【文献】
社団法人 日本塑性加工学会編、「プレス加工便覧」、日本、丸善株式会社発行、1975年10月25日発行、14−18ページ、678−679ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成形で使用する金型は、焼付き防止のため、表面改質された金型で、かつ被加工材に温度非依存型潤滑性能を有する固形被膜潤滑剤を使用することを特徴とする請求項1に記載の新鍛造加工法を用いた純ニオブ製品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、精密機械部品や電気・電子部品、あるいは超伝導素粒子加速器などの先端的分野において、加工性ならびに加工精度・生産性・経済性などに対する要求が厳しさを増している。
従来の熱間鍛造法は耐熱材料に適し、温間鍛造法は冷間鍛造では難度の高い素材の鍛造加工に適し、冷間鍛造法は良作業性・良生産性に適するという特徴を、それぞれ有している。しかしながら、熱間鍛造では、多大な熱エネルギーを要し、金属材料の表面酸化とその除去が問題になる。温間鍛造には、化成処理を要することや、青熱脆性あるいは歪時効の懸念がある。また、冷間鍛造では、ネッキング(くびれ)や、亀裂などの不良の発生が回避できない場合が多々存在する。
【0003】
近時、ヒッグス粒子の発見やビッグバン及びインフレーション理論の進展もあり、30〜50kmに及ぶ長大な線形加速器である国際リニアコライダー(ILC)建設計画が鋭意進められている。ILCの中核をなすのが超伝導高周波加速空洞であり、その構成単位となる装置を「9連空洞」と称する。ILC では、この装置を約1万7,000台必要とする。
図1に示すように、9個のセルからなるセンター部品2と、両エンドグループ部品3からなる。エンドグループ部品3は電力の入力やモニターのためのポート類(ビームパイプ3a,ポートパイプ3b)のほかに、複雑形状を有するHOM(高調波)カプラー3c等から構成される。
【0004】
HOMカプラー3cは、
図2に示すように、HOMカップ4とHOMアンテナ5が一体化されたものである。即ち、粒子ビームが電磁加速され、空洞内を通過するときにHOM(高調波)を励起してしまい、ビームの加速を阻害するため、空洞外に吸い出して減衰させる必要がある。この機能を受け持つのがHOMカプラー(高調波減衰器)である。
【0005】
9連空洞のセンター部品2もエンドグループ部品3も使用素材は、希少金属の純ニオブである。主たる理由は、純ニオブは超伝導遷移温度が9.2Kと高く、これを2Kで使用することにより、最重要な超伝導特性、即ち粒子ビームの易加速性を向上するための単位長さあたりの加速電圧を高く取れる可能性が大きいことによる。
【0006】
純ニオブは極めて高価、かつ難プレス加工・難切削材料である。その主たる理由は、プレス加工については低塑性歪比、切削については工具との凝着現象にある。従来、HOMアンテナ5は、素材から全切削加工もしくはウォータジェット加工等によって作成した素形品を切削加工によって製品化しているのが実情である。
【0007】
また、HOMカップ4に関しては全切削加工もしくは後方押し出し後切削及び熱処理、あるいは複数工程のプレス加工と、工程間の熱処理並びに加工後熱処理の挿入によっている。
【0008】
従って、いずれも生産性及び経済性の点で、深刻な課題を内包しており、これらの課題解決のため、先進的なプレス加工法への工法転換が強く期待されている。
【0009】
そこで、発明者等は、HOMカップ4について、超深絞り加工に工法転換する技術について研究し、既に国内及び国際特許出願(特許文献1及び2)をしている。
【0010】
しかしながら、HOMアンテナ5は、
図2(D)の外観図からも推察されるように、プレス加工化に関しては「難加工形状品」であり、かつ純ニオブ素材は、機械切削加工やプレス加工のいずれにおいても「難加工材」である。そして、HOMアンテナ5の初期板厚が10mmの「厚板」ゆえ、目標とする障壁は高い。
【0011】
HOMアンテナ5において、特に、超伝導特性の適正化を図るために、各部位の距離寸法が重要である。同時に板厚や辺縁部のR寸法にも配慮する必要がある。本来エンドグループ部品3のプレス加工化にあたっては「材料技術」と「塑性加工技術」を同時に配慮する必要がある。また、ほぼ四角形状の打抜き穴部分の一部が狭小になっており、応力集中が生じやすいのでネッキング(くびれ)/亀裂、肉余り/不足、形状出し、残留応力等の発生が予想され、加工難度が高い。
