(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、車速と運転者による車速に関する操作量とを取得し、車速がゼロの状態において車速に関する操作量がゼロより大きくなったとき、前記第1制御モードをとる、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ハイブリッド型など、電動モータを有する電動式の自動二輪車が提案されている。電動式の自動二輪車では、電動モータを制御することによって発進時のトルクを円滑に変化させることができる。このため、従来、遠心クラッチなどにより実現されていた半クラッチ機能が、電動式の自動二輪車では不要である。そこで、遠心クラッチを省略することが考えられる。しかし、遠心クラッチを省略すると駆動輪と駆動源とが直接連結されることになり、その結果、停車中の車両を押して移動させることが困難になる。遠心クラッチを省略しつつ停車中の車両を押して移動可能にするには、駆動輪と駆動源との間のトルク伝達を停車中に遮断する必要がある。このため、アクチュエータによりトルク伝達方向を切り替えられる従来のクラッチ装置を自動二輪車の駆動系に適用することが考えられる。しかしながら、従来のクラッチ装置は、アクチュエータを備えるなど構造が複雑であったため、自動二輪車の駆動系に従来のクラッチ装置を適用することは難しい。更には、アクチュエータが高速に動作するものでなければ、自動二輪車の発進時にエンジン回転数を上げてもクラッチ装置でのトルクの伝達開始が遅れ、操作応答性が悪化する恐れがある。したがって、簡易な構成であっても、短い時間でクラッチ装置に入力トルクの伝達を開始させる事が望まれる。
【0005】
また、従来のクラッチ装置では、例えば、カム機構などで想定以上の強さで噛み込みが生じると、トルクの伝達が遮断されるべき条件下でも、トルクが伝達されてしまうことがあった。したがって、従来よりも確実にクラッチ装置の入力トルク伝達を遮断させる事が望まれる。
【0006】
本発明は、簡易な構成であっても、短い時間でクラッチ装置の入力トルク伝達を開始させられる動力伝達装置及び自動二輪車の提供を目的とする。また、本発明は、従来よりも確実にクラッチ装置の入力トルク伝達を遮断できる動力伝達装置及び自動二輪車の提供を別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面に係る動力伝達装置は、クラッチ装置と制御部とを備えている。クラッチ装置は、入力部材と、出力部材と、伝達部材と、保持部材とを備えている。入力部材は、回転可能に配置される。出力部材は、半径方向において、入力部材と間隔をおいて回転可能に配置される。伝達部材は、半径方向において入力部材と出力部材との間に配置される。また、伝達部材は、入力部材と出力部材との間でトルクを伝達する係合状態と、トルクを遮断する非係合状態とをとり得る。保持部材は、入力部材との間に伝達部材を保持する。保持部材の慣性力によって、伝達部材は係合状態と非係合状態との間で状態が遷移する。制御部は、伝達部材を非係合状態から係合状態にするように入力部材に入力するトルクを制御する第1制御モードを有する。
【0008】
この構成によれば、伝達部材が非係合状態で出力部材にトルクが入力されても、トルクは入力部材に伝達されない。一方、伝達部材が非係合状態で入力部材にトルクが入力されると、入力部材との間に伝達部材を保持する保持部材が回転し、その慣性力によって伝達部材が係合状態となる。この結果、入力部材に入力されたトルクは、伝達部材を介して出力部材に伝達される。ここで、保持部材の慣性力は、角加速度に比例するものであるため、入力部材の回転速度によらず速やかに立ち上げられる。このため本発明に係る動力伝達装置は、制御部が第1制御モードをとることで、簡易な構成であっても、短い時間でクラッチ装置の入力トルク伝達を開始させられる。
【0009】
好ましくは、制御部は、伝達部材を係合状態から非係合状態にするように入力部材に入力するトルクを制御する第2制御モードを有する。
【0010】
本発明の第2側面に係る動力伝達装置は、クラッチ装置と制御部とを備えている。クラッチ装置は、上記第1側面に係る動力伝達装置の構成と同様である。制御部は、伝達部材を係合状態から非係合状態にするように入力部材に入力するトルクを制御する第2制御モードを有する。このような動力伝達装置は、制御部が第2制御モードをとることで、従来よりも確実にクラッチ装置の入力トルク伝達を遮断させられる。
【0011】
好ましくは、制御部は、入力部材にトルクを入力する電動モータへの制御信号を出力する。すなわち、制御部は、電動モータを制御することによって、クラッチ装置を制御する。
【0012】
好ましくは、制御部は、車速と運転者による車速に関する操作量とを取得し、取得した車速と操作量とに基づいてクラッチ装置を制御する。
【0013】
好ましくは、制御部は、車速がゼロの状態において、車速の操作量がゼロより大きくなったとき、第1制御モードをとる。
【0014】
好ましくは、制御部は、車速がゼロになったとき、第2制御モードをとる。
【0015】
好ましくは、制御部は、第1制御モードおよび第2制御モードの各々で、発進に必要なトルクよりも小さいトルクを電動モータに出力させる制御信号を出力する。
【0016】
本発明の第3側面に係る自動二輪車は、上記いずれかの動力伝達装置と、電動モータと、被操作部と車速センサとを備える。好ましくは、エンジンをさらに備える。
【0017】
