(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792557
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】熱重量分析による原油およびその留分のキャラクタリゼーション
(51)【国際特許分類】
G01N 5/04 20060101AFI20201116BHJP
G01N 25/14 20060101ALI20201116BHJP
G01N 33/28 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
G01N5/04 A
G01N25/14
G01N33/28
【請求項の数】25
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-535758(P2017-535758)
(86)(22)【出願日】2016年1月5日
(65)【公表番号】特表2018-503089(P2018-503089A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】US2016012108
(87)【国際公開番号】WO2016111958
(87)【国際公開日】20160714
【審査請求日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】62/099,623
(32)【優先日】2015年1月5日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511304464
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】コセオグル,オメル,レファ
(72)【発明者】
【氏名】アル−ハッジ,アドナン
(72)【発明者】
【氏名】アル−トゥウェイリブ,アメ−ル,エイ.
【審査官】
野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−513784(JP,A)
【文献】
特表2017−524922(JP,A)
【文献】
特表平11−508363(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0050154(US,A1)
【文献】
特開2001−329905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00−9/36
G01N 25/00−25/72
G01N 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重量分析データに基づき指標特性を、原油、ビチューメン、重油、頁岩油から得られる天然に存在する炭化水素から選択される油サンプルに与えるためのシステムであって:
計算モジュール、ならびに前記油サンプルの密度および熱重量分析(TGA)データを含むデータを格納する不揮発性メモリデバイスと;
前記不揮発性メモリデバイスに結合されているプロセッサと;
前記TGAデータの示す加熱温度に対する質量減少パーセントの加重平均から熱重量分析指数を計算する第1の計算モジュールと;および
前記熱重量分析指数および前記油サンプルの前記密度の関数として前記指標特性を導く第2の計算モジュールと;
を含むシステム。
【請求項2】
前記不揮発性メモリデバイスに格納される前記TGAデータを出力する熱重量測定装置をさらに含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の計算モジュールは、重量減少パーセントが計算されるように前記TGAデータを整理して前記重量減少パーセントと前記温度とから前記熱重量分析指数を計算するものである請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記熱重量分析指数は、Txを個々の質量減少パーセントでの温度として下記の式により計算されるものである請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
熱重量分析(TGA)データに基づき、原油、ビチューメン、重油、頁岩油から得られる天然に存在する炭化水素から選択される前記油サンプルを評価して指標特性を求めるための方法であって:
前記TGAデータの示す加熱温度に対する質量減少パーセントの加重平均から前記油サンプルの熱重量分析指数を計算する工程と;および
前記熱重量分析指数および前記油サンプルの前記密度の関数として前記指標特性を計算および記録する工程と
を含む方法。
【請求項6】
