(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792497
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】サーマルプロテクター
(51)【国際特許分類】
H01H 37/54 20060101AFI20201116BHJP
H01H 37/32 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
H01H37/54 C
H01H37/32 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-64072(P2017-64072)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-166097(P2018-166097A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】ショット日本株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲之
【審査官】
関 信之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−129201(JP,A)
【文献】
特開2005−129471(JP,A)
【文献】
特開昭59−009820(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/058362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/54
H01H 37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点を含む第1リードと、可動接点を含む第2リードと、温度によって形状を変化させ固定接点と可動接点とを開離させる熱応動素子と、平常時の電気抵抗が小さく特定温度をこえると電気抵抗が急激に増大して前記熱応動素子の動作時の形状を所望の間保持する発熱素子と、前記両接点と前記熱応動素子および前記発熱素子を収容する絶縁ケースと、この絶縁ケースの開口部を覆った蓋体とを備え、前記発熱素子は、前記第1リードと前記第2リードを介して常時通電可能な状態に保持されており、かつ前記第1リードまたは前記第2リードの少なくとも一方に導電固着されており、さらに前記発熱素子のみを後付けできる構成としたことを特徴とする瞬断保護機能付きサーマルプロテクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞬断保護機能を有するサーマルプロテクターに関する。
【背景技術】
【0002】
バイメタルを用いるサーマルプロテクターは、従来から電動器、二次電池などの電源回路の保護装置に利用されている。このような保護装置には、高精度な動作設定が可能で、動作温度も比較的自由に設定でき、かつ繰り返し復帰動作できるという利点から、接点開閉式のサーマルプロテクターが用いられる。サーマルプロテクターの基本構成としては、固定接点を有する第1のリード端子と、可動接点を有し、この可動接点を固定接点に押圧して接触させる可動アームと、この可動アームに電気接続した第2のリード端子と、温度変化に伴って固定接点と可動接点を開閉するように可動アームを作動させるバイメタルと、これら部材を収容する筐体からなる。例えば、特許文献1には、固定片3、可動片2、反転型の熱応動素子4、PTC素子(正特性サーミスター5)を扁平なケース6に収容したサーマルプロテクター(ブレーカー1)において、正特性サーミスター5及び熱応動素子4は固定片3と可動片2との間に挟まれ、熱応動素子4は正特性サーミスター5の上面53に被さり、かつ熱応動素子4の片面が反転時に正特性サーミスター5に接触し、もう片面が可動片2に接触する状態で各部材を積層的に配置することで、小型化を実現する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−129471号公報
【特許文献2】特開2005−116511号公報
