【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム シーズ顕在化 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自然界に生育する微生物を単離する場合、土壌等の環境試料を採取し適度に希釈後、栄養分を溶解した平板状の寒天培地に塗布もしくはスラント状の寒天培地に接種し、コロニーの生成により微生物の生育を確認していた。そして、微生物のコロニーを分取しさらに別の寒天培地上に塗布、接種を繰り返すことにより、純度が高まり均一の微生物を単離することができる。
【0003】
一般的な寒天培地の場合、培地中に約1.5%の寒天が含まれる。寒天培地は安価かつ簡便に作成できる。また、寒天の主成分であるアガロースは微生物の栄養となりにくいため、培地中に含有される栄養分の調節が容易であり、培地を通じて微生物を選択することもできる。このため、寒天培地は微生物の単離、培養等において広汎に利用されている。
【0004】
これまでの知見によると、たいていの微生物は前述の寒天培地により培養できると考えられていた。ところが、寒天培地の改良を進めるに際し、自然界に生育する微生物において、寒天培地により単離し、培養することができる微生物は極めて少ないと考えられるようになってきた。近年のDNA分析の発達により各種微生物をあらためて調査したところ、寒天培地により単離し、培養することができる微生物は、一説によると全種の1%程度に過ぎないともいわれている。現状、寒天に含まれるアガロース等の成分がどのように微生物の生育に影響を及ぼすのかは未だ明らかにされていない。
【0005】
このように、寒天培地による単離、培養が困難な微生物は「難培養性微生物」と称される。前記の難培養性微生物においても、汚染物質の分解等の環境改善作用、新規抗生剤等の薬理作用、その他の有用な作用が期待され、未利用資源としての注目を集めている。難培養性微生物は現実に存在しているにもかかわらず、寒天培地により単離できないことから有効に活用されていない。
【0006】
そこで、寒天培地に依存しない器具、方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では次のとおり開示される。微多孔膜の表面に微生物を捕集した後、捕集した面を下向きにする。押さえリングとベースからなる微多孔膜支持体に微多孔膜を固定する。捕集面の反対側の面に液体培地を接触させる。液体培地は微多孔膜を浸透することにより、微生物に到達できる。培地養分を得た微生物は、微多孔膜の下側面にコロニーを形成することになる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の器具等の場合、培養時に微生物を接種した微多孔膜の面を下側にひっくり返す必要がある。また、微多孔膜の上側に液体培地が滴下されるため、継代時の取り扱いが不便である。特に新規有用微生物のスクリーニングを行う際、一般的に多検体を取り扱う必要がある。しかし、特許文献1に開示の器具により多検体を取り扱うことは煩雑であり困難である。このため、特許文献1は寒天培地以外の培地への適用例としては注目に値するものの、培養等の取り扱いやすさにおいて改善が望まれる構成である。
【0008】
次に、液体培地における微生物培養に特化した培養装置も提案されている(特許文献2参照)。特許文献2の装置は液体培地の培養槽中にポリフッ化ビニリデン等からなる多孔性中空糸膜を垂らし、この中空糸膜内に微生物を注入して培養する形態である。当該培養装置の使用により、微生物の単離培養の効率化が可能となった。特許文献2の装置を用いて対象となる微生物を培養する場合、多孔性中空糸膜内に注入するときの微生物の濃度を正確に管理する必要がある。また、装置を構成する部品数も多く複雑である。このことから、操作が煩雑であり装置の導入に要する経費負担が増す。従って、安価に仕上げて多数の試料を取り扱うことを想定すると不向きである。
【0009】
一連の経緯から、発明者らは液体培地における微生物培養に好適な培地部材を新たに開発し、従前の課題を解消した(特許文献3参照)。当該培地部材は液体培地を吸液する浸透台部と透過性膜部を備える。そのため、簡便な構造であることから安価である。また、透過性膜部に採取した微生物等を播種することができ、液体培地による培養効率は大きく向上した。