【0012】
さらに、仕上げ工程においてCP(化学研磨)及びEP(電解研磨)を行うが、その負荷をできるだけ低減するためにも、表面性状や表面もしくはその近傍の異物や微量不純物元素の付着・侵入にも注意しなければならない。
【0013】
そのため、HOMアンテナ5の切削加工や高エネルギー加工に属するウォータジェット加工以外の加工法については、知られておらず、確立もされていない。そして、切削加工やウォータジェット加工からの工法転換による、量産性の飛躍的向上及び製造コストの低減が強く期待されている。
【0014】
ここで期待に沿う手段として、従来工法を全プレス加工に転換するために、「新たなせん断打抜き加工」とそれに続く「新たな鍛造加工」の先進技術による「新たな全プレス加工」の未だ試みられたことのない発想のもとに、その実現のために開発研究した成果が本発明である。
【0015】
ここで既存の慣用せん断打抜き加工、精密打抜き法は除外される。前者では通常打抜きクリアランスが板厚(t)の5〜10%であるため、所要形状寸法精度を出すことは不可能であり、後者では高価な専用機と高価な金型費用が発生し、技術難度も高く、生産効率が問題になる可能性があることによる。
【0016】
発明者等は、「新たなせん断打抜き法」の検討に先んじて、まず切削に替えて、高エネルギー加工法の一種である「ウォータジェット加工」での素形品成形の可能性について検討・評価した。ウォータジェット加工による素形品の加工は、比較的高速化・高能率化が期待されるところから、後続の切削加工を、周知の「冷間鍛造加工」によってプレス加工に置き換えられないかを視野に入れつつ、種々の実験・検討を行ったものである。
【0017】
その結果、幾つかの技術課題の存在が認識された。主たる問題点は、試作品のCP後の表面SEM観察及びEDX元素分析によって砥粒の存在と、それらが素地中に埋入されているのが認められたことである(
図3)。SEM像(
図3(A))からは、明らかに数μ
m〜数10μ
mの白点が散在しており、その周辺の色調がおそらく応力場により変化している。
【0018】
SEM像中の観察視野(白丸で表示)のEDX(エネルギー分散型X線解析)測定チャート(
図3(B))では、白点(粒子群)はアルミナ、シリカ、酸化鉄もしくは酸化マグネシウム等によるものと同定された。これら粒子状異物の存在原因は、素形品製作のウォータジェット切断時に使用する「砥粒」と見なされる。現在のところ、この切断手法を適用する限り、砥粒の残存は避けられない。
【0019】
砥粒の埋入があると、高周波共振モードの発生を促進させる恐れが大きく、空洞性能に悪影響を与える懸念が拭えないので、この素形品のウォータジェット加工は回避せざるを得ない。しかも、ウォータジェット加工は、プレスせん断打抜き加工に比べれば、生産性及び経済性に劣ることも否めない。HOMアンテナ5であれば、1個の切断素形品を製作するために、10分程度の時間を要するゆえ、全切削に比べれば遙かに効率的であるが、数万個(加速空洞一台にアンテナが2個必要)の量産には難がある。
【0020】
他方、素形品の製品形状への加工においては、従来の冷間鍛造が先ず考えられた。しかし、試験の結果、例えば、ネッキングや寸法不同あるいは応力集中及び形状問題(だれ・バリ・材料の肉余りや充填不足等)あるいは凝着現象等の問題が確認された。これらに共通する原因に関わるのは、材料と金型間の「塑性流動」と云ってよい。
【0021】
その中で、特に、冷間鍛造試験後の一部に
図4に示すようなネッキング現象が発生することは重大問題である。技術的な塑性加工上の冷間鍛造条件を種々変動させた実験を行ったが、ネッキング(円内)の発生を回避することはできなかった。
【0022】
ネッキングの発生確率がいかに小さくてもこれはHOMアンテナ5の機能を損ない、加速器に使用される全体の内1個であっても加速器が作動しなくなるような重要な問題であるため、容認することはできない。
【0023】
このネッキングは応力集中によって生じたのは確かだが、材料の強度不足・延性不足・塑性流動・加工変形過程における変形余裕度不足のいずれが主原因であるかは未詳である。
【0024】
上記砥粒の残存やネッキングは、材料と加工との相互作用によって生じた現象である。当然HOMカップ4との組み合わせや電子ビーム溶接(EBW)後に共振モードの制御や超伝導特性等の加速空洞の機能を劣化させることが確実ゆえ、発生を皆無にする必要がある。しかし、上述のごとく主因として塑性流動性の問題があることは確かである。そのため、材料と加工の両者に配慮した新たなHOMアンテナ5の加工法の検討が、極めて重要になる。
