【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために手段1では、度数を設定した検査対象レンズのレンズ面上においてプリズムの発生していない位置である光学センターに対してマーキングをする一方、前記検査対象レンズを玉型加工した際の外形形状(以下、玉型形状とする)と共に前記検査対象レンズに設定される度数に応じたプリズムの許容範囲に基づいて算出した合格領域として表示面に表示させ、前記検査対象レンズを前記表示面上の前記玉型形状に重ねて照合させた際に、前記玉型形状を前記検査対象レンズ内の玉型加工を施す位置に配置させた状態で前記光学センターにおけるマーキングが前記合格領域内に存在する場合に前記検査対象レンズが光学センターの位置について合格であると判定するようにした。
【0006】
このような構成では、検査対象レンズのレンズ面上の光学センターに対してマーキングを施し、その後この検査対象レンズの玉型形状と共にこの検査対象レンズに設定される度数に応じたプリズムの合格領域を表示した表示面に対して検査対象レンズを重ねて照合する。そして、照合において玉型形状が検査対象レンズ内の玉型加工を施す位置に配置された状態で光学センターにおけるマーキングが合格領域内に存在するのであれば、それは光学センターが公差内の妥当な位置にあるといえるため自動的に合格範囲であると判定できる。
これによってレンズメーカーであっても眼鏡店であっても照合する人の主観に頼らず客観的に検査対象レンズの光学センターがプリズムの許容範囲にあることを判断することができる。また、メーカー側での検査において合格と判断されたレンズにマーキングをしたままで眼鏡店に納品した場合には、一見して光学センターが許容範囲内にあることがわかるため、眼鏡店側で改めてレンズメーターで光学センターを測定する必要がないため、眼鏡店側の手間が簡略化される。
【0007】
ここに「検査対象レンズ」はアイポイント近傍に屈折力の分布のないレンズがよく、具体的には単焦点レンズ(SVレンズ)、バイフォーカルレンズ(BFレンズ)である。累進屈折力レンズを検査対象レンズとするようにしてもよい。但し、プリズム指定のあるレンズは含まれない。また、レンズ形態としては枠入れのための玉型加工をする前の丸レンズでも玉型加工後の玉型レンズでもよい。また、偏心をつけて加工された丸レンズでもよい。
検査対象レンズの光学センターへ「マーキング」をするとは、例えば剥がしやすいシールを貼ったり、筆やペンで消しやすい塗料や染料を印点することがよい。
「プリズムの許容範囲」とは、レンズの加工時にアイポイント位置に生じたプリズムの量の許容される範囲である。アイポイント位置に生じたプリズムの量がプリズムの許容範囲に含まれていれば、光学センターとアイポイントが一致しておらずプリズムが発生していても実際のレンズの使用上支障のない公差の範囲にあるということになる。許容範囲に基づいて算出しこれを目視可能に表示したものが合格領域となる。許容範囲は、例えばISOの許容範囲に基づいて設定することができる。また、レンズメーカーが独自にISOよりも厳しい許容範囲を設定することも可能である。一例として以下にISOの許容範囲に基づいた許容範囲を説明する。
また、「玉型形状が検査対象レンズ内の玉型加工を施す位置に配置され」とは後述のように玉型形状が検査対象レンズ内において一義的に位置が決まるとは限らないことを意味する。玉型形状が検査対象レンズ内において複数の異なる位置で玉型加工を施すことが可能な場合には光学センターとアイポイントがなるべく近くなるような位置に配置することがよい。
【0008】
以下は、プリズム指定値が0〜2プリズム(本発明ではプリズム指定値は0)の場合のISOの許容範囲の例である。許容範囲は水平方向と垂直方向についてそれぞれ定められている。また、ここにDminとはS度数とS+C度数の絶対値の小さいほうの値である。例えば、
S+1.00D C+0.50D AX180
というプラス乱視度数の例では、
S度数の絶対値は|1|=1、S+C度数の絶対値は|1+0.5|=1.5
なので、両者のうちの小さいほうの値は1となる。あるいは、
S+2.00D C−3.00D AX180
というミックス乱視度数の例では、
S度数の絶対値は|2|=2、S+C度数の絶対値は|2−3|=1
なので、両者のうちの小さいほうの値は1となる。
A.水平方向のプリズムの許容範囲
0.00D≦Dmin≦3.25Dのレンズの場合には0.33プリズム以下。
3.25D<Dmin の場合には偏心量が1mm以内であり、プリズム値では、近似的に0.1×Dminプリズム以内となる。
B.垂直方向のプリズムの許容範囲
