特許第6792523号(P6792523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792523
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20201116BHJP
   B60R 21/205 20110101ALI20201116BHJP
【FI】
   B60R21/2338
   B60R21/205
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-134388(P2017-134388)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-14411(P2019-14411A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】疋田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】石塚 雄司
(72)【発明者】
【氏名】関 諒介
(72)【発明者】
【氏名】成川 達也
(72)【発明者】
【氏名】益子 雄一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 等
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−538186(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0298643(US,A1)
【文献】 特開平10−100827(JP,A)
【文献】 特開2017−019485(JP,A)
【文献】 米国特許第05586782(US,A)
【文献】 特開2016−153262(JP,A)
【文献】 米国特許第05697641(US,A)
【文献】 特開2016−040160(JP,A)
【文献】 特開2011−126367(JP,A)
【文献】 特開2010−241241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃入力時にガスを発生するインフレータと、
前記インフレータからのガスの供給を受けて膨張展開するメインバッグ部と、
前記メインバッグ部の後面に連結され、前記メインバッグ部の内部から複数の連通部を経由してガスの供給を受けて膨張展開する補助バッグ部と、
前記補助バッグ部の内面に固定され、前記複数の連通部をまとめて覆うとともに、前記補助バッグ部の内面における前記複数の連通部の間の部分に対して接近離間可能に形成されたシート部材と、
を備えることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記補助バッグ部の内面と前記シート部材とが固定された一対の固定部を備え、
前記複数の連通部は、前記補助バッグ部の内面における前記一対の固定部の間に設けられ、
前記シート部材における前記一対の固定部の間の最短距離は、前記補助バッグ部の内面における前記一対の固定部の間隔よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記補助バッグ部の内面と前記シート部材とが固定された一対の固定部を備え、
前記複数の連通部は、第1方向に並んで設けられ、
前記一対の固定部は、前記連通部の前記第1方向に直交する第2方向の両側に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記一対の固定部は、前記第1方向に沿って延び、
前記一対の固定部の前記第1方向の寸法は、前記一対の固定部の間隔よりも大きい、
ことを特徴とする請求項3に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エアバッグ装置として、メインバッグ部と、メインバッグ部に接続し、メインバッグ部から供給されたガスにより膨張展開する補助バッグ部と、を備えたエアバッグ装置がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この種のエアバッグ装置は、例えば助手席用として使用され、車両の前面衝突時にはメインバッグ部により乗員を受け止めるとともに、例えば斜突時には補助バッグ部により乗員を受け止めるように構成される。
【0003】
