(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792353
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】油中水型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/06 20060101AFI20201116BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20201116BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20201116BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20201116BHJP
A61K 8/891 20060101ALI20201116BHJP
A61K 8/89 20060101ALI20201116BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20201116BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20201116BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K8/86
A61K8/55
A61K8/25
A61K8/891
A61K8/89
A61K8/73
A61Q1/10
A61Q19/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-113307(P2016-113307)
(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公開番号】特開2017-78055(P2017-78055A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-205276(P2015-205276)
(32)【優先日】2015年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】太田 聡子
【審査官】
駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/132914(WO,A1)
【文献】
特開2010−006781(JP,A)
【文献】
特開2010−001259(JP,A)
【文献】
特開平10−139625(JP,A)
【文献】
特開2002−193741(JP,A)
【文献】
特開2008−247833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(E)を含有する油中水型乳化組成物であって、B型粘度計による25℃での測定粘度が20000〜50000mP・sを示すことを特徴とする油中水型乳化組成物。
(A)親油性界面活性剤
(B)レシチン0.3〜1質量%
(C)油性ゲル化剤
(D)高重合シリコーンであって、毛管法により測定したときの動粘度が20mm2/sを示すジメチルシロキサンに、20質量%の比率で混合分散させて回転法で粘度測定するとき、40000〜50000mPa・sを示す高重合シリコーン0.1〜0.5質量%
(E)油剤
【請求項2】
(A)親油性界面活性剤が多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エ
ステルである請求項1に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項3】
(C)油性ゲル化剤が有機変性粘土鉱物である請求項1又は2に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項4】
有機変性粘土鉱物がジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライトである請求項1〜3のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【請求項5】
さらに(C)油性ゲル化剤としてイヌリン脂肪酸エステル及び/又はデキストリン脂肪酸エステルを含む請求項1〜4のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【請求項6】
(E)油剤がシリコーン油、揮発性シリコーン油からなる群から一種以上、エステル油、油脂、炭化水素油からなる群から一種以上を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【請求項7】
目元用クリームである請求項1〜6のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性と使用感に優れた油中水型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルは、高温および低温安定性に優れた流動性のある低粘度乳化組成物の製造に適していることが知られている(非特許文献1:FRAGRANCE JOURNAL 1999年9月)。多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルはそれ自身が軽い感触でべたついたりしないので、特に、とかく油っぽく重たい使用感が敬遠されがちな化粧料用の油中水型乳化組成物の乳化剤として広く使用されている。特許文献1(特許第4146979号公報)には、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを含有する多層乳化剤型の皮膚外用剤が開示されている。
