(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
設置面に固定されるベースに旋回可能に設けられた旋回部と、前記旋回部に駆動軸を介して連結され複数のアーム部を有する多関節アームと、を有する多関節溶接ロボットであって、
前記旋回部は、前記旋回部の内部に配索される配索部材を、前記旋回部の一部から反設置面側に向けて導出する開口部が形成され、
一端部が前記開口部に固定され、前記開口部から導出された前記配索部材を湾曲させつつ他端部から前記設置面に向けて導出するガイド部材を備え、
前記ガイド部材は、前記配索部材に曲げ癖が付くことを防止するために予め定められた最小曲率半径以上を有する円弧状に湾曲した管状部材である、
ことを特徴とする多関節溶接ロボット。
前記配索部材は、前記旋回部から前記多関節アームの先端に設けた溶接トーチまでの間で、シールドガスを送気するガスホース、冷却水を送水する冷却水ホース、溶接電流を供給するパワーケーブルの少なくともいずれかを含み、一本のトーチケーブルに挿通されている請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の多関節溶接ロボット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の溶接ワイヤ、ケーブル、ホース類等のロボットに沿って配索される配索部材は、その素材に応じて許容される最小曲げ半径が制限される。例えば、溶接ワイヤは、曲げ半径が最小曲げ半径より小さくされると、溶接ワイヤに曲げ癖が付き、溶接時における溶接ワイヤの先端位置(溶接位置)に意図しない位置ずれを生じさせてしまう。その結果、溶接品質の低下を招くことがある。また、ケーブルやホースについても同様に、曲げ癖が付いたり、損傷を受けたりするおそれがある。
そこで、配索部材を多関節溶接ロボットに沿わせて配置する際は、配索部材の曲げ半径を大きく保てるように、各駆動軸の軸間距離を広げたり、アームの動作範囲を小さくしたりすることが考えられる。
しかし、軸間距離を広げると、ロボットのサイズが大きくなってコストアップの懸念が生じる。また、サイズアップによるロボットの設置場所への制約が増える場合がある。更に、ロボットのサイズアップによるアームの動作範囲縮小は、ロボットの利便性を低下させる。
また、配索部材を旋回部やアームから離して配置することも考えられるが、その場合、多関節溶接ロボットの動作時に、配索部材がその周囲との干渉が生じやすくなり、配索部材が損傷を受けやすくなる。
一方、配索部材を旋回部やアームの近傍に配置した場合は、アームの姿勢によっては配索部材が小さな曲率半径で屈曲されることがある。これを避けるには、旋回軸(第1駆動軸)を有する旋回部に接続される下部アーム基端側の回転軸(第2駆動軸)の、ベース設置面からの高さを大きくすればよいが、その場合、溶接ロボットの重量が嵩む不利がある。また、ワークに重ねてロボットを設置するときには、ロボットの第2駆動軸の上記高さをできるだけ低くした方が、ロボットの配置の自由度を広げられるため有利となる。
【0005】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、複雑な構造にすることなく溶接ワイヤ、ケーブル、ホース等の配索部材の曲げ半径を大きく保ち、且つ第2駆動軸のベース設置面からの高さを低減できる多関節溶接ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、設置面に固定されるベースに旋回可能に設けられた旋回部と、前記旋回部に駆動軸を介して連結され複数のアーム部を有する多関節アームと、を有する多関節溶接ロボットであって、前記旋回部は、前記旋回部の内部に配索される配索部材を、前記旋回部の一部から反設置面側に向けて導出する開口部が形成され、一端部が前記開口部に固定され、前記開口部から導出された前記配索部材を湾曲させつつ他端部から前記設置面に向けて導出するガイド部材を備え、
前記ガイド部材は、前記配索部材に曲げ癖が付くことを防止するために予め定められた最小曲率半径以上を有する円弧状に湾曲した管状部材である、ことを特徴とする。
