特許第6792800号(P6792800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792800
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】封止用エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20201119BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20201119BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C08G59/20
   H01L23/30 R
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-103230(P2017-103230)
(22)【出願日】2017年5月25日
(65)【公開番号】特開2018-197324(P2018-197324A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
(72)【発明者】
【氏名】長澤 敦
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−213337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/20
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、
グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体と下記一般式(1)で示される単量体とを含有する単量体混合物の重合体(A)、および
硬化剤を含有しており、前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記重合体(A)の含有量が1〜300質量部であることを特徴とする、封止用エポキシ樹脂組成物。

【化1】
(式(1)中、
は、水素原子またはメチル基を示し、
は、水素原子、メチル基またはエチル基を示し、
は、炭素数1〜18のアルキル基を示し、
XおよびYは、それぞれ独立して、NHまたはOを示しており、ただし、XとYの少なくとも一方がNHである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等の封止に使用される封止用エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品や半導体素子を物理的または化学的に保護し、かつ固着するための封止材料として、エポキシ樹脂や硬化剤などを含むエポキシ樹脂組成物が従来から用いられている。耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性などが優れているためエポキシ樹脂がよく用いられているが、エポキシ樹脂の多くは、硬化後の性状が硬くて脆いため、折り曲げ時の屈曲性が不足することがあり、曲面状への加工やフレキシブルな基材上の加工などに対しての使用が困難であった。また封止する工程においては、室温で固体のエポキシ樹脂組成物をいったん加熱軟化させて金型内部に注入し充填して成形するところ、エポキシ樹脂は比較的高い熱膨張係数を有するため、硬化する際に内部応力が生じやすく、反りや亀裂、粘着力の低下を引き起こし、製品の信頼性に悪い影響を及ぼすことがあった。
【0003】
そのため、例えば特許文献1では、内部応力を低減するために、樹脂のガラス転移温度を高くして基材との収縮率の差を小さくする方法が提案されているが、工程が煩雑で材料に制約があるなどの課題があった。
【0004】
また、例えば特許文献2では、樹脂にポリアルキレンジオールを含有し、硬化体のガラス転移点以上の温度領域における貯蔵弾性率を特定の範囲にするなどの方法が提案されている。しかし、分子量1000以下程度の低分子量の化合物を使用する場合には、ブリードアウトにより信頼性に影響を与えるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−112515号公報
【特許文献2】特開2009−191170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような事情から、電子部品や半導体素子を物理的または化学的に保護し、かつ固着するための封止用エポキシ樹脂組成物であって、硬化後に屈曲性があり、また反りや亀裂がなく透明性が良好であり、接着性も良好な封止材が望まれる。
【0007】
本発明の課題は、電子部品や半導体素子を物理的または化学的に保護し、かつ固着するための封止用エポキシ樹脂組成物であって、硬化後に屈曲性があり、また反りや亀裂がなく透明性が良好であり、接着性も良好な封止材が得られる封止用エポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、エポキシ樹脂と、グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体および特定の単量体を含有する単量体混合物の重合体(A)とを特定の割合で含有し、更に硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出した。
【0009】
本発明は、
エポキシ樹脂、
グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体と下記一般式(1)で示される単量体とを含有する単量体混合物の重合体(A)、および
硬化剤を含有しており、前記エポキシ樹脂100質量部に対する前記重合体(A)の含有量が1〜300質量部であることを特徴とする、封止用エポキシ樹脂組成物に係るものである。

【化1】
(式(1)中、
は、水素原子またはメチル基を示し、
は、水素原子、メチル基またはエチル基を示し、
は、炭素数1〜18のアルキル基を示し、
XおよびYは、それぞれ独立して、NHまたはOを示しており、ただし、XとYの少なくとも一方がNHである。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物によれば、硬化後に屈曲性があり、また反りや亀裂がなく、透明性が良好である封止材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体と一般式(1)で示される単量体とを含有する単量体混合物の重合体(A)、および硬化剤を含有する。