前記油サンプルの前記密度を取得する工程と;および
前記油サンプルを熱重量分析にかけてTGAデータを取得する工程と
を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記重量減少パーセントが計算されるように前記TGAデータは整理されるものであり、
前記重量減少パーセントと前記温度とから前記熱重量分析指数が計算されるものである請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱重量分析指数は、Txを個々の質量減少パーセントでの温度として下記の式により計算されるものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記指標特性がセタン価である請求項1〜8のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項10】
前記指標特性が流動点である請求項1〜8のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項11】
前記指標特性が曇り点である請求項1〜8のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項12】
前記指標特性がアニリン点である請求項1〜8のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項13】
前記指標特性が芳香族性である請求項1〜8のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項14】
前記指標特性がオクタン価である請求項1〜8のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項15】
前記指標特性は、TGAIを前記熱重量分析指数、DENを前記油サンプルの前記密度、および、K、X1〜X7をTGAからの炭化水素データの線形回帰分析を用いて得られる、予測される特性の定数としたときに、指標特性=K+X1*DEN+X2*DEN2+X3*DEN3+X4*TGAI+X5*TGAI2+X6*TGAI3+X7*DEN*TGAIとして計算されるものである請求項9〜14のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項16】
セタン価、流動点、曇り点、アニリン点、芳香族性、およびオクタン価からなる群から選択される少なくとも2つの指標特性を含む複数の指標特性が計算されるものである請求項1〜15のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項17】
前記熱重量分析装置の温度範囲が20〜1000℃である請求項2に記載のシステム。
【請求項18】
加熱速度が0.1〜100℃/分の範囲にある請求項1〜17のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項19】
前記油サンプルの前記熱重量分析指数が前記TGAデータの50W%点で計算される請求項1〜18のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項20】
前記油サンプル前記熱重量分析指数が、温度データの平均をとることによって計算される請求項1〜19のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項21】
前記油サンプルの前記熱重量分析指数が、温度データの加重平均をとることによって計算される請求項1〜20のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項22】
前記指標特性は、軽油留分の指標特性である請求項1〜21のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項23】
前記指標特性は、ガソリンまたはナフサ留分の指標特性である請求項1〜22のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項24】
前記熱重量分析データが、コアおよび/またはドリルカッティングス物質から直接得られる請求項1〜23のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【請求項25】
前記油サンプルは原油である請求項1〜24のいずれかに記載のシステムまたは方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱重量分析(TGA)による原油およびその留分のサンプルの評価のための方法およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
