(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6792756
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】酸型ソホロリピッドを含有する3次元網目構造ゲル組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20201119BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20201119BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20201119BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20201119BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20201119BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20201119BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20201119BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20201119BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20201119BHJP
C12P 1/04 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/60
A61K8/02
A61Q19/00
A61K9/06
A61K47/26
A61K47/10
C09K3/00 103L
A23L29/269
!C12P1/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-47410(P2020-47410)
(22)【出願日】2020年3月18日
【審査請求日】2020年3月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤本 章裕
(72)【発明者】
【氏名】一柳 尚毅
(72)【発明者】
【氏名】平田 善彦
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特表平10−501260(JP,A)
【文献】
特開2008−247845(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/079620(WO,A1)
【文献】
国際公開第2018/052084(WO,A1)
【文献】
特開2019−064932(JP,A)
【文献】
特開2009−079030(JP,A)
【文献】
特開2003−176211(JP,A)
【文献】
特開2005−247838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
C09K 3/00
C09K 3/20− 3/32
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に、グリセリンと酸型ソホロリピッドのみを含むことを特徴とするグリセリンゲル状組成物。
【請求項2】
酸型ソホロリピッドを0.4〜30質量%含むことを特徴とする請求項1に記載のグリセリンゲル状組成物。
【請求項3】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸型ソホロリピッドにより得られるグリセリンゲル状組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリセリンはヒトの体内にも存在する生体物質であり安全性が高く、角質層の柔軟化及び水分量増加による保湿作用や経皮水分蒸散量回復促進によるバリア改善作用、温感作用を持つことから化粧料として利用されてきた。また、しもやけやあかぎれ用薬、浣腸薬等の医薬品としても利用されている。これら化粧料、医薬品を提供する剤型として液垂れ防止やチキソトロピー性の付与、感触の改良を目的に、ゲル剤型が積極的に活用されている。
【0003】
従来、グリセリンのゲル化には多糖類、半合成高分子、合成高分子といった増粘剤高分子が広く利用されている(特許文献1)。これら増粘剤高分子の多くはゲル化に必須の成分として水を含有しているため、防腐性や薬物(特に水に不安定な薬物)の安定性等の点で十二分に満足できるものではなかった。さらに、増粘剤高分子は、しばしば添加量が多く、また高分子自身の分子量が高いことにより、皮膚上に残存しやすく、外用剤とした時にべたつきとよれが使用者に不快感を与える。
【0004】
