【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的技術創造促進事業(異分野融合共同研究)「医学・栄養学との連携による日本食の評価」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、味噌に含有される成分を分画抽出し、ヒストン修飾抑制作用及びアストロサイト分化誘導促進作用に対する評価法で有効性を示す分画をスクリーニングし、これらの系で活性を示す成分を同定し、抗ストレスに起因する各種疾患に有効性を発揮する化合物を見出す。さらに、本発明は、これらの活性を有する化合物又はその塩を含有する組成物、及び該組成物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、味噌の成分を分画抽出し、ヒストン修飾抑制作用を指標として、フェルラ酸エチルを同定し、さらに、各種のフェルラ酸誘導体に対するヒストン修飾制御効果、アストロサイト分化促進効果及び抗ストレス効果を鋭意検討し、一部のフェルラ酸誘導体のエステル体が、これらの活性を有することを見出した。さらに、これらの生理活性を有するフェルラ酸誘導体の含有率を向上させた食品組成物、及び、該食品組成物を製造するための方法を確立し、本発明を完成した。
【0011】
具体的には、本発明は、下記式(I)で表される化合物又はその塩を含有する組成物を提供する。
【化1】
R
1は、水素又はC
1〜C
6のアルキル基から選択され、
R
2は、C
1〜C
4のアルキル基から選択される。
【0012】
前記組成物において、前記式(I)の化合物が、味噌からの精製成分として含有される場合がある。
【0013】
本発明の組成物は、前記式(I)の化合物がフェルラ酸エチルである組成物の場合がある。
【0014】
本発明の組成物は、ヒストン修飾制御剤、アストロサイトの分化促進剤及び/又は抗ストレス剤の場合がある。
【0015】
前記組成物が、エピゲノム異常症、がん、生活習慣病、認知症、老化、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、気分障害、不安障害又は睡眠障害の予防又は治療用である医薬組成物の場合がある。
【0016】
前記組成物が、エピゲノム異常症、がん、生活習慣病、認知症、老化、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、気分障害、不安障害又は睡眠障害の予防又は治療用である食品組成物の場合がある。
【0017】
また、前記組成物が、前記一般式(I)の化合物又はその塩の含有率を増加させる方法で製造される食品組成物の場合がある。
【0018】
前記食品組成物の発明において、前記化合物がフェルラ酸エチルである場合がある。
【0019】
また、本発明は、ぬか及び/又はフスマを添加した原料を発酵菌で発酵する工程を含む方法で製造する食品組成物を提供する。
【0020】
前記食品組成物が、味噌である食品組成物の場合がある。
【0021】
前記食品組成物の発明において、前記発酵菌は、麹菌及び/又は酵母菌の場合がある。
【0022】
さらに、本発明は、ぬか及び/又はフスマを添加した原料を発酵菌で発酵する工程を含む前記食品組成物を製造するための方法を提供する。
【0023】
本発明の方法において、前記原料が、米及び/又は麦に対して20%重量以上のぬか及び/又はフスマの含有率を有する場合がある。
【0024】
本発明の方法において、前記発酵菌が、ぬか及び/又はフスマに対して高いフェルラ酸エチル合成活性を有する発酵菌である場合がある。
【0025】
本発明の方法において、前記発酵菌が、麹菌及び/又は酵母菌である場合がある。
【0026】
前記発酵菌は、アルコール産生活性、フェルラ酸産生活性及び/又はフェルラ酸エチル産生活性が高い発酵菌である場合がある。
【0027】
本発明の方法において、前記ぬかが米ぬかで、前記原料が米である場合がある。
【0028】
前記方法において、食品組成物が味噌であり、前記方法が、味噌の精製画分に含まれる成分として含有される前記式(I)の化合物又はその塩の含有率を増加させる方法である場合がある。
【0029】
また、本発明は、前記一般式(I)の化合物、及び、薬学的に許容可能な塩、並びに、それらのプロドラッグの有効用量を、それらを必要とする被験体に投与する又は摂取させることを含む、エピゲノム異常症、がん、生活習慣病、認知症、老化、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、気分障害、不安障害又は睡眠障害に予防又は治療のための方法を提供する。
