特許第6792377号(P6792377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792377
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/16 20060101AFI20201116BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20201116BHJP
   F01M 11/03 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   F01M1/16 A
   F01M1/06 D
   F01M11/03 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-165983(P2016-165983)
(22)【出願日】2016年8月26日
(65)【公開番号】特開2018-31362(P2018-31362A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】和田 聡
【審査官】 沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−317133(JP,A)
【文献】 特開2016−102459(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0014212(US,A1)
【文献】 実開昭60−114242(JP,U)
【文献】 特開昭57−024407(JP,A)
【文献】 特開昭63−036018(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047239(WO,A1)
【文献】 米国特許第05483928(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/16
F01M 1/06
F01M 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロックとその上面に固定されたシリンダヘッド、及び、前記クランク軸によって駆動されるオイルポンプとを備えて、前記オイルポンプの吐出口に、オイルフィルターを備えた送油通路が接続されており、
前記送油通路のうちオイルポンプとオイルフィルターとの間の部位に、リリーフバルブを備えると共に前記シリンダヘッドに形成された排気ポートの近くを通るように形成されたリリーフ通路が接続されている構成であって、
前記リリーフ通路は、前記送油通路から分岐して前記シリンダヘッドの排気側エリアに至る部分と、前記シリンダヘッドの排気側エリアにおいて前記排気ポートの箇所を冷却する冷却部と、前記冷却部からオイルをオイルパンに戻す部分とを有しており、前記冷却部は、前記排気ポートを囲う環状通路を備えている、
内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は自動車用等の内燃機関に関するものであり、オイルのリリーフ構造に特徴を有している。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、主として潤滑のためにオイルが使用されており、オイルは、クランク軸によって駆動されるオイルポンプによってオイルパンから汲み上げられて、オイルフィルターを経由して送油通路(メインギャラリー)から各潤滑部等に送られているが、オイルの圧力が過剰にならないように、オイルポンプとオイルフィルターとの間に、リリーフバルブを介してリリーフ通路が接続されており、リリーフオイルは、オイルパンに速やかに戻されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−309919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1を初めとして従来技術では、リリーフ通路は必要最小限度の長さになっており、リリーフ通路の終端はオイルパンに開口しているため、リリーフオイルがオイルパンに勢い良く流れ込みやすい。このため、リリーフオイルによって、オイルパンのオイルに泡立ち現象が発生しやすくなっており、その結果、オイルポンプに汲み上げられたオイルに多数の気泡が混入して、潤滑性能が低下するおそれがあった。
【0005】
また、リリーフバルブが開いてオイルがリリーフ通路からオイルパンに戻されることは、それだけ動力損失が発生していることを意味している。特に、冷間始動時でオイルが十分に昇温していない状態でリリーフオイルが発生すると、動力損失は特に大きくなると云える。また、オイルの早期昇温のためにオイルパンを2槽式に構成してオイルを内槽に戻すことが行われているが、リリーフオイルは機関を巡ることなくオイルパンに戻るために、オイルパンを2槽式に構成したことの意味が低下してしまうことも懸念される。
【0006】
内燃機関において、送油通路にリリーフバルブとリリーフ通路とを設けることは自体は不可欠であるが、リリーフオイルを有効利用できると、動力損失を低減して燃費の向上に貢献できると云える。
【0007】
本願発明は、このような現状を契機として成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の内燃機関は、
「クランク軸が回転自在に保持されたシリンダブロックとその上面に固定されたシリンダヘッド、及び、前記クランク軸によって駆動されるオイルポンプとを備えて、前記オイルポンプの吐出口に、オイルフィルターを備えた送油通路が接続されており、
前記送油通路のうちオイルポンプとオイルフィルターとの間の部位に、リリーフバルブを備えると共に前記シリンダヘッドに形成された排気ポートの近くを通るように形成されたリリーフ通路が接続されている
