【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1を
図1及び
図2に基づいて説明する。
まず、
図1に基づいて部品実装ライン10の構成を説明する。
【0020】
回路基板11を搬送する搬送ライン12には、回路基板11に電子部品を実装する複数の部品実装機14と、部品実装に関連する作業を行う実装関連装置(部品実装機以外の装置)が配列されている。ここで、実装関連装置は、例えば、半田印刷機13、検査装置15、フラックス塗布装置、接着剤塗布装置等である。以下、説明の便宜上、部品実装ライン10を構成する半田印刷機13、部品実装機14、検査装置15を、部品実装ライン10の各装置13,14,15と略して表記する場合がある。
【0021】
各部品実装機14のフィーダセット部(図示せず)には、それぞれ電子部品を供給するフィーダ17が交換可能にセットされている。各部品実装機14の実装ヘッド18には、各フィーダ17から供給される電子部品を吸着して回路基板11に実装する1本又は複数本の吸着ノズル(図示せず)が交換可能に保持されている。
【0022】
搬送ライン12に搬入する回路基板11の上面のうちの部品実装領域の外側に、基板識別情報(以下「基板ID」と表記する)を記録又は記憶した基板ID記録部19が設けられている。この基板ID記録部19は、バーコード、2次元コード等のコードを記録したものでも良いし、電子的に記憶する電子タグ(RFタグ、無線タグ、ICタグ、電波タグ等とも呼ばれる)や、磁気的に記録する磁気テープ等を用いても良い。
【0023】
一方、搬送ライン12の入口側(回路基板11の投入側)には、回路基板11の基板ID記録部19に記録又は記憶された基板IDを読み取る基板ID読取り手段としてリーダ20が設けられている。
【0024】
部品実装ライン10の生産を管理・監視する生産管理コンピュータ31は、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25とネットワークで接続され、搬送ライン12の入口側に配置したリーダ20で、搬送ライン12に投入された回路基板11の基板ID記録部19から基板IDを読み取り、搬送ライン12から搬出される回路基板11の実装部品情報等を当該回路基板11の基板IDと関連付けて基板トレーサビリティ情報として記憶装置32(データベース)に保存するようにしている。
【0025】
更に、本実施例1では、後述する緊急地震速報の受信により部品実装ライン10の各装置13,14,15が緊急停止したときに、各装置13,14,15に搬入されている回路基板11の基板IDを各装置13,14,15の識別情報と後述する緊急停止の種別と関連付けて基板トレーサビリティ情報として記憶装置32に保存するようにしている。
【0026】
各部品実装機14の制御部24は、生産管理コンピュータ31から送信されてくる生産ジョブ(生産プログラム)に従って、実装ヘッド18を部品吸着位置→部品撮像位置→部品実装位置の経路で移動させて、フィーダ17により供給される電子部品を実装ヘッド18の吸着ノズルで吸着して当該電子部品を部品撮像用のカメラ(図示せず)で撮像して部品吸着位置のずれ量等を認識して当該電子部品をその吸着位置のずれ量分だけ位置補正して回路基板11の実装位置に実装するという動作を繰り返して、当該回路基板11に所定数の電子部品を実装して部品実装基板を生産する。
【0027】
次に、部品実装ライン10の地震発生時緊急停止システムの構成を説明する。
部品実装ライン10を設置した工場内に、緊急地震速報受信機34が設置され、この緊急地震速報受信機34がルータ35を介してネットワークで気象庁等の外部機関の緊急地震速報発信用のコンピュータ(図示せず)に接続され、気象庁等の外部機関の緊急地震速報発信用のコンピュータから発信される緊急地震速報が緊急地震速報受信機34で受信されるようになっている。この緊急地震速報には、地震による強い揺れを発生させるS波(Secondary Wave:第二の波)の予測到達時刻の情報が含まれる。
【0028】
緊急地震速報受信機34は、生産管理コンピュータ31に接続され、緊急地震速報受信機34で受信した緊急地震速報が生産管理コンピュータ31に送信される。本実施例1では、生産管理コンピュータ31は、後述する
図2の地震発生時緊急停止プログラムを実行することで、緊急地震速報受信機34で受信した緊急地震速報のS波予測到達時刻情報に基づいて現在時刻からS波予測到達時刻までの残り時間を算出する残り時間算出手段として機能すると共に、部品実装ライン10の各装置13,14,15の現在の稼働状態を判定して前記残り時間内に各装置13,14,15を緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕があるか否かを判定し、その判定結果に応じて「非即時緊急停止」と「即時緊急停止」のどちらか一方を選択して緊急停止する緊急停止手段としても機能する。例えば、部品実装ライン10の各装置13,14,15のうち、前記残り時間内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕がないと判定した装置については、当該装置の稼働を即時緊急停止する。一方、前記残り時間内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕があると判定した装置については、当該装置を緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働してから緊急停止させる非即時緊急停止を行う。