【0012】
なお、本明細書において(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを表す。
【0013】
〔エポキシ樹脂〕
本発明においてエポキシ樹脂としては、公知のエポキシ樹脂を使用することができる。例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、含窒素環エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロ環型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂等が挙げられ、これらエポキシ樹脂は1種類を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0014】
エポキシ樹脂の軟化点、融点、エポキシ当量に関して特に制限はないが、エポキシ当量が100〜5,000であることが好ましい。また、エポキシ樹脂の融点が低すぎると、常温で溶融し、作業性が低下して、生産性が低下するおそれがあるので、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が60℃以上の結晶性エポキシ化合物が特に好ましい。
【0015】
〔重合体(A)〕
本発明における重合体(A)は、グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体と上記一般式(1)で示される単量体とを含有する単量体混合物から生成させた重合体である。
【0016】
グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体としては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。工業的に入手しやすいことから、グリシジルメタクリレートを用いることが特に好ましい。なお、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
単量体混合物全体を100モル%としたとき、グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体の含有量は、合計で1〜90モル%が好ましく、特に好ましくは10〜85モル%、更に好ましくは20〜80モル%である。
【0018】
次いで、一般式(1)で示される単量体について更に述べる。
式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、重合のしやすさの観点からメチル基が特に好ましい。
は、水素原子、メチル基またはエチル基を示すが、アミンまたはアルコールとの反応性の観点からは、水素原子が特に好ましい。
【0019】
は、炭素数1〜18のアルキル基である。炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert- ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられ、合成のしやすさとチクソ性の観点から、Rの炭素数は2〜12が好ましく、3〜6がより好ましい。
【0020】
XとYは、それぞれ独立して、酸素原子(−O−)あるいはNH基であり、チキソトロピー性の観点から、XとYとの少なくとも一方がNH基であることが好ましく、XおよびYが両方ともNH基であることが更に好ましい。
【0021】
一般式(1)で示される単量体は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
単量体混合物全体を100モル%としたとき、一般式(1)で示される単量体の含有量が低すぎると、接着性が低下するおそれがあるので、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上が特に好ましい。
【0023】
また、単量体混合物全体を100モル%としたとき、一般式(1)で示される単量体の含有量は、99モル%以下が好ましい。60モル%以下がより好ましく、40モル%以下とすることが特に好ましい。
【0024】
単量体混合物には、グリシジル基またはオキセタニル基含有単量体および一般式(1)で示される単量体とともに、その他の単量体を含有していても良い。その他の単量体は、上記グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体および一般式(1)で示される単量体以外の単量体であり、例えば、スチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N,N‘−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N‘−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、メトキシポリプロピレングリコール(重合度2〜30)モノ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。その他の単量体は、1種類を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0025】
単量体混合物全体を100モル%したとき、その他の単量体の含有量は、好ましくは89モル%以下(0〜89モル%)であり、特に好ましくは75モル%以下(0〜75モル%)であり、さらに好ましくは60モル%以下(0〜60モル%)である。
【0026】
すなわち、グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体と一般式(1)で示される単量体の合計含有量は、単量体混合物において、好ましくは11モル%以上(11〜100モル%)であり、より好ましくは25モル%以上(25〜100モル%)であり、特に好ましくは40モル%以上(40〜100モル%)である。
【0027】
