特許第6792720号(P6792720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792720
(24)【登録日】2020年11月10日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】流体射出ダイの熱交換器
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20201116BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20201116BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   B41J2/175 503
   B41J2/14 603
   B41J2/14 605
   B41J2/01 307
   B41J2/14 201
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-541757(P2019-541757)
(86)(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公表番号】特表2020-506830(P2020-506830A)
(43)【公表日】2020年3月5日
(86)【国際出願番号】US2017026049
(87)【国際公開番号】WO2018186844
(87)【国際公開日】20181011
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チエン−フア
(72)【発明者】
【氏名】カンビー,マイケル,ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】プリジビラ,ジェイムス,アール
【審査官】 上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−254749(JP,A)
【文献】 特表2013−529566(JP,A)
【文献】 特開2008−302641(JP,A)
【文献】 特表2019−507020(JP,A)
【文献】 特開2009−149056(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0124019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形可能材料内に埋設された流体射出ダイと、
該流体射出ダイの発射チャンバ内の流体を再循環させるための該流体射出ダイ内の流体再循環ポンプと、
前記成形可能材料内に形成された冷却チャネルと、
前記成形可能材料内に形成された流体チャネルと、
前記成形可能材料内に少なくとも部分的に成形された熱交換器と
を備えた流体射出装置であって、
該熱交換器が、前記流体射出ダイの前記流体チャネル側に熱的に結合されており、及び前記冷却チャネルが、前記熱交換器に熱的に結合されている、
流体射出装置。
【請求項2】
前記熱交換器の少なくとも一部が前記冷却チャネルに対して露出している、請求項1に記載の流体射出装置。
【請求項3】
前記熱交換器が、ワイヤ、バインドリボン、ヒートパイプ、リードフレーム、ループ熱交換器、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1又は請求項2に記載の流体射出装置。
【請求項4】
前記流体射出ダイの前記発射チャンバ内の前記流体再循環ポンプによって再循環される前記流体が前記冷却チャネル内に存在する、請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の流体射出装置。
【請求項5】
前記冷却チャネルが冷却流体を搬送し、該冷却流体が前記熱交換器からの熱を伝達するよう機能する、請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の流体射出装置。
【請求項6】
前記熱交換器が、前記成形可能材料から少なくとも部分的に突出している、請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の流体射出装置。
【請求項7】
複数の流体射出装置を備えたプリントバーであって、その各流体射出装置が、
成形可能材料内に埋設された流体射出ダイと、
