(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792344
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】強化部材で強化された成形物品、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20201116BHJP
B29C 45/73 20060101ALI20201116BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20201116BHJP
B29C 70/02 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/73
B29C45/78
B29C70/02
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-75578(P2016-75578)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2016-210176(P2016-210176A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2019年1月15日
(31)【優先権主張番号】15162674.4
(32)【優先日】2015年4月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508375468
【氏名又は名称】エムス−パテント・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン・ベルンハルト・ヴァイス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・クルーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター・ロッホ
【審査官】
正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−199620(JP,A)
【文献】
特表2014−513638(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/003719(WO,A2)
【文献】
英国特許出願公開第00884468(GB,A)
【文献】
特開昭64−002747(JP,A)
【文献】
特開2008−050597(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0124952(US,A1)
【文献】
特開昭56−058824(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02626185(EP,A1)
【文献】
国際公開第10/139077(WO,A1)
【文献】
国際公開第18/087463(WO,A1)
【文献】
米国特許第04372800(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0009213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 45/00−45/84
B29C 70/00−70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フィラメントを平面状に配列して形成されたエンドレスの粗紡糸に熱可塑性ポリマーの溶融体を含浸させて繊維リボンを形成し;
(b)含浸繊維リボン上に少なくとも1種類の接着剤を複数の領域で適用し、次に少なくとも1種類の接着剤を溶融し;
(c)繊維リボンを冷却及び硬化させ;
(d)射出金型を、接着剤の融点よりも20K低い温度以上の温度に加熱し;
(e)少なくとも1つの繊維リボンを射出金型中に導入し、接着剤で被覆された繊維リボンの領域の少なくとも1つの部分を、少なくとも1つの温度制御された射出金型の壁部と接触させ;
(f)第2の熱可塑性ポリマーを金型中に射出成形し;
(g)射出金型から強化成形物品を取り出す;
工程を含む、少なくとも1つの繊維リボンで強化された成形物品の製造方法。
【請求項2】
工程(a)における含浸中に用いる第1の熱可塑性ポリマーが、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスチレン、又は列記した材料の1以上の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(f)における第2の熱可塑性ポリマーが、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスチレン、又は列記した材料の1以上の混合物からなる群から選択される、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