即ち、作業性・量産性・経済性・初期投資等の観点から、冷間鍛造で加工品を製造するにあたって、近年の鉄・非鉄を問わず難加工材料の使用要求や、さまざまな難加工形状品の加工の必要性が生じてきた。また加工品の精度への厳しい要求により、ネッキング・亀裂発生や寸法不良、あるいは形状性(だれ・ばり・肉余り・充填不足など)、凝着現象などの諸問題が生じている。さらには、不良率の改善・量産性・材料歩留り・経済性(コスト)に関しても、要求が厳しいところから、これらに対処するための新たな鍛造法の開発が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、
図5,6に基づき、本発明について詳細に説明する。
【0033】
本発明である荷電粒子の加速に用いられる超伝導高周波加速空洞の純ニオブ製エンドグループ部品3のうちHOMアンテナ5は、本願手段による新たなせん断打抜き加工法(1)と、新たな鍛造加工法(2)とから製造され、従来の切削加工やウォータジェット加工からプレス加工への工法転換を可能にする。
【0034】
(1)せん断打抜き加工
せん断打抜き加工は、厚肉純ニオブ板材5aから素形品5bを成形する工程で、ダイ6aとポンチ6cとの隙間(クリアランス)の微小化、厚肉純ニオブ板材6の束縛手段、高速打抜き手段、抜熱冷却手段、マルチアクションダイ、サーボダイクッション、プレス機のサーボ制御を含み、各手法の適切な組み合わせからなる。以下にそれらの手段/効果について説明する。
【0035】
・微小クリアランス6e
図5(A)に示すように、微小クリアランス6eは、高精度のせん断打抜き品を得るために、ダイ6aとポンチ6cの隙間を被加工材板厚(t)の0.5%以下の微小に設定するものである。慣用打抜きでは、板厚(t)の10〜15%が通常であり、既存の精密打抜き(FB)法ではt≦0.5%である。しかしFB法では、高価なFB(油圧)プレス機とV字突起を形成する等が必要な特殊金型を要すること、打抜きスピードが遅いこと、さらにプレス機の操作に熟練を要すること等の問題がある。
【0036】
他方、本発明は、下記する創案によって、慣用打抜きにも、FB法にも該当しない、厚肉純ニオブ板材5aのごとき難プレス加工材に適応できる新たなせん断打抜き加工法を提供する。
【0037】
・束縛手段6
この手段は、
図5に例示するように、例えば、厚肉純ニオブ板材5aを通常のFB法に採用されているV字突起方式の特殊金型を採用することなく、厚肉純ニオブ板材5aのふくれや素形品5bの板厚変動を抑制、制御するものである。
【0038】
例えば、
図5に示すごとく、厚肉純ニオブ板材5aに通常の板押え荷重Pbを上下(板押え6d及びダイ6a)から加える。なお、厚肉純ニオブ板材5aのダレの生成程度に応じて場合により打抜き荷重Pfに対し逆押え(逆方向)荷重Ppを加える。
【0039】
さらに、本発明では、束縛荷重Fを厚肉純ニオブ板材5aに加える。束縛荷重Fは、長方形素材である厚肉純ニオブ板材5aの長手側面に加えられる第一側面束縛力F1と、短手側面に加えられる第二側面束縛力F2とからなる。なお、F1’はF1の反荷重、F2’はF2の反荷重である。
【0040】
この際、
Pb=F1+F2 式(1)
の関係を維持するように制御するのが要諦である。その結果、せん断打抜き時の厚肉純ニオブ板材5aの板厚変動を必要十分な程度に抑制することができる。
【0041】
ここで、Pbはサーボダイクッションによって加工中に動的制御することを本発明に含むことから、原理的にはFはそれに追随して変動する要因とみなしてよい。
【0042】
厚肉純ニオブ板材5aは、通常のFB法に採用されているV字突起方式であっても、通常の板押えであっても、打抜き時に、移動し、素形品5bの板厚減少が起こることを認識して、かかる発明要素の考案に至ったものである。
【0043】
・連続高速打抜きと抜熱冷却
厚肉純ニオブ板材5aの打抜き時に、ポンチスピードを例えば100mm/sec以上に高速化することにより、せん断打抜き性が向上することを知見した。このような高速化は、FB法における油圧サーボ機構では実現できない。そこで、本発明では後述の電気的サーボ制御機構のプレス機搭載機能によって実現可能にしたものである。
【0044】