本発明の第4側面に係る自動二輪車は、電動モータと、駆動輪と、クラッチ装置と、スロットルグリップと、操作量検出部と、車速センサと、制御部とを備える。クラッチ装置は、電動モータからのトルクを駆動輪へと伝達するとともに、駆動輪から電動モータへのトルク伝達を遮断する。スロットルグリップは、運転者によって操作される。操作量検出部は、スロットルグリップの操作量を検出する。車速センサは、車速を検出する。制御部は、操作量検出部によって検出された操作量、及び車速センサによって検出された車速に基づき、電動モータを制御する。クラッチ装置は、出力部材と、入力部材と、ローラと、保持部材と、カム機構と、を有する。出力部材は、筒状である。入力部材は、半径方向において出力部材の内側に配置され、電動モータからのトルクにより回転するように構成される。ローラは、半径方向において、出力部材と入力部材との間に配置される。保持部材は、入力部材と相対回転可能に配置され、ローラを保持する。カム機構は、入力部材が保持部材と相対回転したときに、ローラを出力部材と入力部材との間で噛ませるように構成される。制御部は、車速がゼロの状態において、スロットルグリップが操作されたとき、電動モータを制御して、保持部材と相対回転するような角加速度で入力部材を回転させる。
【0018】
本発明の第5側面に係る自動二輪車は、電動モータと、駆動輪と、クラッチ装置と、スロットルグリップと、操作量検出部と、車速センサと、制御部と、を備えている。クラッチ装置は、電動モータからのトルクを駆動輪へと伝達するとともに、駆動輪から電動モータへのトルク伝達を遮断する。また、クラッチ装置は、出力部材と、入力部材と、ローラと、保持部材と、カム機構と、を有している。出力部材は、筒状である。入力部材は、半径方向において出力部材の内側に配置されている。入力部材は、電動モータからのトルクにより回転するように構成される。ローラは、半径方向において、出力部材と入力部材との間に配置される。保持部材は、入力部材と相対回転可能に配置され、ローラを保持する。カム機構は、入力部材が保持部材と相対回転したときに、ローラを出力部材と入力部材との間で噛ませるように構成されている。スロットルグリップは、運転者によって操作される。操作量検出部は、スロットルグリップの操作量を検出する。車速センサは、車速を検出する。制御部は、操作量検出部によって検出された操作量、及び車速センサによって検出された車速に基づき、電動モータを制御する。制御部は、車速がゼロになったとき、電動モータを制御して、出力部材と入力部材との間におけるローラの噛み合いを解除するように入力部材を回転させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のある側面によれば、簡易な構成であっても、短い時間でクラッチ装置の入力トルク伝達を開始させられる動力伝達装置及び自動二輪車の提供できる。また、本発明の別の側面によれば、従来よりも確実にクラッチ装置の入力トルク伝達を遮断させられる動力伝達装置及び自動二輪車の提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る動力伝達装置及び自動二輪車の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態に係る自動二輪車は、ハイブリッドタイプである。
【0022】
図1に示すように、ハイブリッド自動二輪車200は、電動モータ101と、エンジン102と、無段変速機103と、ファイナルギヤ104と、駆動輪105と、スロットルグリップ106と、ポジションセンサ107と、車速センサ108と、動力伝達装置と、を備えている。なお、動力伝達装置は、クラッチ装置100と、制御部109と、を含んでいる。
【0023】
[電動モータ]
電動モータ101は、本実施形態に係るハイブリッド自動二輪車の駆動源の1つである。電動モータ101は、発進時や急加速時などにおいて駆動輪105を回転駆動させる。また、電動モータ101は、エンジン102を始動させるように構成されている。すなわち、電動モータ101は、エンジン102の始動時においてセルモータとして使用される。また、電動モータ101は、エンジン102によって駆動されて発電するように構成される。すなわち、電動モータ101は、エンジン102の始動後において、ダイナモとしても使用される。
【0024】
[エンジン]
エンジン102は、本実施形態に係るハイブリッド自動二輪車の駆動源の1つである。すなわち、本実施形態に係るハイブリッド自動二輪車は、電動モータ101とエンジン102との2つの駆動源を有している。エンジン102は、通常走行時において、駆動輪105を回転駆動させる。また、エンジン102は、駆動輪105を回転駆動させるとともに、電動モータ101を駆動して発電させている。
【0025】
[無段変速機]
無段変速機103は、電動モータ101及びエンジン102からのトルクを変速するように構成されている。無段変速機103は、ベルト式無段変速機である。すなわち、本実施形態に係るハイブリッド自動二輪車は、オートマチックトランスミッションを採用している。無段変速機103は、電動モータ101及びエンジン102からのトルクが入力される。
【0026】
無段変速機103は、駆動側プーリ装置と、従動側プーリ装置と、ベルトとを有している。ベルトは、駆動側プーリ装置と従動側プーリ装置との間に架かっている。各プーリ装置の径が変わることによって、変速比が連続的に変化する。
【0027】
