(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らがリチウムイオン二次電池の特性向上について検討した結果、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の製造過程で生成する不純物、具体的にはアセトアミド、アンモニウム、及び酢酸に起因して初期充放電効率、初期レート特性、及びサイクル容量維持率(以下、これらをまとめて「電池特性」ということがある)が阻害されることがわかった。そしてビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の製造工程の初期段階、具体的にはカチオン交換した後、(A)アンモニアをできるだけ低減させることによって酢酸とアンモニアの脱水縮合物であるアセトアミドの生成を抑制できると共に、(B)アンモニアを低減させた後に洗浄をすることで酢酸やアセトアミドを低減しつつ、LiFSIからNH
4FSIへの逆反応(例えばLiFSI+NH
3+H
2O→NH
4FSI+LiOH)を抑制してアンモニウムの生成を低減できるため、不純物含有量が極めて少ない電解質材料が得られることを見出し、本発明に至った。
【0013】
以下、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の合成方法について説明する。
【0014】
本発明の合成方法には以下の工程を含む。
(I)有機溶媒(B)、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアンモニウム塩、及びアルカリ金属化合物とを含む溶液中でカチオン交換することにより、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩を得る工程(以下、「カチオン交換工程」という)、
(II)得られた反応溶液を有機溶媒(B)存在下で減圧及び/又は加熱して前記反応溶液からアンモニアを留去する工程(以下、「アンモニア留去工程」という)、
(III)アンモニア留去後の反応溶液をアルカリ洗浄する工程(以下、「アルカリ洗浄工程」という)及び/又は、水洗浄する工程(以下、「水洗浄工程」)(少なくとも一方を行う場合を「洗浄工程」ということがある)。
【0015】
更に本発明では、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と有機溶媒(A)を含む電解液材料の製造方法として、(IV)上記工程を経て得られたビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と有機溶媒(B)とを含む反応溶液を、有機溶媒(A)の存在下で減圧及び/又は加熱して有機溶媒(B)、及び水を留去する工程(以下、「濃縮工程」という)が含まれる。
【0016】
(I)カチオン交換工程
本発明では、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアンモニウム塩((FSO
2)
2N・NH
4)を出発原料として用いる(以下、化合物(1)という場合がある)。化合物(1)は例えばビス(クロロスルホニル)イミドにNH
4F、NH
4F・HF、NH
4F・2HFなどのフッ化物を加えてフッ素化反応させることによって合成できるが、これに限定されず、各種公知の製造方法で得られたものでよい。例えば化合物(1)は特許文献1や特許文献2に記載された製造方法で得られたものでもよいし、あるいは市販品でもよい。
【0017】
化合物(1)を所望のカチオン(Li,Na,K,Rb,Cs)を含むアルカリ金属化合物と反応させることで、カチオン交換することができる。反応させるアルカリ金属化合物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、Rb
2CO
3、Cs
2CO
3等の炭酸塩;LiHCO
3、NaHCO
3、KHCO
3、RbHCO
3、CsHCO
3等の炭酸水素化物;LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;LiF、NaF、KF、RbF、CsF等のフッ化物;CH
3OLi、EtOLi等のアルコキシド化合物;EtLi、BuLi、t−BuLi等のアルキルリチウム化合物;等が挙げられる(Etはエチル基、Buはブチル基を示す)。これらの中でもアルカリ金属としてリチウム、ナトリウム又はカリウムを含有する化合物が好ましく、より具体的にはLiOH、NaOH、KOH、Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、LiCl、NaCl、KCl、LiF、NaF、KFが好ましく、より好ましくはLiOH、NaOH、KOH、Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3であり、さらに好ましくはLiOH、NaOH、KOHであり、これら化合物は水酸化物であることが好ましい。
【0018】
アルカリ金属化合物は、化合物(1)1molに対して、アルカリ金属の量が化学量論量で好ましくは1.05当量以上、より好ましくは1.1当量以上であって、好ましくは3当量以下、より好ましくは1.5当量以下となるように使用量を調整することが望ましい。アルカリ金属化合物の使用量が多すぎると有機溶媒Bの分解が起こりやすく、酢酸、アセトアミドが増加する。一方、少なすぎるとビス(フルオロスルホニル)イミドのアンモニウム塩が残存することがある。
【0019】