一般に、油中水型乳化組成物は、分散する水相粒子が電荷を持たないため、乳化粒子同士の静電反発によって合一を防止させ、安定化を図ることができない。このため、乳化組成物中の沈殿や分離発生の問題に対しては、外相(油相)を増粘剤により増粘させる、あるいは複数の乳化剤の併用により界面を強化する(粘度の増加はあまり期待できない)等の方法が採用されている。
【0003】
増粘剤を配合した例として、ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルとトリアシルグリセリン1〜50質量%に、増粘ゲル化剤であるフラクトオリゴ糖脂肪酸エステルを配合した油剤と、水を含む油中水型乳化組成物が提案されている(特許文献2:特許第4676634号公報)。しかしながら、この乳化組成物は、べたつき感が残るなど使用感に問題が残っている。
また、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルに、異なるタイプの乳化剤としてリン脂質と、油性ゲル化剤である(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを併用する油中水型乳化化粧料が提案されている(特許文献3:特許第5572356号公報)。この乳化化粧料は、一部使用感の改善が見られるが、化粧料として肌なじみ感やハリ感が十分でない。さらに、高温での安定性は不明である。
また、油性成分と多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルと特定のシリコーン油と、油性ゲル化剤である有機変性粘土鉱物を含有する油中水型乳化化
粧料も提案されている(特許文献4:特許第3993505号公報)。この乳化化粧料は、50℃で安定であったことが記載されている。しかし、クリーム剤型での離油については、何も記載されていないし、使用感も十分ではない。
また、先に示した非特許文献1には、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルの配合を過剰にし、内水相の体積率を高くした(90%)場合に油中水型乳化組成物の粘度が増大することが記載されている。しかしながら、高内水相の油中水型乳化組成物は、独特のスプラッシュ感(塗布時に内水相が弾け出る感触)が生じ肌に自然に馴染む感覚が得られず使用感に優れた組成物とは言い難い。
【0004】
また油中水型乳化組成物の中でも、クリーム剤型の化粧料や外用剤は、チューブ容器やジャー容器に充填して販売される。しかし、粘度が高いクリーム剤型は、乳化組成物をチューブ容器やジャー容器に充填する時に空気を巻き込むことが多く、内部に空隙が生じる。このような空隙の生じたクリーム剤型を、高温下で保存する場合や、長期間保存した場合に、油相に含まれる油が分離して空隙にたまる現象(以下「離油」という)が生じる場合がある。この離油は、乳化安定性とは異なり、油相を構成する構造や組成の不安定性によるものである。空隙に生じた離油は、不良品として認識されやすく設計品質上問題となる。
【0005】
油中水型乳化クリーム剤の基本組成は、油剤、乳化剤、油性ゲル化剤、水である。化粧料において油性ゲル化剤は組成物の粘度を高める目的だけでなく、使用感改善のためにも配合される。目元用クリームといった局所的に使用する化粧料において、「ハリ感」や「肌なじみ感」、「厚み感」などの使用感は重要な設計項目である。その使用感を実感させるために、油性ゲル化剤や乳化剤、油剤の組み合わせは複雑となる。
こうした各成分の相溶性が良くない時に、上記の離油が生じる。また、油相中では、様々な油剤が油性ゲル化剤とともに存在している。この時、油剤が油性ゲル化剤の形成するネットワーク構造の網目の中に保持されていれば、組成物は安定であり品質上の問題は生じない。しかし、高温下や長期間保存により、油性ゲル化剤の粒子や分子が互いに引き合うことでネットワーク構造の網目が乱れ、網目の間隔が密となると、やがて油剤をネットワーク構造の網目中に保持できなくなる。そして、保持できなくなった油剤が油相の網目構造の外に押し出されて「離油」が生じる。したがって、品質設計上、化粧料の基本的な使用感である「のびのなめらかさ感」や「べたつきのなさ感」も兼ね備えつつ、「ハリ感」や「肌なじみ感」、「厚み感」を実現するために、油性ゲル化剤、シリコーンや炭化水素油といった異なる油相成分を複数組み合わせて、複雑な使用感を実現しようとすると、油相内のバランスが崩れて「離油」が生じやすくなる。特に、局所用油中水型乳化クリーム剤型に求められる好ましい使用感と「離油」の抑制は、化粧料の処方設計技術者にとって難しい課題であった。
このような離油を解決するための先行技術としては、例えば特許文献5(特開2007−153812号公報)、特許文献6(特開2013−107827号公報)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4146979号公報
【特許文献2】特許第4676634号公報
【特許文献3】特許第5572356号公報
【特許文献4】特許第3993505号公報
