと、第1調整板と第2調整板とを近付けるように付勢するスプリングボルトと、第1調整板と第2調整板とを固定するロックボルトとからなる場合には、まずジャッキボルトを回すことにより、第1調整板と第2調整板との隙間を微妙に調整することができる。また、スプリングボルトにより第1調整板と第2調整板とを近付けるように付勢することにより、ジャッキボルトによる隙間の調整の際に、第1調整板と第2調整板とが開かないように仮固定することができる。そして、ロックボルトにより、第1調整板と第2調整板とを最終的に固定することができる。
【0018】
このように、本発明の多軸通電焼結装置によれば、成形型に対する通電軸の傾斜角度を短時間で調整でき、かつ微妙な調整も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る多軸通電焼結装置の構成図である。
【
図3】第1調整板(第2調整板)を示す正面図である。
【
図6】従来例に係る多軸通電焼結装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、
図1乃至
図3を参照して、本発明の実施形態に係る多軸通電焼結装置について説明する。
図1は、本実施形態に係る多軸通電焼結装置1の構成図である。ここで、本実施形態に係る多軸通電焼結装置1の全体構成は、従来例として説明した
図5に示す多軸通電焼結装置100と同様であり、真空容器内の成形型に入れられた粉体材料を、上下方向の加圧軸により加圧し、水平方向の通電軸により通電するようにしたものである。ただし、
図1の構成図は、上下方向の加圧軸の記載を省略し、4本の通電軸のうち1本の通電軸についてのみ記載したものである。なお、他の3本の通電軸についても
図1に記載した通電軸と同様の構成である。
【0021】
架台13に固定されたチャンバー12内には、成形型10が配置されている。チャンバー12の端部にはフランジ14が形成されており、フランジ14に第1調整板11が固定されている。また、チャンバー12の内部には、通電軸20に対する球面軸受15が設けられている。
【0022】
一方、通電軸20の基端部を囲むように、第2調整板21、エアーシリンダー固定板22、下部プレート23及びロッド24が配置されており、これらにより筐体28が形成されている。エアーシリンダー固定板22にはエアーシリンダー25が固定されている。通電軸20は、下部プレート23に通電軸固定部材27により固定されており、エアーシリンダー25の伸縮に伴い、通電軸ガイド26に沿って左右方向に移動する。
【0023】
第1調整板11と第2調整板21とは当接しており、通電軸20は第1調整板11及び第2調整板21を貫通して成形型10方向に進退するようになっている。そして、第1調整板11と第2調整板21との間には、後述する隙間調整手段により隙間が形成されるようになっており、この隙間を調整することで成形型10に対する通電軸20の傾斜角度を調整することができるようになっている。
【0024】
すなわち、第1調整板11と第2調整板21との間に隙間が形成されても、第1調整板11と成形型10との位置関係は変化しない。同様に、第2調整板21と通電軸20との位置関係も変化しない。従って、第1調整板11と第2調整板21との間に隙間が形成されて両者の位置関係が変化するのに伴い、成形型10と通電軸20との位置関係が変化し傾斜角度を調整することができるのである。このように、第1調整板11、第2調整板21及び後述する隙間調整手段が、多軸通電焼結装置1の傾斜角度調整手段として機能する。
【0025】
次に、
図2を参照して、第1調整板11と第2調整板21との間の隙間調整手段について説明する。隙間調整手段は、ジャッキボルト30、スプリングボルト40及びロックボルト50から構成されている。
【0026】
ジャッキボルト30は第2調整板21を貫通しており、その先端が第1調整板11に当接している。すなわち、ジャッキボルト30は、第1調整板11と第2調整板21との隙間に挿入されるようになっている。また、ジャッキボルト30の基端側には、ジャッキボルト固定用ナット31が螺着されている。ジャッキボルト30が貫通する第2調整板21の孔の内側にはタップが切られており、ジャッキボルト30と螺合するネジ山Tが形成されている。ジャッキボルト30を回転させることにより隙間への挿入長さが変化するので、隙間の大きさを調整することができる。
【0027】
スプリングボルト40は第1調整板11及び第2調整板21を貫通しており、先端にはスプリングボルト固定用ナット41が螺着されている。スプリングボルト40が貫通する第2調整板21の孔の内側にはタップが切られており、スプリングボルト40と螺合するネジ山Tが形成されている。スプリングボルト40が貫通する第1調整板11の孔の内側には、ネジ山が形成されていない。また、スプリングボルト40の基端側には、スプリング42が取り付けられている。これにより、スプリングボルト40は、第1調整板11と第2調整板21とを近付けるように付勢している。
【0028】