という基本構成において、
前記リリーフ通路は、前記送油通路から分岐して前記シリンダヘッドの排気側エリアに至る部分と、前記シリンダヘッドの排気側エリアにおいて前記排気ポートの箇所を冷却する冷却部と、前記冷却部からオイルをオイルパンに戻す部分とを有しており、前記冷却部は、前記排気ポートを囲う環状通路を備えている」
という特徴を備えている。
【0009】
リリーフオイルは排気ポートの近くを通って冷却の仕事をしてからオイルパンに戻るが、冷却の仕事をしたリリーフオイルは、専用のオイル落とし通路(オイル落とし穴)からオイルパンに戻してもよいし、動弁機構を潤滑したオイルをオイルパンに戻すために従来から形成されているオイル落とし穴を利用してオイルパンに戻してもよい。
【発明の効果】
【0010】
内燃機関の運転に伴うシリンダヘッドの昇温は一様ではなく、排気ポートの箇所が最も温度が高くなる傾向を呈する。このため、冷却水による冷却も排気ポートの周辺部を強く冷却するように配慮されているが、シリンダヘッドの吸気側と排気側とで温度差が発生することは不可避であり、温度差が大きくなり過ぎると熱応力が過大になって種々の弊害が生じる。
【0011】
しかるに、本願発明では、排気ポートの周辺部がリリーフオイルによっても冷却されるため、シリンダヘッドの熱応力を軽減できる。その結果、シリンダヘッドの熱変形等の弊害を抑制できる。特に、機関の高速回転時にはリリーフオイルの発生量が多くなるが、高速回転状態ではシリンダヘッドの冷却の必要性も高くなるため、不可避的に発生したリリーフオイルを有効利用してシリンダヘッドの冷却を促進できる。
【0012】
そして、リリーフオイルは、オイルフィルターを通過せずにシリンダヘッドに送られているため、動力損失は僅かであるし、オイルポンプの負荷の軽減にも貢献できる。また、リリーフオイルはオイルフィルターを通過していないため異物が混入しているおそれがあるが、リリーフオイルは潤滑に供されるのではなく、単にシリンダヘッドを冷却してオイルパンに戻るに過ぎないため、異物が混入していても特段の問題は生じない。
【0013】
また、リリーフオイルはシリンダヘッドから受熱し、昇温してからオイルパンに戻るため、オイルの早期昇温に貢献できる。従って、コールドスタート後の暖機運転の短縮に貢献できる。特に、外気温度が低いほどオイルの早期昇温の必要性が高いが、低温状態ではオイルの粘度は高くなってリリーフオイルが発生しやすいため、リリーフオイルの昇温を通じてオイルの早期昇温に貢献できる。
【0014】
このように、本願発明では、リリーフオイルを有効利用して燃費の向上に貢献できる(オイルポンプの動力損失を、オイルの早期昇温によるメカロスの低減という形で回収できるといえる。)。特に、オイルパンが内槽と外槽との二槽式に構成されている場合は、昇温したオイルが内槽に戻るため、早期昇温を的確に行うことができて、特に好適である。
【0015】
また、リリーフ通路は従来に比べて長さが格段に長くなるため、リリーフオイルに気泡が混入していても、リリーフ通路を流れる過程で気泡を分離させることができる一方、リリーフオイルをオイルパンに戻すに際しては、例えば、バッフルプレートに滴の状態で流下させる等して油面の泡立ちを無くすことができる。このような2つの側面から、オイルパンでの気泡の発生を防止して、潤滑性能の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】全体の構成を示す模式図である。
図2】要部の縦断正面図である。
図3】(A)は図2のIII-III 視断面図、(B)は別例図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1).概要
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1を参照して概要を説明する。本実施形態は自動車の4気筒内燃機関に適用しており、内燃機関は、複数(4つ)のシリンダボア2を有するシリンダブロック1と、その上面に固定されたシリンダヘッド3と、シリンダブロック1の下面に固定されたオイルパン4とを有しており、更に、シリンダヘッド3とシリンダブロック1とオイルパン4の前面には、タイミングチェーンを覆うフロントカバー5が固定されている。シリンダヘッド3の上面には、ヘッドカバー6が固定されている。
【0018】
シリンダボア2にはピストン7が摺動自在に嵌まっており、ピストン7の往復動はコンロッド8によってクランク軸9の回転に変換される。クランク軸9の前端部はフロントカバー5を貫通して露出しており、この露出端部に、補機駆動プーリ10が固定されている。
【0019】
内燃機関は、オイルポンプ11を備えている。本実施形態のオイルポンプ11は、フロントカバー5に形成した内向きの凹所に内蔵されており、ロータはクランク軸9に直結されている。但し、補機駆動プーリ10に巻き掛けられた補機駆動ベルトで駆動する方式もある。オイルポンプ11は実線で表示しているが、これは位置関係を明瞭にするための便宜的な措置であり、オイルポンプ11が外部に露出しているわけではない。
【0020】
オイルパン4にはストレーナ12が配置されており、オイルは、ストレーナ12から吸引通路13を介してオイルポンプ11の吸入口に吸い上げられる。オイルパン4が内槽4aを有する2槽式である場合は、ストレーナ12は内槽4aに浸漬される。
【0021】
オイルポンプ11の吐出口には送油通路15が接続されており、送油通路15にオイルフィルター16が介挿されている。本実施形態では、オイルフィルター16はフロントカバー5に装着している。このため、送油通路15のうち始端側のある程度の範囲はフロントカバー5に形成されており、残りの大部分は、シリンダブロック1の内部(肉厚部内)に形成されている。オイルフィルター16は、シリンダブロック1に装着したりオイルパン4に装着したりすることも可能であり、これに伴って、リリーフ通路の具体的な態様若干異なってくる。