化合物(1)とアルカリ金属化合物は有機溶媒(B)(有機溶媒(A)とは異なる有機溶媒)を含む溶液中でカチオン交換反応させる。カチオン交換工程で使用可能な有機溶媒(B)としては非プロトン性溶媒を用いるのが好ましい。非プロトン性溶媒としては、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。カチオン交換反応を円滑に進行させる観点からは特に、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及び酢酸ブチルが好ましい。
【0020】
カチオン交換する際の溶液の温度を低くすることで酢酸ブチルなどの有機溶媒(B)の分解による酢酸の生成を抑制できると共に、脱水縮合によるアセトアミドの生成も抑制できる。一方、反応溶液の温度が低すぎると反応溶液の粘度が上昇し、取り扱いが煩雑になることがある。したがって反応溶液の温度は、好ましくは40℃以下、より好ましくは常温(25℃)以下であって、好ましくは−2℃以上、より好ましくは0℃以上である。
【0021】
(II)アンモニア留去工程
上記カチオン交換反応後の反応溶液には生成したビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と使用した有機溶媒(B)だけでなく、副生したアンモニアが含まれている。本発明ではカチオン交換工程後、洗浄工程前に反応溶液からアンモニアを留去する。
【0022】
アンモニアの留去方法は特に限定されないが、減圧下で反応溶液からアンモニアの留去に適した温度に制御することが好ましい。反応溶液の温度を高くすると脱水縮合反応によるアセトアミドの生成量も増える傾向にあるため、温度は60℃以下、より好ましくは55℃以下、更に好ましくは45℃以下である。下限は特に限定されず、常温(25℃)でもよい。また減圧下で行うことによって、低い温度でもアンモニアを留去できるため、好ましくは50hPa以下、より好ましくは20hPa以下であって、好ましくは3hPa以上、より好ましくは5hPa以上である。
【0023】
アンモニアを留去することで電解質材料に含まれるアセトアミドやアンモニウムイオンなどの不純物量を低減できる。したがってアンモニア留去工程を複数回行ってアンモニア量を低減させてもよい。留去後の反応溶液に含まれるアンモニア含有量は、総質量に対して好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下、更に好ましくは200質量ppm以下である。なお、アンモニア含有量は実施例に記載のイオンクロマトグラフで測定した量である。
【0024】
本発明ではアンモニア留去工程後、(III−1)アルカリ洗浄工程、(III−2)水洗浄工程の少なくともいずれかの工程を行う。なお、両方行う場合は、アルカリ洗浄工程、水洗浄工程の順である。
【0025】
(III−1)アルカリ洗浄工程
アンモニアを留去した後の反応溶液を必要に応じてアルカリ洗浄(以下、「アルカリ洗浄工程」ということがある)してから水洗浄工程を行ってもよい。アルカリ水溶液と接触させることでビス(フルオロスルホニル)イミドのアンモニウム塩中の水溶性不純物やカチオン交換時の水溶性副生成物などの不純物を除去する。アルカリ洗浄工程は反応溶液とアルカリ水溶液とが接触するものであればよく、例えば反応溶液をアルカリ水溶液に添加して接触させる態様、反応溶液とアルカリ水溶液とを、それぞれ反応溶液に同時に反応器に添加して接触させる態様などでもよい。アルカリ水溶液としては、塩基性物質の水溶液を使用すればよく、塩基性物質として好ましくは上記カチオン交換工程で選択したアルカリ金属化合物と同じアルカリ金属化合物を用いることである。
【0026】
アルカリ水溶液は、酢酸やアセトアミドの発生を抑制しつつ、不純物を十分に除去するためには、前記アルカリ洗浄工程は、前記ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩1molに対して、アルカリ金属の量が、好ましくは0.05当量以上、より好ましくは0.1当量以上であって、好ましくは1当量以下、より好ましくは0.6当量以下となるように調整したアルカリ金属水溶液を接触させることが望ましい。アルカリ度が強くなると有機溶媒(B)が分解し、アセトアミド、酢酸が増加することがある。アルカリ金属の量が少なすぎるとビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の収率が低下することがある。
【0027】
アルカリ水溶液と接触させる際の反応溶液の温度は特に限定されないが、酢酸、アセトアミドの発生を抑制するため、好ましくは25℃以下、より好ましくは5℃以下であって、好ましくは0℃以上である。
【0028】
反応溶液とアルカリ水溶液との接触時間は、反応溶液とアルカリ水溶液との接触が充分なものであれば特に限定されないが、例えば、反応溶液の添加終了から好ましくは1分程度、より好ましくは3分程度、攪拌しながら、反応溶液とアルカリ水溶液とを接触させるのが好ましい。接触時間が短すぎると不純物が残留することがある。
【0029】
(III−2)水洗浄工程
アンモニア留去工程後、あるいは上記アルカリ洗浄工程後、反応溶液中には例えば有機溶媒(B)の分解生成物である酢酸、アンモニア、アセトアミドなどの不純物が含まれているため、水洗して酢酸やアセトアミドの含有量を低減する。本発明では、上記アンモニア留去工程でアンモニアを低減しているため、逆反応が抑制され、該逆反応によるアンモニウムイオンの発生も抑えることができる。また逆反応によって生成するビスフルオロスルホニルイミドのアンモニウム塩も抑制できる。