[クラッチ装置]
クラッチ装置100は、駆動源及び駆動輪105の一方からのトルクを伝達するとともに駆動源及び駆動輪105の他方からのトルク伝達を遮断するように構成されている。本実施形態では、クラッチ装置100は、電動モータ101又はエンジン102からのトルクを駆動輪105へと伝達するとともに、駆動輪105から電動モータ101又はエンジン102へのトルク伝達を遮断するように構成されている。クラッチ装置100は、無段変速機103と駆動輪105との間に配置されている。詳細には、クラッチ装置100は、無段変速機103とファイナルギヤ104との間に配置されている。以下、クラッチ装置100の詳細については説明する。
【0028】
[クラッチ装置の詳細]
上述したクラッチ装置100の詳細について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは、クラッチ装置の回転軸Oが延びる方向を意味する。また、半径方向とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味し、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。また、半径方向の内側とは、半径方向において回転軸Oに近い側を意味し、半径方向の外側とは、半径方向において回転軸Oから遠い側を意味する。
【0029】
図2及び
図3に示すように、クラッチ装置100は、出力部材1、入力部材2、複数のローラ3(伝達部材の一例)、複数対の付勢部材4、保持部材5、及びカム機構6を備えている。出力部材1が駆動輪105側と接続されており、入力部材2が電動モータ101及びエンジン102側と接続されている。
【0030】
[出力部材]
出力部材1は、筒状である。出力部材1は、駆動輪105へとトルクを出力する。出力部材1は、回転軸Oを中心に回転可能である。出力部材1は、入力部材2と同軸上に配置されている。出力部材1は、半径方向において入力部材2と間隔をあけて配置されている。詳細には、出力部材1は、半径方向において、入力部材2の外側に配置される。
【0031】
図4に示すように、出力部材1は、円板部11と、筒状部12とを有している。筒状部12は、円筒状であって、円板部11の外周縁から軸方向に延びている。この筒状部12は、クラッチ装置100の外壁を構成している。出力部材1は、例えば、機械構造用炭素鋼、機械構造用工具鋼、炭素工具鋼、又は合金工具鋼などによって形成されている。
【0032】
[入力部材]
図2及び
図3に示すように、入力部材2は、半径方向において出力部材1の内側に配置されている。詳細には、入力部材2は、半径方向において出力部材1の筒状部12の内側に配置されている。入力部材2は、回転軸Oを中心に回転可能である。また、入力部材2は、出力部材1に対して、相対回転可能である。入力部材2は、電動モータ101又はエンジン102からのトルクが入力される。
【0033】
図5に示すように、入力部材2は、入力部材本体部21と、ボス部22とを有している。入力部材2は、例えば、機械構造用炭素鋼、機械構造用工具鋼、炭素工具鋼、又は合金工具鋼などによって形成されている。
【0034】
入力部材本体部21は、円板状である。入力部材本体部21の外周面211は、出力部材1の内周面と間隔をあけて配置されている。ローラ3、付勢部材4,及び保持部材5を取り除いた状態において、入力部材本体部21の外周面211は、出力部材1の内周面と対向している。なお、出力部材1の内周面とは、出力部材1の筒状部12の内周面を意味する。
【0035】
入力部材本体部21の外周面211には、複数のカム面212が形成されている。各カム面212は、周方向において間隔をあけて形成されている。好ましくは、各カム面212は、周方向において、等間隔に配置されている。
【0036】
各カム面212は、半径方向において内側に凹むように構成されている。カム面212の周方向の中央部が最も出力部材1の内周面から離れている。また、各カム面212は、周方向の両端部に近付くにつれて、出力部材1に近付くように構成されている。具体的には、各カム面212は、軸方向視において、円弧状に形成されている。
【0037】
また、入力部材本体部21は、複数の第1貫通孔213を有している。各第1貫通孔213は、入力部材本体部21を軸方向に貫通している。各第1貫通孔213は、周方向において間隔をあけて配置されている。好ましくは、各第1貫通孔213は、周方向において等間隔に配置されている。各第1貫通孔213は、同一の円周上に配置されている。各第1貫通孔213は、周方向に延びる長孔形状である。
【0038】
ボス部22は、円筒状であって、入力部材本体部21から軸方向に延びている。ボス部22は、入力部材本体部21と同軸上に配置されている。ボス部22は、入力部材本体部21よりも半径が小さい。
【0039】
ボス部22は、電動モータ101又はエンジン102側からのトルクが入力される入力軸(図示省略)と係合するように構成されている。詳細には、ボス部22は、第2貫通孔221を有している。第2貫通孔221は、入力軸が係合されるように構成されている。例えば、第2貫通孔221は、内周面において、対向する一対の平面を有している。そして、入力軸は、外周面において対向する一対の平面を有している。この構成によって、入力軸は、第2貫通孔221と係合して一体的に回転可能となる。なお、第2貫通孔221は、ボス部22のみならず、入力部材本体部21も貫通している。
【0040】
