【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人日本医療研究開発機構、先端計測分析技術・機器開発プログラム「超高感度迅速放射性炭素同位体分析装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
栗原 伸治,外2名,差周波発生法を用いたガスセンシング用中赤外光源の開発とCO2測定への応用,平成17年度電気関係学会九州支部連合大会講演論文集,2005年,p.06-1A-07
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二酸化炭素同位体生成装置は、全有機炭素発生装置により前記炭素同位体から前記二酸化炭素同位体を生成するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体試料分析用炭素同位体分析装置。
前記第1光ファイバーは、前記光源から前記非線形光学結晶までつながる第1光ファイバーaと、前記非線形光学結晶から前記光共振器までつながる中赤外用の第1光ファイバーbと、を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の生体試料分析用炭素同位体分析装置。
前記光源からの光を波長フィルタを用いて複数のスペクトル成分に分け、それぞれの時間差を調整した後に前記非線形結晶に集光させる分光手段をさらに備えることを特徴とする請求項20に記載の生体試料分析用炭素同位体分析装置。
前記光源からの光を波長フィルタを用いて複数のスペクトル成分に分け、それぞれの時間差を調整した後に前記非線形結晶に集光させるディレイラインをさらに備えることを特徴とする請求項20に記載の生体試料分析用炭素同位体分析装置。
前記二酸化炭素同位体を生成する工程の前に、炭素同位体を含む生体試料から有機溶媒を用いて生体由来炭素源を除去し、得られた試料から有機溶媒由来の炭素源を取り除く工程を有することを特徴とする請求項25に記載の生体試料分析用炭素同位体分析方法。
前記炭素同位体から二酸化炭素同位体を生成する工程において、夾雑ガスの除去、もしくは夾雑ガスからの前記二酸化炭素同位体の分離、および両工程を行うことを特徴とする請求項25に記載の生体試料分析用炭素同位体分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、炭素同位体から二酸化炭素同位体を含むガスを生成する燃焼部、二酸化炭素同位体精製部を備える二酸化炭素同位体生成装置と;1対のミラーを有する光共振器、光共振器からの透過光の強度を検出する光検出器を備える分光装置と;1つの光源、光源の光から周波数が異なる複数の光を発生する光路、周波数が異なる複数の光を通過させることで周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長の光を発生させる非線形光学結晶を備える光発生装置と;を備える炭素同位体分析装置に関する。
光路としては、例えば、光源からの光を伝送する第1光ファイバーと、第1光ファイバーから分岐し第1光ファイバーの下流側の合流点で合流する波長変換用の第2光ファイバーと、を備えるものを用いることができる。また光源からの光を伝送しスペクトルを拡げる光ファイバーと、光源からの光を複数のスペクトル成分に分け、所定のスペクトル成分を非線形結晶に集光させる分光手段と、を備えるものを用いることができる。
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
(炭素同位体分析装置)
図1は、炭素同位体分析装置の概念図である。炭素同位体分析装置1は、二酸化炭素同位体生成装置40と、光発生装置20と、分光装置10と、さらに演算装置30とを備える。ここでは、分析対象として、炭素同位体である放射性同位体
14Cを例にあげて説明する。なお、放射性同位体
14Cから生成される二酸化炭素同位体
14CO
2の吸収波長を有する光は4.5μm帯の光である。詳細は後述するが、測定対象物質の吸収線、光発生装置、及び光共振器モードの複合による選択性により、高感度化を実現することが可能となる。
【0013】
本明細書において「炭素同位体」とは、特に断りのない限り安定炭素同位体
12C、
13C、及び放射性炭素同位体
14Cを意味する。また、単に元素記号「C」と表示される場合、天然存在比での炭素同位体混合物を意味する。
酸素の安定同位体は
16O、
17O及び
18Oが存在するが、元素記号「O」と表示される場合、天然存在比での酸素同位体混合物を意味する。
「二酸化炭素同位体」とは、特に断りのない限り
12CO
2、
13CO
2及び
14CO
2を意味する。また、単に「CO
2」と表示される場合、天然存在比の炭素及び酸素同位体により構成される二酸化炭素分子を意味する。
【0014】
本明細書において「生体試料」とは、血液、血漿、血清、尿、糞便、胆汁、唾液、その他の体液や分泌液、呼気ガス、口腔ガス、皮膚ガス、その他の生体ガス、さらには、肺、心臓、肝臓、腎臓、脳、皮膚などの各種臓器およびこれらの破砕物など、生体から採取し得るあらゆる試料を意味する。さらに、当該生体試料の由来は、動物、植物、微生物を含むあらゆる生物が挙げられ、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトの由来である。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
〈二酸化炭素同位体生成装置〉
二酸化炭素同位体生成装置40は、炭素同位体を二酸化炭素同位体に変換可能であれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができる。二酸化炭素同位体生成装置40としては、試料を酸化させ、試料中に含まれる炭素を二酸化炭素にする機能を有していることが好ましい。
例えば全有機炭素(total organic carbon 以下「TOC」という)発生装置、ガスクロマトグラフィー用の試料ガス発生装置、燃焼イオンクロマトグラフィー用の試料ガス発生装置、元素分析装置(Elemental Analyzer:EA)等の二酸化炭素生成装置(G)41を用いることができる。また別の実施態様として、後述の
図2,3で示されるような二酸化炭素生成装置40a、40bを用いることができる。
図4に、273K、CO
2分圧20%、CO分圧1.0×10
−4%、N
2O分圧3.0×10
−8%の条件下における
14CO
2と競合ガス
13CO
2,CO,及びN
2Oの4.5μm帯吸収スペクトルを示す。
前処理後の生体試料を燃焼させることにより、二酸化炭素同位体
14CO
2(以下、「
14CO
2」ともいう)を含むガスを生成できる。しかし、
14CO
2の発生と共に、CO、N
2Oといった夾雑ガスも発生する。これらCO、N
2Oは、
図4に示すように、それぞれ4.5μm帯の吸収スペクトルを有するので、
14CO
2が有する4.5μm帯の吸収スペクトルと競合する。そのため、分析感度を向上させるために、CO、N
2Oを除去することが好ましい。
CO、N
2Oの除去方法としては、以下のように
14CO
2を捕集・分離する方法が挙げられる。また、酸化触媒や白金触媒により、CO、N
2Oを除去・低減する方法、及び前記捕集・分離方法との併用が挙げられる。
【0016】
(i)加熱脱着カラムによる
14CO
2の捕集・分離
図2は、二酸化炭素同位体生成装置の実施態様aを示す概念図である。二酸化炭素同位体生成装置40aは、燃焼部42と、二酸化炭素同位体精製部43aと、を備える。
加熱部としては、燃焼管を内部に配置可能とし燃焼管を加熱可能とする、管状電気炉といった電気炉が挙げられる。管状電気炉の例としては、ARF−30M(アサヒ理化製作所)が挙げられる。
また、燃焼管は、キャリアガス流路の下流側に、少なくとも一種類の触媒を充填させた酸化部及び/又は還元部を具備することが好ましい。酸化部及び/又は還元部は、燃焼管の一端に設けてもよいし、別部材として設けてもよい。酸化部に充填する触媒として、酸化銅、銀・酸化コバルト混合物が例示できる。酸化部において、試料の燃焼により発生したH