原油は、約15百万年〜5億年前の泥およびシルトの連続層の下に埋もれた水生生物(主に海洋生物)および/または陸生植物が分解および変化したものである。それらは本質的に、数千もの異なる炭化水素の非常に複雑な混合物である。供給源に応じて、原油は主に、さまざまな比率の直鎖および分岐鎖パラフィン、シクロパラフィンならびにナフテン、芳香族および多核芳香族炭化水素を含む。これらの炭化水素は、分子中の炭素原子の数および配置に応じて、標準状態の温度および圧力下で、気体、液体または固体であり得る。
【0003】
原油は、ある地理区から別の地理区および油田ごとに物理的および化学的特性が大きく異なる。原油は通常、含有する炭化水素の性質にしたがって3つのグループ(パラフィン系、ナフテン系、アスファルト系)およびそれらの混合物に分類される。その違いは、さまざまな分子のタイプおよびサイズの異なる比率による。ある原油は主としてパラフィンを含み、別の原油は主としてナフテンを含む。パラフィン系であれナフテン系であれ、ある原油は、多量のより軽質な炭化水素を含むことができて、移動性であるか、または溶解ガスを含むことができる;別の原油は、主としてより重質な炭化水素からなり、溶解ガスをほとんどまたは全く含まない高粘性であり得る。原油は、原油留分の精製処理に影響する量の硫黄、窒素、ニッケル、バナジウムおよび他の元素を含むヘテロ原子も含むことができる。軽質原油またはコンデンセートは、0.01W%という低濃度の硫黄を含み得る;一方、重質原油は5〜6W%も含み得る。同様に、原油の窒素含有量は0.001〜1.0W%の範囲であり得る。
【0004】
原油の性質は、ある程度、それから製造され得る製品の性質および特別な用途に対するそれらの適合性を支配する。ナフテン系原油は、ワックスのためのパラフィン系原油であるアスファルトビチューメンの製造に、より適している。ナフテン系原油、芳香族系のものはなおさらそうであるが、温度に敏感な粘度を有する潤滑油を与える。しかし、現代の精製法では、多くの所望のタイプの製品を製造するためのさまざまな原油の使用における柔軟性はより大きい。
【0005】
原油分析は、ベンチマークの目的で原油の性質を確認する伝統的な方法である。原油には真沸点(TBP)蒸留および分留が行われ、異なる沸点留分を与える。原油蒸留は、米国標準試験協会(ASTM)法D 2892を用いて行われる。一般的な留分およびその公称沸点を表1に示す。
【0006】
【表1】
【0007】
次いで、該当する場合、これらの原油留分の収率、組成、物理的特性および指標特性が、原油分析ワークアップ計算中に求められる。原油分析から得られる典型的な組成および特性情報を表2に示す。
【0008】
【表2】
【0009】
必要な蒸留留分の数および分析の数のために、原油分析のワークアップは費用と時間がかかる。
【0010】
典型的な製油所では、メタン、エタン、プロパン、ブタン類および硫化水素、ナフサ(36〜180℃)、ケロシン(180〜240℃)、軽油(240〜370℃)および常圧残油(>370℃)を含むサワーガスおよび軽質炭化水素を分離するために、原油がまず常圧蒸留塔で分留される。常圧蒸留塔からの常圧残油は、製油所の構成に応じて、燃料油として使用されるか、真空蒸留ユニットに送られる。真空蒸留から得られる主要製品は、370〜520℃の範囲の沸点を有する炭化水素を含む真空軽油と、520℃を超える沸点を有する炭化水素を含む減圧残油である。原油分析データは従来、これらの留分の個々の分析から得られ、精製者が原油留分の一般的な組成および特性を理解するのに役立ち、したがって、留分を適切な精製ユニットで最も効率的かつ効果的に処理できる。指標特性は、エンジン/燃料性能または有用性または流動特性または組成を求めるために用いられる。指標特性の概要およびその測定法を説明と共に以下に示す。
【0011】
ASTM D613法により測定されるディーゼル燃料油のセタン価は、ディーゼル燃料の着火性の尺度となるが;標準の単気筒試験エンジンで測定され;正標準燃料と比較して着火遅れを測定する。セタン価が高いほど;より容易に高速;直噴エンジンが始動し;始動後の白煙およびディーゼルノックが少なくなる。ディーゼル燃料油のセタン価は、標準運転条件下で試験エンジンにおけるその燃焼特性を既知のセタン価の標準燃料のブレンドの燃焼特性と比較することによって求められる。これは、サンプルおよびそれぞれ2つの内挿用標準燃料の圧縮比(ハンドホイール示度)を変化させて固有の着火遅れを得、したがって、ハンドホイール示度に対するセタン価の補間を可能にする内挿ハンドホイール法を用いて達成される。