該流体射出ダイの発射チャンバ内の流体を再循環させるための該流体射出ダイ内の流体再循環ポンプと、
前記成形可能材料内に形成された冷却チャネルと、
前記成形可能材料内に形成された流体チャネルと、
前記成形可能材料内に少なくとも部分的に成形された熱交換器と
備えており、
該熱交換器が、前記流体射出ダイの前記流体チャネル側に熱的に結合されており、及び前記冷却チャネルが、前記熱交換器に熱的に結合されている、
複数の流体射出装置を備えたプリントバー。
【請求項8】
前記熱交換器の少なくとも一部が前記冷却チャネルに対して露出している、請求項7に記載のプリントバー。
【請求項9】
前記流体射出ダイからの流体の射出を制御し、及び前記流体再循環ポンプを制御する、コントローラと、
前記冷却チャネルを介して冷却流体を再循環させる再循環リザーバと
を更に備えており、
前記コントローラが前記再循環リザーバを制御する、
請求項7又は請求項8に記載のプリントバー。
【請求項10】
前記再循環リザーバが、前記冷却流体から熱を伝達するための熱交換装置を含む、請求項9に記載のプリントバー。
【請求項11】
前記冷却流体が、前記流体射出ダイの前記発射チャンバ内に再循環される流体と同じである、請求項9又は請求項10に記載のプリントバー。
【請求項12】
前記冷却流体が、前記流体射出ダイの前記発射チャンバ内に再循環される流体とは異なる、請求項9又は請求項10に記載のプリントバー。
【請求項13】
成形可能材料内に圧縮成形されたダイスライバと、
該ダイスライバを通って第1の外面から第2の外面へと延びる流体供給孔と、
前記成形可能材料内に形成された冷却チャネルと、
前記成形可能材料内に形成され及び前記第1の外面に流体的に結合された流体チャネルと、
前記成形可能材料内に少なくとも部分的に成形され、及び前記ダイスライバの前記第1の外面と前記冷却チャネルとの両方に熱的に結合された、熱交換器と
を備えている、流体フロー構造。
【請求項14】
前記熱交換器の少なくとも一部が前記冷却チャネルに対して露出している、請求項13に記載の流体フロー構造。
【請求項15】
前記熱交換器がループ熱交換器からなり、
該熱交換器が前記成形可能材料から少なくとも部分的に突出している、
請求項13又は請求項14に記載の流体フロー構造。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
流体カートリッジ又はプリントバーにおける流体射出ダイは、シリコン基板の表面上に複数の流体射出要素を含むことが可能である。流体射出要素を作動させることにより、流体を基材上にプリントすることが可能である。流体射出ダイは、該流体射出ダイから流体を射出させるために使用される抵抗素子を含むことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0002】
図1】本書に記載する原理の一例による流体フロー構造の立面断面図である。
図2】本書に記載する原理の別の一例による流体フロー構造の立面断面図である。
図3】本書に記載する原理の更に別の一例による流体フロー構造の立面断面図である。
図4】本書に記載する原理の更に別の一例による流体フロー構造の立面断面図である。
図5】本書に記載する原理の一例による、流体フロー構造を含む流体カートリッジのブロック図である。
図6】本書に記載する原理の別の一例による流体フロー構造を含む流体カートリッジのブロック図である。
図7】本書に記載する原理の一例による基材幅プリントバーにおける複数の流体フロー構造を含むプリンティング装置のブロック図である。
図8】本書に記載する原理の一例による複数の流体フロー構造を含むプリントバーのブロック図である。
図9A】本書に記載する原理の一例による流体フロー構造の製造方法を示す。
図9B】本書に記載する原理の一例による流体フロー構造の製造方法を示す。
図9C】本書に記載する原理の一例による流体フロー構造の製造方法を示す。
図9D】本書に記載する原理の一例による流体フロー構造の製造方法を示す。
図9E】本書に記載する原理の一例による流体フロー構造の製造方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0003】
図面は、本書に記載する原理の様々な例を示しており、本書の一部をなすものである。図示の例は、単に例示のために提供されるものであり、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0004】