2、COをH
2O、CO
2に酸化することが期待できる。還元部に充填する触媒として、還元銅、白金触媒が例示できる。還元部において、N
2Oを含む窒素酸化物(NO
X)をN
2に還元することが期待できる。
二酸化炭素同位体精製部43aとしては、生体試料の燃焼により生じたガス中の
14CO
2を、ガスクロマトグラフィ(GC)で用いられるような、加熱脱着カラム(CO
2捕集カラム)を用いることができる。これにより
14CO
2を検出する段階でCO、N
2Oの影響を軽減あるいは除去できる。またGCカラムに
14CO
2を含むCO
2ガスが一時捕集されることで、
14CO
2の濃縮が見込まれるので、
14CO
2の分圧の向上が期待できる。
(ii)
14CO
2吸着剤による
14CO
2のトラップ、再放出による
14CO
2の分離
図3は、二酸化炭素同位体生成装置の実施態様bを示す概念図である。二酸化炭素同位体生成装置40bは、燃焼部と、二酸化炭素同位体精製部と、を備える。
燃焼部は、
図2と同様に構成することができる。
二酸化炭素同位体精製部としては、
14CO
2吸着剤、例えばソーダ石灰や水酸化カルシウム等を用いることができる。これにより、
14CO
2を炭酸塩の形で単離することで夾雑ガスの問題を解消できる。炭酸塩として
14CO
2を保持するので、サンプルを一時保存することも可能である。なお、再放出にはリン酸を用いることができる。
(i),(ii)のいずれか、あるいは両構成を備えることで、夾雑ガスを除去できる。
(iii)
14CO
2の濃縮(分離)
生体試料の燃焼により発生した
14CO
2は配管内で拡散する。そのため、
14CO
2を吸着剤に吸着させ濃縮することにより、検出感度(強度)を向上させてもよい。かかる濃縮によりCO、N
2Oから
14CO
2の分離も期待できる。
【0017】
〈分光装置〉
図1に示すように、分光装置10は、光共振器11と、光共振器11からの透過光の強度を検出する光検出器15とを備える。光共振器(Optical resonator or Optical cavity)11は、分析対象の二酸化炭素同位体が封入される筒状の本体と、本体の内部の長手方向の一端と他端に凹面が向かい合うように配置された高反射率の1対のミラー12a、12b(反射率:99.99%以上)と、本体内部の他端に配置されたミラー12a、12b間隔を調整するピエゾ素子13と、分析対象ガスが充填されるセル16と、を備える。なお、ここでは図示を省略しているが、本体の側部に二酸化炭素同位体を注入するためのガス注入口や、本体内の気圧を調整する気圧調整口を設けておくことが好ましい。
光共振器内部11にレーザー光を入射し閉じ込めると、レーザー光はミラーの反射率に対応した強度の光を出力しながら、数千回〜一万回というオーダーで多重反射を繰り返す。そのため実効的な光路が数10kmにも及ぶため、光共振器内部に封入された分析対象のガスが極微量であっても大きな吸収量を得ることができる。
【0018】
図5A、
図5Bはレーザー光を用いた高速走査型のキャビティーリングダウン吸収分光法(Cavity Ring-Down Spectroscopy 以下「CRDS」ともいう)の原理を示す図である。
図5Aに示すように、ミラー間隔が共鳴条件を満たしているときは、高強度の信号が光共振器から透過される。一方、ピエゾ素子13を作動させてミラー間隔を変更し、非共鳴条件とすると、光の干渉効果により信号を検出することができなくなる。つまり、光共振器長を共鳴から非共鳴条件へとすばやく変化させることで、
図5Aに示すような指数関数的な減衰信号[リングダウン信号(Ringdown signal)]を観測することができる。リングダウン信号を観測する別の方法として、入力レーザー光を光学スイッチ26(
図7)にて素早く遮断する方法が例示できる。
光共振器の内部に吸収物質が充填されていない場合、透過してくる時間依存のリングダウン信号は
図5Bの点線で示すような曲線となる。一方、光共振器内に吸光物質が充填されている場合、
図5Bの実線で示すように、レーザー光が光共振器内で往復するごとに吸収されるため、光の減衰時間が短くなる。この光の減衰時間は、光共振器内の吸光物質濃度及び入射レーザー光の波長に依存しているため、Beer-Lambertの法則iiを適用することで吸収物質の絶対濃度を算出することができる。また光共振器内の吸収物質濃度と比例関係にある減衰率(リングダウンレート)の変化量を測定することにより、光共振器内の吸収物質濃度を測定することができる。
光共振器から漏れ出た透過光を光検出器により検知し、演算装置を用いて
14CO
2濃度を算出した後、
14CO
2濃度から
14C濃度を算出することができる。
なお、光検出器と併せて回折格子14を用いて、所定の波長の光を検知する構成としてもよい(
図10)。詳細は光発生と併せて後述する。
【0019】
光共振器11のミラー12a、12b間隔、ミラー12a、12bの曲率半径、本体の長手方向長さや幅等は、分析対象である二酸化炭素同位体が持つ吸収波長により変化させることが好ましい。想定される光共振器長は1mm〜10mが挙げられる。
二酸化炭素同位体
14Cの場合、光共振器長が長いことは光路長を確保するのに有効であるが、光共振器長が長くなるとガスセルの体積が増え、必要な試料量が増えるため、光共振器長は10cm〜60cmの間が好ましい。またミラー12a、12bの曲率半径は、光共振器長と同じか、長くすることが好ましい。
なおミラー間隔は、ピエゾ素子13を駆動することにより、一例として数マイクロメートルから数十マイクロメートルのオーダーで調整することが可能である。最適な共鳴条件を作り出すために、ピエゾ素子13による微調整を行うこともできる。
なお、1対のミラー12a、12bとしては、1対の凹面鏡を図示して説明してきたが、十分な光路が得られるのであれば、その他にも凹面鏡と平面鏡の組み合わせや、平面鏡同士の組み合わせであっても構わない。
ミラー12a、12bを構成する材料としては、サファイアガラスを用いることができる。
分析対象ガスを充填するセル16は、容積がより小さいことが好ましい。少ない分析試料であっても効果的に光の共振効果を得ることができるからである。セル16の容量は、8mL〜1000mLが例示できる。セル容量は、例えば測定に供することができる
14C源の量に応じて適宜好ましい容量を選択でき、尿のように大量に入手できる
14C源では80mL〜120mLのセルが好適であり、血液や涙液のように入手量が限られる
14C源では8mL〜12mLのセルが好適である。
【0020】
光共振器の安定性条件の評価
CRDSにおける
14CO
2吸収量と検出限界を評価するため、分光データに基づく計算を行った。
12CO
2、
13CO
2などに関する分光データは大気吸収線データベース(HITRAN)を利用し、
14CO
2に関しては文献値(「S. Dobos et al., Z. Naturforsch, 44a, 633-639 (1989)」)を使用した。
ここで、
14CO
2の吸収によるリングダウンレート(指数関数的減衰の割合)の変化量Δβ(=β−β
0、β:試料有りの減衰率、β
0:試料なしの減衰率)は、
14CO
2の光吸収断面積σ
14、分子数密度N、光速cにより以下のように表せる。
Δβ=σ
14(λ,T,P)N(T,P,X
14)c
(式中、σ
14、Nは、レーザー光波長λ、温度T、圧力P、X
14=
14C/
TotalC比の関数である。)
図6は、計算で求められた
13CO
2と
14CO
2の吸収によるΔβの温度依存性を示す図である。
図6より、
14C/
TotalCが10
−10、10
−11、10
−12では、室温300Kでの
13CO
2による吸収が
14CO
2の吸収量を超えるか同程度となるため、冷却を行う必要があることが分かった。
一方、光共振器由来のノイズ成分であるリングダウンレートのばらつきΔβ
