(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792827
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20201119BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20201119BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20201119BHJP
B29C 33/34 20060101ALI20201119BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20201119BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20201119BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20201119BHJP
B29K 81/00 20060101ALN20201119BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20201119BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
B29C33/12
B29C33/34
B29C70/20
B29K23:00
B29K77:00
B29K81:00
B29L9:00
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-501422(P2017-501422)
(86)(22)【出願日】2016年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2016087147
(87)【国際公開番号】WO2017115650
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-256181(P2015-256181)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-256765(P2015-256765)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】服部 公彦
(72)【発明者】
【氏名】菅森 政人
(72)【発明者】
【氏名】中野 和良
(72)【発明者】
【氏名】黒田 義人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 英夫
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 智幸
(72)【発明者】
【氏名】本田 佳之
(72)【発明者】
【氏名】清水 信彦
【審査官】
北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−240185(JP,A)
【文献】
特開2013−095093(JP,A)
【文献】
特開2013−252644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形金型内でテープ状のFRP基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂組成物Aと一体化して複合成形体を製造する方法であって、
(1)FRP基材を金型に設けられたスリット部から金型内に向けて挿入し、挿入されたFRP基材を金型キャビティに沿わせて差し込む第1工程、
(2)溶融熱可塑性樹脂組成物Aを金型キャビティ内に射出し、FRP基材を三次元形状に賦形するとともに、射出した熱可塑性樹脂組成物AをFRP基材と一体化する第2工程、
を有することを特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項2】
射出成形金型内でテープ状のFRP基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂組成物Aと一体化して複合成形体を製造する方法であって、
(1)FRP基材を金型に設けられたスリット部から金型内に向けて挿入し、挿入されたFRP基材を金型キャビティに沿わせて差し込む第1工程、
(2)スライドコアを移動させてFRP基材をキャビティ内に納める第1a工程、
(3)溶融熱可塑性樹脂組成物Aを金型キャビティ内に射出し、FRP基材を三次元形状に賦形するとともに、射出した熱可塑性樹脂組成物AをFRP基材と一体化する第2工程、
を有することを特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記第1a工程において、FRP基材をキャビティ内に納める前に、金型に付設されたFRP基材を切断する機能を有するスライドコアを移動させて、FRP基材を切断する、請求項2に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部中に、成形形状が部分的に周囲部とは異なる付加成形部を形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記付加成形部が、凸状部、ボス、リブ、ヒンジ、フランジ、ツメおよび成形体側壁の少なくともいずれか一つである、請求項4に記載の複合成形体の製造方法