全図を通して、同一の符号は、同様ではあるが必ずしも同一ではない構成要素を示す。各図は、必ずしも実際の縮尺ではなく、図示の例をより明確に示すために一部の部品のサイズが誇張されている場合がある。更に、図面は、発明の詳細な説明と一致する実例及び/又は実施態様を提供するが、該発明の詳細な説明は、該図面で提供される実例及び/又は実施態様に限定されるものではない。
【0005】
既述のように、流体射出ダイは、該流体射出ダイから流体を射出させるために使用される抵抗素子を含むことが可能である。実施態様によっては、流体は、該流体中に浮遊する粒子を含む場合があり、該粒子は、懸濁液から移動して沈殿物として流体射出ダイ内の特定の領域に集まる傾向を有する場合がある。一例では、この粒子の沈殿は、流体射出ダイに複数の流体再循環ポンプを含めることにより是正することが可能である。一例では、流体再循環ポンプは、例えば、流体射出ダイの発射チャンバ及び複数のバイパス流体経路を介してインクを再循環させることによりインク内の顔料の沈降を低減させ又は排除するために使用されるポンプデバイスとすることが可能である。
【0006】
しかし、流体射出抵抗器と併せて流体再循環ポンプを追加すると、望ましくない量の廃熱が、流体、流体射出ダイ、及び流体射出装置全体の他の部分の内部に蓄積し得る。この廃熱の増加は、流体射出ダイからの流体の射出に熱的な欠陥(thermal defect)を生じさせ得るものである。
【0007】
本書に記載する例は、流体射出装置を提供する。該流体射出装置は、成形可能材料内に埋設された流体射出ダイと、該流体射出ダイの複数の発射チャンバ内で流体を再循環させるための該流体射出ダイ内の複数の流体再循環ポンプと、該流体射出ダイの流体チャネル側に熱的に結合された複数の熱交換器とを含むことが可能である。流体射出装置は更に、前記複数の熱交換器に熱的に結合された前記成形可能材料内に画定された複数の冷却チャネルを含むことが可能である。該複数の熱交換器は、ワイヤ、バインドリボン(bind ribbon)、ヒートパイプ、リードフレーム、ループ熱交換器、又はそれらの組み合わせを含むことが可能である。流体射出ダイの複数の発射チャンバ内の複数の流体再循環ポンプによって再循環される流体は冷却チャネル内に存在する。別の例では、該冷却チャネルは、冷却流体を搬送する。該冷却流体は、複数の熱交換器から熱を伝達する働きをする。
【0008】
複数の熱交換器は、成形可能材料内に埋設され、及び冷却チャネルに対して露出していることが可能である。更に、熱交換器は少なくとも部分的に前記成形可能材料から突出していることが可能である。
【0009】
本書に記載する実施例はまた、プリントバーを提供する。該プリントバーは、複数の流体射出装置を含むことが可能である。該複数の流体射出装置の各々は、成形可能材料内に埋設された流体射出ダイと、該流体射出ダイの複数の発射チャンバ内で流体を再循環させるための該流体射出ダイ内の複数の流体再循環ポンプと、少なくとも部分的に前記成形可能材料内に埋設され、及び該流体射出ダイの流体チャネル側に熱的に結合された複数の熱交換器と、該複数の熱交換器と熱的に結合された前記成形可能材料内に画定された複数の冷却チャネルとを含むことが可能である。
【0010】
該プリントバーは更に、流体射出ダイからの流体の射出を制御し、及び流体再循環ポンプを制御するためのコントローラを含むことが可能である。冷却チャネルを介して冷却流体を再循環させるために再循環リザーバも含めることが可能である。前記コントローラは、該再循環リザーバを制御する。該再循環リザーバは、冷却流体から熱を伝達するための熱交換装置を含むことが可能である。一例では、冷却流体は、流体射出ダイの発射チャンバ内を再循環する流体と同じである。他の例では、冷却流体は、流体射出ダイの発射チャンバ内を再循環する流体とは異なる。
【0011】
本書に記載する実施例はまた、流体フロー構造を提供する。該流体フロー構造は、成形体へと圧縮成形されたダイスライバ、該ダイススライバを通って第1の外面から第2の外面へと延びる流体供給孔、該第1の外面に流体的に結合された流体チャネル、及び該成形体内に少なくとも部分的に成形され、及び該流体射出ダイの前記第1の外面に熱的に結合された複数の熱交換器を含むことが可能である。流体フロー構造は更に、該熱交換器に熱的に結合された前記成形可能材料内に画定された複数の冷却チャネルを含むことが可能である。一例では、該熱交換器はループ熱交換器を含むことが可能である。この例では、該ループ熱交換器は少なくとも部分的に前記成形可能材料から突出することが可能である。