【特許文献3】特開2016−091854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーマルプロテクターは、固定接点を有する第1リードを設けた筐体容器内に、可動接点を有し、この可動接点を固定接点に押圧して接触させる可動アームと、この可動アームに電気接続した第2リードと、温度変化に伴って固定接点および可動接点を開閉するように可動アームを作動させるバイメタルなどの熱応動素子と、第1リードに接続され可動接点と固定接点が開離した時に第2リードと接触し通電されて熱応動素子の復帰動作を制御するPTC素子などの発熱素子を収容し、蓋体で筐体容器の開口部を封口して構成される。ところが、サーマルプロテクターの搭載機器が稼働中に落下した場合などに、落下の衝撃によってバイメタルやPTC素子が跳躍し、バイメタルやPTC素子が可動アームに衝突する際の衝撃力が可動アームの弾発力を上回ったときに瞬間的に接点開離し、電源からの電力供給が極短い時間(数マイクロ秒から数百マイクロ秒)絶たれてしまう瞬断の惧れがあった。例えば、小型PCやスマートフォンなどにおいて、使用中に落下した場合などに衝撃により瞬停が発生し易い。瞬断は、小型PCやスマートフォンなどの携帯機器において、以下のような悪影響を及ぼす。例えば、コンピュータ上で動作しているプログラムは、通電中のみ記憶しつづける揮発メモリにデータを保持している。そのため、電力の瞬断が発生するとデータを消失してしまう可能性がある。また、ハードディスクなどは不揮発性の補助記憶装置であるが、精密に出来ているため読み書き時に瞬断が発生すると、アームが記録媒体に接触するなどの理由により記録媒体を破損してしまう可能性がある。通信中の瞬断の場合、その時点である二点間のコネクションが切断され、通信を再開するためには再びハンドシェイク手続きから接続をやり直さなければならないことが多い。自動でそのような再接続処理を行わないシステムの場合、瞬断の時点でコネクションが切れたまま再接続が行われないため、データ交換などに大きな影響が出る。
【0005】
近年のサーマルプロテクターは、モバイル機器の電流容量の増加に伴い、より低抵抗でかつ安定した接点抵抗値(低接触抵抗)のものが求められている。サーマルプロテクターの製造工程においては、例えば、特許文献2や特許文献3に記載されるように、接点に通電させながら振動等の外力を与えて接点を開離させることでスパークを発生させ接点表面の酸化物を除去するなど何らかの接点活性化処理が施される場合が多い。このような接点活性化処理工程のため、これまでのサーマルプロテクターは、接点が常時閉成状態であり、動作時に開放状態となって内蔵のPTC素子に通電される切替作動方式であった。この方式では、接点が閉成状態である正常時に接点の瞬断が発生すると通電が遮断されるため、意図しない機器のシャットダウンなど不具合が起きやすい。
【0006】
本発明は、熱応動素子の反転による接点遮断機構を有するサーマルプロテクターにおいて、瞬断対策用の専用保護回路や専用保護装置を用いることなく、落下衝撃などの外力を受けて接点が瞬間的に開離しても該サーマルプロテクターの被保護デバイスが瞬断しないよう通電補償ができるサーマルプロテクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、固定接点を含む第1リードと、可動接点を含む第2リードと、温度によって形状を変化させ固定接点と可動接点とを開離させる熱応動素子と、平常時の電気抵抗が小さく特定温度をこえると電気抵抗が急激に増大して該熱応動素子の動作時の形状を所望の間保持させる発熱素子と、前記両接点と熱応動素子および発熱素子とを収容する絶縁ケースと、この絶縁ケースの開口部を覆った蓋体と備え、発熱素子は、第1リードと第2リードを介して常時通電可能な状態に保持されており、かつ第1リードまたは第2リードの少なくとも一方に導電固着されていることを特徴とする瞬断保護機能付きサーマルプロテクターが提供される。発熱素子を第1リードまたは第2リードに導電固着させる固着手段は、サーマルプロテクターを搭載する機器の落下衝撃に耐えて導通性を失わない程度の固着力を有すれば何れの手段を用いてもよく、例えば、かしめ、溶接、はんだやロウ材による接合、導電接着剤による接着などの手段がある。本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクターは、平常時に接点が閉成状態にあり、かつ同時に発熱素子も第1リードと第2リードから通電可能な状態にある。平常時の状態でサーマルプロテクターを搭載する機器が、万一落下衝撃を受けて閉成状態の接点が瞬間的に開離しても、平常温度において抵抗値が小さい発熱素子が上記接点対と並列に接続されているので、発熱素子を通して通電補償される。また、サーマルプロテクターの熱応動素子が温度過熱を検知して正常に動作し接点が開放状態となっても発熱素子の通電可能な状態は維持されるが、周囲温度の上昇に伴い発熱素子の抵抗値は増大しヒータ機能を発揮するようになる。