特許第6792433号(P6792433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6792433-透光板 図000004
  • 特許6792433-透光板 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792433
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】透光板
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20201116BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20201116BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20201116BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20201116BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20201116BHJP
   B63B 19/02 20060101ALI20201116BHJP
   B64C 1/14 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B32B27/00 B
   G02B1/14
   C23C16/30
   B60J1/00
   B63B19/02
   B64C1/14
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-232674(P2016-232674)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-89779(P2018-89779A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 早紀
【審査官】 河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−194075(JP,A)
【文献】 特開2004−059953(JP,A)
【文献】 特開2008−173936(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/152488(WO,A1)
【文献】 特開2015−51591(JP,A)
【文献】 特表2002−521247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G02B 1/10− 1/18
C23C16/00−16/56
B60J 1/00− 1/20
B63B 1/00−69/00
B64C 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基体と、前記樹脂基体上に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層上に設けられたセラミック層とからなる透光板であって、
前記セラミック層は、Si、O、H及びCを含有する非晶質体からなり、
前記セラミック層におけるCの含有量は30〜50at%、Hの含有量は10〜20at%、Oの含有量は15〜25at%、Siの含有量は10〜20at%であることを特徴とする透光板。
【請求項2】
前記ハードコート層は、シリコン系のハードコート層である請求項1に記載の透光板。
【請求項3】
前記透光板は、前記樹脂基体と前記ハードコート層との間に、プライマー層を有する請求項1または2に記載の透光板。
【請求項4】
前記樹脂基体は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の透光板。
【請求項5】
前記樹脂基体の厚さは、1〜10mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の透光板。
【請求項6】
自動車、列車、航空機又は船舶用のガラスとして使用される請求項1〜5のいずれか1項に記載の透光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光板に関する。
【背景技術】
【0002】
耐久性の必要なディスプレイ用のパネルや自動車用のガラス等には、耐傷性に優れた無機ガラスが広く使用されてきた。近年、軽量化及び割れにくさの観点から、樹脂ガラスが注目されている。しかし、樹脂ガラスは、無機ガラスよりも表面の硬度が低いため、耐摩耗性や耐傷性が不充分であるといった欠点を有している。
【0003】
このような課題を解決するため、特許文献1には、透明樹脂基材と、該透明樹脂基材上の少なくとも片面に形成される、少なくとも1層のシリカ膜層と、該シリカ膜層上に形成されるダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜層を最外層として有することを特徴とする透明樹脂積層体が記載されている。
【0004】