【0012】
本書及び特許請求の範囲で用いる場合、「複数の」又はそれと同様の用語は、1から無限大を含む任意の正の数(ゼロは数値ではなく数値が存在しない)として広く理解されることを意図したものである。
【0013】
以下の説明では、説明のため、本システム及び方法の完全な理解を提供するために複数の具体的な詳細について説明する。しかし、当業者には自明であるように、本装置、システム、及び方法はかかる具体的な詳細なしで実施することが可能である。本書において「一例」又はそれと同様の言葉に言及した場合、それは、その例に関して説明した特定の特徴、構造、又は特性が、そこで説明した通りに含まれることを意味するが、他の例では含まれても含まれなくてもよいことも意味している。
【0014】
ここで図面を参照すると、図1は、本書に記載する原理の一例による流体フロー構造(100)の立面断面図である。全図にわたって描かれているものを含む流体フロー構造(100)は、流体が流れる任意の構造とすることが可能である。一例では、例えば、図1ないし図4の流体フロー構造(100,200,300,400(本書では包括的に100と称す))は、複数の流体射出ダイ(101)を含むことが可能である。流体射出ダイ(101)は、例えば、基材上に流体をプリントするために使用することが可能である。更に、一例では、流体フロー構造(100)は、例えば、複数の流体発射チャンバと、該複数の流体発射チャンバからの流体を加熱し発射するための複数の抵抗器と、複数の流体供給孔と、複数の流体通路と、流体フロー構造(100,200,300,400)からの流体の射出に資する他の構成要素とを含む、流体射出ダイ(101)を含むことが可能である。更に別の例では、流体フロー構造(100,200,300,400)は、熱流体ジェットダイ、圧電流体ジェットダイ、その他の種類の流体ジェットダイ、又はそれらの組み合わせである流体射出ダイ(101)を含むことが可能である。
【0015】
一例では、流体フロー構造(100,200,300,400)は、成形可能材料(102)へと圧縮成形された複数のスライバ(sliver:細長い薄片)ダイ(101)を含む。スライバダイ(101)は、約650マイクロメートル(μm)以下のオーダーの厚さを有し、及び少なくとも3の長さ/幅の比(L/W)を有する、薄いシリコン、ガラス、又はその他の基板を含む。一例では、流体フロー構造(100)は、プラスチック、エポキシモールドコンパウンド(EMC)、又はその他の成形可能材料(102)のモノリシックボディへと圧縮成形された少なくとも1つの流体射出ダイ(101)を含むことが可能である。例えば、流体フロー構造(100,200,300,400)を含むプリントバーは、細長い単一の成形体に成形された複数の流体射出ダイ(101)を含むことが可能である。成形可能材料(102)内への流体射出ダイ(101)の成形は、複数の流体供給孔及び複数の流体供給スロットといった流体供給チャネルを流体射出ダイ(101)から流体フロー構造(100,200,300,400)の成形体(102)へとオフロードする(offload:取り出す・解放する)ことにより一層小さいダイを使用することを可能にする。このようにして、成形体(102)は、各流体射出ダイ(101)のサイズを効果的に大きくし、これは、外部的な流体接続を行うため及び流体射出ダイ(101)を他の構造体に取り付けるための該流体射出ダイ(101)のファンアウト(fan-out:広がり)を改善するものとなる。
【0016】
図1の流体射出装置(100)は、例えば、成形可能材料(102)内に埋設されたスライバダイといった少なくとも1つの流体射出ダイ(101)を含むことが可能である。流体を流体射出ダイ(101)の背面側から供給してその正面側から射出させることを可能にするために第1の外面(106)から該流体射出ダイ(101)を通って第2の外面(107)へと延びる複数の流体供給孔(104)を該流体射出ダイ(101)内に画定することが可能である。このため、流体チャネル(108)が、流体射出ダイ(101)内に画定され、及び前記第1の外面(106)と前記第2の外面(107)との間で流体的に結合される。
【0017】
複数の熱交換器(105)を少なくとも部分的に成形材料(102)内に成形することが可能である。熱交換器(105)は、流体射出ダイ(101)により生成された熱を空気又は液体冷却剤などの流体媒体に伝達する任意の受動的な熱交換装置とすることが可能である。熱交換器(105)は、銅線等のワイヤ、ボンドリボン(bond ribbon)、ヒートパイプ、リードフレーム、その他の種類の熱交換器、又はそれらの組み合わせとすることが可能である。