【0030】
また、本発明は、エピゲノム異常症、がん、生活習慣病、認知症、老化、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、気分障害、不安障害又は睡眠障害の予防又は治療のための医薬を製造するための前記一般式(I)の化合物、及び、薬学的に許容可能な塩の使用を提供する。
【0031】
さらに、本発明は、エピゲノム異常症、がん、生活習慣病、認知症、老化、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、気分障害、不安障害又は睡眠障害の予防又は治療のための味噌からの抽出物を含有する医薬組成物又は食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、エビゲノム異常制御作用及びストレスに起因する各種疾患に有効性を奏する化合物、該化合物を含有する組成物、及び該組成物を製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.組成物
本発明の実施形態の1つは、下記式(II)で表される化合物又はその塩を含有する組成物である。
【化2】
R
1は、水素又はC
1〜C
6のアルキル基から選択され、
R
2は、C
1〜C
4のアルキル基から選択される。
【0035】
本明細書において、アルキル基は、直鎖状又は分枝状のアルキル基をいう。より具体的には、C
1〜C
6のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基から選択される。また、C
1〜C
4のアルキル基とは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基及びt-ブチル基から選択される。
【0036】
前記一般式(II)で表される化合物又はその塩は、当業者に公知の方法で製造して使用できる。また、商業的に利用可能であり、これらを入手して使用できる。又は、味噌から抽出した精製成分として使用できる。
【0037】
前記味噌から抽出した精製成分を使用する場合、精製成分中に前記式(II)の化合物が、例えば、60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、もっとも好ましくは90重量%以上の割合で含有される。
【0038】
前記化合物の例としては、好ましくは、一般式(II)において、R
1が水素又はメチル基であり、R
2がメチル基、エチル基、プロピル基又はn-ブチル基であり、より好ましくはフェルラ酸エチル又はその塩である。
【0039】
前記組成物は、医薬組成物及び食品組成物が好ましい。そこで、以下に、医薬組成物及び食品組成物の実施形態を説明する。
【0040】
2.医薬組成物
前記一般式(II)の化合物は、ヒストン修飾制御作用、神経幹細胞からグリア細胞への分化誘導促進作用、及び、抗ストレス作用を有する。そこで、一般式(II)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩の有効量を含有する医薬組成物は、エピゲノム異常が関与すると考えられる疾患、例えば、がん、並びに、高血圧症、心疾患、脳血管障害、糖尿病及び腎臓疾患等の生活習慣病の予防及び/又は治療に使用できる。
【0041】
前記化合物は、一般式(II)において、好ましくは、R
1が水素又はメチル基であり、R
2がメチル基、エチル基、プロピル基又はn-ブチル基であり、より好ましくは式(II)の化合物は、フェルラ酸エチル又はその塩である。
【0042】
また、前記一般式(II)の化合物は、神経幹細胞からグリア細胞への分化誘導促進作用を有する。そこで、一般式(II)の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の有効量を含有する医薬組成物は、例えば、認知症、アルツハイマー病及びパーキンソン病等のグリア細胞の機能低下との関連が考えられている神経変性疾患の予防及び/又は治療に使用できる。
【0043】
さらに、前記一般式(II)の化合物は、抗ストレス作用を有する。そこで、一般式(II)の化合物、又は、その薬学的に許容可能な塩の有効量を含有する医薬組成物は、例えば、急性ストレス障害、慢性ストレス障害(心的外傷後ストレス障害)及び適応障害に、好ましくは適応障害に使用できる。したがって、本発明の医薬組成物は、前記ストレス障害に起因する気分障害、不安障害、うつ病、睡眠障害及び自律神経失調症等の二次的疾患の予防及び/又は治療に使用できる。