【0029】
この際、生産管理コンピュータ31は、部品実装ライン10を構成する複数の装置13,14,15の各々について、残り時間内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕があるか否かを判定し、その時間的余裕があるか否かの判定は、残り時間内に装置13,14,15の緊急停止が完了するように、緊急停止に要する時間も考慮して判定する。
【0030】
ところで、部品実装機14では、地震発生時に吸着ノズルが下降した状態で緊急停止すると、地震の揺れにより吸着ノズルが部品実装機14内の回路基板11、電子部品や他の物体と干渉してそれらが損傷する可能性があり、緊急停止後の復旧に手間がかかる。従って、部品実装機14では、緊急停止後の復旧が容易な状態とは、部品実装動作が終了して吸着ノズルが上昇した状態である。この状態は、部品吸着から部品実装までの1サイクル分の動作を終了して吸着ノズルが上昇した状態であり、この状態であれば、地震の揺れにより吸着ノズルが部品実装機14内の回路基板11、電子部品や他の物体と干渉してそれらが損傷することを防止できる。
【0031】
以上説明した緊急地震速報受信時に部品実装ライン10の各装置13,14,15を「非即時緊急停止」又は「即時緊急停止」で緊急停止する処理は、生産管理コンピュータ31によって
図2の地震発生時緊急停止プログラムに従って次のように実行される。
【0032】
図2の地震発生時緊急停止プログラムは、部品実装ライン10の稼働中に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう残り時間算出手段及び緊急停止手段としての役割を果たす。本プログラムが起動されると、まずステップ101で、緊急地震速報受信機34が緊急地震速報を受信したか否かを判定し、緊急地震速報を受信していないと判定されれば、以降の処理を行うことなく、本プログラムを終了する。
【0033】
その後、本プログラムを起動したときに、上記ステップ101で、緊急地震速報受信機34が緊急地震速報を受信したと判定されれば、ステップ102に進み、受信した緊急地震速報のS波予測到達時刻情報に基づいて現在時刻からS波予測到達時刻までの残り時間Aを算出する。
残り時間A=S波予測到達時刻−現在時刻
【0034】
この後、ステップ103に進み、部品実装ライン10の各装置13,14,15の現在の稼働状態を判定して緊急停止後の復旧が容易な状態に到達させるまでに必要な稼働時間Bを算出する。この必要な稼働時間Bの算出は、各装置13,14,15の各々について別々に行う。
【0035】
この後、ステップ104に進み、残り時間A内に各装置13,14,15を緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕があるか否かを判定する。この判定は、残り時間Aから上記必要な稼働時間Bを差し引いた時間(A−B)が各装置13,14,15の緊急停止に要する時間Cよりも大きいか否かで判定する。
A−B>C
この判定も、各装置13,14,15の各々について別々に行う。
【0036】
上記ステップ104で、A−B>C、つまり残り時間A内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕があると判定された装置については、ステップ105に進み、当該装置を緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働してから緊急停止させる非即時緊急停止を行うように当該装置に指令して、ステップ107に進む。
【0037】
これに対し、上記ステップ104で、A−B≦C、つまり残り時間A内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕がないと判定された装置については、ステップ106に進み、当該装置の稼働を即時緊急停止させるように当該装置に指令して、ステップ107に進む。
【0038】
このステップ107では、部品実装ライン10の各装置13,14,15に搬入されている回路基板11の基板IDを各装置13,14,15の識別情報と緊急停止の種別と関連付けて基板トレーサビリティ情報として記憶装置32に保存して、本プログラムを終了する。
【0039】