【0018】
熱交換器(105)は、流体射出ダイ(101)の第1の外面(106)に熱的に結合されている。流体射出ダイ(101)の第1の外面(106)は、流体射出ダイ(101)の流体チャネル側と称することが可能である。このようにして、熱交換器(105)は、例えば、流体を加熱して流体射出ダイ(101)内に含まれる発射チャンバから発射するための複数の抵抗器により生成された熱を取り出すことが可能である。
【0019】
更に、熱交換器(105)は、流体射出ダイ(101)内の複数の流体再循環ポンプにより生成された熱を取り出すことが可能である。一例では、流体再循環ポンプは、例えば、流体射出ダイ(101)の発射チャンバ及び複数のバイパス流体経路を介してインク等の射出可能流体を再循環させることにより該射出可能流体内の顔料の沈殿を低減させ又は排除するために使用される任意の装置とすることが可能である。流体再循環ポンプは、インク等の射出可能流体を流体射出ダイ(101)を通って移動させる。一例では、流体再循環ポンプは、流体射出ダイ(101)の発射チャンバ及びバイパス流体経路を介して射出可能流体を通過させる流体射出ダイ(101)内の気泡を生成する複数の微小抵抗器とすることが可能である。別の例では、流体再循環ポンプは、電界が印加されたときに圧電材料の形状を変化させて、射出可能流体を流体射出ダイ(101)の発射チャンバ及びバイパス流体経路を通過させる、圧電駆動膜とすることが可能である。流体再循環ポンプ及び発射チャンバ抵抗器の駆動は、流体射出ダイ(101)内で生成される廃熱の量を増加させる。熱交換器(105)は、その熱を流体射出ダイ(101)から取り出すために使用される。
【0020】
図2は、本書に記載する原理の別の例による流体フロー構造(200)の立面断面図である。図2において図1と同様の符号を付した構成要素は、図1及び本書における他の部分に関して説明されている。図2の流体射出ダイ(101)内には、複数の流体発射チャンバ(204)及びそれに関連する複数の発射抵抗器(201)が示されている。図2の例示的な流体フロー構造(200)は更に、本書で開示するような複数のマイクロ流体再循環ポンプ(202)を含む。該マイクロ流体再循環ポンプ(202)は、流体射出ダイ(101)内の流体通路内に配置することが可能である。
【0021】
図2の流体フロー構造(200)は更に、成形可能材料(102)内に画定された複数の冷却チャネル(203)を含む。冷却チャネル(203)は、熱交換器(105)を介して流体射出ダイ(101)から熱を奪うために該熱交換器(105)に熱的に結合させることが可能である。EMC等の成形可能材料(102)は、厚さ1メートル当たり1ケルビンの温度勾配に対して表面積1平方メートルにつき約2〜3ワット(W/mK)の熱伝導率(すなわち、熱が材料を通過する割合)を有することが可能である。更に、成形可能材料(102)が酸化アルミニウム(AlO3)などの充填材料を有する例では、その熱伝導率は約5W/mKとすることが可能である。対照的に、銅(Cu)及び金(Au)は、それぞれ、約410W/mK及び310W/mKの熱伝導率を有する。更に、流体射出ダイ(101)を構成することが可能なシリコン(Si)は、約148W/mKの熱伝導率を有することが可能である。このため、成形可能材料内に埋設された熱交換器(105)をより効果的に熱を放散するものとするために、該熱交換器(105)の少なくとも一部を冷却チャネル(203)にさらすことが可能である。
【0022】
一例では、冷却チャネル(203)は、その中で冷却流体を搬送して、流体射出ダイ(101)から熱を取り出すのを助けることが可能である。一例では、冷却流体は、冷却チャネル(203)を通過する空気とすることが可能である。別の例では、流体チャネル(108)を介して流体射出ダイ(101)に導入され、及び該流体射出ダイ(101)の流体発射チャンバ(204)及びそれに関連する発射抵抗器(201)により射出される流体が、冷却チャネル(203)内に存在し、及び熱伝達媒体として使用される。
【0023】