この多関節溶接ロボットによれば、ガイド部材が、上方に向けて導出された配索部材を、湾曲させつつ下方に向けて導出させる。これにより、配索部材の曲率半径を大きく維持できるため、配索部材の巻き癖が防止され、意図しない位置ずれ等を生じさせることなく、高精度な溶接が可能となる。また、配索部材がガイド部材から下方に向けて導出されることで、旋回部の最大高さを低くでき、旋回部の第2駆動軸のベースからの高さをより低くできる。これにより、溶接ロボットの重心が低くなって溶接作業性が向上し、溶接ロボットの軽量化も図れ、溶接ロボットの利便性が高められる。
また、前記ガイド部材が、円弧状に湾曲した管状部材であるため、配索部材が管状部材によって安定して支持されながら円弧状に案内される。ガイド部材が一つの管状部材からなる場合は、ガイド部材を旋回部に簡単に組み付けできる。
【0008】
また、前記ガイド部材は、円弧状に配置された複数の管状部材を含むことが好ましい。
この構成によれば、ガイド部材を簡便に作製でき、配索部材を任意の湾曲形状に容易に支持させることができる。
【0009】
また、前記ガイド部材は、円弧状に湾曲した支持部材と、結束部材とを含むことが好ましい。
この構成によれば、ガイド部材をより簡単に構成できる。
【0010】
また、前記ガイド部材は、前記一端部が前記旋回部の旋回中心部に固定されていることが好ましい。
この構成によれば、旋回部が第1駆動軸回りに旋回しても、ガイド部材から導出される配索部材の曲率半径が変化せず、局所的に小さな曲率半径で屈曲することがない。
【0011】
また、前記配索部材は、コンジットケーブルに挿通された溶接ワイヤを含むことが好ましい。
この構成によれば、溶接ワイヤの損傷を防止でき、溶接ワイヤのハンドリング性が向上する。
【0012】
また、前記配索部材は、前記旋回部から前記多関節アームの先端に設けた溶接トーチまでの間で、シールドガスを送気するガスホース、冷却水を送水する冷却水ホース、溶接電流を供給するパワーケーブルの少なくともいずれかを含み、一本のトーチケーブルに挿通されていることが好ましい。
この構成によれば、溶接ロボットの溶接トーチへの溶接ワイヤ、シールドガス、冷却水、溶接電流等の供給を、一本のトーチケーブルにより実施でき、複雑な供給路の構成にすることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑な構造にすることなく溶接ワイヤ、ケーブル、ホース等の配索部材の曲げ半径を大きく保ち、且つ第2駆動軸のベース設置面からの高さを低減できる。これにより、溶接品質を向上して、多関節溶接ロボットの利便性を高められる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は溶接システムの全体構成図である。
溶接システム100は、多関節溶接ロボット11と、制御装置13と、溶接電源15と、教示コントローラ17、及び多関節溶接ロボット11の先端軸に接続されたエンドエフェクタ19とを備える。エンドエフェクタ19は、溶接トーチ21を有しており、図示例のように溶接トーチ21を互いに直交する2軸で揺動させる2軸ウィーバー23を備えていてもよい。エンドエフェクタ19としては、その他、切断機・計測装置等の他のツールであってもよい。
【0016】
この多関節溶接ロボット11による溶接加工は、制御装置13により多関節溶接ロボット11を駆動して、溶接トーチ21を溶接位置に移動させ、また、溶接電源15により溶接電流、アーク電圧を制御して、溶接トーチ21の先端の溶接ワイヤ20とワークWとの間にアークを発生させることで行う。
【0017】
制御装置13は、教示コントローラ17から入力された教示データに基づいて、多関節溶接ロボット11を駆動する。この制御装置13は、CPUが、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶部に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより、溶接システム100の各部の制御を行うコンピュータ装置である。
【0018】