重合体(A)の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、1質量部以上とするが、10質量部以上が更に好ましく、20質量部以上が更に好ましく、30質量部以上が特に好ましい。また、重合体(A)の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、300質量部以下とするが、200重量部以下が好ましく、150重量部以下が更に好ましく、130質量部以下が特に好ましい。
【0028】
また、重合体(A)の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で、3, 000〜1,000, 000であることが好ましく、さらに好ましくは5,000〜500,000である。
なお、重合体(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0029】
(一般式(1)で示される単量体の製造方法)
本発明の一般式(1)で示される単量体は、ウレア結合もしくはウレタン結合を有するモノマーである。
上記一般式(1)で示される単量体は、例えば、イソシアネート基含有モノマーとアミン化合物もしくはアルコール化合物の反応や、ヒドロキシ基含有モノマーとアルキルイソシアネートの反応によって得ることができる。
【0030】
前記イソシアネート基含有モノマーとしては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましく、重合安定性の観点から、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートがより好ましい。
【0031】
前記アミン化合物は、1級アミン化合物又は2級アミン化合物であることが好ましく、1級アミン化合物であることがさらに好ましい。
上記1級アミン化合物としては、例えば、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、アニリン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、バインダー樹脂組成物のチキソトロピー性の観点から、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミンが好ましく、n−ブチルアミンがさらに好ましい。
【0032】
また、前記2級アミン化合物としては、例えば、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジオクチルアミン(ジ−n−オクチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミ、ピペリジン、モルホリン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
また、前記アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、反応時の安定性の観点から、上記アルコール化合物が、炭素数2〜8のアルコールであることが好ましい。該炭素数2〜8のアルカノールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール等が挙げられ、なかでもエタノール、プロパノール、ブタノールが好ましい。
【0034】
前記ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2〜8の2価アルコールとのモノエステル化物が挙げられる。その中でも、イソシアネート基との反応性の観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0035】
前記アルキルイソシアネートとしては、例えば、エチルイソシアネート、n−ブチルイソシアネート、iso−ブチルイソシアネート、tert−ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、n−オクチルイソシアネート、2−エチルヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられるが、重合体のチキソトロピー性の観点から、n−ブチルイソシアネートが好ましい。
【0036】
前記イソシアネート基含有モノマーとアミン化合物もしくはアルコール化合物との反応および、ヒドロキシ基含有モノマーとアルキルイソシアネートの反応は、両者を混合し、所望により温度を上げ、公知の方法で実施することができる。また必要に応じて、触媒を添加してもよく、例えば、スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウリレートなどのスズ系触媒、トリエチレンジアミンなどのアミン系触媒など公知の触媒を用いることができる。この反応は5〜100℃、好ましくは20〜80℃の温度で行うことが望ましい。また、上記反応は溶剤を使用してもよく、例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン等の存在下で行うことができる。
【0037】
(重合体(A)の製造方法)
本発明における重合体(A)は、グリシジル基またはオキセタニル基を有する単量体および一般式(1)で示される単量体を少なくとも含有する単量体混合物を、ラジカル重合させることにより得られる。
【0038】
重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合が挙げられるが、重量平均分子量を調整し易いという面で、溶液重合が好ましい。
【0039】
重合に際しては重合開始剤を用いることができ、かかる重合開始剤としては公知のものを使用することができる。例えば、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種類のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0040】
重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや、反応条件などに応じて適宜設定することができる。
なお、重合開始剤を投入するに際しては、例えば、全量一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよく、全量を滴下してもよい。また、前記単量体とともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましく、さらに単量体滴下後も重合開始剤を添加すると、残存単量体を低減できるので好ましい。
