(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1参照データは、前記第1電池の充電又は放電時に計測された前記第1電池の電圧及び電流のデータに基づいて推定された前記第1電池の内部状態パラメータに基づき、前記第1電池に対応すると判定されたものである
請求項1に記載の電池安全性評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電池安全性評価装置を備えた蓄電システムの概略構成の一例を示すブロック図である。本蓄電システムは、蓄電池1(第1電池)と、電池安全性評価装置2と、を備える。電池安全性評価装置2は、充放電制御部21と、計測部22と、SOC(充電状態:State of Charge)推定部23と、記憶部24と、電池特性推定部25と、内部抵抗補正部26と、電池安全性評価部27と、出力部28と、を備える。電池特性推定部25は、充放電履歴記録部251と、内部状態パラメータ算出部252と、電池特性算出部253と、を備える。電池安全性評価部27は、熱安定性データ記憶部271と、熱安定性データ取得部(参照データ取得部)272と、発熱量推定部273と、安全指標算出部(セル到達温度推定部)274と、安全性判定部275と、を備える。
【0011】
なお、電池安全性評価装置2をCPU、制御回路等にて実現し、蓄電池1に備え付けることにより、電池安全性評価装置2を一つの蓄電池1として実現してもよい。
【0012】
蓄電池1は、電池安全性評価装置2により安全性の評価が行われる対象の電池である。この安全性の評価は、蓄電池1が高温にさらされても、蓄電池1が安全であるかを示すものである。この評価は、組電池(電池パック)の類焼耐性の観点から行われることを想定しているため、蓄電池1はリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池による組電池が想定される。しかし、蓄電池1がこれらに限定されるわけではなく、充放電が可能な二次電池であればよい。
【0013】
なお、充放電は、充電及び放電のいずれか一方を意味してもよいし、両方を意味してもよい。また、以降の説明において、特に断りがなければ、蓄電池という用語には、組電池、電池モジュール、単位電池が含まれるものとする。
【0014】
蓄電池1は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、電気自転車、電気自動車、電気とガソリンの両方を使用するハイブリット自動車、ドローンといった蓄電池を搭載した機器などの蓄電池でもよい。また、例えば、個人住宅、ビルディング、工場などの建物ごとに設置される定置用蓄電池でもよい。発電システムと連携した蓄電池、又は系統連系した蓄電池でもよい。
【0015】
電池安全性評価装置2は、蓄電池1の安全性を評価する。具体的には、電池安全性評価装置2は、使用された蓄電池1の現時点の状態を推定する。次に、推定された状態において、高温にさらされた場合の蓄電池1の温度等を推定する。これは、類焼耐性の観点から、組電池内の他の単位電池が異常発熱、発火などを引き起こした場合において、蓄電池1の外部環境が高温になることを想定するからである。そして、蓄電池1の温度等を指標として、蓄電池1の安全性を評価する。
【0016】
上記のとおり、電池安全性評価装置2は、接続された蓄電池1の状態の推定も行う。具体的には、蓄電池1に対して行われた充放電にて計測された蓄電池1の電圧及び電流のデータに基づき、蓄電池1の状態に関する情報である内部状態パラメータ及び電池特性を推定する。内部状態パラメータ及び電池特性については後述する。つまり、電池安全性評価装置2は、状態推定装置でもあるし、電池制御装置でもある。
【0017】
なお、使用頻度又は使用回数に基づき蓄電池1の状態を推定する方法もあるが、使用頻度又は使用回数が同じであっても、使用環境又は負荷などにより蓄電池の状態は異なる。故に、高精度に蓄電池1の状態を推定するために、電池安全性評価装置2は、充放電等の計測値から蓄電池1の状態又は性能を推定する。
【0018】
なお、電池安全性評価装置2は、安全性を評価するために、熱安定性データ(参照データ)を用いるとする。熱安定性データについては、後述する。また、電池安全性評価装置2の動作の詳細については、後述する。
【0019】
なお、上記で説明したシステム構成は一例であり、上記の構成に限られるものではない。例えば、
図1では、電池安全性評価装置2は、記憶部24と、熱安定性データ記憶部271とを備えているが、記憶部24と熱安定性データ記憶部271とをまとめた一つの記憶部24としてもよい。また、内部抵抗補正部26は、電池特性推定部25に含めてもよい。
【0020】
また、通信又は電気信号により、電池安全性評価装置2から処理に必要な情報を受取り、処理結果を電池安全性評価装置2に渡すことができれば、電池安全性評価装置2の各構成要素は、電池安全性評価装置2の外部に存在してもよい。例えば、充放電制御部21を備える電池制御装置と、計測部22、SOC推定部23、記憶部24、電池特性推定部25、及び内部抵抗補正部26を備える電池特性推定装置と、電池安全性評価部27を備える電池安全性評価装置と、に分かれていてもよい。
【0021】
次に、電池安全性評価装置2の処理の概要を説明する。
図2は、電池安全性評価装置2の概略処理のフローチャートの一例を示す図である。当該処理は、一定期間経過ごとに行われてもよい。あるいは、図示されていない入力部を介して、ユーザ、他のシステムなどからの指示を受けた上で行われてもよい。
【0022】
充放電制御部21は、蓄電池1に対して、所定条件における充電(又は放電)の指示を行う(S101)。計測部22は、計測により充電(放電)データを取得する(S102)。電池特性推定部25は、充電(放電)データの解析を行う(S103)。充電結果の解析とは、充電結果に基づき、各単位電池の内部状態パラメータ及び電池特性(セル特性)を算出することである。具体的には、充電時又は放電時に計測された電流及び電圧のデータに基づき、内部状態パラメータを推定する。また、内部状態パラメータに基づき、電池特性の推定を行う。
【0023】
内部状態パラメータは、単位電池の状態を示すものである。内部状態パラメータには、正極容量(正極の質量)、負極容量(負極の質量)、SOCずれ、及び内部抵抗が含まれることを想定する。SOCずれは、正極の初期充電量と、負極の初期充電量との差を意味する。
【0024】
電池特性は、内部状態パラメータから算出することができるものであり、蓄電池1の電圧等の特性を示す。電池特性には、電池容量、開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)、OCV曲線などが含まれることを想定する。また、内部抵抗は電池特性にも含めてよい。OCV曲線は、蓄電池に関する何らかの指標と開回路電圧との関係を示すグラフ(関数)を意味する。電池容量は、正極容量の範囲と負極容量の範囲とが重なる範囲である。SOCが100%のときは正極と負極の電位差が電池の充電終止電圧となり、SOCが0%のときは正極と負極の電位差が電池の放電終止電圧となる。このように、電池容量は充電量に基づき算出することができる。
【0025】
電池安全性評価部27は、熱安定性データ記憶部271から取得した熱安定性データに基づき、内部状態パラメータ又は電池特性(セル特性)から、安全性を判定するための指標を算出する(S104)。当該指標を安全指標と記載する。そして、電池安全性評価部27は、安全指標に基づき、安全性を評価する(S105)。当該評価を安全性評価と記載する。出力部28は、安全性評価を、ユーザ等が認知できるような方法で出力する(S106)。例えばディスプレイ等に表示してもよい。こうして、蓄電池1の安全性が認識できるようになる。
【0026】
なお、安全指標と安全性評価とが同じであってもよい。つまり、安全性評価が行われずに、安全指標が出力されてもよい。例えば、安全指標が数値である場合に、ユーザ等が当該数値により安全性を判断することができるならば、安全性評価の処理(S105)は行われずに、出力部28が、安全指標を出力してもよい。
【0027】
次に、電池安全性評価装置2が備える構成要素について説明する。
【0028】
充放電制御部21は、蓄電池1に対し、蓄電池1の内部状態パラメータを計測するために、充放電の指示を行う。充放電は、一定期間又は時刻ごとに行われてもよい。あるいは、図示しない入力部を介して、使用者、他のシステムなどからの指示を電池安全性評価装置2が受け付けた場合に行われてもよい。