0〜10
1s
−1が実現できれば、
14C/
TotalC比〜10
−11の測定を実現できることが分かる。これにより、分析時の温度として摂氏−40度程度の冷却が必要であることが明らかとなった。
例えば、定量下限として
14C/
TotalCを10
−11とすると、CO
2ガスの濃縮によるCO
2ガス分圧の上昇(例えば20%)と、前記温度条件とが必要であることが示唆される。
なお、冷却装置や冷却温度について、後述の炭素同位体分析装置の変形例1の欄においてより詳細に述べる。
【0021】
〈光発生装置〉
光発生装置20としては、二酸化炭素同位体の吸収波長を有する光を発生できる装置であれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができる。ここでは、放射性炭素同位体
14Cの吸収波長である4.5μm帯の光を簡易に発生させ、しかも装置サイズがコンパクトな光発生装置を例に挙げて説明する。光発生装置20は、1つの光源23と、光源23から異なる複数の周波数の光を発生させる複数の光ファイバー(第1光ファイバー21、第2光ファイバー22)と、得られた複数の光を通過させることにより光の周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長を有する光を発生させる非線形光学結晶25とを備える。
【0022】
光源23としては、短波長のパルス波発生装置を用いることが好ましい。光源23として短波長のパルス波発生装置を用いた場合、各波長の波長幅が均等な櫛状の光の束(以下「光コム」ともいう。)が得られるからである。なお、光源として連続波発生装置を用いた場合、光の束の中心部の光の波長幅が厚くなるため、波長幅が均等な櫛状の光の束が得られなくなる。
光源23としては、例えばモード同期により短パルスを出力する固体レーザー,半導体レーザー,ファイバーレーザーを用いることができる。なかでもファイバーレーザーを用いることが好ましい。ファイバーレーザーは、コンパクトで対環境安定性にも優れた,実用的な光源であるからである。
ファイバーレーザーとしては、エルビウム(Er)系(1.55μm帯)またはイッテルビウム(Yb)系(1.04μm帯)のファイバーレーザーを用いることができる。経済的な観点からは汎用されているEr系ファイバーレーザーを用いることが好ましく、光吸収強度を高める観点からはYb系ファイバーレーザーを用いることが好ましい。
【0023】
複数の光ファイバー21、22としては、光源からの光を伝送する第1光ファイバー21と、第1光ファイバー21から分岐し第1光ファイバー21の下流側で合流する波長変換用の第2光ファイバー22と、を用いることができる。第1光ファイバー21としては、光源から光共振器までつながっているものを用いることができる。
第1光ファイバー21の下流側の他端は、ミラー12aに当接されていることが好ましい。光共振器11からの透過光が空気に触れることを防止することで、透過光の強度測定の精度を高めることができるからである。
第1光ファイバー21としては、生成した高強度な超短パルス光の特性を劣化させずに伝送できる光ファイバーを用いることが好ましい。材料は、溶融石英でできたファイバーを用いることが好ましい。
第2光ファイバー22としては、異常分散の特性を有し、誘導ラマン散乱とソリトン効果によって、効率良く所望の長波長側に超短パルスを生成できる光ファイバーを使用することが好ましい。具体的には、偏波保持ファイバーや単一モードファイバー、フォトニック結晶ファイバー、フォトニックバンドギャップファイバーなどがある。波長のシフト量に合わせて、数mから数百mまでの長さの光ファイバーを使用することが好ましい。材料は、溶融石英でできたファイバーを用いることが好ましい。
非線形光学結晶25としては、例えばPPMGSLT(periodically poled MgO-dopedStoichiometric Lithium Tantalate(LiTaO
3))結晶もしくはPPLN(periodically poled Lithium Niobate)結晶、またはGaSe(Gallium selenide)結晶を用いることができる。4.5μm帯の光を発生し易いからである。また、1つのファイバーレーザー光源を用いているため、後述の通り、差周波混合において、光周波数の揺らぎをキャンセルすることができるからである。
【0024】
差周波混合(Difference Frequency Generation 以下「DFG」ともいう)によれば、第1、第2光ファイバー21,22が伝送する波長(周波数)が異なる複数の光を非線形光学結晶に通過させることで、この周波数の差から、差周波の光を得ることができる。つまり、1つの光源23から、波長がλ
1、λ
2である2つの光を発生させ、2つの光を非線形光学結晶に通過させることにより、周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長である4.5μm帯の光を発生させることができる。非線形光学結晶を用いるDFGの変換効率は、元となる複数の波長(λ
1、λ
2、…λ
x)の光源の光子密度に依存する。そのため1つのパルスレーザー光源からDFGにより差周波の光を発生することができる。
このようにして得られる4.5μm帯の光は1パルスが規則的な周波数間隔f
rの複数の周波数の光(モード)からなる光コム(周波数f=f
ceo+N・f
r、N:モード数)である。光コムを用いてCRDSを行うためには、分析対象の吸収帯の光を取り出す必要がある。
【0025】
非特許文献1のI. Galliらに考案された炭素同位体分析装置の場合、波長の異なる2種類のレーザー装置を用意して、レーザー光の周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長を有する照射光を発生させていた。そのため装置が大がかりで、操作が複雑になっていた。しかも2つの光源から光を発生させているため、2つの光の揺らぎ幅及び揺らぎのタイミングがそれぞれ異なり、2つの光を混合した際に光の揺らぎを抑えることが困難であった。そのため、光の揺らぎを制御する制御装置が必要となっていた。一方、本発明の実施形態に係る光発生装置は、1つのファイバーレーザー光源と、数mの光ファイバーと、非線形光学結晶とで構成されているため、コンパクトで搬送しやすく、しかも操作が簡単である。また1つの光源から複数の光を発生させているため、それぞれの光の揺らぎ幅及び揺らぎのタイミングが同一となる。そのため、制御装置を用いることなく、差周波混合を行うことで簡易に光周波数の揺らぎをキャンセルすることができる。
第1光ファイバーと第2光ファイバーの合流点から光共振器の間の光路について、空気中にレーザー光を伝送させる態様や、必要に応じてレンズによるレーザー光の集光及び/または拡大をする光学系を含む光伝送装置を構築してもよい。より好ましい態様として、光源から光共振器までの光路を全て光ファイバーで構築することで、空気によるレーザーの散乱及び吸収を起こさず、さらに光軸のずれを起こしにくい、より安定な装置構成をとることができる。
さらに、光共振器と検出器の間についても、光は空間を伝送させたり、あるいは光ファイバーを用いて伝送してもよく、様々な態様をとり得る。
【0026】
〈演算装置〉
演算装置30としては、上述の減衰時間やリングダウンレートから光共振器内の吸収物質濃度を測定し、吸収物質濃度から炭素同位体濃度を測定できるものであれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができる。
演算制御部31としては、CPU等の通常のコンピュータシステムで用いられる演算手段等で構成すればよい。入力装置32としては、例えばキーボード、マウス等のポインティングデバイスが挙げられる。表示装置33としては、例えば液晶ディスプレイ、モニタ等の画像表示装置等が挙げられる。出力装置34としては、例えばプリンタ等が挙げられる。記憶装置35としてはROM、RAM、磁気ディスクなどの記憶装置が使用可能である。