【0012】
ASTM D2500法によって求められる曇り点は、潤滑油または留出燃料が標準条件下で冷却されたときにワックス結晶の曇りが現れる温度である。曇り点は、この材料が、寒い気候条件下でフィルタや小さなオリフィスを詰まらせる傾向を示す。この試験片を指定の速度で冷却し、定期的に調べる。曇りがテストジャーの底に最初に観察される温度を曇り点として記録する。この試験方法は、厚さ40mmの層で透明で、かつ曇り点が49℃未満の石油製品とバイオディーゼル燃料のみを対象とする。
【0013】
ASTM D97法によって求められる石油製品の流動点は、低い運転温度で油や留出燃料が流動することができる能力の指標である。流動点は、規定の条件下で冷却されたときに流体が流動する最低温度である。予備加熱した後、サンプルを指定の速度で冷却し、3℃間隔で流動特性を調べる。試験片の動きが観察される最低温度を流動点として記録する。
【0014】
ASTM D611法によって求められるアニリン点は、等体積のアニリンと、炭化水素燃料または潤滑油ベースストックとが完全に混和する最低温度である。炭化水素ブレンドの芳香族含有量の尺度は、ベースストックの溶解力または留出燃料のセタン価を予測するために利用される。指定の体積のアニリンおよびサンプル、またはアニリンおよびサンプルならびにn−ヘプタンを管に入れ、機械的に混合する。2つの相が混和するまで、制御された速度で混合物を加熱する。次いで、混合物を制御された速度で冷却し、2つの別々の相が再び形成される温度をアニリン点または混合アニリン点として記録する。
【0015】
ASTM D2699法またはD2700法によって求められるオクタン価は、火花点火機関においてデトネーションを防止できる燃料の能力の尺度である。標準の単気筒;可変圧縮比機関において正標準燃料と比較して測定される。穏やかな条件下で、エンジンはリサーチ法オクタン価(RON)を測定し、厳しい条件下で、エンジンはモータ法オクタン価(MON)を測定する。法律で計量ポンプにオクタン価を表示する必要がある場合は、アンチノックインデックス(AKI)が使用される。これは、RONとMONの算術平均(R+M)/2である。これは、平均的な車が燃料に対してどのように応答するかを示す尺度である走行オクタン価に近い。
【0016】
従来、軽油またはナフサ留分のこれらの特性を調べるためには、これらの留分を原油から蒸留して、手間と費用と時間がかかるさまざまな分析法を用いて測定/同定しなければならなかった。
【0017】
熱重量分析(TGA)は、材料の物理的および化学的性質の変化を加熱温度の関数として測定する。したがって、TGAは、加熱に伴ってサンプルが質量を減少/増加させるときにサンプルの残存重量を連続的に測定することによって、揮発物(炭化水素および/または水分など)の損失、分解または酸化による質量の減少または増加を測定するために用いられる。結果は、質量対加熱温度のサーモグラムプロットとして表示される。TGAは、材料特性解析、材料の熱安定性などのさまざまな用途、ならびにサンプルの有機/無機含有量の測定(強熱減量など)において広く使用されてきた。
【0018】
本発明は、TGAを用いて、原油の軽油留分の物理的特性および指標特性(すなわち、セタン価、流動点、曇り点およびアニリン点)、ならびにナフサ留分のオクタン価および全原油の芳香族性を明らかにするシステムおよび方法を開示する。本発明は、分留/蒸留(原油分析)を行わずに軽油特性への洞察を与え、生産者、精製者および販売者が油質をベンチマークし、その結果、費用と時間がかかる原油分析を経ることなく油を評価するのに役立つ。従来の原油分析法は最長2ヶ月かかることもあるが、本発明は1時間以内で結果が得られる。
【0019】
新規の迅速かつ直接的な方法は、全原油の分析によって原油の組成と特性をよりよく理解するのに役立ち、生産者、販売者、精製者および/または他の原油使用者の費用、努力および時間の大幅な節約になる。したがって、異なる供給源からの原油留分の指標特性を求めるための改善されたシステムおよび方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0020】
炭化水素サンプルの1つまたは複数の指標特性を求めるためのシステムおよび方法が提示される。原油サンプルにおける軽油留分の指標特性(例えば、セタン価、流動点、曇り点およびアニリン点)、ナフサ留分のオクタン価および全原油(WCO)の芳香族性が、原油サンプルの密度および熱重量測定値の関数として与えられる。指標特性は、分留/蒸留(原油分析)を行わずに軽油およびナフサの特性に関する情報を与え、生産者、精製者および販売者が油質をベンチマークするのに役立ち、その結果、通例となっている広範で時間がかかる原油分析を実施することなく油を評価する。