【0029】
計測部22は、蓄電池1に関する情報を計測する。計測される情報は、単位電池の正極端子と負極端子との間の電圧と、単位電池に流れる電流と、単位電池の温度などがある。計測部22の計測データには、蓄電池1の充電又は放電時に計測された蓄電池1の、電圧、電流、温度などのデータが含まれる。
【0030】
SOC推定部23は、計測部22の計測データに基づき、蓄電池1の現時点でのSOC(充電状態)を推定する。なお、電池特性推定部25が蓄電池1の現在の状態に基づき算出したSOC−OCV曲線を用いて、SOCが推定されてもよい。
【0031】
記憶部24は、電池特性推定部25に係る処理を行うために用いるデータが記憶される。例えば、単位電池の正極又は負極の充電量と、電位との関係を示す関数などが格納される。その他のデータが記憶されてもよい。
【0032】
電池特性推定部25は、計測部22の計測データに基づき、蓄電池1の現時点における内部状態パラメータと電池特性を算出する。電池特性が不要な場合は、電池特性は算出されなくともよい。電池特性には、前述のとおり、電池容量、内部抵抗、開回路電圧(OCV)、OCV曲線が含まれる。OCV曲線(関数)は、例えば、二次電池の開回路電圧(OCV)と、二次電池の充電状態又は充電された電荷量との関係を示す関数でもよい。SOCとOCVとの関係を示すSOC−OCVグラフでもよい。充電量とOCVとの関係を示す充電量−OCVグラフでもよい。算出するOCV曲線の種類は、予め定めておけばよい。
【0033】
電池特性の算出には、様々な電池特性測定方法を用いることができる。具体的には、実際に電流を流して電池容量の測定を行う充放電試験、主に内部抵抗値の測定を行う電流休止法、交流インピーダンス測定などの電気化学的測定などがある。また、これらを組み合わせて測定してもよい。また、充放電曲線を解析して、簡易的に電池特性を推定する方法を用いてもよい。
【0034】
電池特性推定部25の内部構成について説明する。
【0035】
充放電履歴記録部251は、蓄電池1の充電時又は放電時に、計測部22で計測された、電圧、電流、及び温度などのデータ(履歴)を記録する。当該記録は、蓄電池1の充放電の開始から終了までの間に、一定時間間隔ごとに繰り返し行われる。この時間間隔は、当該記録を用いる処理に応じて、任意に設定すればよい。例えば、0.1秒から1秒間隔程度に設定することが考えられる。記録される時刻は、絶対時刻でも、充放電が開始されてからの相対時刻でもよい。また、充放電履歴記録部251の処理が一定時間間隔で繰り返されている場合は、時刻の記録は省略してもよい。
【0036】
図3は、充電時の電流及び電圧に関するデータの一例を示す図である。
図3に示すデータは、二次電池の充電方法として一般的に用いられる定電流定電圧充電の一例である。
図3の破線は、電流履歴を表し、実線は電圧履歴を表す。
【0037】
後述する内部状態パラメータ算出部252の処理においては、例えば、定電流定電圧充電全体の充電履歴、又は定電流充電区間(
図3のt0からt1の間)の充電履歴のみを用いてもよい。なお、充電は必ずしもSOCが0%のときから開始されるわけではなく、SOCが20%などのときから開始されてもよい。
【0038】
内部状態パラメータ算出部252は、充放電履歴記録部251が記録した履歴に基づき、内部状態パラメータである、単位電池の正極又は負極を構成する活物質の量、初期充電量、単位電池の内部抵抗をそれぞれ算出する。
【0039】
内部状態パラメータ算出部252は、活物質量及び内部抵抗に基づき蓄電池電圧を算出する関数を利用する。蓄電池1の充放電時の電流データ及び電圧データと、当該関数と、に基づき、蓄電池1の電圧が算出される。そして、算出された蓄電池1の電圧と、測定された電圧との差を少なくする活物質量及び内部抵抗が回帰計算により求められる。なお、正極が複数の活物質から構成されてもよいが、本実施形態では正極、負極がそれぞれ1種類の活物質からなる二次電池を例にとって説明する。
【0040】
正極、負極がそれぞれ1種類の活物質からなる二次電池を充電する場合、時刻tにおける電圧(端子電圧)Vtは、次式で表すことができる。
【数1】
I
tは時刻tにおける電流値、q
tは時刻tにおける二次電池の充電量を表す。f
cは正極の充電量と電位との関係を示す関数、f
aは負極の充電量と電位との関係を示す関数を表す。q
ocは正極の初期充電量、M
cは正極の質量を表す。q
oaは負極の初期充電量、M
aは負極の質量を表す。Rは内部抵抗である。
【0041】
電流値I
tには、充放電履歴記録部251により記録された電流データが用いられる。充電量q
tは、電流値I
tを時間積分することにより算出される。関数f
c及び関数f
aは、関数情報として、記憶部24に記録されているものとする。
【0042】
その他の正極の初期充電量q
oc、正極の質量M
c、負極の初期充電量q
oa、負極の質量M
a、及び内部抵抗Rの5つの値(パラメータセット)は、回帰計算によって推定される。なお、各極の活物質量は、各極の質量の所定の割合とみなして、算出されてもよい。
【0043】
図4は、内部状態パラメータ算出部252の処理のフローチャートの一例を示す図である。内部状態パラメータ算出部252の処理は、蓄電池1の充電が終了したのち開始される。
【0044】
内部状態パラメータ算出部252は、初期化を行い、前述のパラメータセットに初期値を設定し、回帰計算の繰り返し回数を0に設定する(S201)。初期値は、例えば、前回の活物質量算出処理が行われた際に算出された値でもよいし、想定され得る値などを用いてもよい。
【0045】
内部状態パラメータ算出部252は、次式で表される残差Eを計算する(S202)。
【数2】
V
bat_tは時刻tにおける端子電圧、t
endは充電終了時刻を表す。
【0046】
内部状態パラメータ算出部252は、パラメータセットの更新ステップ幅を計算する(S203)。パラメータセットの更新ステップ幅は、例えば、Gauss−Newton法、Levenberg−marquardt法などを用いて算出することができる。
【0047】
内部状態パラメータ算出部252は、更新ステップ幅の大きさが、予め定められた大きさ未満であるかどうかを判定する(S204)。更新ステップ幅の大きさが予め定められた大きさ未満であった場合(S204のNO)は、内部状態パラメータ算出部252は、計算が収束したと判定し、現在のパラメータセットを出力する(S207)。更新ステップ幅の大きさが予め定められた閾値以上であった場合(S204のYES)は、回帰計算の繰り返し回数が、予め定められた値を超えているかを確認する(S205)。
【0048】
回帰計算の繰り返し回数が予め定められた値を超えている場合(S205のYES)は、現在のパラメータセットを出力する(S207)。回帰計算の繰り返し回数が予め定められた回数以下であった場合(S205のNO)は、パラメータセットにS203で算出した更新ステップ幅を加算し、回帰計算の繰り返し回数を一つ加算する(S206)。そして、再度、残差の計算に戻る(S202)。以上が、内部状態パラメータ算出部252の処理の流れを示すフローチャートである。
【0049】
本実施形態においては、内部状態パラメータ算出部252の入力として充電履歴を用いたが、放電履歴を用いても、同様に活物質量を算出することは可能である。なお、放電履歴を用いる場合にも、内部状態パラメータ算出部252の処理の流れ及び用いられるパラメータは、充電履歴を用いて活物質量を算出する場合と同一のものを用いることが可能である。
【0050】
電池特性算出部253は、蓄電池1の電池特性である開回路電圧算を算出する。また、電池特性算出部253は、内部状態パラメータ算出部252により算出された、正極の初期充電量q
oc、正極の質量M
c、負極の初期充電量q
oa、負極の質量M
aを利用し、蓄電池1の充電量と開回路電圧との関係を算出する。
【0051】
図5は、電池特性算出部253の処理の流れを示すフローチャートの一例を示す図である。このフローチャートは、内部状態パラメータ算出部252の処理が終了した後に開始される。このフローチャートでは、充電量q
nを一定の値△q
nにて増減し、開回路電圧が下限値未満から下限値以上になる充電量q
n0を発見した上で、q
n0を初期値として、開回路電圧が上限値を超えるまで、△q
