(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
建築基準法には、建物の用途や規模に応じて、建物の主要部分を難燃性、不燃性の建材で構成しなければならない規定がある。不燃性能とその技術的基準について、第百八条の二で、「建築材料に通常の火災に依る加熱が加えられた場合に、加熱開始後二十分間次の各号に掲げる要件を満たしていることとする。(1)燃焼しないものであること。(2)防火上有害な変形、溶融、き裂その他の損傷を生じないものであること。(3)避難上有害な煙又はガスを発生しないものであること。」と規定されている。また、この法令では、加熱開始後10分間の間、3項目の要件を持たす材料を準不燃材料と規定し、加熱開始後5分間の間、3項目の要件を満たす材料を難燃材料と規定している。従って、不燃材料は難燃材料より燃えにくい材料であり、不燃性塗料の難燃性は、難燃性塗料の難燃性より高い。
こうした背景に基づいて、様々な不燃性塗料の開発が行われ商品化されている。いっぽう、建築や建材に用いられる塗料には、有機物質からなるエマルジョン樹脂と添加剤を含むため、火災時に燃焼する。なお、エマルジョン樹脂は、アクリル樹脂などからなる微細な粒子を溶剤に分散させたもので、溶剤が蒸発した後に、塗膜としての被膜を形成する。従って、可燃性の有機物質を含む塗膜を不燃化するには、塗料に難燃剤を添加する手法が一般的である。難燃剤は有機難燃剤と無機難燃剤とに二分される。さらに、有機難燃剤は、ペンタブロモジフェニルエーテルなどからなるハロゲン系の難燃剤と、リン酸エステルなどからなるリン系の難燃剤と、メラミンなどからなる複合型の難燃剤とに分類される。いっぽう、無機難燃剤は、水酸化アンモニウムや水酸化マグネシウムなどからなる金属水酸化物の難燃剤と、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどからなるアンチモン系の難燃剤と、赤燐などからなる難燃剤とに分類される。このような難燃剤を、水中に分散させたエマルジョン樹脂と共に混合し、さらに、可塑剤や沈澱防止剤などからなる添加剤と、着色のための顔料とを加え、最後に、水で希釈して塗料として用いている。従って、無機系の難燃剤を用いる場合でも、有機物質からなるエマルジョン樹脂と可塑剤とが用いられる。こうした難燃剤の中で、ハロゲン系の難燃剤の不燃性の効果が最も大きく、かつ、最も安価な難燃剤である。しかしながら、ハロゲン系難燃剤の熱分解で発生する物質が、環境に与える影響が無視できない。
【0003】
従来の難燃剤とは異なる材料構成からなる様々の難燃剤の開発が行われている。例えば特許文献1には、高純度で生成したベントナイトと、ソープフリーのエマルジョン樹脂を主な成分とする難燃性の塗料が提案されている。しかし、ベントナイトは、400℃以上で分子構造が不安定になるため、400℃以上の高温環境下では、ベントナイトのガスバリア性が低下する問題点を持つ。また、モンモリロナイトの含有量が85重量%以上の微粉末として、ベントナイトを精製する製造コストは安価ではない。また、エマルジョン樹脂は、前記した建築基準法の不燃性、つまり、加熱開始後の20分間は燃焼しなくても、さらに長時間加熱されれば燃焼する。なお、ベントナイトは、粘土鉱物の一種からなる無機物で、従来は塗料の沈澱防止剤として用いている。
また、特許文献2には、ホワイトセメントに無機系骨材、不燃剤を配合して粉剤とし、この粉剤に水性エマルジョン樹脂よりなる液剤を混練した主な成分からなる無機系及び有機系ハイブリッド型不燃塗料が提案されている。しかしながら、このような組成からなる塗料の不燃性を高めるには、塗料中にホワイトセメント、無機系骨材、不燃材の配合割合を高めなければならない。しかしながら、無機系の難燃剤を高めるほど、取り扱いが複雑になり、塗膜形成の作業性が劣る。また、下時との密着性が劣り、塗膜物性の経時劣化がもたらされる。また、水性エマルジョン樹脂は、前記した建築基準法の不燃性、つまり、加熱開始後の20分間は燃焼しない性質を持っても、さらに長時間加熱されれば燃焼する。
なお、エマルジョン樹脂に用いられているアクリル樹脂は、大気雰囲気の370℃付近から熱分解が始まり、沸点が101℃で発火点が421℃であるメタクリル酸メチルと、沸点が80℃で発火点が468℃であるアクリル酸メチルと、これらの類縁化合物とに分解される。また、代表的な可塑剤であるフタル酸ジブチルは、沸点が340℃で、発火点が402℃である。従って、エマルジョン樹脂と可塑剤とを成分に持つ不燃性塗料が塗布された可燃性物質は、400℃より低い温度で塗膜が熱分解して不燃性が失われ、可燃性物質が発火する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した建築基準法に規定された不燃性は、火災発生時の当初の20分間だけは、3項目の要件を満たす規定であり、正確に言えば不燃性ではなく遅燃性の規定である。しかし、火災の発生から20分以内に燃えている建物から全ての人が避難できるとは限らない。また、不燃性塗料が火災の発生から20分以降に燃焼すると、不燃性塗料が塗布された可燃性物質が発火し、火災の延焼をもたらし、また、避難上有害な煙又はガスを発生する。従って、不燃性塗料が、可燃性物質を自己発火せず着火しない不燃性に変えられれば、どのような火災でも可燃性物質の不燃性が継続され、防災上の作用効果は大きい。