【特許文献5】特開2007−153812号公報
【特許文献6】特開2013−107827号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】FRAGRANCE JOURNAL 1999年9月 第83〜86頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人は、従来から多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いて、使用感と安定性に優れた油中水型乳化組成物の開発を継続して行っている。特に本発明者は、目元用クリームといった局所的に使用する化粧料として、「のびのなめらかさ感」や「べたつきのなさ感」という好ましい基本的な使用感を有しながら、さらに目元用クリームとして必須の使用感である「ハリ感」や「肌なじみ感」、「厚み感」を兼ね備えた油中水型クリーム剤型の乳化組成物の研究開発を行っている。この過程で、本発明者は、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルと、レシチンとゲル化剤と高重合シリコーンとを組み合わせた油中水型乳化組成物が、充填した容器内で空隙が生じても離油を生じず、保存安定性、使用感ともに優れた化粧料になることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、乳化安定性が高く、しかも化粧料としての基本的な使用感に優れ、さらに「ハリ感」や「肌なじみ感」、「厚み感」を兼ね備え、離油の生じない油中水型乳化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)(A)〜(E)を含有する
油中水型乳化組成物であって、B型粘度計による25℃での測定粘度が20000〜50000mP・sを示すことを特徴とする油中水型乳化組成物。
(A)親油性界面活性剤
(B)レシチン
0.3〜1質量%
(C)油性ゲル化剤
(D)高重合シリコーン
であって、毛管法により測定したときの動粘度が20mm2/sを示すジメチルシロキサンに、20質量%の比率で混合分散させて回転法で粘度測定するとき、40000〜50000mPa・sを示す高重合シリコーン
(E)油剤
(2)(A)親油性界面活性剤が多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルである(1)に記載の油中水型乳化組成物。
(3)(C)油性ゲル化剤が有機変性粘土鉱物である(1)
又は(2)に記載の油中水型乳化組成物。
(4)有機変性粘土鉱物がジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライトである
(1)〜(3)のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
(5)さらに(C)油性ゲル化剤としてイヌリン脂肪酸エステル及び/又はデキストリン脂肪酸エステルを含む
(1)〜(4)のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
(6)(E)油剤がシリコーン油、揮発性シリコーン油からなる群から一種以上、エステル油、油脂、炭化水素油からなる群から一種以上を含むことを特徴とする(1)〜
(5)のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
(7)目元用クリームである(1)〜
(6)のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、乳化安定性が高く、しかも化粧料としての基本的な使用感に優れ、さらに「ハリ感」や「肌なじみ感」、「厚み感」を兼ね備え、さらに離油の生じない、油中水型乳化組成物となる。さらに本発明の組成物は、−20℃と室温(25℃)のサイクル試験(12時間サイクル2回)で分離せず、長期保管(50℃に1か月間保存)しても空隙に離油が生じない組成物である。また空隙に離油が発生しないため、空隙の発生する危険性のあるチューブ容器に充填して提供することができる。さらにまた、本発明の構成で得られる油中水型乳化組成物は、「のびがなめらか」で、「べたつきがなく」、「ハリ感」、「肌なじみ感」、「厚み感」といった目元用クリームに必要とされる使用感が優れているので、目元などの局所的に使用する化粧料として特に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願は、(A)親油性界面活性剤、(B)レシチン、(C)油性ゲル化剤、(D)高重合シリコーン、(E)油剤、を含有する油中水型乳化組成物に係る発明である。
以下に、本発明の構成成分について説明する。
【0012】
必須成分
〔(A):親油性界面活性剤〕
本発明の組成物は、油中水型乳化組成物であり、親油性界面活性剤を含むことが必要である。親油性界面活性剤は、使用感の面から多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いることが好ましい。
本発明に用いる多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルは、ポリエチレングリコール等の多価アルコールをアルカリ存在下、ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)と塩化チオニル等のハロゲン化剤を反応させて調製した酸クロライドを反応させることにより得ることができる。