[保持部材]
図2及び
図3に示すように、保持部材5は、入力部材2との間にローラ3を保持している。保持部材5は、定常状態ではローラ3を非係合状態で保持する。保持部材5は、付勢部材4を介してローラ3を保持している。保持部材5は、入力部材2及び出力部材1と相対回転可能に配置されている。保持部材5は、樹脂製であり、具体的には、PA系樹脂、POM系樹脂、PPS系樹脂、PBT系樹脂、PEEK樹脂、又はPTFE系樹脂などによって形成することができる。保持部材5は、軸方向において、入力部材2と並んでいる。
【0041】
図6に示すように、保持部材5は、円板プレート状であって、その中央部に第3貫通孔51を有している。保持部材5は、保持部材本体部52と、保持部53とを有している。保持部材本体部52は、円板状であって、中央部に第3貫通孔51を有している。第3貫通孔51は、軸方向において、保持部材本体部52を貫通している。また、第3貫通孔51は、軸方向視において、円形である。
【0042】
保持部材5の第3貫通孔51内を、入力部材2のボス部22が貫通している。すなわち、ボス部22は、第3貫通孔51を介して、保持部材5を越えて軸方向に延びている。ボス部22の外径は、第3貫通孔51の内径よりも小さい。保持部材5は、第3貫通孔51の内周面がボス部22の外周面と当接することによって、入力部材2に支持されている。具体的には、第3貫通孔51の内周面の上端部と、ボス部22の外周面の上端部とが、接触している。
【0043】
保持部材本体部52は、複数の第4貫通孔521を有している。各第4貫通孔521は、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。好ましくは、各第4貫通孔521は、週方向において等間隔に配置されている。
【0044】
保持部53は、周方向において、ローラ3及び付勢部材4を保持するように構成されている。保持部53は、円筒状であって、保持部材本体部52から軸方向に延びている。保持部53は、半径方向において、出力部材1と入力部材2との間に配置されている。詳細には、保持部53は、半径方向において、出力部材1の筒状部12と、入力部材2の入力部材本体部21との間に配置されている。
【0045】
保持部53は、複数の第5貫通孔531を有している。各第5貫通孔531は、半径方向において、保持部53を貫通している。このため、ローラ3と一対の付勢部材4とを取り除いた状態において、この第5貫通孔531を介して、出力部材1と入力部材2とが対向する。各第5貫通孔531は、周方向に間隔をあけて配置されている。好ましくは、各第5貫通孔531は、周方向に等間隔に配置されている。
【0046】
各第5貫通孔531は、一対の内壁面によって構成されている。この一対の内壁面は、保持面532を構成している。ローラ3及び一対の付勢部材4を取り除いた状態において、一対の保持面532は、周方向において対向している。この一対の保持面532は、ローラ3及び一対の付勢部材4を保持する。
【0047】
[ローラ]
図2及び
図3に示すように、ローラ3は、保持部材5に保持されている。詳細には、ローラ3は、一対の付勢部材4を介して、保持部材5に保持されている。ローラ3は、保持部材5の第5貫通孔531内に配置されている。
【0048】
各ローラ3は、軸方向に延びる円柱状である。ローラ3は、半径方向において、出力部材1と入力部材2との間に配置されている。詳細には、ローラ3は、半径方向において、出力部材1の筒状部12と、入力部材本体部21との間に配置されている。
【0049】
ローラ3は、係合状態と非係合状態とを取り得る。
図7に示すように、非係合状態とは、ローラ3が入力部材2から出力部材1へのトルクの伝達を遮断する状態をいう。すなわち、非係合状態では、ローラ3は出力部材1と入力部材2との間で噛合わない状態となっている。なお、ローラ3は、非係合状態にあるとき、周方向においてカム面212の中央部に位置するとともに入力部材と接するように、付勢部材4に付勢されている。そして、ローラ3は、非係合状態において、出力部材1と間隔をあけて配置されている。すなわち、非係合状態のローラ3は、出力部材1と接触していない。
【0050】
図8又は
図9に示すように、係合状態とは、ローラ3が入力部材2からのトルクを出力部材1に伝達する状態を言う。すなわち、係合状態では、ローラ3は、出力部材1と入力部材2との間で噛合う状態となっている。なお、ローラ3は、係合状態にあるとき、カム面212の中央部から両端部のいずれかに移動した位置に位置している。そして、ローラ3は、出力部材1と接触している。
【0051】
[付勢部材]
図2及び
図3に示すように、付勢部材4は第5貫通孔531内に配置されている。付勢部材4は、ローラ3を非係合状態に付勢している。本実施形態では、一対の付勢部材4によって、1つのローラ3を周方向から挟んで入力部材2側に付勢するように構成されている。
【0052】
付勢部材4は、周方向において第1端部と第2端部とを有している。そして、ローラ3と接触する第1端部は、保持面532と接触する第2端部よりも半径方向において内側に配置されている。付勢部材4は、保持部材5によって保持されている。付勢部材4は、例えば、板バネであってもよいし、コイルスプリングであってもよい。
【0053】
[カム機構]
カム機構6は、入力部材2が保持部材5と相対回転したときに生じる慣性力によって、ローラ3を出力部材1と入力部材2との間で噛ませるように構成されている。具体的には、カム機構6は、入力部材2の外周面に形成されたカム面212を有する(