一方、低分子化合物によるゲル化剤の研究開発も近年進められるようになってきた。低分子のゲル化剤としては例えば、1 2 − ヒドロキシステアリン酸、1 ,2 ,3 ,4 − ジベンジリデン− D −ソルビトール、N − ラウロイル− L − グルタミン酸ジブチルアミド等(特許文献2)や、セロビオースリピッド、サクシノイルトレハロース脂質、サーファクチン等バイオサーファクタントが知られている。
【0005】
しかし、これら低分子化合物いずれもがグリセリンをゲル化するわけではなく、例えばセロビオースリピッドはグリセリン中で分散するのみでゲルを形成しない(特許文献3)。また、サクシノイルトレハロース脂質やサーファクチンではグリセリンを含む多価アルコールを含有するゲルの形成には油性成分を必須とする(特許文献4及び5)。油性成分の添加はグリセリンとの比重差などもあり安定性を保つことが困難である(特許文献6)。安定性の優れたゲルを得るにはトコフェロール類化合物や不飽和七員環化合物、エタノールなどのさらなる添加を必要とする(特許文献7〜9)。化学物質に対する感受性は人それぞれであり、配合成分が多くなれば、外用剤として適用した場合の皮膚へのリスクは高くなる。
【0006】
界面活性剤の一種であるジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DOAC)は5〜50%配合量でグリセリンを2成分でゲル化させるが、カチオン性であることから皮膚への刺激リスクが高く、外用剤として利用しにくい(非特許文献1)。
【0007】
また、オリゴエステルでグリセリンをゲル化した例もあるが、洗い流したあとがべたつく、高温で保存した場合に離液が認められるといった欠点があり、非イオン界面活性剤を併用することで、課題解決を図っている(特許文献1)。
【0008】
このようにグリセリンのゲル化は、一般的に高分子、低分子に関わらずグリセリンとゲル化剤の他の成分の添加を必須とし、配合する成分が多くなることによる皮膚に対するリスクの高まりや、ゲル化に必須の成分との相性によって配合できる有効成分の選択肢が制限されるといった基剤として求められる汎用性の広さが狭まる課題を有していた。グリセリンをゲル化できるものであってもこれまでに知られているものは高濃度の添加を必要とし、ゲル化剤自体の安全性が課題となるもので、安全性に優れ、基剤として広い汎用性を持ったグリセリンゲルの実用化は困難であった。更に外用剤として優れた使用性を併せ持ったものはこれまで実用化されていない。
【0009】
そこで配合時にべたつきやよれを生じない外用剤に利用できる高い安全性を有したゲル化剤だけで、水など他の添加物を用いることなくグリセリンをゲル化できる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-331573号公報
【特許文献2】特開2012-136457号公報
【特許文献3】特開2012-176904号公報
【特許文献4】特開2009-79030号公報
【特許文献5】特開2003-176211号公報
【特許文献6】特開2002-338453号公報
【特許文献7】特開2005-247838号公報
【特許文献8】WO2018/079620号公報
【特許文献9】WO2018/052084号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Soc. Cosmet. Chem. Japan, 20 (3), p210-216 (1986)
【非特許文献2】The Journal of Toxicological Sciences ,11, p197-211(1986)
【非特許文献3】Journal of Oleo Science ,58 (9), p565-572(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
べたつきを生じない安全性の優れたゲル化剤で実質的に水など他の添加物を用いることなくグリセリンを非流動化させたゲル状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、バイオサーファクタントの一つであり、生体毒性が極めて低く、安全性の高い低分子化合物である酸型ソホロリピッドが他の添加物を必須とすることなく、少量でグリセリンをゲル化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)実質的にグリセリンと酸型ソホロリピッドのみを含むことを特徴とするグリセリンゲル状組成物。
(2)酸型ソホロリピッドを0.4〜30重量%含むことを特徴とする(1)に記載のグリセリンゲル状組成物。