〈冷却、除湿装置〉
図1に図示されてはいないが、冷却、除湿装置を設けてもよい。ペルチェ素子等の冷却手段により除湿してもよいし、フッ素系イオン交換樹脂膜といった水蒸気除去用高分子膜を使用した膜分離法によって除湿してもよい。これらについては、後述の変形例や分析方法の欄で説明する。
【0027】
上述の炭素同位体分析装置1をマイクロドーズに用いる場合、放射性炭素同位体
14Cに対する検出感度は「0.1dpm/ml」程度が想定される。この検出感度「0.1dpm/ml」を達成するためには、光源として「狭帯域レーザー」を用いるだけでは不十分であり、光源の波長(周波数)の安定性が求められる。即ち、吸収線の波長からずれないこと、線幅が狭いことが要件となる。この点、炭素同位体分析装置1では、「光周波数コム光」を用いた安定な光源をCRDSに用いることでこの課題を解決できる。炭素同位体分析装置1によれば、低濃度の放射性炭素同位体を含む検体に対しても測定が可能であるという有利な作用効果が奏される。
なお、先行文献(廣本 和郎等、「キャビティーリングダウン分光に基づく14C連続モニタリングの設計検討」、日本原子力学会春の年会予稿集、2010年3月19日、P432)には、原子力発電関連の使用済み燃料の濃度モニタリングに関連して、CRDSにより二酸化炭素中の
14C濃度を測定する旨が開示されている。しかし、先行文献に記載された、高速フーリエ変換(FFT)を用いた信号処理方法は、データ処理が早くなるものの、ベースラインのゆらぎが大きくなるため、検出感度「0.1dpm/ml」を達成することは困難である。
【0028】
以上、炭素同位体分析装置について実施形態を挙げて説明してきたが、炭素同位体分析装置は、上述の実施形態に係る装置に限定されることなく、種々の変更を加えることができる。以下に炭素同位体分析装置の変形例について変更点を中心に説明する。
【0029】
(炭素同位体分析装置の変形例1)
図7は、炭素同位体分析装置の変形例1の概念図である。
図7に示すように、分光装置1aは、光共振器11を冷却するペルチェ素子19と、光共振器11を収納する真空装置18と、をさらに備えてもよい。
14CO
2の光吸収は温度依存性を有するため、ペルチェ素子19により光共振器11内の設定温度を低くすることで、
14CO
2の吸収線と
13CO
2、
12CO
2の吸収線との区別が容易になり、
14CO
2の吸収強度が強くなるからである。また光共振器11を真空装置18内に配置して、光共振器11が外気に晒されることを防止して外部温度の影響を軽減することで、分析精度が向上するからである。
光共振器11を冷却する冷却装置としては、ペルチェ素子19の他にも、例えば、液体窒素槽、ドライアイス槽などを用いることができる。分光装置11を小型化できる観点からはペルチェ素子19を用いることが好ましく、装置の製造コストを下げる観点からは液体窒素水槽もしくはドライアイス槽を用いることが好ましい。
真空装置18としては、光共振器11を収納でき、また光発生装置20からの照射光を光共振器11内に照射でき、透過光を光検出器に透過できるものであれば、特に制限なく様々な真空装置を用いることができる。
【0030】
図8(Applied Physics Vol.24, pp.381-386, 1981より引用)は、分析試料
12C
16O
2、
13C
18O
2、
13C
16O
2、
14C
16O
2の吸収波長と吸収強度の関係を示す。
図8に示すように、それぞれの炭素同位体を含む二酸化炭素は、固有の吸収線を有している。実際の吸収では、各吸収線は試料の圧力や温度に起因する拡がりによって有限の幅を持つ。このため、試料の圧力は大気圧以下、温度は273K(0℃)以下にすることが好ましい。
【0031】
以上、
14CO
2の吸収強度は温度依存性があるため、光共振器11内の設定温度を、できるだけ低く設定することが好ましい。具体的な光共振器11内の設定温度は273K(0℃)以下が好ましい。下限値は特に制限はないが、冷却効果と経済的観点から、173K〜253K(−100℃〜−20℃)、特に233K(−40℃)程度に冷却することが好ましい。
分光装置は、振動吸収手段をさらに備えてもよい。分光装置の外部からの振動によりミラー間隔がずれることを防止して、測定精度を上げることができるからである。振動吸収手段としては、例えば衝撃吸収剤(高分子ゲル)や免震装置を用いることができる。免震装置としては外部振動の逆位相の振動を分光装置に与えることができる装置を用いることができる。
【0032】
光共振器11について説明したが、光共振器の具体的態様の概念図(一部切欠図)を
図9に示す。
図9に示すように、光共振器51は、真空装置としての円筒状の断熱用チャンバー58と、断熱用チャンバー58内に配置された測定用ガスセル56と、測定用ガスセル56の両端に配置された1対の高反射率ミラー52と、測定用ガスセル56の一端に配置されたミラー駆動機構55と、測定用ガスセル56の他端に配置されたリングピエゾアクチュエーター53と、測定用ガスセル56を冷却するペルチェ素子59と、循環冷却器(図示せず)に接続された冷却パイプ54aを有する水冷ヒートシンク54と、を備える。
【0033】
<光遮断装置>
上述の実施形態においては、リングダウン信号の取得手段として、分光装置10内においてピエゾ素子13によるミラー間隔の調整を用いたが、リングダウン信号を得るために、光発生装置20内において光共振器11への光を遮断する光遮断装置を設けて光共振器に照射される照射光のオンオフ制御を行う構成としてもよい。光遮断装置としては、二酸化炭素同位体の吸収波長の光をすばやく遮断できる装置であれば特に制限されることなく種々の装置を用いることができ、
図7に示すような光学スイッチ26を例示できる。なお、光共振器内の光の減衰時間よりも十分にすばやく光を遮断する必要がある。
【0034】
上述の実施形態においては、第1光ファイバー21は、光源23から光共振器11までつながる構成とした。しかし、第1光ファイバー21は、光源23から非線形光学結晶25までつながる第1光ファイバー21aと、非線形光学結晶25から光共振器11までつながる中赤外用の第1光ファイバー21bと、を備える構成としてもよい。第1光ファイバー21bとすることで、非線形光学結晶を通過して得られた4.5μm帯の光を効率より光共振器11に伝送させることができるからである。
第1光ファイバー21aとしては、上述の第1光ファイバー21と同様のファイバーを用いることができる。第1光ファイバー21bとしては、4.5μm帯の光を吸収しずらい中赤外用の光ファイバーであれば特に制限なく様々な光ファイバーを用いることができ、フッ化物系ファイバーや中空ファイバーを用いることが好ましい。
なお、光発生装置20は、
図7に示す第1光ファイバー21bに代えて、非線形光学結晶25から光共振器11へ光を伝送する光伝送装置を備えてもよい。光伝送装置としては1以上の光学レンズが例示でき、光学レンズを非線形光学結晶の上流、下流、あるいはその両方に配置した光路、さらにそれらをモジュール化した光学装置等を用いることができる。
【0035】
(炭素同位体分析装置の変形例2)
図10は、炭素同位体分析装置の変形例2の概念図である。
図10に示すように、分光装置1dは、透過光を分光する回折格子14をさらに備えてもよい。その際、光検出器は、それぞれ異なる波長の透過光を検出する、光検出器15aと、光検出器15bと、を備えることが好ましい。分光された波長の異なる透過光についてそれぞれ分析することで、測定精度を上げることができるからである。
光共振器を用いて所定の光を選択すると共に、通過後に回折格子を設置し、さらに波長選択を行うことで、必要な吸収線のみの透過光強度を得て測定試料ガス中の
14C濃度を測定してもよい。回折格子を設置することでより分析能が向上するからである。
【0036】
(炭素同位体分析装置の変形例3)