図7参照)。入力部材2の外周面に形成されたカム面212と出力部材1の内周面との間隔は、回転方向において異なる。具体的には、カム面212の円周方向の中央付近での間隔はローラ3の直径よりも大きく、カム面212の円周方向の両端付近での間隔はローラ3の直径よりも小さい。
【0054】
[クラッチ装置の動作]
上述したように構成されたクラッチ装置100は、例えば自動二輪車に適用されて、自動二輪車の発進時に、以下のように動作する。まず、電動モータ101又はエンジン102などの駆動源からトルクが入力されていない状態では、
図7に示すように、ローラ3は非係合状態となっている。すなわち、ローラ3は、カム面212の中央部に位置しており、出力部材1と入力部材2との間で噛合っていない。このため、出力部材1からトルクが入力しても、入力部材2には伝達されない。例えば、停車しているハイブリッド自動二輪車200を押して移動させたい場合、ハイブリッド自動二輪車200を押すことによって駆動輪105が回転しても、出力部材1のみが回転し、入力部材2は回転しないため、電動モータ101又はエンジン102を回転させることがない。すなわち、クラッチ装置100によって、駆動輪105から無段変速機103へのトルク伝達を遮断する。この結果、容易にハイブリッド自動二輪車200を移動させることができる。なお、
図7の矢印は、出力部材1の回転方向を示す。
【0055】
ローラ3が非係合状態にあるクラッチ装置100に、電動モータ101又はエンジン102からトルクが入力されると、入力部材2が回転する。これにより、入力部材2との間にローラ3を保持する保持部材5が回転する。保持部材5は慣性によって入力部材2よりも回転速度が遅くなるため、保持部材5が慣性力によって入力部材2と相対回転する。
【0056】
すると、
図8に示すように、保持部材5の慣性力によってローラ3が非係合状態から係合状態に遷移し、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛合う。この結果、出力部材1と入力部材2とは一体的に回転する。すなわち、入力部材2から各ローラ3を介して出力部材1へとトルクが伝達される。この際、保持部材5の慣性力は、角加速度に比例するものであるため、入力部材2の回転速度がゼロの状態からでも速やかに立ち上げられる。このためクラッチ装置100は、簡易な構成であっても、低い回転速度から入力トルクの伝達を開始できる。クラッチ装置100は、無段変速機103からのトルクを駆動輪105へと伝達する。なお、
図8の矢印は、クラッチ装置100の回転方向を示す。
【0057】
図9に示すように、ローラ3が係合状態にあり、車両が走行している状態からの減速時において保持部材5は慣性によって入力部材2よりも回転速度が速くなるため、保持部材5は慣性力によって入力部材2と相対回転する。すると、
図9に示すように、ローラ3が係合状態となり、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛合う。この結果、出力部材1と入力部材2とは一体的に回転する。すなわち、入力部材2から各ローラ3を介して出力部材1へとトルクが伝達される。したがって、クラッチ装置100は、無段変速機103からのトルクを駆動輪105へと伝達する。なお、
図9の矢印は、クラッチ装置100の回転方向を示す。
【0058】
以上のように、電動モータ101又はエンジン102が増速又は減速したとき、保持部材5が慣性力によって、入力部材2と相対回転する。その結果、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛合い、出力部材1と入力部材2との間でトルクが伝達される。また、保持部材5が周方向のどちらの方向において入力部材2と相対回転しても、ローラ3は係合状態となる。
【0059】
保持部材5の慣性質量が大きいほど、増速時及び減速時において保持部材5は入力部材2に対してより確実に相対回転することができる。よって、保持部材5の慣性質量を大きくするため、本実施形態では、保持部材5の体積を大きくしている。具体的には、保持部材5の保持部材本体部52を、ボス部22から出力部材1まで延びる円板のプレート状としている。
【0060】
また、入力部材2と保持部材5との摺動抵抗をより小さくして入力部材2と保持部材5とをより確実に相対回転させるために、入力部材2と保持部材5との接触点を半径方向の内側に持ってきている。具体的には、入力部材2のボス部22と保持部材5の第3貫通孔51の内周面とで接触させている。
【0061】
[ファイナルギヤ]
図1に示すように、ファイナルギヤ104は、クラッチ装置100と駆動輪105との間に配置されている。具体的には、ファイナルギヤ104は、ドライブシャフト(図示省略)と駆動輪105との間に設けられている。ファイナルギヤ104は、例えば、平歯車、又ははすば歯車を組み合わせた3軸の減速機構や、遊星歯車を用いた1軸の減速機構が挙げられる。
【0062】
[駆動輪]
駆動輪105は、電動モータ101及びエンジン102からのトルクを受けて回転する車輪である。本実施形態に係るハイブリッド自動二輪車200では、後輪が駆動輪105である。
【0063】
[スロットルグリップ]