【0041】
溶液重合の際に使用する重合溶媒としては、単量体と重合開始剤が溶解するものを使用することができ、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0042】
重合溶媒に対する単量体混合物の濃度は、10〜70質量%が好ましく、特に好ましくは20〜50質量%である。単量体混合物の濃度が低すぎると、単量体が残存しやすく、得られる重合体の分子量が低下するおそれがあり、濃度が高すぎると発熱を制御し難くなるおそれがある。
【0043】
単量体を投入するに際しては、例えば、全量一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、または全量を滴下するのが好ましい。
【0044】
重合温度は、重合溶媒と重合開始剤の種類に依存し、例えば、50℃〜110℃である。
重合時間は、重合開始剤の種類と重合温度に依存し、例えば、重合開始剤としてジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを使用し、重合温度を70℃として重合する場合であれば、重合時間は6時間が適当である。
【0045】
以上の重合反応を行なうことにより、本発明の封止用エポキシ樹脂組成物に係る重合体(A)が得られる。得られた重合体(A)は、そのままエポキシ樹脂組成物の調製に用いてもよいし、重合反応後の反応液を乾燥したり、ろ取や精製を施して単離してから用いてもよい。
【0046】
〔硬化剤〕
本発明において用いる硬化剤としては、エポキシ樹脂の種類に応じて公知のエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができる。例えば、フェノールノボラック樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;無水テトラカルボン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの酸無水物系硬化剤;アミン系硬化剤などが挙げられ、これら硬化剤のうち1種類を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。主としてフェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤を使用することが望ましい。
【0047】
硬化剤の配合割合は、特に制限されないが、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ基1当量に対して、0.5〜1.5当量となることが好ましい。
【0048】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、重合体(A)および硬化剤を含有する樹脂組成物であるが、場合により、硬化促進剤、酸化防止剤、離型剤、シランカップリング剤、充填剤、顔料、染料などの各種の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0049】
硬化促進剤としては、必要に応じて、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を促進させる公知の硬化促進剤を使用することができる。例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン、ジアザビシクロウンデセン等の3級アミン類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機ホスフィン類;4級アンモニウム塩類;ホスホニウム塩類などが一般的であり、硬化性が良いもが好ましい。これら硬化促進剤のうち1種類を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0050】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物等の公知の酸化防止剤を適宜使用することができる。
離型剤としては、例えば、天然カルナバ系、長鎖脂肪酸およびその金属石鹸、エステル、アマイド、ポリエチレン系ワックスなどのポリオレフィン等の公知の離型剤を適宜使用することができる。
充填剤としては、例えば、シリカ、窒化珪素、アルミナ、石英ガラス、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられ、これら充填剤のうち1種類を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0051】
上記配合成分をミキサー、ブレンダーなどを用いて均一に混合した後、ニーダー、ロールなどを用いて混錬して封止用エポキシ樹脂組成物が得られる。
上記混錬した後に、必要に応じて、冷却固化してから粉砕し、粉状または粒状にして用いることができる。このようにして得られた封止用エポキシ樹脂組成物は、金型を用いてトランスファー成形することにより、電子部品や半導体素子等を封止することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下において「%」および「部」は質量基準である。
【0053】
実施例および比較例にて使用した単量体の名称と略号を下記に示す。
GMA:グリシジルメタクリレート
iBMA:イソブチルメタクリレート
【0054】
(合成例1:モノマーa1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び空気導入管を取り付けた300mLフラスコに、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製「カレンズMOI」)51.2g、テトラヒドロフラン40g、メトキノン0.012gを仕込んだ。フラスコ内に空気を導入し、内温を40℃に保持しながら、n−ドデシルアミン24.1gを1時間かけて滴下した。その後、40℃で2時間熟成させたのち、テトラヒドロフランを60℃で減圧留去し、モノマーa1を得た(収率92%)。
【0055】