光発生装置20では、第1光ファイバー21と第2光ファイバー22からの複数の光を非線形光学結晶25に通過させることにより、周波数の差から二酸化炭素同位体の吸収波長を有する光を発生させた。しかし、差周波が取れるのであれば複数の光ファイバーを用いることに限定されることなく、1本の光ファイバーを用いて、二酸化炭素同位体の吸収波長光を発生させてもよい。
図11は炭素同位体分析装置の変形例3の概念図である。
図12は1本の光ファイバを用いた中赤外コム生成の原理を示す図である。
図11の炭素同位体分析装置1eは、光源23と非線形光学結晶25の間に、複数の波長フィルタからなるディレイライン28を備える。第1光ファイバー21により、光源23からの光が伝送され、スペクトルが拡げられる(スペクトルの伸張)。そして、スペクトル成分が時間的にずれている場合、
図12に示されるように、ディレイライン28(光路差調整器)により、スペクトル成分が分けられ、時間差の調整が行われる。そして、非線形結晶25に集光させることで中赤外コムを生成することができる。
なお、分光手段としてディレイラインを挙げたが、それに限定されることなく、分散媒体を用いてもよい。
図13は光発生装置の変形例を示す。
図13の光発生装置は、光源と、光源からの光を増幅する光ファイバー(Yb-DCF)と、アイソレーターと、アイソレーターから伝送されたパルス光の分散(時間広がり)を補償する回折格子対と、広帯域光(スーパーコンティニューム(supercontinuum)、以下「SC」ともいう。)を生成するフォトニック結晶ファイバー(以下「PCF」ともいう。)と、波長フィルタ(又は波長分岐器)を用いて光を複数のスペクトル成分に分けた後に,スペクトル成分間の時間差を調整し、所定のスペクトル成分を非線形結晶に集光させるディレイラインと、中赤外コム光を形成する非線形結晶(PPMGSLT結晶)と、分光器とを備える。
図13の光発生装置は、上述の構成を備えることより、光源からの光が複数のスペクトル成分からなり、各スペクトル成分が時間的にずれている場合、ディレイライン(光路差調整器)を用いることで、時間差調整を行なうことにより所定のスペクトル成分を時間的に重ねて非線形結晶に集光させることで所望の波長の光を発生させることができる。
図13の光発生装置の変形例の実施例として、波長1.014μm帯超短パルスファイバレーザー光源を用いたSC光及び中赤外コム光の生成を行なった。実験条件は、光源として、非線形偏光回転によってモードロックされた、繰り返し率184MHzを有する、Yb添加ファイバーレーザーを用いた。光源のパルスを、8Wの出力を提供できるハイパワーパンプレーザーダイオードにより、Yb添加ダブルクラッドファイバーにおいて増幅した。増幅されたパルスは中心波長1040nm、平均出力3Wで高度にチャープされており、その後回折格子対により200フェムト秒(FWHM)に圧縮された。光学結晶ファイバーに基づいて、SC光は、中赤外領域において差周波混合(DFG)でサポートし得る、900nmから1200nmにまで拡げられた。PCFから出力する際にディレイラインを注意深く調整することにより、空間と時間が重複するそれぞれ900nm〜1000nmと1000nm〜1200nmの2つのシグナルを、4.5μmへのDFGを可能とする非線形光学結晶に集光させた。その際、異なる分散特性を備えるPCFを用いて実験を行った。
【0037】
(実施例1)
ゼロ分散波長が1005nmのPCFである、フォトニック結晶ファイバ(NKT Photonics社製)20cmを使用し、二成分の時間差をディレイラインを用いて調整後、GaSe結晶に集光させた。得られた結果を
図14A、
図14Bに示す。
【0038】
(実施例2)
1040nmで正常分散のPCFである、全正常分散フォトニック結晶ファイバ(NKT Photonics社製)20cmを用いて、PPMgSLT結晶に集光させた実験結果を
図15A〜
図15Cに示す。なお、PPMgSLT結晶をPPLN結晶に置き換えて、同様の実験を行ったところ、同様の結果が得られた。
図15AにSCスペクトラムを示す。ディレイラインを用いて光路差の違いを調節することにより、
図15Bに示すように、中赤外領域を2.9μm〜4.7μmに調整することができた。異なる色のスペクトルは、相対時間差の違いによる。ディレイラインの時間差と差周波混合(DFG)により得られるスペクトルとの関係を
図15Cに示す。SCが正常分散PCFにより生成されたため、中心波長は相対時間差に従い単調に増加した。上記機構から調整された平均出力は、100μWのオーダーであった。出力を上げるために、PCFにより拡張されたSCはDFGを起こすように、特定の波長において充分高い必要があった。
【0039】
(実施例3)
ゼロ分散波長が1040nmのPCFである、フォトニック結晶ファイバ(NKT Photonics社製)20cmを用いて、PPMgSLT結晶に集光させた実験結果を
図16A〜
図16Cに示す。なお、PPMgSLT結晶をPPLN結晶に置き換えて、同様の実験を行ったところ、同様の結果が得られた。
図16Aに示すように、中赤外の高出力を得るのに関与する950nmの波長にピークがあった。実験により、最大出力1.12mWが3.9μWの波長において測定された。
図16B、
図16Cは時間差と差周波混合(DFG)により得られた波長の関係を示す。SCパルスがもはや線状にチャープされていないために、中心波長と時間差の間に線形の関係はなかった。長いレンジの中から時間差を調整したにも関わらず、スペクトルは綺麗に区別できなかった。しかしパルス幅は狭いため、高出力な中赤外光が得られた。
【0040】
(炭素同位体分析装置の変形例4)
除湿条件は、CRDS分析セルを−40℃以下(233K以下)に冷却した場合に、その温度条件下で結露・凍結しないガス条件(水分量)になることが好ましい。具体的には、二酸化炭素生成部(試料導入部ユニット)内に、吸湿剤もしくはガスドライヤーを配置することが好ましい。吸湿剤としては、例えば、CaH
2、CaSO
4、Mg(ClO
4)
2、モレキュラーシーブ、H
2SO
4、シカサイド(Sicacide)、五酸化リン、シカペント(Sicapent)(登録商標)またはシリカゲルを用いることができる。なかでも、五酸化リン、シカペント(登録商標)、CaH
2、Mg(ClO
4)
2またはモレキュラーシーブが好ましく、シカペント(登録商標)がより好ましい。ガスドライヤーとしては、ナフィオン(登録商標)ドライヤー(Nafion dryers:Perma Pure Inc.製)が好ましい。吸湿剤とガスドライヤーはそれぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。なお、前記「その温度条件下で結露・凍結しないガス条件(水分量)」は、露点を測定して確認した。言い換えると、−40℃以下(233K以下)の露点となるように、除湿できることが好ましい。露点の表示は、瞬間露点であっても、単位時間当たりの平均露点であってもよい。露点の測定は、市販の露点センサーを用いて測定することができ、例えば、ゼントール露点センサーHTF Al2O3(登録商標)(三菱化学アナリテック社製)、ヴァイサラDRYCAP(登録商標)DM70ハンディタイプ露点計(ヴァイサラ社製)が使用できる。
【0041】
有機元素分析計を用いる場合のキャリアガスは、少なくとも炭素、窒素及び硫黄元素をできるだけ含まないガスが好ましく、ヘリウムガス(He)が例示できる。キャリアガスの流量は、50mL/minから500mL/minの範囲が好ましく、100mL/minから300mL/minの範囲がより好ましい。
【0042】
実施形態に係る炭素同位体分析装置の性能やサイズを挙げると概ね以下の通りとなる。
14C分析装置として
14Cに対する検出感度0.1dpm/mL
測定処理能力:400サンプル/1日、
装置サイズ:2m×1m×1m以下、である。
一方、LSCの性能やサイズを挙げると概ね以下の通りとなる。
14Cに対する検出感度:10dpm/mL
測定処理能力:400サンプル/1日、
装置サイズ:1m×1m×0.5m、である。
またAMSの性能やサイズを挙げると概ね以下の通りとなる。
14Cに対する検出感度:0.001dpm/mL