このようなDLC膜層は、炭素間のSP結合を主体とした非晶質な炭素で、非常に硬く、低摩擦係数、耐摩耗性、耐食性、ガスバリア性を有し、絶縁性に優れたダイヤモンド状炭素膜である。特許文献1には、DLC膜層は、シリカ膜層よりも潤滑性に優れるため、動摩擦係数の小さい均一な薄膜作製が可能であり、更に、耐食性、硬度、ガスバリア性に優れているため、保護膜としてシリカ膜層の外側に設けることがより効果的であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−49050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層が非常に硬く、低摩擦係数、耐摩耗性、耐食性、ガスバリア性に優れるものであるが、DLCは薄い茶色から黒色を呈しているため、外観、透明性の問題がある。
【0007】
本発明では上記課題を鑑み、透明性を確保しつつ、DLCよりも耐久性に優れたセラミック被膜を有する樹脂ガラスからなる透光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透光板は、樹脂基体と、上記樹脂基体上に設けられたハードコート層と、上記ハードコート層上に設けられたセラミック層とからなる透光板であって、上記セラミック層は、Si、O、H及びCを含有する非晶質体からなり、上記セラミック層におけるCの含有量は30〜50at%、Hの含有量は10〜20at%、Oの含有量は15〜25at%、Siの含有量は10〜20at%であることを特徴とする。
【0009】
DLCは、ダイヤモンドと同様のsp結合及びグラファイトと同様のsp結合を併せもった非晶質構造を有する炭素質材料である。一方、酸化珪素などの珪素酸化物の被膜は、透過性は高いものの、追従性や柔軟性が低いため、クラックが生じやすく、機械的強度が低い被膜である。
【0010】
本発明では、これらの被膜の特徴を複合させ、耐久性があり透明度に優れた透光板を提供する。本発明の透光板は、樹脂基体上にハードコート層を備えるとともに、ハードコート層上にセラミック層を備え、さらにセラミック層は、Si、O、H及びCを含有する非晶質体からなり、上記セラミック層におけるCの含有量は30〜50at%、Hの含有量は10〜20at%、Oの含有量は15〜25at%、Siの含有量は10〜20at%であることを特徴としている。DLCにSi、O及びHが加わることによって、高い透明度と、DLCよりも優れた耐摩耗性を得ることができる。
【0011】
さらに、本発明の透光板は、樹脂基体上に、樹脂基体よりも弾性率の大きなハードコート層を備えているので、セラミック層との界面にかかる応力を小さくすることができ、セラミック層の耐摩耗性を向上させることができる。
【0012】
また、DLCでは、炭素どうしの結合の存在により、茶褐色の色を呈するようになる。本発明では、DLCの被膜にSi、O及びHを所定量導入し、非晶質の被膜を形成することにより、炭素どうしの結合を妨げ、柔軟性に優れ、かつ透明度の高いセラミック被膜を実現している。
【0013】
本発明の透光板において、上記ハードコート層は、シリコン系のハードコート層であることが好ましい。
ハードコート層がシリコン系であると、Siを含有するセラミック層との接合力を強くするとともに、ハードコート層が十分な硬度を有しているので、セラミック層との界面に大きな力を発生させにくくすることができる。
【0014】
本発明の透光板は、上記樹脂基体と上記ハードコート層との間に、プライマー層を有することが好ましい。
透光板が樹脂基体とハードコート層との間にプライマー層を有すると、弾力性の高い層が形成されるので、層間に生じる歪みをプライマー層が吸収し、ハードコート層とセラミック層との界面に発生する応力を緩和することができる。
【0015】
本発明の透光板において、上記樹脂基体は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなることが好ましい。
ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートは、透明度が高く、ハードコート層、セラミック層と複合させて、高い透明度を確保することができる。
【0016】
本発明の透光板において、上記樹脂基体の厚さは、1〜10mmであることが好ましい。
樹脂基体の厚さが上記範囲であると、例えば自動車用等のガラスとして使用する場合の機械的強度を確保することができ、さらに、ガラス全体に歪み等が発生しにくくなる。
【0017】
本発明の透光板は、自動車、列車、航空機又は船舶用のガラスとして使用されることが好ましい。
上述のとおり、本発明の透光板は耐摩耗性に優れるため、自動車用のガラス等として過酷な屋外での使用にも耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の透光板の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施例および比較例のセラミック層の成分比の分析結果を示すグラフである。
【0019】
(発明の詳細な説明)
図1は、本発明の透光板の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示す透光板20は、樹脂基体21と、樹脂基体21上に設けられたプライマー層24と、プライマー層24上に設けられたハードコート層23と、ハードコート層23上に設けられたセラミック層22とからなる。
【0020】
以下、本発明の透光板について説明する。