【0010】
その後、液体培地を利用しつつ、採取した微生物等のスクリーニング作業の効率化が検討されてきた。この場合、微生物を含む試料や生育した微生物の採取、生育に必要な薬剤の追加投与のため、分注等を効率良くしかも間違いなく実行する必要から、産業用ロボットの利用が急務となっている。そこで、自動化処理への対応を可能にするべく、特許文献3の培養部材をさらに改良発展させて新たな培養部材を完成させるに至った。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般に培養生物種の播種(接種)、継代等の利便性、保存の容易さ等から培養液をゲル化することにより半固体状の寒天培地が用いられる点は、背景技術にて述べたとおりである。特に微生物等の生物種の場合、コロニー形成により固着する種が大半である。この場合、培養容器の底部に固着させることも可能であるものの、呼吸や代謝の関係から完全に液体培地内の生育は難しい。そこで、本発明の液体培地用足場部材は、液体培地に代表される流動性の高い培地においても培養対象となる生物種の培養を可能とする足場となるための部材である。
【0017】
本発明の液体培地用足場部材10A及びその使用態様について、
図1の分解斜視図を用いながら順に説明する。第1実施形態の液体培地用足場部材10Aは、シャーレ内に設置され、培養に供される使用例である。皿部1内に培養に必要な適量の液体培地3が注液される。そして、皿部1内に浸透台部11が備えられ、当該浸透台部11の直上に透過性膜部15が載置される。そして、透過性膜部15の直上にこの透過性膜部15と密着する区画培養部20が備えられる。区画培養部20は板体であり、その板体には貫通穴部23が形成されている。最終的には、皿部1を覆う蓋部2が被せられる。従って、図示の例の液体培地用足場部材10Aは、浸透台部11、透過性膜部15、及び区画培養部20を備えて構成される。
【0018】
浸透台部11は液体培地3と接触している。この液体培地3は浸透台部11内に毛細管現象により吸液されて行き渡り同浸透台部の全体に保持される。そのため、浸透性ある材質である限り特段限定されない。オートクレーブ等による加熱殺菌を考慮すると、耐熱性材料であることがより好ましい。液体培地用足場部材では、透過性膜部15の上面は液体培地3の液面よりも高い位置に置かれる(
図3参照)。透過性膜部15上で培養されている生物種等の流出は抑えられることに加え、液体培地による水分過剰も抑制される。そこで、液体培地用足場部材10自体が液体培地3中に埋没することを避けるため、浸透台部11は適度な厚さが必要となる。例えば、所定厚さの脱脂綿、濾紙を重ねた板体、ポリウレタンのスポンジ状物である。加えて、綿、麻、羊毛等の織布、これら織布の重ね合わせも用いることができる。
【0019】
さらに、浸透台部11は不織布から形成される。不織布は繊維の織り目を有せず不均一であるため、いったん吸液された後に毛細管現象を生じさせやすく、液体培地の吸収効率は高い。不織布の材質は繊維状物である限り広汎に使用可能である。例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル樹脂、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維の合成樹脂繊維等の不織布、さらにはフェルト生地が挙げられる。合成樹脂繊維は耐薬品性に優れて、安価かつ熱にも強い。また、フェルト生地も安価である。不織布への形成方法は公知手法が用いられ適宜である。
【0020】
その中でも、浸透台部11は再生セルロース繊維からなる不織布から形成される。再生セルロース繊維からなる不織布は、例えば、ビスコース法による不織布製造の場合、主に木材由来のパルプを水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液に浸漬した後、二硫化炭素を添加して硫化し、さらにアルカリ溶解によりビスコースに調製して熟成後、硫酸等の酸溶液中へ繊維状に吐出するとともに重ね合わせる。そこで凝固反応が生じセルロースのみの繊維による布状物を得ることができる。再生セルロース繊維は全てセルロースから形成されるため、寒天のアガロースよりも培養対象となる生物種に与える影響が少ないと予想される。また、再生セルロース繊維からなる不織布は広汎に流通している素材であり、生物種に与える影響が少ない点で周知である。しかも、安価に調達することができる。