含浸のために用いる第1の熱可塑性ポリマー及び/又はオーバーモールドのために用いる第2の熱可塑性ポリマーが、無機安定剤、有機安定剤、潤滑剤、消泡剤、連鎖延長添加剤、縮合触媒、光学増白剤、可塑剤、結合剤、ハロゲン含有難燃剤、ハロゲンフリー難燃剤、耐衝撃性改良剤、粒子状充填剤、染料、顔料、及び/又はこれらの混合物からなる群から選択される添加剤を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)における少なくとも1種類の接着剤の適用を、粉末として散布するか、又は懸濁液を適用するか、或いは箔状又は糸状にロール塗布することによって行う、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種類の接着剤によって、繊維リボンの表面を、部分的又は完全に、不連続の点で、又は縞状、長方形状、ダイヤモンド状、円状、楕円状のような幾何的パターンで被覆する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種類の接着剤がコポリアミド又はコポリエステルの群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
コポリアミドが、ISO−11357にしたがって70℃〜160℃の範囲の融点、及び/又はISO−1133にしたがって50〜3,000Pa・秒の160℃及び2.16kgの荷重における溶融粘度を有し;及び/又は、コポリエステルが、ISO−11357にしたがって80℃〜180℃の範囲の融点、及び/又はISO−1133にしたがって50〜1,500Pa・秒の160℃及び2.16kgの荷重における溶融粘度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種類の接着剤の被覆、層厚さ、形態、及び接着能力を接着剤の適用量によって調節する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の前又は後に繊維リボンの再成形を行う、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
工程(e)において、射出金型を、接着剤の融点よりも20K低い温度以上の温度、に加熱する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程(e)において、5〜30N/cm2の圧力を加えることによって、少なくとも1つの繊維リボンを少なくとも1つの温度制御された射出金型の壁部と接触させる、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
粗紡糸が、炭素繊維、天然繊維、ガラス繊維、無機繊維、及びアラミド繊維からなる群から選択されるエンドレス繊維から構成される、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
含浸工程(a)と工程(b)における接着剤の適用との間において、更なる装置内において少なくとも2つの繊維リボンを結合させて積層体を形成し、工程(b)において、積層体の少なくとも1つの側面上に接着剤を適用する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形によって、少なくとも1つの強化部材で強化された成形物品を製造する方法に関する。ここでは、強化部材は射出金型の壁部にしっかりと結合しているので、その後にポリマーマトリクスを射出成形した際に、強化部材は金型内において固定されている。本発明は更に、この方法にしたがって製造される強化成形物品に関する。本発明による成形物品は、自動車部品、工業用品及び消費財、並びにスポーツ器具の製造において用いられる。
【背景技術】
【0002】
金属をプラスチック材料で置き換える試みのために、その機械特性に対して益々高い要求が課されている。機械特性を改良するための1つの現在の手順は、例えばガラス又は炭素繊維のような繊維状強化材料をプラスチック材料マトリクス中に導入することである。しかしながら、この方法で強化されたプラスチック材料から製造される部品は、しばしば金属部品よりも非常に低い剛性を有する。
【0003】
