(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792415
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】コンクリート床版の撤去方法及びコンクリート床版の新設方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
E01D22/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-215209(P2016-215209)
(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公開番号】特開2018-71275(P2018-71275A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505413255
【氏名又は名称】阪神高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】藤代 勝
(72)【発明者】
【氏名】大野 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】一宮 利通
(72)【発明者】
【氏名】金治 英貞
(72)【発明者】
【氏名】小坂 崇
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−158124(JP,A)
【文献】
特開平05−195576(JP,A)
【文献】
特開昭60−073969(JP,A)
【文献】
特開昭64−001865(JP,A)
【文献】
特開平01−198908(JP,A)
【文献】
特開2007−169886(JP,A)
【文献】
特開2015−086595(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/135512(WO,A1)
【文献】
特開2016−094819(JP,A)
【文献】
特開2017−137627(JP,A)
【文献】
特開2017−089302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化材により桁のフランジの上面から突出したジベルが包含されることによって前記桁の前記フランジと接合されたコンクリート床版を前記桁の前記フランジから撤去するためのコンクリート床版の撤去方法であって、
前記フランジの下面から前記ジベルの周囲をくり抜くように前記フランジの前記上面に達する孔を削孔する削孔工程と、
前記硬化材により包含された前記ジベルと一緒に前記桁の前記フランジから前記コンクリート床版を分離する床版分離工程と、を備えたコンクリート床版の撤去方法の前記床版分離工程の後に、
前記削孔工程で削孔された前記孔に前記フランジの前記上面から突出する新たなジベルを取付けるジベル取付工程と、
前記ジベル取付工程で取り付けられた新たな前記ジベルが硬化材により包含されることによって、前記桁の前記フランジと新たなコンクリート床版とを接合する床版接合工程と、
を備えたコンクリート床版の新設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床版の撤去方法及びコンクリート床版の新設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路等を対象としたコンクリート床版が桁より支持されている橋梁において、車両の大型化や通行車両台数の増加によるコンクリート床版の疲労損傷や、凍結防止剤の散布による塩害劣化が著しくなってきており、コンクリート床版の取替えが求められることが多くなっている。例えば、特許文献1には、硬化材により桁のフランジの上面から突出したジベルが包含されることによって桁のフランジと接合されたコンクリート床版を桁のフランジから撤去するための技術が開示されている。特許文献1の技術では、桁のフランジの上面から突出したジベルが除去され、コンクリート床版が桁のフランジから撤去された後に、桁のフランジの上面に鋼床版が設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6‐80244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンクリート床版を撤去する際には、例えば、桁の上面の両側にコンクリートカッターを入れることにより桁の上面の両側のコンクリート床版が撤去される。桁の上面の直上のコンクリートをブレーカなどで斫ることにより、桁の上面の直上のコンクリート床版が撤去される。ジベルの本数が多く、ジベルを囲むように鉄筋が配置されていることや、桁の上面の直上のコンクリートを斫る作業は桁を損傷することを避けるために手作業となることから、桁の上面の直上のコンクリートを斫る作業には多大な労力を要している。