(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
排気ターボ過給機は、排気ガスで駆動されるタービンによってコンプレッサを回転させるものであり、タービンとコンプレッサとは回転軸によって連結されており、タービン室やコンプレッサ室を有するハウジングを備えている。
【0003】
タービンはタービンハウジングに配置されており、タービンハウジングには、タービンを外周外側から囲うタービン側スクロール空間が形成されたスクロール部と、タービン側スクロール空間の始端に連通した排気ガス導入通路を有する入口筒部とが形成されており、入口筒部の開口部にフランジを設けて、フランジをシリンダヘッド又は排気マニホールドに固定するようになっている。
【0004】
排気ターボ過給機のハウジングは、耐熱性を確保するため一般に鋳鋼品が使用されており、主として、タービンハウジングとコンプレッサハウジング、及び両者の間に位置した中間ハウジング(軸受けハウジング)の3つの単位ハウジング
で構成されているが、特許文献1には、ハウジングを3つに分離したタイプにおいて、スクロール部に冷却水ジャケットを設けて、冷却水の入口と出口とを入口筒部の開口部寄りに配置することが開示されている。
【0005】
他方、特許文献2には、ハウジングの全体をアルミで一体化して、その内部に、タービン側スクロール部や軸受け部やコンプレッサ側スクロール部を冷却するための冷却水ジャケットを設けることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の冷却水ジャケットは、タービン側スクロール部のうちフランジと反対側の端部のみに形成されており、冷却水の入口と出口とが冷却水ジャケットに対してどのように繋がっているのかは不明であるが、冷却水ジャケットは入口筒部には形成されていないと推測される。
【0008】
他方、特許文献2では、タービンハウジングに形成した冷却水ジャケットは、タービン側スクロール空間を全周に亙って囲っているが、排気ガス導入通路の冷却についての説明は見当たらないことから、入口筒部には冷却水ジャケットは形成されていないと推測される。
【0009】
さて、排気ターボ過給機においては、排気ガスは、まず、入口筒部に形成されている排気ガス導入通路に流入するため、入口筒部の冷却の必要性が高い。入口筒部はシリンダヘッドや排気マニホールドに固定されていて、シリンダヘッドや排気マニホールドからの伝熱もあるため、タービンハウジングをアルミ製として軽量化する場合、入口筒部を冷却することの必要性は特に高くなるといえる。
【0010】
しかるに、上記のとおり、いずれの特許文献も、入口筒部の冷却の必要性や、入口筒部に冷却水ジャケットを設けた場合の強度確保などに関する言及は見当たらず、排気ターボ過給機を水冷式とするに当たっての技術的空白が存在しているといえる。
【0011】
また、入口筒部のフランジはシリンダヘッドや排気マニホールドに固定されるため、入口筒部は、排気ガスで加熱されるだけでなくシリンダヘッドや排気マニホールドからも伝熱されるが、入口筒部が冷却されていないと、入口筒部が非常に昇温するため、タービンハウジングをアルミ化すると大きな熱変形が発生するおそれがあり、軽量化が困難になることも予想される。
【0012】
更に、タービンハウジングを鋳造する場合の問題も予想される。すなわち、鋳造では、空洞になる部分は砂の中子で構成されるが、この中子には、鋳型でしっかりと保持できることと、鋳造後に砂を容易に除去できることとが要請されるが、冷却水ジャケットが入口筒部の端面に開口していないと、中子を安定的に保持し難いのみならず、鋳砂の排除も非常に面倒であり、従って、量産が困難になると予想されるのである。
【0013】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、
「タービンを外周外側から囲うタービン側スクロール空間が形成されたタービン側スクロール部と、前記タービン側スクロール空間の始端に連通した排気ガス導入通路を有す
る入口筒部とを備えており、前記入口筒部の開口端に、シリンダヘッ
ドに固定されるフランジを設けている
」
という基本構成において、
「前記タービン側スクロール部には、前記タービン側スクロール空間を囲うように冷却水ジャケットが形成されて、前記入口筒部には、前記排気ガス導入通路を囲うように冷却水ジャケットが形成されており、
前記タービン側スクロール部の冷却水ジャケットと入口筒部の冷却水ジャケットとを互いに連通させて、冷却水入口は前記タービン側スクロール部の冷却水ジャケットに連通するように形成し、冷却水出口は前記入口筒部の開口部端面に開口するように形成している
」
という特徴を備えている。
【0015】
本願発明は、様々な局面を有している。その例として、請求項2では、
請求項1において、
「前記タービン側スクロール部の冷却水ジャケットは、前記タービン側スクロール空間の外周方向に延びる隔壁によって2つに分断されて、前記入口筒部の冷却水ジャケットは、当該入口筒部の軸心方向に延びる