従って、本発明のサーマルプロテクターの発熱素子は、接点の開閉に関わらず終始通電可能な状態に置かれている。一方、従来のサーマルプロテクターは、平常時に接点が閉成状態にあるが、発熱素子は通電可能な状態に設置されておらず、熱応動素子が温度異常を感知して反転し、接点が開離状態となったときに、熱応動素子を介して第1リードと可動接点を含む第2リードと接続され通電可能な状態に切り替わる構成であった。従来はサーマルプロテクターの発熱素子を常時通電可能な状態に設置する必然性がなく、特にそれを意図したサーマルプロテクターは無かった。本発明の課題は認識されていなかったのである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクターは、瞬断の通電補償を閉成状態にある接点の抵抗特性を損なうことなく単一の発熱素子で賄うことができる。例えば、発熱用PTC素子と、通電補償用PTC素子の2つをそれぞれ搭載する必要が無いので構成の簡略化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10の正面断面図を示す。
【
図2】本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10を示し、
図1の絶縁ケースの蓋体と可動接点および熱応動素子を取り除いて俯瞰した平面図を示す。
【
図3】本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクターの等価回路30を示し、(a)は平常時に接点が閉成状態にあるサーマルプロテクターを、(b)はサーマルプロテクターを搭載する機器が落下衝撃を受けて接点が瞬間的に開離したときの状態を示す。
【
図4】本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクター40の正面断面図を示し、(A)は発熱素子46を取付ける前のサーマルプロテクターおよび発熱素子を、(B)は発熱素子46を搭載したサーマルプロテクターを示す。
【
図5】本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクター40を示し、
図4の絶縁ケースの蓋体と可動接点および熱応動素子を取り除いて俯瞰した平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10は、
図1および
図2に示すように、固定接点11を含む第1リード12と、可動接点13を含む第2リード14と、温度によって形状を変化させ固定接点11と可動接点13とを開離させる熱応動素子15と、平常時の電気抵抗が小さく特定温度をこえると電気抵抗が急激に増大して熱応動素子15の動作時の形状を所望の間保持する発熱素子16と、前記固定接点11と可動接点13と熱応動素子15および発熱素子16を収容する絶縁ケース17と、この絶縁ケース17の開口部を覆った蓋体18とを備え、発熱素子16は、第1リード12と第2リード14を介して常時通電可能な状態に保持され、かつ第1リード12または第2リード14の少なくとも一方に導電固着されていることを特徴とする。発熱素子16を第1リード12または第2リード14に導電固着させる固着手段は、サーマルプロテクター10を搭載する機器の落下衝撃に耐えて導通性を失わない程度の固着力を有すれば何れの手段を用いてもよく、例えば、かしめ、溶接、ハンダやロウ材による接合、導電接着剤による接着などの手段がある。
【0011】
本発明に係る瞬断保護機能付きサーマルプロテクターは、
図3の等価回路30に示すように、平常時は接点31が閉成状態にあり、かつ発熱素子36も第1リード32と第2リード34から通電可能な状態にある。そしてサーマルプロテクターの熱応動素子が動作し接点31が開放状態となっても発熱素子36の通電可能な状態は維持される。従って、本発明のサーマルプロテクターの発熱素子36は、接点31の開閉動作に関わらず終始通電可能な状態に置かれている。本発明の発熱素子36は定常温度で抵抗値が低く特定温度を超えると抵抗値が増大する素子であれば何れの素子を用いてもよい。例えば、PTC素子(正特性サーミスタ)が好適に用いられる。発熱素子にPTC素子を用いた本発明のサーマルプロテクターは、動作温度未満のキュリー点を有し、かつキュリー点以下の温度における抵抗値が極めて低抵抗値のものが用いられる。例えば、室温抵抗値が従来比の1/100程度、概ね0.1〜0.9Ωの低抵抗値のものが好適に利用できる。これにより、サーマルプロテクターが動作温度未満の温度にあって接点が閉成状態であるとき、万一、搭載された携帯機器が稼働中に落下し、その衝撃で接点が瞬間的に開離しても室温抵抗の低いPTC素子がバイパス路を形成できるので瞬断することがない。しかも、通電補償は単一の発熱素子で実現するので経済合理性に優れる。そして、熱応動素子が温度異常を感知して反転動作したときには、発熱素子は通電可能な状態に維持されるが、周囲温度の上昇に伴いPTC素子はキュリー点を超えているので抵抗値が大きく増加しており発熱素子としてのヒータ機能を発揮するようになる。