nごとにq
nを増加させていき、増加の度に、そのときの充電量と開回路電圧を記録する。これにより、開回路電圧が下限値から上限値までの範囲における充電量と開回路電圧との関係を算出することができる。充電量q
n0と開回路電圧が上限値のときの充電量q
nとの差が電池容量となる。
【0052】
電池特性算出部253は、充電量q
nの初期値を設定する(S301)。q
nの初期値は、0又は0よりも蓄電池1の公称容量の数%程度小さい値にすればよい。具体的には、蓄電池1の公称容量が1000mAhであれば−50mAhから0mAh程度の範囲に設定すればよい。
【0053】
電池特性算出部253は、開回路電圧を算出する(S302)。開回路電圧の算出には、次式を用いることができる。
【数3】
【0054】
次に、電池特性算出部253は、算出された開回路電圧を、予め定められた蓄電池下限電圧と比較する(S303)。蓄電池下限電圧は、蓄電池1に用いられる正極活物質と負極活物質との組み合わせにより定まる値である。具体的には、正極活物質、負極活物質それぞれについて、安全性、寿命、抵抗などの観点から各観点それぞれの適切な使用範囲の電圧を定め、それらの組み合わせにより、蓄電池としての使用範囲の下限及び上限電圧を決定する。
【0055】
開回路電圧が予め定められた下限電圧未満でない場合(S303のNO)は、充電量q
nからΔq
nを減算し(S304)、再度、開回路電圧を算出する(S302)。開回路電圧が予め定められた下限電圧未満である場合(S303のYES)は、電池特性算出部253は、充電量q
nにΔq
nを加算する(S305)。これらにより、充電量q
nは下限値に近づく。Δq
nは任意の値に設定可能である。例えば、蓄電池1の公称容量の1/1000から1/100程度にすることが考えられる。具体的には蓄電池1の公称容量が1000mAhであれば1mAhから10mAh程度の範囲に設定することが考えられる。
【0056】
電池特性算出部253は、加算された充電量q
n+Δq
nを用いて、開回路電圧を算出する(S306)。そして、電池特性算出部253は、算出された開回路電圧を、前述の下限電圧と比較する(S307)。開回路電圧が下限電圧未満であった場合(S307のNO)は、S305に戻り、再度、充電量q
nにΔq
nを加算する(S305)。開回路電圧が下限電圧以上であった場合(S307のYES)は、開回路電圧が下限値未満から下限値以上になったため、このときの充電量q
nをq
n0とし、充電量q
n0と開回路電圧Enを合わせて記録する(S308)。なお、この充電量q
n0の値を基準値として0と表してもよい。その場合は、以降の記録の際に、充電量q
nの値からq
n0の値を引いた値を記録する。
【0057】
電池特性算出部253は、充電量q
nにΔq
nを加算し(S309)、開回路電圧を算出し(S310)、充電量q
nからq
n0を引いた値と、算出された開回路電圧Enを記録する(S311)。
【0058】
電池特性算出部253は、算出された開回路電圧と予め定められた蓄電池1の上限電圧とを比較する(S312)。蓄電池1の上限電圧は、蓄電池1に用いられる正極活物質と負極活物質の組み合わせによって定まる値である。開回路電圧が予め定められた上限電圧未満であった場合(S312のNO)は、再度、充電量q
nにΔq
nを加算する処理に戻る(S309)。開回路電圧が予め定められた上限電圧以上となった場合(S312のYES)は、処理を終了する。以上が、電池特性算出部253の処理の流れを示すフローチャートである。
【0059】
図6は、充電量と開回路電圧との関係を表すグラフ(充電量―OCV曲線)の一例を示す図である。
図6(A)は電池特性算出部253により求められた現在の状態における充電量―OCV曲線である。
図6(B)は、
図6(A)に示すグラフの縦軸を、下限電圧から上限電圧までにした図である。
【0060】
図7は、SOCと開回路電圧との関係を表すグラフ(SOC‐OCV曲線)の一例を示す図である。横軸が、充電量ではなく、SOCである点が
図6と異なる。
図7は、
図6(B)に示すグラフをSOC−OCV曲線に変換したグラフ(実線)と、初期状態の蓄電池のSOC−OCV曲線(破線)とを、重ねて表示したものである。
図7の破線が初期状態の蓄電池の開回路電圧を、実線が蓄電池の劣化などによる変化後(現在)の蓄電池の開回路電圧を表す。SOCは、満充電容量に対して現在充電されている電荷量の割合を示し、0から1又は0から100%の間の値で表される。
【0061】
充電量からSOCへの変換は、充電量―OCV曲線により算出される電池容量と充電量を用いて、行われればよい。なお、ここでの説明において、単に充電状態と称しているものには、SOCだけでなく、充電量なども含まれるものとする。
【0062】
変化後の曲線は、容量の減少に伴い、曲線の長さが短くなるが、
図7によれば、曲線の長さだけでなく形状自体が変化していることがわかる。例えば、開回路電圧に基づいて充電状態(SOC)を推定する場合に、計測された開回路電圧がAであるとき、正しい充電状態(現在の充電状態)はB1となる。しかし、開回路電圧の曲線が変形しないとみなした場合、つまり、初期状態のおけるSOC−OCV曲線で開回路電圧を求めようとすると、電圧Aにおける充電状態はB2と求められ、充電状態の推定精度が低くなる。故に、この第1の実施形態にように、現在の状態におけるSOC−OCV曲線を利用することにより、充電状態を高精度に測定することが可能となる。
【0063】
電池特性推定部25により算出されたSOC−OCV曲線は、SOC推定部23に取得され、SOC推定部23が、SOC−OCV曲線に基づき、蓄電池1のSOCを推定してもよい。
【0064】
したがって、第1実施形態によれば、特別な充放電などを行うことなく、使用に伴い変化する充電量と開回路電圧との関係(充電量―OCV曲線又はSOC−OCV曲線)を正確に把握することができ、充電状態を高精度に推定することが可能となる。
【0065】
なお、ここでは、二次電池の正極、負極がそれぞれ1種類の活物質からなる場合について説明したが、二次電池の正極、負極のいずれかが複数の活物質からなる二次電池に対しても同様に適用することが可能である。また、蓄電池1の活物質量を記憶する他の記憶部24が予め用意されている場合には、電池特性算出部253は、この他の記憶部24に記憶された活物質量を用いて、予め定められた蓄電池1の電圧範囲における二次電池の充電量と開回路電圧との関係を示すグラフを算出することができる。
【0066】
電池特性算出部253は、その他の電池特性も算出してよい。例えば、算出した開回路電圧等を用いて、蓄電池1の電圧、電力又は電力量を算出してもよい。算出方法は、下記に示す算出式などを用いればよい。下記の算出式のcは所定の定数を示す。
(電圧)
電圧=開回路電圧−c×内部抵抗×電流
(電力)
電力=電流×開回路電圧−c×内部抵抗×(電流)
2
(電力量)
電力量=電池容量×平均電圧
【0067】
なお、内部抵抗は、内部状態パラメータ算出部252が算出した推定値を用いてもよいし、後述する内部抵抗補正部26が補正した推定値を用いてもよい。また、電池特性算出部253は、一度算出した電池特性を、内部抵抗補正部26が補正した推定値を用いて、算出し直してもよい。内部抵抗補正部26が算出した推定値のほうが精度を向上させることができる。電流は計測部22の計測データから取得すればよい。なお、電池特性算出部253は、算出に必要な式、定数の値などを、記憶部24などを介して受け取ってもよい。
【0068】
内部抵抗補正部26は、電池特性推定部25より算出された内部抵抗Rと、計測部22で計測された温度Tと、に基づき、現在の蓄電池1の温度Tにおける内部抵抗へ補正する。補正後の内部抵抗Rcrとする。なお、内部抵抗を補正しないときは、内部抵抗補正部26はなくともよい。
【0069】
内部抵抗補正部26が行う内部抵抗の温度補正について説明する。内部抵抗の温度補正とは、例えば、蓄電池性能診断方法に対し、温度の影響を補正する手段を提供し、蓄電池性能診断を良好に適用することができる温度範囲を拡大するものである。蓄電池性能診断方法では、電池特性推定部25の処理にて説明したように、充放電曲線から、各活物質の充電量−OCVデータが参照され、電池容量、内部抵抗、及び正負極の各活物質の劣化の程度が推算される。
【0070】