【請求項6】
前記FRP基材が連続強化繊維を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項7】
前記FRP基材が、連続強化繊維を一方向に配列させた一方向基材からなる、請求項6に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項8】
前記FRP基材の強化繊維が炭素繊維を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂組成物Aが、ポリアミド系樹脂、ポリアリーレンサルファイド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項10】
前記金型キャビティとしてスライド機構を備えた金型キャビティを用いる、請求項1〜9のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項11】
前記スライド機構を備えたキャビティを第1のキャビティとしたとき、該第1のキャビティを前記複合成形体とともに新たに設定された第2のキャビティにスライドさせ、前記複合成形体を前記第2のキャビティ内に配置し、該第2のキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂組成物Aを射出充填して一体化することにより二次成形品としての複合成形体を製造することを特徴とする、請求項10に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項12】
三次元形状に賦形された複合成形体を別の金型のキャビティにインサートし、該キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂組成物Bを射出することにより二次成形品としての複合成形体を作製する、請求項1〜9のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形体の製造方法に関し、とくに、金型内でテープ状の繊維強化樹脂(FRP)基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂と一体化して複合成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP基材と他の樹脂成形体、特に他の熱可塑性樹脂成形体とを一体化した複合成形体の製造方法は各種知られている。例えば特許文献1には、炭素繊維強化樹脂(CFRP)シート材状基材を型外で仮賦形し、それを型内にインサートして高速昇降温することで賦形し、賦形体を型内にインサートし、樹脂を射出して複合成形体を得る方法が開示されている。しかしこの方法は、少なくとも仮賦形が成形型外で行われるので、同一型内で複合化できるプロセスではなく、成形プロセスが複雑になっている。
【0003】
また、特許文献2には、CFRP基材を射出成形型内に固定し、樹脂を射出して複合化する方法が開示されているが、単純な層状の複合成形体の記載しかなく、とくに三次元形状のCFRP基材を賦形する方法については触れられていない。
【0004】
また、特許文献3には、CFRPを型内でスタンピング成形し、型をバックさせて空間を作り、同一型内に樹脂を射出する複合成形体の製造方法が開示されている。しかし、この方法は、強化繊維がランダムに配されたランダム繊維基材の成形には適しているが、スタンピング成形のための予熱が必要であり、例えば連続繊維基材を成形する場合には、繊維が折れる、配向が乱れるという問題が発生するとともに、基材を複数、あるいは所定の位置に貼り合わせようとする場合には、射出時にCFRPが樹脂とともに流れてしまい、CFRPを成形品の望ましい位置に精度よく貼り合わせることが困難であるという問題がある。
【0005】
さらに、特許文献4には、射出成形品とCFRP基材を成形機内で熱溶着するようにした複合成形体の製造方法が開示されている。しかし、この方法では、射出成形品を作製した後、レーザー溶着、プレス成形等でCFRP基材を貼り合わせることとなるので、とくに射出成形品の三次元形状部分にCFRP基材を貼り合わせることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−153069号公報
【特許文献2】特開2013−252644号公報
【特許文献3】特開平5−185466号公報