尚、本実施例1では、部品実装ライン10の稼働中に
図2の地震発生時緊急停止プログラムを所定周期で繰り返し実行するようにしたが、部品実装ライン10の稼働中に緊急地震速報受信機34が緊急地震速報を受信したときに、割り込み処理により、ステップ102以降の処理を実行するようにしても良い。
【0040】
以上説明した本実施例1によれば、部品実装ライン10を構成する複数の装置13,14,15のうち、緊急地震速報の受信後に地震による強い揺れを発生させるS波が到達するまでの残り時間Aが短く、その残り時間A内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕がないと判定した装置については稼働を即時緊急停止するため、S波が到達する前に当該装置を緊急停止させてS波の到達(地震による強い揺れ)に備えることができる。一方、緊急地震速報の受信からS波が到達するまでの残り時間Aが比較的長く、その残り時間A内に緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働する時間的余裕があると判定した装置については、緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働してから緊急停止させる非即時緊急停止を行うため、S波が到達する前に当該装置を緊急停止後の復旧が容易な状態になるまで稼働してから緊急停止させてS波の到達に備えることができ、緊急停止後の復旧が容易になる。
【0041】
しかも、本実施例1では、緊急地震速報の受信時に部品実装ライン10の各装置13,14,15を緊急停止させたときに各装置13,14,15に搬入されている回路基板11の基板IDを各装置13,14,15の識別情報と緊急停止の種別と関連付けて基板トレーサビリティ情報として記憶装置32に保存して管理するようにしたので、生産途中で緊急停止した各装置13,14,15内の部品実装基板を再稼働により完成させて製品として出荷する場合に、将来、その製品に何らかの不具合が発生したときに、記憶装置32に保存されている基板トレーサビリティ情報に基づいて不具合の発生原因を容易に究明できると共に、地震発生時に生産途中であった製品を追跡調査して回収等の適切な措置を講じることができる。
【0042】
尚、本実施例1では、部品実装機14の場合、「緊急停止後の復旧が容易な状態」とは、「部品実装動作が終了して吸着ノズルが上昇した状態」としたが、緊急地震速報を受信したときに部品吸着動作中である場合に、残り時間A内に部品実装動作を終了する時間的余裕はないが、残り時間A内に部品吸着動作を終了して吸着ノズルを上昇させる時間的余裕があれば、部品吸着動作を終了して吸着ノズルを上昇させてから緊急停止させるようにしても良い。この場合、緊急停止により吸着ノズルに吸着した電子部品が脱落する可能性があるが、脱落した電子部品を復旧時に回収すれば良く、地震の揺れにより吸着ノズルが部品実装機14内の回路基板11、電子部品や他の物体と干渉することを防止できる。
【実施例2】
【0043】
次に、
図2及び
図3を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、上記実施例1と実質的に同じ部分については、説明を省略又は簡略化し、主として異なる部分について説明する。
【0044】
上記実施例1では、生産管理コンピュータ31が残り時間算出手段と緊急停止手段の両方の機能を持ち、生産管理コンピュータ31が、残り時間Aの算出から各装置13,14,15の緊急停止方法の判定までの全ての処理を一括して行うことになるため、生産管理コンピュータ31の処理能力に余裕が少ない場合には、処理速度が遅くなる可能性がある。
【0045】
そこで、本実施例2では、生産管理コンピュータ31は、
図3の残り時間算出プログラムを実行することで、残り時間算出手段としてのみ機能して、緊急地震速報の受信時に残り時間Aの算出のみを行い、算出した残り時間Aの情報を部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25に送信する。そして、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25は、それぞれ
図4の地震発生時緊急停止プログラムを実行することで、それぞれ緊急停止手段として機能して、生産管理コンピュータ31から受信した残り時間Aに基づいて即時緊急停止か非即時緊急停止かを判定して、どちらかの方法で緊急停止するようにしている。以下、
図3の残り時間算出プログラムと
図4の地震発生時緊急停止プログラムの処理内容を説明する。
【0046】
図3の残り時間算出プログラムは、部品実装ライン10の稼働中に生産管理コンピュータ31によって所定周期で繰り返し実行される。本プログラムが起動されると、まず、ステップ201とステップ202の処理により、緊急地震速報受信機34が緊急地震速報を受信したときに、受信した緊急地震速報のS波予測到達時刻情報に基づいて現在時刻からS波予測到達時刻までの残り時間Aを算出する。