ところで、上述した構成を有するエアバッグ装置は、作動時において、膨張展開した補助バッグ部の内圧を保持し、乗員を的確に受け止めるように構成されている。例えば特許文献1に記載のエアバッグ装置は、座席の車両前方で膨張展開するメインバッグと、メインバッグの車幅方向内側に設けられ、メインバッグよりも車両後方に突出して膨張展開するセンタバッグと、メインバッグとセンタバッグとを隔てる隔壁部と、隔壁部に設けられ、メインバッグからセンタバッグへガスを通過可能にし、センタバッグからメインバッグへはガスを通過不能にする内圧保持機構と、を備える。内圧保持機構は、隔壁部に形成された孔部と、孔部をセンタバッグ部側から覆って隔壁部に接続され、各壁部から少なくとも一部が離間可能なパッチ部と、を含んでいる。パッチ部は、各孔部に対応して設けられ、孔部の全体をセンタバッグ部側から覆い、少なくとも一部が隔壁部から離間可能に、隔壁部に縫製等によって接続されている。
【0004】
また、特許文献2に記載のエアバッグ装置は、メインバッグ部と、メインバッグ部の左右方向の一方の側面側で膨張する補助バッグ部と、を備え、補助バッグ部における斜突用拘束部がメインバッグ部より内圧を高くする高圧部として、膨張を完了させる構成とし、膨張完了時の補助バッグ部における斜突用拘束部の前方側に、メインバッグ部と連通し、かつ、区画壁により高圧部と区画されて、斜突用拘束部より内圧を低くした低圧部が配設されている。さらに区画壁には、低圧部側から高圧部側への膨張用ガスの流れを許容し、高圧部側から低圧部側への膨張用ガスの流れを規制する膨張用ガス供給機構としての逆止弁が配設されている。逆止弁は、区画壁において上下左右に近接して開口する4個の連通孔の周縁に、シート状のフラップ弁を結合させて構成されている。フラップ弁は、連通孔の周縁で、区画壁に対して、前後の縁を上下方向に沿って縫合し、中央部位を十文字状に縫合する結合部を設けて配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−153262号公報
【特許文献2】特開2016−040160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のエアバッグ装置においては、パッチ部が各孔部に対応して一つずつ設けられている。このため、センタバッグの内圧が高まった際に、パッチ部がずれてパッチ部の端縁が孔部に入り込みやい。これにより、孔部に隙間ができ、ガスがメインバッグに逆流する可能性がある。また、上記特許文献2に記載のエアバッグ装置においては、フラップ弁が区画壁における複数の連通孔の間の部分に縫合されている。このため、低圧部から高圧部にガスが流入する際にフラップ弁が区画壁から十分に離間せず、高圧部にガスがスムーズに供給されない可能性がある。したがって、従来技術のエアバッグ装置においては、補助バッグ部の膨張展開時に補助バッグ部へガスをスムーズに供給して補助バッグ部を速やかに膨張展開するとともに、補助バッグ部からメインバッグ部へのガスの逆流を確実に規制して膨張展開した補助バッグ部の内圧を保持するという課題がある。
【0007】
そこで本発明は、補助バッグ部を速やかに膨張展開できるとともに、膨張展開した補助バッグ部の内圧を保持できるエアバッグ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエアバッグ装置(例えば、実施形態におけるエアバッグ装置10)は、衝撃入力時にガスを発生するインフレータ(例えば、実施形態におけるインフレータ13)と、前記インフレータからのガスの供給を受けて膨張展開するメインバッグ部(例えば、実施形態におけるメインバッグ部20)と、前記メインバッグ部の後面(例えば、実施形態における後面23)に連結され、前記メインバッグ部の内部から複数の連通部(例えば、実施形態における連通部31)を経由してガスの供給を受けて膨張展開する補助バッグ部(例えば、実施形態における補助バッグ部30)と、前記補助バッグ部の内面に固定され、前記複数の連通部をまとめて覆うとともに、前記補助バッグ部の内面における前記複数の連通部の間の部分に対して接近離間可能に形成されたシート部材(例えば、実施形態におけるシート部材40)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、シート部材が複数の連通部をまとめて覆うので、補助バッグ部の内圧が高まった際には、シート部材が複数の連通部それぞれにおいてメインバッグ部側に引っ張られる。これにより、シート部材のうち隣り合う連通部の間に対応する部分が互いに逆方向に引っ張られるので、シート部材が補助バッグ部の内面に沿ってずれて連通部に入り込むことを抑制できる。よって、連通部に隙間ができてガスがメインバッグ部に逆流することを抑制できる。