スロットルグリップ106は、運転者によって操作される。このスロットルグリップ106を操作することによって、スロットルの開度が調整される。なお、運転者は、スロットルグリップ106を回転させることによって、スロットルグリップ106を操作する。具体的には、スロットルグリップ106の回転角度が大きくなるにつれて、スロットルの開度も大きくなる。すなわち、スロットルグリップ106の操作量(回転角度)が大きくなるにつれて、エンジンの出力も大きくなり、車速が増速する。また、スロットルグリップ106の操作量(回転角度)が大きくなるにつれて、電動モータ101の出力も大きくなり、車速が増速する。なお、スロットルグリップ106は、車速に関する操作を受ける被操作部に相当する。すなわち、スロットルグリップ106は、本発明の被操作部に相当する。
【0064】
[ポジションセンサ]
ポジションセンサ107は、スロットルグリップ106の操作量を検出するように構成されている。本実施形態では、ポジションセンサ107は、スロットルグリップ106の回転角度を検出するように構成されている。ポジションセンサ107は、スロットルグリップ106の操作量に関する信号を、制御部109へと出力する。なお、ポジションセンサ107は、被操作部の操作量を検出する操作量検出部に相当する。すなわち、ポジションセンサ107は、本発明の操作量検出部に相当する。
【0065】
[車速センサ]
車速センサ108は、ハイブリッド自動二輪車200の車速を検出するように構成されている。具体的には、車速センサ108は、駆動輪105の回転数を検出するように構成されている。車速センサ108は、車速に関する信号を、制御部109へと出力する。
【0066】
[制御部]
制御部109は、電動モータ101を制御することによって、クラッチ装置100を間接的に制御する。詳細には、制御部109は、ポジションセンサ107によって検出された操作量、及び車速センサ108によって検出された車速に基づき、電動モータ101を制御するように構成されている。
【0067】
制御部109は、ハイブリッド自動二輪車200の状態に基づき、保持部材5と相対回転するような角加速度で、入力部材2を回転させる。詳細には、制御部109は、車速が0の状態において、スロットルグリップ106が操作されたとき、電動モータ101を制御して、クラッチ装置100の保持部材5と相対回転するような角加速度で入力部材2を回転させる。
【0068】
[ハイブリッド自動二輪車の動作]
次に、ハイブリッド自動二輪車200の動作について説明する。
図10は、ハイブリッド自動二輪車200を発進させてから停車するまでの一連の動作を行う際の各種の状態値の時間推移を例示する図である。なお、以下の説明はあくまで例示であり、具体的な制御内容はこの例に限定されるものではない。また、以下で説明に用いるスロットル開度の用語は、エンジン動作時には燃料噴射量の瞬時値の最大値に対する割合を表すものであり、一方、ハイブリッド動作時またはモータ単独動作時には、エンジン動作時のスロットル開度と等価なものとする。
【0069】
発進時、まず、運転者は自動二輪車200のスイッチをオン状態にして、ハイブリッド自動二輪車200を走行可能な状態にする。そして、運転者は、スロットルグリップ106を操作する、すなわち、スロットルグリップ106を回転させる。これによって、
図10(b)に示すようにスロットルグリップ106の操作量が徐々に増加する。すなわち、スロットルグリップ106の回転角度が徐々に増加する。なお、
図10(a)及び
図10(c)に示すように、車速及びスロットル開度は、スロットルグリップ106の操作開始から所定時間経過後に増加し始める。すなわち、スロットルグリップ106は遊び部分を有しており、スロットルグリップ106は、この遊びをもってスロットル開度を操作している。
【0070】
また、スイッチがオン状態となると、
図11に示すように、各センサが動作を開始する(ステップS1)。詳細には、ポジションセンサ107は、スロットルグリップ106の操作量を検出する。そして、ポジションセンサ107は、この操作量に関する信号を制御部109へと出力する。また、車速センサ108は、車速を検出する。そして、車速センサ108は、この車速に関する信号を制御部109へと出力する。
【0071】
制御部109は、車速がゼロの停車状態では、ポジションセンサ107及び車速センサ108からの信号に基づき、車速がゼロであり、且つ、スロットルグリップ106が操作された(スロットルグリップ106の回転角度が0より大きくなった)か否か判断する(ステップS2)。
【0072】
制御部109は、車速がゼロではない、又は、スロットルグリップ106が操作されていない(スロットルグリップ106の回転角度がゼロである)、と判断すれば(ステップS2のNo)、再度ステップS1の処理から繰り返す。
【0073】
制御部109は、車速がゼロであり、且つスロットルグリップ106が操作された(スロットルグリップ106の回転角度がゼロより大きくなった)と判断すれば(ステップS2のYes)、電動モータ101を第1制御モードで制御する(ステップS3)。詳細には、
図10(e)及び
図10(g)に示すように、制御部109は、第1制御モードで電動モータ101の出力を瞬間的に増加させるように制御信号を変化させる。例えば、電動モータ101がスイッチング制御される場合、制御部109は制御信号のデューティ比を一時的に増加させる。これにより、電動モータ101のモータ出力が増加する。
【0074】
制御部109によって制御された電動モータ101の出力は、クラッチ装置100の入力部材2を回転させる(