純ニオブにおいて、高速打抜きで打抜き性が向上するメカニズムは不明だったが、発明者等は、材料工学的な観点から、純ニオブ材料の加工変形中にミクロすべりとそのタングリング(もつれ)の影響がおもに歪みとして積層欠陥エネルギーの低下による交叉すべりの容易化によって減殺するためであることを知見した。
【0045】
他方、打抜きスピードを高速化し、かつ連続加工すると、外力の熱エネルギーへの変換量が増加・蓄積して、発熱現象が生じ、金型温度が上昇する。すると金型と厚肉純ニオブ板材5aの表面で相互の原子間相互作用が増加するとともに、潤滑剤や金型表面改質被膜の化学変化、主として酸化反応が起こり、「焼付き現象」が生じるので、連続せん断打抜き中に、被加工材料と金型の「抜熱」が必要になる。そのため、温度制御装置で、金型を冷却し、熱伝導で被加工材の冷却を行わなければならない。
【0046】
・マルチアクションダイ
プレス機は通常2軸外力加工(スライドと板押え)形式が基本であるが、FB法のような複雑な機構によらずに、慣用プレス機にサーボ機能を付加した装置マルチアクションダイを搭載することで、スライド力に対して反対方向の「対抗力」(第3番目の軸力)の作動が可能になり、ノックアウト機能として兼用することができる(3軸外力加工化)。
【0047】
微小クリアランス6eで高精度な素形品5bを成形するには、かかる簡略な複動化の工夫の効果は無視できない(
図5のPpに相当する)。その結果、せん断打抜き加工装置の初期投資を抑え、生産性向上と相俟って、素形品5bの製品コストを低く抑えることが可能になる。
【0048】
・サーボダイクッション
厚肉純ニオブ板材5aのせん断打抜き時の板押え荷重(面圧)を、せん断打抜き加工中に可変にして、せん断打抜き性の向上を図るために搭載する。加工時間が短いため、かかる動的可変動作を行うことには困難が伴うが、フィードバックセンサーの応答速度の改良によって実用化を可能にした。当該機構は、他の構成と併用することで、相乗作用を発揮し、高精度・高能率のせん断打抜き加工を可能にする。
【0049】
・サーボ(速度・モーション)制御
プレス加工においては、すでに知られた手法・装置であるが、高速・連続せん断打抜きや速度制御やモーション制御を有効利用することを特徴とする本願発明においては大切な要素であり、せん断打抜き加工において、かかる発想は従来存在しない。
【0050】
(2)鍛造加工
次いで、鍛造加工は、素形品5dを製品形状の加工品5cに成形する工程で、低温域温度制御(青熱脆化抑制、表面酸化被膜極小化、塑性流動容易化)、微細結晶純ニオブ材の選択、表面改質された金型、適正潤滑油、プレス機のサーボ制御を含む、各手法の適切な組み合わせからなる。以下に、それらの手段/効果について説明する。素形品に、鍛造加工後或いは鍛造加工に換え、従来の後処理、或いは仕上げ処理を施すことで完成品になる。
【0051】
・低温度域温度制御
純ニオブの青熱脆化、表面酸化被膜の極小化、塑性流動容易化のために、室温(RT)を超えた温度(室温を含まない温度)〜200℃の低温域で温度制御する。より好ましくは20℃より高く200℃以下、いっそう好ましくは50〜150℃の温度域である。
従来から、鍛造加工において、温度条件に関連して、
熱間鍛造(再結晶温度以上、大略>800℃)
温間鍛造(300〜800℃)
冷間鍛造(RT(室温))が知られている。
本発明のこの低温度域制御の温度範囲は、従来知られているいずれの温度制御領域にも当てはまらない新たな温度域における温度制御手段であり、難プレス加工材の加工にふさわしい新たな鍛造加工法を提供するものである。
【0052】
・青熱脆性
純ニオブの静的及び動的機械的特性の温度依存性を広範な領域で調べた結果(
図6)、厚肉純ニオブ板材5aのプレス加工化の手段と効果に関して貴重な情報が得られ、本願発明に関わる新たな鍛造法につき重要な要素の創案を得るに至った。
【0053】
図6に0〜400℃における純ニオブの静的単軸引張結果を示す。横軸が温度、第一縦軸(左)が伸び(延性)、第二縦軸(右)が引張強さ(強度特性)である。EL(全伸び)については異なるチャージの結果をプロットしてある。
【0054】
これから、純ニオブの静的な機械的特性が温度変化に対して一様には変化(増加・減少・不変)しないことが分かる。特に200〜300℃の温度領域で純ニオブの延性・強度特性ともに急減することが知られた。これを、従来の金属材工学にならって純ニオブの「青熱脆化」と称する。
【0055】