ここで、本発明における
可燃性物質に不燃性をもたらす不燃性塗料を定義する。第一に、様々な可燃性物質が高温に晒されて熱分解しても、不燃性塗料によって形成した被膜が、熱分解で生成された全ての物質を外部に排出しなければ、熱分解に依る黒煙や有害ガスが排出されず、黒煙が視界を遮り、有害ガスが災害をもたらすことがない。また、熱分解で生成された可燃性物質が自己発火して火災の起点を作り、着火して火災を延焼させることもない。第二に、不燃性塗料によって形成した被膜が、様々な可燃性物質に酸素ガスを供給しなければ、可燃性物質が発火点を超える温度に昇温されても、酸素ガスとの酸化反応である燃焼が起こらず、可燃性物質は自己発火せず着火しない。従って、金属に近い耐熱性と気密性とを有する被膜で可燃性物質を被覆できれば、どのような規模の火災に長時間さらされても、可燃性物質は自己発火せず着火しない。また、熱分解された可燃性物質が、外部に排出されない。従って、金属に近い耐熱性と気密性とを有する被膜で可燃性物質を被覆する塗料を、本発明における
可燃性物質に不燃性をもたらす不燃性塗料と定義する。
現在、全ての建物に、様々な可燃性物質、つまり、樹脂や木材や紙類などの有機物質を主成分とする製品が多く用いられている。このため、可燃性物質が、金属に近い耐熱性と気密性とを有する被膜で被覆される作用効果は極めて大きい。しかしながら、こうした作用効果をもたらす塗料は、現在のところ存在しない。
ところで、塗料には様々な塗料が存在する。使用目的から塗料の全般を分類すると、第一に、物質の表面を保護することを目的とする塗料がある。表面の保護としては、防食、防腐、防黴、防蟻、防汚、防水、耐薬品、耐火・耐熱などが挙げられる。第二に、物質の表面の美観を向上させることを目的とする塗料がある。美観として、表面の平滑化、光沢付与、彩色、模様、意匠、景観創出などが挙げられる。第三に、機能性を付与することを目的とする塗料がある。機能性として、遮熱、撥水、結露防止、蛍光、蓄光、光の反射、防音・防振、迷彩、有害化学物質の吸着、電気絶縁、滑り止めなどが挙げられる。
また、塗料は塗膜を形成する主成分によっても分類される。ワニスなどの乾性油を主成分とする油性塗料と、ニトロセルロースを主成分とするラッカーと、各種樹脂を主成分とする樹脂塗料と、セラミックを主成分とする酒精塗料とに分類される。さらに、これらの分類は、使用する材料の種類によって細分化される。
こうした塗料が塗布される対象は、建築物や建材、金属の基材、部品なしは製品、船舶、自動車、家具、木工品、プラスチック製品など様々であり、形状と大きさと材質が異なる。
従って、使用目的と使用環境と対象物とに応じて、形成される塗膜が変わる。このため、本発明における
可燃性物質に不燃性をもたらす不燃性塗料は、すでに形成された塗膜の如何に拘わらず、また、塗膜の有無にかかわらず、全ての可燃性物質を金属に近い耐熱性と気密性とを有する被膜で覆えなければならない。つまり、可燃性物質の表面がどのような状態であれ、どのような材質と形状と大きさであれ、不燃性塗料によって塗膜が形成できなければならない。
以上に説明したように、本発明に係わる課題は、可燃性物質の表面の材質、大きさ、形状、また、表面の状態にかかわらず、全ての可燃性物質の表面を金属に近い耐熱性と気密性とを有する被膜で覆う
方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における
可燃性物質を気密性の被膜で覆い、該可燃性物質に不燃性をもたらす方法は、
熱分解で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散し、該金属化合物が分子状態となってアルコールに分散したアルコール分散液を作成し、融点が20℃より低い第一の性質と、前記アルコールに溶解ないしは混和する第二の性質と、前記アルコールの粘度より20倍以上粘度が高い第三の性質と、沸点が前記金属化合物の熱分解温度より50℃以上高い第四の性質と、発火点が前記沸点より50℃以上高い第五の性質からなる5つの性質を兼備する有機化合物を、前記アルコール分散液に混合し、該有機化合物が前記アルコールに溶解ないしは混和し、該有機化合物が前記アルコール分散液と均一に混ざり合った不燃性塗料を作成し、該不燃性