【文献】
RATHJE, Jacob et al.,Continuous anneal method for characterizing the thermal stability of ultraviolet Bragg gratings,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2000年 7月15日,Vol. 88, No. 2,pp. 1050 - 1055
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
緩和エネルギーEdが予め定められた値Ed1,Ed2,…,Edn(nは2以上の自然数)になるまで熱エージングしたファイバブラッググレーティングの温度係数γ1,γ2,…,γnから、対応関係γ(Ed)を導出する工程を更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項1に記載の加熱条件の設定方法。
上記ファイバブラッググレーティングの規格化結合定数NCCと上記ファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdとの間の対応関係NCC(Ed)に基づき、規格化結合定数NCCが所望の上限値NCCmax以下となる、緩和エネルギーEdの下限値Edmin’を特定する工程を更に含んでおり、
上記加熱条件を設定する工程は、上記下限値Edmin及び上記下限値Edmin’のうち大きい方をEdmaxとして、上記緩和エネルギーEdがEdmax以上になるように、上記ファイバブラッググレーティングを熱エージングする際の加熱条件を設定する工程である、
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の加熱条件の設定方法。
励起光源と、増幅用ファイバと、上記増幅用ファイバを共振器として機能させる2つのファイバブラッググレーティングであって、それぞれの反射率が互いに異なる2つのファイバブラッググレーティングと、を含むファイバレーザユニットを少なくとも1台備えているファイバレーザシステムの製造方法であって、
請求項5に記載のファイバブラッググレーティングの製造方法を用いて上記2つのファイバブラッググレーティングの各々を製造する工程を含んでいる、
ことを特徴とするファイバレーザシステムの製造方法。
上記ファイバレーザユニットは、増幅用ファイバにより生成されたレーザ光の波長に対応する波長を有する誘導ラマン散乱光を上記レーザ光よりも優先的に損失させるスラントファイバブラッググレーティングを更に含み、
上記ファイバブラッググレーティングの製造方法を用いて上記スラントファイバブラッググレーティングを製造する工程を更に含んでいる、
ことを特徴とする請求項6に記載のファイバレーザシステムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔本発明の原理〕
ファイバブラッググレーティングの長期信頼性を示す指標のひとつに温度係数γ[℃/W]がある。温度係数γは、ファイバブラッググレーティングの温度τ[℃]を、ファイバブラッググレーティングを導波する光のパワーP[W]の関数τ(P)と見做したときの傾きdτ/dPとして定義される量である。温度係数γが大きいファイバブラッググレーティングは、実使用時に高温になり易く、長期信頼性が低い。一方、温度係数γが小さいファイバブラッググレーティングは、実使用時に高温になり難く、長期信頼性が高い。
【0013】
熱エージング後のファイバブラッググレーティングにおいては、温度係数γ[℃/W]と緩和エネルギーEd[eV]との間に、特定の関数によって表される対応関係γ(Ed)が存在することを、本願発明者は見出した。より具体的に言うと、熱エージング後のファイバブラッググレーティングにおいては、温度係数γ[℃/W]と緩和エネルギーEd[eV]との間に、少なくとも一部の領域において下記(1)式に示す一次関数によって表される線形な対応関係γ(Ed)が存在することを、本願発明者は見出した。ここで、αは、負の定数であり、βは、正の定数である定数α,βは、ファイバブラッググレーティングの構造に応じて決まる。
【数1】
【0014】
熱エージング後のファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdは、下記(2)式により与えられる。下記(2)式において、k[eV/K]はボルツマン定数であり、eは電気素量であり、ν0は離脱速度であり、Tは加熱温度[K]であり、tは加熱時間[秒]である。以下、加熱温度T及び加熱時間tのことを、まとめて加熱条件(T,t)と記載する。
【数2】
【0015】
ボルツマン定数k及び電気素量eは、普遍的な定数であり、離脱速度ν0は、ファイバブラッググレーティングの構造に応じて決まる定数である。したがって、熱エージングの加熱条件(T,t)が定まれば、上記(2)式により、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdが定まる。そして、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdが定まれば、上記(1)式により、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの温度係数γを求めることができる。逆に、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの温度係数γが定まれば、上記(1)式により、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdが定まる。そして、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdが定まれば、上記(2)式により、熱エージングの加熱条件(T,t)を求めることができる。
【0016】
以上の関係を利用すれば、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの温度係数γが所望の上限値γmax以下となるように、熱エージングの加熱条件(T,t)を設定することができる。以下、このことを、より具体的な実施形態を通じて説明する。
【0017】
なお、本実施形態において、ファイバブラッググレーティングとは、コアにグレーティングが書き込まれた光ファイバのことを指す。
図6は、典型的なファイバブラッググレーティング1を示す斜視図である。