測定処理能力:5サンプル/1日、
装置サイズ:15m×10m×3m程度、である。
【0043】
(生体試料の前処理)
生体試料の前処理は、広義には、生体由来の炭素源除去工程と、夾雑ガス除去(分離)工程とが含まれるが、ここでは、生体由来の炭素源除去工程を中心に説明する。
マイクロドーズ試験では極微量の
14C標識化合物が含まれる生体試料(例えば、血液、血漿、尿、糞、胆汁など)について分析が行われる。そのため、分析効率を上げるためには、生体試料の前処理を行うことが好ましい。CRDS装置の特性上、生体試料中
14Cと全炭素との比(
14C/
TotalC)が測定の検出感度を決定する要素の一つであるため、生体試料中から生体由来の炭素源を除去することが好ましい。
【0044】
・
14C/
TotalC比の試算
文献値(Tozuka et al., ”Microdose Study of 14C-Acetaminophen With Accelerator Mass Spectrometry to Examine Pharmacokinetics of Parent Drug.nd Metabolites in Healthy Subjects” Clinical Pharmacology & Therapeutics 88, 824, 2010)を参考に、
14C/
TotalC比を算出した。測定試料ごとの、性状、試料、処理方法を、表1にまとめた。また生体試料として血漿を用いた場合の処理方法の概要を
図17に示す。
【表1】
文献における操作では血漿1mL、尿0.5mLを用いて有機溶剤による除タンパク法を行っていた。測定試料中の
14C/
TotalC比を算出すると、表2に示すように10
−11〜−14であった。これらの数値から、既存の前処理方法だけでは十分な検出感度を得られないことが推察された。また前処理に用いる有機溶媒や、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)の移動相に用いられる有機溶媒による炭素持込みの影響が考えられた。
【表2】
そこで、乾固により有機溶媒を除去して
14C/
TotalC比の改善を検討した。
まず、タンパク除去率の高い有機溶媒の選定を行った。固体試料導入ユニットを用いて検討したところ、除タンパク率はメタノール(MeOH)で約40%、アセトニトリル(MeCNもしくはACN)で約80%であり、生体由来炭素源を高効率に除去する結果が得られた。アセトニトリルで処理したと仮定して、有機溶媒抽出乾固後の
14C/
TotalC比を計算した結果、表3に示されるように最大40倍程度の改善が見込めると考えられた。尿においても、同様の結果が得られた。この場合、CRDS装置に導入する炭素量としてヒト血漿1mLあたりから0.7〜10mgC得られることが推察された。なお、この炭素量は、固体試料導入ユニットの測定範囲と合致することより、0.1〜20mgCがCRDS測定ガスセルの導入炭素量として好ましいことを確認した。
以上の結果から生体由来の炭素源を有機溶媒により取り除き、用いた溶媒を除去することでCRDSを用いた放射性炭素同位体測定に向けた基本的な前処理方法として利用できることを確認した。
【表3】
【0045】
加えて炭素の持ち込みを低減し、
14Cを濃縮するための前処理法を検討した。
14C濃縮の目標値は、
14C/
TotalC比として10
-11以上に設定した。生体由来の炭素源除去工程及び有機溶媒の除去工程(乾固)を行い、
14C回収率及び除炭素率を算出した。表4に
14C回収率を、表5に除炭素率を示す。生体由来の炭素源除去工程として、除タンパク質法、液−液抽出法、固相抽出法、限外濾過法を比較検討した。
図18に除タンパク質法、
図19に液−液抽出法、
図20に固相抽出法、
図21に限外濾過法の処理工程を示す。
14C源として、
14C標識されたアセトアミノフェンを用いた。生体試料にはヒト血漿、ヒト尿、及びラット糞10%ホモジネート溶液を用いた。ただし、限外濾過法はヒト血漿試料のみ実施した。
結果を以下に記載する。
14C回収率は、除タンパク質法、液−液抽出法、固相抽出法において、91.4%以上であった。一方、限外濾過法においてヒト血漿試料での
14C回収率は2.6%であった。除炭素率は、固相抽出法のみ全ての試料で88.5%以上であった。一方、除タンパク質法、液−液抽出法において、ヒト血漿試料の除炭素率が93.0%以上、ラット糞10%ホモジネート溶液が79.1%以上であるのに対し、ヒト尿試料の除炭素率は、それぞれ22.8%、49.5%であった。これは、ヒト尿試料において、ある種の生体マトリックス由来の炭素源が固相抽出法では除去できる一方、除タンパク質法及び液−液抽出法では除去できないためと推察される。
以上より、CRDSを用いた放射性炭素同位体測定において、固相抽出法がヒト血漿、ヒト尿、及びラット糞10%ホモジネート溶液に好適であることが確認された。また、除タンパク質法、液−液抽出法がヒト血漿及びラット糞10%ホモジネート溶液前処理方法として適用できることが示唆された。
なお、本実施例においては
14C源となる化合物としてアセトアミノフェンを用いたため、固相にOasis HLB(Waters製)を使用した。前処理に用いる固相は、
14C源となる化合物に応じて適宜変更できる。
固相抽出法を用いた場合の
14C/
TotalC比を文献値(Tozuka et al., ”Microdose Study of 14C-Acetaminophen With Accelerator Mass Spectrometry to Examine Pharmacokinetics of Parent Drug.nd Metabolites in Healthy Subjects” Clinical Pharmacology & Therapeutics 88, 824, 2010)をもとに試算したところ、ヒト血漿及びヒト尿試料において
14C/
TotalC比が10
-11以上であった。
【0047】
図2の有機元素分析計の基本性能の評価実験を以下の条件で行なった。
[操作手順]
1.試料秤量
炭素量と試料の炭素割合は以下の式を用いて算出した。
炭素量=試料の秤量値×試料の炭素割合
化合物の炭素割合=試料分子量中の炭素分子量/試料の分子量
表6に、検討に用いた試料(化合物)、分子式、分子量、理論C割合(%)、及び試薬純度を示す。
【表6】
2.試料セット、測定
秤量した試料を、スズカプセルに内包した後、試料を有機元素分析計(以下「EA」ともいう。/elementar社製、商品名「Vario MICRO cube」)の円盤状オートサンプラにセットし、以下のEA測定条件1または2で測定を行なった。なお、本操作手順及び後述の操作手順において、スズカプセルとしては、スズボート(もしくはフィルム)を用いた。
<EA測定条件1(CNSモード)>
燃焼温度:1l50℃(瞬間最大1800℃)
還元温度:760℃
キャリアガス:He
流量:200mL/min
酸素供給量:30mL/minで70〜80秒
酸化触媒:酸化コバルト
還元触媒:還元銅
ハロゲン除去触媒:銀
除湿剤:シカぺント(Merk Millipore社製)
<EA測定条件2(CNモード)>
燃焼温度:950℃(瞬間最大1800℃)
還元温度:600℃
キャリアガス:He
流量:200mL/min
酸素供給量:30mL/minで70〜80秒
酸化触媒:酸化銅
還元触媒:還元銅
ハロゲン除去触媒:銀
除湿剤:シカぺント
【0048】
[実験1] 固体試料の燃焼
EAを用いて試料を燃焼(酸化)させ、得られたクロマトグラムからCO
2の分離測定が可能か確認した。クロマトグラム得られたエリア値から炭素割合(各試料の炭素含有率)を算出し、燃焼程度(燃焼率)を検討した。
【0049】
結果1
約4mgCとなるように、スルファニルアミド、グルコース、メチオニン、グラファイトをセミミクロ天秤で秤量し、EA測定条件1で測定を行なった。表7に各試料の構造式、分子式、クロマトグラムを示す。
【表7】
【0050】
