【実施例】
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るエレベーターシステムの全体構成例を示す図である。
【0018】
本発明の実施例に係るエレベーターシステムは、ビル建屋1に設置されたエレベーター群2に対して、これを制御するエレベーター群管理システム3と、分割急行(あるいはゾーニング方式)の制御仕様を決定する制御仕様決定システム8と、ビルエントランス4に設けられ、ビル建屋1に入館する人の人数であるビル人数を検出するビル人数検出システム7と、ビル建屋1のエレベーターホールに設けられ、分割急行(あるいはゾーニング方式)の情報を表示する情報表示装置9により構成されている。
【0019】
なお、本発明の以下の説明においては、分割急行とは、ゾーニングを含めた概念として説明を行う。また分割急行とは、いわゆるサービス階分割運転/制御、またはゾーン分割運転/制御のことを言う。
【0020】
図1の事例では、ビル建屋1に、複数台のエレベーター(図の例では5台)からなるエレベーター群3が設置され、ビル内を垂直移動する利用者を輸送している。このエレベーター群3を1つのグループとして統括管理しているのが、エレベーター群管理システム3である。
【0021】
エレベーター群管理システム3は、ビル建屋1内の各階の利用状況に応じて複数台のエレベーター群2を効率良く制御し、時間当たりの輸送人数(以下、輸送力と呼ぶ)を高め、また利用者の乗り場でのエレベーターの待ち時間の短縮を図っている。
【0022】
特に、高い輸送力を求められるのが、出勤時や昼食後半時のようなアップピーク時(アップ方向の利用ピーク時)である。ここでは、多数の利用者が一斉にロビー階(または食堂階)からエレベーターを利用して上の階に移動するため、その利用人数に応じて輸送力を高める必要がある。
【0023】
ここでアップピーク時の課題となるのが、エレベーターの1周時間(以下単に1周時間という)の増大である。ロビー階で乗込んだ乗客がかご内で多数の行先階呼び(かご呼び)を登録するため、各エレベーターはほぼ各階で停止する状態となり、1周時間が増大して、時間当たりの輸送人数すなわち輸送力が低下することになる。この結果、利用者をスムースに輸送できずにロビー階で行列が発生するケースも出てくる。
【0024】
これを改善する有効な運転方式が分割急行方式と呼ばれるもので、例えば出勤の時間帯に限定して、エレベーター群2を2つのグループに分けて、1つのグループを下半分のサービス階(例えば、2階〜8階)、もう1つのグループを上半分のサービス階(例えば、9階〜15階)となるように振り分けて、行先階の停止数を減らして、1周時間を短縮させて、輸送力を向上させる。本発明の実施例によるエレベーターシステムは、この分割急行をベースにして、より適切な仕掛けと制御でさらに輸送力の向上を図るものである。
【0025】
図1に戻り、この図は出勤時を想定した状況であり、多数の利用者がビルエントランス(ビル入り口)4に向かってアクセスしている状況を示している。
【0026】
本発明では、ビルエントランス4に、入館するビル人数を把握するビル人数検出システム7を配置する。ここでのビル人数把握は、総人数ではなく、分割急行方式によるサービス階ごとのビル人数である。このために、ビル外部からビルエントランス4へ向かう通路5を、分割急行方式による行先階別に定めた2つの通路5a,5bに分け、分割された通路5a,5bごとに、ここを通過する人数を把握している。
【0027】
具体的には、2階〜8階の行先階の表示6aによって定められたグループAと、9階〜15階の行先階の表示6bによって定められたグループBの2つの領域に通路5a,5bが分けられており、利用者はそれぞれの行先階に応じた通路5a,5bの領域(通行領域)を通るように、意識的に誘導され通行することになる。この人数をそれぞれのグループに対する人数検出装置(グループAが人数検出装置7a、グループBが人数検出装置7b)で検出する。これにより、各行先階別グループの人数を、エレベーターの乗り場に到着する前に正確な値でかつリアルタイムで得ることができる。ここで、人数検出装置7a,7bには、例えば回転して周囲の領域をスキャンするようなレーザーセンサ、光学式センサ、赤外線センサ、画像センサ(カメラ)、ラインセンサなどを利用した人数検出センサが挙げられる。
【0028】