多価アルコ−ルとしては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが好ましく例示できる。その中でも、ポリエチレングリコールが特に好ましい。この場合のポリエチレングリコールは、平均分子量で400〜6000が好ましい。一方、疎水基となるポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)は、平均分子量1000〜3000であることが好ましい。
ポリエチレングリコールのジ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルは、INCI名がジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30と収載されているものが好ましく、市販品としては、ユニケマ社製のアラセルP−135、クローダジャパン(株)製のシスロールDPHSがある。
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを配合する場合、その配合量は、0.1〜5質量%が好ましく、特に好ましくは1〜5質量%である。0.1質量%に満たないと、乳化が不十分になる恐れがある。5質量%を超えると、べたついた使用感になる恐れがある。
【0013】
〔(B):レシチン〕
本発明に用いるレシチンは、卵黄レシチンや大豆レシチン等の天然のリン脂質、レシチン中の不飽和炭素鎖を水素添加により飽和結合に変えた水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン等が使用できる。これらの水素添加物を本明細書においては、水素添加レシチン(水添レシチン)と総称する。本発明においては水添レシチンを用いることが好ましい。本発明においてレシチンは0.1〜1質量%配合することが好ましい。
【0014】
〔(C):油性ゲル化剤〕
本発明で用いる油性ゲル化剤は、有機変性粘土鉱物、デキストリン脂肪酸エステル、イヌリン脂肪酸エステル、微粒子シリカ、水添ひまし油等を例示できる。その中でも、有機変性粘土鉱物を配合することが好ましい。そして有機変性粘度鉱物に、さらに、デキストリン脂肪酸エステルやイヌリン脂肪酸エステルを併用すると、「厚み感」や、「のびのなめらかさ感」、「べたつきのなさ感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」が向上するので好ましい。有機変性粘土鉱物は、粘土鉱物を第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で変性したものである。例えば、有機変性ベントナイト、有機変性ヘクトライトなどを用いることができる。より具体的には、ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト、ジメチルアルキルアンモニウムヘクトライト、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理ケイ酸アルミニウムマグネシウム等が挙げられる。本発明では、有機変性粘土鉱物を含むプレミックス品を有機変性粘度鉱物として使用してもよい。例えば、日本サーファクタント工業(株)製のニコムルスWO等の、ジステアリルジモニウムヘクトライト12.5質量%、PEG−10ジメチコン37.5質量%、シクロペンタシロキサン49.95質量%、トコフェロール0.05質量%から成る組成物を例示できる。本発明の組成物には、有機変性粘土鉱物として、0.05〜2質量%、より好ましくは0.1〜1質量%配合することが好ましい。
また、本発明では、有機変性粘土鉱物に加えて、さらに、イヌリン脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステルのいずれか又は両方を配合することが好ましい。イヌリン脂肪酸エステルおよび/又はデキストリン脂肪酸エステルを組成物にさらに配合すると、塗布するときに感じられる、「のびのなめらかさ感」や「厚み感」といった使用感がより優れたものとなる。イヌリン脂肪酸エステルとして、ステアリン酸イヌリンが例示できる。ステアリン酸イヌリンは、イヌリンにステアリン酸がエステル結合したものである。市販品としては、千葉製粉(株)製のレオパールISL2が例示できる。また、デキストリン脂肪酸エステルとして、パルミチン酸デキストリンが例示できる。パルミチン酸デキストリンは、デキストリンとパルミチン酸がエステル結合したものである。市販品としては、千葉製粉(株)製のレオパールKLが例示できる。イヌリン脂肪酸エステル及び/又はデキストリン脂肪酸エステルの配合量は、適宜設定すればよいが、合計量で0.1〜1質量%配合することで、「のびのなめらかさ感」や「厚み感」、「べたつきのなさ感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」の使用感がより向上するので好ましい。
【0015】
〔(D):高重合シリコーン〕
本発明で用いる高重合シリコーンとは、毛管法による動粘度20mm
2/sのジメチルポリシロキサンに、20質量%の濃度で高重合シリコーンを分散させた時、回転法による粘度が40000〜50000mPa・sとなる特性を有するシリコーンをいう。またこの高重合シリコーンの重合度は、ゲル浸透クロマトグラフィー法に基づく重量平均分子量から計算した場合、約8000を示す。