【特許文献4】特開2011−143559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、とくに同一の金型内で、テープ状のFRP基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂を高接合強度と高精度をもって一体化し、効率よく目標とする三次元形状部を有する複合成形体を製造可能な方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明のもう一つの課題は、上記のように接合一体化される熱可塑性樹脂中に、成形中や成形後に所望の一体化形状や一体化形態を保つことを可能ならしめるために、部分的に特別の工夫が加えられた複合成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合成形体の製造方法は、射出成形金型内でテープ状のFRP基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂組成物Aと一体化して複合成形体を製造する方法であって、
(1)FRP基材を金型に設けられたスリット部から金型内に向けて挿入し、挿入されたFRP基材を金型キャビティに沿わせて差し込む第1工程、
(2)溶融熱可塑性樹脂組成物Aを金型キャビティ内に射出し、FRP基材を三次元形状に賦形するとともに、射出した熱可塑性樹脂組成物AをFRP基材と一体化する第2工程、
を有することを特徴とする方法からなる(第1の方法)。
【0010】
また、より好ましい本発明に係る複合成形体の製造方法は、射出成形金型内でテープ状のFRP基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂組成物Aと一体化して複合成形体を製造する方法であって、
(1)FRP基材を金型に設けられたスリット部から金型内に向けて挿入し、挿入されたFRP基材を金型キャビティに沿わせて差し込む第1工程、
(2)スライドコアを移動させてFRP基材をキャビティ内に納める第1a工程、
(3)溶融熱可塑性樹脂組成物Aを金型キャビティ内に射出し、FRP基材を三次元形状に賦形するとともに、射出した熱可塑性樹脂組成物AをFRP基材と一体化する第2工程、
を有することを特徴とする方法からなる(第2の方法)。すなわち、前述の第1の方法の第1工程と第2工程の間に第1a工程を加えた方法である。
【0011】
このような本発明に係る複合成形体の製造方法においては、第1工程において、テープ状のFRP基材がスリット部から金型内に向けて挿入され、金型キャビティに沿わせて、つまり、金型キャビティの延設形状に沿って、金型キャビティ内に差し込まれる。この状態では、FRP基材が金型内にその大部分が金型キャビティ内に差し込まれた状態であるが、FRP基材の端部部分はフリーに近い状態にある。次いで、上記第2の方法においては、第1a工程において、金型内に挿入されたFRP基材がスライドコアを移動させることによって、FRP基材は完全にキャビティ内に設置、保持される。そして上記第1、第2の方法においては、第2工程において、溶融熱可塑性樹脂組成物Aが金型キャビティ内に射出され、キャビティ内に挿入されたFRP基材と一体化され、目標とする複合成形体が成形される。とくに第2工程においては、樹脂組成物Aの射出圧によってキャビティ内に保持されていたFRP基材がキャビティの内面に押し付けられるので、キャビティが所定の三次元形状に形成されていれば、FRP基材、ひいては該FRP基材との一体化により成形される複合成形体の三次元形状部は、極めて高精度で所望の形状に賦形、成形されることになる。とくに、溶融熱可塑性樹脂組成物Aの射出樹脂圧によるFRP基材の型内での三次元形状への賦形は、プレス機などを用いた通常の三次元賦形方法と比べて、短時間での賦形が可能である。しかも、これら一連の工程は同一の金型内で実行されるので、この面からもさらなる成形精度の向上、成形の簡素化、容易化が可能となる。さらに、一連の工程の自動化も可能である。
【0012】
上記本発明の第2の方法に係る複合成形体の製造方法においては、好ましい形態として、上記第1a工程において、FRP基材をキャビティ内に納める前に、金型に付設されたFRP基材を切断する機能を有するスライドコアを移動させて、FRP基材を切断する形態を挙げることができる。この場合、テープが巻かれたロール状のFRP基材を用いた場合であっても、事前に所定長にカットすることなく、複合成形体を得ることができるので、成形工程全体のさらなる簡素化が可能になるとともに、自動化が可能になる。
【0013】
また、上記本発明に係る複合成形体の製造方法においては、好ましい形態として、上記熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部中に、成形形状が部分的に周囲部とは異なる付加成形部を形成する形態を挙げることができる。このように成形形状が部分的に周囲部とは異なる付加成形部を形成するように成形が行われると、この付加成形部によって、成形中や成形後に不具合が発生することを回避することが可能になり、例えば、FRP基材と熱可塑性樹脂組成物Aの線膨張係数の差に起因する成形体の反りやFRP基材または熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部の剥がれなどの不具合が発生することを回避することが可能になり、目標とする一体化形状や一体化形態を保つことが可能となって、より確実かつ容易に所望の、つまり、目標とする形状や形態の複合成形体が得られるようになる。さらに、複合成形体を一次成形品とし、該一次成形品を別のキャビティにインサートし、該キャビティに溶融熱可塑性樹脂組成物Bを射出するなどの方法により二次成形品を製造する場合、キャビティと一次成形品との間の空隙が無くなり、溶融熱可塑製樹脂組成物Bの空隙への流入を抑制することが可能となる。