0.00D≦Dmin≦5.00D の場合には0.25プリズム以下。
5.00D<Dmin の場合には偏心量が0.5mm以内であり、プリズム値では、近似的に0.05×Dminプリズム以内となる。
表示面にはレンズに設定した度数毎にこのような許容範囲に基づいて算出して合格領域として玉型形状内に表示させる。
合格領域の外郭は以下のプレンティスの式B.から度数毎に求めることができる。求め方としては、アイポイントを中心とした周囲360度方向を、細かな間隔、例えば1度ステップで360点プロットしてそれを結ぶことによって描くようにしたり、方形となる合格領域の4つのコーナーの座標を求めてそれらを直線で結ぶようにしてもよい。
【0009】
次に、プリズム量とセンターずれの関係について説明する。センターずれとは、光学センターが本来あるべき位置(一般には丸レンズにおいては幾何中心を予定する。特殊な場合には偏心させた位置とすることもある)からずれた距離のことである。プリズム量又はセンターずれは近似的にプレンティスの式で求めることができる。プレンティスの式は次の2つの形式で示される。
A.プリズム量(プリズムディオプター)=センターずれの大きさ(mm)・レンズの度数(D)/10
B.センターずれの大きさ(mm)=10・プリズム量(プリズムディオプター)/レンズの度数(D)
この式を用いると、本来光学センターを予定していた位置にプリズムが発生していれば、そのプリズムによって光学センターが本来予定していた位置からどのくらい距離がずれているのかを計算することができる。尚、プレンティスの式以外の方法、例えばスネルの法則に従った計算によりセンターずれを算出することもできる。プリズム指定のないレンズにおいては、アイポイントにおいてレンズの凸面と凹面は本来平行になるが、加工誤差によって平行ではなくなるとその影響でプリズムを生じる。プレンティスの式以外の方法でセンターずれを算出するには、アイポイント位置において周囲各方向に(例えば1度ステップで)許容される最大のプリズムがついた状態を想定してシミュレーションを行い、そのプリズムを生じさせるだけレンズの凸面と凹面の角度が並行から変化したとき、凸面と凹面が並行になる位置を算出し、その位置を光学センターとする。
球面度数のレンズにおいては、プリズムを生じた方向とセンターずれの方向が一致する。但し、度数のプラスマイナスによってセンターずれの向きは反対になる。例えばプラス度数レンズでベースインプリズムを生じると光学センターは鼻側にずれ、マイナス度数レンズでベースインプリズムを生じると光学センターは耳側にずれる。乱視度数のレンズにおいても、生じたプリズムの方向に応じてセンターずれを生じる。
また、レンズの度数が0かあるいはごく弱い場合、わずかなプリズムを生じただけで大きなセンターずれを生じる。逆にいえばレンズの度数がごく弱い場合、センターずれが大きくともそれほど大きなプリズムを生じていることにはならない。そのためこのようなレンズではセンターずれの合格範囲が大きくなる。
【0010】
また、ある位置においてプリズムがある場合に、光学センターがどの方向にどれだけ離れた位置にあるか、つまりセンターずれを生じている場合にどのようにずれているかは
図16に基づいて次のように計算される。
プリズムはS方向とS+C方向の合成であると考える。そして、S度数と、S方向(AXで表示された方向)の量を求め、その方向への偏心A(mm)を求める。一方、S+C度数と、S+C方向(AXとは直角方向)のプリズム量を求め、その方向への偏心B(mm)を求め、偏心Aと偏心Bを合成して光学センターのずれ量を決定する。
具体的には例えば次のように計算される。
S+2.00D C−4.00D AX45 で、水平プリズムが0.00P、垂直プリズムが0.56Pとなっている位置を基準位置Oとして光学センターの位置、つまり光学センター移動位置を計算する。
S度数は+2.00DでありS方向のプリズムはAX45なので45度方向となる。90度方向の垂直プリズムの0.56Pを分解すると45度方向は0.40Pとなり、その方向への偏心A(センターずれ成分)はプレンティスの式により2mmとなる。
一方、S+C度数は−2.00Dであり、S+C方向のプリズムは135度方向となる。上記と同様に135度方向に0.40Pとなる。しかし、S+C方向はマイナス度数となっているため、ずれの方向はS+C方向と180度反対の向きとなる。これはプラスレンズとマイナスレンズでプリズムがあった場合のセンターずれの向きが逆になる光学特性に基づくものである。そのため、偏心Bは、315度方向となり、プレンティスの式により2mmとなる。そして、偏心Aと偏心Bを合成すると、0度方向に2.8mmの偏心となる。つまり、基準位置Oからこの方向に2.8mmの位置に光学センターが存在することとなる。