【0044】
前記一般式(II)の化合物又はその塩は、商業的に利用可能な化合物を入手し、若しくは当業者に公知の方法で合成し、又は、味噌から抽出精製することにより使用できる。
【0045】
前記薬学的に許容可能な塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。
【0046】
金属塩の好適な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等が挙げられる。
【0047】
有機塩基との塩の好適な例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等との塩が挙げられる。
【0048】
無機酸との塩の好適な例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。
【0049】
有機酸との塩の好適な例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。
【0050】
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0051】
前記一般式(II)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩の少なくとも一つを、例えば、生理食塩水等の溶媒で所定の濃度及び用量に希釈して、pH調整剤等の薬学的に許容可能な添加剤を加え、注射剤等の医薬製剤として、患者に投与することができる。
【0052】
前記一般式(II)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩は、注射剤としてのみならず、薬学的に許容可能な医薬品添加剤を添加し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の固形製剤として医薬製剤を製造し、患者に投与することができる。
【0053】
前記医薬製剤の調製に使用される薬学的に許容可能な医薬品添加剤は、例えば、当業者に公知の、安定化剤、抗酸化剤、pH調整剤、緩衝剤、懸濁剤、乳化剤、界面活性剤等の添加物を添加して、調製することができる。これらの医薬品添加剤の種類及びその用法・用量は、医薬品添加物事典2016(日本医薬品添加剤協会編、薬事日報社、2016年2月)などに記載され、これらの記載に従って医薬製剤を調製し、使用することができる。
【0054】
より具体的には、例えば、安定化剤として酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等の有機酸が、抗酸化剤として例えばアスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン又は没食子酸プロピル等が、pH調整剤として希塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液等が、緩衝剤としてクエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸若しくはアスコルビン酸又はその塩類、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン若しくはアルギニン又はその塩類、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸若しくはホウ酸又はその塩類が、懸濁剤又は乳化剤としてレシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート又はポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物等が、界面活性剤として例えばポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が使用できるが、これらに限定されない。
【0055】
上記製剤に含まれる有効成分化合物の量は、特に限定されず広範囲に適宜選択されるが、通常、全組成物中0.1〜95重量%、好ましくは0.5〜50%、より好ましくは1〜30重量%を含むことができる。
【0056】