このように、ビル人数検出システム7は、行先階の表示6a、6bがされた通路5a,5bおよび人数検出装置7a,7bにより形成されている。なお後述するが、人数検出装置7a,7bは、ビルエントランス4に常設されていてもよいが、入館動向を把握したい時期に合わせて仮設するものであってもよい。
【0029】
分割急行の制御決定システム8は、人数検出装置7a,7bから得た各行先階別グループの人数、各人数検出装置7a,7bと行先階との対応情報(例えば、人数検出装置7aには行先階グループ2階〜8階が対応するという情報)、人数検出時の時刻情報やカレンダー情報を入力情報として、これらの入力情報に基づいて、分割急行の制御仕様を決定する。この制御仕様は、例えば、分割急行の各エレベーターグループがサービスする階床ゾーンの設定、各エレベーターグループに属するエレベーター号機の設定、これらの時間スケジュールなどである。この制御仕様の具体例は
図4a,
図4bのようであり、後ほど説明する。
【0030】
この分割急行の制御決定システム8において、各行先階別グループの人数に応じた分割急行の制御仕様が決められて、そのビルの出勤時の利用状況に応じたより適切な分割急行運転が実施されることになる。
【0031】
例えば、出勤時間の前半(例えば8:00−8:30)では行先階グループB(9階〜15階)の人数が多いため、分割急行のエレベーターの台数配分をグループBの方を多くし(例えば、グループAは2台、グループBは3台)、逆に、出勤時間の後半(例えば8:30−9:00)では行先階グループA(2階〜8階)の人数が多いため、分割急行のエレベーターの台数配分をグループAの方を多くする(例えば、グループAは3台、グループBは2台)ような制御を実行することができる。この結果、利用状況に整合した輸送力を確保でき、全体の輸送力を向上することができる。
【0032】
分割急行の制御決定システム8にて決められた適切な制御仕様データは、エレベーター群管理システム3に伝送されて、エレベーター群管理システム3ではこの制御仕様に従った分割急行運転を実行する。
【0033】
同様にこの制御仕様データは、分割急行の情報表示装置9にも送られて、エレベーター利用者に対して分割急行の実施情報(時間帯、エレベーター号機、行先階、分割グループ)を表示案内する。
【0034】
利用者はこの表示された情報を見て、その行先階に応じた適正なエレベーターグループの号機に乗車する。この情報表示装置9で表示される情報は例えば後述する
図4a,
図4bのような情報である。またこの情報表示装置9の設置場所は、エレベーターの乗り場内、乗り場入口、乗り場近傍、ビルエントランス内など、ビル内特にロビー階のエレベーター利用者が目に付きやすい場所とするのがよく、複数設置されても良い。
【0035】
ここで、
図1の分割急行の制御決定システム8は、ビル建屋1の外側にあるように記載しているが、例えば、通信ネットワークで接続されたビル外部のサーバー(例えば、ビルやエレベーターのサービス事業者が管理運営するサーバー)を想定している。このサーバーはビル建屋1内部にあるサーバー(例えば、このビル用に運用されているサーバー)でも構わないし、エレベーター群管理システム3内の一機能として実装されることでも良い。
【0036】
以上、
図1に示したエレベーターシステムによって、利用者を行先階で定まる複数のグループに分けて、それぞれの人数を正確に検出でき、このグループ毎の人数情報によって、適切なエレベーターのグループおよびサービス階床で構成される分割急行を実施することができる。その結果、出勤時や昼食後半時のエレベーターの輸送力を向上させることができる。
【0037】
さらに、この利用者を行先階で定まる複数のグループに分けて(通行領域で分ける)、それぞれの人数を検出する仕掛けは、簡易な仕掛けであり、通常の上下ボタン式乗り場呼びの群管理エレベーターに外付け/後付けで容易に設置・接続することが可能である。このため、群管理エレベーターに対する後付けのオプション形態として、混雑が激しいビルのような場合に、後から設置するようなことが可能である。
【0038】