溶接トーチ21の先端には、フラックス入りワイヤ、ソリッドワイヤ等の消耗式電極である溶接ワイヤ20が、ワイヤパック14からワイヤ送給装置45によって繰り出されて供給される。また、溶接電源15は、パワーケーブル16を通じて溶接トーチ21、及びワークWと接続される。溶接トーチ21には、制御装置13からの指令によって、多関節溶接ロボット11内に配設されたパワーケーブルを通じて溶接電流が供給される。また、溶接トーチ21には、シールドガスが供給され、溶接時の大気の巻き込みを保護する。また、溶接トーチ21にはトーチ冷却用の冷却水も供給される。
【0019】
制御装置13は、溶接ワイヤ20の先端とワークWとの間に溶接電源15からの溶接電流を供給して、シールドガス雰囲気にされた溶接トーチ21の先端にアークを発生させる。そして、アークが発生した溶接トーチ21を、多関節溶接ロボット11によって予め教示した軌跡通りに移動させる。これにより、ワークWが溶接される。
【0020】
次に、溶接システム100の多関節溶接ロボット11の構成について、更に詳細に説明する。
図2は多関節溶接ロボットの一例を示す外観斜視図、
図3は
図2に示す多関節溶接ロボットの駆動軸を模式的に示す説明図である。
ここで示す多関節溶接ロボット11は、一般的な6つの駆動軸を有する6軸ロボットである。多関節溶接ロボット11は、例示する6軸ロボットの以外にも、例えば7軸ロボットや、他の構成の多軸ロボットであってもよい。
【0021】
多関節溶接ロボット11は、設置面に固定されるベース31と、ベース31上で第1駆動軸S1回りに旋回可能に設けられた旋回部33と、水平方向に沿った第2駆動軸S2を介して一端部が旋回部33と連結され、第2駆動軸S2回りに回転自在な下部アーム(アーム部)35と、を備える。更に多関節溶接ロボット11は、下部アーム35の他端部に第2駆動軸と平行な第3駆動軸S3を介して接続された上部アーム(アーム部)37と、上部アーム37に設けられ、第4駆動軸S4によりアーム軸線回りに回転可能な手首旋回部39と、手首旋回部39に第5駆動軸S5を介して接続される手首曲げ部41と、手首曲げ部41の先端に第6駆動軸S6を有して接続される手首回転部43と、を備える。これら下部アーム35、上部アーム37及び手首旋回部39、手首曲げ部41、手首回転部43は、多関節アームを構成する。
【0022】
多関節溶接ロボット11の第1駆動軸S1〜第6駆動軸S6は、それぞれ図示しないサーボモータ等の駆動モータにより駆動される。これら駆動モータは、それぞれ制御装置13(
図1参照)から駆動信号が入力され、各駆動軸の回転角度が制御される。これにより、溶接トーチ21が、X,Y,Z空間で所望の姿勢に位置決め可能となっている。
【0023】
なお、本構成においては、多関節アームの最先端軸となる手首回転部43の第6駆動軸S6と、溶接トーチ21との間には、上記の2軸ウィーバー23が取り付けられているが、2軸ウィーバー23は省略されていてもよい。本構成の溶接トーチ21は、2軸ウィーバー23によりトーチ先端が2軸方向に揺動自在に支持される。
【0024】
多関節溶接ロボット11には、溶接トーチ21に消耗式電極(以降、溶接ワイヤ20と呼称する)を送給するワイヤ送給装置45が搭載される。図示例においては、ワイヤ送給装置45が下部アーム35の長手方向中間部に設けられた場合を示している。このワイヤ送給装置45は、不図示の通信線によって制御装置13(
図1参照)と接続され、制御装置13からの指令信号に従って、溶接ワイヤ20の送給を制御する。溶接ワイヤ20は、コンジットケーブル47の挿通孔に挿通され、挿通孔内で送給される。これにより、溶接ワイヤの損傷を防止しつつ、溶接ワイヤのハンドリング性を高められる。
【0025】
ワイヤ送給装置45は、上記した下部アーム35に設ける構成以外にも、例えば、後述するケーブルアダプタ55(
図2参照)の位置に設ける構成であってもよい。
【0026】
溶接トーチ21に供給されるシールドガスは、不図示のガス供給装置からガスホース49を通じて供給される。同様に冷却水は、不図示の冷却水循環装置から冷却水ホース51を通じて供給される。また、溶接電源15から出力される溶接電流は、前述のパワーケーブル16、及びパワーケーブル53を通じて供給される。
【0027】