その原理と方法について、説明する。リチウムイオン二次電池は、対向する正極と負極と、正負極間のLi塩を含む電解質とを有する。また、正極及び負極には、活物質が集電箔上に塗布されている。集電箔は、蓄電池外装の正極及び負極端子にそれぞれ接続されている。蓄電池1の充放電時には、電解質を通じてLiイオンが正極活物質と負極活物質間を移動し、電子が活物質から外部端子へ流れる。
【0071】
各活物質は、可逆に挿入又は脱離可能なLi量と電位を有している。一定の充放電電圧の範囲にて、蓄電池1が貯蔵できるエネルギー量は、蓄電池1内の正極活物質と負極活物質の量及びその組み合わせにより決定される。
【0072】
また、充放電時にはLiイオン伝導、電解質中のLiイオンが活物質内部へ侵入する際の電荷移動抵抗、電解質と活物質の界面に形成される被膜による抵抗、活物質や集電箔を電子が流れる電気抵抗が生じる。蓄電池1の内部抵抗は、これらLiイオンの移動、電子の移動、電荷移動抵抗、被膜の抵抗、並びに正極及び負極内での拡散抵抗などの総和となる。
【0073】
一般的に、リチウムイオン二次電池内部の蓄電池制御システムでは、安全性の観点から、各単位電池の電圧、組電池内の温度などを計測している。これらの計測データに基づき、電池特性を算出することができれば、算出に係る費用及び時間を抑えることができる。
【0074】
しかしながら、充電放電条件が細かくランダムに変動する実使用時の蓄電池挙動を解析することは非常に難しい。時間に依存する抵抗、拡散抵抗、及び緩和過程などが複雑に複合された現象となり、計算モデル化が容易ではないからである。一方で、例えば、一定条件下で行われた電気自動車の充電のような単純な挙動のみを対象とすれば、簡略化モデルにより、解析が可能となる。
【0075】
そこで、本実施形態に係る蓄電池性能推定方法では、一定条件下での充電又は放電のデータ(充放電カーブ)により求められた、各活物質のLi挿入脱離反応に対する「電位−充電量」のカーブ(曲線)に基づき、各活物質の量、充電電流の印加に伴う内部抵抗による蓄電池電圧の上昇(過電圧)を変数として、フィッティング計算により変数の値を定める。これにより容量減少(各活物質の減少)及び内部抵抗の増加を推定することができる。
【0076】
しかし、実際の蓄電池の使用状況下では、外部環境、充電時の蓄電池の状態などにより温度条件が変動する。蓄電池の温度が変化すると蓄電池性能も変化する。特に内部抵抗は、温度の低下に大きくより増加する。
図8は、各温度におけるSOCと反応抵抗Rctとの関係の一例を示す図である。反応抵抗Rctは内部抵抗の成分の一つである。
図8に示す通り、温度の違いにより、反応抵抗が大きく異なることが分かる。このため、温度が異なる測定データの解析結果を比較しても、温度による解析結果の変動が大きく影響し、劣化による内部抵抗の増加の評価は難しい。
【0077】
したがって、実使用下の蓄電池の測定データに基づき、電池特性を推定する場合、内部抵抗の温度補正を行うことにより、電池特性の精度が向上する。
【0078】
蓄電池の内部抵抗は、複数の種類の抵抗成分が複合されている。各抵抗成分は、温度依存性及び劣化による増加速度が異なる。そのため、劣化の進行により、抵抗の占める割合が変化し、それに伴い内部抵抗全体としての温度依存性も変化する。このことに着目して、本実施形態の蓄電池性能推定方法における内部抵抗の温度補正は、内部抵抗を、反応抵抗Rct、拡散抵抗Rd、及びオーミック抵抗Rohmの三つの成分に分け、それぞれ固有の温度依存性に従い、基準温度T0に応じた値へ補正した後で、合算する。
【0079】
具体的には、以下の数式により、測定時の蓄電池温度から基準温度への補正を行う。なお、下記の式中のRgasは気体定数を表す。T0は基準温度、Tは測定時の蓄電池温度を表す。R1は定数を表す。Ea、Eb、Ecは、それぞれの抵抗成分の温度依存性を決定する定数である。
(反応抵抗)
Rct(T0)=Rct(T)×Exp(−Ea/(Rgas・T))/Exp(−Ea/(Rgas・T0))
(拡散抵抗)
Rd(T0)=Rd(T)×Exp(−Eb/(Rgas・T))/Exp(−Eb/(Rgas・T0))
(オーミック抵抗)
Rohm(T0)=(Rohm(T)−R1)×Exp(−Ec/(Rgas・T))/Exp(−Ec/(Rgas・T0))+R1
【0080】
図9は、各抵抗成分について説明する図である。オーミック抵抗は、電解液のイオン伝導抵抗と蓄電池内の電子伝導抵抗とを含む。温度依存性が相対的に小さい電子伝導抵抗は、定数とする。反応抵抗は、電荷移動抵抗と表面被膜の抵抗とを含む。拡散抵抗は、活物質内部、電極内のリチウムイオン拡散に伴う抵抗を含む。
【0081】
オーミック抵抗のEcは、Liイオンの電解液中での移動に伴う活性化エネルギーを表す。反応抵抗のEaは、電解液中で溶媒和されたLiイオンが活物質表面で脱溶媒和する際のエネルギーを表す。拡散抵抗のEbは、活物質内部におけるLiイオンサイト間移動に伴う活性化エネルギーと考察される。したがって、劣化過程ではこれらの値は一定で変化しないと考えることが出来る。
【0082】
これらEa、Eb、Ecの値は、単位電池の交流インピーダンス測定、電流パルス測定等により算出することができる。解析対象とする蓄電池に関するEa、Eb、Ecの値は、予め測定値から算出しておき、記憶部24に記憶する。そして、内部抵抗の温度補正演算時に参照すればよい。
【0083】
次に、充放電カーブからの電池特性の推算において、内部抵抗を三つの成分に分けて算出する方法について説明する。
【0084】
蓄電池の劣化過程において、内部抵抗の三つの成分はいずれも上昇するが、劣化による増加の速度は、各成分により異なる。そのため、評価する蓄電池寿命の範囲を限定することにより、劣化しないという仮定が成立する場合もあり得る。例えば、電気自動車用の蓄電池であって、評価の下限を残容量90〜70%程度までと想定した場合は、使用条件、蓄電池の構成などにも影響されるが、蓄電池寿命を通じて、一部の抵抗成分を一定値と近似できることもあり得る。
【0085】
(第一の方法)
算出された蓄電池の内部抵抗値からの3成分の算出を行う第一の方法は、オーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分を一定とみなして、残差を反応抵抗とみなす方法である。この方法では、オーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分については、劣化による増加が生じないと想定し、セル温度に依存する温度変化のみを考慮する。充放電曲線の解析においては、ある温度Tに対して推定された内部抵抗値から、温度Tにおけるオーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分を引き、その残りを反応抵抗成分とする。そして、それぞれの成分を基準温度T0へ温度補正した上で合計し、基準温度T0における内部抵抗値を算出する。第一の方法は、正負極の活物質が安定しているSOCの範囲内であって、温度は室温付近以下、蓄電池の電流は比較的小さいといった緩やかな使い方がされる場合に適する。
【0086】
(第二の方法)
第二の方法は、オーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分を、これら二つの抵抗成分それぞれと、累積時間又は累積電力量との関係に関する関数により推算し、残差を反応抵抗とする方法である。この方法では、オーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分についての劣化が、時間又は充放電サイクル量に相関すると想定して、オーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分を算出する。充放電曲線の解析においては、ある温度Tに対して推定された内部抵抗値から、算出されたオーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分を引き、残りを反応抵抗成分とする。そして、それぞれの成分を基準温度T0へ温度補正した上で合計し、基準温度T0における内部抵抗値を算出する。第二の方法は、オーミック抵抗成分及び拡散抵抗成分の劣化が、比較的小さいけれども、確実に進行する場合に適している。
【0087】
また、累積時間と累積電力量のいずれかを用いるかは、使用環境などに応じて、決定すればよい。例えば、貯蔵時にガスが発生するなどして、蓄電池の劣化が進む場合には、累積時間による劣化量推定が適している。一方、活物質の体積変化など、充放電などの処理のサイクルの繰り返しによる蓄電池の劣化が顕著な場合には、累積電力量による劣化量推定が適している。