【0021】
本発明の別の利点および特徴は、添付の図面を参照して考慮されるとき、以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】異なるAPI比重を有する典型的な原油サンプルの典型的な熱重量測定データをプロットした図である。
【
図2】本発明の実施形態が実施される方法のブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態のモジュールの概略ブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態が実施されるコンピュータシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
炭化水素サンプルの1つまたは複数の指標特性を求めるためのシステムおよび方法が提供される。原油サンプルにおける軽油留分の指標特性(例えば、セタン価、流動点、曇り点およびアニリン点)およびナフサ留分のオゾン数が、原油サンプルの密度および熱重量測定値の関数として与えられる。指標特性は、分留/蒸留(原油分析)を行わずに軽油およびナフサの特性に関する情報を与え、生産者、精製者および販売者が油質をベンチマークするのに役立ち、その結果、通例となっている広範で時間がかかる原油分析を実施することなく油を評価する。
【0024】
このシステムおよび方法は、原油、ビチューメン、重油、頁岩油から、ならびに水素化処理、水素化加工、流動接触分解、コーキングおよびビスブレーキングまたは石炭液化を含む精製プロセスユニットから得られる天然に存在する炭化水素に適用できる。
【0025】
本明細書のシステムおよび方法において、熱重量分析は、適した既知のプロセスまたは開発予定のプロセスによって得られる。熱重量分析は、制御された雰囲気中でサンプルが加熱または冷却されるときのサンプルの重量を測定して、調査中の油サンプルの揮発性情報を与える。TGAは、質量変化および温度において高い精度を必要とする。精密天秤によって支持されたサンプルパンを含む炉を備えた熱重量測定装置が使用される。サンプルパージガスがサンプル環境を制御する。このガスは、サンプル上を流れて排気管から出る不活性ガスまたは反応性ガスであってもよい。ある実験において、Universal AnalystおよびThermal Advantageソフトウェアを備えたTA Instruments(ニューキャッスル、デラウェア)Model#2050を用いてTGAを実施した。同様の装置を使用することができる。
【0026】
TGA装置の温度範囲は、周囲温度(例えば、20℃)から最高1000℃の上限まで広げることができる。加熱は、約0.1〜100℃/分の範囲の速度で行うことができる。
【0027】
使用される熱重量分析指数は、全原油のサンプルのTGAデータから、または特定の実施形態では油井のドリルカッティングスのTGAデータから計算される。好ましい実施形態において、熱重量分析指数は、TGAデータの50W%点で計算することができる。
【0028】
1つの実施形態では、熱重量分析指数は、温度データの平均をとることによって計算することができる。好ましい実施形態において、熱重量分析指数は、温度データの加重平均をとることによって計算することができる。
【0029】
1つの実施形態では、熱重量測定データは、コアおよび/またはドリルカッティングス物質から直接得ることができる。
【0030】
図1は、異なるAPI比重を有する典型的な原油サンプルの典型的な熱重量測定データをプロットした図を示す。
【0031】
図2は、本明細書の1つの実施形態による方法におけるステップのプロセスフローチャートを示し、ここで、原油サンプルが調製され、以下で説明する方法200にしたがってTGAにより分析される。
【0032】
ステップ210において、15〜25mgのサンプルをピペットで市販の白金サンプルパンに落とす。サンプルの希釈や特別なサンプル調製は不要である。TGAは、校正済みのロータメーターを用い、窒素雰囲気下、周囲温度から600℃まで10℃/分で、炉内の90±5ml/minのガス流で行われる。天秤室を通る窒素の連続流(10±1ml/min)も維持される。
【0033】
ステップ215において、重量減少パーセント(0〜100)が計算されるように熱重量測定データが整理される。
【0034】
ステップ220において、式(1)にしたがって質量減少パーセントおよび温度から熱重量分析指数(TGAI)が計算される:
【数1】
式中、T
xは、個々の質量減少パーセントでの温度である。
【0035】