また、シート部材が補助バッグ部の内面における複数の連通部の間の部分に対して接近離間可能なので、ガスがメインバッグ部から補助バッグ部に流れ込む際に、従来技術のようにシート部材が補助バッグ部の内面における複数の連通部の間の部分に縫合された構成と比較して、補助バッグ部の内面とシート部材との隙間が大きく形成される。これにより、補助バッグ部へガスをスムーズに供給することができる。
以上により、補助バッグ部を速やかに膨張展開することができるとともに、膨張展開した補助バッグ部の内圧を保持することができる。
【0010】
上記のエアバッグ装置において、前記補助バッグ部の内面と前記シート部材とが固定された一対の固定部(例えば、実施形態における固定部41)を備え、前記複数の連通部は、前記補助バッグ部の内面における前記一対の固定部の間に設けられ、前記シート部材における前記一対の固定部の間の最短距離は、前記補助バッグ部の内面における前記一対の固定部の間隔よりも大きい、ことが望ましい。
【0011】
本発明によれば、一対の固定部の間でシート部材が弛んだ状態で配置される。これにより、ガスがメインバッグ部から補助バッグ部に流れ込む際に、補助バッグ部の内面とシート部材との隙間をより大きく設けることが可能となる。よって、補助バッグ部へガスをよりスムーズに供給することができる。
しかも、上述したように、補助バッグ部の内圧が高まった際に、シート部材が補助バッグ部の内面に沿ってずれることが抑制されるので、シート部材が弛むことによりシート部材の移動の自由度が高くなっても、シート部材が連通部に入り込むことが抑制される。よって、連通部に隙間ができてガスがメインバッグ部に逆流することを抑制できる。
【0012】
上記のエアバッグ装置において、前記補助バッグ部の内面と前記シート部材とが固定された一対の固定部(例えば、実施形態における固定部41)を備え、前記複数の連通部は、第1方向に並んで設けられ、前記一対の固定部は、前記連通部の前記第1方向に直交する第2方向の両側に設けられている、ことが望ましい。
【0013】
本発明では、一対の固定部が連通部の第2方向の両側に設けられているので、シート部材は、ガスの逆流時に補助バッグ部の内面に対して一対の固定部が並ぶ方向に直交する第1方向に引っ張られる。また、複数の連通部が第1方向に並んでいるので、シート部材の第1方向の各端縁に近接する連通部はそれぞれ1つとなる。これらにより、ガスの逆流時にシート部材が第1方向に引っ張られて変位しても、シート部材の第1方向の端縁はそれぞれ1つの連通部に近寄るだけとなる。したがって、一対の固定部が連通部の第1方向の両側に設けられた構成と比較して、シート部材の端縁が連通部に入り込みにくくなり、連通部に隙間が形成されることを抑制できる。
【0014】
上記のエアバッグ装置において、前記一対の固定部は、前記第1方向に沿って延び、前記一対の固定部の前記第1方向の寸法は、前記一対の固定部の間隔よりも大きい、ことが望ましい。
【0015】
補助バッグ部の内面における矩形状の所定領域をシート部材により覆う場合には、シート部材が所定領域の長辺に沿って固定されることで、シート部材が所定領域の短辺に沿って固定される場合と比較して、シート部材を変位しにくくすることができる。本発明によれば、複数の連通部が並ぶ第1方向に沿って一対の固定部が延び、一対の固定部の第1方向の寸法が一対の固定部の間隔よりも大きいので、シート部材が上述した矩形状の領域の長辺に沿って固定された状態となる。これにより、一対の固定部が第1方向に沿って延び、一対の固定部の第1方向の寸法が一対の固定部の間隔よりも小さい場合と比較して、シート部材を変位しにくくすることができる。したがって、シート部材の端縁が連通部に入り込んで連通部に隙間が形成されることをより確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、補助バッグ部を速やかに膨張展開することができるとともに、膨張展開した補助バッグ部の内圧を保持することができるエアバッグ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の車両の車室内前部の平面図である。