図6において、符号1は、ファイバブラッググレーティングを示し、符号11は、コアを示し、符号12は、クラッドを示す。符号11aは、コア11に書き込まれたグレーティングを示す。
【0018】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る加熱条件設定方法S1について、
図1を参照して説明する。
図1は、加熱条件設定方法S1の流れを示すフローチャートである。加熱条件設定方法S1は、ファイバブラッググレーティングの熱エージングの加熱条件を設定する方法であり、以下に説明する工程S10〜S12を含む。なお、本実施形態においては、離脱速度ν0は既知であるものと仮定する。離脱速度ν0が未知である場合には、第2の実施形態として後述するように、加熱条件設定方法S2に含まれる工程S20を実施することによって、離脱速度ν0を定めてから、以下に説明する工程S21、工程S10〜S11、及び工程S22を実施すればよい。
【0019】
工程S10は、温度係数γと緩和エネルギーEdとの間の対応関係γ(Ed)を導出する工程である。上述したように、対応関係γ(Ed)は、上記(1)式によって示すことができる。したがって、本工程においては、上記(1)式に含まれる定数α,βを導出することによって、対応関係γ(Ed)を導出する。
【0020】
工程S10における定数α,βの導出は、例えば以下のようにして実施することができる。(A)まず、n個(nは2以上の自然数)のファイバブラッググレーティング、すなわち、FBG1,FBG2,…,FBGnを用意する。ここで、FBG1,FBG2,…,FBGnは、反射率が同じファイバブラッググレーティングである。(B)次に、各FBGiを緩和エネルギーEdが予め定められた値Ediになるまで熱エージングする(i=1〜n)。ここで、Ed1〜Ednは、互いに異なる値であるとする。(C)次に、熱エージング後の各FBGiの温度係数γの値γiを実測する(i=1〜n)。(D)最後に、対応関係γ(Ed)を表す特定の関数が(Ed1,γ1),(Ed2,γ2),…,(Edn,γn)の組を、特定の精度で近似するように、又は、最も良く近似するように、その関数に含まれる定数の値を設定する。具体的には、対応関係γ(Ed)を表す上記(1)式に示す一次関数が(Ed1,γ1),(Ed2,γ2),…,(Edn,γn)の組を、特定の精度で近似するように、又は、最も良く近似するように、上記(1)式に含まれる定数α,βを設定する。定数α,βの設定は、例えば、定数α,βの値を少しずつ変えながら、上記(1)式に示す一次関数のグラフがEd−γ平面上の点(Ed1,γ1),(Ed2,γ2),…,(Edn,γn)の組を特定の精度で近似する、又は、最も良く近似する定数α,βの値を探すことによって実現することができる。或いは、最小二乗法によって実現することができる。
【0021】
工程S11は、上記(1)式に示す温度係数γと緩和エネルギーEdとの間の対応関係γ(Ed)に基づき、温度係数γが所望の上限値γmax以下となる、緩和エネルギーEdの下限値Edminを特定する工程である。本工程における下限値Edminの特定は、例えば以下のようにして実施することができる。すなわち、所望の上限値γmaxを上記(1)式に代入することにより得られる方程式をEdについて解き、その解を下限値Edminとする。なお、本明細書において、「所望の上限値γmax」とは、例えば、加熱条件設定方法S1の使用者が任意に定めた上限値γmaxのことを指す。
【0022】
工程S12は、上記(2)式に示す緩和エネルギーEdと加熱温度T及び加熱時間tとの関係に基づき、緩和エネルギーEdが工程S11にて特定された下限値Edmin以上となるように、加熱条件(T,t)を設定する工程である。本工程における加熱条件(T,t)の設定は、例えば以下のようにして実施することができる。すなわち、加熱温度Tの値を任意に定め、工程S11にて特定された下限値Edminを上記(2)式に代入することにより得られる方程式をtについて解き、その解を加熱時間tとする。或いは、加熱時間tの値を任意に定め、工程S11にて特定された下限値Edminを上記(2)式に代入することにより得られる方程式をTについて解き、その解を加熱温度Tとする。
【0023】
以上のように、加熱条件設定方法S1によれば、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの温度係数γが所望の上限値γmax以下となるように、すなわち、緩和エネルギーEdが下限値Edmin以上になるように、熱エージングの加熱条件(T,t)を設定することができる。また、加熱条件設定方法S1に従って加熱条件(T,t)を設定する設定工程と、設定された加熱条件(T,t)に従ってファイバブラッググレーティングを熱エージングする熱エージング工程とを含むファイバブラッググレーティングの製造方法によれば、実使用時に生じ得る温度上昇が抑制されたファイバブラッググレーティングを製造することができる。
【0024】
なお、上記の工程S10は、温度係数γと緩和エネルギーEdとの間の対応関係γ(Ed)が未知の場合に実施する必要が生じる工程である。したがって、温度係数γと緩和エネルギーEdとの間の対応関係γ(Ed)が既知の場合には、上記の工程S10を省略することができる。
【0025】
(適用例)
加熱条件設定方法S1の適用例について、表1及び
図2を参照して説明する。
【0026】
表1は、反射率99.3%の高反射ファイバブラッググレーティング及び反射率10%の低反射ファイバブラッググレーティングについて、加熱温度T、加熱時間t、緩和エネルギーEd、温度係数γを一覧した表である。表1の第1列及び第2列に示す加熱温度T及び加熱時間tは、表1の第3列に示す緩和エネルギーEdを有するファイバブラッググレーティングを得るために、上記の工程S10の(B)にて実施するエージングの加熱条件を表す。表1の第4列に示す温度係数γは、表1の第3列に示す緩和エネルギーEdを有するファイバブラッググレーティングの温度係数γであり、上記の工程S10の(C)にて実測された値である。なお、表1においては、加熱温度Tの単位を「℃」とし、加熱時間tの単位を「分」としている。
【表1】
【0027】
図2の(a)は、反射率99.3%の高反射ファイバブラッググレーティングについて、表1に示した緩和エネルギーEd及び温度係数γの値をEd−γ平面にプロットしたグラフである。