試料中に含まれるC、N、Sの各元素は、燃焼により酸化物(ただしNO
Xは還元されてN
2)となり、加熱脱着カラムによりそれぞれ分離されたのち、TCD(Thermal Conductivity Detector)により、それぞれの元素をCO
2、N
2、及びSO
2ガスとして検出した。表8に、得られたクロマトグラムのピークエリア値を用いて算出されたC割合(%)を示す。
【表8】
【0051】
理論C割合(%)と算出されたC割合(%)との差(絶対値)は、スルファニルアミドで0.l%、グルコースで0.2%、メチオニンで0.4%、難燃性物質であるグラファイトで2.0%であった。結果として、難燃性物質であるグラファイトも含め、全ての試料で98.0%以上が燃焼(酸化)されていると考えられた。
【0052】
[実験2] 水分量の影響、及び炭酸ガス化率の評価
水分による酸化燃焼に与える影響を確認した。
・グルコース水溶液試料調製
グルコース標準溶液として2.5gのグルコースを量りとり、試験用水で5mLにメスアップした。
2.5g×0.4=1.0gC
1.0gC/5mL=0.2gC/mL ・・・Glc−1溶液
Glc−1溶液を用いて表9に示す希釈溶液を調製した。
【0054】
水分量10、20、50μL、炭素量0.01〜2.0mgCとなるようにグルコース水溶液を表10のように調製し、スズカプセルに内包して、EA測定条件1で測定した。表11にEA測定条件1での炭素量とピークエリア値のプロット、回帰式及び傾き比を示す。
【0057】
得られた回帰式の傾きで燃焼率を比較した。固体試料グルコースの傾きを100%とした時、水分50μL含有時の傾き比は96.1%であった。このことから水分量50μLでも95%以上燃焼していると考えられた。さらにこの時、燃焼率と炭酸ガス化率は同等と考えられるため、水分量10〜50μLの範囲であれば炭酸ガス化率90%以上を達成していると判断した。
【0058】
[実験3] ダイナミックレンジの評価
水分量50μLまで問題なく試料を燃焼できると考えられたため、水分量50μLにて、炭素量0.05〜10mgCの範囲でグルコース水溶液を燃焼し、EA測定条件1、EA測定条件2にて測定した。得られたエリア値と試料の理論炭素量から検量線を作成し、ダイナミックレンジの評価をEA測定条件1、EA測定条件2それぞれで行った。
<試料セット及び測定>
炭素量0.l〜10mgCとなるようにグルコース水溶液を調製し、EA測定条件1及びEA測定条件2にて測定した。表12にEA測定条件1での炭素量とピークエリア値のプロットを示す。表13にEA測定条件1での変動係数(CV)及び相対誤差(RE)を示す。表14EA測定条件2での炭素量とピークエリア値のプロットを示す。表15にEA測定条件2での変動係数(CV)及び相対誤差(RE)を示す。
【0063】
EA測定条件1において、導入試料用量0.1〜10mgCの範囲で、変動係数(CV)0.2〜6.0%、相対誤差(RE)−2.5〜5.1%、及び決定係数(R
2:相関係数Rの二乗)0.9994を示し、ダイナミックレンジ100倍であることを確認した。EA測定条件2では、導入試料用量0.05〜10mgCの範囲で、変動係数(CV)0.6〜2.5%、相対誤差(RE)−9.4〜5.1%、及び決定係数(R
2:相関係数Rの二乗)0.9999を示し、ダイナミックレンジ200倍であることを確認した。
【0064】
[実験4] 生体試料の燃焼
小目的:未処理の生体試料の燃焼評価を行った。なお、医薬品の体内動態評価においては、高精度に測定するため、前処理を行った試料を導入することが望ましいが、実験4では生体マトリックスの影響確認も含め評価するため、10〜50μLの血漿および尿試料を燃焼させて評価した。
1.試料準備
ヒト血漿:白人男性血漿(マーシャルバイオリソーシスジャパン株式会社より購入)10mL×4を混合したもの。
ヒト尿:所内ボランティアより採取したもの(20〜50代男性、混合なし)。
2.スズカプセル内包
試料をそれぞれ10〜50μL量りとり、スズカプセルに内包した。
3.試料セット、測定
封入した試料をEAにセットし上述のEA測定条件2で測定を行なった。
表16に試料量とピークエリア値のプロット(結果4)を示す。表17に得られたクロマトグラムを示す。
【0067】
血漿、尿ともに決定係数が0.9996以上であり、試料量に応じて良好な直線性が確認された。クロマトグラムにも問題は見られず未処理生体試料も燃焼できることが確認された。このとき50μL導入量の測定結果から生体試料中の炭素量を算出すると表18の通りとなった。
【表18】
【0068】
EAの試料燃焼性能を確認した結果、固体試料および水分量50μLまでの水溶液試料について、問題無く酸化燃焼できることが確認できた。固体試料の検量線傾きを炭酸ガス化率100%と考えた時、最も酸化燃焼しにくいと考えられる水分量50μLを含む試料の検量線傾きは96.1%であった。また、この時のダイナミックレンジは100倍以上であると考えられた。以上より、EAはCRDS装置の試料導入部の目標設定を達成したことから、試料導入部に適用出来ることが確認できた。
【0069】
[実験5]
14C試料を燃焼して生成した
14CO
2を回収、測定することにより、試料導入部における炭酸ガス化率が90%以上であることを確認した。
14C標識化合物としてアセトアミノフェンを用いた。実験5の結果(結果5)を表19に示す。
【表19】
【0070】
導入する
14C量を一定とし、総C量を変えて測定を行った。その結果C量14.1mgCでも
14C回収率90%以上であることを確認した。以上から化合物中の
14Cはほとんど全て
14CO
2となっていると考えられ、
14C回収率を炭酸ガス化率として90%以上であると考えられた。
【0071】
本発明以前の放射性炭素同位体測定の代表例であるAMSにおける前処理法を挙げ、本発明において二酸化炭素同位体生成装置40に、
図2で示される原理を用いた場合の前処理法を例として比較する。
AMSにおける前処理法は、測定試料の洗浄や希釈をなどの調整、前処理後の生体試料を二酸化炭素化する工程、還元工程、プレス工程からなる。100検体を測定する場合、AMSでは人員2名を要し、日数は最低6〜7日である。また、測定費用は400万円である。(1検体当たり4万円、加速器分析センターの資料を参考)。
一方、本願のCRDSを用いた前処理法は、生体試料から生体由来炭素を除去する工程、前処理後の生体試料を二酸化炭素化する工程、精製(濃縮,夾雑ガス除去)工程、除湿冷却工程からなる。100検体を測定する場合、生体試料を二酸化炭素化する工程以降は自動化できるため、人員1名で1〜2日での処理が可能である。なお測定費用は100万円以下を想定している。(1検体数百〜数千を設定)
なお、AMSを用いた装置はテニスコートの半面程度の設置面積の特別な建屋が必要になるが、CRDSを用いた装置は、デスクトップサイズまで設置面積を縮小化でき、また配置自由度を高めることができる。
【0072】
本発明以前の放射性炭素同位体測定の代表例であるLSC及びAMSにおける前処理法を挙げ、本発明において二酸化炭素同位体生成装置40に、
図2で示される原理を用いた場合の前処理法を例として比較する。
LSCで生体試料を測定する場合の前処理工程について、生体試料の種類により処理時間に差はあるものの、数分から約28時間を要する。尿と血液の前処理法の例を挙げる。
尿をLSC測定に供する場合、尿試料を必要に応じて蒸留水で希釈すればよい。当該前処理に要する時間は、数分である。
LSCは,試料から発する放射線とシンチレーターにより発する蛍光を検出し,放射線量を計測するが血液をLSC測定に供する場合、血液由来の色素が蛍光の検出を妨害し,正しく測定できない場合がある。このような場合,血液試料に組織溶解剤Soluene−350(PerkinElmer社)などを添加し、数時間40℃から60℃に加温し、さらに30%過酸化水素を添加して血液色素を脱色させる必要がある場合がある。当該前処理に要する時間は、約4〜24時間である。また別の前処理方法としては、血液試料を乾燥させたのち、試料中の炭素を二酸化炭素に燃焼酸化させ、生成した二酸化炭素をアミンなどでトラップする方法が挙げられる。