また、コンクリートを斫る作業ではブレーカが用いられるため、騒音及び振動が発生し、周辺環境に悪影響を与える可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、作業の労力や騒音及び振動を低減しつつコンクリート床版を桁のフランジから撤去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、硬化材により桁のフランジの上面から突出したジベルが包含されることによって桁のフランジと接合されたコンクリート床版を桁のフランジから撤去するためのコンクリート床版の撤去方法であって、フランジの下面からジベルの周囲をくり抜くようにフランジの上面に達する孔を削孔する削孔工程と、硬化材により包含されたジベルと一緒に桁のフランジからコンクリート床版を分離する床版分離工程とを備えたコンクリート床版の撤去方法である。
【0007】
この構成によれば、硬化材により桁のフランジの上面から突出したジベルが包含されることによって桁のフランジと接合されたコンクリート床版を桁のフランジから撤去するためのコンクリート床版の撤去方法において、削孔工程によりフランジの下面からジベルの周囲をくり抜くようにフランジの上面に達する孔が削孔され、床版分離工程により、硬化材により包含されたジベルと一緒に桁のフランジからコンクリート床版が分離されるため、桁のフランジの上面の直上のコンクリートを斫る作業の労力や騒音及び振動を低減しつつコンクリート床版をフランジから撤去することができる。
【0008】
また、本発明は、本発明のコンクリート床版の撤去方法の床版分離工程の後に、削孔工程で削孔された孔にフランジの上面から突出する新たなジベルを取付けるジベル取付工程と、ジベル取付工程で取り付けられた新たなジベルが硬化材により包含されることによって、桁のフランジと新たなコンクリート床版とを接合する床版接合工程とを備えたコンクリート床版の新設方法である。
【0009】
この構成によれば、ジベル取付工程により、本発明のコンクリート床版の撤去方法の床版分離工程の後に、削孔工程で削孔された孔にフランジの上面から突出する新たなジベルが取付けられ、床版接合工程により、ジベル取付工程で取り付けられた新たなジベルが硬化材により包含されることによって、桁のフランジと新たなコンクリート床版とが接合されるため、削孔工程で削孔された孔を利用して新たなジベルをフランジに取付けることにより、コンクリート床版を新設する労力を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート床版の撤去方法によれば、作業の労力や騒音及び振動を低減しつつコンクリート床版を桁のフランジから撤去することができる。また、本発明のコンクリート床版の新設方法によれば、コンクリート床版を新設する労力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るコンクリート床版の撤去方法及びコンクリート床版の新設方法が適用される橋梁を示す縦断面図である。
【
図2】床版切断工程後の橋梁を示す縦断面図である。
【
図5】床版分離工程時の橋梁を示す縦断面図である。
【
図6】ジベル取付工程後の橋梁を示す縦断面図である。
【
図7】床版配置工程後の橋梁を示す縦断面図である。
【
図8】床版接合工程後の橋梁を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリート床版の撤去方法及びコンクリート床版の新設方法について、図面を用いて詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るコンクリート床版の撤去方法及びコンクリート床版の新設方法は、鋼桁等の桁10のフランジ11の上面12に既存のRC床版等のコンクリート床版20が設置された橋梁1に適用される。橋梁1は、合成桁橋であっても、非合成桁橋であってもよい。
図1の例では、コンクリート床版20は、コンクリート床版により形成される道路の傾斜に合せて水平面から傾斜している。
【0013】
フランジ11は、鋼板等の金属製である。フランジ11は、コンクリート床版20の被支持面22を支持する上面12及び上面12の反対側の下面13を有する。フランジ11の上面12と下面13との間の厚さは、16〜22[mm]程度である。桁10のフランジ11の上面12からは、スタッドジベル14等のジベルが突出している。スタッドジベル14は、フランジ11の上面12に溶接等で接合されている。スタッドジベル14は、例えば、頂部の直径が24〜28[mm]程度であり、頂部以外の部位の直径が20〜24[mm]程度である。
【0014】