さらに必要に応じて、人数検出装置7a,7b、さらに行先階の表示6a,6bと通路の領域分け5a,5bをある期間だけ設置して、各行先階のグループ毎の人数を検出してそれに基づいて分割急行の制御仕様を決めて運用し、その後、人数検出装置を撤去するような運用も有効である。例えば、ビルがオープンしてテナントが入館した後にしばらくの期間、出勤時の行先階グループ毎の人数を検出し、それに基づいて分割急行の制御仕様を決めて運用する。その後、テナントの変化が生じ、あるいは人数の大きな変化が起きた場合に、再び上記の人数検出の仕掛けを設置して、人数検出し、それを基に分割急行の制御仕様を調整して運用する。このような運用も実際上有効である。このような運用形態の場合、人数検出の期間は出勤時のマクロな人数の傾向を知るため、1カ月〜6カ月の期間(平均的には3カ月)があれば良いと考えられる。曜日毎の変動(ある階のテナントは月曜日に大きな会議があり多数の人がビルに集まるなど)、週ごとの変動(同様に第2週に大きな会議やイベントがあるなど)が考えられるため、これを平均化するため、最低1カ月の人数検出の期間は必要と考える。
【0039】
上記のように、人数検出装置7a,7bを期間限定の設置ではなく、常時設置として、検出した各行先階のグループ毎の人数に応じてリアルタイムに分割急行の各ゾーンの階床やエレベーター号機の振り分けを変えるような制御を実施しても良い。ビルに入館する利用者の行先階グループ毎の人数が事前に分かるため、それに応じた分割急行制御によって利用状態に適合した制御が可能になる。
【0040】
図2は、
図1のエレベーターシステムをその機能で表したブロック図である。これは
図1に示したエレベーターシステムにおける制御機能に関わる処理に対応する。
図2において
図1に対応する処理は同じ符号を付している。以下、
図2について説明する。
【0041】
図1のビル人数検出システム7は、人数検出装置7a,7b、行先階グループの表示6a,6b、行先階グループ別の通路(通行領域)5a,5bにより構成されている。これらにより達成される機能は、
図2に示すように機能ブロックB71,B72,B73として表示することができる。
【0042】
図2のブロック表記によれば具体的には、行先階情報設定部B71(
図1の行先階グループの表示6a,6bに対応)で各行先階グループの行先階情報が設定され、さらに時計B72によって人数を検出した時刻が記録される。行先階別の人数検出部B73では、設定された行先階情報と組合せて行先階のグループで分けられた利用者の人数が検出される(
図1の人数検出装置7a,7bで検出)。人数検出装置7a,7bが検出した人数データに、その行先階情報と時刻を結び付ける必要があり、行先階情報設定部B71と時計B72から行先階別の人数検出部B73へ情報伝送がなされることで三者が対応付けられる。
【0043】
かくしてビル人数検出システム7が分割急行の制御仕様決定システム8に与えるデータは、例えば5分間隔で計測した行先階グループ別の通路(通行領域)5a,5bにおける利用者の人数である。この人数は、5分間隔で、順次制御仕様決定システム8に与えられる。
【0044】
図1の分割急行の制御仕様決定システム8の機能は、
図2に示すように機能ブロックB81からB88として表示することができ、この処理により分割急行の制御仕様を決定する。その詳細は以下のようである。
【0045】
ビル人数検出システム7から与えられる5分間隔での時刻データと行先階別の人数検出のデータは、時刻別・行先階別の人数データ蓄積部B81に順次蓄積される。この時刻別・行先階別の人数データは
図3のようなデータ構成になっている。これらのデータは1カ月以上の期間で大量に収集されるため、時刻別・行先階別の人数データベースB82に保存される。
【0046】
時刻別・行先階別の人数データベースB82の記憶構成を示す
図3によれば、このデータベースの横軸は、例えば5分間隔での時間帯D02、行先階グループA(2階から8階)D03,行先階グループB(9階から15階)D04に区分されている。かつこのデータは、収集した日時のデータD01とともに、例えば1か月以上の期間のデータが収集、記憶される。
【0047】
次に分割急行の制御仕様変更判定部B83では、今実施している分割急行の制御仕様を変更すべきかどうかを判定する。基本的に、今実施している制御仕様を定めた時の時刻別・行先階別の人数データ(時刻別・行先階別の人数データベースB82より取得)に対し、今の人数データの変化が小さければ今の仕様を継続する。人数の変化が大きい場合は、今の制御仕様が適していない可能性があり、仕様を変更するように判定する。
【0048】
時刻別・行先階別の人数データベースB82に記載の事例を示す