(3)動的複素粘度が10〜640,000Pa・sであることを特徴とする(1)及び(2)に記載のグリセリンゲル状組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、実質的に酸型ソホロリピッド以外に水など添加物を必須とすることなく、かつ、従来グリセリンをゲル化するのに必要であった添加量に比べて大幅に少ない量でグリセリンをゲル化させることができた。ゲル化剤自体の使用量を抑えられ、更に他の添加物を必須としないことで、添加物による皮膚に対する刺激性が抑えられる。
また、低分子でゲル化させられたことで、ポリマー特有のべたつきを示さず、肌に塗り広げた時に容易にゲル〜ゾルに転移する伸展性の良い、使用感の優れるゲル基剤ができた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔ゲル状組成物〕
本明細書においてゲル状組成物は溶媒に可溶であるか不溶であるかを問わず、溶解または分散した分子やコロイド粒子が相互作用を及ぼし合うことによって網状などの三次元構造を形成し、液体の流動性が失われて固化したものを意味する。特に「流動性が失われて固化した状態」とは、組成物を試験管に入れて倒置した際に、組成物が直ちに試験管の底面から流れ落ちない状態とし、粘弾性測定装置による複素粘度が10Pa・s以上のものをいう。
【0017】
〔ソホロリピッド〕
本発明においてゲル化剤として用いられるソホロリピッド及びその製造方法について説明する。ただし、本発明はこれらの実施例及び試験例になんら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。
【0018】
[参考製造例1:天然型ソホロリピッドの調製]
培養培地として、1L当たり、含水グルコース10g(日本食品化工社製、製品名:日食含水結晶ブドウ糖)、ペプトン10g(オリエンタル酵母社製、製品名:ペプトンCB90M)、酵母エキス5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)を含有する液体培地を使用し、30℃で2日間、Candidabombicola ATCC22214を振盪培養し、これを前培養液とした。
【0019】
この前培養液を、5L容量の発酵槽に仕込んだ本培養培地(3L)に、仕込み量の4%の割合で植菌し、30℃で6日間、通気0.6vvmの条件下で培養し発酵させた。なお、本培養培地として、1L当たり、含水グルコース100g、パームオレイン50g(日油製、製品名:パーマリィ2000)、オレイン酸(ACID CHEM製、製品名:パルマック760)50g、塩化ナトリウム1g、リン酸一カリウム10g、硫酸マグネシウム7水和物10g、酵母エキス2.5g(アサヒフードアンドヘルスケア社製、製品名:ミーストパウダーN)、及び尿素1gを含む培地(滅菌前のpH4.5〜4.8)を用いた。
【0020】
本培養開始から6日目目に発酵を停止し、発酵槽から取り出した培養液を加熱してから室温に戻し、2〜3日間静置することで、下から順に、液状の褐色沈殿物層、主に菌体と思われる乳白色の固形物層、上澄みの3層に分離した。上澄を除去した後、工業用水又は地下水を、除去した上澄の量と同量添加した。これを攪拌しながら、48質量%の水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えてpH6.5〜6.9とし、培養液中に含まれるSLを可溶化した。これを卓上遠心分離機(ウェストファリア:ウェストファリアセパレーターAG製)で遠心処理することにより、乳白色の固形物を沈殿させ、上澄を回収した。回収した上澄を攪拌しながら、これに62.5質量%硫酸を徐々に加えてpH2.5〜3.0とし、SLを再不溶化した。これを2日間静置後、デカンテーションにより上澄を可能な限り除去し、残留物を「天然型ソホロリピッド」(約50%含水物)として取得した。
【0021】
[参考製造例2:酸型ソホロリピッドの調製]
前記参考製造例1で分取した天然型ソホロリピッドに水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH14に調整し、80℃で2時間処理して加水分解(アルカリ加水分解)を行った。次いで、室温に戻してから硫酸(9.8M水溶液)を用いてpH8に調整し、発生した不溶物をろ過除去した。得られたろ液を、WO2015/034007の実施例1に基づき精製し、得られた粉末を「酸型ソホロリピッド」として得た。
【0022】
本発明は、70〜100℃にグリセリンを加熱し、酸型ソホロリピッドを添加して溶解した後、室温まで冷却する方法により調製ができる。
【0023】
本発明にかかるゲル状組成物の製造には、上述の酸型ソホロリピッドを用いるが、酸型ソホロリピッド調製時に不可避に混入する不純物はゲルの形成に影響を与えない。従って、本発明に係るゲル状組成物は、実質的にグリセリンと酸型ソホロリピッドの2成分のみを含むといえる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1で示した酸型ソホロリピッドとグリセリンの2成分で調製したゲル組成物を分取、測定用の基板に塗布した後、走査型電子顕微鏡で観察した図面代用写真である。