図2の(a)には、これらのプロットを最も良く近似する一次関数γ(Ed)として、上記の工程S10の(D)にて導出された一次関数γ(Ed)のグラフを併せて示している。例えば、温度係数γの上限値γmaxが0.2℃/Wである場合、工程S11にて特定される緩和エネルギーEdの下限値Edminは、2.06eVとなる、ことが
図2の(a)から見て取れる。
【0028】
図2の(b)は、反射率10%の低反射ファイバブラッググレーティングについて、表1に示した緩和エネルギーEd及び温度係数γの値をEd−γ平面にプロットしたグラフである。
図2の(b)には、これらのプロットを最も良く近似する一次関数γ(Ed)として、上記の工程S10にて導出された一次関数γ(Ed)のグラフを併せて示している。例えば、温度係数γの上限値γmaxが0.1℃/Wである場合、工程S11にて特定される緩和エネルギーEdの下限値Edminは、1.86eVとなる、ことが
図2の(b)から見て取れる。
【0029】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る加熱条件設定方法S2について、
図3を参照して説明する。
図3は、加熱条件設定方法S2の流れを示すフローチャートである。加熱条件設定方法S2は、加熱条件設定方法S1において、工程S12を省略すると共に、工程S10の前に工程S20〜S21を追加し、工程S11の後に工程S22を追加したものである。したがって、加熱条件設定方法S2においては、工程S20、工程S21、工程S10、工程S11、工程S22がこの順に実施される。
【0030】
工程S20は、規格化結合定数NCC(Normalized Integrated Coupling Constant)と緩和エネルギーEdとの間の対応関係NCC(Ed)を導出する工程である。ここで、規格化結合定数NCC(Ed)とは、加熱前(時刻t=0)におけるICCを基準に規格化したものである。非特許文献1によると、対応関係NCC(Ed)は、下記(3)式によって表すことができる。したがって、本工程においては、下記(3)式に含まれる定数a,b,c,ν0を導出する。なお、ν0は、(2)式によりEdのなかに含まれている。
【数3】
【0031】
工程S20における定数a,b,c,ν0の導出は、例えば以下のようにして実施することができる。(A)まず、n個(nは2以上の自然数)のファイバブラッググレーティング、すなわち、FBG1,FBG2,…,FBGnを用意する。ここで、FBG1,FBG2,…,FBGnは、反射率が同じファイバブラッググレーティングである。(B)次に、各FBGiを温度Tiで熱エージングする(i=1〜n)。この際、各時刻tにおける最小透過係数Tminの値Tminiを実測する。ここで、最小透過係数Tminは、透過係数Tを波長λの関数T(λ)と見做したときの最小値のことを指す。(C)次に、各FBGiの各時刻tにおける結合定数ICC(Integrated Coupling Constant)の値ICCi(t)を算出する(i=1〜n)。なお、最小透過係数Tminと結合定数ICCとの間には、下記(4)式に示す関係がある。ICCi(t)の算出には、この関係を利用する。(D)次に、各FBGiの各時刻tにおける規格化結合定数NCCの値NCCi(t)を算出する。なお、結合定数ICCと規格化結合定数NCCとの間には、下記(5)式に示す関係がある。NCCi(t)の算出には、この関係を利用する。(E)次に、各FBGiの各時刻tにおける緩和エネルギーEdi(t)を算出する。Edi(t)の算出には、上記(2)式を利用する。(F)最後に、対応関係NCC(Ed)を表す特定の関数が(Ed1(t),NCC1(t)),(Ed2(t),NCC2(t)),…,(Edn(t),NCCn(t))の組を、特定の精度で近似するように、又は、最も良く近似するように、その関数に含まれる定数の値を設定する。具体的には、対応関係NCC(Ed)を表す上記(3)式に示す関数が(Ed1(t),NCC1(t)),(Ed2(t),NCC2(t)),…,(Edn(t),NCCn(t))の組を、特定の精度で近似するように、又は、最も良く近似するように、上記(3)式に含まれる定数a,b,c、ν0を設定する。なお、定数a,b,c,ν0の設定は、例えば、定数a,b,c,ν0の値を少しずつ変えながら、上記(3)式に示す関数のグラフがEd−NCC平面上の点(Ed1(t),NCC1(t)),点(Ed2(t),NCC2(t)),…,点(Edn(t),NCCn(t))の組を、特定の精度で近似する、又は、最も良く近似する定数a,b,c,ν0の値を探すことによって実現することができる。或いは、最小二乗法により実現することができる。
【数4】
【数5】
【0032】
工程S21は、上記(3)式に示す規格化結合定数NCCと緩和エネルギーEdとの間の対応関係NCC(Ed)に基づき、規格化結合定数NCCが所望の上限値NCCmax以下となる、緩和エネルギーEdの下限値Edmin’を特定する工程である。本工程における下限値Edmin’の特定は、例えば以下のようにして実施することができる。すなわち、所望の上限値NCCmaxを上記(3)式に代入することにより得られる方程式をEdについて解き、その解を下限値Edmin’とする。なお、本明細書において、「所望の上限値NCCmax」とは、例えば、加熱条件設定方法S2の使用者が任意に定めた上限値NCCmaxのことを指す。
【0033】
工程S22は、工程S11にて特定された下限値Edmin及び工程S21にて特定された下限値Edmin’のうち大きい方をEdmaxとして、上記(2)式に示す緩和エネルギーEdと加熱温度T及び加熱時間tとの関係に基づき、緩和エネルギーEdがEdmax以上になるように、加熱条件(T,t)を設定する工程である。本工程における加熱条件(T,t)の設定は、例えば以下のようにして実施することができる。すなわち、加熱温度Tの値を任意に定め、Edmaxを上記(2)式に代入することにより得られる方程式をtについて解き、その解を加熱時間tとする。或いは、加熱時間tの値を任意に定め、Edmaxを上記(2)式に代入することにより得られる方程式をTについて解き、その解を加熱温度Tとする。
【0034】
以上のように、加熱条件設定方法S2によれば、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの温度係数γが所望の上限値γmax以下となると共に、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの規格化結合定数NCCが所望の上限値NCCmax以下となるように、熱エージングの加熱条件(T,t)を設定することができる。また、加熱条件設定方法S2に従って加熱条件(T,t)を設定する設定工程と、設定された加熱条件(T,t)に従ってファイバブラッググレーティングを熱エージングする熱エージング工程とを含むファイバブラッググレーティングの製造方法によれば、実使用時に生じ得る温度上昇が抑制されると共に、出荷後に生じ得る反射特性の変化が抑制されたファイバブラッググレーティングを製造することができる。