図3に即して説明すると、例えば2019年10月15日、金曜日の午前8時00分から8時30分の間のD05で示す期間では、行先階グループB(9階から15階)D04の人数が行先階グループA(2階から8階)D03の人数よりも多い状態であるのに対し、午前8時30分から9時00分の間のD06で示す期間では、行先階グループB(9階から15階)D04の人数が行先階グループA(2階から8階)D03の人数よりも少ない状態に変化している。
【0049】
従って、
図3の時間帯08:25−08:30の時の行先階グループAとBの人数の比率と、時間帯08:30−08:35の時の行先階グループAとBの人数の比率を比較することをもって、今の制御仕様が適していないと判断することができる。
【0050】
なおここで、人数検出装置7a,7bが常設されている場合は、今の人数検出データを人数検出装置7a,7bからそのまま利用できる。人数検出装置7a,7bが常設ではなく既に撤去されている場合は、その代替としてかごの荷重センサを基にエレベーター群管理側で推定した時刻別・行先階別人数データを用いて比較すれば良い。この人数検出装置7a,7bが常時設置ではないケースでは、制御仕様変更と判定された場合は、人数検出装置7a,7bのセットを再度設置して制御仕様を決め直すことを実施するのがよい。
【0051】
また検出した人数の変化で仕様変更を判定する以外に、今の人数検出値もしくは人数の推定値(かごの荷重センサ)を用いて、今の分割急行の制御仕様での輸送力と比較することで、今の仕様が適切かどうかを判定しても良い。この場合、今の分割急行制御仕様は、分割急行の制御仕様データ蓄積部B84より取得する。
【0052】
制御仕様の変更が必要と判定された場合(これまで分割急行を実施していない場合で新たに分割急行を実施とする場合も含む)、分割急行の制御仕様選定部B85にて制御仕様の候補を選定する。
【0053】
なお、実際のビルの出勤時や昼食時もこのように各階で出勤時間、昼食時間のばらつきがあるため、
図3のような行先階グループ別での人数のピークに偏りがあることが多い。これをビル人数検出システム(
図1の人数検出装置7a,7b、行先階グループの表示6a,6b、行先階グループの領域で分けられた通路5a,5bのセット)は的確かつ簡易な仕掛けで検出することが可能である。また後付けや一時的な設置による計測も可能である。
【0054】
図4a、
図4bは、分割急行の制御仕様データ蓄積部B84に記憶されている制御仕様事例を示している。このうち
図4aは、制御仕様の初期設定(運用開始時)事例を示す図である。また
図4bは制御仕様の変更後設定(稼動後にその利用状況に応じて調整)事例を示す図である。これらの表では、横軸に時間帯D02,制御仕様D07,行先階グループA(D03),行先階グループB(D04)を記述し、縦軸側に時間帯としてD05,D06を記載している。この例によれば、制御仕様D07としては(1.エレベーター号機)及び(2.行先階)の2つの観点での制御仕様が設定されている。したがって、制御仕様の候補は、(1.エレベーター号機)及び(2.行先階)であり、これらの一方、または双方が変更されて、輸送量がその時の状態に応じて適正に調整されることになる。なおどちらの制御仕様を変更するのがよいのかは、その時々の運行状態に応じて適宜決定されるのがよい。
【0055】
まず
図4aの運用開始時の分割急行の制御仕様の例について説明する。
図4aに示されたデータ表が制御仕様を表している。この例では、実施時間帯(D05,D06)、分割急行の各エレベーターグループ(D03,D04)と、その所属するエレベーター号機名、そのグループのエレベーターの行先階の各データが格納されている。具体的には、符号D05の実施時間帯8:00−8:30において、行先階グループA(D03)に所属するエレベーターは1,2,3号機でその行先階は2−9階であり、行先階グループB(D04)に所属するエレベーターは4,5号機でその行先階は10−15階である。このように、行先階(サービス階)をゾーン(領域)に分割してそれぞれの階をサービスするエレベーターを振り分けるのが、分割急行運転である。
【0056】
図4bは運用開始からしばらく期間が経過して(例えば3か月経過)、そのビルの利用状況のデータ(行先階グループ別の人数検出データ)が蓄積されて、制御仕様が調整された後の仕様データの例を示している。
【0057】