図2】実施形態のエアバッグ装置が作動した状態を示す図であって、車両の車室内前部を示す側面図である。
図3】実施形態のエアバッグ装置が作動した状態を示す図であって、車両の車室内前部を示す平面図である。
図4】実施形態のエアバッグ装置が作動した状態を示す図であって、車両の車室内前部を示す正面図である。
図5図2のV−V線における断面図である。
図6】補助バッグ部の内面を示す図であって、図5のVI矢視図である。
図7】補助バッグ部の内面を示す図であって、図5のVI矢視図である。
図8図7のVIII−VIII線における断面図である。
図9図7のVIII−VIII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0019】
図1は、実施形態の車両の車室内前部の平面図である。
図1に示すように、車両1は、車室に設けられた運転席2および助手席3と、運転席2および助手席3の前方に設けられたインストルメントパネル4と、インストルメントパネル4に設置されたエアバッグ装置10と、を備えている。なお、以下の説明における前後上下左右の向きは、特に記載が無ければ車両における前後上下左右の向きと同一とし、図中矢印UPは上方、矢印FRは前方、矢印LHは左方をそれぞれ示している。
【0020】
インストルメントパネル4は、パネル本体5と、蓋体6と、を有している。パネル本体5のうち、助手席3の前方に位置する部分には、パネル本体5を貫通するエアバッグ開口5aが形成されている。エアバッグ開口5aは、インストルメントパネル4にエアバッグ装置10を設置するための開口である。蓋体6は、パネル本体5のエアバッグ開口5aに嵌め込まれている。
【0021】
図2は、実施形態のエアバッグ装置が作動した状態を示す図であって、車両の車室内前部を示す側面図である。
図2に示すように、エアバッグ装置10は、リテーナ11と、インフレータ13と、エアバッグ15と、を備えている。リテーナ11は、エアバッグ15を収容して保持する。リテーナ11は、上方に向けて開口する箱型に形成されている。通常時、リテーナ11には、エアバッグ15が折り畳まれた状態で収容され、上部開口を蓋体6(図1参照)によって閉塞されている。インフレータ13は、車両1への衝撃入力時に高圧のガスを発生する。
【0022】
図3は、実施形態のエアバッグ装置が作動した状態を示す図であって、車両の車室内前部を示す平面図である。図4は、実施形態のエアバッグ装置が作動した状態を示す図であって、車両の車室内前部を示す正面図である。図5は、図2のV−V線における断面図である。
図2から図5に示すように、エアバッグ15は、エアバッグ装置10の作動時にインフレータ13のガスにより膨張して、助手席3に着座した乗員とインストルメントパネル4との間に展開する。エアバッグ15は、メインバッグ部20と、メインバッグ部20に連結された一対の補助バッグ部30と、補助バッグ部30の内部に設けられたシート部材40と、補助バッグ部30とシート部材40とが固定された固定部41と、を備えている。
【0023】
図5に示すように、メインバッグ部20は、インフレータ13からのガスの供給を受けて膨張展開する。メインバッグ部20は、インフレータ13からのガスが最初に流入する部分である。メインバッグ部20は、例えば複数枚の基布21を縫合することにより袋状に形成されている。メインバッグ部20は、膨張展開した状態で助手席3に着座する乗員(図2参照)の上半身に対向する後面23を備える。メインバッグ部20は、車両1の前面衝突時に、助手席3に着座した乗員の上半身を受け止める。メインバッグ部20を形成する基布21には、ベントホール25が形成されている。ベントホール25は、例えば左右方向の一方(図示の例では右側)に開口している。ベントホール25は、メインバッグ部20の膨張展開時にガスを外部に排出するために設けられている。
【0024】
図3および図4に示すように、一対の補助バッグ部30は、左右方向に並んで、メインバッグ部20の後面23に連結されている。一対の補助バッグ部30は、メインバッグ部20と助手席3に着座した乗員の頭部との間に膨張展開するように設けられている。より詳細に、一対の補助バッグ部30は、車両1の前面衝突時に、助手席3に着座した乗員の頭部を一対の補助バッグ部30の間で受け止めることができるように設けられている。また、一対の補助バッグ部30は、車両1の斜突時に、助手席3に着座した乗員の頭部を少なくともいずれか一方の補助バッグ部30で受け止めることができるように設けられている。