【0021】
浸透台部11に載置される透過性膜部15は、オートクレーブ等による殺菌時の耐熱性とともに浸透台部11を通じて毛細管現象により吸液された液体培地の透過性を考慮した材料が選択される。具体的には、溶解している糖分(炭素源)、各種ペプトンや酵母エキス等の窒素源、塩類(各種金属成分)、その他、アミノ酸やビタミン類等の低分子化合物、成長促進因子や成長阻害因子、抗生物質等を透過させる性質が求められる。例えば、メンブレンフィルターや限外濾過膜等が挙げられる。これらでは膜の開孔を通じて培地の栄養成分が供給される。このため、供給される培地中の成分に偏りが生じることがある。また、過大に液体培地が供給されることによって、培養中の生物種が流出してしまうおそれもある。
【0022】
この点から、透過性膜部15には半透膜が用いられる。浸透台部11を通じて毛細管現象により吸液された液体培地を透過させる必要からである。半透膜は、前述のとおり、液体培地に溶解している各種の栄養成分等を膜全体に偏りなく透過させることが可能である。また、透過性膜部15上に接種、培養される生物種(微生物)が当該透過性膜部を通り抜けて浸透台部11に侵入することも抑制できる。半透膜の具体例として、アセチルセルロース膜、ポリアクリロニトリル膜、フッ素樹脂膜、ポリエステル系ポリマーアロイ膜、コラーゲン膜等が例示される。
【0023】
前出のコラーゲン膜等の半透膜は高価格であり素材的に脆弱である。そこで、前述の透過性膜部15については、再生セルロースフィルムの半透膜、すなわちセロハンフィルムが用いられる。再生セルロースフィルムの半透膜(セロハンフィルム)は、前述の再生セルロース繊維からなる不織布と同じ構成成分である。ビスコースに調製して熟成後、硫酸等の酸溶液中へ膜状に吐出することによりフィルム化する点が異なるのみである。再生セルロースフィルムの半透膜(セロハンフィルム)も全てセルロースから形成されるため、寒天のアガロースよりも培養対象となる生物種に与える影響が少ないと予想される。特に、セロハンフィルムは低廉に入手できる利点が大きい。
【0024】
図示から明らかであるように、透過性膜部15と密着する区画培養部20は板状(板体)であり、貫通穴部23が複数個形成される。つまり、本発明の液体培地用足場部材10Aは公知の多穴のウェルプレート等を模した形態となる。そこで、培養対象の微生物や細胞は個々の貫通穴部23内の透過性膜部15上に播種(接種)される。そのため、貫通穴部23には一定の深さが必要である。区画培養部20の成型性、透過性膜部15との貼着作業の容易さ、部材自体の剛性(丈夫さ)等が考慮されて区画培養部20の板厚は規定される。この区画培養部20の板厚は、少なくとも0.4mm以上、好ましくは1mm以上、さらに好ましくは2mm前後である。区画培養部20の板厚の上限は特段制限されない。ただし、板厚を増し過ぎると後述する成型加工が難しくなる。また、浸透台部11の厚さも加わるため、液体培地用足場部材がシャーレ等に収まりきらなくなる。そのため、区画培養部20の板厚は概ね15mmが上限とされる。
【0025】
区画培養部20は好ましくは樹脂製部材により形成される。樹脂製部材の加工時の利便性は高く、自在に貫通穴部を形成できる。区画培養部20の材質樹脂の種類には特段の制約は無い。一般に成型加工容易な樹脂種から選択される。区画培養部20は、オートクレーブ等による殺菌を考慮すると、容易に熱変形しない耐熱性樹脂から選択される。なお、ガンマ線殺菌等の場合には、特段の耐熱性までは必要とされない。
【0026】
区画培養部20には、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン樹脂、高分子量ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、またはポリウレタン樹脂等が例示される。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、またはポリウレタン樹脂等が例示される。
【0027】