【
図2】(A) 実施例1で示した酸型ソホロリピッドとグリセリンの2成分で調製したゲル組成物を少量スライドガラスにとり、カバーガラスを被せた後、明視野顕微鏡観察(対物レンズ:20倍、接眼レンズ:10倍)した図面代用写真である。 (B) (A)と同じ試料、視野で偏光フィルターを用いて、光学異方性の有無について顕微鏡観察(対物レンズ:20倍、接眼レンズ:10倍)した図面代用写真である。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[実施例1、比較例1〜8]
グリセリンと各種ゲル化剤によるゲル形成実験を行った。
【0027】
【表1】
【0028】
<方法>
グリセリンと各種ゲル化剤をゲル化剤の有効成分が1.6%となるように表1の割合でそれぞれ70〜100℃において攪拌混合した。各種ゲル化剤溶解後、攪拌を続けながら徐々に温度を下げ、室温付近で攪拌を止め、ゲル形成の有無を目視観察した。
〇:ゲルを形成
×:ゲル形成せず液状
【0029】
<結果>
結果、酸型ソホロリピッドとグリセリンの組み合わせのみがゲルを形成し、酸型ソホロリピッドを除くいずれのゲル化剤もグリセリンと2成分ではゲル状にならなかった。
【0030】
[実施例1、比較例9〜19]
酸型ソホロリピッドと各種溶剤によるゲル形成実験を行った。
【0031】
【表2】
【0032】
比較例9〜19においては、各種溶剤と酸型ソホロリピッドを表2に示した割合で、実施例1と同様の方法により調製し、ゲル形成の有無を目視観察した。
〇:ゲルを形成
×:ゲルを形成せず、溶液状態
【0033】
<結果>
結果、酸型ソホロリピッドはグリセリン以外の溶剤ではゲルを形成せず、特異的にグリセリンとゲルを形成することを確認した。
【0034】
[実施例2〜8、比較例20〜23]
酸型ソホロリピッドとグリセリンの配合比率を変えて、ゲル形成範囲の確認実験を行った。
【0035】
【表3】
【0036】
<方法>
酸型ソホロリピッドとグリセリンを表3に示した割合でそれぞれ70〜100℃において攪拌混合した。酸型ソホロリピッド溶解後、攪拌を続けながら徐々に温度を下げ、室温付近で攪拌を止め、ゲル形成の有無を目視観察した。
〇:ゲルを形成
△:グリセリン中で酸型ソホロリピッドが溶解しきらず残留しているがゲルを形成
×:ゲルを形成せず、溶液状態
【0037】
更に調製液を粘弾性測定装置Anton Paar MCR302を用いて、周波数 1Hz、25℃条件下で、ひずみを0.01〜1,000 %まで変化させたときの動的複素粘度を測定した。
【0038】
<結果>
酸型ソホロリピッドが0.4〜30重量%であれば、70〜100℃で攪拌するとグリセリン中に溶け残りなく均一な溶液となり、温度が下がるとゲル化した。酸型ソホロリピッドがグリセリン中に30重量%を超えて加えた場合、グリセリン中に酸型ソホロリピッドが飽和してすべては溶解せずソホロリピッドの溶け残りが溶液中に存在した。その状態で温度を下げると、溶け残りがあるままゲルを形成した。
酸型ソホロリピッドはグリセリン中に0.4重量%以上あればゲルを形成することを見出した。
【0039】
<<酸型ソホロリピッドとグリセリンによるゲル組成物の構造観察>>
<方法>
実施例1で示した酸型ソホロリピッドとグリセリンの2成分で調製したゲル組成物を分取して、測定用の基板に塗布した。その後、走査型電子顕微鏡で観察した。
【0040】
<結果>
走査型電子顕微鏡での観察結果を
図1に示す。酸型ソホロリピッドとグリセリンで3次元網目構造を形成していることが観察でき、この網目構造により流動性のないゲルになっていることが示唆された。
【0041】
<<酸型ソホロリピッドとグリセリンによるゲル組成物の光学異方性の確認>>
<方法>
実施例1で示した酸型ソホロリピッドとグリセリンで調製したゲル組成物を少量スライドガラスにとり、カバーガラスを被せた後、明視野顕微鏡観察(対物レンズ:20倍、接眼レンズ:10倍)を実施した。また、同じ視野で偏光フィルターを用いて、光学異方性の有無についても観察した(対物レンズ:20倍、接眼レンズ:10倍)。
【0042】
<結果>
ゲル組成物を明視野顕微鏡観察した結果を
図2(A)に示す。
図2(A)と同じ視野を偏光フィルターを通して確認したところ、像が確認されなかった(
図2(B))。液晶構造をとっている場合は光学異方性がみられ、偏光フィルターを通しても像が確認される。酸型ソホロリピッドとグリセリンが形成するゲル組成物は像がみられず、光学異方性は確認されなかった。よって、酸型ソホロリピッドとグリセリンが形成するゲル組成物は非液晶性であることを確認し、液晶構造をとるゲルよりも弱い力でゲルからゾルに転移し、伸びが良い使用感が得られることが示唆された。
【0043】