青熱脆化現象が生じると、延性低下による塑性変形能の低下と、強度特性の劣化による材料の外力に対する変形抵抗の低減を招くことになるから、純ニオブ材の加工性の低下、即ち応力集中部分のネッキングが生じる危険性が急増する。それゆえ、青熱脆化は鍛造加工にあたって、絶対に避けなければならない。
【0056】
青熱脆化の生成原因は、以下のように考えられる。これは、後述の「細粒化純ニオブの選択使用」と関連する。
図6中の挿入図の斜線丸囲い部の応力−歪線の流動応力変化からも分かるように、青熱脆化は、純ニオブ素材中の結晶粒界やミクロすべり(歪)生成部位における侵入型原子(炭素及び窒素)の固体拡散による固着・ブロックによるものである。
【0057】
純ニオブのごときフェライト(体心立方結晶(BCC))中の拡散現象(拡散係数D)は、温度Tに依存する、
D=D
O exp(−Q/kT) 式(2)
で表される。
D
O:振動数項,Q:活性化エネルギー,k:ボルツマン定数
【0058】
そして、時間tにおける原子の拡散距離xは、
x=(Dt)
1/2 式(3)
となる。
【0059】
しかるに、200〜300℃におけるフェライト中の炭素及び窒素のDは100〜1000mm/sec程度であるから、ミクロすべり速度とマッチングするので、前記固着作用が生じ、青熱脆化が生じるものと考える。
【0060】
そして、後述のように前記「細粒化純ニオブの選択使用」と同時に、「塑性流動の容易化」も同時に考慮しなければならないのである。
【0061】
・表面酸化被膜極小化
純ニオブは酸化物(殆どNb
2O
5)の標準生成自由エネルギーΔGが小さく、酸化しやすい。スケール(酸化膜)除去として、仕上げ切削(機械的/化学的(Cp)/電気化学的(Ep))等をプレス鍛造製品(場合により仕上げ切削)製作後に行う。とくにEpは2万台弱つくる予定の“9連空洞”の1台ごとに行う必要がある。よって酸化膜生成を少しでも減らすことは、EP処理能力の向上に寄与するから、コストダウンにつながる。
【0062】
従って、鍛造温度は室温を超えた温度(室温を含まない温度)〜200℃の間でなるべく低値に越したことはないが、同時に青熱脆性の回避及び前記のごとく
図6に挿入した応力−歪線図に示された弾塑性限界近傍の流動応力変化への対応を含む)。この原因は青熱脆化と同じで、前記したように侵入型原子のミクロすべり歪の固着によるものであるが、時効現象とも称し、青熱脆化下限温度以下での高温域においても生じる可能性がある。同時に後述する塑性流動性の容易化にも配慮すると、130℃付近を中心とした100〜150℃の温度域制御が好適である。
【0063】
・塑性流動容易化
鍛造加工は、主として圧縮力による材料変形によって進捗するものであるから、いかに純ニオブ材料のマクロ的な塑性流動を所要の製品形状寸法に沿って適切かつ均一かつ適切に起こさせるかが肝要である。
【0064】
そのためには、少しでもマクロ機械的特性のうち全伸び(均一伸びと局部伸びの和)で示される延性(特に均一伸び)に優れることと、変形抵抗を減殺するために強度・流動応力を低めに保つことが望ましい。そして、既述の炭素や窒素の侵入型原子のミクロな変形歪に対する固着作用を回避することが望まれる。
【0065】
かかる観点から、
図6を参照すると、室温を超えた温度(室温を含まない温度)〜200℃間の低温域温度制御をすることの肝要性が理解できるのであるが、望ましくは表面酸化被膜極小化温度について述べた観点とも一致することとなる130℃付近の温度域制御の選択が好ましいといえる。この好適温度は、金属材料の種類によって若干変動する。
【0066】
かくして、鍛造時のあらゆる曲面部分の形成と高精度化や、表面性状が向上することになる。開発研究実験と理論的指導原理から導かれた本発明、即ち純ニオブ材料の全プレス加工化を実現した技術は、これまで知られていない。
【0067】
・微細結晶純ニオブ材の選択
これには二つの考慮を払うべき観点がある。第1点は、厚肉純ニオブ板材5aと金型間で起こる焼付き(凝着)現象回避の観点である。純ニオブは通常再結晶熱処理による結晶粒成長速度が大きく、数100μm程度の粗大粒を呈するのが一般である。
【0068】
これは、本願用途に使用する純ニオブが300RRR以上の高純度(炭素や窒素等の侵入型不純物元素の含有率が数ppm程度)ゆえ、結晶粒界移動阻止作用が小さいことと、ニオブ原子の体拡散が容易なことによるものと推察される。
【0069】
被加工材料の結晶組織が粗大粒からなると、その表面と金型表面との間に、原子のランダムウオークによる交互作用が、細粒材の場合よりも確率的に増大するので、化学反応も生じやすくなり、焼付きや摩耗現象が促進されるものとの推定原理によって、数10μmの細粒結晶の純ニオブ素材を用いることによって焼付き(凝着)現象を低減させるものである。