成形物品を繊維リボンで選択的に強化することによって、更なる改良を達成することができる。これは、例えば成形物品上又はその中にこれらの繊維リボンを特定の形態で適用又は導入することによって達成される。プラスチック材料成形物品を製造するための最も重要な方法の1つは、射出成形プロセスによって代表される。経済的な理由のために、射出成形プロセス中において既に、1つ又は複数の繊維リボンを成形物品中又はその上に適用し、その後に別の工程を行わないことが望ましい。
【0004】
しかしながら、特にここでは、射出金型内における繊維リボンの信頼性のある再現可能な固定の問題が生起する。繊維リボンを射出金型内において固定するために、当該技術において種々の経路が既に示されている。
【0005】
DE−102011077834−A1から、射出成形又はトランスファー成形によって繊維複合体構造部品を製造する方法が公知である。ここでは、半仕上げ製品を射出金型中に挿入し、金型を閉止した後に繊維強化プラスチック材料を射出する。ここでは、金型内における半仕上げ製品の固定位置を締着部材によって確保している。
【0006】
部分的にエンドレス繊維で強化された射出成形部品を製造するための他の方法が、DE−102007037680−A1に記載されている。ここでは特別な金型の形状が用いられており、これによって金型中に針状物を導入することができる。これらの針状物によって、熱可塑性材料を射出する前に、エンドレス繊維半仕上げ生成物を金型内において位置づけている。
【0007】
DE−102011120986−A1においては、その上に成形された構造体及び/又は機能構造体を有する繊維複合体の中空形状部品を製造する射出成形法が記載されている。ここでは第1に、コアを第1の金型中に注入し、次にDuroplastic中で飽和させた繊維材料で被覆する。第2の金型内において、この被覆されたコアを少なくとも部分的に硬化させ、その上に機能構造体又は成形構造体を成形する。金型から中空構造体を取り出した後、コアを少なくともその融点に加熱して、中空構造体から溶融除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】DE−102011077834−A1
【特許文献2】DE−102007037680−A1
【特許文献3】DE−102011120986−A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここから始まり、本発明の目的は、強化部材の正確な固定を可能にし、それによって良好な機械特性を有する成形物品を可能にする強化成形物品の製造方法を提供することであった。正確な固定とは、強化部材が射出成形プロセスによって、その当初の位置から2mm以下、好ましくは1mm以下しか変位しないことであると理解される。更に、本発明の目的は、背景技術において記載したように、金型の改造又は固定インサートの複雑さを伴わずに強化部材の正確な固定を生起させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1の特徴による強化成形物品の製造方法、並びにそれに相応して請求項16の特徴による強化成形物品によって達成される。請求項17においては、本発明にしたがう使用が示されている。更なる従属請求項は、更なる有利な態様を列記している。
【0011】
本発明によれば、以下の:
(a)エンドレスの平坦な粗紡糸に第1の熱可塑性ポリマーの溶融体を含侵させて繊維リボンを形成し;
(b)繊維リボン上に少なくとも1種類の接着剤を複数の領域で適用し、次に少なくとも1種類の接着剤を溶融し;
(c)繊維リボンを冷却及び硬化させ;
(d)射出金型を、接着剤の融点よりも20K低い温度以上の温度に加熱し;
(e)少なくとも1つの繊維リボンを射出金型中に導入し、接着剤で被覆された繊維リボンの領域の少なくとも1つの部分を、少なくとも1つの温度制御された射出金型の壁部と接触させ;
(f)第2の熱可塑性ポリマーを金型中に射出成形し;
(g)少なくとも1つの繊維リボンで強化された成形物品を射出金型から取り出す;
工程を有する、少なくとも1つの繊維リボンで強化された成形物品の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、繊維リボンは成形物品のための強化部材として働く。
【0013】
ここでは、工程(a)における含侵中に用いる第1の熱可塑性ポリマーは、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスチレン、又は列記したポリマーの1以上の混合物からなる群から選択することが好ましい。
【0014】