ここで、相互間の接合等について述べる。透過性膜部15は浸透台部11に載置するだけでも、液体培地3の水分や栄養分が浸透する。従って、特段、相互間の接合までは要求されない。区画培養部20は透過性膜部15上に載置されるばかりではなく、相互に密着される。区画培養部20は複数の貫通穴部23を備えている。このため、一つの貫通穴部に播種された微生物が周囲の貫通穴部に入り込むと正確な実験を行うことができない。そこで、個々の貫通穴部同士を完全に独立させる必要があるためである。具体的には、
図2の斜視図に示すように、接着剤30が区画培養部20の底面22に均等に塗布される。そして、透過性膜部15は区画培養部20の底面22に貼着される。符号21は区画培養部20の上面である。
【0028】
接着剤30は、樹脂接着や加工に使用される樹脂系接着剤が使用される。接着剤30は、例えば、エポキシ樹脂系、アクリレート樹脂系、さらにはエチレン酢酸ビニル樹脂等の各種の樹脂成分から選択される。むろん、これら以外にも、十分な接着能力が発揮され、かつ殺菌時の耐熱性が充たされている種類であれば特段限定されない。ただし、培養対象となる生物種の生育に影響を与えない樹脂成分にする必要がある。
【0029】
図3の部分縦断面の概略図は液体培地用足場部材10Aにおける皿部1、浸透台部11、透過性膜部15、及び区画培養部20の位置関係を示す。図示ではシャーレの蓋部2(
図1参照)を省略している。シャーレの皿部1に浸透台部11の台底部12が接する。皿部1内の液体培地3は浸透台部11内に浸透して毛細管現象により台上部13まで到達する。浸透台部11の台上部13と透過性膜部15の膜部下面16は接しているため、液体培地は透過性膜部15も透過して膜部上面17に染み出す。そして、培地養分は区画培養部20の貫通穴部23に到達し、培養対象となる生物種は透過性膜部15を介して栄養分や塩類等を得ることができる。
【0030】
透過性膜部15は浸透台部11とともに安定し、しかも区画培養部20に透過性膜部15は貼着しているため、増殖のための足場となり得る。なお、透過性膜部15は浸透台部11に生育に影響を与えない成分のバインダ(接着剤)を用いて貼着してもよい。あるいは透過性膜部15自身の吸水に伴い浸透台部11と貼着される場合がある。再生セルロースフィルムの半透膜(セロハンフィルム)は液体培地の水分を吸収して湿潤化し、適度に粘性を帯びるため浸透台部との貼り付きも良くなる。この点からもセロハンフィルムは優れている。
【0031】
図示の培養対象の生物種は微生物である。微生物のコロニーCが、区画培養部20の貫通穴部23内の透過性膜部15上の膜部上面17に複数形成されている。微生物は酵母、糸状菌等の真核生物に限らず、原核生物、古細菌、または未培養微生物も想定される。また、バクテリオファージに感染したE.coli.やBacillus sp.等のウイルス感染した菌類、遺伝子組み換えや遺伝子導入、その他の形質転換を行った菌類も想定される。特に、これまで未解明であったアガロースの影響を軽減したい場合に効果的である。また、好温菌、好熱菌等の高温培養条件下等、寒天培地の硬さを維持することができない状況下における培養にも有効である。むろん、培養対象となる生物種は微生物に限られることなく、動植物のプランクトン、原生動物、藻類、または動植物の組織細胞等も想定される。
【0032】
通常、一般的に使用されるような寒天培地を用いた培養では、経時的に培地自体を取り替えることは不可能である。しかし、液体培地の場合、培養途中での培地交換は容易である。従って、消費成分や生成産物等を分析し代謝等の経時的な変化を追跡する上でも都合良い。また、既に述べているように、寒天を用いない液体培地を使用しているにもかかわらず、透過性膜部により寒天培地の固体面を代用できる。このため、従前の寒天培地を用いた際と取り扱いやすさが大きく変わることなく、培養作業に従事する者の作業効率への影響は少ない。
【0033】
図4の模式図は、液体培地用足場部材10Aの使用事例である。
図4(a)では、予め微生物等の生物種が区画培養部20の貫通穴部23内に播種(接種)され、同部位で培養されている。そこに、分注器具40により、溶液が個々の貫通穴部23内へ所定量注入(注液)される。分注用の溶液は任意であり、栄養液、抗生剤、染色液、抗体試薬、蛍光試薬、ラジオアイソトープ標識試薬等が挙げられる。分注対象の区画培養部20の貫通穴部23は、行と列の格子点上の配置であり、各配置は極めて規格化されている。後記の実施例においては、貫通穴部23は10行・10列の計100個形成(穿設)される。
【0034】