本発明においては、この高重合シリコーンを組成物当たり0.1〜0.5質量%、より好ましくは0.2〜0.4質量%含むように配合することが好ましい。このような特性を有する高重合シリコーンは、複合品として市販されており、これを使用することができる。このような市販品として、例えば、信越化学工業(株)製のMK−15Hを挙げる事ができる。MK−15Hは、重合度8000の高重合メチルポリシロキサンと毛管法で測定したときの粘度が20mm
2/sである低粘性のメチルポリシロキサンとを2:8の比率で混合したものである。このMK−15Hを用いる場合、組成物当たり0.5〜2.5質量%、より好ましくは1〜2質量%配合することが好ましい。
なお、この高重合シリコーンを含むMK−15Hは、B型粘度計を用いて25℃で測定するとき、粘度が45000mPa・sを示す。
このような高重合シリコーンを前記の多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル、レシチンと共に配合することで、本発明の油中水型乳化組成物は、「のびのなめらかさ感」や「厚み感」といった優れた使用感と離油の抑制効果を併せ持つ組成物となる。
毛管法による動粘度20mm
2/sのジメチルポリシロキサンに、20質量%の濃度で高重合シリコーンを分散させた時の高重合シリコーンの粘度が、B型粘度計で測定したとき25℃で40000mPa・s未満の場合や50000mPa・sを超える場合は、空隙に離油が生じるため好ましくない。
【0016】
〔(E):油剤〕
本発明に使用可能な油剤は、エステル油、油脂、炭化水素油、シリコ−ン油、揮発性シリコーン油などを例示できる。液状油若しくはペースト状油であることが好ましい。
エステル油としては、例えば、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3−ブチレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸1,3−ブチレングリコール、ジイソノナン酸
ジプロピレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル、ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)等が挙げられる。
油脂としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油等が挙げられる。
炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン等が挙げられる。
シリコ−ン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。揮発性シリコーン油としては、デカメチルシクロペンタシロキサン、シクロペンタシロキサン等が挙げられる。前記の高重合シリコーンを含む組成物をこれらに代えて配合しても良い。
特に、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、スクワラン、イソステアリン酸イソステアリル、パルミチン酸エチルヘキシル、メチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサン、シクロペンタシロキサン、オリーブ油、ホホバ油、ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)を組み合わせて用いることが使用感の観点から好ましい。本発明における油剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは組成物に対し20〜50質量%である。また、伸びの良さ(「のびのなめらかさ感」)と「肌なじみ感」を実現させるためには、油剤総量に対し、シリコーン油、揮発性シリコーン油からなる群から選択した油剤を40〜60質量%となるように配合すると好ましい。エステル油、油脂、炭化水素油はしっとりとした感触を付与できるので、油剤総量に対し、60〜40質量%となるように配合すると好ましい。
【0017】
本発明の油中水型乳化組成物の粘度は、常温(25℃)で1週間保管後に、No.4ローターを備えたB型粘度計を使用し、測定温度25℃、ローター回転速度6rpm、測定開始30秒後の条件で測定するとき、20000〜50000mPa・sの範囲となることが好ましい。この粘度は、6K瓶(規格瓶)に充填したものを傾けても内容物が流れ落ちず、またチューブ容器に充填するクリームの粘度として好ましい範囲である。
【0018】
〔任意成分〕
本発明の油中水型乳化組成物には、任意成分として本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に通常用いられている成分、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、油剤、多価アルコール等の保湿剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、塩類、pH調整剤、防腐剤、アスコルビン酸誘導体、抗菌剤、キレート剤、着色剤、香料等を配合することができる。また、セラミド、植物抽出液等の美容成分を配合することができる。
【0019】