更に、工程(f)における第2の熱可塑性ポリマーは、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリスチレン、又は列記したポリマーの1以上の混合物からなる群から選択することが好ましい。
【0015】
好ましくは、含侵のために用いる第1の熱可塑性ポリマー及び/又はオーバーモールドのために用いる第2の熱可塑性ポリマーは、添加剤を含む。これらは、好ましくは、無機安定剤、有機安定剤、潤滑剤、消泡剤、連鎖延長添加剤、縮合触媒、光学増白剤、可塑剤、結合剤、ハロゲン含有難燃剤、ハロゲンフリー難燃剤、耐衝撃性改良剤、粒子状充填剤、染料、顔料、及び/又はこれらの混合物からなる群から選択される。
【0016】
添加剤の場合には、繊維状充填剤は排除される。
【0017】
第2の熱可塑性ポリマーは、好ましい態様においては繊維強化され、好ましくは平坦又は丸い断面を有する炭素繊維又はガラス繊維で強化される。ここでは、0.1〜50mmの長さ及び5〜40μmの直径を有する繊維が好ましい。強化材料の割合は、それぞれ第2のプラスチック材料マトリクス及び場合によって存在する更なる添加剤の合計質量に対して、炭素繊維に関しては3〜50重量%、好ましくは5〜40重量%であり、ガラス繊維に関しては5〜75重量%、好ましくは15〜65重量%、特に好ましくは30〜50重量%である。
【0018】
しかしながら、非強化形態の第2の熱可塑性ポリマーを用いることも可能である。
【0019】
添加剤の割合は、第1及び/又は第2のポリマーの合計質量に対して好ましくは0.1〜20重量%、特に好ましくは0.5〜10重量%である。
【0020】
含侵のために用いる第1の熱可塑性ポリマー及び/又はオーバーモールドのために用いる第2の熱可塑性ポリマーは、それぞれアモルファス又は部分結晶質ポリマーであってよい。これらのポリマーは、ISO−11357の「ハーフステップハイト(half-step-height)」法にしたがって測定して30〜350℃の範囲、好ましくは35〜230℃の範囲、特に好ましくは40〜200℃の範囲のガラス転移温度を有する。
【0021】
20K/分の加熱速度におけるISO−11357にしたがう動的示差走査熱量測定(DSC)においては、アモルファスポリマーは最高で5J/g、好ましくは最高で3J/g、特に好ましくは0〜1J/gの融解熱を示す。
【0022】
アモルファスポリマーは、それらのアモルファス性のために融点を示さない。
【0023】
含侵のために用いる第1の熱可塑性ポリマー及び/又はオーバーモールドのために用いる第2の熱可塑性ポリマーが部分結晶質ポリマーである場合には、それは、ピーク最大値を融点とするISO−11357にしたがって測定して50〜420℃、好ましくは100〜350℃、特に好ましくは170〜300℃の融点を有する。
【0024】
熱可塑性の第1及び/又は第2のポリマーとしては、好ましくはポリアミドを用いる。ポリアミドは、ここでは好ましくは、脂肪族又は脂環式ジアミンと芳香族又は脂肪族ジカルボン酸から、及び/又はラクタムから得られる。特に好ましくは、脂環式C
6〜C
17ジアミン及び/又は脂肪族C
4〜C
12ジアミンと、脂肪族C
4〜C
20ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸から、及び/又はラクタムから形成されるホモ及びコポリアミドを用いる。ジカルボン酸に関して特に好ましいのは、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン二酸、1,3−及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、エイコサン二酸、ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、及びイソフタル酸である。
【0025】
また、上記記載のジアミンとジカルボン酸、及び/又は4〜15個の炭素原子を有するラクタム、及び/又は4〜15個の炭素原子を有するα,ω−アミノ酸から形成されるポリアミドも好ましい。ジアミンに関して特に好ましいのは、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、MACM、MXD、PACM、PXD、及びTMACM(MACMは3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタンを表し、MXDはメタキシリレンジアミンを表し、PACMは4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタンを表し、PXDはパラキシレンジアミンを表し、TMACMは3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタンを表す)である。