【0021】
本発明の透光板は、樹脂基体と、上記樹脂基体上に設けられたハードコート層と、上記ハードコート層上に設けられたセラミック層とからなる透光板であって、上記セラミック層は、Si、O、H及びCを含有する非晶質体からなり、上記セラミック層におけるCの含有量は30〜50at%、Hの含有量は10〜20at%、Oの含有量は15〜25at%、Siの含有量は10〜20at%であることを特徴とする。上記セラミック層は、透光板の最外層として設けられていることが好ましい。
【0022】
DLCは、ダイヤモンドと同様のsp結合及びグラファイトと同様のsp結合を併せもった非晶質構造を有する炭素質材料である。一方、酸化珪素などの珪素酸化物の被膜は、透過性は高いものの、追従性や柔軟性が低いため、クラックが生じやすく、機械的強度が低い被膜である。
【0023】
本発明では、これらの被膜の特徴を複合させ、耐久性があり透明度に優れた透光板を提供する。本発明の透光板は、樹脂基体上にハードコート層を備えるとともに、ハードコート層上にセラミック層を備え、さらにセラミック層は、Si、O、H及びCを含有する非晶質体からなり、上記セラミック層におけるCの含有量は30〜50at%、Hの含有量は10〜20at%、Oの含有量は15〜25at%、Siの含有量は10〜20at%であることを特徴としている。DLCにSi、O及びHが加わることによって、高い透明度と、DLCよりも優れた耐摩耗性を得ることができる。なお、本明細書においてat%とは、原子の比率を示す。
【0024】
このようなセラミック層の厚さは、30〜100nmであることが好ましい。セラミック層の厚さがこの範囲であると、摩耗しにくくクラックを生じにくいセラミック層を得ることができる。
【0025】
本発明の透光板は、樹脂基体上に、樹脂基体よりも弾性率の大きなハードコート層を備えているので、セラミック層との界面にかかる応力を小さくすることができ、セラミック層の耐摩耗性を向上させることができる。
【0026】
また、DLCでは、炭素どうしの結合の存在により、茶褐色の色を呈するようになる。本発明では、DLCの被膜にSi、O及びHを所定量導入し、非晶質の被膜を形成することにより、炭素どうしの結合を妨げ、柔軟性に優れ、かつ透明度の高いセラミック被膜を実現している。
【0027】
本発明の透光板において、樹脂基体は、透明な樹脂材料からなる基体である。樹脂材料としては、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリスチレン(PS)等が挙げられる。
【0028】
これらの中では、樹脂基体は、ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートからなることが好ましい。
ポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートは、透明度が高く、ハードコート層、セラミック層と複合させて、高い透明度を確保することができる。
【0029】
本発明の透光板において、樹脂基体の形状は、特に限定されるものではなく、平板、曲板、半円筒、円筒状の他、その断面の外縁の形状は、楕円形、多角形等の任意の形状であってもよい。
例えば、本発明の透光板を自動車、列車、航空機又は船舶用のガラスとして使用する場合、樹脂基体は、曲面状に湾曲していることが好ましい。
【0030】
本発明の透光板において、樹脂基体は、無色である必要はなく、有色であってもよい。
【0031】
本発明の透光板においては、樹脂基体とセラミック層等との密着性を向上させるため、あるいはすりガラスとするため、サンドブラスト処理や化学薬品等によって樹脂基体の表面が粗化されていてもよい。
【0032】
本発明の透光板において、ハードコート層は、セラミック層に加わる変形を防止するために設けられる層であり、例えば、樹脂材料からなる。
ハードコート層を形成する樹脂材料としては、例えば、シリコーン樹脂、シリカハイブリッドコンポジット、アクリル樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。シリカハイブリッドコンポジットとは、シリカと樹脂の複合材料である。このほかにも、ハードコート層を形成する材料は、シリカゾルなどの無機ゾルを硬化した無機コートであってもよい。これらは1種又は2種以上使用することができる。これらの材料を用いてハードコート層を形成することにより、ハードコート層とセラミック層との密着性を向上させることができ、セラミック層により付与される耐摩耗性等をより充分に発揮することができる。
【0033】
中でも、ハードコート層を形成する材料は、シリコン系であることが好ましい。
ハードコート層がシリコン系であると、Siを含有するセラミック層との接合力を強くするとともに、ハードコート層が十分な硬度を有しているので、セラミック層との界面に大きな力を発生させにくくすることができる。
シリコン系のハードコート層とは、例えば、シリコーン樹脂、シリカハイブリッドコンポジット、シリカゾルの硬化物などからなる、Siを含有するハードコート層を意味する。シリコーン樹脂をハードコート層とする場合には、有機溶媒とシリコーン樹脂の溶液を塗布し、乾燥・硬化させることにより得ることができる。シリカゾルの硬化物をハードコート層とする場合には、シリカゾルの水溶液を塗布し、乾燥させることによって得ることができる。塗布の方法は特に限定されず、例えば、スプレー、ディップ、コーターなどが挙げられる。