【0030】
水洗する際の水の量は特に限定されないが、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の質量に対して好ましくは1倍以上、より好ましくは1.3倍以上であって好ましくは2倍以下、より好ましくは1.5倍以下である。水の量が少なすぎると洗浄効果が低下し、不純物の除去が不十分になる。一方、多すぎると過剰に洗浄することになりビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の収率が低くなる。
【0031】
水洗時の水の温度は特に限定されないが、好ましくは0℃以上、45℃以下、より好ましくは0℃以上、25℃以下である。温度が低すぎると水の取り扱いがし難くなり、一方、温度が高すぎるとビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩が分解するおそれがある。
【0032】
水洗時間は特に限定されないが、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上であって、好ましくは10分以下、より好ましくは5分以下である。
【0033】
アセトアミド含有量が好ましくは300質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下、酢酸含有量は500質量ppm以下が好ましい。
【0034】
(IV)濃縮工程
濃縮工程は、洗浄後の反応溶液から有機溶媒(B)と水とを分離し、ジ(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と有機溶媒(A)を含む電解液材料を得る工程である。具体的に濃縮工程では水分を除去して濃縮すると共に、反応溶媒として使用した有機溶媒(B)を、該有機溶媒(B)とは異なる有機溶媒(A)と交換する。有機溶媒(A)としては非水溶媒が好ましく、一般に非水電解質電池用電解液に使用される有機溶媒であればよく、誘電率が大きく、電解質の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い有機溶媒がより好ましく、特に好ましくはカーボネート系溶媒である。カーボネート系溶媒としては、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン(炭酸2,3−ブタンジイル)、炭酸1,2−ブチレン及びエリスリタンカーボネート等の飽和環状炭酸エステル類;炭酸ビニレン、メチルビニレンカーボネート(MVC;4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、エチルビニレンカーボネート(EVC;4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、2−ビニル炭酸エチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)及びフェニルエチレンカーボネート(4−フェニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)等の不飽和結合を有する環状炭酸エステル類;フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート及びトリフルオロプロピレンカーボネート等のフッ素含有環状炭酸エステル類が挙げられ、これらのうち、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが好ましいものとして挙げられる。これらは一種又は2種以上を使用することができる。
い。
【0035】
例えば、沸点の異なる複数の有機溶媒(A)を用いる場合、沸点が100℃程度の有機溶媒(A−1)と沸点が200℃を超えるエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ポリカーボネートなど有機溶媒(B)と共沸しない有機溶媒(A−2)とを用いることで、効率的に有機溶媒(B)を除去できる。
【0036】
濃縮工程に使用できる反応装置は特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレーター、フラスコ、槽型反応器又は減圧可能な槽型反応器等が挙げられる。
【0037】
有機溶媒(A)の使用量は、反応溶液中のビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の濃度に応じて適宜決定すればよいが、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の質量に対して、好ましくは0.8倍以上、より好ましくは1.0倍以上であって、好ましくは1.5倍以下、より好ましくは1.2倍以下である。有機溶媒(A)が少なすぎるとアルカリ金属塩が析出することがある。一方、多すぎると、電解液への希釈化の組成範囲が狭くなる。
【0038】
またビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の濃縮効率を一層高めるため、反応溶液を加熱しながら濃縮工程を行ってもよい。加熱温度は使用する有機溶媒(B)に応じて適宜設定すればよいが、有機溶媒(B)の除去効率を向上させるためには、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上である。一方、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の分解を抑制する観点からは、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