残り時間A=S波予測到達時刻−現在時刻
【0047】
この後、ステップ203に進み、算出した残り時間Aの情報を部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25に送信して、本プログラムを終了する。
【0048】
尚、本実施例2では、部品実装ライン10の稼働中に
図3の残り時間算出プログラムを所定周期で実行するようにしたが、緊急地震速報受信機34が緊急地震速報を受信したときに、割り込み処理により、ステップ202以降の処理を実行するようにしても良い。
【0049】
一方、
図4の地震発生時緊急停止プログラムは、部品実装ライン10の稼働中に各装置13,14,15の制御部23,24,25によって所定周期で繰り返し実行される。本プログラムが起動されると、まず、ステップ211で、生産管理コンピュータ31が算出した残り時間Aの情報(つまり残り時間A経過後にS波が到達すること)を受信したか否かを判定し、残り時間Aの情報を受信していないと判定されれば、以降の処理を行うことなく、本プログラムを終了する。
【0050】
その後、本プログラムを起動したときに、上記ステップ211で、残り時間Aの情報を受信したと判定されれば、ステップ212〜216の処理を実行する。このステップ212〜216の処理は、実施例1で説明した
図2のステップ103〜107の処理と同じである。
【0051】
以上説明した本実施例2では、生産管理コンピュータ31は、緊急地震速報の受信時に残り時間Aの算出のみを行い、算出した残り時間Aの情報を部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25に送信して、各装置13,14,15の制御部23,24,25が、それぞれ生産管理コンピュータ31から受信した残り時間Aに基づいて即時緊急停止か非即時緊急停止かを判定するようにしたので、生産管理コンピュータ31の処理能力に余裕が少ない場合でも、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25で、即時緊急停止か非即時緊急停止かを速やかに判定することができ、残り時間Aの算出から各装置13,14,15の緊急停止方法の判定までの処理速度が遅くなることを防止できる。要するに、残り時間Aは、部品実装ライン10の全ての装置13,14,15に共通するデータであるため、生産管理コンピュータ31で残り時間Aを算出して部品実装ライン10の各装置13,14,15に送信するようにすれば、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25で残り時間Aの算出処理を重複して行わずに済み、その分、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25の処理負荷を軽減できる利点がある。
その他、前記実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0052】
次に、本発明の実施例3を説明する。但し、上記実施例1と実質的に同じ部分については、説明を省略又は簡略化し、主として異なる部分について説明する。
【0053】
本実施例3では、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25が残り時間算出手段及び緊急停止手段として機能して、各装置13,14,15の制御部23,24,25で、それぞれ、実施例1で説明した
図2の地震発生時緊急停止プログラムと同様の地震発生時緊急停止プログラムを所定周期で繰り返し実行することで、緊急地震速報の受信時に残り時間Aの算出から各装置13,14,15の緊急停止方法の判定までの全ての処理を実行するようにしている。
【0054】
この場合、緊急地震速報受信機34で受信した緊急地震速報は、生産管理コンピュータ31を経由して部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25に送信するようにしても良いし、或は、緊急地震速報受信機34を部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25にネットワークで接続して、緊急地震速報受信機34で受信した緊急地震速報を、生産管理コンピュータ31を経由せずに、直接、部品実装ライン10の各装置13,14,15の制御部23,24,25に送信するようにしても良い。
【0055】
また、部品実装ライン10の複数の装置13,14,15のいずれか1つの装置の制御部でのみ残り時間Aを算出して、その残り時間Aの情報を他の装置の制御部に送信するようにしても良く、この場合は、当該他の装置の制御部では、残り時間を算出する必要はない。
以上説明した本実施例3でも、前記実施例1と同様の効果を得ることができる。