【0014】
上記熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部中に形成される付加成形部としては、例えば、凸状部、ボス、リブ、ヒンジ、フランジ、ツメ、成形体側壁などを形成するものが挙げられ、これらは単独で形成されてもよく、複数組み合わせて形成されてもよい。例えば、凸状部、ボス、リブなどの付加成形部を形成すれば、熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部を部分的に補強でき、複合成形体の反りや剥がれの回避に寄与でき、ヒンジ、フランジ、ツメ、成形体側壁などの付加成形部を形成すれば、熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部に、部分的に要求される機能を満たすように特殊部位を付与できる。二次成形品の製造時における空隙への樹脂流入の抑制効果が大きい点で、リブ、成形体側壁が好ましい。
【0015】
また、上記本発明に係る複合成形体の製造方法においては、好ましい形態として、上記テープ状のFRP基材が、連続強化繊維を含む形態を挙げることができ、連続強化繊維を含むことにより、FRP基材自体が優れた機械特性を有することが可能になり、そのFRP基材により複合成形体の補強効果の向上が可能になる。
【0016】
中でも、テープ状のFRP基材が、連続強化繊維を一方向に配列させた一方向基材からなる形態が好ましい。このような一方向基材は、連続強化繊維が配列された特定の方向に対して特に高い機械特性を発現できるので、テープ状のFRP基材が目標とする所定の位置にて高精度で一体化されることで、複合成形体全体として所望の特定の方向に対して効率よく高い機械特性を発現できるようになる。しかも補強用のFRP基材がテープ状の形状であるので、成形される複合成形体に対し、補強が要求される部位に的を絞って効率良く所定の補強を行うことが可能になる。なお、本発明においては、第2工程で射出される熱可塑性樹脂組成物Aは、必要に応じて不連続強化繊維を含んでいる樹脂組成物であってもよい。不連続強化繊維を含んでいる熱可塑性樹脂組成物とすれば、射出充填される溶融熱可塑性樹脂組成物Aで形成される部分も繊維強化樹脂部分として構成されることになるので、複合成形体全体を繊維強化樹脂で構成することができ、複合成形体全体の機械特性の向上が可能になる。
【0017】
また、本発明に係る複合成形体の製造方法において、テープ状のFRP基材に用いられる強化繊維の種類としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維、あるいは他の強化繊維、さらにはこれら強化繊維の組み合わせのいずれも採用可能であるが、最終的に成形される複合成形体の特定の部位の機械特性をFRP基材によって最も効率よく向上させるためには、強化繊維として炭素繊維を含むことが好ましい。
【0018】
本発明において、上記熱可塑性樹脂組成物Aとしては、ポリアミド系樹脂、ポリアリーレンサルファイド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明に係る複合成形体の製造方法においては、上記のように三次元形状に賦形された複合成形体を製造する際に、スライド機構を備えた金型キャビティを用いることができる。その場合、同じ金型内にて、上記キャビティを上記複合成形体とともに新たに設定された第2のキャビティにスライドさせ、上記複合成形体を上記第2のキャビティ内に配置し、該第2のキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂組成物Aを射出充填して一体化することにより二次成形品としての複合成形体を製造することができる。一次成形品としての複合成形体が前述の如く、テープ状のFRP基材によって効率よくかつ精度よく所望部位が補強された複合成形体に成形された上に、これを用いた二次複合成形品の製造をスライド機構を備えた同一の金型内で実行できるので、成形工程全体の簡素化が可能になり、自動化も可能になる。
【0020】
さらにまた、本発明に係る複合成形体の製造方法においては、前述の如く三次元形状に賦形された複合成形体を一次成形品とし、該一次成形品としての複合成形体を別の金型のキャビティにインサートし、該キャビティ内に溶融熱可塑性樹脂組成物Bを射出することにより二次成形品としての複合成形体を製造することもできる。一次成形品としての複合成形体が前述の如く、テープ状のFRP基材によって効率よくかつ精度よく所望部位が補強された複合成形体に成形されているので、これを用いてインサート成形される二次成形品としての複合成形体も所望部位が効率よくかつ精度よく補強された複合成形体に成形される。
【0021】