【0070】
純ニオブ素材の結晶粒径が焼付き・凝着の原因のひとつであることはこれまで知られていない。また、結晶粒径を数10μmオーダーに調整する技術も開示されていない。
【0071】
もう1点は、
図6の青熱脆化及び時効現象について前記したことからも分かるように、結晶粒径が如上のように現用の1/10程度の細粒材を使用することによって、結晶粒界面積が著しく増大するので、炭素や窒素等の侵入型元素の多くが拡散によって、同じ温度であっても、結晶粒界に固着(トラップ)され、ミクロすべりの進行を妨げる程度が減少することである。つまり、同じ温度条件の鍛造加工において、粗粒材よりも細粒材の方が青熱脆化や時効現象が緩和され、鍛造加工が容易になり、鍛造性も改善されることである。
【0072】
・表面改質された金型
金型と厚肉純ニオブ板材5aとの焼付き(凝着)防止と金型の摩擦・摩耗対策のため、金型の表面をDLCや低温窒化あるいは化成処理等で改質する。被加工材が軟質純ニオブであることを考慮して、改質層の厚みや下地処理に配慮すると同時に、金型材質の選択にも配慮する。
【0073】
・適正潤滑剤
温度非依存型潤滑性能を有する固形被膜潤滑剤を用いる。例えば、本願発明者のひとりが関わった、室温〜800℃まで固形被膜の潤滑性能不変な潤滑剤が知られている(特許文献3)ので、これを用いることで、焼付き・凝着現象が緩和される。なお、特許文献3に記載の潤滑剤は、焼付き・凝着防止に従来使用されてきた塩素添加潤滑油の人体/環境への負荷を回避した固形潤滑剤で、加工性のアップにも寄与する。
【0074】
・サーボ(速度・モーション)制御
この機能は、慣用プレス機に搭載して、プレス機のスライド(ストローク)の速度制御及びまたはモーション制御を行い、外力の使用要件を変化させ、厚肉純ニオブ板材5aのミクロ的及び又はマクロ的変形モードの親和性を改善し、塑性加工性を向上させることを意図したものである。
【実施例1】
【0075】
以上、本願発明内容について詳細説明をしるしたので、以下、これらに基づく具体的な実施例を、
図6、7を参照しつつ示す。なお本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0076】
図7に発明を実施するための設備・装置の外観写真を示した。主たる装置はプレス機であり、慣用プレス機に電気式(AC)サーボ機構を搭載し、さらにサーボダイクッション及びマルチアクションダイを取り付けた。基本的にはコストパフォーマンスの観点から、実施例では単発加工とした。即ち、素形品5bの加工のための新せん断打抜き加工と仕上げ処理前の製品加工のための新鍛造加工を、適当な個数ごとに分けて行った。(いうまでもなく量産時には2台のプレス機で連続加工を行うこととなる)。
【0077】
そのために、途中でせん断打抜き用金型と鍛造用金型を交換した。金型重量物の交換にはQDCを用いた。実施例のための金型材質はSKD11とし、表面改質はDLCとし、改質層の厚みは約2μmである。潤滑剤には固形潤滑剤G2578T(日本工作油(株)製)を使用した。これら型材・表面改質・潤滑剤は、せん断打抜き加工と鍛造加工共用で実施した。
【0078】
新せん断打抜き加工の冷却制御及び新鍛造加工のための加熱制御用に、
図7に示した温度制御装置7を使用した。温度制御範囲は−20〜+300℃であり、冷却は非フロン冷媒、加熱は金型7aに埋入した電気ヒーターを、それぞれ用いた。厚肉純ニオブ板材5aと金型の温度制御には若干の時間差が生じたが、特段の問題はなかった。
【0079】
純ニオブ被加工材としては、板厚10mmの厚肉純ニオブ板材を使用した。このものは数回のEBM(電子ビーム溶解)を施したのち、インゴットの分塊圧延及び厚板圧延を行い、脱スケール後に真空焼鈍したものである。材料ミルシート(検査表)によれば、不純物固溶原子の炭素、窒素、酸素等はすべて数ppmのレベルで、RRR(電気抵抗に関系する指標で、数字が大きいほど恋純度材であることを示す)は341であった。同族(元素周期表の第5族)のタンタル含有量は280ppmであった。金属結晶粒径は大略100〜300μm径で、ほぼ等軸粒である。結晶方位集合組織の測定は行われていない。硬さを測定したところ、ビッカース硬度で約90であった。
【0080】
実施例の条件は以下のようである。