例えば、150〜400℃の範囲の沸点、特定の実施形態においては180〜370℃の範囲の沸点を有する軽油留分の指標特性(例えば、セタン価、流動点、曇り点およびアニリン点)、ナフサ留分のオクタン価および全原油(WCO)の芳香族性を、原油の密度およびTGAIの関数として与えることができる。すなわち、
指標特性=f(密度
crude oil,TGAI
crudeoil) (2);
【0036】
式(3)は、この関係の詳細な例であり、原油の軽油(GO)留分について予測することができるセタン価、流動点、曇り点およびアニリン点、ならびに全原油(WCO)について予測することができる芳香族性、ならびにナフサ留分について予測することができるオクタン価を示す。
【0037】
ステップ235、240、245および250において、それぞれ、原油の軽油(GO)留分についてセタン価、流動点、曇り点およびアニリン点の特性が計算され、ステップ253において、全原油(WCO)の芳香族性が計算され、ステップ255において、原油のナフサ留分についてオクタン価の特性が計算される。
図2は、順次実施されるステップを示しているが、これらは並行して、または任意の順番で実施することができる。特定の実施形態では、ただ1つまたは複数のステップ235、240、245、250、253、255が実施される。これらのステップでは、1つまたは複数の指標特性が以下の通り求められる:
指標特性=K+X1*DEN+X2*DEN
2+X3*DEN
3+X4*TGAI+
X5*TGAI
2+X6*TGAI
3+X7*DEN*TGAI (3);
式中:
DEN=原油サンプルの密度;および
K、X1〜X7は、TGAによる炭化水素データの線形回帰分析を用いて得られる、予測される特性の定数である。
【0038】
図3は、本発明の実施形態によるモジュール、システム300の概略ブロック図を示す。密度および生データ受信モジュール310は、原油のサンプルの密度および原油から得られる熱重量分析データを受け取る。
【0039】
熱重量分析指数計算モジュールは、TGAデータから熱重量分析指数を計算する。
【0040】
セタン価計算モジュール335は、熱重量分析指数およびサンプルの密度の関数として原油の軽油留分のセタン価を導く。
【0041】
流動点計算モジュール340は、熱重量分析指数およびサンプルの密度の関数として原油の軽油留分の流動点を導く。
【0042】
曇り点計算モジュール345は、熱重量分析指数およびサンプルの密度の関数として原油の軽油留分の曇り点を導く。
【0043】
アニリン点計算モジュール350は、熱重量分析指数およびサンプルの密度の関数として原油の軽油留分のアニリン点を導く。
【0044】
芳香族性計算モジュール352は、熱重量分析指数およびサンプルの密度の関数として全原油の芳香族性を導く。
【0045】
オクタン価計算モジュール355は、熱重量分析指数およびサンプルの密度の関数として原油のナフサ留分のオクタン価を導く。
【0046】
図4は、本発明の部分放電分類システムを実装することができるコンピュータシステム400の例示的なブロック図を示す。コンピュータシステム400は、中央処理装置などのプロセッサ420、入力/出力インタフェース430およびサポート回路440を含む。コンピュータシステム400が直接ヒューマンインタフェースを必要とする特定の実施形態では、ディスプレイ410と、キーボード、マウスまたはポインタなどの入力装置450も設けられる。ディスプレイ410、入力装置450、プロセッサ420およびサポート回路440は、メモリ460にも接続するバス490に接続されて示されている。メモリ460は、プログラム記憶メモリ470およびデータ記憶メモリ480を含む。ただし、コンピュータシステム400は、直接ヒューマンインタフェースコンポーネントディスプレイ410および入力装置450と共に示してあるが、モジュールのプログラミングおよびデータのエクスポート(exportation)は、代わりに、例えば、コンピュータシステム400がネットワークに接続され、プログラミング操作およびディスプレイ操作が別の関連するコンピュータ上で行われるか、またはプログラマブルロジックコントローラをインタフェースすることに関して既知であるように着脱可能な入力装置を介して行われる入力/出力インタフェース430上で実現することができることに留意されたい。
【0047】