【0026】
メタキシリレンジアミン及び/又はヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸及び/又はイソフタル酸から形成されるポリアミドが更に好ましい。
【0027】
好ましいアモルファスポリアミドは、PA−6I、PA−6I/6T、PA−6I/6T/6N、PA−MXDI/6I、PA−MXDI/XDT/6I/6T、PA−MXDI/12I、PA−MXDI、PA−MACM10、PA−MACM12、PA−MACM14、PA−MACM18、PA−NDT/INDT、PA−TMDC12、PA−MACMI/12、PA−MACMT/12、PA−MACMI/MACM12、PA−MACMT/MACM12、PA−MACMI/MACMN、PA−MACMT/MACMN、PA−MACMI/MACM36、PA−MACMT/MACM36、PA−MACMI/MACMT/12、PA−6I/MACMI/12、PA−6I/6T/MACMI/MACMT、PA−6I/6T/MACMI/MACMT/12、PA−MACM6/11、PA−6I/6T/MACMI/MACMT/MACM12/612、PA−MACMI/MACMT/MACM12/12、PA−MACMI/MACMT/MACM12、PA−6I/6T/6N/MACMI/MACMT/MACMN、PA−MACM10/10、及びその混合物又はコポリマー(MACMは、全モノマーのモル割合の合計100モル%に対して最大で25モル%以下のPACMによって置き換えられていてもよく、及び/又はラウリンラクタムは全体的又は部分的にカプロラクタムによって置き換えられていてもよい)からなる群から選択される。
【0028】
特に好ましくは、アモルファスポリアミドは、PA−MACM12、PA−MACM14、PA−MACM12/PACM12、PA−MACMI/12/PA−MACMI/MACMT/12、PA−6I/6T/MACMI/MACMT/12、PA−6I/6T/MACMI/MACMT/PACMI/PACMT/12、PA−MACMI/MACMT/MACM12、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0029】
PA−6、PA−66、PA−69、PA−610、PA−612、PA−11、PA−12、PA−1010、PA−1012、PA−1210、PA−1212、PA−PACM12、PA−6/PACMT、及びこれらの混合物からなる群から選択される部分結晶質ポリアミドが更に好ましい。PA−12、PA−PACM12、又はPA−66とPA−6I/6Tの混合物(PA−6I/6Tは67/33の重量比を有する)が特に好ましい。
【0030】
ポリアミド及びそのモノマーに関して用いる表記及び略号は、ISO標準規格1874−1:1992に対応する。例えば、PA−NDT/INDTという表記は、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、及びテレフタル酸から形成されるポリアミドを表す。
【0031】
更なる好ましい態様においては、含侵のために用いる第1のポリマーはオーバーモールドのために用いる第2のポリマーと同じであるが、添加剤はタイプ及び量を相違させることができる。
【0032】
粗紡糸は、一方向配列のフィラメントとも呼ばれるエンドレス繊維、特に、炭素、天然、ガラス、無機、又はアラミド繊維、好ましくは個々のフィラメントが平坦又は丸い断面を有する炭素又はガラス繊維、特に好ましくは炭素繊維から構成される。粗紡糸の処理中、即ち展開装置を通して粗紡糸を誘導している間においては、フィラメントは平面状に配列されているので、含侵された平坦な粗紡糸が形成され、これにより繊維リボンが生成する。
【0033】
第1の熱可塑性ポリマーによって平坦な粗紡糸を含侵した後において、繊維リボン中における繊維の割合は、繊維リボンの全質量に対して、好ましくは1〜65重量%、特に好ましくは5〜50重量%、特に好ましくは10〜40重量%である。
【0034】
工程(a)における平坦な粗紡糸の含侵は、エンドレス片として存在する平坦な粗紡糸を、その中で加熱され溶融した第1の熱可塑性ポリマーが供給される加熱された含侵装置を通して引き出すような形態で行う。含侵の終了時において、含侵された平坦な粗紡糸を、長方形のノズルを通して誘導する。
【0035】
好ましい態様においては、工程(b)における少なくとも1種類の接着剤の適用は、粉末として散布するか、又は懸濁液を適用するか、或いは箔状又は糸状にロール塗布することによって行う。接着剤の適用を粉末として散布することによって行う場合には、80μm〜500μmの粒径範囲を有する粉末粒が好ましく、100μm〜200μmが特に好ましい。