【0035】
なお、上記の工程S10は、温度係数γと緩和エネルギーEdとの間の対応関係γ(Ed)が未知の場合に実施する必要が生じる工程である。したがって、この対応関係γ(Ed)が既知の場合には、上記の工程S10を省略することができる。同様に、上記の工程S20は、規格化結合定数NCCと緩和エネルギーEdとの間の対応関係NCC(Ed)が未知の場合に実施する必要が生じる工程である。したがって、この対応関係NCC(Ed)が既知の場合には、上記の工程S20を省略することが可能である。
【0036】
また、ν0(緩和定数)の値が未知である場合、工程S10にて利用するν0の値は、工程S20にて導出されたν0の値を利用する。したがって、この場合、
図3に示すように、工程S20を工程S10に先行して実施する。工程S21は、工程S20にてa,b,cの値が決定されていれば何時でも実施することができるので、工程S10の前に実施してもよいし、工程S10の後かつ工程S11の前に実施してもよいし、工程S11の後に実施してもよい。ν0(緩和定数)の値が既知である場合には、上記の工程S10〜S11を実施した後に上記の工程S20〜21を実施してもよい。
【0037】
(適用例)
加熱条件設定方法S2の適用例について、
図4、
図5、及び表2を参照して説明する。本適用例は、上記の工程20において、FBG1、FBG2、及びFBG3を、それぞれ、T1=250℃、T2=300℃、及びT3=350℃で熱エージングした場合の適用例である。
【0038】
図4の(a)は、上記の工程S20の(C)にて得られる時系列ICC1(t)、ICC2(t)、及びICC3(t)をt−NCC平面にプロットしたグラフである。
図4の(b)は、上記の工程S20の(D)にて得られる時系列NCC1(t)、NCC2(t)、及びNCC3(t)をt−ICC平面にプロットしたグラフである。
【0039】
図5は、上記の工程S20の(F)にて参照される時系列(Ed1(t),NCC1(t))、(Ed2(t),NCC2(t))、及び(Ed3(t),NCC3(t))をEd−NCC平面にプロットしたグラフである。
図5には、これらのプロットを最も良く近似する関係NCC(Ed)として、上記の工程S20の(F)にて導出された関係NCC(Ed)のグラフを併せて示している。この関係NCC(Ed)は、上記(3)式により定義された関係NCC(Ed)において、定数a,b,c,ν0を表2に示すように設定したものである。例えば、規格化結合定数NCCの上限値NCCmaxが0.8dBである場合、工程S21にて特定される緩和エネルギーEdの下限値Edmin’は、1.85eVとなる、ことが
図5から見て取れる。
【表2】
【0040】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係るファイバレーザシステムの製造方法S3について、
図7〜
図9を参照して説明する。
図7は、製造方法S3の流れを示すフローチャートである。
図8は、製造方法S3の適用対象となり得るファイバレーザシステムの第1の典型例であるファイバレーザシステムFLSの構成を示す構成図である。
図9は、製造方法S3の適用対象となり得るファイバレーザシステムの第2の典型例であるファイバレーザシステムFLSの構成を示す構成図である。
【0041】
本実施形態では、第1の典型例のファイバレーザシステムFLSについて説明したうえで、ファイバレーザシステムFLSを製造する製造方法S3について説明する。また、ファイバレーザシステムFLSについて説明したうえで、ファイバレーザシステムFLSを製造する製造方法S3について説明する。
【0042】
(第1の典型例のファイバレーザシステムFLS)
第1の典型例のファイバレーザシステムFLSは、加工対象物であるワークWを加工するためのレーザ装置であり、
図8に示すように、n個のファイバレーザユニットFLU1〜FLUn、n個のレーザデリバリファイバLDF1〜LDFn、出力コンバイナOC、出力デリバリファイバODF、及び出力ヘッドOHを備えている。ファイバレーザユニットFLU1〜FLUnとレーザデリバリファイバLDF1〜LDFnとは、互いに一対一に対応する。ここで、nは、1以上の任意の自然数であり、ファイバレーザユニットFLU1〜FLUn及びレーザデリバリファイバLDF1〜LDFnの個数を表す。なお、
図5においては、n=7の場合のファイバレーザシステムFLSの構成例を示している。また、出力コンバイナOCは、n個の入力ポートと1つの出力ポートを備えている。出力コンバイナOCは、各入力ポートに入力されたn個のレーザ光を1つのレーザ光に合波し、合波したレーザ光を出力ポートから出力する。
【0043】
ファイバレーザユニットFLUi(iは1以上n以下の自然数)は、レーザ光を生成する。本実施形態においては、前方励起型のファイバレーザをファイバレーザユニットFLU1〜FLUnとして用いている。ファイバレーザユニットFLUiは、対応するレーザデリバリファイバLDFiの入力端に接続されている。接続点Pibは、ファイバレーザユニットFLUiの出力端(すなわち増幅用ファイバAFiの出力端)と、レーザデリバリファイバLDFiの入力端とを融着により接続した点である。ファイバレーザユニットFLUiにて生成されたレーザ光は、このレーザデリバリファイバLDFiに入力される。
【0044】
レーザデリバリファイバLDFiは、対応するファイバレーザユニットFLUiにて生成されたレーザ光を導波する。レーザデリバリファイバLDF1〜LDFnは、シングルモードファイバであってもよいし、モード数が10以下のフューモードファイバであってもよい。
【0045】
本実施形態においては、フューモードファイバをレーザデリバリファイバLDF1〜LDFnとして用いている。レーザデリバリファイバLDFiの出力端は、出力コンバイナOCの入力ポートに接続されている。ファイバレーザユニットFLUiにて生成され、レーザデリバリファイバLDFiを導波されたレーザ光は、この入力ポートを介して出力コンバイナOCに入力される。
【0046】