図4aとの差分に焦点を当てて説明すると、まず8:00−8:30の時間帯D05では、行先階グループAの(2.行先階)と行先階グループBの(2.行先階)が、
図4aと
図4bで変更されている。グループAは行先階の数が減少し、グループBは数が増加している。これは、稼動後はグループAの利用人数が多く、グループAの輸送力を増加する必要があり、行先階の数をグループAからグループBに移したことがその理由である。
【0058】
また8:30−9:00の時間帯D06では、
図4aと
図4bの比較で、行先階グループAの台数(1.エレベーター号機)が3台から2台に減少している。行先階グループBの台数は2台から3台に増加している。これはこの時間は逆にグループBの方の輸送力を大きく増加する必要があり、グループAからBに1台(3号機)を移したためである。
【0059】
各フロアのテナントの出勤時間の違いのため、時間帯によって行先階グループの人数の状況が変わるケースも多く、この
図4bのように時間帯によって分割急行の制御仕様(例えば、エレベーターの台数の振り分け等)を切り替えることが有効である。このような適応的な制御ができるのは、
図1で説明した行先階グループ毎の人数検出によって正確な人数把握ができることと、ビルに入館する前に事前に把握できることが理由になる。
【0060】
図2に戻り、分割急行の制御仕様評価部B86では、選定した分割急行の制御仕様に対して交通計算による輸送力算出部B87により輸送力を算出し、この輸送力値と検出した今の時刻別・行先階別の人数データとを比較する。人数に対して輸送力(輸送人数)が適切な場合は、その制御仕様で良い。そうでない場合は、分割急行の制御仕様選定部B85に戻って制御仕様を変更し、再度評価部B86にて改めて輸送力と人数データの比較を行い、適切な制御仕様に決まるまでこの処理を繰り返す。
【0061】
このような処理を経て決定した適切な制御仕様を、分割急行の制御仕様出力部B88にてエレベーター群管理側に出力する。合わせてこの仕様データを制御仕様データ蓄積部B84にも保存する。
【0062】
図1のエレベーター群管理システムにより達成される機能は、
図2に示すように機能ブロックB31,B32,B73として表示することができる。
【0063】
エレベーター群管理システム3では、決定した適切な分割急行の制御仕様に従って分割急行運転を実施する。具体的には、時計31の時刻情報により、分割急行の制御仕様に定められた実施時刻に合わせて分割急行の制御実行部32にて制御仕様に従った分割急行運転を実施する。同時に分割急行の運転情報表示部9に利用者向けの運転情報を表示案内する。
【0064】
このようにして、行先階グループ別の人数検出データに基づいて、それに適した分割急行の制御仕様が決められて、実際のエレベーター群管理にて実行されるようになる。さらに分割急行の制御仕様はその利用人数の変化に合わせて適宜見直されている。この結果、より正確かつ適した制御で、出勤時や昼食後半などの混雑時に対するエレベーターの輸送人数の向上を図ることができる。
【0065】
尚、
図4a、
図4bに示された分割急行の制御仕様の情報は、
図1の分割急行の情報表示装置9にてエレベーター利用者に表示案内される。これにより、利用者もこの情報を見て適切にエレベーターを利用することが可能となる。
【0066】
このように制御仕様は、
図4a、
図4bのような仕様データであり、実施時間帯、エレベーターグループと所属する号機、各グループのサービス階ゾーンのデータで構成される。基本的には今の分割急行の制御仕様を初期(デフォルト)の候補に選定する。他に過去の制御仕様のデータを分割急行の制御仕様データ蓄積部B84より取得することでも良い。
【0067】
図5は、本発明の実施例に係るエレベーターシステムに関する分割急行の制御仕様の調整処理を示すフローチャートである。これは
図1および
図2の分割急行の制御仕様決定システム8、
図2の分割急行の制御仕様選定部B85、分割急行の制御仕様評価部B86にて実施される処理である。この処理は、検出した利用者の人数が変化して分割急行の制御仕様の変更(見直し)が必要となった場合の仕様調整の処理である。以下、本フローチャートについて説明する。
【0068】