プログラム記憶メモリ470およびデータ記憶メモリ480はそれぞれ揮発性(RAM)および不揮発性(ROM)メモリユニットを含むことができて、ハードディスクおよびバックアップ記憶容量も含むことができて、プログラム記憶メモリ470およびデータ記憶メモリ480の両方を単一のメモリデバイスにまとめることも、複数のメモリデバイスに分けることもできる。プログラム記憶メモリ470は、ソフトウェアプログラムモジュールおよび関連データを格納し、特に、密度および生データ受信モジュール310、熱重量分析指数計算モジュール315、セタン価計算モジュール335、流動点計算モジュール340、曇り点計算モジュール345、アニリン点計算モジュール350、芳香族性計算モジュール352およびオクタン価計算モジュール355を格納する。データ記憶メモリ480は、本発明の1つまたは複数のモジュールによって生成された結果および他のデータを格納する。
【0048】
コンピュータシステム400は、パソコン、ミニコンピュータ、ワークステーション、メインフレーム、プログラマブルロジックコントローラなどの専用コントローラまたはこれらの組み合わせなどの任意のコンピュータにすることができることを理解されたい。コンピュータシステム400は、例示目的で、単一のコンピュータユニットとして示しているが、このシステムは、処理負荷およびデータベースサイズに応じて規模を変えることができるコンピュータのグループを含むことができる。
【0049】
コンピュータシステム400は、好ましくは、例えば、プログラム記憶メモリ470に格納され、揮発性メモリからプロセッサ420によって実行されるオペレーティングシステムをサポートする。本発明の実施形態によれば、オペレーティングシステムは、コンピュータシステム400をインターネットおよび/またはプライベートネットワークにインタフェースするための命令を含む。
【実施例1】
【0050】
セタン価、流動点、曇り点、アニリン点、オクタン価および芳香族性の指標特性について、線形回帰を用いて1組の定数KおよびX1〜X7を求めた。これらの定数は、複数の原油サンプルにおける既知の実際の蒸留データおよびそれらの対応する指標特性に基づいて求めた。これらの定数を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
以下の実施例は、式(3)の適用を示すために記載される。0.8828Kg/lの15℃/4℃密度を有するアラビアの中質原油のサンプルを、記載された方法を用いてTGAにより分析した。表にした結果は表4の通りである:
【0053】
【表4】
【0054】
式(1)を適用して、TGAIは以下のように計算された:
【数2】
したがって、TGAIは372.8363と計算された。
【0055】
式(3)および表3の定数を適用して:
セタン価
GO(CET)=K
CET+X1
CET*DEN+X2
CET*DEN
2+
X3
CET*DEN
3+X4
CET*TGAI+X5
CET*TGAI
2+X6
CET*TGAI
3+
X7
CET*DEN*TGAI
=(3.4440824E+06)+(−1.1648748E+07)(0.8828)+(1.2971167E+07)(0.8828)
2+(−4.7663268E+06)(0.8828)
3+(3.4781476E+02)(372.8363)+
(−3.0996298E−01)(372.8363)
2+(3.1335567E−04)(372.8363)
3+
(−2.8259387E+02)(0.8828)(372.8363)
=59
【0056】
流動点
GO(PP)=K
PP+X1
PP*DEN+X2
PP*DEN
2+X3
PP*DEN
3+
X4
PP*TGAI+X5
PP*TGAI
2+X6
PP*TGAI
3+X7
PP*DEN*TGAI
=(4.8586818E+06)+(−1.6445177E+07)(0.8828)+(1.8314457E+07)(0.8828)
2+(−6.7294243E+06)(0.8828)
3+(5.1784158E+02)(372.8363)+
(−4.9994583E−01)(372.8363)
2+(5.0732788E−04)(372.8363)
3+
(−4.0725036E+02)(0.8828)(372.8363)
=−10
【0057】
曇り点
GO(CP)=K
CP+X1
CP*DEN+X2
CP*DEN
2+X3
CP*DEN
3+
X4
CP*TGAI+X5
CP*TGAI
2+X6
CP*TGAI
3+X7
CP*DEN*TGAI
=(2.9180642E+05)+(−9.9096539E+05)(0.8828)+(1.1102599E+06)(0.8828)
2+(−4.1141986E+05)(0.8828)
3+(2.4644626E+01)(372.8363)+(−2.4183985E−02)(372.8363)
2+(2.4017172E−05)(372.8363)