本発明にかかる医薬組成物の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態・塩の種類、薬剤に対する感受性差、疾患の具体的な種類等に応じて異なるが、通常、成人の場合は1日あたり経口投与で約1mg〜約1000mg(好ましくは約10mg〜約500mg)、外用剤の場合には、約1mg〜約1000mg(好ましくは約10〜約500mg)、注射剤の場合には、体重1kgあたり、約1μg〜約3000μg(好ましくは約3μg〜約3000μg)を1日に1回投与又は2〜6回に分けて使用する。
【0057】
3.食品組成物
前記一般式(II)の化合物又はその塩は、上記のとおり、がん及び生活習慣病等のエピゲノム異常症、並びに、神経変性疾患及びストレス障害等の精神疾患の予防及び治療効果を有する。そこで、一般式(II)の化合物又はその塩を含有する食品組成物は、これらのがん及び生活習慣病等のエピゲノム異常症、並びに、神経変性疾患及びストレス障害等の精神疾患の予防及び/又は治療のための食品組成物として使用できる。
【0058】
前記化合物は、一般式(II)において、R
1は、水素又はC
1〜C
6のアルキル基から選択され、R
2は、C
1〜C
4のアルキル基から選択される。好ましくは、一般式(II)において、R
1が水素又はメチル基であり、R
2がメチル基、エチル基、プロピル基又はn-ブチル基であり、より好ましくはフェルラ酸エチルである。
【0059】
前記一般式(II)の化合物又はその塩は、商業的に利用可能な化合物を入手し、若しくは当業者に公知の方法で合成し、又は、味噌等の発酵食品から抽出精製することにより使用できる。
【0060】
本発明の食品組成物は、機能性食品、健康食品及び食品添加剤等の全ての形態を含み、当業界に公知の通常の方法に基づいて製造することができる。
【0061】
例えば、健康食品としては、例えば、本発明の一般式(II)の化合物又はその塩自体を含有する茶、ジュース、清涼飲料水、ドリンクの形で製造して飲用するようにする。また、下記で説明する、式(II)の化合物又はその塩の含有率を増加させた味噌、醤油、酒等の発酵食品として提供できる。又は、前記医薬組成物と同様の方法で、例えば、顆粒化、カプセル化及び粉末化してヒト又は動物が摂取することができる。
【0062】
なお、機能性食品としては、例えば、飲料(アルコール性飲料を含む)、果実の加工食品(例えば、果物缶詰、瓶詰、ジャム、マーマレード等)、魚類、肉類の加工食品(例えば、ハム、ソーセージ、コンビーフ等)、パン類及び麺類(例えば、うどん、そば、らーめん、スパゲティー、マカロニ等)、菓子(キャラメル、キャンディー、飴、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子等)、果汁、各種ドリンク、スープ、乳製品(例えば、バター、チーズ等)、食用植物油脂、マーガリン、植物性タンパク質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例えば、味噌、醤油、食酢、みりん、ドレッシング、ソース等)などに本発明の一般式(II)の化合物又はその塩を添加して製造することができる。
【0063】
また、本発明の一般式(II)の化合物又はその塩を食品添加剤の形で用いるために、例えば、粉末として製造して用いることができる。
【0064】
本発明の食品組成物の中、上記本発明の一般式(II)の化合物又はその塩の好ましい含有量の例としては、最終的に製造した食品組成物中に1〜100μg/gが、好ましくは10〜50μg/gが、より好ましくは15〜40μg/gが、もっとも好ましく20〜30μg/gが含有される。
【0065】
また、前記一般式(II)の化合物又はその塩は、味噌等の発酵食品に含まれることが知られている。そこで、発酵食品を製造する際に、一般式(II)の化合物又はその塩の含有量又は含有率が増加する製法で製造し、本願発明の食品組成物として使用できる。
【0066】
例えば、食品組成物として味噌が提供される場合、一般に味噌は、米又は麦に麹菌を添加し製麹した米麹又は麦麹と蒸した大豆、塩、酵母菌等の発酵菌を混合し、さらに発酵させ、熟成させることによって製造される。本発明の一般式(II)の化合物又はその塩の含有量又は含有率を増加させた食品組成物を製造するには、味噌の上記原料に、米ぬかを添加することによって製造できる。
【0067】
例えば、味噌中のフェルラ酸エチルの含有率を上昇させるには、原料として使用する米に対して5重量%以上の、好ましくは10重量%以上の、より好ましくは20重量%以上の米ぬかを添加し、次に発酵菌で発酵し、熟成して味噌を製造することにより、フェルラ酸エチルの含有率が増加した味噌を製造できる。