更に別の例では、空気又は射出される流体以外の冷却流体を冷却チャネル(203)内の熱伝達媒体として使用することが可能である。この例では、流体射出ダイ(101)の過熱を防止するために冷却チャネル(203)を通って熱交換器(105)の周りを流れる冷却剤を提供することが可能である。該冷却剤は、流体射出ダイ(101)内の発射抵抗器(201)及び流体再循環ポンプ(202)により生成された熱を放散させるために該熱を流体フロー構造(200)の他の部分又は該流体フロー構造の外部に伝達する。この例では、冷却剤は、その相を維持して液体又は気体のままとすることが可能であり、又は相転移を受けてその潜熱により冷却効率を増大させることが可能である。冷却剤内で相転移が発生する場合、該冷却剤は冷媒として周囲温度未満の温度を達成するために使用することが可能である。
【0024】
図3は、本書に記載する原理の更に別の例による流体フロー構造(300)の立面断面図である。図1及び図2と同様の符号が付された図3中の構成要素は、図1及び図2並びに本書の他の部分に関して説明されている。図3の例は、流体射出ダイ(101)が流体を射出するノズルプレート(301)を含む。該ノズルプレート(301)は、該ノズルプレート(301)内に画定された複数のノズル(302)を含むことが可能である。該ノズルプレート(301)内には任意の個数のノズル(302)を含めることが可能であり、一例では、各発射チャンバ(204)がノズルプレート(301)内に画定された対応するノズル(302)を含む。
【0025】
図4は、本書に記載する原理の更に別の例による流体フロー構造(400)の立面断面図である。図1ないし図3と同様に符号が付された図4中の構成要素は、図1ないし図3並びに本書の他の部分に関して説明されている。図4の例は更に、複数のループ熱交換器(405)を含むことが可能である。これらの複数のループ熱交換器(405)は、接続パッド(406)を介して流体射出ダイ(101)に結合することが可能であり、流体射出ダイ(101)に直接結合することが可能であり、又は流体射出ダイ(101)内に少なくとも部分的に埋設することが可能である。図4に示すように、ループ熱交換器(405)は、成形材料(102)の表面から突出することが可能である。このようにして、発射抵抗器(201)及び流体再循環ポンプ(202)により生成された流体射出ダイ(101)内の熱は、流体射出ダイ(101)から、例えば大気中へと引き出することが可能である。
【0026】
一例では、ループ熱交換器(405)は、成形可能材料(102)を通って垂直方向に延びて冷却チャネル(203)又は金属ブロックと接触して、流体射出ダイ(101)内の廃熱を除去することが可能である。別の例では、ループ熱交換器(405)は、成形可能材料(102)を通って該成形可能材料(102)の外側まで水平方向、垂直方向、又はそれらの組み合わせで延びることが可能である。図4のループ熱交換器(405)は、本書に記載する任意の例示的な流体フロー構造(100)に組み込むことが可能である。
【0027】
図5は、本書に記載する原理の一例による流体フロー構造(100,200,300,400(本書では包括的に100と称す))を含む流体カートリッジ(500)のブロック図である。図5に示す流体フロー構造(100)は、図1ないし図4及び本開示の残り全体にわたって記載する流体フロー構造の何れか又はそれらの組み合わせとすることが可能である。流体カートリッジ(500)は、流体リザーバ(502)、流体フロー構造(100)、及びカートリッジコントローラ(501)を含むことが可能である。流体リザーバ(502)は、例えばプリント処理中に流体フロー動構造(100)により射出流体として使用される流体を含むことが可能である。該流体は、流体フロー構造(100)及びそれに関連する流体射出ダイ(101)により射出することが可能な任意の流体とすることが可能である。一例では、該流体は、とりわけ、インク、水性紫外線(UV)インク、医薬品流体、及び3Dプリンティング材料とすることが可能である。
【0028】
カートリッジコントローラ(501)は、流体カートリッジ(500)の作動要素(例えば、抵抗器(201)及び流体再循環ポンプ(202))を制御するプログラミング、1つ以上のプロセッサ、及びそれに関連するメモリ、並びにその他の電子回路を表している。カートリッジコントローラ(501)は、流体リザーバ(502)により流体フロー構造(100)に供給される流体の量及びタイミングを制御することが可能である。
【0029】