と共に前記タービン側スクロール部の隔壁と連続した入口筒部側の隔壁によって2つに分断されており、前記
入口筒部側の隔壁の端面が前記入口筒部の開口部端面にしている
」、
という構成になっている。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によると、入口筒部に冷却水ジャケットが形成されているため、入口筒部を冷
却して昇温を抑制できる。このため、タービンハウジングのアルミ化を大きく前進させることができる。更に、冷却水ジャケット
の冷却水出口は入口筒部の端面に開口しているため、シリンダヘッドや排気マニホールドに固定されるフランジの熱変形なども大幅に抑制して、ボルト(及びナット)による締結部の緩みやシール性の低下といった問題の発生を防止できる。
【0018】
また、冷却水ジャケット
の冷却水出口が入口筒部の端面に開口しているため、鋳造に際しては、中子を安定的に保持することができると共に、鋳造後の鋳砂の排除も容易であり、従って、高い品質を確保しつつ量産化可能になる。
【0019】
シリンダヘッドに直接締結するタイプや、スペーサを介してシリンダヘッドに締結するタイプの場合、冷却水ジャケット
は、シリンダヘッドやスペーサに形成された冷却水通路に接続
されて、シリンダヘッドやスペーサ
に冷却水
が排出されるため、冷却水の経路を簡素化することができる。
【0021】
請求項2では、
隔壁の存在によってタービンハウジングの強度を向上できる。従って、アルミ化した場合に、特に有益である。そして、
隔壁は入口筒部の端面まで至っているため、
隔壁を介してシリンダヘッ
ドの熱を冷却水に伝えることができる。従って、シリンダヘッ
ドから冷却水への熱交換を促進して、フランジの熱変形防止効果を一層向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1).概要とタービンハウジング
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、概要を説明する。本実施形態では、方向を明確にするため前後・左右の文言を使用するが、これは、回転軸の長手方向を左右方向として、これと直交した水平方向を前後方向として、シリンダヘッドから向いた方向を前としている。念のため、
図3に方向を明示している。
【0024】
図1に示すように、排気ターボ過給機は、ブレード式のタービン1及びコンプレッサ2を備えており、両者は、水平姿勢の回転軸3で一体に固定されている。また、排気ターボ過給機は、タービンハウジング4とコンプレッサハウジング5、及び、両者の間に位置した中間ハウジング6とを有しており、タービンハウジング4と中間ハウジング6とは、アルミの鋳造品として一体に製造されている。コンプレッサハウジング5は、アルミのダイキャスト品又は鋳造品である。
【0025】
タービンハウジング4には、タービン1が回転自在に配置されたタービン室7と、タービン室7の外周部に連通したタービン側スクロール空間8とが形成されている。タービン側スクロール空間8は、始端の断面積が終端の断面積よりも大きくて環状に近い渦状になっており、その始端(上端)に、
図3(B)に示すように、タービン側スクロール空間8の始端部の接線方向に延びる排気ガス導入通路9が連通している。
【0026】
従って、タービンハウジング4は、排気ガス導入通路9が形成された入口筒部4aを有しており、その先端に、シンリダヘッド
11にボルト(及びナット)で固定されるフランジ12を形成している。従って、タービンハウジング4は、主要な要素として、入口筒部4aとタービン側スクロール部4bと有しており、入口筒部4aは、概ね水平に近い横長姿勢になっている。
図5に示すように、本実施形態では、シンリダヘッド11の排気側面11aは、上に行くほど鉛直線13との間隔が広がるように少し後傾姿勢になっている。
【0027】
排気ガス導入通路9からタービン側スクロール空間8に流入した排気ガスは、タービン側スクロール空間8の周方向に流れながらタービン1を回転駆動しつつ、軸方向に排出される。従って、タービンハウジング4には、排気ガスを排出する筒状の排気出口14が、回転軸3の軸心方向に向けて開口しており、この排気出口14に排気管又は触媒ケースが接続される。
【0028】
また、
図1に部分的に示すように、タービンハウジング4のうち排気出口14の近くには、排気ガス導入通路9から排気出口14に排気ガスを逃がすバイパス通路15が形成されている。バイパス通路15は排気出口14の上に位置している。そこで、
図4から容易に理解できるように、タービンハウジング4に、入口筒部10と排気出口14とタービン側スクロール部4bとに繋がった拡張部16を形成し、この拡張部16に、バイパス通路15と、これに連通したウエストゲートバルブ配置空間17(
図1参照)とを形成している。
【0029】