【0034】
本発明の透光板において、ハードコート層の厚さは特に限定されないが、高い表面硬度を得る観点から、1〜10μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。
【0035】
本発明の透光板は、上記樹脂基体と上記ハードコート層との間に、プライマー層を有することが好ましい。
【0036】
本発明の透光板において、プライマー層は、樹脂基体とハードコート層とを接着させるために設けられる層であり、樹脂材料からなる。
【0037】
透光板が樹脂基体とハードコート層との間にプライマー層を有すると、弾力性の高い層が形成されるので、層間に生じる歪みをプライマー層が吸収し、ハードコート層とセラミック層との界面に発生する応力を緩和することができる。
【0038】
プライマー層を構成する樹脂材料は、樹脂基体及びハードコート層に対する接着性が良好であることが重要であり、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂材料では、良好な接着性が得られる。これらは、1種又は2種以上使用することができる。これらの材料は樹脂基体及びハードコート層との接着性に優れるため、プライマー層を介して樹脂基体及びハードコート層を強固に接着することができる。中でも、プライマー層を形成する材料は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂又はエポキシ樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。なお、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合体である。
【0039】
本発明の透光板において、プライマー層がアクリル樹脂からなる場合、上記アクリル樹脂は、少なくとも、エチレン性不飽和結合を1分子中に少なくとも2個以上有するアクリレート系化合物を含有するものが好ましく、中でも(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。また、上記アクリル系樹脂は、上記多官能(メタ)アクリレートと組み合わせて、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有する単官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。単官能(メタ)アクリレートを併用することにより、ハードコート層の製膜性及び密着性が向上する。
【0040】
本発明の透光板において、プライマー層の厚さは特に限定されないが、樹脂基体及びハードコート層との接着性の観点から、1〜10μmが好ましく、2〜5μmがより好ましい。
【0041】
本発明の透光板において、上記樹脂基体の厚さは、1〜10mmであることが好ましい。
樹脂基体の厚さが上記範囲であると、例えば自動車用等のガラスとして使用する場合の機械的強度を確保することができ、さらに、ガラス全体に歪み等が発生しにくくなる。
【0042】
本発明の透光板は、自動車、列車、航空機又は船舶用のガラスとして使用されることが好ましい。
上述のとおり、本発明の透光板は耐摩耗性に優れるため、自動車用のガラス等として過酷な屋外での使用にも耐えることができる。
【0043】
本発明の透光板において、セラミック層、ハードコート層及びプライマー層は、樹脂基体の片面に設けられていてもよく、樹脂基体の両面に設けられていてもよい。
【0044】
[透光板の用途]
本発明の透光板は、耐摩耗性が必要な用途に好適に使用することができる。
特に、本発明の透光板は、自動車用のガラスとして使用されることが好ましく、具体的には、自動車用の窓、ランプカバー又はランプレンズに使用されることが好ましい。
【0045】
自動車用の窓としては、前後左右の窓、ルーフ等が挙げられる。中でも、リアウインドウに使用されることが好ましい。
ランプカバーとしては、ヘッドランプカバー、スモールランプカバー、ウィンカーカバー、フォグランプカバー、テールランプカバー、ブレーキランプカバー、バックランプカバー、車内灯カバー等が挙げられる。
ランプレンズとしては、ヘッドランプレンズ、スモールランプレンズ、ウィンカーレンズ、フォグランプレンズ、テールランプレンズ、ブレーキランプレンズ、バックランプレンズ、車内灯レンズ等が挙げられ、ランプカバーと一体化したものであってもよい。
【0046】
本発明の透光板は、自動車用のガラス以外の用途として、列車、航空機、船舶、二輪車、自転車等の自動車以外の輸送用機器用のガラス(窓、ランプカバー、各種ランプレンズ等);家屋、オフィスビル等の建築物用のガラス(窓等);室内照明(LED照明、蛍光灯)、信号機、道路灯、歩道灯、防犯灯、公園灯等の各種照明のカバー等に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例1、実施例2および比較例1について説明する。