【実施例】
【0012】
本発明に係る実施例1の瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10は、
図1および
図2に示すように、Ag合金の固定接点11を含むCu合金製第1リード12と、Ag合金の可動接点13を含むCu合金製第2リード14と、Ni−Cr−Fe合金の高熱膨張金属材料とNi−Fe合金の低熱膨張金属材料を積層したバイメタルからなる熱応動素子15と、PTC素子からなる発熱素子16と、前記固定接点11および可動接点13と熱応動素子15および発熱素子16を収容するプラスチック製絶縁ケース17と、この絶縁ケース17の開口部を覆った金属蓋体18とを備え、発熱素子16は、第1リード12と第2リード14を介して常時通電可能な状態に保持され、かつ第1リード12にハンダ接合で導電固着されている。PTC素子は、室温抵抗0.1Ω、トリップ温度85℃を有し、下面電極に第1リード12がハンダ接合されており、上面電極に熱応動素子15が当接されている。さらに熱応動素子15の上から可動接点13を当接させて、可動接点13と固定接点11は、閉成状態で絶縁ケース17に収容されている。
【0013】
本発明は、上述した実施例1の形態に限定されるわけではなく、本発明の趣旨に反しない限りその他種々の変更が可能である。例えば、
図4に示す実施例2の瞬断保護機能付きサーマルプロテクター40ように変形できる。実施例2の瞬断保護機能付きサーマルプロテクター40は、Ag合金の固定接点41を含むCu合金製第1リード42と、Ag合金の可動接点43を含むCu合金製第2リード44と、Ni−Cr−Fe合金の高熱膨張金属材料とNi−Fe合金の低熱膨張金属材料を積層したバイメタルからなる熱応動素子45と、PTC素子からなる発熱素子46と、前記固定接点41および可動接点43と熱応動素子45および発熱素子46とを収容するプラスチック製絶縁ケース47と、この絶縁ケース47の開口部を覆った金属蓋体48と備え、発熱素子46は、第1リード42と第2リード44を介して常時通電可能な状態に保持され、かつ第1リード42と第2リード44の両方に抵抗溶接で導電固着されている。PTC素子は、底面左右に接続リード49を有し、両接続リード49に第1リード42または第2リード44を抵抗溶接により固着して常時通電可能な状態に保持される。実施例2の発熱素子は水平方向に接続リードを有するので、
図4(A)に示すように、接点の活性化処理を施した後、発熱素子のみを後付けできる。
【0014】
ここで、本発明の実施例1の瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10と、従来のサーマルプロテクターの耐瞬断性を比較するため、実施例1の瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10を実装したスマートフォン25台と、従来のサーマルプロテクターを実装したスマートフォン25台を用意し、それぞれ充電した後、電源を入れた状態で1メートルの高さから本体6面及び4角から各1回落下させて、電源OFF(瞬断)が発生した台数を計数した。その結果、従来のサーマルプロテクターを用いたスマートフォンは、250台のうち11台に落下衝撃により瞬断が発生した。これに対し、実施例1の瞬断保護機能付きサーマルプロテクター10を用いたスマートフォンは、何れも瞬断の発生は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の瞬断保護機能付きサーマルプロテクターは、各種電源の保護装置、例えば、電源装置や電池パックなど2次電池の保護装置などに利用できる。
【符号の説明】
【0016】
10、40・・・・瞬断保護機能付きサーマルプロテクター、
30・・・・等価回路、
31・・・・接点、
11、41・・・・固定接点、
12、32、42・・・・第1リード、
13、43・・・・可動接点、
14、34、44・・・・第2リード、
15、45・・・・熱応動素子、
16、36、46・・・・発熱素子、
17、47・・・・絶縁ケース、
18、48・・・・蓋体、
49・・・・接続リード。