ウエストゲートバルブ配置空間17は、排気出口14に連通して回転軸3の軸心方向に開口しており、ウエストゲートバルブは、排気出口14の開口方向から挿入されて、支軸によってタービンハウジング4に連結される。
図3に符号18で示すのは、支軸が挿通される穴である。
【0030】
タービンハウジング4には、冷却水による冷却手段として、タービン側スクロール空間8及び排気ガス導入通路9を中間ハウジング6の側から囲うインサイドジャケット19と、タービン側スクロール空間8及び排気ガス導入通路9を排気出口14の側から囲うアウトサイドジャケット20とが形成されており、これらインサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20とは、上部隔壁21aと下部隔壁21bとで左右に分断されている。従って、上下の隔壁21a,21bは、入口筒部4a
を2つ割りしてタービン側スクロール部4bを左右
2つに(軸方向)に
分断する面に沿って延びており、フランジ12と反対側の前端部において繋がっている。
【0031】
図3(B)や
図4(B)に示すように、インサイドジャケット19及びアウトサイドジャケット20は、入口筒部4aの後面に開口している。また、インサイドジャケット19及びアウトサイドジャケット20は、入口筒部4aの箇所では1本の流れになっているが、タービン側スクロール部4bの箇所では環状になっている。ジャケット19,20の側面視形状は、
図8(A)で模式的に示している。
【0032】
インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20との冷却水の流れの態様は、幾つか有り得る。その例を
図6(A)(B)で模式的に示している。
図6(A)に示す
参考例では、上下の隔壁21a,21bの前端部を繋ぐことなく前端部において互いに分離することにより、タービン側スクロール部4bの前端部に、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20との連通部22を形成しており、冷却水をインサイドジャケット19からアウトサイドジャケット20に流している。従って、この例では、インサイドジャケット19の後端が冷却水入口22aとなって、アウトサイドジャケット20の後端が冷却水出口22bになっている。
【0033】
図6(B)に示す例
は実施形態であり、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20とは完全に分離して、両ジャケット19,20の下端にそれぞれ冷却水入口22aを形成して、冷却水出口22bを後端に形成している。図示していないが、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20との前部下端を連通部22で繋いで、連通部22に冷却水入口22aを設けることも可能である。この場合は、両ジャケット19,20の後端は、それぞれ冷却水出口22bになる。
【0034】
図2に示すように、アウトサイドジャケット20は、タービン側スクロール空間8の周囲を、概ね1/4程度の範囲で囲って
いる。インサイドジャケット19は、アウトサイドジャケット20とほぼ対称状の形態
になっているが、インサイドジャケット19の内周は、回転軸3が嵌まっている内周穴23の近くまで延長してもよい。
図1,2のとおり、回転軸3のうちタービンハウジング4の内周穴23に嵌まっている箇所には、複数の環状溝24が形成されていて、この環状溝24にオイルシール24aが嵌め込まれている。
【0035】
更に、
図3,
図4(B),
図5に示すように、入口筒部4aの下面には、フランジ12からタービン側スクロール部4bまで延びる補強用のリブ25が下向きに突設されており、このリブ25は、入口筒部4aの下部に形成した下部隔壁21bと上下に重なっている。リブ25は板状であり、前後の全長に亙ってほぼ等しい上下幅になっているが、上下幅を前後方向に向けて徐々に異ならせたり、下端が側面視でアーチ状になるように形成したりすることも可能である。なお、上部隔壁21aは、下部隔壁21b及びリブ25の上に位置している。
【0036】
(2).コンプレッサハウジング・中間ハウジング
本願発明との関係は薄いが、念のため、コンプレッサ部と中間ハウジング6とも説明しておく。
図1,2に示すように、コンプレッサハウジング5には、コンプレッサ2が回転自在に配置されたコンプレッサ室26と、コンプレッサ室26の外側に位置したコンプレッサ側スクロール空間27とが形成されており、両者は連通路28で繋がっている。
【0037】
コンプレッサ側スクロール空間27は始端から終端に向けた断面積が拡大しており、終端には、出口通路29が連通している。
図1に符号30で示すのは、ダイヤフラム式アクチェータの取り付けボスである。符号31は、コンプレッサハウジング5に嵌まって
いる蓋部材31であり、正確には、コンプレッサハウジング5が、本体部と蓋部材31とで構成されてい
る。