【0088】
なお、累積時間又は累積電力量のデータは、予め保持しておくものとする。累積電力量は、機器の稼動量、例えば、車両であれば走行距離で代替してもよい。
【0089】
(第三の方法)
第三の方法は、反応抵抗成分及び拡散抵抗成分が、予め保持する各活物資の拡散抵抗と充電量とのデータ、又は反応抵抗と充電量とのデータにより推算され、残差をオーミック抵抗成分とする方法である。第三の方法においては、第一及び第二の方法とは異なり、充放電曲線の解析において、活物質の反応抵抗−充電量カーブ、拡散抵抗−充電量カーブ、又は蓄電池の内部抵抗−充電量カーブを参照して回帰計算することにより、反応抵抗及び拡散抵抗の値を推定する方法である。活物質の抵抗成分が充電量、すなわちSOCに対して依存性を有しており、劣化してもその依存性の傾向は変化しないことを利用して、蓄電池の内部抵抗−充電量の傾向から、内部抵抗の組成の推定を行う。
【0090】
活物質の反応抵抗−充電量カーブ及び拡散抵抗−充電量カーブは、予め測定する必要がある。また、劣化による変化の様態も蓄電池の構成によるため、予め測定しておく必要がある。例えば、抵抗性の表面被膜が形成される場合では、内部抵抗が一様に一定値ずつ増加し、活物質が減少する場合には、一様にn倍となるような挙動をとると考えられる。
【0091】
第三の方法は、反応抵抗−充電量に顕著な変化があり、その結果として蓄電池としての反応抵抗に充電量の依存性が明確に現れている場合に適している。
【0092】
(第四の方法)
第四の方法は、予め保持する各活物資の拡散抵抗−充電量、反応抵抗−充電量、及びオーミック抵抗−充電量データを用いて回帰計算することにより、反応抵抗成分、オーミック抵抗成分、及び拡散抵抗成分を推定する方法である。第三の方法では、拡散抵抗−充電量、反応抵抗−充電量のみを用いたが、第四の方法では、オーミック抵抗−充電量データも用いることが特徴である。活物質のオーミック抵抗−充電量の依存性に特徴がある場合、例えば、充放電により活物質の電子導電性が大きく変化する場合に有効である。
【0093】
電池特性算出部253は、補正された内部抵抗を用いて、実際に出力可能な電力量等を電池特性として算出してもよい。実際に出力可能な電力量は、充電量−OCV曲線と、放電可能な電気量と、補正された内部抵抗と、に基づき算出することができる。
【0094】
電池安全性評価部27は、電池特性推定部25により推定された、現在の内部状態パラメータ又は電池特性から、蓄電池1が発熱した際の発熱量を推定し、当該発熱量に伴う蓄電池1の温度を推定する。そして、蓄電池1の温度に基づき、蓄電池1の安全性を評価する。詳細は、電池安全性評価部27の構成要素とともに説明する。
【0095】
現在の内部状態パラメータ又は電池特性を用いることにより、現在の蓄電池1の内部状態(劣化状態)に応じた安全性を評価することができる。但し、同じ劣化状態であっても、蓄電池1のSOCにより、安全性は異なる。具体的には、SOCが高い程、発火の危険度が高い。故に、電池安全性評価部27は、特定のSOCの値における蓄電池1の安全性を評価するものとする。例えば、SOC推定部23による推定された現在のSOCでの安全性を評価してもよい。例えば、蓄電池1のSOCが100%(満充電)であるときの安全性を評価してもよい。また、使用条件としてSOCの範囲が蓄電池1に定められている場合は、当該SOCの範囲の上限の状態であるときの安全性を評価してもよい。安全性の観点からは、発火の危険性がより高い状態、つまりSOCが大きい場合において安全性を評価することが好ましい。
【0096】
熱安定性データ記憶部271は、蓄電池1の安全性を算出する際に必要となる熱安定性データを記憶する。なお、熱安定性データ以外のデータも記憶されてもよい。例えば、安全指標算出部274に係る処理を行うための、蓄電池1の比熱、蓄電池1から外部環境へ熱量を放出する際の伝熱係数などが記憶されてもよい。その他にも、電池安全性評価部27の各処理に用いられる制約条件などが記憶されてもよい。例えば、蓄電池1に使用条件として課せられたSOCの範囲が熱安定性データ記憶部271に記憶されていてもよい。算出された安全指標などが記憶されてもよい。
【0097】
熱安定性データは、二次電池が高温にさらされた場合における、当該二次電池の発熱に関するデータである。熱安定性データは、二次電池の発熱量と外部温度との関係を少なくとも示す。例えば、熱安定性データは、示差走査熱量計(DSC、Diffrencial scanning、calorimetry)により計測された、DSC曲線でもよい。なお、外部温度は、二次電池の外部環境の温度という意味であり、隣接セルの温度でもよいし、周辺空間の温度でもよい。
【0098】
なお、熱安定性データは、SOCの値ごとに分かれている。例えば、SOCが100%の状態のときの蓄電池1の安全性を評価する場合は、SOCが100%のときの熱安定性データが用いられる。これは、SOCの値に応じて、二次電池の発熱挙動が異なるためである。
【0099】
また、SOC以外の二次電池の状態に応じた熱安定性データが含まれてもよい。例えば、未使用の二次電池に係る熱安定性データが含まれてもよい。また、劣化により金属(リチウムイオン二次電池ならリチウム)が析出した状態の二次電池に対する熱安定性データも含めてよい。
【0100】
熱安定性データは、グラフ又は関数などで示されてもよい。例えば、熱安定性データは、二次電池の外部温度と、二次電池の発熱量と、の関係を示すグラフであってもよい。また、当該グラフの近似関数が熱安定性データとして用いられてもよい。
【0101】
熱安定性データは、二次電池の極ごとに分かれていることを想定する。つまり、熱安定性データには、二次電池の正極に係る熱安定性データと、二次電池の負極に係る熱安定性データと、が含まれていてもよい。
【0102】
図10は、熱安定性データの一例を示す図である。
図10には、熱安定性データがプロットされたグラフが示されている。
図10に示すような熱安定性データに係るグラフを発熱量算出グラフと記載する。縦軸が、質量当たりの発熱量を示す。横軸が外部温度を示す。
図10の発熱量算出グラフはDSC曲線である。
図10に示すように、熱安定性データには、質量当たりの発熱量、発熱開始温度などが含まれる。なお、質量当たりの発熱量における質量は、正極又は負極の質量と電解液の質量との合計を意味する。また、
図10のデータは、二次電池の正極のSOCが100%のときに計測されたデータに基づくグラフである。このように、極ごと及びSOCの値ごとに、熱安定性データが存在する。
【0103】
DSC曲線のピークにおける外部温度において、二次電池の発熱量が多く、発火しやすい。つまり、このピークにおける外部温度が熱暴走温度である。なお、
図10の四つのグラフは、外部温度の昇温速度が異なる。Aのグラフが1分当たりに外部温度を10℃上昇させた場合、Bのグラフが1分当たりに外部温度を5℃上昇させた場合、Cのグラフが1分当たりに外部温度を2℃上昇させた場合、Dのグラフが1分当たりに外部温度を1℃上昇させた場合を示す。このように、昇温速度によっても発熱量、熱暴走のタイミングなどは異なる。外部温度の昇温速度は、求められる安全性、蓄電池1の構成、周囲の環境等に応じて、指定されればよい。
【0104】
熱安定性データは、複数の二次電池の計測データに基づいて作成される。熱安定性データを作成するために用いられる複数の二次電池は、ある前提条件を満たす二次電池とする。そして、熱安定性データは、その前提条件を満たす他の二次電池に汎用的に用いられる。
【0105】
前提条件は特に限られるものではなく、様々な前提条件があるとする。例えば、二次電池の極に用いられている材料、極の活物質量が所定の範囲内であることなどを、前提条件としてもよい。そして、当該前提条件を満たす複数の二次電池に対し検査を行い、検査結果に基づき熱安定性データが算出される。なお、熱安定性データの作成方法は、特に限られるものではなく、任意に定めてよい。
【0106】
その他にも、未使用、金属が析出しているなどの状態を前提条件としてもよい。あるいは、二次電池の保管又は使用時の環境に関する事項を前提条件としてもよい。環境に関する前提条件として、温度、湿度といった事項が考えられる。また、例えば、二次電池の使用履歴に関する事項を前提条件としてもよい。使用履歴に関する前提条件として、充電又は放電の回数、使用された総時間などが考えられる。