【0025】
図4に示すように、各補助バッグ部30は、前後方向から見て上下方向に延びる長軸を有する長円形状に形成されている。左側に設けられた補助バッグ部30は、前後方向から見てメインバッグ部20の左半部と重なるように設けられている。右側に設けられた補助バッグ部30は、前後方向から見てメインバッグ部20の右半部と重なるように設けられている。なお、一対の補助バッグ部30は、左右対称に形成されているので、以下の説明では特に記載のない限り左側に設けられた補助バッグ部30について説明する。
【0026】
図5に示すように、補助バッグ部30は、メインバッグ部20の内部から連通部31を経由してガスの供給を受けて膨張展開する。補助バッグ部30は、開口部33が形成された袋体35と、メインバッグ部20を形成する基布21の一部であって開口部33を閉塞する隔壁部37と、により形成されている。袋体35は、例えば1枚の基布を二つ折りにして重ね合わせ、外周縁部を縫合することで袋状に形成されている。
【0027】
図6および図7は、補助バッグ部の内面を示す図であって、図5のVI矢視図である。なお、図6では、シート部材が取り付けられていない状態を示している。
図5および図6に示すように、袋体35には、開口部33が形成されている。開口部33は、袋体35の前部に形成されている。開口部33は、前後方向から見て上下方向に延在するとともに上下両端部が右側に向かって延出したU字状に形成されている。袋体35は、開口部33がメインバッグ部20の後面23により閉塞されるように、メインバッグ部20の後方に配置されている。これにより、補助バッグ部30の内面の一部は、メインバッグ部20の後面23により構成されている。メインバッグ部20を形成する基布21のうち、開口部33を閉塞する部分は、補助バッグ部30の内部と、メインバッグ部20の内部と、を隔てる隔壁部37となる。袋体35は、開口部33の開口縁に沿って全周に設けられた縫合ラインLにおいて、メインバッグ部20を形成する基布21に縫合されている。縫合ラインLのうち右側に設けられた補助バッグ部30に左右方向で対向する部分(開口部33の右側に位置する部分)は、右側に設けられた補助バッグ部30から離間するように、前後方向から見て左側に窪んでいる。
【0028】
隔壁部37には、複数(本実施形態では一対)の連通部31が形成されている。連通部31は、補助バッグ部30の内部と、メインバッグ部20の内部と、を連通する貫通孔である。本実施形態では、連通部31は、円孔状に形成されている。ここで、補助バッグ部30の隔壁部37の内面に沿う方向における第1方向および第2方向を以下のように定義する。第1方向は、前後方向から見て上下方向と一致する方向である。第2方向は、第1方向に直交する方向であって、前後方向から見て左右方向と一致する方向である。複数の連通部31は、隔壁部37の第1方向中央部において、第1方向に並んで設けられている。
【0029】
図7に示すように、シート部材40は、補助バッグ部30の内部からメインバッグ部20の内部へのガスの流入を規制する。シート部材40は、例えばメインバッグ部20を形成する基布21と同じ材料により形成されている。シート部材40は、平面視矩形状に形成されている。シート部材40は、第1方向および第2方向に直交する方向から見て複数の連通部31をまとめて覆っている。シート部材40は、一対の固定部41において、補助バッグ部30の内面に対して固定されている。一対の固定部41は、複数の連通部31の第2方向の両側に設けられている。シート部材40は、縫合ラインLにおいて、メインバッグ部20を形成する基布21、および補助バッグ部30の袋体35とともに縫合されている。つまり、一対の固定部41は、縫合ラインL上に形成されている。各固定部41は、第1方向に沿って直線状に延びている。一対の固定部41の第1方向の寸法は、互いに同等であって、一対の固定部41の間隔よりも大きくなっている。
【0030】
図5に示すように、シート部材40は、補助バッグ部30の内面に対して弛んだ状態で設けられている。具体的に、シート部材40における一対の固定部41の間の最短距離は、補助バッグ部30の内面における一対の固定部41の間隔よりも大きい。これにより、シート部材40は、補助バッグ部30の内面における複数の連通部31の間の部分に対して、第1方向および第2方向に直交する方向に接近離間可能に形成されている。
【0031】
以下、エアバッグ装置10の動作について説明する。