図示の例の分注器具40は複数に分岐した先端を備えており、それぞれに交換チップ41が装着される。各交換チップ41内に溶液が保持可能である(マルチチャンネル対応型等)。図示の分注器具40の使用により、溶液は一度の処理で複数の貫通穴部23内へ注入される。当該分注処理は人手によるほか、クリーンベンチや安全キャビネット内に設置された作業ロボット等によっても実行可能である。従って、液体培地用足場部材10Aはハイスループット等の大規模処理にも有効に対応できる構造である。これにより、今まで以上に培養や単離の効率化が向上し得る。
【0035】
図4(b)の模式図は区画培養部20の上面21を示す。液体培地用足場部材10Aを使用して微生物等の生物種を区画培養部20の貫通穴部23内に播種(接種)して培養した状態である。そこで、例えば、前掲
図4(a)のとおり、貫通穴部23内に標識試薬または染色液等を分注した結果、いくつかの貫通穴部23において変色が生じたコロニー24である。図示から容易に理解されるように、液体培地用足場部材10Aは既存の多穴のウェルプレートに近似した形態を備えているため使い勝手がよい。例えば、液体培地用足場部材のまま、計測機器等に挿入したり保管したりすることもでき、作業の効率化が図られる。
【0036】
例えば、ある貫通穴部23内において優勢となって増殖した微生物は容易に隣接する貫通穴部23内と交雑し難くなる。従って、それぞれの貫通穴部23内に着目して分取と培養を繰り返すことによって比較的容易に目的とする微生物の単離が可能となり、スクリーニングの効率を高めることができる。さらには、同一の液体培地を共有しながら、区画培養部20の貫通穴部23内に異種の微生物を培養することもできる。
【0037】
加えて、
図4(b)の模式図のとおり、区画培養部20の上面21に表示部27を備えることができる。表示部27は数字、アルファベット、さらには各種記号等から構成される。図示の例では、1ないし10の数字とAないしJのアルファベットとしている。表示部27は複数の貫通穴部23の位置を特定する際に利用される。
【0038】
図5の斜視図は1個の液体培地用足場部材10Aを樹脂製の包装袋50内に収容して開口部分を封止した状態である。いわゆる、包装時及び販売時を想定した形態の一例である。このように包装袋内に収容して密封すると、液体培地用足場部材10Aの生物汚染が抑制される。また、包装袋50内に液体培地用足場部材10Aを収容した状態のまま、ガンマ線殺菌や加熱殺菌等の殺菌処理に供することも想定できる。従って、保管時等の清浄度は高いまま維持される。なお、包装袋50内の液体培地用足場部材10Aの収容数には制限はなく、使用規模に応じて適宜である。
【0039】
図6(a)は第2実施形態の液体培地用足場部材10Bの斜視図である。液体培地用足場部材10Bは浸透台部11、透過性膜部15、及び区画培養部20Bから構成される。これらは、既述の液体培地用足場部材10Aと同様である。ただし、区画培養部20Bの特徴として、貫通穴部23を1箇所のみ備える形態、大きさである。液体培地用足場部材10Bの用途としては、例えば、直径3cm程度のシャーレまたは6穴の培養プレート(ウェルプレート)等内に設置する使用が想定される。
【0040】
図6(b)は第3実施形態の液体培地用足場部材10Cの斜視図である。液体培地用足場部材10Cは浸透台部11、透過性膜部15、及び区画培養部20Cから構成される。これらも、液体培地用足場部材10Aと同様である。ただし、この例の区画培養部20Cは、前出の区画培養部20A、20Bとも異なる形状である。図示では、貫通穴部23が単列状に配置されている。第3実施形態の液体培地用足場部材10Cは、設置数を増減させることにより種々の大きさの培養容器に対応することができる。例えば、Tフラスコ等の口部分の狭小の容器内への出し入れも可能となる。
【実施例】
【0041】
[液体培地用足場部材の作製]
実施例1ないし7の液体培地用足場部材の作製に際し、浸透台部及び透過性膜部を共通とした。浸透台部として再生セルロース繊維からなる不織布(フタムラ化学株式会社製,TCF#408,合計の厚さ10mm)を使用し、透過性膜部として再生セルロースフィルムの半透膜、いわゆるセロハンフィルム(フタムラ化学株式会社製,PL#300,膜厚18μm)を使用した。
【0042】
〈実施例1〉