【0036】
少なくとも1種類の接着剤の被覆、層厚さ、形態、及び接着能力は、接着剤の適用量によって調節することができる。ここでは、接着剤の量は、好ましくは10〜50g/m
2、特に好ましくは15〜30g/m
2の範囲である。
【0037】
少なくとも1種類の接着剤によって、繊維リボンの表面を、部分的又は完全に、不連続の点で、又は縞状、長方形状、ダイヤモンド状、円状、楕円状のような幾何的パターンで、或いは統計的分布の領域で被覆することが更に可能である。これは、例えば不連続な計量点を有するか、計量点と繊維リボンとの間に異なる篩インサートを有する構造化再成形ローラーによって形成することができる。
【0038】
好ましい態様においては、接着剤は繊維リボンの1つの側面上のみに適用する。更なる好ましい態様においては、接着剤は少なくとも1つの表面、例えば2つ、3つ、又は4つの表面上に適用する。
【0039】
好ましい態様においては、接着剤は繊維リボンに供給して、接着剤を含侵装置によって利用される繊維リボンの熱によって溶融開始させることができるようにする。
【0040】
更なる好ましい態様においては、更なる熱処理によって接着剤の溶融開始を生起又は支援することも可能である。繊維リボンの熱処理は、好ましくは高温空気、高温ガス、特に窒素、超音波、レーザー、及び/又は放射線によって行うことができる。ここでは赤外放射線が好ましい。
【0041】
更に、接着剤は、接着剤の融点範囲よりも20K低い温度以上の温度に加熱した場合にのみ、好ましくは融点範囲内の温度に加熱した場合にのみ接着効果を発現することが好ましい。
【0042】
好ましくは、少なくとも1種類の接着剤は、コポリアミド又はコポリエステルの群から選択される。ここでは、特に、ピーク最大値を融点とするISO−11357にしたがって測定して70〜160℃、好ましくは90〜140の範囲の融点を有するコポリアミド、及びピーク最大値を融点とするISO−11357にしたがって測定して80℃〜180℃、好ましくは100℃〜150℃の融点を有するコポリエステルが含まれる。
【0043】
接着剤として用いるコポリアミドは、好ましくは、ISO−1133にしたがって50〜3,000Pa・秒、好ましくは200〜2,000Pa・秒の160℃及び2.16kgの荷重における溶融粘度を有する。接着剤として用いるコポリエステルは、好ましくは、ISO−1133にしたがって50〜1,500Pa・秒、好ましくは100〜1,000Pa・秒の160℃及び2.16kgの荷重における溶融粘度を有する。
【0044】
好ましくは、接着剤として用いるコポリアミドは、20〜80モル%のカプロラクタム、0〜60モル%のラウリンラクタム、10〜60モル%の脂肪族ジカルボン酸、0〜30モル%の芳香族ジカルボン酸、及び少なくとも1種類のジアミンから形成され、カプロラクタム、ラウリンラクタム、脂肪族及び芳香族ジカルボン酸の総計は、合計して100モル%になり、少なくとも1種類のジアミンは、ジカルボン酸の総計に対して等モル量で用いる。
【0045】
好ましくは、接着剤のために用いるコポリエステルは、55〜95モル%の芳香族ジカルボン酸、5〜45モル%の脂肪族ジカルボン酸、及び100モル%の少なくとも1種類の脂肪族ジオールから形成され、ジカルボン酸のモル割合は合計して100モル%になる。
【0046】
接着剤には、第1及び/又は第2のポリマーに関して言及した1種類以上の添加剤を含ませることができる。
【0047】
強化部材として少なくとも1つの繊維リボンで強化された成形物品の製造方法の好ましい態様においては、工程(b)の前又は後に、工程(a)の後に存在する繊維リボンの厚さを減少させることができるように、1対の再成形ローラー又は成形後ノズルによって繊維リボンの再成形を行う。この更なる再成形によって、特に薄い繊維リボン、即ち0.25mmより小さい厚さを有する繊維リボンが製造可能である。1対の再成形ローラーによって再成形する場合には、成形ローラーは、1つの軸内において垂直方向で上下に配置されている。下部の成形ローラーは、回転可能に取り付けられているシャフト上に固定して取り付けられている。上部の成形ローラーは、シャフト上に回転可能に取り付けられている。空気圧シリンダーを用いて、上部の再成形ローラーを、規定圧力(0〜10bar)で下部の再成形ローラー上に押し付けることができる。繊維リボンが再成形ローラーの間に保持されるように、下部シャフト上に、下部の再成形ローラーに対して平行に取り付けられていて、再成形ローラー又は繊維リボンの横方向の誘導を確保する2つの協働駆動ガイドローラーが配されている。成形後ノズルによる再成形の間においては、成形後ノズルは加熱されており、製造する繊維リボンと同等の寸法を有する。