3+(−1.9062052E+01)(0.8828)(372.8363)
=−11
【0058】
アニリン点
GO(AP)=K
AP+X1
AP*DEN+X2
AP*DEN
2+X3
AP*DEN
3+
X4
AP*TGAI+X5
AP*TGAI
2+X6
AP*TGAI
3+X7
AP*DEN*TGAI
=(1.5741617E+06)+(−5.3253923E+06)(0.8828)+(5.9279491E+06)(0.8828)
2+(−2.1769469E+06)(0.8828)
3+(1.6833776E+02)(372.8363)+
(−1.6081980E−01)(372.8363)
2+(1.6443813E−04)(372.8363)
3+
(−1.3337068E+02)(0.8828)(372.8363)
=66
【0059】
芳香族性
WCO(AROM)=K
AROM+X1
AROM*DEN+X2
AROM*DEN
2+
X3
AROM*DEN
3+X4
AROM*TGAI+X5
AROM*TGAI
2+
X6
AROM*TGAI
3+X7
AROM*DEN*TGAI
=(−1.2131981E+05)+(4.1952545E+05)(0.8828)+(−4.7011378E+05)(0.8828)
2+(1.7360561E+05)(0.8828)
3+(−3.0649367E+01)(372.8363)+
(6.2885397E−02)(372.8363)
2+(−6.4167386E−05)(372.8363)
3+
(1.1934777E+01)(0.8828)(372.8363)
=18
【0060】
オクタン価(ON)=K
ON+X1
ON*DEN+X2
ON*DEN
2+X3
ON*DEN
3+
X4
ON*TGAI+X5
ON*TGAI
2+X6
ON*TGAI
3+X7
ON*DEN*TGAI
=(−3.1407161E+05)+(1.1079386E+06)(0.8828)+(−1.2925048E+06)(0.8828)
2+(5.0229227E+05)(0.8828)
3+(−2.1800822E+01)(372.8363)+
(6.9721231E−02)(372.8363)
2+(−7.3440477E−05)(372.8363)
3+
(0)(0.8828)(372.8363)
=55
【0061】
したがって、上述の実施例に示す通り、分留/蒸留(原油分析)を行わずに、セタン価、流動点、曇り点、アニリン点および芳香族性を含む指標特性を原油サンプルに与えることができる。
【0062】
代替の実施形態では、本発明を、コンピュータ化された計算システムと共に使用するためのコンピュータプログラム製品として実施することができる。本発明の機能を定義するプログラムは、任意の適切なプログラミング言語で書くことができて、以下を含むが、これらには限定されない任意の形式でコンピュータに送ることができることを当業者であれば容易に理解するであろう:(a)書き込み不可能な記憶媒体(例えば、ROMまたはCD−ROMディスクなどの読み出し専用メモリデバイス)に恒久的に格納された情報;(b)書き込み可能な記憶媒体(例えば、フロッピーディスクおよびハードドライブ)に変更可能に格納された情報;および/または(c)ローカルエリアネットワーク、電話網、またはインターネットなどの公衆網などの通信媒体を通じてコンピュータに伝えられる情報。本発明の方法を実施するコンピュータ可読命令を運ぶとき、そのようなコンピュータ可読媒体は、本発明の代替の実施形態を表す。
【0063】
本明細書に一般的に示されるように、システムの実施形態は、そこで具体化されるコンピュータ可読コード手段を有するコンピュータ使用可能媒体を含むさまざまなコンピュータ可読媒体を組み込むことができる。記載されたさまざまなプロセスに関連するソフトウェアは、ソフトウェアがロードおよび起動される多種多様なコンピュータアクセス可能媒体において具体化することができることを当業者は理解されよう。In re Beauregard、35 U.S.P.Q.2d 1383(米国特許第5710578号明細書)にしたがい、本発明は、本発明の範囲内に、このタイプのコンピュータ可読媒体を企図および包含する。特定の実施形態では、In re Nuijten、500 F.3d 1346(Fed.Cir.2007)(米国特許出願第09/211928号明細書)にしたがい、本特許請求の範囲は、媒体が有形かつ非一時的であるコンピュータ可読媒体に限定される。
【0064】
本発明のシステムおよび方法は、添付の図面を参照して説明されてきた;しかし、変更は当業者には明らかになるであろう。本発明の保護の範囲は以下の特許請求の範囲によって定義される。