出力コンバイナOCは、ファイバレーザユニットFLU1〜FLUnの各々にて生成され、レーザデリバリファイバLDF1〜LDFnの各々を導波されたレーザ光を合波する。出力コンバイナOCの出力ポートは、出力デリバリファイバODFの入力端に接続されている。出力コンバイナOCにて合波されたレーザ光は、この出力デリバリファイバODFに入力される。すなわち、出力デリバリファイバODFの入射面は、出力コンバイナOCを介して複数のファイバレーザユニットFLUiに結合されている。
【0047】
出力デリバリファイバODFは、出力コンバイナOCにて合波されたレーザ光を導波する。本実施形態においては、マルチモードファイバを出力デリバリファイバODFとして用いている。出力デリバリファイバODFの出力端は、出力ヘッドOHに接続されている。また、出力ヘッドOHとワークWとの間には、出力ヘッドOHから出射されたレーザ光をワークWの表面において集束するための空間光学系(例えば凸レンズ、
図5には不図示)が設けられている。出力コンバイナOCにて合波されたレーザ光は、この出力ヘッドOHから出射され、上記空間光学系により集束された状態でワークWに照射される。
【0048】
なお、本実施形態では、請求の範囲に記載の合波部の一例として出力コンバイナOCを採用している。しかし、本発明の一態様では、請求の範囲に記載の合波部の一例として、複数の凸レンズを含む空間光学系を採用することもできる。この空間光学系がn個の凸レンズにより構成されている場合、各凸レンズは、各ファイバレーザユニットFLUiのレーザデリバリファイバLDFiから出射されたレーザ光を集束させ、且つ、集束された各レーザ光を出力デリバリファイバODFのコアに結合するように配置されていればよい。
【0049】
(ファイバレーザユニットの構成)
ファイバレーザシステムFLSが備えるファイバレーザユニットFLU1の構成について、引き続き
図8を参照して説明する。なお、ファイバレーザユニットFLU2〜FLUnも、ファイバレーザユニットFLU1と同様に構成されている。
【0050】
ファイバレーザユニットFLU1は、前方向励起型のファイバレーザであり、
図8に示すように、m個の励起光源PS1〜PSm、m個の励起デリバリファイバPDF1〜PDFm、励起コンバイナPC、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR、増幅用ファイバAF、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR、スラントファイバブラッググレーティングSFBGを備えている。すなわち、ファイバレーザユニットFLU1は、共振器型のファイバレーザユニットである。励起光源PS1〜PSmと励起デリバリファイバPDF1〜PDFmとは、互いに一対一に対応する。ここで、mは、2以上の任意の自然数であり、励起光源PS1〜PSm及び励起デリバリファイバPDF1〜PDFmの個数を表す。なお、
図8においては、m=6の場合のファイバレーザユニットFLU1の構成例を示している。なお、本実施形態において、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRは、増幅用ファイバAFの入力端近傍に形成されており、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRは、増幅用ファイバAFの出力端近傍に形成されており、スラントファイバブラッググレーティングSFBGは、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRと増幅用ファイバAFの出力端との間に形成されている。
【0051】
励起光源PSj(jは1以上m以下の自然数)は、励起光を生成する。本実施形態においては、レーザダイオードを励起光源PS1〜PSmとして用いている。励起光源PSjは、対応する励起デリバリファイバPDFjの入力端に接続されている。励起光源PSjにて生成された励起光は、この励起デリバリファイバPDFiに入力される。
【0052】
励起デリバリファイバPDFjは、対応する励起光源PSjにて生成された励起光を導波する。励起デリバリファイバPDFjの出力端は、励起コンバイナPCの入力ポートに接続されている。励起光源PSjにて生成され、励起デリバリファイバPDFjを導波された励起光は、この入力ポートを介して励起コンバイナPCに入力される。
【0053】
励起コンバイナPCは、励起光源PS1〜PSmの各々にて生成され、励起デリバリファイバPDF1〜PDFmの各々を導波された励起光を合波する。励起コンバイナPCの出力ポートは、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRを介して増幅用ファイバAFの入力端に接続されている。接続点Piaは、励起コンバイナPCの出力ポートと、増幅用ファイバAFの入力端を融着により接続した点である。励起コンバイナPCにて合波された励起光のうち、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRを透過した励起光は、増幅用ファイバAFに入力される。
【0054】
増幅用ファイバAFは、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRを透過した励起光を用いて、レーザ光を生成する。本実施形態においては、コアに希土類元素(例えばYb)が添加されたダブルクラッドファイバ(ラマンゲイン係数=1×10
−13[1/W])を増幅用ファイバAFとして用いている。高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRを透過した励起光は、この希土類元素を反転分布状態に維持するために用いられる。増幅用ファイバAFの出力端は、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRを介してレーザデリバリファイバLDF1の入力端に接続されている。高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRは、ある波長λ(例えば、1060nm)においてミラーとして機能し(反射率が例えば99%となり)、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRは、その波長λにおいてハーフミラーとして機能する(反射率が例えば10%となる)。このため、増幅用ファイバAFは、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRと共に、波長λのレーザ光を発振する共振器を構成する。増幅用ファイバAFにて生成されたレーザ光のうち、この低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRを透過したレーザ光は、レーザデリバリファイバLDF1に入力される。