【0068】
また、下記の実施例で示されるように、原料が同一であっても、味噌の製造会社によってフェルラ酸エチルの含有量は相違する。したがって、味噌の製造に使用する発酵菌は、フェルラ酸エチルの高い合成活性を有する微生物を使用することが好ましい。
【0069】
4.食品組成物の製造方法
前記式(II)の化合物又はその塩、特に、フェルラ酸エチル又はその塩は、味噌等の発酵食品中に含まれる。例えば、味噌中のフェルラ酸エチル又はその塩の含有率を増加させた味噌を製造するには、味噌の仕込み原料に米ぬかを添加することにより、フェルラ酸エチル含量が増加した味噌を製造できる。
【0070】
より具体的な例として、米歩合12、水分44重量%、塩分12重量%、及び米に対して20重量%の米ぬかを添加して、フェルラ酸エチル含有率を増加した味噌を製造することができる。そのためには、下記表1の組成の原料を用い、脱皮大豆を一晩浸漬し、米麹に、蒸した大豆、塩、米ぬか、酵母菌等の発酵菌を混合し、45日間発酵熟成させることで製造し、食品組成物として使用できる。
【表1】
【0071】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0072】
味噌中のヒストン修飾制御活性成分の単離と同定
実験装置
蛍光顕微鏡は、OLYMPUS IX71(オリンパス株式会社、東京)を用いた。LC-MSスペクトルのLCはSHIMADZU UFLC XR型液体クロマトグラフ(株式会社島津製作所、京都)、MSはAB SCIEX TripleTOF
TM 4600 (ESI-MS)型マススペクトロメータ(株式会社エービー・サイエックス、東京)、また、
1H、
13C、及び各種二次元NMRスペクトルはBruker Avance 400 MHz型NMRスペクトロメータ(Bruker社、独国)を用いて測定した。
【0073】
1. 味噌成分の分画とその生理活性の評価
味噌試料成分を
図1に記載のスキームで分画精製し、ヒストンアセチル化抑制作用を指標に、味噌中に含まれる活性成分を下記に記載の方法で同定した。
【0074】
味噌試料ms63(市販の淡色系辛口米みそ)の1kgをメタノールで抽出・濃縮後、水とクロロホルムにて二層分配を行った。得られたクロロホルム層(9-1)をODSフラッシュカラムクロマトグラフィーにて6つの画分に分画し、下記実施例2に記載の方法と同様の方法でヒストン修飾抑制作用を評価した。
【0075】
ヒストン修飾抑制作用が認められた70%メタノール溶出画分(10-2)をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで7つの画分に分画し、画分13-1〜13-4の4つの活性画分を得た。この4画分についてシリカゲルTLCで分析を行ったところ、画分13-1はフラボノイド類を含まない活性画分であることを見出した。画分13-1を高速液体クロマトグラフィー(カラム;COSMOSIL 5C
18-AR-II;10×250 mm、溶媒;50%メタノール、及び、カラム;COSMOSIL Cholester 10×250 mm、溶媒;50%メタノール)でさらに2段階の精製を行い、活性画分19-2を2.3mg、画分19-3を1.0mg得た。これら画分のMS及び各種NMRスペクトルを測定し
1H-
1H COSY及びHMBCスペクトル解析した結果、活性画分19-2はフェルラ酸エチル、画分19-3はp-クマル酸エチルエステルと同定された。
【0076】
活性画分19-2のフェルラ酸エチルのNMRデータ(400MHz、CD
3OD)を表2に、構造への帰属を式(III)に示した。
【0077】
【表2】
【化3】
【0078】
画分19-2を下記条件でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析し、フェルラ酸エチルの溶出時間に合致するピーク面積のHPLCクロマトグラムの全体のピーク面積に対する割合を求めると、画分19-2中のフェルラ酸エチルの純度は92.9%であった。
HPLCの測定条件:
サンプル:ms63 19-2 (フェルラ酸エチル) 5 μg
カラム:COSMOSIL Cholester 10 x 250 mm
移動相:50% MeOH
検出:UV (220 nm、0.2 AURS)
【実施例2】
【0079】
ヒストン修飾制御活性試験
方法