コンジットケーブル47、ガスホース49、冷却水ホース51、パワーケーブル16,53等の配索部材は、ベース31から、上部アーム37の第3駆動軸S3の近傍に設けたケーブルアダプタ55に至るまで、ベース31と旋回部33の周囲と、下部アーム35に沿わせて配索される。ケーブルアダプタ55では、コンジットケーブル47、ガスホース49、冷却水ホース51、パワーケーブル53が、複合ケーブルである一本のトーチケーブル57に纏められる。このトーチケーブル57は、ケーブルアダプタ55から溶接トーチ21の間に配索される。
【0028】
本構成の多関節溶接ロボット11は、コンジットケーブル47、ガスホース49、冷却水ホース51、パワーケーブル16を含む配索部材が、ベース31を通じて旋回部33の内部に挿入され、旋回部33の上方の一部に設けられた開口部62から旋回部33の外側に導出される。この開口部62は、旋回部33の旋回中心部となる第1駆動軸S1の軸心位置に設けてある。そして、開口部62から反設置面側となる上方に向けて導出された配索部材は、開口部62に一端部61aが取り付けられたガイド部材61に挿入される。
【0029】
ガイド部材61は、一端部61aから他端部61bまで湾曲した管状部材であり、挿入された配索部材を、一端部61aから他端部61bまで案内する。案内された配索部材は、ガイド部材61の他端部61bから設置面側となる下方に向けて導出される。
【0030】
上記の配索部材の配置形態とすることで、配索部材に曲げ癖が付かないように、許容される最小曲率半径以上に維持できる。例えばコンジットケーブル47に挿通される溶接ワイヤには曲げ癖が付き易いため、配作部材がコンジットケーブル47である場合において、本構成のガイド部材61は、湾曲形状の最小曲率半径が100mm以上、350mm以下にされていることが好ましい。さらに好ましくは150mm以上、より好ましくは、200mm以上、特に好ましくは220mm以上である。ガイド部材61の最小曲率半径が、一般的な溶接ワイヤの許容曲率半径である100mm以上であることで、溶接ワイヤや、他の配索部材に曲げ癖が生じることを防止できる。また、最小曲率半径が350mm以下であることで、ロボットの大型化を抑制できる。
【0031】
次に、溶接ワイヤが挿通されたコンジットケーブル47の配置について、
図4〜
図7を用いてより詳細に説明する。
図4は
図2に示す多関節溶接ロボットの部分拡大図、
図5は
図2の多関節溶接ロボット11をV1方向から見たV1方向矢視図である。
【0032】
図4,
図5に示すように、ガイド部材61は、円弧状に湾曲した管状部材であって、一端部61aが、旋回部33の反設置面側となる上部における第1駆動軸S1の軸心位置に形成された開口部62に固定される。このガイド部材61は、第1駆動軸S1の軸心位置から斜め上方に向けて、下部アーム35の第2駆動軸S2の位置から離反する方向に延設される。そして、ガイド部材61の一端部61aと反対側の他端部61bは、設置面側となる下方に向けて開口している。
【0033】
ガイド部材61には、コンジットケーブル47の他に、溶接トーチ21(
図1参照)からベース31までの間で、シールドガスを送気するガスホース49、冷却水を送水する冷却水ホース51を含む配索部材が挿通される。
また、パワーケーブル16は、ベース31の外部接続部65を通じて、旋回部33の一部に設けられたターミナル63に接続される。ターミナル63にはパワーケーブル53の一端部53aが接続される。パワーケーブル53の他端部53bは、上部アーム37の第3駆動軸S3近傍のケーブルアダプタ55に接続される。パワーケーブル53は、一端部53aと他端部53bとの間が旋回部33と下部アーム35に沿って配置される。
【0034】
配索部材は、ベース31の外部接続部65から、旋回部33の内部に挿入される。旋回部33の内部に挿入された配索部材は、旋回部33の第1駆動軸S1の軸心位置に設けられた開口部62から、上方に向けて旋回部33の外側に延出される。延出された配索部材は、ガイド部材61の内部を通って、ガイド部材61の他端部61bから下方に向けて導出される。
【0035】
ガイド部材61の他端部61bから導出された配索部材は、旋回部33の外周に沿って下部アーム35の第2駆動軸S2に向けて配置され、第2駆動軸S2からケーブルアダプタ55までは、下部アーム35の長手方向に沿って配置される。
【0036】
図6はベース31と旋回部33の側面図、