図8および図9は、図7のVIII−VIII線における断面図である。
車両1に衝撃が入力されると、インフレータ13が高圧のガスを発生する。インフレータ13からガスが発生すると、ガスの供給を受けてメインバッグ部20が膨張展開する。また、メインバッグ部20の内部にガスが供給されると、メインバッグ部20の内部から複数の連通部31を経由してガスの供給を受けて、一対の補助バッグ部30が膨張展開する。この際、図8に示すように、メインバッグ部20の内部から補助バッグ部30の内部に流れ込むガスは、シート部材40を押して、補助バッグ部30の内面における複数の連通部31の間の部分からシート部材40を離間させる。これにより、シート部材40と補助バッグ部30の内面との間に隙間43が形成され、ガスがメインバッグ部20の内部から連通部31および隙間43を通って補助バッグ部30の内部にスムーズに供給される。
【0032】
乗員が前方移動して補助バッグ部30に接触すると、補助バッグ部30の内部の圧力が高まる。補助バッグ部30の内部の圧力が高まると、補助バッグ部30の内部における連通部31の周囲において、補助バッグ部30の内部からメインバッグ部20の内部に向かうガスの流れが発生する。すると、図9に示すように、シート部材40は、連通部31に向かって移動し、連通部31を閉塞するように、補助バッグ部30の内面に密着する。これにより、補助バッグ部30の内部からのガスの流出を抑制し、補助バッグ部30の内圧を維持する。その結果、補助バッグ部30は、膨張展開した形状を維持したまま乗員を受け止めることができる。この際、メインバッグ部20の内部のガスは、ベントホール25(図5参照)を通じて外部に放出される。
【0033】
このように、本実施形態のエアバッグ装置10は、補助バッグ部30の内面に固定され、複数の連通部31をまとめて覆うとともに、補助バッグ部30の内面における複数の連通部31の間の部分に対して接近離間可能に形成されたシート部材40を備える。
この構成によれば、シート部材40が複数の連通部31をまとめて覆うので、補助バッグ部30の内圧が高まった際には、シート部材40が複数の連通部31それぞれにおいてメインバッグ部20側に引っ張られる。これにより、シート部材40のうち隣り合う連通部31の間に対応する部分が互いに逆方向に引っ張られるので、シート部材40が補助バッグ部30の内面に沿ってずれて連通部31に入り込むことを抑制できる。よって、連通部31に隙間ができてガスがメインバッグ部20に逆流することを抑制できる。
また、シート部材40が補助バッグ部30の内面における複数の連通部31の間の部分に対して接近離間可能なので、ガスがメインバッグ部20から補助バッグ部30に流れ込む際に、従来技術のようにシート部材40が補助バッグ部30の内面における複数の連通部31の間の部分に縫合された構成と比較して、補助バッグ部30の内面とシート部材40との隙間43が大きく形成される。これにより、補助バッグ部30へガスをスムーズに供給することができる。
以上により、補助バッグ部30を速やかに膨張展開することができるとともに、膨張展開した補助バッグ部30の内圧を保持することができる。
【0034】
さらに、シート部材40における一対の固定部41の間の最短距離は、補助バッグ部30の内面における一対の固定部41の間隔よりも大きいので、一対の固定部41の間でシート部材40が弛んだ状態で配置される。これにより、ガスがメインバッグ部20から補助バッグ部30に流れ込む際に、補助バッグ部30の内面とシート部材40との隙間43をより大きく設けることが可能となる。よって、補助バッグ部30へガスをよりスムーズに供給することができる。
しかも、上述したように、補助バッグ部30の内圧が高まった際に、シート部材40が補助バッグ部30の内面に沿ってずれることが抑制されるので、シート部材40が弛むことによりシート部材40の移動の自由度が高くなっても、シート部材40が連通部31に入り込むことが抑制される。よって、連通部31に隙間ができてガスがメインバッグ部20に逆流することを抑制できる。
【0035】
また、一対の固定部41が連通部31の第2方向の両側に設けられているので、シート部材40は、ガスの逆流時に補助バッグ部30の内面に対して一対の固定部41が並ぶ方向に直交する第1方向に引っ張られる。また、複数の連通部31が第1方向に並んでいるので、シート部材40の第1方向の各端縁に近接する連通部31はそれぞれ1つとなる。これらにより、ガスの逆流時にシート部材40が第1方向に引っ張られて変位しても、シート部材40の第1方向の端縁はそれぞれ1つの連通部31に近寄るだけとなる。したがって、一対の固定部が連通部31の第1方向の両側に設けられた構成と比較して、シート部材40の端縁が連通部31に入り込んで連通部31に隙間が形成されることを抑制できる。