【0011】
また、手段2では、前記検査対象レンズは単焦点レンズ又はバイフォーカルレンズであるようにした。
これらはアイポイント近傍に屈折力の分布のないレンズであり、収差分布がシンプルで許容範囲が計算しやすいからである。
また、手段3では、前記検査対象レンズは玉型加工する前の丸レンズであることを要旨とする。
検査対象レンズが丸レンズであれば、玉型形状を丸レンズに照合させた場合に丸レンズ内の複数の位置において最も光学センターとアイポイントが近い位置を探すことができるため、最適となる枠取りをすることができる。
また、手段4では、前記検査対象レンズが単焦点レンズかつ球面レンズである場合において、前記玉型形状を前記丸レンズ領域からはみ出ることのないように相対的に移動させた際に前記光学センターにおけるマーキングが前記合格領域に含まれる位置が常に存在する場合に前記検査対象レンズが合格であると判定するようにした。
検査対象レンズが丸レンズで単焦点レンズかつ球面レンズであると玉型形状は検査対象レンズとの照合において相対的に移動させてもいたるところの収差の変化がないため、玉型形状は検査対象レンズからはみ出ない限り相対的な移動が可能である。そのため、マーキングを合格領域に含ませ得る場合が増え、合格となる検査対象レンズも増えることとなる。更にマーキングをよりアイポイントに接近させた位置を探索してもっともずれの少ない位置での玉型取りを可能とすることもできる。検査対象レンズはSVレンズでもBFレンズであってもよい。
【0012】
また、手段5では、前記検査対象レンズが玉型加工する前の丸レンズであって、かつ非球面レンズである場合には、前記検査対象レンズと前記表示面とは少なくとも2箇所以上の位置に表示されたマーク同士が照合されて前記玉型形状が前記検査対象レンズ内の玉型加工を施す位置に位置決めされるようにした。
これによって、検査対象レンズを玉型形状に対する正しい位置に速やかに配置させることができ、その位置で検査対象レンズのプリズムについての合否を判定できるため、作業効率が向上する。2箇所以上の位置に表示させるのは1箇所では位置が確定できないからである。このようなマークはアイポイント付近にあると邪魔であるためアイポイントから遠い視認に支障のない位置に配置することがよい。
【0013】
また、手段6では、前記検査対象レンズは前記玉型加工した玉型レンズであるようにした。
検査対象レンズが玉型レンズであれば、玉型形状に対する玉型レンズの位置は一義的に定まるため、照合させるだけで光学センターが合格領域に含まれているかどうかが理解できるので合否判定の速度が速まることとなる。
また、手段7では、前記合格領域はアイポイント位置を含む領域に設定されるようにした。
一般的には光学センターをアイポイント位置に一致させるように加工するわけだから合格領域内にアイポイントを含むように設定することが最も妥当である。このことから、手段1においては合格領域にはアイポイント位置を含まない場合も想定している。
また、手段8では、前記検査対象レンズが単焦点レンズ又はバイフォーカルレンズである場合には前記合格領域はアイポイント位置を中心として回転対称となるように設定されるようにした。
検査対象レンズが単焦点レンズ又はバイフォーカルレンズの場合にはアイポイントの周辺において度数の分布はない、つまり位置によって度数に変化はないため、このように設定することが合格領域として妥当な設定となるためである。
【0014】
また、手段9では、前記合格領域は前記検査対象レンズに設定した度数に応じて算出手段によって算出されるようにした。
プリズムの許容範囲を玉型形状内の合格領域として位置情報に換算するために、算出手段によって算出することで異なる度数のレンズ毎に固有の合格領域として間違いなくかつ迅速にデータとして得ることができる。そして、表示手段、例えばモニターに表示させたり、出力手段、例えば用紙に印刷するようにする。算出手段と表示手段や出力手段は一体化していても別体で構成していてもどちらでもよい。
【0015】
また、手段10では、前記表示面は用紙上に印刷されているようにした。
用紙の形態であれば場所を問わず検査対象レンズのチェックが可能となる。
また、手段11では、前記表示面が表示された前記用紙は前記検査対象レンズと共に製造者側から眼鏡店側に納品されるようにした。
このように製造者(例えばレンズメーカー)側から眼鏡店に検査対象レンズを納入する際に検査対象レンズと用紙をセットで納入すれば、眼鏡店側のチェック作業もスムーズに行われることとなる。