【0055】
スラントファイバブラッググレーティングSFBGは、増幅用ファイバAFにより生成されたレーザ光の波長に対応する波長を有する誘導ラマン散乱光を含む波長帯域に属する光を、該波長帯域に属さない光よりも優先的にクラッドに結合させる。その結果として、スラントファイバブラッググレーティングSFBGは、誘導ラマン散乱光をレーザ光よりも優先的に損失させるように構成されている。
【0056】
このため、増幅用ファイバAFにより生成されたレーザ光に起因する誘導ラマン散乱光は、スラントファイバブラッググレーティングSFBGを通過する過程でクラッドに遷移する。このように、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRにより構成された共振器の後段にスラントファイバブラッググレーティングSFBGが形成されていることによって、この共振器において発生した誘導ラマン散乱光を除去することができる。
【0057】
なお、スラントファイバブラッググレーティングSFBGと、増幅用ファイバAFの出力端との間には、クラッドに遷移した光を外部に漏出させるクラッドモードストリッパ(
図8には不図示)が設けられていることが好ましい。この構成によれば、クラッドに遷移した誘導ラマン散乱光を、クラッドに留めず、すばやく外部に漏出させることができる。
【0058】
以上のように構成されたスラントファイバブラッググレーティングSFBG及びクラッドモードストリッパは、誘導ラマン散乱光に対するフィルタ素子として機能する。
【0059】
なお、本実施形態においては、前方励起型のファイバレーザをファイバレーザユニットFLU1〜FLUnとして用いているが、本発明は、これに限定されない。すなわち、本発明においては、後方励起型のファイバレーザをファイバレーザユニットFLU1〜FLUnとして用いることもできるし、双方向励起型のファイバレーザをファイバレーザユニットFLU1〜FLUnとして用いることもできる。
【0060】
(製造方法S3)
図7に示した製造方法S3は、
図8に示したファイバレーザシステムFLSを製造する製造方法であり、以下に説明する工程S31〜S33と、工程S32と工程S33との間に実施される加熱条件設定方法S1とを含む。なお、製造方法S3に含まれる加熱条件設定方法S1は、
図1に示した加熱条件設定方法S1と同じであるため、本実施形態では、その説明を省略する。
【0061】
工程S31は、増幅用ファイバAFの両端部近傍の各々に、それぞれ高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRを形成する工程である。
【0062】
工程S32は、増幅用ファイバAFの一方の端部近傍に、スラントファイバブラッググレーティングSFBGを形成する工程である。より具体的には、増幅用ファイバAFの両端部のうち、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRを形成した側の端部を出力端として、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRと増幅用ファイバAFの出力端との間にスラントファイバブラッググレーティングSFBGを形成する工程である。
【0063】
工程S33は、加熱条件設定方法S1により設定された加熱条件(T,t)に従って、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR、及びスラントファイバブラッググレーティングSFBGを熱エージングする工程である。
【0064】
以上のように、製造方法S3は、加熱条件設定方法S1に従って加熱条件(T,t)を設定する設定工程と、設定された加熱条件(T,t)に従ってファイバブラッググレーティングを熱エージングする熱エージング工程とを含む。したがって、製造方法S3によれば、熱エージング後の高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR、及びスラントファイバブラッググレーティングSFBGの各々の温度係数γが、それぞれ、所望の上限値γmax以下となるように、すなわち、緩和エネルギーEdが下限値Edmin以上になるように、熱エージングの加熱条件(T,t)を設定することができる。また、製造方法S3によれば、実使用時に生じ得る温度上昇が抑制されたファイバレーザシステムFLSを製造することができる。
【0065】
なお、製造方法S3が含む加熱条件設定方法S1において、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRの各々に対して設定される加熱条件(T,t)は、それぞれ、熱エージング後のファイバブラッググレーティングの温度係数γが所望の上限値γmax以下となるように、すなわち、緩和エネルギーEdが下限値Edmin以上になるように、設定される。したがって、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRの各々に対して設定される加熱条件(T,t)は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。ただし、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR及びスラントファイバブラッググレーティングSFBGは、互いに近い位置に形成されているため、同じ加熱条件(T,t)にしたがって熱エージングされる。そのため、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR及びスラントファイバブラッググレーティングSFBGの両方について、上記の条件を満たすように、加熱条件(T,t)を設定することが好ましい。
【0066】
なお、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR及びスラントファイバブラッググレーティングSFBGの両方について、上記の条件を満たすような加熱条件(T,t)を設定することが難しい場合には、
図9を参照して後述するファイバブラッググレーティング1Cのように、増幅ファイバFAとは別個の光ファイバのコアにスラントファイバブラッググレーティングSFBGとして機能するグレーティングを書き込む構成を採用してもよい。