(1)せん断打抜き加工:(微小)クリアランス40μm;板押え荷重(Pb)20トン;板押え面圧140kg/cm^2;束縛荷重(F)は面圧に同じ;打抜き荷重(Pf)90トン;逆押え荷重(Pp)13トン;速度200mm/sec;冷却温度0℃;サーボモーションはストレート;連続加工個数50個。
【0081】
(2)鍛造加工:鍛造加工荷重160トン;鍛造速度0.5mm/sec;鍛造金型の素形品5bワークのオフセット量0.2mm;加工温度130℃;連続加工個数50個。
【0082】
以上の条件にて、本発明に従って、厚肉純ニオブ板材5aから多数個のHOMアンテナ5の新せん断打抜き方法と、それに続く新鍛造方法によって行った実施加工品5b及び5cのうち典型的な例を
図8に示す。
【0083】
図8(A)に、せん断打抜き素形品5bを示したが、板厚10mmに達する加工難度の高い軟質厚肉純ニオブ板材5aのせん断打抜きが、特段の問題が全くない状態で実施できた。もちろん、ウォータジェット素形品加工における砥粒の埋入は皆無であり、この問題を完全に解決することができた。
【0084】
図8(B)に、(A)からの継続加工である新鍛造方法による鍛造後(仕上げ(切削)処理前)の製品(加工品5c)を示したが、この場合も前記縷々しるした手段・条件の適用によって所要の形状寸法を有する加工品が、再現性をもって製造可能であることが示された。
【0085】
相当の個数を鍛造加工したが、従来法の冷間鍛造で発生した「ネッキング」の発生は皆無であった。
図8には、(A),(B)それぞれの長さ寸法及び板厚寸法をしるしているが、これらは十分この後の仕上げ処理に問題のないことを確認している。
【0086】
特に、板厚が鍛造によって、1mm減少し、長さ寸法も減少しているが、これらは想定内であり、前記したように金型で設計図に対するオフセット量を適正に考慮したゆえんである。
【0087】
以上の実施例から判断できるように、本願発明の適用によって、厚肉純ニオブ板材5aからHOMアンテナ5の加工品を、従来の切削やウォータジェットを回避した、仕上げ処理を除く製造工程をすべてプレス加工方法へ工法転換することが可能であるとの結果を得た。従って、大きなネックであった加速空洞部品の素材歩留りの減少、コスト低減、量産性の向上等の実現が可能になった。
【実施例2】
【0088】
次に、本発明の一例として、ディーゼルエンジン用可変翼型ターボチャージャーの重要部品であるノズルベーン10(
図9(C))の、新せん断打抜き加工法及び新鍛造加工法を用いた製造(成形)方法について説明する。
【0089】
図9(A)に示す素形品8は、板厚10mmのステンレス鋼板(SUS310S=25Cr−20Ni−0.06C)の圧延材に、新せん断打抜き加工法を適用して得られる。この時点で、素形品8は、打ち抜かれた平坦なT字形状の板状である。これが次工程で、翼9aに鍛造成形される翼部8aと、笠9b及び軸9cに鍛造成形される軸部8aからなる製品とするのが本発明である。
【0090】
従来のノズルベーンの素形品は、ファインブランキング(FB)や転造で成形されることが多いが、FB装置の導入コストが高いこと、高い運転技術を要することから、割高の製品になっている。同時に、次工程(冷間鍛造や転造加工)にも、高い成形難度・歩留・コスト等の問題が避けられない。
【0091】
一般的には、本製品の製造手段として、鋳造用ステンレス鋼のSCS21(25Ni−20Cr−0.3C)を用いた「精密鋳造」法が採用される。しかし、この場合、例えば本製品の生産量は数10万個/月といわれ、精密鋳造による生産には量産性・コスト・納期・流通など困難な課題が山積している。また、SCS21は、Cを多量に含有し、使用中の温度変化で、Cr炭化物や、σ相非金属介在物もしくはラーベス相を生成し、耐酸化性が低下して可動不良や耐久性の劣化を招く懸念があり、また、鋭敏化(粒界腐食)及び脆化(劈開破壊・粒界破壊)の恐れがある。
【0092】
図9(B)、(B‘)に示す鍛造品9は、塑性流動を利用した新鍛造加工法を素形品8に適用して得た。
図9(B’)は、
図9(B)の翼9a側からの写真である。ここでは、鍛造温度を150℃ とし、サーボ制御を行って、笠9bを一部打抜きとの合せ技で鍛造成形するとともに、特殊な形状の翼9aを鍛造する。なお、部品によっては、新鍛造加工で最終製品となる。ノズルベーンでは、次の切削加工を施して完成品になる。
【0093】