(合成例2:モノマーa2)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び空気導入管を取り付けた300mLフラスコに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(日油株式会社製「ブレンマーE」)、メトキノン0.012gを仕込んだ。フラスコ内に空気を導入し、内温を60℃に保持しながら、n−ブチルイソシアネートを1時間かけて滴下した。その後、80℃に昇温し、6時間熟成させたのち、40℃まで冷却後、イオン交換水100mLを加え、撹拌、静置した。下層のモノマーA3層を抜き取り、80℃で減圧し、脱水し、モノマーa2を得た(収率70%)。
【0056】
(合成例3:モノマーa3)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び空気導入管を取り付けた300mLフラスコに、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製「カレンズAOI」)46.6g、テトラヒドロフラン40g、メトキノン0.012gを仕込んだ。フラスコ内に空気を導入し、内温を40℃に保持しながら、n−ブチルアミン24.1gを1時間かけて滴下した。その後、40℃で2時間熟成させたのち、テトラヒドロフランを60℃で減圧留去し、モノマーa3を得た(収率90%)。
【0057】
【表1】

【0058】
〔重合体(A−1)の合成〕
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロートおよび窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコにイソプロパノール350gを仕込み、窒素置換により窒素雰囲気下とした。GMA(製品名:ブレンマーGMA(日油(株)製))を119g、モノマーa1 281gを混合した単量体溶液、およびイソプロパノール50gと2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル(製品名:V−65(和光純薬工業(株)製))2.4gを混合した重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。
【0059】
反応容器内を75℃まで昇温し、単量体溶液および重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下した。その後、75℃で3時間反応させた。反応後、重合液を60℃で3時間かけて脱溶剤し、重合体(A−1)を得た。
【0060】
〔重合体(A−2)の合成〕
GMAの使用量を314g、モノマーa1の変わりにモノマーa2を70gとイソブチルメタクリレート(製品名:アクリエステルIB(三菱レイヨン(株)製)を16gに変更し、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.8gに変更した以外は重合体(A−1)と同様の手法で重合体(A−2)を得た。
【0061】
〔重合体(A−3)の合成〕
GMAの使用量を174g、モノマーa1の変わりにモノマーa3を157gとイソブチルメタクリレートを70gに変更した以外は重合体(A−1)と同様の手法で重合体(A−3)を得た。
【0062】
【表2】

【0063】
〔重合体(A−4)の合成〕
GMAの使用量を62g、モノマーa1の変わりにモノマーa3を277gとイソブチルメタクリレートを62gに変更した以外は重合体(A−1)と同様の手法で重合体(A−4)を得た。
【0064】
〔実施例1〜4及び比較例1〕
表3に示した分量でエポキシ樹脂、重合体(A)、硬化剤、硬化助剤を、ミキサーを用いて均一に混合した後に、ニーダーを用いて混錬して封止用エポキシ樹脂組成物を得た。なお、実施例1では重合体(A−1)、実施例2では重合体(A−2)、実施例3では重合体(A−3)、実施例4では重合体(A−4)をそれぞれ用いた。
【0065】
次に、得られた封止用エポキシ樹脂組成物を用い、その硬化体の硬化後の屈曲性と接着性をそれぞれ下記の方法にしたがって評価した。ただし、硬化剤の量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対する当量数で示した。これらの結果を表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
エポキシ樹脂b:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:jER1001(三菱化学社製) )
エポキシ樹脂c:ビフェニル型エポキシ樹脂(製品名:jERYX4000H(三菱化学社製))
硬化剤d:テトラヒドロ無水フタル酸
硬化剤e:フェノールノボラック樹脂(水酸基当量:104g/eq.、軟化点:100℃(DIC社製))
硬化助剤:2−エチル−4−メチルイミダゾール
【0068】
〔屈曲性〕
各封止用エポキシ樹脂組成物を用い、100μm厚のアルミシート上に120℃で溶融した樹脂液を塗布し、150℃3時間加熱し500μm厚の樹脂シートを作成した。アルミシートから剥離した樹脂シートに定規を当てて折り曲げて屈曲性を下記の基準で評価した。

◎:割れなく折れ曲がる。
○:90度以上の折り曲げ後割れる。
×:90度以下の折り曲げで割れる。
【0069】
〔接着性〕
各封止用エポキシ樹脂組成物を用い、100μm厚の銅シート上に120℃で溶融した樹脂液を塗布し、150℃3時間加熱し200μm厚の樹脂シートを作成した。樹脂シートを銅シートとともに90度以上折り曲げて平面状に戻した状態にして樹脂シートの接着性を次の基準で評価した。

◎:折り曲げ部分の樹脂シートに浮きがなく銅シートへの接着性が良好である。
×:折り曲げ部分の樹脂シートと銅シートの間に浮きが見られる。
【0070】
〔外観〕
各封止用エポキシ樹脂組成物を用い、1. 5mm厚のガラス板上に120℃で溶融した樹脂液を塗布し、150℃3時間加熱し500μm厚の樹脂膜を作成した。樹脂膜の外観を次の基準で評価した。

○:亀裂なく透明性があり封止状態が良好である。
×:透明性はあるが亀裂が入っている。
【0071】
上記結果から、全ての実施例は、重合体(A)を含有しない比較例1と比べて、屈曲性と接着性が改善しており、またそれ以外の外観の評価項目に関しても良好な評価結果が得られており、優れた封止用エポキシ樹脂組成物が得られていることが分かる。