当該前処理に要する時間は、約4〜24時間である。
【0073】
AMSで生体試料を測定する場合の前処理工程は、第1の工程〜第5の工程からなる。以下に各工程の概略を記載する。なお、生体試料の例としては、血液、血漿、尿、糞、胆汁などが挙げられる。
第1の工程は、測定に供する生体試料を、必要に応じて希釈溶媒で希釈し、分取する工程である。希釈溶媒として、超純水またはブランク試料等が好適に用いられる。
第2の工程は、上記分取した試料を酸化させ、試料中に含まれる炭素を二酸化炭素にする工程である。
第3の工程は、水や窒素などから二酸化炭素を単離・精製する工程である。精製後の二酸化炭素について、炭素量を定量する。
第4の工程は、精製された二酸化炭素を還元反応によりグラファイトにする工程である。還元反応の例として、還元剤である鉄粉末と水素ガスを混合し電気炉で加熱しグラファイトを作製する方法が挙げられる。
第5の工程は、調製したグラファイトをプレスする工程である。
上記前処理工程に要する時間は約6日間である。
【0074】
LSCの前処理にかかる時間が数分〜約28時間、AMSの前処理にかかる時間が約6日間であるのに対して、本実施形態における
図2で示される原理を用いた二酸化炭素を生成する工程にかかる時間は、数分〜約28時間である。前処理例として希釈、抽出、濃縮などが挙げられる。原理的に、測定に供する試料に含まれる炭素が完全燃焼して二酸化炭素に変換されればよく、本実施形態によれば前処理時間を検体あたり数分〜約1.5時間程度まで短縮できる。例えば血液試料をLSCで測定する場合に必要な組織溶解工程や脱色工程が、CRDSで測定する場合には不要となる。そのため
図18〜21で示す前処理工程にかかる時間は、1検体あたり数分〜約1.5時間である。
【0075】
(炭素同位体分析方法)
分析対象として放射性同位体
14Cを例にあげて説明する。
【0076】
(イ)まず
図1に示すような炭素同位体分析装置1を用意する。また放射性同位体
14C源として、
14Cを含む生体試料、例えば、血液、血漿、尿、糞、胆汁などを用意する。
(ロ)生体試料の前処理として除タンパクを行うことにより、生体由来炭素源を除去する。除タンパクの方法としては、酸や有機溶媒によりタンパク質の不溶化させる除タンパク法、分子サイズの違いを利用する限外濾過または透析による除タンパク法、固相抽出による除タンパク法等が例示できる。後述するように、
14C標識化合物の抽出が行えることや、有機溶媒自身の除去が容易であることから、有機溶媒による除タンパク法が好ましい。
有機溶媒を用いた除タンパク法の場合、まず生体試料に有機溶媒を添加し、タンパク質を不溶化する。このとき、タンパク質に吸着している
14C標識化合物が、有機溶媒含有溶液へ抽出される。
14C標識化合物の回収率を高めるために、前記有機溶媒含有溶液を別の容器に採取後、残差にさらに有機溶媒を添加し、抽出する操作を行ってもよい。前記抽出操作は複数回繰り返してもよい。なお、生体試料が糞である場合、肺など臓器である場合等、有機溶媒と均一に混合しにくい形態の場合には、該生体試料をホモジネートする等、生体試料と有機溶媒とが均一に混合されるための処理をすることが好ましい。また必要に応じて、不溶化したタンパク質を、遠心操作、フィルターによるろ過等により除去してもよい。
その後、有機溶媒を蒸発させることにより
14C標識化合物を含む抽出物を乾固させ、有機溶媒由来の炭素源を取り除く。前記有機溶媒は、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、またはアセトニトリル(ACN)が好ましく、アセトニトリルがさらに好ましい。
【0077】
(ハ)前処理後の生体試料を加熱・燃焼させて、放射性同位体
14C源から二酸化炭素同位体
14CO
2を含むガスを生成する。そして、得られたガスからN
2O、COを除去する。具体的には、
図2,
図3の装置を用いて
14CO
2を分離することが好ましい。
【0078】
(ニ)得られた
14CO
2から水分を取り除いておくことが好ましい。例えば二酸化炭素同位体生成装置40内にて、
14CO
2を炭酸カルシウム等の乾燥剤上を通過させたり、
14CO
2を冷却して水分を結露させることにより水分を除去することが好ましい。
14CO
2に含まれる水分に起因する光共振器11の着氷・着霜によるミラー反射率低下が検出感度を低下させるため、水分を除去しておくことで分析精度が上がるからである。なお、分光工程を考慮すると、分光装置10へ
14CO
2を導入する前に、
14CO
2を冷却しておくことが好ましい。室温の
14CO
2を導入すると、共振器の温度が大きく変化し、分析精度が低下するためである。
【0079】
(ホ)
14CO
2を、
図1に示すような1対のミラー12a、12bを有する光共振器11内に充填する。そして
14CO
2を273K(0℃)以下に冷却することが好ましい。照射光の吸収強度が高まるからである。また光共振器11を真空雰囲気に保つことが好ましい。外部温度の影響を軽減させることで、測定精度が高まるからである。
【0080】
(ヘ)1つの光源23から第1光として光周波数コム光を発生させる。得られた第1光を第1光ファイバー21に伝送する。また第1光ファイバー21から分岐する波長変換用の第2光ファイバー22に第1光を伝送させ第1光とは異なる波長の第2光を発生させる。次に第2光を第1光ファイバー21の下流側で合流させ、第1光と第2光を非線形光学結晶25に通過させ、周波数の差から二酸化炭素同位体
14CO
2の吸収波長の4.5μm帯の光を照射光として発生させる。
【0081】
(ト)二酸化炭素同位体
14CO
2に照射光を照射し共振させる。その際、測定精度を上げるためには、光共振器11の外部からの振動を吸収し、ミラー12a、12b間隔にずれが生じないようにすることが好ましい。また照射光が空気に触れないように、第1光ファイバー21の下流側の他端をミラー12aに当接させながら照射することが好ましい。そして光共振器11からの透過光の強度を測定する。
図5に示すように透過光を分光し、分光されたそれぞれの透過光について強度を測定してもよい。
【0082】
(チ)透過光の強度から炭素同位体
14C濃度を計算する。
【0083】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
実施形態に係る炭素同位体分析装置においては、分析対象である炭素同位体として放射性同位体
14Cを中心に説明した。放射性同位体
14Cの他にも、安定同位体元素である
12C、
13Cを分析することができる。その場合の照射光としては、例えば、
12C及び
13C 分析を
12CO
2及び
13CO
2の吸収線分析として行う場合は、2μm帯や1.6μm帯の光を用いることが好ましい。
12CO
2、及び
13CO
2の吸収線分析を行う場合、ミラー間隔は10〜60cm、ミラーの曲率半径はミラー間隔と同じかそれ以上、とすることが好ましい。
なお、
12C、
13C、
14Cはそれぞれ化学的には同じ挙動を示すが、安定同位体元素
12C、
13Cよりも放射性同位体
14Cの天然存在比が低いことから、放射性同位体
14Cはその濃度を人工的な操作により高くし、精度よく測定を行うことで様々な反応過程の観測が可能となる。
実施形態に係る炭素同位体分析装置は、第1光ファイバーから分岐し分岐点より下流側で第1光ファイバーに合流する非線形ファイバーで構成された第3の光ファイバーをさらに備えてもよい。第1〜第3の光ファイバーを組み合わせることで2種以上の様々な周波数の光を発生することが可能になるからである。
その他にも、例えば、実施形態において説明した構成を一部に含む医療診断装置、環境測定装置も同様に製造することができる。また実施形態において説明した光発生装置を測定装置として用いることができる。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。