図9(C)に示すノズルベーン10は、鍛造品9に、必要な切削を施し、切削部10a、10bを形成して完成とした。以上の工程で、生産性、経済性を具備したノズルベーンの製造が可能になる。なお、部品によって、最適、必要な種々の研磨等によって仕上げ加工を施し、完成品とする。
例えば、精密機械部品の範疇に属する特殊ギヤ・カム・レバーや割リングなどの従来法の冷間鍛造方法によれば、形状・寸法精度の厳しさが増すにつれて、ネッキング・亀裂・R部の寸法不良・だれ・ばり・肉余りなどの不具合発生率の増加を免れないが、本発明法によればこれら技術問題が解消される。これは主として素材の塑性流動性と変形の余裕度の向上によるものである。同時に量産性および経済性に関しては、従来の冷間鍛造法と比べて殆ど遜色がない。
また、最先端プロジェクトILC(国際線形衝突型加速器)の超伝導加速空洞端末部品の高調波結合器(HOM Coupler)を高純度のNb素材で実施したが、加速電圧などの所要機能を満足した結果が得られている。実施例に基づく特有な効果としては、上記HOM Coupler部品(antenna)のごとき、異形・複雑な部品を、金属材料の新せん断打抜き加工方法などによって得られた素形品に、本発明の新鍛造加工法を適用することによって、製品化できることである。
常識的にも、実績的にも、このような複雑形状かつ高精度品を全切削もしくは高エネルギー加工法あるいは鋳造法や複数工程によるファインブランキングや転造によらなければ、加工不可能であったが、新打抜き法とともに新鍛造法によって加工が可能になることは、10〜100分の1という大幅な生産時間・効率アップになることを意味するゆえに、優れて好ましい効果を有する。
【0094】
その他、例えば、現在ファインブランキング法で製造している安定高級ステンレス鋼(SUS310S、あるいはSUS316Lなど)を素材としたノズルベーン・リンクプレート・スライドジョイントなどの自動車ターボチャージャー(過給機)部品へ適用すれば、高温・長時間使用における出力やトルクおよび排ガスの有効利用や浄化機能に資することができる。
【0095】
以上から、本発明技術は、温度・速度・外力などを組み合わせた新技術を、材料工学と塑性加工学の活用・融合の観点から見いだし、そのための具体的な新たな手段の創出に至ったものである。
【0096】
最も大きな特有な効果として、現用のファインブランキング精密打抜き法に取って替わる可能性を知見したことである。具体的にいえば、ファインブランキング専用機への投資に比べて、格段に安価な対応・手段で、即ち、各メーカーが、既に所有している汎用プレス機のモディファイと温度制御機構の準備とからなるハード設備を、煩雑な作業技術を必要とせずに、またファインブランキング用の高価な特殊金型を準備しなくても、高精度の新たな精密新せん断打抜き加工法を用いた金属製品の製造方法を実現した。ファインブランキング加工機をすでに所有していて、減価償却が済んでいる加工メーカーと比較した場合でも、中期的な時間経過においてみれば、新せん断打抜き加工によるほうが優位性を示す。
【0097】
以上のように、微小クリアランスにおけるせん断加工、特に材料の変形工学、塑性加工学のなかの分離せん断加工に関する巨視的な塑性力学、熱処理およびサーボ機構並びにそれらと材料加工変形との相互作用に関する技術の考察・実験により、鉄鋼材料を含む種々の金属材料につき、厚さ10mm程度までの種々の材料を、所要の寸法精度・ダレやバリ(かえり)が極小の良形状性・良表面性状・打抜き側面の100%せん断面確保・板厚変化と分布・ループ内側の局所小R出しなどを、材料の塑性流動に配慮した適正なせん断打抜き条件において、打抜き品を製造することができる。
【0098】
その結果、本発明は、異形高精度を要する精密打抜き部品、製品を、高価な専用プレス機を必要とするファインブランキング法によらずに、慣用プレス機および金型に冷却治具・装備を併設し、ストロークや面圧自動制御及び背圧を含めた3軸外力制御用サーボ機能をもたせて、精密せん断分離加工を可能にしたものである。
【0099】
高価で使用難度の高いファインブランキング法を使用しなくても、せん断打抜き時の材料の高速抜熱・面圧制御・材料移動と圧縮抵抗等を考慮することにより、形状・寸法精度の高い部品・製品・素形品の製造が、微小さん幅・良材料歩留状態下で可能になる。
また、新鍛造加工法の採用によって、上記したごとく、良好な塑性流動を生じさせることによって、青熱脆化、時効効果、酸化、ネッキング、形状不良、肉余り/不足、ダレ、バリ(かえり)等を回避した成形体を、仕上げ切切削不要、もしくは極小の仕上げ切削にて製品化することができる。