【0048】
繊維リボンを冷却及び硬化させた後においては、これは0.02〜5mm、好ましくは0.15〜4mm、特に好ましくは0.2〜2mm、非常に特に好ましくは0.25〜1.0mmの厚さを有する。繊維リボンの幅は、好ましくは1〜40mm、好ましくは2〜30mm、特に好ましくは5〜20mmである。
【0049】
更に、繊維リボンを冷却及び硬化させた後に、これを部分片に分割することができることが好ましい。これは、特に切断、レーザー処理、圧搾、鋸断、水噴射、屈曲、又はこれらの手段の組合せによって行うことができる。
【0050】
しかしながら、更なる態様においては、まず分割工程を実施しないで、冷却及び硬化させた後に繊維リボンをエンドレスバンドとしてボビン上に巻き取ることもできる。この場合には、エンドレスバンドの分割は、更なる工程において、強化する成形物品に関して好適な長さで行う。
【0051】
更なる好ましい態様においては、エンドレスバンドとして存在する繊維リボンを射出金型に連続的に供給し、繊維リボンを射出金型中に複数の領域で導入し、射出成形プロセスの後にのみエンドレスバンドの分割を行う。
【0052】
射出金型中への繊維リボンの導入は、手動又は自動の両方で行うことができる。この目的のために、把持部、真空ノズル、又はピンを有する取扱いシステムを用いることができる。この取扱いシステムは、自動で、及び/又はコンピューター制御によって制御することができる。
【0053】
更なる好ましい態様においては、工程(d)において、射出金型を、接着剤の融点よりも20K低い温度以上の温度、特に50〜200℃、好ましくは70〜180℃、特に好ましくは90〜160℃に加熱する。ここでは、接着剤と第2の熱可塑性ポリマーの組合せは、言及した金型温度において加工可能なように選択しなければならない。
【0054】
工程(e)においては、5〜30N/cm
2、好ましくは10〜20N/cm
2の圧力を加えることによって、少なくとも1つの繊維リボンを少なくとも1つの温度制御された射出金型の壁部と接触させることができる。
【0055】
繊維リボンの接着は、好ましくは構造化を行っていない金型の壁部上で行う。しかしながら、金型の壁部の接着を行う領域において、轍、溝、凹み、錐体などの形態の凹部のパターンの表面構造化を与えることも可能である。
【0056】
更なる態様においては、含侵工程(a)と工程(b)における接着剤の適用との間に更なる工程を与えることができ、この更なる工程においては、少なくとも2つの繊維リボンを結合させて積層体を形成する。ここでは、工程(b)において、積層工程において製造された積層体の少なくとも1つの側面の上への接着剤の適用を行う。
【0057】
本発明によれば、上記記載の方法にしたがって製造することができる強化成形物品が更に提供される。強化インサートの正確な固定に加えて、本成形物品は、最新技術において存在する解決手段を超える更なるプラスの特性を有する。而して、射出成形プロセスの完了後に成形物品の外壁上に残留する接着剤の層は、強化インサートの繊維の応力集中に対する保護を増加させる。更に、接着剤にUV安定剤を加え、それによって、その下に配置されている強化インサートのマトリクスポリマーの層を、このマトリクスポリマーそれ自体の構成成分を変化させる必要なしに分解から保護することができる。更に、金型表面の好適な外形又は溝切りを選択することによって、成形物品上に残留している接着剤の層に構造化を与えることができる。したがって、強化インサートの位置においても特別な審美的又は触覚的な外観を与えることができ、これは他の方法では更なる表面機械加工工程が必要である。
【0058】
上記に記載の強化成形物品は、自動車部品、特にシャーシ部品、構造部品、アームレスト、シートシェル、接続支柱、エンジンマウンティング、ファン、薄板材、内装部品、外装部品、変速装置部品、及び車輪リム;並びに工業用品及び消費財、特にレバー、加圧容器、工具部品、家庭用器具、衛生製品用部品、家具類、庭用器具、スポーツ器具、特に靴、弓、アイスピック、ラケット、自転車フレーム、ペダル、ヘルメット、及びプロテクターを製造するために用いられる。
【0059】
本発明による主題は以下の実施例を参照してより詳細に説明するように拡張され、ここに示される具体的な態様に本主題を限定することは望まない。
【実施例】
【0060】
用いる材料:
繊維リボン:
用いる繊維リボンを製造するために、7μmのフィラメント直径及び1%のエポキシサイジングを有するToray社のエンドレス炭素繊維CF ROVING T700SC-12K-50Cを用いた。
【0061】