ヒストン修飾制御活性はヒト子宮頸がん由来HeLa細胞を用いて、多重免疫染色法により評価した。5% CO
2下、37℃、10 % fetal bovine serum(FBS、Biosera、英国)、2μg/mLゲンタマイシン硫酸塩溶液(Gibco、Thermo Fisher Scientific Inc.、米国)、及び10μg/mL antibiotic-antimycotic(Gibco)を含むDulbecco's modified Eagle's medium (DMEM、Low Glucose、和光純薬工業株式会社、大阪)中で培養しているHeLa細胞を96wellプレートの各ウェルに約1万個播種し、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したサンプルを終濃度30μg/mLとなるように添加した。20時間培養後、細胞を固定して、核をHoechst33342(同仁化学研究所、熊本)で染色し、二種のヒストン修飾特異的な蛍光標識モノクローナル抗体(Alexa Fluor488標識したH3K27me3抗体(株式会社モノクローナル抗体研究所、北海道)及びCy3標識したH4K5ac抗体(株式会社モノクローナル抗体研究所))を用いて免疫染色を行った。染色した各細胞を蛍光顕微鏡で撮影し、得られた画像中の核の蛍光強度をCellProfiler software(Carpenter AEら、Genome Biol.、2006:7、R100)で解析することで、それぞれのヒストン修飾レベルを算出し、コントロール群(DMSOのみ添加)と比較することで活性を評価した。
【0080】
結果
単離した画分19-2のフェルラ酸エチル及び画分19-3のp-クマル酸エチルエステルについてヒストン修飾制御活性試験を行った。その結果、フェルラ酸エチルはヒストン修飾抑制作用を示した。一方、p-クマル酸エチルエステルにはヒストン修飾抑制作用が認められなかった(
図2)。
【0081】
次に、商業的に利用可能なフェルラ酸エチル関連化合物(表3)を入手し、表4のフェルラ酸エチル関連化合物をフィッシャーエステル合成反応により公知の方法(Fischer and Speier、Ber. Dtsch. Chem. Ges.、1895:28、3252-3258)で合成した。
【表3】
【表4】
【0082】
これらの化合物について、前記と同様にヒストンアセチル化抑制作用を測定した。その結果、市販品のフェルラ酸エチルも、味噌から抽出精製されたフェルラ酸エチルと同様にH4K5ac抗体による免疫染色での1個の細胞当たりの染色レベルを低下させることが確認され、その活性は、味噌から単離精製したフェルラ酸エチルと同等であった(
図3)。
【0083】
そこで、
図3の結果より構造活性相関を検討評価し、下記式(IV)で表される化合物に、ヒストンアセチル化抑制作用を有することが示された。
【化4】
R
1は、水素又はC
1〜C
6のアルキル基から選択され、
R
2は、C
1〜C
4のアルキル基から選択される。
【0084】
さらに、フェルラ酸エチルの添加濃度を変化させて濃度依存的な活性評価試験を行い、より低濃度である25μMでH4K5ac抗体での染色レベルを低下させることを確認した(
図4)。
【実施例3】
【0085】
神経分化制御試験
方法
神経分化制御試験は神経幹細胞(NSC)を用いて、免疫蛍光法により評価した。
【0086】
マウスES細胞株J1(American Type Culture Collection, ATCC)は0.1%ゼラチンコート済ディッシュにて、mESC培地(1%L-グルタミン(Gibco、Thermo Fisher Scientific Inc.、米国)、1%非必須アミノ酸溶液(Gibco)、1%ペニシリンストレプトマイシン(P/S、Gibco)、0.18%2-メルカプトエタノール(Gibco)、1000U/mL 白血病阻止因子(LIF、Merck Millipore、米国)及び15%FBS(Biowest、仏国) を含むDMEM(和光純薬工業株式会社、大阪))を用いて、5%CO