【0036】
また、補助バッグ部30の内面における矩形状の所定領域をシート部材により覆う場合には、シート部材が所定領域の長辺に沿って固定されることで、シート部材が所定領域の短辺に沿って固定される場合と比較して、シート部材を変位しにくくすることができる。本実施形態によれば、複数の連通部31が並ぶ第1方向に沿って一対の固定部41が延び、一対の固定部41の第1方向の寸法が一対の固定部41の間隔よりも大きいので、シート部材40が上述した矩形状の領域の長辺に沿って固定された状態となる。これにより、一対の固定部が第1方向に沿って延び、一対の固定部の第1方向の寸法が一対の固定部の間隔よりも小さい場合と比較して、シート部材40を変位しにくくすることができる。したがって、シート部材40の端縁が連通部31に入り込んで連通部31に隙間が形成されることをより確実に抑制できる。
【0037】
また、メインバッグ部20と一方の補助バッグ部30とが固定される縫合ラインLのうち、他方の補助バッグ部30に左右方向で対向する部分は、他方の補助バッグ部30から離間するように前後方向から見て窪んでいる。これにより、縫合ラインが前後方向から見て上下方向に沿って直線状に延びている構成と比較して、乗員の頭部を左右の縫合ラインLの間に入り込ませやすくなり、乗員の頭部の変位を規制することができる。
【0038】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、連通部31が一対設けられているが、これに限定されず、例えば連通部が3個以上設けられていてもよい。また、全ての連通部を一直線上に並べる必要はない。
【0039】
また、上記実施形態においては、連通部31が円孔状に形成されているが、これに限定されず、例えば矩形孔状に形成されていてもよい。
また、上記実施形態においては、補助バッグ部30がメインバッグ部20に対して縫合により連結されているが、これに限定されず、例えば熱圧着や接着等により連結されていてもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、隔壁部37がメインバッグ部20を形成する基布21により形成されているが、これに限定されない。例えば、メインバッグ部20の基布21と補助バッグ部を形成する基布とを重ね合わせることにより、隔壁部を形成してもよい。
また、上記実施形態においては、一対の固定部41が縫合ラインL上に形成されているが、縫合ラインLとは異なる箇所に設けられていてもよい。
【0041】
また、上記実施形態においては、シート部材40が弛んだ状態で設けられているが、これに限定されず、シート部材は、弛みを有さない状態で設けられていてもよい。
また、上記実施形態においては、シート部材40が基布21と同じ材料により形成されているが、これに限定されない。シート部材は、例えば伸縮性を有する材料により形成され、ガスがメインバッグ部20の内部から補助バッグ部30の内部に流れ込む際にガスに押させて伸び、補助バッグ部30の内面に対して弛むように構成されていてもよい。
【0042】
また、上記実施形態においては、シート部材40は、第1方向および第2方向に直交する方向から見て、全ての連通部31の全体を覆っているが、これに限定されず、各連通部31の少なくとも一部を覆っていればよい。すなわち、シート部材は、全ての連通部31それぞれの一部を覆うように配置されていてもよい。また、シート部材は、複数の連通部31のうち一部の連通部31の全体を覆うように、かつ残りの連通部31の一部を覆うように配置されていてもよい。いずれの場合であっても、補助バッグ部30の内圧が高まった際に、設計された隙間よりも大きな隙間が連通部31にできて、ガスがメインバッグ部20に想定以上に逆流することを抑制できる。
【0043】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…エアバッグ装置 13…インフレータ 20…メインバッグ部 30…補助バッグ部 31…連通部 40…シート部材 41…固定部
図1
図2
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図9