立体造形装置(3Dプリンタ)と同装置に適合した専用アクリル樹脂を使用して、貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは0.4mm、一辺5cmの正方形とし、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に接着剤としてエポキシ樹脂(スコッチ社製,プレミアゴールドスーパー多用途)を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下にて静置し接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例1の液体培地用足場部材を得た。
【0043】
〈実施例2〉
実施例1の立体造形装置(3Dプリンタ)と同装置に適合した専用ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)を使用して、貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは0.5mm、一辺5cmの正方形とし、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に実施例1と同一の接着剤を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下にて静置し接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例2の液体培地用足場部材を得た。
【0044】
〈実施例3〉
実施例1と同一のアクリル樹脂を用い、立体造形装置(3Dプリンタ)を使用して貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは0.4mm、一辺5cmの正方形と、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に接着剤としてエポキシ系の紫外線硬化樹脂(協立化学産業株式会社製,820SEL)を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下、紫外線を3000mJ/cm
2の条件で照射して接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例3の液体培地用足場部材を得た。
【0045】
〈実施例4〉
実施例2と同一のポリアミド樹脂を用い、立体造形装置(3Dプリンタ)を使用して貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは0.5mm、一辺5cmの正方形と、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に接着剤として実施例3と共通の紫外線硬化樹脂を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下、実施例3と同一の条件下で紫外線を照射して接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例4の液体培地用足場部材を得た。
【0046】
〈実施例5〉
実施例1と同一のアクリル樹脂を用い、立体造形装置(3Dプリンタ)を使用して貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは2.0mm、一辺5cmの正方形と、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に接着剤として実施例3と共通の紫外線硬化樹脂を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下、実施例3と同一の条件下で紫外線を照射して接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例5の液体培地用足場部材を得た。
【0047】
〈実施例6〉
実施例2と同一のポリアミド樹脂を用い、立体造形装置(3Dプリンタ)を使用して貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは2.0mm、一辺5cmの正方形と、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に接着剤として実施例3と共通の紫外線硬化樹脂を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下、実施例3と同一の条件下で紫外線を照射して接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例6の液体培地用足場部材を得た。