【0039】
また、濃縮工程は減圧下で実施してもよい。減圧度をコントロールすることによって、低温であっても効率よく有機溶媒(B)を除去でき、また、熱によるビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩の分解も防ぐことができる。減圧度は有機溶媒(B)の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、好ましくは3hPa以上、より好ましくは5hPa以上であって、好ましくは50hPa以下、より好ましくは20hPa以下である。
【0040】
濃縮工程の時間は特に限定されないが、好ましくは8分以上、より好ましくは10分以上であって、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下である。
【0041】
濃縮工程では水分量が好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは50質量ppm以下、有機溶媒(B)含有量が好ましくは3000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下となるまで濃縮を行うことが好ましい。濃縮工程は複数回繰り返してもよいし、有機溶媒(A−2)を順次添加して濃縮工程を行ってもよい。
【0042】
濃縮工程によって有機溶媒(B)と水分が留去されると共に、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と有機溶媒(A)を含む電解質材料が得られる。
【0043】
上記得られた電解液材料は実質的にビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と有機溶媒(A)を含み、残部は不純物である。本発明では不純物としてアセトアミド、アンモニウム、及び酢酸が微量に含まれていてもよい。具体的にはアセトアミドの含有量は好ましくは1500質量ppm以下(質量基準、以下同じ)、より好ましくは1000質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下である。アンモニウムの含有量は好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下であり、好ましくは1質量ppm以上である。酢酸の含有量は好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは750質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下である。これら不純物の含有量が低いほどより一層すぐれた電池特性が得られる。
【0044】
本発明の製法により得られるジ(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩と有機溶媒(A)を含む電解液材料は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
実施例1
No.1
従来公知の方法で作製されたNH
4FSIの粉体を用いてNH4FSI 12.5質量%の酢酸ブチル溶液を作製した。
【0047】
[カチオン交換工程]
得られたアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド12.5質量%の酢酸ブチル溶液のアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、リチウムの量が1.1当量となるように、18質量%の水酸化リチウム水溶液を加え、室温で15分間攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0048】
[アンモニア留去工程]
分液して得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を減圧下(20hPa)、55℃に加温し、15分間攪拌してアンモニアを留去した。
【0049】
[アルカリ洗浄工程]
アンモニアを留去した後、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、リチウム量が0.2当量となるように、0.45質量%の水酸化リチウム水溶液を加え、室温で、3分間攪拌してアルカリ洗浄を行った。アルカリ洗浄後、水層を除去し、得られた有機層を温度(55℃)及び、圧力(20hPa)の制御下で10分間の減圧蒸留を行った。
【0050】
[水洗浄工程]
減圧蒸留して得られた有機層に対して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの質量の1.3倍量の純水を加え、室温で3分攪拌した。
【0051】
[濃縮工程]