【0067】
また、本実施形態において、スラントファイバブラッググレーティングSFBG及びクラッドモードストリッパは、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRと増幅用ファイバAFの出力端との間に形成するものとして説明した。しかし、スラントファイバブラッググレーティングSFBG及びクラッドモードストリッパは、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRと増幅用ファイバAFの入力端との間に形成されていてもよいし、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRと増幅用ファイバAFの出力端との間、及び、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRと増幅用ファイバAFの入力端との間の両方に形成されていてもよい。
【0068】
また、増幅用ファイバAFには、紫外線の感受性を向上させることを目的としてホウ素が添加されている場合がある。加熱条件設定方法S1を含む製造方法S3は、ファイバレーザシステムFLSが採用する増幅用ファイバAFにホウ素が添加されているか否かに関わらず、好適に利用することができる。
【0069】
また、製造方法S3は、
図1に示した加熱条件設定方法S1の代わりに、
図3に示した加熱条件設定方法S2を含むように定められていてもよい。
【0070】
(第2の典型例のファイバレーザシステムFLS)
図9に示すように、第2の典型例のファイバレーザシステムFLSは、第1の典型例のファイバレーザシステムFLS(
図8参照)が備えているn個のファイバレーザユニットFLUiの代わりに、1個のファイバレーザユニットFLU1を備えている。第2の典型例のファイバレーザシステムFLSが備えるファイバレーザユニットFLU1は、第1の典型例のファイバレーザシステムFLSが備えているファイバレーザユニットFLU1と同様の構成を有する。ただし、ファイバレーザシステムFLSが備えるファイバレーザユニットFLU1は、ファイバレーザシステムFLSが備えているファイバレーザユニットFLU1と比較して、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR、及びスラントファイバブラッググレーティングSFBGの各々が増幅用ファイバAFに直接形成されているのではなく、それぞれ、増幅用ファイバAFとは別個の光ファイバに形成されている点が異なる。
【0071】
したがって、ファイバレーザシステムFLSは、
図9に示すように、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRとして機能するグレーティングが書き込まれた光ファイバであるファイバブラッググレーティング1Aと、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRとして機能するグレーティングが書き込まれた光ファイバであるファイバブラッググレーティング1Bと、スラントファイバブラッググレーティングSFBGとして機能するグレーティングが書き込まれた光ファイバであるファイバブラッググレーティング1Cと、を備えている。なお、ファイバブラッググレーティング1A,1Bは、
図6に示したファイバブラッググレーティング1と同様に構成されており、ファイバブラッググレーティング1Cは、コアに書き込まれたグレーティングが光ファイバの横断面に対して傾きを有している点を除いて、ファイバブラッググレーティング1と同様に構成されている。
【0072】
ファイバブラッググレーティング1Aの入射端は、接続点Paにおいて励起コンバイナPCの出力ポートに接続されており、ファイバブラッググレーティング1Aの出射端は、接続点Pbにおいて増幅用ファイバAFの入力端に接続されている。ファイバブラッググレーティング1Bの入射端は、接続点Pcにおいて増幅用ファイバの出力端に接続されており、ファイバブラッググレーティング1Bの出射端は、接続点Pdにおいてファイバブラッググレーティング1Cの入射端に接続されている。ファイバブラッググレーティング1Cの入射端は、接続点Pdにおいてファイバブラッググレーティング1Bの出力端に接続されており、ファイバブラッググレーティング1Cの出射端は、接続点Peにおいて出力デリバリファイバODFの入射端面に接続されている。なお、各接続点Pa,Pb,Pc,Pd,Peにおいて、各光ファイバ同士は、融着により接続されている。
【0073】
(製造方法S3の変形例)
図9に示したファイバレーザシステムFLSは、
図7に示した製造方法S3の一部を変形した変形例を用いて製造することができる。ここでは、変形例の製造方法S3において
図7に示した製造方法S3から変更した点についてのみ説明する。
【0074】
変形例の製造方法S3が含む工程S31は、増幅用ファイバAFの両端部近傍の代わりに、2つの光ファイバの各々に、それぞれ高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRを形成する工程である。なお、変形例の製造方法S3において、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRの各々を形成される光ファイバは、増幅用ファイバAFと異なり、イッテルビウムが添加されていない。
【0075】
変形例の製造方法S3が含む工程S32は、増幅用ファイバAFの一方の端部近傍の代わりに、1つの光ファイバにスラントファイバブラッググレーティングSFBGを形成する工程である。
【0076】
変形例の製造方法S3が含む工程S33は、
図7に示した製造方法S3が含む工程S33と同じ工程である。
【0077】
変形例の製造方法S3は、工程S33の後に実施される工程であって、(1)増幅用ファイバAFの一方の端部に高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRを形成した光ファイバを融着し、(2)増幅用ファイバAFの他方の端部に低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRを形成した光ファイバを融着し、(3)低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRの端部のうち増幅用ファイバAFと逆側の端部にスラントファイバブラッググレーティングSFBGを形成した光ファイバを融着する工程を更に含む。