また、本件発明の「実質的にグリセリンと酸型ソホロリピッドのみからなるゲル組成物」に、その他有効成分、添加物を加えた検討結果を以下実施例1〜7で示す。
【0044】
[実験例1〜7]
酸型ソホロリピッドとグリセリン及び各種油性成分付加によるゲル形成実験を行った。
【0045】
【表4】
【0046】
<方法>
グリセリンと各種ゲル化剤を表4の割合でそれぞれ70〜100℃において攪拌混合した。各種ゲル化剤溶解後、攪拌を続けながら温度を下げ、65℃以下及び添加完了時に40℃を下回らない範囲でホホバ油を徐々に加えた。その後攪拌しながら温度を低下させ、室温付近になったら攪拌を止め、ゲル形成の有無を目視観察した。
〇:ゲルを形成
×:ゲルを形成せず、溶液状態
【0047】
<結果>
酸型ソホロリピッドとグリセリンに、ワックスエステル、トリグリセライド、炭化水素など油脂の種類に限らず油性成分を添加した3成分系でもゲルを形成することを確認した。本件発明の実質的に酸型ソホロリピッドとグリセリンのみからなるグリセリンゲルに油性成分を配合してもゲル状組成物になることから、油に安定な薬物を含有した薬剤や油の持つ保湿性などの特性を生かした保湿ケア化粧品のような用途にも応用展開できる可能性を見出した。また、酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分の3成分で得られるゲル状組成物に水を接触させると速やかに自己乳化し、o/wの乳化物を形成することから、例えば、酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分からなるゲル状組成物を濡れ肌に適用することで水分、油分、保湿剤のモイスチャーバランスの整った乳化組成物を肌に塗り広げた瞬間に作り上げ、スキンケアできる化粧料といったものも提供できる。その場合、酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分からなるゲル状組成物は肌に塗り広げる直前まで非水系であるため、防腐剤の添加など防腐性を考慮しなくてもよいメリットがある。
【0048】
[実験例1、8〜17、実験比較例1〜4]
酸型ソホロリピッドとグリセリン及び油性成分の配合比率を変えて、ゲル形成範囲の確認実験を行った。
〇:ゲルを形成
×:ゲルを形成せず、溶液状態
【0049】
【表5】
【0050】
<方法>
酸型ソホロリピッドとグリセリンを表5に示した割合でそれぞれ70〜100℃において攪拌混合した。酸型ソホロリピッド溶解後、攪拌を続けながら温度を下げ、65℃以下及び添加完了時に40℃を下回らない範囲でホホバ油を徐々に加えた。その後攪拌しながら温度を低下させ、室温付近になったら攪拌を止め、ゲル形成の有無を目視観察した。
〇:ゲルを形成
×:ゲルを形成せず、溶液状態若しくは分離
【0051】
<結果>
酸型ソホロリピッドを1重量%用いた場合、[グリセリン 90重量%:ホホバ油 9重量%]〜[グリセリン 40重量%:ホホバ油 59重量%]の配合比率の間でゲルを形成することを確認した。酸型ソホロリピッドを0.5重量%用いた場合は、[グリセリン 40重量%:ホホバ油 59.5重量%]でゲル化したが、[グリセリン 80重量%:ホホバ油 19.5重量%]及び[グリセリン 60重量%:ホホバ油 39.5重量%]ではゲルを形成しなかった。一方、酸型ソホロリピッドを2重量%若しくは3重量%用い、グリセリン 80重量%及び60重量%、残り重量%をホホバ油で調製した場合、ゲルを形成したが、グリセリン40重量%、残り重量%をホホバ油で調製した場合ではゲルを形成しなかった。
酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分の配合比率の違いがゲル形成に影響を及ぼすことを確認し、ゲルを形成する範囲を見出した。また、得られるゲルのテクスチャーはそれぞれの成分の配合比率によって異なり、配合比率を制御することでさまざまなテクスチャーの剤をつくることができる可能性がある。
【0052】
[実験例18〜27、実験比較例5〜8]
酸型ソホロリピッドとグリセリン及び水性成分の3成分によるゲル形成範囲の確認実験を行った。
【0053】
【表6】
【0054】
<方法>
表6に示した割合で、グリセリンに酸型ソホロリピッドを加え、70〜100℃まで加温して攪拌溶解させた。酸型ソホロリピッド溶解後、攪拌を続けながら温度を下げ、65℃以下及び添加完了時に40℃を下回らない範囲で水を徐々に加えた。その後攪拌しながら温度を低下させ、室温付近になったら攪拌を止め、ゲル形成の有無を目視観察した。
〇:流動性のないゲルを形成
△:ゲルを形成しているが、一部液状
×:ゲルを形成せず、流動性のある液状
【0055】
<結果>
酸型ソホロリピッドを1.6重量%用いた場合、水を65.6重量%まで含んでも流動性のないゲルを形成した。水が82.0重量%の場合、ゲルを形成したが、一部流動性のある液状部分があった。酸型ソホロリピッドを3.2重量%用いた場合も酸型ソホロリピッドを1.6重量%用いた場合と同様の結果であった。