図10(d))。これにより、入力部材2の角加速度が増加し、入力部材2が保持部材5と相対回転する。すると、保持部材5の相対回転による慣性力により、ローラ3は、
図8に示すように、係合状態となる。なお、このステップS3の処理において、制御部109は、スロットルグリップ106の操作量とは無関係に、予め設定された角加速度で入力部材2が回転するように、電動モータ101を出力させる。電動モータ101の出力は、ハイブリッド自動二輪車200の発進に必要なトルクよりも小さいトルクとなるように設定される。
【0075】
このように、制御部109によって電動モータ101が制御されて、入力部材2が保持部材5と相対回転することによって、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で確実に噛み合う。この噛み合った状態が解除されるには、停車状態のようにローラ3に遠心力がほとんど働かない状態で、入力部材2が出力部材1に対して逆回転しつつローラ3の噛み合いを解除する方向の慣性力が生じる必要がある。単にモータ出力が低下するだけでは、噛み合い状態は解除されない。このため、運転者がスロットルグリップ106をゆっくりと操作した場合であっても、ローラ3は出力部材1と入力部材2との間で確実に噛み合う。したがって、クラッチ装置100は、電動モータ101からのトルクを駆動輪105へと確実に伝達し、ハイブリッド自動二輪車200をスムーズに発進させることができる。なお、このステップS3の処理は、ローラ3が出力部材1と入力部材2との間で噛み合った後に終了する。例えば、ステップS3の処理は、所定時間経過後に終了してもよい。また、運転者がスロットルグリップ106を急に操作した場合は、必ずしも制御部109に第1制御モードで動作させる必要はない。
【0076】
図10(e)、及び
図10(g)に示すように、発進時、及び低中速走行時は、電動モータ101によって、駆動輪105を駆動する。すなわち、電動モータ101からのトルクが、無段変速機103、クラッチ装置100、及びファイナルギヤ104を介して駆動輪105に伝達される。
【0077】
図10(f)に示すように、通常走行時は、エンジン102からのトルクによって、駆動輪105を駆動する。すなわち、エンジン102からのトルクが、無段変速機103、クラッチ装置100、及びファイナルギヤ104を介して駆動輪105に伝達される。なお、エンジン102のトルクによって、電動モータ101を発電させてもよい。すなわち、電動モータ101をダイナモとして機能させる。電動モータ101によって生成された電力は図示しないバッテリに蓄えられる。なお、エンジン102は、電動モータ101によって始動させられる。すなわち、電動モータ101は、セルモータとして機能する。
【0078】
次に、走行していたハイブリッド自動二輪車200が減速した後に停車する際のハイブリッド自動二輪車200の動作について説明する。
図12に示すように、車速センサ108は、車速を検出しており(ステップS11)、車速に関する信号を制御部109へと出力する。
【0079】
制御部109は、車速がゼロよりも大きい走行状態では、車速センサ108からの信号に基づき、車速がゼロであるか否かを判断する(ステップS12)。制御部109は、車速がゼロではないと判断すれば(ステップS12のNo)、再度ステップS11の処理から繰り返す。
【0080】
制御部109は、車速がゼロになったと判断すれば(ステップS12のYes)、電動モータ101を第2制御モードで制御する(ステップS13)。詳細には、減速した後に停車したハイブリッド自動二輪車200では、ローラ3は、出力部材1と入力部材2との間で噛み合った状態を維持している。すなわち、
図9に示すように、ローラ3は、係合状態となっている。
【0081】
そこで、制御部109は、第2制御モードで電動モータ101を制御し、電動モータの出力を瞬間的に増加させるように制御信号を変化させる。具体的には、電動モータ101を、出力部材1と入力部材2との間におけるローラ3の噛み合いを解除するように、入力部材2を保持部材5に対して相対回転させる。これによって、ローラ3は、保持部材5の相対回転による慣性力により、
図7に示すような非係合状態となる。この結果、停車中のハイブリッド自動二輪車200を押して移動させることが容易となる。このように制御部が第2制御モードをとることで、従来よりも確実にクラッチ装置の入力トルク伝達を遮断させられる。なお、このステップS13の処理においても、制御部109は、予め設定された角加速度で入力部材2が回転するように、電動モータ101を出力させる。電動モータ101の出力は、ハイブリッド自動二輪車200の発進に必要なトルクよりも小さいトルクとなるように設定される。このステップS13の処理は、ローラ3が非係合状態となった時点で終了するように制御される。例えば、所定時間経過後、ステップS13の処理は終了する。
【0082】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。また、上記実施形態では、本発明をハイブリッド式の自動二輪車に適用しているが、本発明を電動式の自動二輪車に適用してもよい。また、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他の車両に適用することもできる。
[変形例1]
上記実施形態では、1つのローラ3につき、一対の付勢部材4で付勢していたが、この構成に限定されない。例えば、