【0078】
変形例の製造方法S3は、
図7に示した製造方法S3と同じ効果を奏する。また、変形例の製造方法S3によれば、実使用時に生じ得る温度上昇が抑制されたファイバレーザシステムFLSを製造することができる。
【0079】
図7に示した製造方法S3の説明及び変形例の製造方法S3の説明から明らかなように、加熱条件設定方法S1を含む製造方法S3は、イッテルビウムが添加されている光ファイバ(例えば増幅用ファイバAF)にファイバブラッググレーティングあるいはスラントファイバブラッググレーティングを形成する場合に適用することもできるし、イッテルビウムが添加されていない光ファイバにファイバブラッググレーティングあるいはスラントファイバブラッググレーティングを形成する場合に適用することができる。
【0080】
また、ファイバレーザシステムFLSあるいはファイバレーザシステムFLSを製造する場合に、(1)単一の光ファイバである増幅用ファイバAFに対して3つのファイバブラッググレーティング(高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR、及びスラントファイバブラッググレーティングSFBG)を形成するか(
図8参照)、(2)3つの別個の光ファイバの各々に対して、それぞれ、3つのファイバブラッググレーティングを形成するか(
図9参照)は、例えば3つのファイバブラッググレーティングの各々に対して設定される加熱条件(T,t)に応じて、適宜定めることができる。また、製造方法S3においては、3つのファイバブラッググレーティングのうち、高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR及び低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRの少なくとも何れか一方が増幅用ファイバに形成されており、それ以外のファイバブラッググレーティングが別個の光ファイバに形成されている構成も採用することができる。
【0081】
〔まとめ〕
本発明の一実施形態に係る加熱条件の設定方法(加熱条件設定方法S1,S2)は、ファイバブラッググレーティング(高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HR、低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LR、及びスラントファイバブラッググレーティングSFBG)を熱エージングする際の加熱条件の設定方法であって、上記ファイバブラッググレーティングの温度係数γと上記ファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdとの間の対応関係γ(Ed)に基づき、温度係数γが所望の上限値γmax以下となる、緩和エネルギーEdの下限値Edminを特定する工程(S11)と、緩和エネルギーEdが下限値Edmin以上になるように、上記ファイバブラッググレーティングを熱エージングする際の加熱条件(T,t)を設定する工程(S12,S22)と、を含んでいる、ことを特徴とする。
【0082】
また、本発明の一実施形態に係る加熱条件の設定方法(加熱条件設定方法S1,S2)は、緩和エネルギーEdが予め定められた値Ed1,Ed2,…,Edn(nは2以上の自然数)になるまで熱エージングしたファイバブラッググレーティングの温度係数γ1,γ2,…,γnから、対応関係γ(Ed)を導出する工程(S10)を更に含んでいる、ことが好ましい。
【0083】
また、本発明の一実施形態に係る加熱条件の設定方法において、対応関係γ(Ed)は、少なくとも一部の領域において線形な対応関係である、ことが好ましい。
【0084】
また、本発明の一実施形態に係る加熱条件の設定方法(加熱条件設定方法S2)は、上記ファイバブラッググレーティングの規格化結合定数NCCと上記ファイバブラッググレーティングの緩和エネルギーEdとの間の対応関係NCC(Ed)に基づき、規格化結合定数NCCが所望の上限値NCCmax以下となる、緩和エネルギーEdの下限値Edmin’を特定する工程(S21)を更に含んでおり、上記加熱条件を設定する工程(S22)は、上記下限値Edmin及び上記下限値Edmin’のうち大きい方をEdmaxとして、上記緩和エネルギーEdがEdmax以上になるように、上記ファイバブラッググレーティングを熱エージングする際の加熱条件を設定する工程である、ことが好ましい。
【0085】
また、本発明の一実施形態に係るファイバブラッググレーティング(1,1A,1B,1C、及び、両端部近傍に高反射ファイバブラッググレーティングFBG−HRと低反射ファイバブラッググレーティングFBG−LRとが形成された増幅用ファイバAF)の製造方法は、上記設定方法(加熱条件設定方法S1,S2)に従って、ファイバブラッググレーティングを熱エージングする際の加熱条件を設定する設定工程と、上記設定工程にて設定された加熱条件を満たすようにファイバブラッググレーティングを熱エージングする熱エージング工程(S33)と、を含んでいる、ことを特徴とする。
【0086】
また、本発明の一実施形態に係るファイバレーザシステム(FLS)の製造方法(S3)は、励起光源(PSj)と、増幅用ファイバ(AF)と、上記増幅用ファイバを共振器として機能させる2つのファイバブラッググレーティング(FBG−HR,FBG−LR)であって、それぞれの反射率が互いに異なる2つのファイバブラッググレーティング(FBG−HR,FBG−LR)と、を含むファイバレーザユニット(FLUi)を少なくとも1台備えているファイバレーザシステムの製造方法であって、本発明の一実施形態に係るファイバブラッググレーティングの製造方法を用いて上記2つのファイバブラッググレーティングの各々を製造する工程を含んでいることを特徴とする。
【0087】
また、本発明の一実施形態に係るファイバレーザシステムの製造方法(S3)において、上記ファイバレーザユニット(FLUi)は、増幅用ファイバ(AF)により生成されたレーザ光に対応する誘導ラマン散乱光を上記レーザ光よりも優先的に損失させるスラントファイバブラッググレーティング(SFBG)を更に含み、本発明の一実施形態に係るファイバブラッググレーティングの製造方法を用いて上記スラントファイバブラッググレーティングを製造する工程を更に含んでいる、ことが好ましい。
【0088】
〔付記事項〕
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。