図5のフローチャートの最初の処理ステップS101では、分割急行運転を実施しているアップ混雑時の時間帯(例えば30分間)を選定する。次に処理ステップS102では、この時間帯における時刻別・行先階別の人数データを抽出する。その上で、処理ステップS103では、分割急行運転ではない通常の運転方式での輸送力と当該時間帯の利用人数合計値(ある期間で見た平均値を用いる)とを比較し、輸送力の方が大きい場合は、処理ステップS104に移り、分割急行ではない通常の運転を実施する。
【0069】
輸送力の方が小さい(輸送力不足)場合は、処理ステップS105に移り、今すでに分割急行運転を実施しているかを判定する。実施している場合は、次に処理ステップS106に移り、今の分割急行の輸送力と当該時間帯の利用人数合計(平均値)を比較する。今の分割急行の輸送力の方が大きい場合は、処理ステップS107において今の分割急行をそのまま継続する。
【0070】
輸送力が小さい(輸送力不足)場合は、今の分割急行の制御仕様が適切ではない可能性があり、制御仕様の調整を実施する。これが処理ステップS108から処理ステップS114の処理になる。
図5の例では、分割ゾーンが2つ(分割ゾーンAとB)の場合を想定しているが、輸送力が小さい場合、2つの分割ゾーンのどちらかが輸送力不足で、他方は輸送力が充足していると推測される。このため、輸送力不足の側のゾーンの輸送力を増やし、他方を減らすように制御仕様を変更させる。例えば、輸送力充足のゾーンから輸送力不足のゾーンへ担当エレベーターを1台移すような調整を実施する。以下、具体的に説明する。
【0071】
まず処理ステップS108において分割ゾーンAが輸送力不足かつ分割ゾーンBが輸送力充足であるかを判定する。Yesの場合は処理ステップS109において、分割ゾーンAのサービス階を分割ゾーンBへ移す、または分割ゾーンB担当のエレベーター号機を分割ゾーンA担当に移すような制御仕様の調整を実施する。Noの場合は処理ステップS110において、分割ゾーンBが輸送力不足かつ分割ゾーンAが輸送力充足かどうかを判定する。ここでもNoの場合は、両ゾーン共に輸送力不足のため、処理ステップS111において、専門技術者による対応が必要であり、システム側にてサービス提供者へ連絡する。Yesの場合は、処理ステップS112において、分割ゾーンBのサービス階を分割ゾーンAへ移すまたは分割ゾーンA担当のエレベーター号機を分割ゾーンB担当に移すような制御仕様の調整を実施する。
【0072】
以上のような調整で得られた新たな分割急行の制御仕様に対して、処理ステップS113において、改めて輸送力計算を実施し、処理ステップS114において、新たな分割急行の輸送力と当該時間帯の利用人数合計(平均値)とを比較する。輸送力が大きい(充足)場合は新たな制御仕様は適切であり、輸送力が小さい(不足)場合は改めて処理ステップS108に戻って制御仕様の調整をやり直す。
【0073】
新たな制御仕様の輸送力が充足している場合は、処理ステップS115において、最後に分割急行の制御仕様の変更条件を満たすかどうかを判定する。この変更条件は、例えば前回変更した時から所定の期間経過しているか(例えば3カ月経過など)、過去にその制御仕様でうまくいかなかったケースが無いかなどになる。この条件を満たした場合に処理ステップS115において、分割急行の制御仕様を変更がなされる。
【0074】
以上、
図5に示す制御仕様の調整処理によって、人数検出装置7a,7bで検出した実際の行先階グループ別の人数の変化に応じた制御仕様に調整でき、適切な輸送力を保つことができる。尚、ここで人数の変化はテナントの入れ替わりやテナント内の組織的な変更による人数変更、出勤時間や昼食時間の変更などが原因となる。
【0075】
図6は、本発明の実施例に係るエレベーターシステムに関する分割急行の制御仕様の変更判定処理に対するフローチャートである。これは
図2の分割急行の制御仕様変更判定部B83で実施される処理を示している。これはテナントの入れ替えや出勤時間の変更などで、行先階別の人数の傾向に変化が生じた場合に、それが今の制御仕様では適さない場合は制御仕様の変更を判定するものである。以下、このフローチャートを説明する。尚、この
図6では人数検出装置は常時設置ではなく、必要に応じて設置して検出するケースを想定している。従って不要な時は撤去されている。
【0076】
図6のフローでは、まず処理ステップS201において、エレベーターのかご内荷重もしくはかご内カメラの検出データより、停止階毎の乗降人数推定値を算出する。次に処理ステップS202において、この乗降人数推定値より、時刻別・行先階別人数データ推定値を算出する。ここまでの処理はエレベーター群管理システム3で実施される。以下では、この値を群管理による時刻別・行先階別人数データ推定値と呼ぶことにする。