【0056】
酸型ソホロリピッドとグリセリンの2成分及び、油性成分を添加した3成分だけでなく、酸型ソホロリピッドとグリセリンに水性成分を添加してもゲルになることがわかり、水に安定な薬物を含有した薬剤や水の持つ特性である爽やかさを提供するアンダーメークアップ化粧品等の化粧料といった、水性ゲルの用途にも応用展開できる可能性を見出した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明においてグリセリンをゲル化し得た酸型ソホロリピッドは非特許文献2や非特許文献3により、極めて安全性が高いことが示されおり、本発明を示すグリセリンゲル状組成物は、化粧品、医薬品又は食品等の種々の分野において優れた安全性を有して利用が可能である。例えば、化粧品としては、皮膚の保湿ケア化粧品として用いることができ、入浴剤やマッサージ料としても用いることができる。医薬品の基剤として、ソフトカプセルの内容物基剤への応用も可能であるが、皮膚、粘膜、眼、鼻腔、口腔等に用いられる外用剤の基剤として用いるのにも適している。
【0058】
一般的に低分子化合物によるゲル化は溶媒中で低分子化合物間に働く水素結合やπ-πスタッキング、ファンデルワールス力などの非共有結合を駆動力とした分子会合により異方的な自己集合体の形成と、その後のバンドル化を経て、複雑な3次元ネットワークを形成し、形成されたネットワークの隙間に溶媒などが内包されゲルを形成する。ゲル形成には、ゲル化剤同士の相互作用とともに、ゲル化剤と溶媒間の相互作用も極めて重要な役割を果たす。
【0059】
本発明においても、実施例4で得られたゲルのみかけpHは4.6であった。酸型ソホロリピッドのpKaはおよそ6.1であるので、ゲル中の酸型ソホロリピッドは非解離型を維持しており、グリセリン溶媒中で非解離状態の酸型ソホロリピッドが水素結合などの非共有結合で特異的にファイバー様の超分子構造体に自己集合し、それらが
図1に示したように3次元ネットワークを形成することでグリセリン溶媒をゲル化したと考える。
【0060】
本発明にかかるゲル状組成物は基剤として、生物学的に活性のある薬物を溶解・分散させることによって外用剤とすることができる。
【0061】
本発明のゲル状組成物に配合される薬物は、ゲル中に含有させたときに外用剤等としての薬効を発現するものであれば特に限定はないが、本発明のゲル状組成物が実質的に油性成分や水を含まないことから、特に油や水に不安定な薬物若しくはpHに影響され易い薬物を配合する場合に、こうした薬物をゲル中に安定に保持しうるという点で有用である。
【0062】
また、以下本件発明である、実質的に酸型ソホロリピッドとグリセリンのみからなるグリセリンゲルに油性成分や水を配合してもゲル状組成物が得られることから、油や水に安定な薬物の配合や油性成分、水の特性を付与するにあたって、油性成分や水を配合することが可能であり、例えば油や水に安定な薬物を含有した薬剤や油の持つ保湿性などの特性を生かした保湿ケア化粧品や水の持つさっぱりとしたテクスチャーと活かした化粧料などを提供することができる。
【0063】
また、酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分の3成分で得られるゲル状組成物に水を接触させると速やかに自己乳化し、o/wの乳化物を形成することから、例えば、酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分からなるゲル状組成物を濡れ肌に適用することで水分、油分、保湿剤のモイスチャーバランスの整った乳化組成物を肌に塗り広げた瞬間に作り上げ、スキンケアできる化粧料といったものも提供できる。その場合、酸型ソホロリピッド、グリセリン、油性成分からなるゲル状組成物は肌に塗り広げる直前まで非水系であるため、防腐剤の添加など防腐性を考慮しなくてもよいメリットがある。
【0064】
その他、本発明にかかるゲル状基剤を外用剤等とするにあたっては、溶解補助剤、炭化水素、界面活性剤、抗酸化剤、乳化安定剤、高分子等のゲル化剤、粘着剤、pH調節剤、防腐剤、キレート剤、香料、色素等をゲルの安定性等を損なわない範囲で配合することができる。
【要約】 (修正有)
【課題】配合時にべたつきやよれを生じない好ましい使用感と優れた安全性を有するゲル化剤で、実質的に水など他の添加物を用いることなくグリセリンを非流動化させたゲル状組成物を提供する。
【解決手段】バイオサーファクタントの一つであり、生体毒性が極めて低く、安全性の高い、ゲルとなった時にべたつきを生じない低分子化合物である酸型ソホロリピッドが他の添加物を配合することなしにグリセリン中でファイバー様の超分子構造体に自己集合し、3次元網目構造を取ることでグリセリン溶媒がゲル化したゲル状組成物を形成することを特徴とするグリセリンゲル状組成物。
【選択図】
図1