本発明に係る複合成形体の製造方法においては、熱可塑性樹脂組成物Aの成形時の金型温度が100〜200℃の範囲にあること、つまり、熱可塑性樹脂組成物Aの種類にもよるが、比較的高い温度範囲にあることが好ましい。金型温度がこの範囲にあることで、テープ状のFRP基材が三次元形状に賦形されやすくなるとともに、賦形時の繊維の折損が抑制される。120℃以上であることがより好ましく、140℃以上がさらに好ましい。
【0022】
なお、本発明においては、射出される上記熱可塑性樹脂組成物A、熱可塑性樹脂組成物Bのいずれも、必要に応じて不連続強化繊維を含んでいる樹脂組成物であってもよい。不連続強化繊維を含んでいる熱可塑性樹脂組成物とすれば、射出充填される溶融熱可塑性樹脂組成物で形成される部分も繊維強化樹脂部分として構成されることになるので、それによる補強度合は別として、複合成形体全体を繊維強化樹脂で構成することができ、複合成形体全体の機械特性の向上が可能になる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明に係る複合成形体の製造方法によれば、同一の金型内で所望部位が効率よくかつ精度よく補強された複合成形体を、容易にかつ高精度で成形することが可能になる。また、このように成形された複合成形体を用いての、二次成形品としての複合成形体の成形も、容易に高精度で行うことが可能になる。さらに、要求に応じて、熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部中に、付加成形部を形成するようにすれば、成形中や成形後の反りや剥がれなどの不具合の発生を効果的に防止でき、より確実にかつ容易に所望の複合成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施態様に係る複合成形体の製造方法を示す概略断面図である。
【
図2】一次成形品としての複合成形体の一例を示す斜視図である。
【
図3】二次成形品としての複合成形体の一例を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第2実施態様に係る複合成形体の製造方法を示しており、(A)はテープ状のFRP基材の概略平面図、(B)は成形されようとする複合成形体を平面的に展開した場合の概略平面図、(C)は(B)の概略側面図、(D)は実際に成形される三次元形状部を有する複合成形体の概略斜視図である。
【
図5】本発明の第3実施態様に係る複合成形体の製造方法により製造された三次元形状部を有する複合成形体の概略斜視図である。
【
図6】本発明の第4実施態様に係る複合成形体の製造方法により製造された三次元形状部を有する複合成形体の概略斜視図である。
【
図7】本発明に係る複合成形体の製造方法により製造された複合成形体における付加成形部の各種例を示しており、(A)および(B)は複合成形体の概略側面図、(C)は概略側面図と部分概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る複合成形体の製造方法は、第1の方法においては、(1)テープ状のFRP基材を金型に設けられたスリット部から金型内に向けて挿入し、挿入されたFRP基材を金型キャビティに沿わせて差し込む第1工程、(2)溶融熱可塑性樹脂組成物Aを金型キャビティ内に射出し、FRP基材を三次元形状に賦形するとともに、射出した熱可塑性樹脂組成物AをFRP基材と一体化する第2工程を有しており、第2の方法においては、(1)テープ状のFRP基材を金型に設けられたスリット部から金型内に向けて挿入し、挿入されたFRP基材を金型キャビティに沿わせて差し込む第1工程、(2)スライドコアを移動させてFRP基材をキャビティ内に納める第1a工程、(3)溶融熱可塑性樹脂組成物Aを金型キャビティ内に射出し、FRP基材を三次元形状に賦形するとともに、射出した熱可塑性樹脂組成物AをFRP基材と一体化する第2工程を有しており、これら一連の工程が同一の金型内で実行される。
【0026】
上記第1工程では、例えば
図1(A)に示すように、テープ状のFRP基材1、例えば、長手方向に沿って一方向に強化繊維が配列された一方向基材からなるテープ状のFRP基材1が(図示例では2本のテープ状FRP基材1が)、金型2に設けられたスリット部3(図示例では2つのスリット部3)から金型2内に向けて矢印の方向に挿入され、
図1(B)に示すように、スリット部3から挿入されたFRP基材1は、その先端側部分が金型キャビティ4に沿わせて金型キャビティ4内に差し込まれるように進められ、所定長、図示例では金型キャビティ4の奥まで差し込まれる。スリット部3は、例えば、金型2を閉じた状態にて、例えば金型2に彫り込んだ隙間として形成されている。
【0027】
所定長分のFRP基材1が金型キャビティ4内に差し込まれた状態では、送られてくるFRP基材1はまだ金型2内部分と金型2外部分とが繋がった状態にある場合がある。この場合、上記第2の方法における第1a工程で、FRP基材1の送り動作が停止された後、例えば
図1(C)に示すように、金型2に付設されたFRP基材1を切断する機能を有するスライドコア5が、図示例では、図における上下側の位置にそれぞれ設けられたスライドコア5が、図の矢印方向に移動され、FRP基材1が切断される。
【0028】