ロックボルト50は第1調整板11及び第2調整板21を貫通しており、先端にはロックボルト固定用ナット51が螺着されている。また、ロックボルト50の基端側には、球面座金52が取り付けられている。ロックボルト50が貫通する第1調整板11の孔の内側にはタップが切られており、ロックボルト50と螺合するネジ山Tが形成されている。ロックボルト50が貫通する第2調整板21の孔の内側には、ネジ山が形成されていない。
【0029】
ここで、
図2では説明をわかりやすくするために、隙間調整手段としてのジャッキボルト30、スプリングボルト40及びロックボルト50を下部に1組設けた状態を示しているが、実際には
図3に示すように、第1調整板11(第2調整板21)の4隅に設ける。そして4隅に設けた各組を操作しながら、最適な傾斜角度となるように第1調整板11と第2調整板21との隙間を多方向から調整する。なお、
図3における符号Hは、通電軸20の貫通孔である。
【0030】
ジャッキボルト30、スプリングボルト40及びロックボルト50から構成された隙間調整手段による調整方法について説明する。以下における操作は、4隅の各組において行う。まず、スプリングボルト40を回転させてスプリングの強さを調整する。スプリングボルト40は、ジャッキボルト30による隙間調整の際に、エアーシリンダー25の伸縮によって第1調整板11及び第2調整板21の位置関係が変化しないように仮固定するためのものである。従って、エアーシリンダーの出力よりも強くなるように調整する。
【0031】
次に、ジャッキボルト30を回転させて第1調整板11と第2調整板21との隙間を調整する。そして、エアーシリンダー25を伸ばして通電軸20を成形型10に接触させて、接触面の均一性を確認する。これを繰り返し行いながら調整する。
【0032】
隙間の調整が終了したら、ロックボルトで第1調整板11と第2調整板21とを固定する。以上により、成形型10に対する通電軸20の傾斜角度の調整が完了する。
【0033】
本実施形態に係る通電焼結装置1は、上下方向の加圧軸と水平方向の通電軸とを備え、成形型内の粉体材料を加圧軸により加圧しながら通電軸により通電して焼結するようになっている。そして、成形型10に対する通電軸20の傾斜角度を調整する傾斜角度調整手段を有している。従って、傾斜角度調整手段により成形型10と通電軸20との接触面が均一となるように傾斜角度を調整して、成形型10の局所加熱の発生を抑制することができる。
【0034】
また、傾斜角度調整手段が、成形型10側の第1調整板11と、第1調整板11と当接する通電軸20側の第2調整板21と、第1調整板11と第2調整板21との隙間を調整する隙間調整手段とからなるので、隙間調整手段により第1調整板11と第2調整板21との隙間を調整することにより、成形型10に対する通電軸20の傾斜角度を調整することができる。
【0035】
また、隙間調整手段が、第1調整板11と第2調整板21との隙間に挿入されるジャッキボルト30と、第1調整板11と第2調整板21とを近付けるように付勢するスプリングボルト40と、第1調整板11と第2調整板21とを固定するロックボルト50とからなるので、まずジャッキボルト30を回すことにより、第1調整板11と第2調整板21との隙間を微妙に調整することができる。また、スプリングボルト40により第1調整板11と第2調整板21とを近付けるように付勢することにより、ジャッキボルト30による隙間の調整の際に、第1調整板11と第2調整板21とが開かないように仮固定することができる。そして、ロックボルト50により、第1調整板11と第2調整板21とを最終的に固定することができる。
【0036】
このように、本実施形態に係る多軸通電焼結装置1によれば、成形型10に対する通電軸20の傾斜角度を短時間で調整でき、かつ微妙な調整も可能である。
【0037】
以上、本発明の実施形態に係る多軸通電焼結装置について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 多軸通電焼結装置
10 成形型
11 第1調整板
12 チャンバー
13 架台
14 フランジ
15 球面軸受
20 通電軸
21 第2調整板
22 エアーシリンダー固定板
23 下部プレート
24 ロッド
25 エアーシリンダー
26 通電軸ガイド
27 通電軸固定部材
28 筐体
30 ジャッキボルト
31 ジャッキボルト固定用ナット
40 スプリングボルト
41 スプリングボルト固定用ナット
42 スプリング
50 ロックボルト
51 ロックボルト固定用ナット
52 球面座金
100 多軸通電焼結装置
110 加圧軸
120 加圧軸
130 通電軸
140 通電軸
150 通電軸
160 通電軸
170 真空容器
180 成形型
200 一軸通電焼結装置
210 加圧通電軸
211 スペーサー
212 スペーサー
213 上パンチ
220 加圧通電軸
221 スペーサー
222 スペーサー
223 下パンチ
270 真空容器
280 成形型
290 焼結体
300 多軸通電焼結装置
310 成形型
312 チャンバー
313 架台
315 球面軸受
320 通電軸
325 エアーシリンダー
326 通電軸ガイド
327 通電軸固定部材
328 設置台
329 ボルト
T ネジ山