図7はベース31と旋回部33の上視図である。
上記の配索部材の配置形態によれば、
図6,
図7に示すように、配索部材は、ベース31の側方の外部接続部65から開口部62に向けて、曲率半径R
inで湾曲して上方に向かう。そして、開口部62に固定されたガイド部材61の内部では、上方から徐々に下側に向かうように曲率半径R
pで湾曲する。
【0037】
ガイド部材61の他端部61bから下方に向けて延出された配索部材は、側面視で曲率半径R
v,上面視で曲率半径R
hの曲率で旋回部33の外周に沿って配置される。更に、下部アーム35の第2駆動軸S2付近では、側面視で曲率半径R
out、上面視で旋回部33と接近又は離反する方向の振れ幅SW1、及び下部アーム35の長手軸と振れ幅SW1に直交する方向の振れ幅SW2を有して上方に向けて湾曲する。
【0038】
上記の配索部材の曲率半径R
vとR
hで湾曲する部位、及び配索部材の曲率半径R
outで湾曲し、振れ幅SW1,SW2を生じ得る部位は、各曲率半径や振れ幅が合成されることで、3次元的に緩やかな曲率で湾曲している。
【0039】
よって、本構成の配索部材の配置形態によれば、配索部材に小さな曲率半径となる部位が生じず、全体にわたって大きな曲率半径を維持できる。仮に下部アーム35が前方向VF、又は後方向VBに駆動されても、コンジットケーブル47に局所的に小さな曲率半径となる部位は生じない。
【0040】
また、旋回部33が第1駆動軸S1回りに回転しても、配索部材が第1駆動軸S1の軸心位置を通って配置されるため、配索部材に捩れが生じるだけで、曲率半径は小さくならない。また、ガイド部材61は、旋回部33と一体に回転するので、配索部材と旋回部33との相対位置は、旋回部33の回転の影響を受けることがない。したがって、溶接ワイヤが挿通されたコンジットケーブル47が、溶接ワイヤに許容される最小曲率半径以下に屈曲されることがない。よって、溶接ワイヤに曲げ癖が付くことを確実に防止できる。
【0041】
そして、ガイド部材61が、配索部材の向きを上向きから下向きに案内するため、旋回部33から上方への延出高さが軽減される。その結果、第2駆動軸S2のベース31の下面からの高さHsを低くできる。第2駆動軸S2の高さHsが低くなると、ベース31と旋回部33の体積が小さくなり、多関節溶接ロボット11全体の重量を軽減できる。また、第2駆動軸S2が低いほどロボットの配置の自由度を拡大できるため、多関節溶接ロボット11の利便性を高められる。
【0042】
本構成の多関節溶接ロボット11は、下部アーム35にワイヤ送給装置45を取り付けることで、上部アーム37の重量を軽減し、溶接時に発生する慣性力を小さくしている。これにより、上部アーム37の先端に設けられた溶接トーチ21は、より正確で高速な動作を実現できる。
【0043】
また、下部アーム35においては、配索部材は、できるだけ下部アーム35に近づけて配置することが、ロボット駆動時に配索部材に生じる慣性力を軽減できるため好ましい。しかしながら、一般に配索部材の固定位置が下部アーム35に近いほど、下部アーム35の駆動により配索部材が小さな曲率半径で屈曲されやすくなる。ところが、本構成の配索部材の配置形態によれば、下部アーム35が第2駆動軸S2を中心とする回転移動をしても、配索部材は、湾曲解除する方向、又は湾曲方向に沿って大きな曲率半径を維持しながら曲がるだけで済む。よって、配索部材が局所的に小さな曲率半径で屈曲されることはない。
【0044】
上記のコンジットケーブル47が大きな曲率半径を維持しながら配置されて、溶接ワイヤに曲げ癖が付くことを防止することは、ガスホース49、冷却水ホース51、パワーケーブル16,53等の他の配索部材についても同様であり、各配索部材の曲げ癖や損傷等を防止できる。また、第2駆動軸S2の高さHsを低く抑えることにも同様にして寄与できる。
【0045】
次に、ガイド部材61の構成について、更に詳細に説明する。
図8Aはガイド部材61の拡大斜視図である。
ガイド部材61は、コンジットケーブル47等の配索部材を局所的に屈曲させることなく、全体を大きく湾曲させた状態で支持するものが好ましい。