2下、37℃条件下で培養した。この時、マイトマイシンC処理済みのマウス胎児線維芽細胞(MEF、北山ラベス、長野)と共培養することで未分化を維持した。神経幹細胞(Neural stem cell, NSC)の誘導にはハンギング・ドロップ法を用いた。LIFを除いたmESC用培地20μLにつき、約7500個細胞が含まれるよう液滴を調製し、72時間培養することで胚様体(Embryonic body、EB)を形成させた。形成したEBは低接着ディッシュにてさらに4日間培養した。この時、培養液としては20ng/mL rhEGF(R&D Systems Inc.、米国)、20ng/mL rhFGF-2(R&D Systems Inc.)を含むNeuron Culture Medium(住友ベークライト、東京)を用いた。その後、マトリゲル(BD Biosciences、Becton, Dickinson and Company、米国)コート済みディッシュにて、Neurobasal medium(Gibco、2% B-27 supplement(Gibco)、1%P/S、20ng/mLのrhEGF及び20ng/mLのrhFGF-2)を用いて16日間培養し、EBより遊走したNSCを回収・凍結保存した。
【0087】
凍結保存してあるNSCを96穴プレートの各ウェルに1万個播種し、Neurobasal mediumにて、72時間培養した。その後、DMEMとHam's F-12((和光純薬工業株式会社)との混合培地 (1:1、2%B-27、1%P/S及び1%FBS)にDMSOに溶解したサンプルを添加した培地にて、さらに72時間培養し、細胞を固定して、細胞核をHoechst33342で染色した。また、グリア線維性酸性タンパク質(Glial fibrillary acidic protein、GFAP)を、1次抗体に抗GFAP抗体(1:500、Merck Millipore)、2次抗体にchromeo 488標識したgoat 抗マウスIgG抗体(1:200、Active motif、米国)を用いて染色し、それぞれ蛍光顕微鏡で撮影した。得られた画像より全細胞数に対するGFAP陽性細胞数の割合を算出し、化合物添加時と非添加時とを比較することで、その活性を評価した。
【0088】
結果
ヒストン修飾制御活性試験おいて、H4K5ac抗体陽性レベルを抑制することが認められたフェルラ酸エチルについて神経分化制御試験を行った結果、アストロサイトへの分化を促進する結果が得られた(
図5)。
【実施例4】
【0089】
ストレス軽減試験
方法:
雄性C57BL/6系マウス(12〜15週齢)を用い、社会的敗北モデルでフェルラ酸エチルのストレス緩和作用に対する評価をBerton O.らの方法(SCIENCE、311:864-868;2006)と同様の方法で行った。
【0090】
簡潔には、フェルラ酸エチルを含有しない飲水(0.1% EtOH含有)を給水したマウスをコントロール群(A群)に使用した。マウスの1日当たりの飲水量を4mLとして、これを20回に分けて飲むと、1回の飲水量が0.2mLと仮定して、1日のフェルラ酸エチルの総摂取量が1匹当たり400μg、最大血中濃度:10μg/mLとなるように、飲水(0.1%EtOH含有)中の濃度100μg/mLを給水した(各群n=4)。
【0091】
フェルラ酸エチルの摂取開始から1週間後に、ストレス経験前の試験として他個体への社会的接近を評価した。マウスの行動は、動画解析ソフト(Ethovision XT、Noldus、オランダ)を用いて試験期間中継続して観察し、下記の各種指標を計測した。その後、他個体を提示した状態で0.2mMの電撃ショックを7回提示し、ストレス(恐怖刺激)を1日間負荷することにより社会的敗北モデルを作製した。ストレス経験後1日目に、ストレスによる社会的回避行動として、他個体との距離、移動距離、他個体と離れたコーナーに留まっていた時間、不動化時間、及び、他個体の体臭を嗅ぐ探索行動を行う時間を測定し、コントロール群のそれらの指標と比較した。さらに、ストレス経験後7日目にストレスによる社会回避と改善を表す行動として、評価した。
【0092】
結果
A群をコントロール群、B群をフェルラ酸エチル摂取群として、ストレス軽減試験の結果を
図6A〜Eに示した。ストレス刺激前は、A群及びB群のいずれも、他個体との距離、移動距離、他個体と離れたコーナーに留まっていた時間、不動化時間、及び、他個体の体臭を嗅ぐ探索行動を行う時間に差を認めなかった。
【0093】
ストレス負荷1日後において、他個体と離れたコーナーに留まっていた時間が、A群と比較して、B群で顕著に低下した(
図6C)。さらに、ストレス負荷7日後において、A群と比較してB群は、他個体からの距離が顕著に低下した(
図6A)。
【0094】
移動距離(
図6B)は、ストレス負荷1日後及び7日後のいずれもA群及びB群で大きな差を認めなかった。したがって、フェルラ酸エチルが、被験動物の自発運動を抑制したことに起因して、上記の他個体と離れたコーナーに留まっていた時間の短縮作用、他個体からの距離の低下作用をもたらしたものではなく、フェルラ酸エチルの抗ストレス作用に基づいて、これらの指標に対して改善効果を示したものと考えられる。