コンクリート床版20は、コンクリート床版20を形成するコンクリート21等の硬化剤により桁10のフランジ11の上面12から突出したスタッドジベル14等のジベルが包含されることによって桁10のフランジ11と接合されている。なお、ジベルとは、上記のスタッドジベル14の他に、棒状の鉄筋の一端部が上面12に固定された鉄筋ジベルや、棒状の鉄筋がU字状に湾曲させられたU字状鉄筋の棒状の鉄筋の両端部が上面12に固定されたU字状鉄筋ジベル等が含まれる。つまり、棒状の金属部材の端部がフランジ11の上面12に固定されている物であれば、上面12に固定された部位以外の形状がどのような物であっても、ジベルに含まれる。
【0015】
本実施形態のコンクリート床版の撤去方法は、上述したようなコンクリート床版20を桁10のフランジ11から撤去するためのコンクリート床版の撤去方法である。以下、本実施形態のコンクリート床版の撤去方法の各工程について説明する。
【0016】
図2に示すように、桁10のフランジ11の周囲の切断位置23において、コンクリートカッター等によりコンクリート床版20を切断する床版切断工程が行われる。切断された床版切断片24はクレーン等により撤去される。なお、床版切断工程は省略されてもよい。また、床版切断工程は、後述する削孔工程と床版分離工程との間に行われてもよい。従来の工法では、桁10のフランジ11の上面12の直上でスタッドジベル14と一体化したコンクリート21を斫って撤去する必要があり、できるだけ斫る部分を小さくする必要があるため、切断位置23の箇所は多くなる。一方、本実施形態では、コンクリート床版20の撤去の際に斫る部分が無くなるため、より大きなブロックでのコンクリート床版20の撤去が可能となり、切断位置23の箇所を少なくすることができる。
【0017】
図3に示すように、桁10のフランジ11の下面13からスタッドジベル14等のジベルの周囲をくり抜くようにフランジ11の上面12に達する孔を削孔する削孔工程が行われる。削孔工程においては、例えば、フランジ11の下面13にリーマ30を適用することにより、
図4に示すように、フランジ11の下面13からスタッドジベル14の周囲をくり抜くようにフランジ11の上面12に達する孔40を削孔することができる。
【0018】
孔40の直径は、スタッドジベル14等のジベルがフランジ11の上面12に取付けられている部位の直径より6〜10[mm]程度大きい直径にでき、例えば、28〜32[mm]にできる。フランジ11は金属製であるため、コンクリート床版のコンクリートを斫る作業に比べて、削孔工程は短時間、低騒音及び低振動で行うことができる。削孔工程により、スタッドジベル14等のジベルとフランジ11とが分離される。なお、削孔工程は、上述した床版切断工程と並行して行うことができる。
【0019】
図5に示すように、コンクリート21等の硬化材により包含されたスタッドジベル14等のジベルと一緒に桁10のフランジ11からコンクリート床版20を分離する床版分離工程が行われる。削孔工程により、スタッドジベル14等のジベルとフランジ11とが分離されており、フランジ11の上面12とコンクリート床版20の被支持面22とは厳密に一体化はされていないため、コンクリート床版20の重量を吊り上げることが可能な程度の力によりフランジ11からコンクリート床版20を分離することができる。
【0020】
床版分離工程においては、例えば、クレーン等によりコンクリート床版20を上方に吊り上げることにより、桁10のフランジ11からコンクリート床版20を分離することができる。床版分離工程ではコンクリート床版のコンクリートを斫る作業は不要であるため、コンクリートを斫る作業に比べて、床版分離工程は低騒音及び低振動で行うことができる。
【0021】
以下、本実施形態のコンクリート床版の新設方法について説明する。
図6に示すように、床版分離工程の後に、削孔工程で削孔された孔40にフランジ11の上面12から突出する新たなスタッドジベル50等のジベルを取付けるジベル取付工程が行われる。スタッドジベル50の頂部の直径や、頂部以外の部位の直径は、以前に設置されていたスタッドジベル14と同様にできる。
【0022】
スタッドジベル50は、その基部にネジ溝部51を有している。スタッドジベル50は、フランジ11の上面12に補強用座金53を介してナット52により固定され、フランジ11の下面13に補強用座金53を介してナット52により固定されている。補強用座金53は、スタッドジベル50のネジ溝部51に対応した内径を有し、孔40の内径よりも大きな外径を有する平座金である。なお、補強用座金53は省略されてもよい。また、スタッドジベル50等のジベルは、フランジ11の孔40にネジ止め以外の接着剤による接着及び溶接による接合等により取り付けられてもよい。
【0023】