保湿剤としては、グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール等が挙げられる。
塩類としては、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
pH調製剤としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
防腐剤としては、フェノキシエタノール、パラベン等が挙げられる。
アスコルビン酸誘導体としては、L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩、L−アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム塩、2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸等が挙げられる。
セラミドとしては、セチルPGヒドロキシエチルパルミタイド、セレブロシド等が挙げられる。
【0020】
本発明の油中水型乳化組成物は、化粧料や、皮膚外用剤として医薬部外品や医薬品として使用することができる。剤型は、クリーム状剤型が特に好ましく、目元などの局所的に使用する化粧料、外用剤に適している。
【実施例】
【0021】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明の特徴と効果をさらに詳細に説明する。
表1の組成で実施例1〜6、表2の組成で比較例1〜8の油中水型乳化組成物(クリーム剤型)を調製した。
なお、表1、表2に*1〜4を付して標記した配合成分は下記のとおりである。
*1:ニコムルスWO、日本サーファクタント工業(株)製:ジステアリルジモニウムヘクトライト12.5質量%、トコフェロール0.05質量%、PEG−10ジメチコン37.5質量%、シクロペンタシロキサン49.95質量%
*2:MK−15H、信越化学工業(株)製:高重合メチルポリシロキサン(重合度8000)を20質量%の濃度で低重合メチルポリシロキサン(動粘度20mm
2/sのジメチルポリシロキサン)に分散した分散物(粘度は45000mPa・s)
*3:BY11−040 東レ・ダウコーニング(株)製:高重合ジメチルポリシロキサン(重合度2800、粘度は400万mPa・s)を15%の濃度でシクロペンタシロキサンに分散した分散物(粘度は1500mPa・s)
*4:KF−96H−100万mPa・s(信越化学工業(株)製、重合度2200)を20質量%の濃度で低粘度シリコ−ン(毛管法で測定するとき動粘度20mm
2/s相当)に分散した分散物(粘度は1700mPa・s)
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
(調製方法)
成分(A)〜(E)を、90℃に加熱して、十分に撹拌混合し、油相を調製する。水、多価アルコール等の水相成分を80℃に加熱して、十分に撹拌混合して溶解させ、水相を調製する。調整した水相を油相へ徐々に添加しながら、ホモミキサーを用いて、6000rpmで2分間撹拌して乳化し、その後、室温まで撹拌しながら冷却させ、油中水型乳化組成物を得る。
【0025】
(評価方法)
以下の評価項目について測定及び官能評価を行った。
<粘度>
得られた油中水型乳化組成物を直径約4cmのガラス容器に充填し、25℃、50℃の保温槽に1週間、2週間、1か月間保存した。保存日数の経過後、No.4ローターを備えたB型粘度計を使用し、測定温度25℃、ローター回転速度6rpm、測定開始30秒後の条件で測定した。また粘度を測定する直前に、乳化物の表面に油の分離層(離油)の有無を確認した。離油の評価は、下記の<空隙への離油の確認>の基準で行った。
【0026】
<乳化安定性>
乳化安定性は、以下に示すサイクル試験により評価を行った。サイクル試験は、乳化安定性を評価する試験である。この試験で分離を生じたものは「乳化状態が不良」と判断する。
<<サイクル試験>>
得られた油中水型乳化組成物を、それぞれ直径約4cmのガラス容器(6K瓶)に充填し、低温(−20℃)と室温を、それぞれ12時間ずつ交互に繰り返し、これを2サイクル行い、乳化状態を目視観察した。
評価は次の2段階とした。
〇:分離していない
×:分離している(水や水相成分が分離している)
【0027】
<離油の確認>
得られた油中水型乳化組成物を、それぞれ直径約4cmのガラス容器(6K瓶)に、細口の絞り袋(ビニール袋の先端を切ったもの)を用いて、ガラスに接する充填面に空隙が観察できるように不均一に充填し、容器を密栓密封した。これを、40℃及び50℃の保温槽にそれぞれ一か月間保存して、ガラスに接するように形成した空隙への離油の発生を目視観察した。離油は、水の分離を伴う乳化組成の分離とは異なる。また、離油を6K瓶
に充填された組成物の表面で観察しても構わないが、油が表面全体にのび広がるので、その量が少ないと外観目視観察方法では見落とされる恐れがある。しかし、空隙を作った試験方法では確認することができる。この試験は、早期の離油発生による品質低下を確認する方法として有効な試験である。
なお、各温度条件での目視評価基準は次の2段階とした。
〇:空隙に離油がない
×:空隙に離油がある
なお、本試験では、表面の目視観察も同時に行った。この場合の評価基準は、下記の通りである。
〇:表面に離油がない
×:表面に離油がある
【0028】
<官能評価>