ロータリーエバポレーター(IWAKI社製「REN−1000」)を使用して、減圧下で、水洗浄後のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液から反応溶媒である酢酸ブチル溶液、水を留去した。具体的にはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液に対して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの質量の1倍量のエチレンカーボネート(EC)、2倍質量のメチルエチルカーボネート(MEC)を加え、減圧下(20hPa)、55℃で10分加温し、水、酢酸ブチル、エチレンカーボネートを留去させた。その後、水分量が50質量ppm以下となるまで2倍質量のメチルエチルカーボネート(MEC)の添加を4回繰り返し、20hPa、55℃で各10分加温し、水、酢酸ブチル、メチルエチルカーボネートを留去させた。得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドのエチレンカーボネート溶液を電解液材料No.1とした。
【0052】
No.2
アンモニア留去工程において温度を55℃から25℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして電解液材料No.2を得た。
【0053】
No.3
カチオン交換工程において温度を室温から0℃に変更すると共に、0℃の18質量%の水酸化リチウム水溶液を使用したこと、0℃に冷却した反応溶液中に0℃に冷却したアルカリ洗浄液を投入する事でアルカリ洗浄を行ったこと以外は実施例1と同様にして電解液材料No.3を得た。
【0054】
No.4
カチオン交換工程においてリチウム量を1.0当量とすると共に、13質量%の水酸化リチウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液は、アンモニア留去工程を行わずに、アルカリ洗浄を行った。その際、リチウム量を0.6当量とすると共に、13質量%の水酸化リチウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にしてアルカリ洗浄工程を行った。アルカリ洗浄後、水洗工程を行わずに、実施例1と同一条件で濃縮工程を行って電解液材料No.4を得た。
【0055】
No.5
カチオン交換工程においてリチウム量を1.0当量とすると共に、13質量%の水酸化リチウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液は、アンモニア留去工程を行わずに、アルカリ洗浄を行った。その際、リチウム量を0.6当量とすると共に、13質量%の水酸化リチウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にしてアルカリ洗浄工程を行った。アルカリ洗浄後、実施例1と同一条件で水洗工程、濃縮工程を行って電解液材料No.5を得た。
【0056】
[GC−MASSによる分析]
ガスクロマトグラフ質量分析計を使用して、電解液材料No.1〜5に含まれるアセトアミド、及び酢酸を測定した。分析結果を表1に示す。
電解液材料を超脱水アセトンで40倍に希釈して測定溶液とした。
装置はサーモクエスト社製PolarisQを用い、イオン化法E/I法で測定した。
ガスクロ条件
恒温層:40℃5分−250℃10分 昇温速度10℃/分
流量:He 1.0mL/分
注入口:260℃、スプリット注入法 1/10
カラム:CP−VOLAMINE(0.25mm内径×30m)
【0057】
[イオンクロマトグラフによる分析]
イオンクロマトグラフィーを使用して、電解液電解液材料No.1〜5に含まれるアンモニウムイオンの量を測定した。
電解液材料を超純水(18.2Ω・cm超)で1000倍に希釈して測定溶液とした。
装置は日本ダイオネクス株式会社製ICS−2000を用いて測定溶液中のNH
4+を測定した。
分離モード:イオン交換
溶離液:15-30mM KOH水溶液
検出器:電気伝導度検出器
カラム:Ion PAC OG16−CS16
【0058】
【表1】
【0059】
表1から以下のことがわかる。カチオン交換後、アルカリ洗浄前にアンモニアの留去を行ったNo.1−1〜1−3では、アンモニアの留去を行わなかったNo.1−4、1−5と比べてアセトアミド、アンモニウム、及び酢酸含有量を低減することができた。No.1−1〜1−3ではアルカリ洗浄前にアンモニアを留去しているため、アセトアミドの発生が抑制されると共に、水洗浄時の逆反応が抑制されてアンモニウムの生成量が低減した。
【0060】
またNo.1−1〜1−3を比べると、アンモニア留去工程を加熱せずに常温で行ったNo.1−2と、カチオン交換工程を常温よりも低い温度で行ったNo.1−3は、カチオン交換工程を常温で行うと共にアンモニア留去工程を加熱して常温よりも高温で行ったNo.1−1と比べてアセトアミド、及び酢酸の発生を抑えることができた。このことから少なくともカチオン交換工程とアンモニア留去工程のいずれか一方の温度を低く制御することで、アセトアミド、及び酢酸量をより一層低減することができることがわかる。
【0061】
従来の製造方法で得られたNo.1−4(水洗浄工程なし)と、No.1−5(水洗浄工程有り)とを対比すると、水洗浄工程を行ったNo.1−5ではアセトアミド、酢酸含有量が減少したが、アンモニウム含有量が増加した。これは水洗浄時にLiFSIからNH
4FSIへの逆反応がおこってアンモニウムが生成したためである。
【0062】
一方、No.1−4では水洗浄工程を行わなかったため、逆反応に起因するアンモニウムの生成がないため、アンモニウム含有量は少ないが、アセトアミドや酢酸含有量が多かった。
【0063】
以上のように、従来の製法では水洗浄工程でアンモニア量を増加させることなく、アセトアミド、酢酸含有量を低減させることは難しかったが、アンモニア留去工程を行うことで、アセトアミド、酢酸、及びアンモニア含有量を低減できる。