図6は、本書に記載する原理の別の例による流体フロー構造(100)を含む流体カートリッジ(600)のブロック図である。図6における図5と同様の符号が付された構成要素は、図5及び本書の他の部分に関して説明されている。流体カートリッジ(600)は更に、再循環リザーバ(601)を含むことが可能である。該再循環リザーバ(601)は、流体フロー構造(100)内の冷却チャネル(203)を介して冷却流体を再循環させる。一例では、前記コントローラは再循環リザーバ(601)を制御することが可能である。
【0030】
更に、一例では、再循環リザーバ(601)は、再循環リザーバ(601)内の冷却流体から熱を伝達するための熱交換装置(602)を含むことが可能である。熱交換装置(602)は、再循環リザーバ(601)の冷却流体内の熱を伝達する任意の受動的な熱交換器とすることが可能である。一例では、熱交換装置(602)は、再循環リザーバ(601)を囲む大気中に熱を放散させる。
【0031】
一例では、冷却流体は、流体射出ダイ(101)の発射チャンバ(204)内で再循環される流体と同じものとすることが可能である。この例では、流体リザーバ(502)及び再循環リザーバ(601)は、該流体リザーバ(502)内の流体が該再循環リザーバ(601)内に導入される際に冷却されるように互いに流体的に結合することが可能である。更に、この例では、再循環リザーバ(601)は、流体リザーバ(502)内の流体を冷却チャネル(203)内にポンプ作用により送出することが可能である。
【0032】
別の例では、冷却流体は、流体射出ダイ(101)の発射チャンバ(204)内で再循環される流体とは異なるものとすることが可能である。この例では、流体リザーバ(502)及び再循環リザーバ(601)は、流体リザーバ(502)内の流体が流体チャネル(108)を介して流体射出ダイ(101)に導入され、及び再循環リザーバ(601)内の冷却流体が異なるチャネルを介して冷却チャネル(203)に導入されるるように、互いに流体的に分離させることが可能である。本書で説明するように、冷却流体又は冷却剤は、流体射出ダイ(101)内の抵抗器(201)及び流体再循環ポンプ(202)により生成された熱を放散させるために該熱を流体フロー構造(100)の他の部分へ又は該流体フロー構造の外部へ伝達する任意の流体とすることが可能である。この例では、冷却剤は、その相を維持して液体又は気体のままであることが可能であり、又は相転移を受けて潜熱により冷却効率を増大させることが可能である。冷却剤内で相転移が生じる場合、該冷却剤を冷媒として周囲温度未満の温度を達成するために使用することが可能である。
【0033】
図7は、本書に記載する原理の一例による基材幅プリントバー(704)内に複数の流体フロー構造(100)を含むプリンティング装置(700)のブロック図である。プリンティング装置(700)は、プリント基材(706)の幅にわたるプリントバー(704)、プリントバー(704)に関連する複数の流量調整器(703)、基材搬送機構(707)、流体リザーバ(502)等のプリント流体供給源(702)、及びコントローラ(701)を含むことが可能である。コントローラ(701)は、プログラミング、1つ以上のプロセッサ、及びそれに関連するメモリ、並びにプリンティング装置(700)の作動要素を制御する他の電子回路及び構成要素を表すものである。プリントバー(704)は、シート状もしくは連続するウェブ状の用紙又はその他のプリント基材(706)上に流体を分配するための複数の流体射出ダイ(101)の配列を含むことが可能である。各流体射出ダイ(101)は、流体供給源(702)から流量調整器(703)内へと延びる流路を介して、及びプリントバー(704)内に画定された複数のトランスファー成形流体チャネル(108)を介して、流体を受容する。
【0034】
図8は、本書に記載する原理の一例による複数の流体フロー構造(100)を含むプリントバー(704)のブロック図である。このため、図8は、図7のプリンタ(700)での使用に適したプリントヘッド構造としてのトランスファー成形流体フロー構造(100)の一例を実施するプリントバー(704)を示している。図8の平面図を参照すると、複数の流体射出ダイ(101)は、細長いモノリシック成形体(102)内に埋設され、端から端まで複数の行(800)で配置されている。該複数の流体射出ダイ(101)は、互い違いの構成で配置されており、各行(800)における複数の流体射出ダイ(101)は、その同じ行(800)内の別の流体射出ダイ(102)と重複している。この構成では、各行(800)の流体射出ダイ(101)は、図8に破線で示すように、異なるトランスファー成形流体チャネル(108)から流体を受容する。例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックといった4つの異なる色をプリントするために4行(800)の互い違いの流体射出ダイ(101)に流体を供給する4つの流体チャネル(108)が示されているが、他の適当な構成を実施することも可能である。