使用感について、専門の官能評価員2名により、「厚み感」、「のびのなめらかさ感」、「べたつきのなさ感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」の各評価項目について下記基準により評価した。表中の評価結果は、いずれも2名で一致した結果となった。なお、試料の来歴は、官能評価員にはブラインドにして評価させた。
<<厚み感>>
◎:非常に厚みを感じる
〇:厚みを感じる
△:やや厚みを感じる
×:厚みを感じない
<<のびのなめらかさ感>>
◎:非常によくのび、なめらかさを感じる
〇:のびのなめらかさを感じる
△:ややのびのなめらかさを感じる
×:のびのなめらかさを感じない
<<べたつきのなさ感>>
〇:べたつきを感じない
△:ややべたつきを感じる
×:べたつく
<<肌なじみ感>>
〇:肌なじみ感を感じる
△:やや肌なじみ感を感じる
×:肌なじみ感を感じない
<<ハリ感>>
〇:ハリ感を感じる
△:ややハリ感を感じる
×:ハリ感を感じない
【0029】
(評価結果)
表1、表2の下段に示すとおり、実施例1〜6の油中水型乳化組成物は、高温(50℃)に1か月間保管後の目視確認でも、空隙に離油が全くないことが確認でき、かつ、使用感(「のびのなめらかさ感」、「べたつきのなさ感」、「厚み感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」)のすべての評価項目が実現されていることを確認できた。すなわち目元クリームに必要とされる使用感をすべて有している安定な組成物であることがわかった。
一方、比較例1〜5の組成物の乳化状態は、サイクル試験により良好なことが一部の試験例で確認できたが(比較例1、2)、空隙への離油が認められた(比較例1〜4)。比較例5は、離油の発生はなかったものの、使用感が全く不良であった。比較例6〜8は、いずれも離油が発生しており、チューブ容器に充填するクリーム剤型の品質として不適であると判断した。
粘度に着目すると、実施例4は、50℃保管後の粘度が7000mPa・sまで低下しても離油が生じていないが、比較例6は50℃保管後の粘度が38900mPa・sと実施例4よりも5倍以上高い粘度を示したが、離油が観察された。すなわち、「離油」の現象は、粘度によって抑えられているのではないことが確認できた。
また、油性ゲル化剤としてジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライトを第一に選択し、さらにパルミチン酸デキストリンやステアリン酸イヌリンを併用すると、「肌なじみ感」、「ハリ感」が優れたものとなった。中でもステアリン酸イヌリンを併用して配合すると「厚み感」、「のびのなめらかさ感」も優れたものとなることが確認できた。
本発明の構成は、「離油」がなく、かつ使用感(「のびのなめらかさ感」、「べたつきのなさ感」、「厚み感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」)のすべての項目が実現できることがわかった。
【0030】
以上の評価をまとめると、本発明の油中水型乳化組成物は、「のびのなめらかさ感」、「べたつきのなさ感」、「厚み感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」をすべて実現させることができ、かつ高温でも離油が発生しないので、チューブ容器に充填し目元用クリームとして最適であるといえる。
【0031】
以下に、本発明の構成を採用した油中水型乳化組成物の処方、製法、特性を示す。
処方例1 高保湿クリームの配合
(配合成分) (質量%)
1. ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30 2
2. 水添レシチン 1
3. ミリストイルメチル−β-アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル) 2
4. オリーブ油 5
5. ホホバ油 4
6. トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 3
7. シクロペンタシロキサン 5
8. メチルフェニルポリシロキサン 5
9. (ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー 1
10.ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 1
11.MK−15H(信越化学工業(株)製) 2
12.グリセリン 5
13.1,2−ペンタンジオール 2
14.フェノキシエタノール 0.2
15.ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
16.精製水 残余
【0032】
(製法)
油相(成分1〜11)と水相(成分12〜16)をそれぞれ別に80〜90℃に加熱して、十分に撹拌し、水相と油相を調製した。得られた水相を油相に添加し、ホモミキサーで6000rpm、2分撹拌して乳化し、その後、室温まで撹拌しながら冷却し、油中水型乳化組成物を得た。
【0033】
(特性評価)
上記と同様にして粘度、乳化安定性、離油、使用感の評価を行った。
処方例1の高保湿クリームは、適切な粘度を有し、乳化安定性が良好で、離油が発生せず、使用感(「のびのなめらかさ感」、「べたつきのなさ感」、「厚み感」、「肌なじみ感」、「ハリ感」)に優れており、保存安定性に優れていた。