【0064】
実施例2
(非水電解液の調製)
電解液材料No.1にEC、EMCを後添加して1.2M/L LiFSI EC/EMC=3/7組成の非水電解液Iを調整した。
【0065】
またエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7(体積比)で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6、キシダ化学株式会社製、電解質塩)を溶解させて、LiPF
6濃度1.2mol/Lの非水電解液IIを調製した。
【0066】
上記非水電解液Iと上記非水電解液IIとを、1:1(体積比)で混合して非水電解液No.1を調製した。
【0067】
電解液材料No.1に代えて電解液材料No.2〜5を用いて非水電解液Iを調製した以外は上記と同様にして非水電解液No.2〜5を調製した。なお、非水電解液No.1〜5の組成は、LiPF
6(濃度0.6mol/L)、LiFSI(濃度0.6mol/L)、及びEC/MEC(体積比3/7)である。
【0068】
電池評価
ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製
正極活物質(LiCoO
2)、導電助剤1(アセチレンブラック、電気化学工業製)、導電助剤2(グラファイト)及び結着剤(PVdF、株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製「クレハL#1120」)を93:2:2:3の質量比で混合しN−メチルピロリドンに分散させた正極合剤スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)上に両面塗工し、乾燥、圧縮して、正極シートを作製した。
【0069】
負極活物質として人造黒鉛、導電助剤(VGCF、昭和電工社製)、及び結着剤(スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース)を100:0.5:2.6(質量比)の割合で混合し、これをN−メチルピロリドンと混合してスラリー状の溶液を作製した。この負極合剤スラリーを銅箔(負極集電体)上に片面塗工し、乾燥、圧縮して負極シートを作製した。
【0070】
上記正極シート(150μm)の両面に対向する様に負極シート(85μm)を積層し、その間にポリエチレン製のセパレーター(径16μm)各1枚を挟んだ。2枚のアルミニウムラミネートで負極シート、セパレーター、正極シート、セパレーター、負極シートの順に積層された積層体を挟み込みアルミラミネートフィルム内を0.7mLの非水電解液1で満たし、真空状態で密閉し(容量64mAh)、リチウムイオン二次電池No.1を作製した。非水電解液No.2〜5に変更したこと以外は上記と同様にして、リチウムイオン二次電池No.2〜5を作製した。
【0071】
リチウムイオン二次電池No.1〜5を用いて下記(1)〜(3)の電池特性を評価した。
【0072】
(1)初回充放電効率
リチウムイオン二次電池について、温度25℃の環境下、充放電試験装置(株式会社アスカ電子製ACD−01、以下同じ。)を使用し、所定の充電条件(0.5C(32mA)、4.35V、定電流定電圧モード)で5時間充電を行った。その後、所定の放電条件(0.2C(12.8mA)、放電終止電圧2.75V、定電流放電)で放電を行った。正極活物質1g当たりの初回の充電容量、及び正極活物質1g当たりの初回の放電容量を記録し、得られた値から下記式より、初期充放電効率を算出した。結果を表2に示す。
初期充放電効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100
【0073】
(2)初期レート特性
充放電試験装置(アスカ電子株式会社製「ACD−01」)を使用して、温度25℃の環境下、リチウムイオン二次電池を、1C(64mA)の電流値、4.35V定電圧で、0.05C(1.28mA)まで電流が垂下するまで充電した後、0.2C(12.8mA)で2.75Vまで定電流放電を行った。この時の正極活物質1g当たりの放電容量を0.2C容量とした。次いで、再び上記条件で充電を行った後、2.0Cで2.75Vまで定電流放電を行った。このときの正極活物質1g当たりの放電容量を2.0C容量とした。得られた放電容量の値から下記式より、初期レートを算出した。結果を表2に示す。
初期レート特性(%)=(2.0C容量/0.2C容量)×100
【0074】
(3)容量維持率
充放電試験装置(ACD−01、アスカ電子株式会社製)を使用して、温度45℃にて、充電速度1Cでの4.35V定電流定電圧充電を電流量が0.02Cになるまで行い、放電速度1Cで電圧が2.75Vになるまで放電を行い、各充放電時にはそれぞれ10分の充放電休止時間を設けてサイクル特性試験を行い、下記式より、容量維持率を算出した。結果を表2に示す。
容量維持率(%)=(50サイクル時の放電容量/1サイクル時の放電容量)×100
【0075】
【表2】
【0076】
本発明の要件を満足する製造方法で得られた電解液材料No.1〜3から作製したリチウムイオン二次電池No.1〜3は、従来の製造方法で得られた電解液材料No.4、5から作製したリチウムイオン二次電池No.4、5と比べて、初期充放電効率、初期レート特性、及び容量維持率が向上した。
【0077】
このことから、アセトアミド、アンモニウム、酢酸の含有量が低減することで、電池特性が向上することがわかる。