上記切断されたFRP基材1の金型2側端部6は、切断された状態では実質的にフリーの状態にあるが、ひき続き、例えば
図1(D)に示すように、スライドコア5がさらに同じ方向に移動されて、切断されたFRP基材1、とくにその切断端部6がキャビティ4内に納められる。スライドコア5の内面側には、例えば、適切な曲面が形成されており。該曲面を介してFRP基材1の切断端部6が円滑にキャビティ4内の所定位置に納められる。
【0029】
FRP基材1がキャビティ4内に納められた後、第2工程において、例えば
図1(D)に示すように、閉じられている金型2のキャビティ4内に溶融した熱可塑性樹脂組成物A(7)が射出され、その溶融樹脂射出圧を利用してキャビティ4内に納められていたFRP基材1がキャビティ4の内面に押し付けられ、キャビティ4の内面形状に倣った三次元形状に賦形されるとともに、射出された熱可塑性樹脂組成物A(7)と賦形されたFRP基材1が強固に一体化され、目標とする複合成形体が得られる。
【0030】
このように成形された複合成形体は、例えば
図2に示すような三次元形状を有する複合成形体11となる。このような複合成形体11中には、FRP基材1が所定の三次元形状にて内包、一体化されているので、そのFRP基材1によって、効率よくかつ目標とする部位が精度良く補強された複合成形体11が得られることになる。
【0031】
また、上記のような三次元形状に賦形された複合成形体11を別の金型のキャビティにインサートし、該キャビティ内に溶融熱可塑性樹脂(上記熱可塑性樹脂7と同一の樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい)を射出することにより二次成形品としての複合成形体を作製することもできる。例えば、
図3に示すように、上記のような複合成形体11を左右対称に別の金型のキャビティ内に配置し、配置された複合成形体11a、11bに対して、そのキャビティ内に溶融熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂組成物B)を射出してその熱可塑性樹脂成形部12と複合成形体11a、11bを一体化することにより、二次成形品13を作製することが可能である。この二次成形品13においては、一次成形品としての複合成形体11に高精度にFRP基材1が一体化されているので、二次成形品13の成形後にも補強用のFRP基材1が目標とする部位に高精度で一体化されたものとなり、目標とする部位が精度良く補強された二次成形品13が得られる。
【0032】
また、二次成形品の成形を、一次成形品としての複合成形体11の成形に用いる金型と同一の金型、とくにスライド機構を備えた金型により行うことも可能である。例えば、上記のような三次元形状の複合成形体11を賦形した後に、スライド機構を用いて第2のキャビティを新たに設定し、元の金型キャビティを複合成形体11とともに第2のキャビティにスライドさせるとともに、第2のキャビティ内に配置し、該第2のキャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂組成物A(7)を射出充填して一体化して二次成形品としての複合成形体を作製することができる。この場合には、同一の射出用金型を用いるので、二次成形において射出される熱可塑性樹脂組成物は一次成形と同じ熱可塑性樹脂組成物A(7)となる。
【0033】
本発明においては、射出成形金型のキャビティ内にテープ状のFRP基材をインサートし、溶融した熱可塑性樹脂組成物Aを射出することでFRP基材を三次元形状に賦形するとともに、熱可塑性樹脂組成物Aと一体化する複合成形体の製造方法において、熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部中に、成形形状が部分的に周囲部とは異なる付加成形部を形成する形態を採用できる。付加成形部としては、前述の如く、凸状部、ボス、リブ、ヒンジ、フランジ、ツメ、成形体側壁などが例示されるが、
図4を参照して、リブを形成する場合について説明する。
【0034】
例えば
図4(A)に示すようなテープ状のFRP基材21(例えば、幅20mm、厚み0.3mm、連続繊維含有量50重量%のナイロン6炭素繊維連続繊維)が、シリンダー温度270℃、金型温度150℃に設定された射出成形機において、射出成形金型内に射出された溶融熱可塑性樹脂組成物A、例えばガラス繊維40%強化ポリアミド6の樹脂圧によってFRP基材21が金型キャビティの内面に押し付けられて三次元形状に賦形されるとともに熱可塑性樹脂Aと一体化されるが、熱可塑性樹脂Aによる成形部中には、付加成形部としてのリブが形成される。
図4(B)と
図4(C)は、理解を容易にするために、テープ状のFRP基材21が
図4(A)のように平板状の状態にあるままで示してある。
図4(B)、(C)に示すように、FRP基材21と一体化される熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部22中には、FRP基材21に沿う形状に成形される部分23に加えて、付加成形部としてのリブ24が形成される。
【0035】
実際には、