図1,2に示すように、中間ハウジング6には、回転軸3が回転自在に嵌まる軸受け部33
を形成しており、軸受け部33に、オイル層を介して中空のフローティングメタル34が配置され
て、回転軸3の中途部が、フローティングメタル34の内部に回転自在に嵌まっている。フローティングメタル34は、軸受け部33に設けたストッパー35によって回転不能に保持されている。
【0038】
軸受け部33の上部には、上下方向に貫通したオイル入口36が形成されている。また、軸受け部33の下方には、空洞状のオイル出口空間37が形成されている。
図5(A)に示すように、オイル出口空間37は側面視で半円状の形態を成している。更に、中間ハウジング6のうち軸受け部33の左右両側方には、第1及び第2のオイル飛散空間38,39が形成されている。
【0039】
例えば
図2に示す符号40は、回転軸3に固定された第1オイルシールである。なお、第1オイルシール40の断面表示(ハッチング)は省略している。符号41は、コンプレッサハウジング5に固定されたリテーナリング、符号41aは、第1オイルシール40に固定された第2オイルシールである。回転軸3の端部は、ナット42でコンプレッサ2に固定されている。
図1に示すように、中間ハウジング6とコンプレッサハウジング5とは、C形のストッパーリング43で抜け不能に保持
されている。
【0040】
(3).まとめ
以上の説明のとおり、
冷却水ジャケット19,20は入口筒部4aの端面に開口しているので、フランジ12の冷却性に優れており、フランジ12の熱変形を抑制できる。また、ジャケット19,20の開口端
が冷却水出口22aとして機能
することにより、冷却水通路の簡素化にも貢献できる。更に、鋳造するに際しては、フランジが下になるように鋳型を構成することにより、ジャケット19,20のための中子を安定的に保持できる。鋳造後の鋳砂の排除は、片方又は両方の
冷却水ジャケットから圧縮空気を噴出させる等して、容易に行える。
【0041】
実施形態のように、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20とを隔壁21a,21bで左右に分断すると、タービンハウジング4は高い強度を確保することができると共に、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20との流路は単純化するため、冷却水の淀み現象を生じることなく、ジャケット19,20に冷却水をまんべんなく流すことができる利点がある。
【0042】
従って、いびつな熱変形を防止して、熱ひずみも大幅に抑制できる。その結果、高い信頼性・耐久性を得ることができる。また、実施形態では、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20とが上下の隔壁21a,21bで分断されていると共に、下面には下部隔壁21bと上下に連続したリブ25が形成されているため、上からの荷重に対して高い抵抗を発揮する。
【0043】
(4).他の実施形態
及び参考例
図7(A)に示すように、インサイドジャケット19及びアウトサイドジャケット20を、それぞれサイド隔壁21cで上下に分断することも可能である。この場合は、タービンハウジング4の強度(特に入口筒部4aの強度)は格段に高くなる。インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20とのうち片方だけ(例えばインサイドジャケット19だけ)をサイド隔壁21cで分断することも可能である。
【0044】
この場合は、ジャケット19,20は、おおまかには(B)に示す側面視形状になるが、冷却水の流し形態としては、点線で示すように、ジャケット19,20を下から上に流して、冷却水の入口と出口とを上下に近接させてもよいし、実線で示すように、前端部に冷却水入口22aを形成して、分岐した上下流路の後端にそれぞれ冷却水出口22bを形成してもよい。冷却水の流れには直進性があるので、冷却水のスムースな流れを確保するという点では、実線で示す通水形態が優れているかもしれない。インサイドジャケット19の前端とアウトサイドジャケット20の前端とに繋がった連通部を形成して、この連通部に冷却水入口22aを設けることも可能である。
【0045】
図8に示す
参考例では、インサイドジャケット19とアウトサイドジャケット20とを左右に配置した場合において、入口筒部4aの後端部の上下中間部に、インサイドジャケット19の上下中間部に連続して左右外側に広がった冷却水入口22aと、アウトサイドジャケット20の上下中間部に連続して左右外側に広がった冷却水出口22bとを形成して、これら冷却水入口22aと冷却水出口22bとが、シリンダヘッドに形成した通水穴22c,22dに連通するように設定している。
【0046】
このように形成すると、各穴22a〜22dは円形かそれに近い形状に設定できるため、冷却水の圧損をできるだけ抑制して流れをスムース化できる利点がある。