【0035】
図9Aないし図9Eは、本書に記載する原理の一例による流体フロー構造(100)の製造方法を示している。図9Aないし図9Eにおける図1ないし図8と同様の符号が付された構成要素は、図1ないし図8及び本書中の他の部分に関して説明されている。本方法は、図9Aに示すように、熱剥離テープ(901)又はその他の接着剤をキャリア(900)に接着することを含むことが可能である。
【0036】
図9Bにおいて、前処理された流体射出ダイ(101)が熱剥離テープ(901)に結合される。該流体射出ダイ(101)の第1の側面(106)に複数の熱交換器(105)を形成することが可能である。図9Cにおいて、図9Bに示すような流体フロー構造(100)全体を成形可能材料(102)で圧縮成形によりオーバーモールドすることが可能である。
【0037】
図9Dにおいて、流体チャネル(108)及び複数の冷却チャネル(203)が成形可能材料(102)内に形成される。流体チャネル(108)及び冷却チャネル(203)は、切削工程、レーザーアブレーション工程、又はその他の材料除去工程により形成することが可能である。図9Eでは、熱剥離テープ(901)及びキャリア(900)が除去されて、ノズルプレート(301)及びそれと同一平面をなす成形可能材料(102)の表面が露出している。
【0038】
本システム及び方法の幾つかの態様を、本書で説明する原理の幾つかの例による方法、装置(システム)、及びコンピュータプログラム製品のフローチャート及び/又はブロック図に関して説明した。該フローチャート及びブロック図の各ブロック、該フローチャート及びブロック図における複数のブロックの組み合わせは、コンピュータ使用可能プログラムコードにより実施することが可能である。該コンピュータ使用可能プログラムコードは、汎用コンピュータ、特殊用途コンピュータ、又はマシンを製造するための他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサに提供することが可能であり、これにより、コンピュータ使用可能プログラムコードは、例えば、プリンティング装置(700)のプリンタコントローラ(701)、流体カートリッジ(500、600)のカートリッジコントローラ(501)、その他のプログラム可能なデータ処理装置、又はそれらの組み合わせにより実行された際に、前記フローチャート及び/又はブロック図の1つ以上のブロックで指定された機能又は動作を実施することが可能である。一例では、コンピュータ使用可能プログラムコードは、コンピュータ読み取り可能記憶媒体で実施することが可能であり、該コンピュータ読み取り可能記憶媒体はコンピュータプログラム製品の一部である。一例では、コンピュータ読み取り可能記憶媒体は非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体である。
【0039】
本書及び図面では流体射出装置について説明した。該流体射出装置は、成形可能材料内に埋設された流体射出ダイと、該流体射出ダイの複数の発射チャンバ内の流体を再循環させるための該流体射出ダイ内の複数の流体再循環ポンプと、該流体射出ダイの流体チャネル側に熱的に結合された熱交換器とを含むことが可能である。この流体射出装置は、インク等の高固体(high solid)射出可能流体をプリントする際の顔料の沈降及びデキャップ(decap)を低減させ又は排除する。該顔料の沈降及びデキャップは、始動時の適切なプリントを妨げ得るものである。流体射出ダイ内の流体のマイクロ再循環は、顔料の沈降及びデキャップという問題を解決し、及び熱交換器及び冷却チャネルは、マイクロ流体再循環ポンプにより生成される廃熱により引き起こされるプリント中の熱的な欠陥を低減させ又は排除する。
【0040】
前述の説明は、本開示の原理の実例を例示し説明するために提示したものである。この説明は、全てを網羅すること又はかかる原理を本開示の厳密な形態に限定することを意図したものではない。上記教示に照らして、多くの修正例及び変形例を実施することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E