【0022】
便宜的に、送油通路15のうち、オイルポンプ11とオイルフィルター16との間の部分を送油通路第1部分15aと呼び、オイルフィルター16よりも下流側でフロントカバー5に形成されている部分を送油通路第2部分15bと呼び、シリンダブロック1に形成されている部分を送油通路第3部分15cと呼ぶこととする。
【0023】
送油通路第3部分15cは、クランク軸9への潤滑部や、ピストン5を冷却するためのオイルジェット部、カム軸17の潤滑部などに分岐している。油圧式バルブ可変装置を備えている場合は、油圧式バルブ可変装置には、送油通路第3部分15cからオイルが供給される。また、排気ターボ過給機を備えている場合は、送油通路第3部分15cから軸受部にオイルが供給される。
【0024】
送油通路第1部分15aには、上流端にリリーフバルブ18を備えたリリーフ通路19が接続されており、リリーフ通路19をシリンダヘッド3の排気側エリアに導くことにより、リリーフオイルでシリンダヘッド3の排気側エリアを冷却している。
そこで、リリーフ通路19は、フロントカバー5に形成された第1部分20と、第1部分20に連通した状態でシリンダブロック1に形成された第2部分21と、第2部分21に連通した状態でシリンダヘッド3の排気側エリアに形成された第3部分22と、冷却の仕事をしたオイルをオイルパン4に戻す第4部分23とを有しており、第4部分23は、シリンダヘッド3とシリンダブロック1とを貫通している。図1でリリーフ通路19を点線で表示しているが、これは他の線と区別して見やすくするための措置である。
【0025】
リリーフ通路19の第3部分22は、シリンダヘッド3の前端部に位置した立ち上がり部22aと、立ち上がり部22aに連通してカム軸17と略平行に延びる水平状部22bとを有しており、水平状部22bから各排気ポート24に向けて冷却部22cが分岐している。
【0026】
(2).リリーフ通路の要部
図2では、シリンダヘッド3の要部を示している。この構造は、従来から知られている基本的なものであり、シリンダヘッド3には、1つの気筒に対応して、一対の吸気弁26及び吸気ポート27と、一対の排気弁28及び単位排気ポート29とが形成されており、2つの単位排気ポート29は1つの集合排気ポート24に連通している。
【0027】
シリンダヘッド3には、冷却のためのウォータジャケット30が形成されている。特に、排気ポート29,24が形成されている排気側エリアでは、内部ができるだけ冷却水に晒されるように配慮されている。
【0028】
図2,3に示すように、リリーフ通路19における第3部分22の各冷却部22cは、水平状部22bから各単位排気ポート29に向けて延びる分岐通路31と、単位排気ポート29をぐるりと抱持する環状通路32と、一対の環状通路32に連通した集合通路33とから成っており、集合通路33に第4部分23が接続されている。
【0029】
図3(A)の例では、第4部分23はリリーフオイルの専用の逃がし通路になっており、シリンダヘッド3とシリンダブロック1とに略鉛直姿勢(縦長姿勢)で形成されている。第4部分23はシリンダブロック1の排気側長手側面の近くに位置しているので、リリーフオイルはオイルパン4の縁部から流入する。従って、リリーフオイルは、シリンダブロック1の壁を伝うようにしてオイルパン4に流入させることができる。このため、オイルパン4でのオイルの泡立ち現象を防止できる。
【0030】
2つの環状通路32は互いに繋がっているが、これはスペースの問題に起因したものであり、2つの環状通路32を互いに分離してもよい。また、各単位排気ポート29ごとに環状通路32を形成せずに、1つの環状通路32で2つの単位排気ポート29をぐるりと囲う状態に形成することも可能である。
【0031】
また、図3(B)に示すように、各環状通路32を1本の水平状逃がし通路34に連通させて、水平状逃がし通路34と鉛直状の第4部分23とを接続してもよい。第4部分23として、動弁機構を潤滑したオイルが流下するオイル落とし穴を流用することも可能であり、この場合は、それだけ構造が簡単になる。
【0032】
リリーフ通路19の第3部分22は、シリンダヘッド3の鋳造に際して形成してもよいし、ドリルによる後加工で形成することも可能である。但し、湾曲した環状通路32はドリル加工では形成できないので、鋳造に際して形成しておくことになる。この場合、第3部分22の全体をアルミ等の金属パイプで構成して、金属パイプを鋳込むことでシリンダヘッド3を製造すると、複雑な中子型を使用することなく、シリンダヘッド3を容易に製造できる。
【0033】
以上のとおり、本実施形態では、リリーフオイルによってシリンダヘッド3の排気側エリアを冷却できるため、シリンダヘッド3がいびつに熱変形することを抑制して、内燃機関の信頼性を向上できる。特に、高速回転状態では冷却の必要性が高くなる一方でリリーフオイルの発生量が増大するため、リリーフオイルを有効利用してシリンダヘッド3の冷却を的確に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明は、実際に内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 シリンダヘッド
4 オイルパン
5 フロントカバー
9 クランク軸
11 オイルポンプ
15 送油通路
15a 送油通路第1部分
17 カム軸
18 リリーフバルブ
19 リリーフ通路
20 リリーフ通路の第1部分(シリンダヘッドの排気側エリアに至る部分)
21 リリーフ通路の第2部分(シリンダヘッドの排気側エリアに至る部分)
22 リリーフ通路の第3部分(シリンダヘッドの排気側エリアに位置した部分)
23 リリーフ通路の第4部分
22c 冷却部
32 環状通路
図1
図2
図3