【0107】
二次電池の劣化の原因としては、電解液との反応性、活物質の膨張収縮による破損などが想定されるが、二次電池の劣化の原因を特定することは容易ではない。また、二次電池の保管状況、使用履歴等により劣化の状況も異なる。故に、予め様々な前提条件ごとに熱安定性データを算出しておき、蓄電池1の状態に合致する熱安定性データを用いる。つまり、蓄電池1の状態と同程度の状態である二次電池の検査結果に基づき算出された熱安定性データが用いられる。これにより、蓄電池1の発熱量を精度良く推定することができる。
【0108】
熱安定性データ取得部272は、電池特性推定部25から、内部状態パラメータ及び電池特性の少なくともいずれかに係る推定値を取得する。そして、熱安定性データ取得部272は、少なくとも取得した推定値に基づき、熱安定性データ記憶部271から、蓄電池1に対応する熱安定性データ(第1参照データ)を取得する。つまり、熱安定性データ取得部272は、二次電池の熱安定性データのうち、蓄電池1に対応する熱安定性データを抽出する。
【0109】
なお、蓄電池1に対応する熱安定性データには、蓄電池1の正極に対応する熱安定性データと、蓄電池1の負極に対応する熱安定性データと、を含むとする。つまり、熱安定性データ取得部272は、正極に係る推定値に基づき正極に対応する熱安定性データを取得してもよい。負極に係る推定値に基づき負極に対応する熱安定性データを取得してもよい。例えば、内部状態パラメータとして算出された正極又は負極の初期充電量に基づいて熱安定性データが取得されてもよい。例えば、内部状態パラメータとして算出された正極又は負極の質量に基づいて熱安定性データが取得されてもよい。例えば、電池特性として算出された開回路電圧に基づいて熱安定性データが取得されてもよい。
【0110】
予め熱安定性データを作成しておくにあたっての二次電池の前提条件を、蓄電池1の推定値が満たす場合、当該熱安定性データは蓄電池1に対応すると言える。例えば、正極の活物質量が所定の範囲内であるという前提条件を満たしている複数の二次電池に基づき熱安定性データが作成されていた場合に、蓄電池1の正極の活物質量の推定値が当該所定の範囲内であるときは、当該熱安定性データは蓄電池1に対応すると言える。また、蓄電池1に対応する熱安定性データとは、蓄電池1の発熱量を推定するのに適した熱安定性データとも言える。
【0111】
なお、前述のように、熱安定性データは、SOCの値ごとに分かれている。故に、熱安定性データ取得部272は、蓄電池1に対応する熱安定性データのうち、指定されたSOCの値に合致する熱安定性データを取得する。
【0112】
なお、熱安定性データ取得部272は、複数の推定値に基づいて、熱安定性データを取得してもよい。複数の推定値に合致する熱安定性データは、一つの推定値に合致する熱安定性データよりも、蓄電池1に合致した熱安定性データである可能性が高い。よって、複数の推定値に合致する熱安定性データを用いた場合、一つの推定値に合致する熱安定性データを用いた場合よりも、算出される安全指標、安全性評価の精度は向上すると考えられる。
【0113】
発熱量推定部273は、熱安定性データ取得部272により取得された、蓄電池1に対応するとされた熱安定性データ(第1参照データ)に基づき、蓄電池1の発熱量を算出する。
【0114】
なお、発熱量推定部273は、蓄電池1の正極に対応するとされた熱安定性データに基づき、蓄電池1の正極の発熱量を算出してもよい。蓄電池1の負極に対応するとされた熱安定性データに基づき、蓄電池1の負極の発熱量を算出してもよい。そして、蓄電池1の正極及び負極それぞれにおける発熱量の和を蓄電池1の発熱量としてもよい。あるいは、正極又は負極の発熱量のみを蓄電池1の発熱量として用いてもよい。
【0115】
例えば、
図10に示した発熱量算出グラフを用いて、発熱量を推定する場合を説明する。発熱量推定部273は、外部温度の所定の範囲に含まれるピーク部分の面積を求める。DSC曲線において、発熱量はピーク部分の面積として示されるため、ピークの時間範囲(発熱開始温度から発熱終了温度まで)における発熱量算出グラフの積分値として求められる。発熱開始温度、つまりピークの始点は、DSC曲線の傾きが閾値を超えたときの温度(ピークの立ち上がりの温度)としてもよい。あるいは、ピークの接線とベースラインとの交点の温度としてもよい。ピークの終点、つまり発熱終了温度は、発熱開始温度と同じにすればよい。こうして、熱安定性データから発熱量が求まる。
【0116】
外部温度の所定の範囲は、任意に定めておけばよい。但し、隣接セルが発火した場合におけるセルの安全性を評価する場合は、外部温度を隣接セルが発火した場合にセルがさらされると想定される温度付近にした方が実効的な評価を行うために好ましい。このようにして、外部温度が所定の範囲内で変動したときの、蓄電池1の発熱量が求まる。
【0117】
なお、発熱量推定部は、熱暴走が起きるか否かを判定するための閾値(熱暴走判定閾値)を予め定めておき、単位質量あたりの発熱量が熱暴走判定閾値を超えた場合に、熱暴走が起きると判定してもよい。
【0118】
なお、上記のように、毎回、発熱量算出グラフから発熱量を求めると、負荷及び時間がかかる。故に、内部状態パラメータ又は電池特性と、発熱量などとを対応させたデータを用いてもよい。つまり、熱安定性データは、内部状態パラメータ又は電池特性と、熱安定性データの各項目との対応を示すデータ(対応テーブル)であってもよい。当該テーブルは、外部装置で作成されたものであってもよいし、過去の処理履歴に基づいて電池安全性評価部27が作成したものでもよい。
【0119】
熱安定性データが対応テーブルであるときは、発熱量推定部273は、内部状態パラメータ等を取得したときに、当該テーブルを参照して、取得した内部状態パラメータに対応する発熱量等を抽出すればよい。
【0120】
安全指標算出部274は、推定された蓄電池1の発熱量に基づき、外部温度が所定の範囲内で変動したときの、蓄電池1の温度を算出する。算出された蓄電池1の温度をセル到達温度と記載する。
【0121】
蓄電池1の温度変動は、蓄電池1の発熱量から、蓄電池1から外部環境へ放出される熱量(放熱量)を引いた差分を、蓄電池1の比熱にて除算すれば求められる。放熱量は、蓄電池1の温度から外部温度を引いた差分と、伝熱係数との積で求められる。伝熱係数は、セル及び組電池の構造、材質などにより定まる。このように、蓄電池1の発熱量と、蓄電池1の比熱と、外部との伝熱係数と、外部温度と、に基づき、外部温度が所定の範囲内で変動したときの、前記第1電池の温度が算出される。
【0122】
なお、セル到達温度は、絶対値で表されてもよいし、相対値で表されてもよい。つまり、セル到達温度は、実際のセルの温度でもよいし、想定された高温に暴露され始めた時点におけるセルの温度(初期温度)からの差分でもよい。
【0123】
そして、安全指標算出部274は、セル到達温度又はセル到達温度に係る演算値を安全指標として算出する。例えば、発熱開始温度からセル到達温度までの温度の変化量を安全指標としてもよい。発熱開始温度からセル到達温度までにかかる時間を安全指標としてもよい。発熱開始温度からセル到達温度までの発熱速度を安全指標としてもよい。発熱速度は、温度変化量を、当該温度変化に要した時間にて除算した値としてよい。
【0124】
安全性判定部275は、算出された安全指標に基づき、蓄電池1の安全性を判定する。例えば、安全指標と、安全指標のための閾値とを比較してもよい。安全指標のための閾値を、安全閾値と記載する。安全閾値は、予め定めておけばよい。
【0125】
なお、安全性評価は、安全閾値を基準に、安全であると、安全でない(危険)との2つであってもよい。あるいは、複数の安全閾値があり、安全性評価が、例えば、安全、要注意、警告、停止といった複数の種類に分かれていてもよい。例えば、安全指標であるセル到達温度が第1安全閾値よりも低いときは「安全」と判定し、セル到達温度が第1安全閾値以上かつ第2安全閾値よりも低いときは「注意」と判定し、セル到達温度が第2安全閾値以上のときは危険と判定してもよい。このように、安全性評価を複数の種類に分けることにより、ユーザの利便性が高まる。
【0126】
なお、安全指標算出部274により算出された安全指標を安全性評価として用いてもよい。その場合は、安全性判定部275は省略されてもよい。
【0127】