図13に示すように、1つのローラ3につき、1つの付勢部材4で付勢していてもよい。この場合、ローラ3は、周方向において、付勢部材4と保持部材5の保持面532によって挟まれる。この構成では、付勢部材4の数が減ることにより、ローラ3や付勢部材4の組み付け時に、組み付け作業が容易になる。なお、付勢部材4はローラ3に対して第1方向側に配置されてもよく、第2方向側に配置されてもよい。
【0083】
[変形例2]
上記実施形態では、ローラ3と付勢部材4とは直接接触するようにしていたが、この構成に限定されない。
図13に示すように、付勢部材4は、ローラ3と接触する側の端部にスプリングシート7が装着されていてもよい。スプリングシート7を設けることにより、付勢部材4とローラ3とを安定した接触状態で維持することができる。また、保持部材5は、付勢部材4とスプリングシート7との外周側を覆うカバー部54を備えてもよい。カバー部54を設けることで、付勢部材4及びスプリングシート7が外周の出力部材1に摺接することがなくなり、ローラ3の位置を適切に維持することができる。なお、この構成は上記変形例1においても適用できる。
【0084】
[変形例3]
上記実施形態では、軸方向視において、カム面212は円弧状に形成されているが、カム面212はV字状に形成されていてもよいし、他の形状に形成されていてもよい。また、上記実施形態では、保持部材5が慣性力によって第1方向及び第2方向のどちらの方向において入力部材2と相対回転しても、ローラ3が係合状態となるが、この構成に限定されない。例えば、
図14に示すように、カム面212を第1方向の側でなだらかな形状とし、第2方向の側でローラ3の外面形状と沿うような形状とすれば、保持部材5が慣性力によって第1方向において入力部材2と相対回転したときのみ、ローラ3が係合状態となる。そして、保持部材5が慣性力によって第2方向において入力部材2と相対回転しようとしても、ローラ3が相対回転せずに非係合状態を維持することになる。なお、カム面212の形状を第1方向側と第2方向側とが逆になるように変更すれば、保持部材5が慣性力によって第2方向において入力部材2と相対回転したときのみ、ローラ3が係合状態となるように構成することもできる。なお、この構成は上記変形例1または2においても適用できる。
【0085】
[変形例4]
上記実施形態では、伝達部材としてローラ3を用いているが、伝達部材はローラ3ではなく他の形状であってもよい。例えば、
図15に示すように、伝達部材としてスプラグ31を設けることもできる。スプラグ31は、自転によりクラッチ装置の半径方向での寸法が変化する扁平形状を有する。スプラグ31を用いる場合も、非結合状態ではスプラグ31が出力部材1に対して隙間を開けて保持され、保持部材5の慣性力によって、スプラグ31が自転して係合状態となって入力部材2と出力部材1との間に噛み込むように構成するとよい。スプラグ31を用いることで、入力部材2と出力部材1とのいずれにもカム面を設ける必要が無くなり、入力部材2と出力部材1との構成が簡易になる。なお、この構成は上記変形例1から3のいずれにおいても適用できる。例えば、
図16に示すように、2つのスプラグ31を1つの付勢部材4の両端に配置してもよい。この構成では、保持部材5が慣性力によって第1方向及び第2方向のどちらの方向において入力部材2と相対回転しても、スプラグ31を係合状態にすることができる。
【0086】
[変形例5]
上記実施形態では、入力部材2を内周側に設け、出力部材1を外周側に設けるように構成したが、入力部材2と出力部材1との配置は逆であってもよい。例えば、
図17に示すように、半径方向において、出力部材1と入力部材2との配置を上記実施形態と逆であってもよい。すなわち、半径方向において、出力部材1が入力部材2の内側に配置されていてもよい。この場合も、伝達部材3は、入力部材2側に付勢され、出力部材1とは間隔をあけて配置される。なお、この構成は上記変形例1から4のいずれにおいても適用できる。
【0087】
その他、上記実施形態において、クラッチ装置100は、無段変速機103とファイナルギヤ104との間に配置されているが、クラッチ装置100の配置はこれに限定されない。例えば、クラッチ装置100は、駆動輪105とファイナルギヤ104との間に配置されていてもよい。
【0088】
また、クラッチ装置100において、エンジンからのトルクを入力部材2に入力するための入力軸と、ボス部22の第2貫通孔221とは、スプライン嵌合やその他の構造で係合していてもよい。
【0089】
また、入力部材本体部21は、第1貫通孔213を有していなくてもよい。同様に、保持部材5は、第4貫通孔521を有していなくてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、制御部109は、駆動輪105を駆動するための電動モータ101で入力部材2を回転させていたが、この構成に限定されない。例えば、制御部109は、駆動輪105を駆動するための電動モータ101とは別の電動モータを用いて、入力部材2を回転させてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、伝達部材3と保持部材5との間に付勢部材4を設ける場合を示したが、伝達部材3と保持部材5とを直接接触させて、伝達部材3または保持部材5を介して付勢部材4が両者を付勢するようにしてもよい。
【0092】
また、保持部材5が入力部材2に対してスムーズに相対回転するように、入力部材2と保持部材5との間に軸受部材を介在させてもよい。