含侵のために用いた第1のポリマーは、62重量%のポリアミド66、32重量%のポリアミド6I/6T(67/33)、4重量%の耐衝撃性改良剤、及び2重量%の更なる添加剤を含んでいた。
【0062】
繊維リボンは次の特性を有していた。
【0063】
・伸び弾性率:49,400MPa;
・破断応力:750MPa;
・破断伸び:1.5%;
・繊維割合(質量):30%;
・繊維割合(体積):21%;
・密度:1.28g/cm
3;
・融点:260℃。
【0064】
この試験に関しては、次の3つの寸法(長さ×幅×厚さ(mm)):50×10×0.35、及び100×10×0.35、並びに160×10×0.35;を有する繊維リボンを製造した。
【0065】
接着剤:
接着剤Aは、37.6モル%のラクタム6、50.2モル%のラクタム12、12.2モル%のアジピン酸、12.2モル%のヘキサメチレンジアミンを含んでいた。その融点は125℃であった。
【0066】
接着剤Bは、60.0モル%のラクタム6、10.0モル%のアジピン酸、20.0モル%のセバシン酸、10.0モル%のドデカン二酸、40.0モル%のヘキサメチレンジアミンを含んでいた。その融点は110℃であった。
【0067】
第2のポリマー/射出成形ポリマー:
オーバーモールドのために用いる第2のポリマーとして、次のものを試験のために用いた。
【0068】
ポリマーC:35重量%のポリアミド66、12重量%のポリアミド6I/6T(67/33)、50重量%のガラス繊維、2重量%の耐衝撃性改良剤、及び1重量%の更なる添加剤を含む;
ポリマーD:20重量%のテレフタル酸、8重量%のイソフタル酸、20重量%のヘキサメチレンジアミン、50重量%のガラス繊維、及び2重量%の更なる添加剤を含む;
試験片の製造/射出成形条件:
試験の試験片は、Arburg社の射出成形機Allrounder 370S上で射出成形した。スクリュー直径は20mmであり、スクリューノズルを有していた。型締め圧力は最大で700kNであった。標準的な3区画スクリューの可塑化を行った。
【0069】
次の射出成形パラメーターを設定した。
【0070】
【表1】
【0071】
試験:
DIN−EN−ISO527にしたがう引張試験:
引張−伸び機(万能試験機Z100、製造者:Zwick/Roell)を用いて、DIN−EN−ISO527にしたがって試験片の引張り強さを測定した。射出成形試験片を用いたクランプの初期間隔は115mmであった。横方向の速度は5mm/分であった。引張伸びの測定は2つの把持部を用いて行った。用いた試験片はISO試験片標準試料のISO/CD−3167、タイプA1、170×20/10×4mmであった。その中に導入した繊維リボンの寸法は、160×10×0.35mm(L×W×H)であった。
【0072】
引張剪断試験:
DIN−53283にしたがって、温度制御された表面上で接着強度の増加に関係する引張剪断試験を行った。ここでは、接着表面([L×W]50×10/100×10mm)、接着剤のタイプ(接着剤A、接着剤B)、接着剤の量(15g/m
2、30g/m
2、40g/m
2)、及び表面温度(120℃/140℃)を変化させた。引き出し速度は100mm/分であった。
【0073】
変位の測定:
Leica M420マクロスコープ及びIM 100画像処理ソフトウエアを用いて変位の測定を行った。ここでは、繊維リボンを金型の射出側上のキャビティ中に接着した。変位を測定するために、射出ピンをゼロラインに関する参照点として設定した。射出成形プロセスの後、引張試験片上の射出ピンの凹みに対する繊維リボンの変位を測定した。
【0074】
【表1-1】
【0075】
本発明による実施例は、接着剤によって導入された強化インサートによって、高い溶融体圧力にもかかわらず金型内でそれらの正確な配置が維持されることを示す。
【0076】
したがって、本発明による実施例は、溶融体の影響下でそれらの位置が変位し、もはや力の流れを正しく伝達することができないCE2における非固定インサートを有する成形物品よりも高い引張り強さを有する。更に、本発明による実施例の達成される引張り強さは、CE1における非強化成形物品よりも高い。
【0077】
更に、実施例E1〜E7及びE9〜11は、強化インサートの変位が大部分はμm範囲までであり、したがって最も正確な強化が可能であることを示す。更に、実施例E1〜E11は、種々の境界条件下における接着剤による固定の好適性を示す。実施例E1〜E7は、約30g/m
2の接着剤の適度な量によって最も低い変位値を達成することができることを示す。実施例E9〜E10は、両側面上へ接着剤を適用した場合においても、高い引張り強さが達成され、したがって成形物品は層間剥離しないことを示す。