図8Aに示すように、ガイド部材61は、全体が円弧状に形成され、コイル状の金属芯線71を樹脂材73で被覆した管状部材とすることができる。なお、ガイド部材61の断面は円形であるが、これに限らず、楕円、矩形状等であってもよい。また、樹脂材73に埋設される金属芯線71は、コイル状である以外にも、多数のリング状の金属線が同心状に互いに離間配置された構成であってもよい。
【0046】
また、
図8Bに示すように、コイル状の金属線75により形成されたスプリングライナーからなるガイド部材61Aであってもよく、
図8Cに示すように、ナイロン等の樹脂材77からなる円筒状、又は蛇腹状のガイド部材61Bであってもよい。ガイド部材61,61A,61Bが一体成形された管状部材であることで、旋回部33への組み付けを簡単にできる。
【0047】
更に、
図9Aに示すように、一体成形された管状部材である以外にも、複数の筒状体79A,79B,79Cからなるガイド部材61Cであってもよい。各筒状体79A,79B,79Cは、不図示のフレーム等に固定される。
また、
図9Bに示すように、円弧状に湾曲した支持部材81に複数の結束バンド(結束部材)83を設けたガイド部材61Dであってもよい。その場合、任意の湾曲形状を容易に形成でき、配索部材を案内する際の湾曲形状の自由度が向上する。支持部材は、例えば、円弧上に湾曲した棒材である。
【0048】
次に、多関節溶接ロボットの他の構成例を説明する。
図10は多関節溶接ロボットの他の構成例を示す側面図である。ここでは、
図2に示す部材と同一の部材については同一の符号を付与することで、その説明を省略又は簡単化する。
【0049】
本構成の多関節溶接ロボット11Aは、溶接トーチ21に接続されるトーチケーブル57Aを、ケーブルアダプタ55から更にベース31まで延長して配置している他は、前述の多関節溶接ロボット11と同様の構成である。
【0050】
ここで用いられるトーチケーブル57Aは、ベース31に接続されるコンジットケーブル47を含む複数のケーブルやホースからなる配索部材が、一本に纏めて被覆された複合ケーブルである。なお、トーチケーブル57Aのベース31から延出された先は、
図1に示すワイヤパック14に接続される。そして、制御装置13には、ロボット制御用ハーネスが接続される。
【0051】
図11にトーチケーブル57Aの一例としての断面図を示す。
本構成のトーチケーブル57は、ケーブル中心に溶接ワイヤ20が挿通されるコンジットケーブル47が配置され、コンジットケーブル47の周囲に、パワーケーブル54、ガスホース49、冷却水ホース51等が配置される。これらケーブルとホースは、被覆材91により覆われて複合ケーブルを構成している。
【0052】
本構成の多関節溶接ロボット11Aによれば、一本のトーチケーブル57Aをベース31から溶接トーチ21まで配置するだけで済み、配線構造を簡単化できる。また、ロボット動作時に生じる遠心力を、多数本のケーブル、ホースが混在する場合と比較して、小さくできる。よって、ロボットの高速動作に有利な構成となり、より高い応答性が実現可能となる。
【0053】
また、上記した多関節溶接ロボット11,11Aは、いずれも水平床面にベース31を固定して設置された構成であるが、設置形態はこれに限らない。例えば、
図12Aに示すように、天井72にベース31を固定して、天井72から多関節アームを吊り下げた多関節溶接ロボット11Bの設置形態であってもよい。また、
図12Bに示すように、床面から立設された壁面74にベース31を固定して、壁面74に多関節アームを取り付けた多関節溶接ロボット11Cの設置形態であってもよい。いずれの設置形態であっても、前述同様の作用効果が得られる。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
例えば、上記の多関節溶接ロボット11,11Aの構成では、旋回部33の開口部62を、第2駆動軸S2の軸心位置となる旋回中心部に設けているが、厳密な軸心位置でなくてもよい。つまり、旋回中心部とは、旋回部33の旋回動作時に、コンジットケーブル47等の配索部材の曲率半径が許容範囲内に収まる範囲で、軸心位置から偏った位置を含むものとする。
また、ガイド部材61は、管状部材である他に、板材を組み合わせて構成してもよく、配索部材の湾曲が保持できれば、紐やピン等で支持する構成としてもよい。