なお、発熱量算出部により熱暴走が起きないと判定された場合、安全指標算出部274は、安全指標を算出しなくともよい。そして、安全性判定部275は、蓄電池1の熱暴走が起きないために、蓄電池1を「安全」と判定してもよい。
【0128】
なお、前述のように、電池特性推定部25は、内部状態パラメータ及び電池特性の推定値を高精度に算出することが可能である。さらに、電解液、温度などが考慮されて補正された内部抵抗に基づき、内部状態パラメータ又は電池特性の推定値が再度算出されることにより、推定値の精度がより高まる。精度が高い推定値により抽出された熱安定性データに基づき発熱量、セル到達温度などが推定されるため、これらに基づく安全指標による安全性判定の精度も高くなる。
【0129】
図11は、電池安全性評価処理のフローチャートの一例を示す図である。電池安全性評価処理は、電池特性推定部25又は内部抵抗補正部26による蓄電池1の電池特性等の推定値が算出されてから行われる。
【0130】
熱安定性データ取得部272は、電池特性推定部25又は内部抵抗補正部26から取得した内部状態パラメータ又は電池特性の推定値に基づき、熱安定性データ記憶部271から蓄電池1に対応する熱安定性データを取得する(S401)。
【0131】
なお、熱安定性データ記憶部271がデータベースなどで実現されている場合は、電池特性等が属性として熱安定性データと対応して記録しておけば、RDBMSなどの管理機能を用いることにより、電池特性等の推定値に基づき熱安定性データを抽出することができる。なお、推定値と、熱安定性データに対応する電池特性等の値とは、完全に一致しなくとも所定の許容範囲内であれば抽出してもよい。
【0132】
発熱量推定部273は、熱安定性データ取得部272により取得された熱安定性データに基づき、正極及び負極に対し、発熱量等を推定する(S402)。安全指標算出部274が発熱量、比熱、伝熱係数、外部温度に基づき、セル到達温度を推定し、セル到達温度に関する安全指標を算出する(S403)。安全性判定部275が、安全指標に基づき安全性評価を判定する(S404)。以上が、電池安全性評価処理のフローチャートである。なお、安全性評価は出力部28に送られることを想定するが、他の構成要素、例えば、熱安定性データ記憶部271に送られてもよい。
【0133】
なお、電池安全性評価部27は、蓄電池1の状態に変化があったと判断された場合に、電池安全性評価処理を行ってもよい。蓄電池1の状態に変化があったと判断するのは、電池特性推定部25でもよいし、電池安全性評価部27でもよい。あるいは、出力部28を介して、蓄電池1の状態、当該状態に対応する熱安定性データなどを出力し、当該出力を見た蓄電池1のユーザ、電池安全性評価装置2の管理者等が、図示されていない入力部を介して、指示してもよい。
【0134】
出力部28は、算出された電池安全性評価などを出力する。例えば、出力部28は、蓄電池1の熱暴走が起きると判断された場合に、蓄電池1の熱暴走が起きるときの外部温度、つまり熱暴走温度を発熱量推定部273から受け取り、出力してもよい。出力方法は、特に限られるものではない。ファイルでも、メールでも、画像でも、音でも、光でもよい。例えば、出力部28を介して、電池安全性評価装置2がディスプレイ、スピーカなどと接続され、他の装置に各構成要素の処理結果が出力されてもよい。例えば、安全性評価が「危険」であった場合、ユーザに危険を認識させるために、ディスプレイに警告を示す画像又は光を表示してもよいし、スピーカから警告音を出力してもよい。なお、出力部28が出力する情報は特に限られるものではない。例えば、内部状態パラメータ、電池特性、熱安定性データなどの電池安全性評価に用いられた情報が出力されてもよい。
【0135】
以上のように、第1の実施形態によれば、蓄電池1の電圧及び電流に基づき、蓄電池1の内部状態パラメータ及び電池特性を推定する。そして、内部状態パラメータ又は電池特性に基づき安全指標を算出する。そして、安全指標に基づく安全性評価により、蓄電池1の現時点の安全性を評価することができる。また、蓄電池1のSOCの上限値に該当する安定性データが用いられることにより、安全性の評価がより厳格になる。
【0136】
また、電圧等に基づいて蓄電池1の安全性を評価することができるため、内部状態パラメータを直接測定する機能が不要となり、安全性評価装置の製造に係るコストの抑制を図ることができる。
【0137】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電池安全性評価装置2は、判定された安全性評価を外部装置等に出力するだけでなく、蓄電池1の充放電に関する制御を判定された安全性評価に応じて変更する。
【0138】
図12は、第2の実施形態に係る蓄電システムの概略構成の一例を示すブロック図である。第2の実施形態では、電池安全性評価装置2が使用条件算出部をさらに備える点が第1の実施形態とは異なる。第1の実施形態と同様の点は、説明を省略する。
【0139】
充放電制御部21は、蓄電池1の安全性を評価するためではなく、蓄電池1を使用するためにも充放電の制御を行うとする。また、充放電制御部21は、電池安全性評価部27が下した安全性評価に応じて、充放電の制御を変更する。例えば、使用を停止すべき安全性評価であった場合は、充放電制御部21は、充放電を停止するように制御する。使用を継続してもよい安全性評価の場合は、充放電制御部21は充放電を行う。このとき、充放電は使用条件算出部により算出された使用条件を満たすように行われる。
【0140】
使用条件算出部は、使用を継続してもよいが制限を課すべき安全性評価である場合は、使用条件を算出(更新)する。例えば、安全性評価が前述の「注意」であった場合に、現状の使用条件を継続すると、安全性評価がすぐに前述の「危険」になると考えられる。そこで、安全性評価が「注意」であった場合に、使用条件を変更する。
【0141】
使用条件は安全性評価の種類と予め対応させておき、使用条件算出部は、安全性評価の種類に応じた使用条件を選択してもよい。あるいは、蓄電池1の使用可能なSOCの範囲の上限値を下げてもよい。前述の通り、SOCが大きい程、安全性は低いため、当該上限値を、安全性評価が安全になる値にまで小さくする。蓄電池1に対応する熱安定性データはSOCの値ごとにあるため、SOC100%では危険と評価されても、SOCが70%であれば安全と評価される可能性がある。故に、蓄電池1に対応する熱安定性データのうち、安全と評価される熱安定性データのSOCの値をSOC上限値とすればよい。
【0142】
なお、使用条件の更新の必要がない場合、例えば、使用を継続する場合と、使用を停止する場合との2種類しかない場合は、使用条件算出部はなくともよい。一方、使用条件算出部により作成された使用条件に基づき充放電を行うのは、充放電制御部21でなくともよい。例えば、作成された使用条件を出力部28が外部の装置に出力され、外部の装置が蓄電池に対し使用条件を満たす充放電を行ってもよい。
【0143】
図13は、第2の実施形態の電池安全性評価装置2の概略処理のフローチャートの一例を示す図である。
図13では、
図2に示した概略処理のフローチャートのS105以降の処理が示されている。S105までの処理は同じなので省略する。なお、S105の処理と独立して本フローが行われてもよい。
【0144】
安全性評価が「停止」であった場合(S501の停止)は、充放電制御部21が充放電を停止する(S502)。安全性評価が「危険」であった場合(S501の危険)は、使用条件算出部が新たな使用条件を算出する(S503)。そして、充放電制御部21が新たな使用条件に基づき充放電を実施する(S504)。安全性評価が「安全」であった場合(S501の安全)は、充放電制御部21が現状の充放電を継続する(S505)。以上が、第2の実施形態の電池安全性評価装置2の概略処理のフローである。
【0145】
以上のように、第2の実施形態によれば、判定された安全性評価に基づき、蓄電池1に対する充放電を制御する。蓄電池1に現状に合った充放電に変えることにより、蓄電池1の安全性を確保しつつ、寿命を伸ばすことができる。
【0146】
(第3の実施形態)