【0077】
その上で処理ステップS203において、前回の制御仕様設定(変更無しの場合も含む)から所定期間を経過しているかどうか、もしくは特定月か、もしくは変更判定要求指令があるかを判定する。ここで所定期間とは、人数変化の期間であり、テナントの変更などを考慮すると、3カ月位が良いと考える。また特定月としては、組織の変更がある4月や10月が良いと考える。変更判定要求指令は、例えばビル管理者からの要求があった場合に対応する。
【0078】
処理ステップS203の判断処理でYesの場合は、次に処理ステップS204において、分割急行運転を既に実施しているかどうかを判定する。
【0079】
分割急行運転を実施している場合は、処理ステップS205において今の分割急行の制御仕様を定める時に用いた時刻別・行先階別人数データを取得する。その上で、処理ステップS202で求めた群管理による時刻別・行先階別人数データ推定値と、処理ステップS205で求めた今の分割急行の制御仕様を定める時に用いた時刻別・行先階別人数データを、処理ステップS206において比較し、両者の差が所定値以上あるかどうかを判定する。両者の差が所定値以上ある場合は、今の制御仕様を定めた時の人数状態から変化している可能性がある。
【0080】
処理ステップS204の処理で分割急行運転を実施していないと判断された場合は、処理ステップS207において群管理による時刻別・行先階別人数データ推定値より分割急行の必要性を計算する。この必要性の計算は交通計算による輸送力と比較で判定する。この結果より処理ステップS208において分割急行の必要性があるかどうか(現状では輸送力不足か)を判定する。
【0081】
処理ステップS206の判定処理で両者の差が所定値以上ある場合、または処理ステップS208の判定処理で分割急行の必要性ありとされた場合は、処理ステップS208において行先階別人数検出装置を用いた時間別・行先階別の人数データ計測を実施する。これは人数検出装置や行先階グループの表示などのセットを改めて設置して実施するものである。この計測期間は既に述べたように最低1カ月以上が望ましい。
【0082】
上記の結果、時間別・行先階別の人数データが収集されたならば、処理ステップS210おいてそのデータを基に分割急行の制御仕様の設定を実施する。
【0083】
以上のような方法で、人数検出装置を常時設置しなくても、エレベーター群管理側のデータを利用することで、人数の変化を検知でき、必要に応じた人数検出装置の設置と計測ができる。このような形態の場合、ビル管理者側にとっては、装置を購入せずに必要に応じて利用すればよく、導入コストを下げることができる。
【0084】
図7a,
図7bは、実施例に係るエレベーターシステムのビル人数検出システム(
図1の人数検出装置7a,7b、行先階グループの表示6a,6b、行先階グループの領域で分けられた通路5a,5bのセット)の配置状態を表す図である。
【0085】
図7aはオフラインで分割急行の制御仕様を設定する場合、
図7bはオンラインで人数検出データを基にリアルタイムで分割急行の制御仕様を設定する場合の例を表している。また
図1と共通するものは同じ符号を付している。
【0086】
まず
図7aはオフラインで分割急行の制御仕様を設定する場合で、これは人数検出データをある期間蓄積して、それを基に分割急行の制御仕様を設定する場合である。例えば、3カ月間、検出データを蓄積して、それを基に分割急行の制御仕様を算出して決定し、ある時期からその制御仕様で分割急行運転を実施するようなケースである。
【0087】
この場合は、検出した人数データをすぐに制御仕様に反映させる必要はなく、検出を独立してできるため、ビル人数検出システム(
図7aの人数検出装置7a,7b、行先階グループの表示6a,6b、行先階グループの領域で分けられた通路5a,5bのセット)をエレベーター群2のより近くに設置しても良い。
【0088】