図7に示すように、桁10のフランジ11の上面12の周縁部にシール材70を設置するシール材設置工程が行われ、新たなコンクリート床版60をシール材設置工程で設置されたシール材70を介してフランジ11の上面12に配置する新床版配置工程が行われる。シール材70は、例えば、シールスポンジ等をその端部に含む型枠板等を適用することができる。シール材70のフランジ11の上面12からの高さは、例えば、コンクリート床版20により形成されていた道路の路面の上面12からの高さから、新設するコンクリート床版60の厚さを減算した高さである。
【0024】
新設するコンクリート床版60は、例えば、プレキャスト床版であり、スタッドジベル50等のジベルに対応した位置にずれ止め用孔部61を有する。プレキャスト床版は、例えば、土木学会発行の「設計・施工指針(案)」に材料及び製法が規定された超高強度繊維補強コンクリートにより形成されたプレキャスト床版にしてもよい。
【0025】
図8に示すように、ジベル取付工程で取り付けられた新たなスタッドジベル50等のジベルが無収縮モルタル81及び膨張コンクリート82等の硬化材により包含されることによって、桁10のフランジ11と新たなコンクリート床版60とを接合する床版接合工程が行われる。床版接合工程においては、まず、桁10のフランジ11の上面12と、コンクリート床版60と、シール材70とで囲まれた空間に無収縮モルタル81等の充填材が充填されて固化させられる。次に、ずれ止め用孔部61には、膨張コンクリート82等の充填材が充填されて固化させられる。
【0026】
本実施形態によれば、コンクリート床版20を形成するコンクリート21等の硬化材により桁10のフランジ11の上面12から突出したスタッドジベル14等のジベルが包含されることによって桁10のフランジ11と接合されたコンクリート床版20を桁10のフランジ11から撤去するためのコンクリート床版の撤去方法において、削孔工程によりフランジ11の下面13からスタッドジベル14の周囲をくり抜くようにフランジ11の上面12に達する孔40が削孔され、床版分離工程により、コンクリート21により包含されたスタッドジベル14と一緒に桁10のフランジ11からコンクリート床版20が分離されるため、桁10のフランジ11の上面12の直上のコンクリートを斫る作業の労力を低減しつつコンクリート床版20をフランジ11から撤去することができる。また、本実施形態では、桁10のフランジ11の上面12の直上でスタッドジベル14と一体化したコンクリート21を斫って撤去する必要が無く、斫る部分を小さくする必要も無いため、より大きなブロックでのコンクリート床版20の撤去が可能となり、切断位置23の箇所を少なくして、コンクリート床版20を切断する作業の労力も低減することができる。
【0027】
また、削孔工程は床版切断工程と並行して行うことができるため、コンクリート床版20の撤去に要する時間を短縮することができる。また、本実施形態のコンクリート床版の撤去によれば、コンクリートを斫る作業の騒音が無いため、周辺環境の悪化が防止される。
【0028】
また、ジベル取付工程により、本実施形態のコンクリート床版の撤去方法の床版分離工程の後に、削孔工程で削孔された孔40にフランジ11の上面12から突出する新たなスタッドジベル50等のジベルが取付けられ、床版接合工程により、ジベル取付工程で取り付けられた新たなスタッドジベル50が無収縮モルタル81及び膨張コンクリート82等の硬化材により包含されることによって、桁10のフランジ11と新たなコンクリート床版60とが接合されるため、削孔工程で削孔された孔40を利用して新たなスタッドジベル50をフランジ11に取付けることにより、コンクリート床版60を新設する労力を低減することができる。
【0029】
つまり、コンクリート床版20の撤去時に削孔された孔40が再利用されるため、新たなジベルを新たな位置に溶接する作業を省略することができる。また、新たなジベルを設置することが容易であるため、コンクリート床版60を新設する時間を短縮することができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。例えば、削孔工程での削孔の態様は、適宜変更することができる。また、床版接合工程においては、新たなコンクリート床版としてプレキャスト床版ではなく、コンクリート床版の撤去及び新設の工事現場で打設されたコンクリート床版が新設され、ジベル取付工程で取り付けられた新たなジベルが、工事現場で打設されたコンクリート床版のコンクリートにより包含されることによって、桁のフランジと新たなコンクリート床版とが接合されてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…橋梁、10…桁、11…フランジ、12…上面、13…下面、14…スタッドジベル、20…コンクリート床版、21…コンクリート、22…被支持面、23…切断位置、24…床版切断片、30…リーマ、40…孔、50…スタッドジベル、51…ネジ溝部、52…ナット、53…補強用座金、60…コンクリート床版、61…ずれ止め用孔部、70…シール材、81…無収縮モルタル、82…膨張コンクリート。