これまでの実施形態では、熱安定性データ取得部272は、熱安定性データ記憶部271に記憶された熱安定性データから、蓄電池1に対応する熱安定性データを取得した。しかし、蓄電池1の状態は多岐に渡るため、熱安定性データを熱安定性データ記憶部271に全て蓄えるとなると、熱安定性データ記憶部271の容量が肥大化する。また、当該蓄電池1に対応する熱安定性データが熱安定性データ記憶部271に無い場合もあり得る。故に、第3の実施形態では、外部からの熱安定性データの取得及び更新を行う。これにより、熱安定性データ記憶部271に記憶される熱安定性データの量を減らすことができ、電池安全性評価部27の小型化、及び電池安全性評価部27の製造に係るコストの削減が実現できる。また、対応する蓄電池1の種類を増やすことができる。
【0147】
図14は、第3の実施形態に係る蓄電システムの概略構成の一例を示すブロック図である。第3の実施形態では、熱安定性データ取得部272が外部と接続されている点がこれまでの実施形態とは異なる。これまでの実施形態と同様の点は、説明を省略する。
【0148】
熱安定性データ取得部272は、熱安定性データを提供する装置等と、有線若しくは無線通信、又は電気信号にて接続され、データの授受が可能とする。熱安定性データを提供する装置等は、特に限られるものではなく、熱安定性データが蓄えられている外部データベース3でもよいし、熱安定性データを生成し提供する熱安定性データ提供サーバ4でもよい。以降、熱安定性データを提供する装置等を、熱安定性データ提供装置と記載する。熱安定性データ取得部272は、通信ネットワーク5を介して、熱安定性データ提供装置と接続されてもよい。あるいは、デバイスインタフェースにより、外部データベース3と直接又は間接的に接続されていてもよい。
【0149】
熱安定性データ取得部272による熱安定性データの取得が行われるタイミングは、蓄電池1に対応する熱安定性データがない場合に行われることを想定するが、特に限られるものではない。例えば、熱安定性データ提供装置が新たな熱安定性データを生成した場合に行われてもよいし、定期的に行われてもよい。必要な熱安定性データが熱安定性データ記憶部271にない場合は、蓄電池1の規格、電池特性、内部状態パラメータなどに基づき、これらに対応する熱安定性データが取得される。なお、条件等を指定せずに、熱安定性データ提供装置から熱安定性データを取得してもよい。また、取得した熱安定性データのうち、不要とされる熱安定性データは、熱安定性データ記憶部271に記憶されなくともよい。
【0150】
なお、熱安定性データ記憶部271は、内部に記憶されている熱安定性データを削除してもよい。例えば、容量節約のために、使用回数の少ない熱安定性データ、使用期限が切れた熱安定性データなど所定の削除条件を満たす熱安定性データは、熱安定性データ記憶部271に記憶されていなくともよい。
【0151】
図15は、熱安定性データ取得処理のフローチャートの一例を示す図である。このフローチャートは、電池安全性評価処理の前に熱安定性データの取得が行われる場合のフローを示す。
【0152】
熱安定性データ取得部272が、電池特性推定部25又は内部抵抗補正部26から蓄電池1の電池特性等の推定値を取得する(S601)。熱安定性データ取得部272は、取得された推定値に基づき、蓄電池1に対応する熱安定性データが熱安定性データ記憶部271に記憶されているかを確認する(S602)。
【0153】
蓄電池1に対応する熱安定性データが熱安定性データ記憶部271に記憶されている場合は(S603のYES)は、フローは終了する。蓄電池1に対応する熱安定性データが熱安定性データ記憶部271に記憶されていない場合(S603のNO)は、熱安定性データ取得部272が熱安定性データ提供装置へ問い合わせを行う(S604)。当該問い合わせには、取得された推定値が含まれているとする。
【0154】
熱安定性データ提供装置は、受信した電池特性等の推定値に基づき、蓄電池1に対応するとされる熱安定性データを送信する(S605)。そして、熱安定性データ取得部272が、送られてきた熱安定性データを取得し、電池安全性評価処理に移る(S606)。電池安全性評価処理は、上述の通りである。以上が、熱安定性データ取得処理のフローである。
【0155】
以上のように、第3の実施形態によれば、電池安全性評価処理に必要な熱安定性データが熱安定性データ記憶部271に記憶されていなくとも、蓄電池1の電池特性等に基づき、必要な熱安定性データを取得することができる。これにより、熱安定性データ記憶部271に記憶しておく熱安定性データの量を減らすことができ、電池安全性評価部27の小型化、又は電池安全性評価部27の製造に係るコストの削減が実現できる。また、対応する蓄電池1の種類を増やすことができる。
【0156】
また、上記に説明した実施形態における各処理は、専用の回路により実現してもよいし、ソフトウェア(プログラム)を用いて実現してもよい。ソフトウェア(プログラム)を用いる場合は、上記に説明した実施形態は、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウェアとして用い、コンピュータ装置に搭載された中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)等のプロセッサにプログラムを実行させることにより、実現することが可能である。
【0157】
図16は、本発明の一実施形態におけるハードウェア構成の一例を示すブロック図である。電池安全性評価装置2は、プロセッサ61、主記憶装置62、補助記憶装置63、ネットワークインタフェース64、デバイスインタフェース65を備え、これらがバス66を介して接続されたコンピュータ装置6として実現できる。
【0158】
プロセッサ61が、補助記憶装置63からプログラムを読み出して、主記憶装置62に展開して、実行することで、充放電制御部21、計測部22、SOC推定部23、電池特性推定部25、内部抵抗補正部26、電池安全性評価部27の機能を実現することができる。
【0159】
プロセッサ61は、コンピュータの制御装置及び演算装置を含む電子回路である。プロセッサ61は、例えば、汎用目的プロセッサ、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、状態マシン、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理回路(PLD)、及びこれらの組合せを用いることができる。
【0160】
本実施形態における電池安全性評価装置2は、各装置で実行されるプログラムをコンピュータ装置6に予めインストールすることで実現してもよいし、プログラムをCD−ROMなどの記憶媒体に記憶して、又はネットワークを介して配布して、コンピュータ装置6に適宜インストールすることで実現してもよい。
【0161】
主記憶装置62は、プロセッサ61が実行する命令、及び各種データ等を一時的に記憶するメモリ装置であり、DRAM等の揮発性メモリでも、MRAM等の不揮発性メモリでもよい。補助記憶装置63は、プログラムやデータ等を永続的に記憶する記憶装置であり、例えば、フラッシュメモリ等がある。
【0162】
ネットワークインタフェース64は、無線又は有線により、通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。熱安定性データ取得部272が熱安定性データ提供装置と通信を行う場合は、熱安定性データ取得部272の通信処理の機能は、ネットワークインタフェース64により実現することができる。ここではネットワークインタフェース64を一つのみ示しているが、複数のネットワークインタフェース64が搭載されていてもよい。
【0163】
デバイスインタフェース65は、出力結果などを記録する外部記憶媒体7と接続するUSBなどのインタフェースである。熱安定性データ提供装置が外部記憶媒体7の場合は、熱安定性データ取得部272と外部記憶媒体7とのデータ授受の機能は、デバイスインタフェース65により実現することができる。外部記憶媒体7は、HDD、CD−R、CD−RW、DVD−RAM、DVD−R、SAN(Storage area network)等の任意の記録媒体でよい。また、デバイスインタフェース65を介して、蓄電池1と接続されていてもよい。
【0164】
コンピュータ装置6は、プロセッサ61などを実装している半導体集積回路などの専用のハードウェアにて構成されてもよい。専用のハードウェアは、RAM、ROMなどの記憶装置との組み合わせで構成されてもよい。コンピュータ装置6は蓄電池1の内部に組み込まれていてもよい。
【0165】
上記に、本発明の一実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。