図7aでは、人数検出装置7a,7b(これらの検出領域を点線の領域10で表している)とエレベーター乗り場11との距離12を10〜30m以内に配置している例を示している。人数検出装置7a,7bの設置の観点では、ビルからより近い位置の方が設置しやすいため、このオフラインの場合はより近い位置に設置するのが良いと考える。さらにこのようなオフラインの設定では、人数検出装置7a,7bの位置は、必ずしもビルの外側である必要はなく、ビルエントランス4の内側でも良い。但し、利用者に行先階別に分かれるように行動してもらうため、エレベーター乗り場からある程度の距離の確保は必要と考える。
【0089】
次に
図7bはオンラインで分割急行の制御仕様を設定する場合で、これは人数検出データをリアルタイムで使用して分割急行の制御仕様を設定する場合である。
【0090】
この場合、人数を検出してから分割急行の制御仕様設定、さらに制御実施までに時間が必要なため、人数検出をできるだけ早めに実施するのが望ましい。このため、
図7bでは、人数検出装置7a,7b(これらの検出領域を点線の領域10で表している)とエレベーター乗り場11との距離12を30〜100m以上配置している例を示している。これは人数を検出してからエレベーター乗り場に到着するまでにエレベーター1周時間分(1〜2分以上)の時間が必要と考えるためである。
【0091】
尚、このオンラインの場合も分割急行の制御仕様を短い時間で頻繁に変更することは好ましくなく(利用者が混乱するため)、基本は
図4a,
図4bで示したような30分、短くても15分程度で切替えるのが妥当と考える。この場合、人数検出をオンラインで実施する理由は、混雑発生を速やかに検出できる点となる。例えば、電車やバスの運行状況、信号などによって混雑の発生時刻が変化するため、これを検出によって速やかに検出できると考える。
【0092】
図8a、
図8b、
図8cは、行先階グループ別の人数検出装置の設置例を示す図である。
図1と同じものは同じ符号を付している。
【0093】
図8aは通路の両端に人数検出装置7a,7bを設置して、7a,7bがそれぞれ2つの行先階グループの通路5a,5bを通る利用者の人数を検出する形態を示している。この場合、人数検出装置7a,7bは回転して周囲の領域をスキャンするようなレーザーセンサが適している。それ以外に画像センサ(カメラ)、赤外線センサでも良い。
【0094】
図8bは通路の両端と真ん中にそれぞれ人数検出装置7c,7d,7eを設置して、人数検出する形態を示している。この場合、人数検出装置7cと7dのライン7c1で通路領域5a(2階〜8階の行先階グループ)を通る人数、人数検出装置7dと7eのライン7e1で通路領域5b(9階〜15階の行先階グループ)を通る人数をそれぞれ検出する。このケースでは、ラインセンサ、画像センサ(カメラ)、赤外線センサ、レーザーセンサなどが適している。
【0095】
図8cは通路の上部に人数検出装置7f,7gを設置して、そこからそれぞれが担当する通路領域を通る人数を検出する形態を示している。この場合、人数検出装置は符号7hのような構造物を置いてそこから検出する。このケースでは、上部から人数検出するため、センサの視界が得やすく、画像センサ(カメラ)や赤外線センサが適している。
【0096】
図9a、
図9bは通路を行先階グループの領域に分けるための表示手段の例を示す図である。特にこの例の形態では表示する行先階のグループを変更できるようなものになる。この
図9において
図1と同じものは同じ符号を付している。
図9aが表示変更前、
図9bが表示変更後を表している。
【0097】
図9aによれば、通路を行先階グループの領域に分けるための表示手段6c,6dがそれぞれ設けられており、それぞれがその行先階グループを表示している。例えば、表示手段6cは行先階グループ2〜8階の表示6aを出力し、表示手段6dは行先階グループ9〜15階の表示6bを出力している。この表示出力は例えばプロジェクター装置による投影やディスプレイ画面(液晶など)である。
【0098】
図9bは、その後、行先階グループを変更して表示した場合を示しており、表示手段6cは行先階グループ2〜6階の表示6aに変更され、表示手段6dは行先階グループ7〜15階の表示6bに変更している。例えば、行先階グループ2〜8階の人数が当初の想定よりも多い場合、行先階グループの階床を減らして2〜6階にして、人数を検出して、もう一方のグループと人数のバランスが取れるかを評価することが可能となる。
【0099】
このように行先階グループの表示を可変にすることで、各行先階グループの構成階を柔軟に変更でき、かつその場合も的確に各グループの人数を検出することができる。