図4(D)に示すように、三次元形状に賦形されたFRP基材21aとそれに沿った形状の熱可塑性樹脂Aによる成形部分23が一体化され、その成形部分23の上にリブ24が一体に成形された、三次元形状部を有する複合成形体25が成形される。
【0036】
上記のような成形においては、テープ状のFRP基材21の三次元形状への賦形と熱可塑性樹脂組成物Aの射出成形を同一型内で行うことができ、プレス機などを用いた通常の三次元賦形方法と比べて、短時間で賦形、一体化を容易にかつ効率よく行うことが可能になる。また、
図4に示したような付加成形部としてのリブ24を設けない場合、熱可塑性樹脂組成物AとFRP基材21の線膨張係数差に起因して、形状によっては反りあるいは剥がれが発生するおそれがあるのに対し、リブ24を設けることにより、目的とする形状の複合成形体25を確実にかつ高精度で得ることができる。さらに、複合成形体25を一次成形体としてさらに熱可塑性樹脂組成物Bを射出して二次射出成形品を作製する場合、上記のように成形された一次成形体としての複合成形体25の二次成形金型の所定位置へのインサートが容易となり、かつ、精度が向上する。スライド機構を備えた同一の金型内でキャビティを新たに設定された第2のキャビティへとスライドさせ、第2のキャビティ内に熱可塑性樹脂組成物Aを射出する方式の二次成形を行う場合にも、同様に効率の良い高精度の成形が可能である。
【0037】
図4に示した付加成形部としてのリブ24は、
図5に示すような形態を採ることもできる。
図5に示す複合成形体31においては、三次元形状に賦形されたテープ状のFRP基材32の上に熱可塑性樹脂Aによる成形部分33が一体化されており、その成形部分33の上に、一本の帯状の付加成形部としてのリブ34が立設された形態で一体に成形されている。
【0038】
また、付加成形部としては、上記のようなリブに限らず、ボス部の形態を採ることもできる。例えば、
図6に示す複合成形体41においては、三次元形状に賦形されたテープ状のFRP基材42の上に熱可塑性樹脂Aによる成形部分43が一体化されており、その成形部分43の上に、要求部位に対し必要な数だけ、付加成形部としてのボス44が一体に成形されている。
【0039】
さらに付加成形部としては、例えば
図7に示すような各種の形態を採ることができる。
図7(A)に示す複合成形体51においては、テープ状のFRP基材と熱可塑性樹脂Aによる成形部分が一体化された部分、特にその熱可塑性樹脂Aによる成形部分52に、付加成形部としての凸状部53が一体に形成されている。
図7(B)に示す複合成形体61においては、付加成形部としてのフランジ62、ツメ63が一体に形成されている。
図7(C)に示す複合成形体71においては、付加成形部としてのボス72、リブ73、ヒンジ74、側壁75が一体に形成されている。このように、各種形態の付加成形部を、単独で、あるいは必要に応じて組み合わせた形態にて、適宜設けることが可能である。
【0040】
また、図示は省略するが、前述したように、上記のように三次元形状に賦形された複合成形体を一次成形品として別のキャビティ(別の金型のキャビティあるいは同一の金型の別の形状、サイズに設定されたキャビティ)にインサートし、該キャビティ内に溶融した熱可塑性樹脂組成物B(熱可塑性樹脂組成物Aと同一の熱可塑性樹脂組成物であってもよく、熱可塑性樹脂組成物Aとは別の熱可塑性樹脂組成物であってもよい。)を射出することにより二次成形品としての複合成形体を作製することもできる。この場合、上記に示した付加成形部を別のキャビティに設けておくことにより、所望の位置に高い精度で一次成形体に設置することができる。また、二次成形を行うために熱可塑性樹脂組成物Aや熱可塑性樹脂組成物Bを射出する際に、一次成形体が流動してしまうことがないため、高い精度でFRP基材が一体化した二次成形品を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る複合成形体の製造方法は、テープ状のFRP基材を三次元形状に賦形するとともに熱可塑性樹脂と一体化するあらゆる複合成形体の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 テープ状のFRP基材
2 金型
23 スリット部
4 金型キャビティ
5 スライドコア
6 FRP基材の切断端部
7 熱可塑性樹脂(組成物)
11、11a、11b 複合成形体
12 熱可塑性樹脂成形部
13 二次成形品
21 テープ状のFRP基材
21a 三次元形状に賦形されたFRP基材
22 熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部
23 FRP基材に沿う形状に成形される部分
24 付加成形部としてのリブ
25 複合成形体
31、41、51、61、71 複合成形体
32、42 三次元形状に賦形されたテープ状のFRP基材
33、43、52 熱可塑性樹脂組成物Aによる成形部分
34 付加成形部としてのリブ
44 付加成形部としてのボス
53 付加成形部としての凸状部
62 付加成形部としてのフランジ
63 付加成形部としてのツメ
72 付加成形部としてのボス
73 付加成形部としてのリブ
74 付加成形部としてのヒンジ
75 付加成形部としての側壁