【0048】
〈実施例7〉
実施例2と同一のポリアミド樹脂を用い、立体造形装置(3Dプリンタ)を使用して貫通穴部を10個×10個の格子点状に備えた板状物に形成した。硬化後の厚さは2.0mm、一辺5cmの正方形と、貫通穴部の直径は3.8mmとした。こうして作製した区画培養部の裏面側に接着剤としてポリオレフィン樹脂系のホットメルト樹脂(三洋貿易株式会社製,356P)を塗工し、ここにセロハンフィルムを貼着した。そして、常温下、静置して接着剤を硬化した。最終的に、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ね実施例7の液体培地用足場部材を得た。
【0049】
[作製結果]
実施例1,2の液体培地用足場部材は、薄い板厚ながら貫通穴部は深さを備えるため、穴状の機能を備える。なお、当該板厚(0.4mm)を下回ると区画培養部自体の樹脂成型、貼着加工等が難しくなることに加え、部材の耐久性も低下するおそれがある。そこで、少なくとも0.4mm以上の板厚は必要と想定した。
【0050】
実施例3,4は接着剤の種類を変更した例である。特に、紫外線硬化樹脂としたことにより、区画培養部等に生じる撓み変形がより減少した。実施例1,2の液体培地用足場部材では、水分の影響からセロハンの変形を一部で確認した。
【0051】
実施例5,6,7は区画培養部の板厚を厚くした例であり、区画培養部自体の剛性から変形はほとんどなく形状は最も安定している。また、これらの貫通穴部は十分な深さを備え、ピペット等による注入作業も容易であることから、良好な作業性が確保される。
【0052】
参考として実施例7の液体培地用足場部材を写真撮影した。
図7の写真は、浸透台部(再生セルロース繊維不織布)にセロハンフィルム貼着済み区画培養部を重ねた実施例7の液体培地用足場部材を表し、かつ、全体をシャーレの皿部(内直径8.5cm)内に収容した状態である。写真上は見えにくいものの、行方向に1ないし10の数字、列方向にAないしJのアルファベットの表示部を凸状に形成した。なお、写真では上蓋、液体培地は省略した。
【0053】
[採取と培養]
発明者らは液体培地用足場部材の実効性を検証するべく、培養生物種を微生物として培養を試みた。検証の微生物は国立大学法人筑波大学(茨城県つくば市内)の大学構内の池水から採取した。
【0054】
液体培地用足場部材には、実施例7を使用した。浸透台部(再生セルロース繊維不織布)をオートクレーブにより加熱殺菌した。同様に、セロハンフィルム貼着済み区画培養部もオートクレーブにより加熱殺菌した。こうして、部材毎に分けることによって実施例7の液体培地用足場部材の全ての部材を殺菌した。
【0055】
液体培地はR2A粉末培地(日本製薬株式会社製)を仕様の濃度に調製して使用した。当該液体培地を滅菌済みプラスチックシャーレ(内直径8.5cm)内に所定量ずつ分注した。ただし、シャーレ内の液体培地の液面は液体培地用足場部材の浸透台部の台上部よりも低い適切な位置とした。
【0056】
前出の大学構内にて採取した池水を滅菌水により適宜希釈した。分注器具(ギルソン社製,ピペットマン)を使用してこの希釈水を2μLずつ、実施例7の液体培地用足場部材の全ての貫通穴部内底部の再生セルロースフィルムの半透膜(セロハンフィルム)に分注し、接種操作とした。その後、シャーレの上蓋を被せて加湿状態で30℃、48時間、インキュベータを用いて培養した。
【0057】
前述の培養後、液体培地用足場部材を目視により観察した。変色した貫通穴部は増殖した微生物のコロニーであった。このことから、微生物の培養に有効であることを確認した。液体培地用足場部材では、微生物の播種(接種)の作業に既存の分注器具を使用でき、しかも、貫通穴部は規格化された格子点状の配置であることから、分注等の連続操作にも適する。それゆえ、液体培地用足場部材のハイスループット処理へ期待は大きい。さらに、寒天等のゲル状の培地を調製する必要はなく、液体培地のまま培養することができる。従って、培地調製の簡素化とともに、全体的な作業効率の向上に貢献できる。