【実施例5】
【0095】
(1) フェルラ酸エチルの高い含有率を有する味噌の製造
方法
日本で味噌を製造する企業11社に依頼し、仕込みは麹歩合(大豆に対する麹の割合)12歩、塩分12重量%、原料大豆共通として、下記表3に記載の量の原料を仕込み、切り返し1回、45日間加温熟成で、水分を46〜48重量%にて自社処方で6〜7kg(完成品)の味噌をコントロール群(以下、「サンプルA」と記載)として製造した。また、原料に米ぬかを米に対して20重量%添加して、それ以外は前記標準味噌と同様に製造した味噌(以下「サンプルB」と記載)を製造した。
【0096】
【表5】
【0097】
(2) 味噌中のフェルラ酸、フェルラ酸エチル及びアルコール含量の測定
フェルラ酸及びフェルラ酸エチルをそれぞれ1、5、10、25又は50μg/mLとなるように調製し、LC/MS分析に付した。LC/MS分析は、カラムにCOSMOSIL 2.5C
18-MS-II 2.0×50mmを用いて、移動相に0.1%ギ酸添加の水とメタノールの混合比を変化させて10分で分析し、ポジティブモードで検出した。それぞれ溶出時間4.9、7.3分のマススペクトルのピークエリアから検量線(相関係数R==0.98, 0.99)を作成した。
【0098】
味噌サンプル約5g(4.7〜5.6mg)をメタノール30mLで抽出した。懸濁液について遠心分離を行い、上清を回収・濃縮後、ODSフラッシュカラムクロマトグラフィーにて6画分に分画した。50%及び70%メタノール溶出画分(それぞれフェルラ酸及びフェルラ酸エチルを含む)を1mg/mLとなるようにメタノールで調製したサンプルをLC/MS分析に付し、そのピークエリアからそれぞれの含有率を算出した。
【0099】
味噌中のアルコール含量は酸化還元滴定法により以下のように決定した。味噌5gに沈降炭酸カルシウム1gと水100mlを加えて溶かした後、Kieltec
R 2200 Auto Distillation Unit(FOSS、デンマーク)を用いて水蒸気蒸留した。留液100mlから10mlを共栓付き三角フラスコに取り、0.2N重クロム酸カリウム溶液10mlを加え、濃硫酸10mlを加えた後、軽く栓をして冷暗所に1時間放置して反応させた。水を加えて希釈し、8%ヨウ化カリウム溶液6.5mlを加えて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定。終点近くなったら1%デンプン溶液を1ml加え紫色が消失するまで滴定した。
【0100】
結果
11社によって製造されたサンプルAとサンプルBの合計22試料中のフェルラ酸及びフェルラ酸エチルの含有率を
図7に示した。コントロール群として製造した味噌(サンプルA)中のフェルラ酸エチルの含量は、4.88±3.55μg/gであった。米ぬかを20%添加して製造した味噌サンプルB中のフェルラ酸エチルの含量は、10.01±5.12μg/gであり、米ぬかを原料に添加することにより、味噌中のフェルラ酸エチルの含有率は上昇した。
【0101】
また、フェルラ酸エチル産生に与える菌種の特性を検討する目的で、前記22試料を測定して得られたアルコール含量とフェルラ酸エチル含量、フェルラ酸含量とフェルラ酸エチル含量、及び、フェルラ酸含量とアルコール含量との積とフェルラ酸エチル含量との相関性を検討した(
図8A〜C)。
【0102】
アルコール含量とフェルラ酸エチル含量の相関係数R=0.5166、フェルラ酸含量とフェルラ酸エチル含量の相関係数R=0.5071、及び、フェルラ酸含量とアルコール含量との積とフェルラ酸エチル含量との相関係数R=0.8766であり、それぞれが統計学的有意な相関性を示した(各p<0.05、p<0.05、p<0.01)。
【0103】
これらの結果は、味噌の製造におけるフェルラ酸エチルの産生において、使用する発酵菌に関して、原料に含まれるアラビノキシランから加水分解によるフェルラ酸の産生活性、アルコール産生活性、及び/又は、フェルラ酸へのアルコールによるエステル化によるフェルラ酸エチル産生活性のそれぞれに依存することを示している。したがって、フェルラ酸の産生活性が高い菌種、アルコール産生活性が高い菌種、フェルラ酸に対するエステル化活性の高い発酵菌を味噌の製造に使用することにより、味噌中のフェルラ酸エチルの高い含有率をもたらすことが可能であることが明らかとなった。