実施例1、実施例2および比較例1においては、基材、プライマー層、ハードコート層については同様に製造し、プラズマCVDにて製造されるセラミック層のみが異なる。プラズマCVD工程では、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)の供給量を変えて透光板を作製した。HMDSOの供給量は、実施例1では49sccm、実施例2では7sccm、比較例1では0sccmであった。すなわち、比較例1では、Siは原料ガスに含まれておらず、得られるセラミック層は炭素を主成分としたDLCとなる。
【0048】
<基材>
透光板の基材として、ポリカーボネート(旭硝子株式会社製カーボグラス(登録商標))を用いた。100mm×100mm×5mmのサイズに切断して試料を作製した。
【0049】
<プライマー層>
得られたポリカーボネートの試料にアクリル系プライマーを塗布した。塗布は、アクリル系プライマーの溶液中にポリカーボネートの試料をディップしたのち引き上げ、自然乾燥させた。
得られたプライマー層の厚さは、3μmであった。
【0050】
<ハードコート層>
プライマーが塗布されたポリカーボネートの試料にハードコートを塗布した。ハードコートとして、シリコン系のハードコート(株式会社動研製シリコンハードコート730)を用いた。塗布は、プライマーと同様にシリコン系ハードコートの溶液中にポリカーボネートの試料をディップしたのち引き上げ、自然乾燥させた。
得られたハードコート層の厚さは、4μmであった。
【0051】
<プラズマCVD>
プラズマCVD装置にプライマーおよびハードコートが塗布されたポリカーボネートの試料をセットし、以下の順に従ってセラミック層を形成した。
真空引き工程:5×10−2Paとなるまで真空引きを行った。
水素クリーニング:水素ガス流量100sccm、チャンバ内圧力が0.6Paとなるようにして水素ガスを用いてクリーニングを行った。
プラズマCVD:Cガスを25sccm、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)ガスを流すとともに、チャンバ内圧力が0.4Paとなるようにして装置を調整した。次にパルス電圧4.5kVを加え、セラミック層を形成した。
以上により、樹脂基体上に、プライマー層、ハードコート層、セラミック層を有する透光板を得た。
【0052】
各透光板について、分光光度計を用いた分光透過率の測定、および、テーバー摩耗試験(JIS K 7204)、を行った。
【0053】
透光板の透過率を測定する際の装置条件は下記のとおりである。
測定器 :紫外可視近赤外分光光度計 UH4150(日立ハイテクサービス社製)
測定波長:380nm
【0054】
テーバー摩耗試験では、アルミナの砥粒を有する摩耗輪を、透光板のセラミック層表面で移動させ、移動前後のヘイズ値を測定する。この評価方法においては、数値が小さいほど耐摩耗性に優れる。装置条件は下記のとおりである。なお、測定はJIS K 7136:2000に準じて行う。
<ヘイズ値>
ヘイズ値は、以下の装置、条件を用いて測定する。耐摩耗性の高いセラミック層は数値が小さくなり、耐摩耗性の低いセラミック層は数値が大きくなる。
光計測器
ヘイズメータ:日本電色工業(株)製 NDH4000(A光源を使用)
光スポット径:7mm
摩耗試験
摩耗試験機 :taber社Model5135
サンプル回転数:1000回
回転速度 :72rpm
荷重 :500g
摩耗輪 :CS−10F
【0055】
実施例1、実施例2および比較例1におけるHMDSOの流量および分析結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
各透光板について、セラミック層の元素の構成比を分析した。実施例1、実施例2および比較例1における元素の構成比の分析結果を表2および図2に示す。表2および図2中、%はat%を意味する。
【0058】
【表2】
【0059】
本明細書において、セラミック層中のSiの含有量は、セラミック層の厚さをXnmとしたとき、セラミック層の表面からの距離が0.25X〜0.5Xnmの範囲において、ラザフォード後方散乱分光(RBS)解析によって深さ2nm毎に測定したSi濃度の平均値を意味する。セラミック層中のO、C及びHの含有量についても同様である。
RBS解析は、後方散乱測定装置(神戸製鋼所製、型番HRBS500)を使用し、入射イオン:He、入射エネルギー:450keV、散乱角:90度、入射角:試料法線に対し45度、試料電流:30nA、照射量:50μCの条件で行う。
【0060】
プラズマCVD装置にCとともにHMDSOを供給し製膜した実施例1および実施例2では、Siを含有するセラミック層が得られた。具体的には、Cの含有量は30〜50at%、Hの含有量は10〜20at%、Oの含有量は15〜25at%、Siの含有量は10〜20at%であるセラミック層が得られ、無色透明で透過率が高く、ヘイズ値が低く耐摩耗性が高いセラミック層を有する透光板が得られた。一方、プラズマCVD装置にCのみを供給しHMDSOを供給せず製膜した比較例1では、Siを含有しないセラミック層が得られ、茶色で透過率が低く、ヘイズ値が高く耐摩耗性が低いセラミック層を有する透光板が得られた。
【0061】
すなわち、本発明の透光板によれば、透明度が高く、耐摩耗性に優れる透光板を得ることができることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
20 透光板
21 樹脂基体
22 セラミック層
23 ハードコート層
24 プライマー層
図1
図2