塗料を可燃性物質の表面に塗布し、該可燃性物質を昇温する、これによって、最初に前記不燃性塗料を構成するアルコールが気化し、該不燃性塗料を構成する金属化合物の微細結晶の集まりが、該不燃性塗料を構成する有機化合物中に一斉に析出し、前記金属化合物の微細結晶が下層に沈み、前記有機化合物が前記金属化合物の微細結晶の上層に移動する、この後、前記金属化合物の微細結晶が熱分解し、粒状の金属微粒子の集まりが前記可燃性物質の表面に析出し、該金属微粒子が前記可燃性物質の表面の凹凸に入り込むとともに、隣接する前記金属微粒子同士が互いに金属結合し、該金属結合した金属微粒子の集まりが積層して多層構造を形成し、前記可燃性物質の表面が、前記多層構造からなる被膜で覆われるとともに、前記金属化合物の熱分解温度より沸点が高い前記有機化合物が、前記多層構造の被膜の表面を該有機化合物からなる被膜で覆い、前記可燃性物質が、前記金属微粒子の集まりからなる多層構造の被膜と、前記有機化合物の被膜とからなる2種類の気密性の被膜で覆われ、前記可燃性物質に不燃性がもたらされることを特徴とする、可燃性物質に不燃性をもたらす方法である。
【0007】
つまり、
不燃性塗料を塗布した可燃性物質を昇温すると、最初に不燃性塗料からアルコールが気化する。これによって、金属化合物はアルコールに分散するが、有機化合物に分散しないため、金属化合物の微細結晶の集まりが有機化合物中に一斉に析出する。この際、金属化合物の微細結晶は下層に沈み、液体の有機化合物が金属化合物の微細結晶の上層に移動する。なお、金属化合物の微細結晶は、熱分解で析出する金属微粒子の大きさに相当する。さらに昇温すると、金属化合物の熱分解が可燃性物質の表面で起こる。金属化合物は、最初に金属と有機物に分解し、さらに、有機物が気化熱を奪いながら気化し、有機物の微細な気泡が有機化合物の層を突き抜けて蒸発し、有機物の気化が完了した瞬間に、40−60nmの大きさからなる粒状の金属微粒子の集まりが、可燃性物質の表面の凹凸に入り込むとともに、互いに積み重なって表面に析出する。この際、金属微粒子が不純物を持たない活性状態で析出するため、隣接する金属微粒子同士が互いに金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが積層して多層構造を形成し、この多層構造が可燃性物質の表面を被膜として覆う。いっぽう、融点が20℃より低い液体の有機化合物は、沸点が金属化合物の熱分解温度より50℃以上高いため、金属化合物が熱分解しても残存し、また、アルコールの粘度の20倍以上の粘度を持つため、金属微粒子の集まりからなる多層構造の表面を被膜で覆う。この結果、可燃性物質は、金属微粒子の集まりからなる多層構造の被膜と、液体の有機化合物からなる被膜との2重の被膜で覆われる。いっぽう、金属微粒子の多層構造は、複数の層が積み重なって金属微粒子の多層構造を形成するため、同層の隣接する金属微粒子同士が金属結合するとともに、上下の層間で隣接する金属微粒子同士も金属結合するため、金属微粒子の集まりからなる多層構造は気密性を持つ。また、液体の有機化合物が被膜を形成するため、有機化合物が気密性をもって金属微粒子の多層構造の被膜を覆う。この結果、可燃性物質は2種類の気密性の被膜で覆われる。
ところで、不燃性塗料を構成する有機化合物が次の5つの性質を持つことに依って、次の5つの作用効果がもたらされる。第一に、液体の有機化合物がアルコールに溶解ないしは混和し、第二に、有機化合物が一定の粘度を持つため、金属化合物のアルコール分散液と有機化合物との混合物からなる不燃性塗料は、可燃性物質の表面に塗料として塗布でき、塗膜が形成される。第三に、有機化合物は金属化合物に分散しないため、不燃性塗料からアルコールが気化すると、金属化合物の微細結晶の集まりが有機化合物中に析出し、微細結晶が下層に沈み、液体の有機化合物が上層に移動する。これによって、金属化合物の熱分解が、可燃性物質の表面で起こる。第四に、有機化合物の沸点が金属化合物の熱分解温度より50℃以上高いため、金属化合物の熱分解反応が可燃性物質の表面で先行して起こり、有機化合物の被膜の内側で、かつ、外界から遮断されて熱分解が進行し、金属微粒子の集まりからなる多層構造が、可燃性物質の表面に確実に形成される。第五に、2種類の気密性の被膜で覆われた可燃性物質が、火災によって有機化合物の沸点に昇温されると、有機化合物の発火点が沸点より50℃以上高いため、有機化合物の気化が進行し、有機化合物は発火しない。また、アルコールが気化した後の塗膜の厚みは1ミクロン程度であり、塗膜の面積に対する厚みの比率が極めて小さいため、有機化合物は希薄化したガスとなって気化し、爆発下限値の濃度より希薄化されるため、有機化合物のガスは引火しない。
いっぽう、可燃性物質は火災によって昇温される。可燃性物質の表面が、金属化合物の熱分解温度を超えると、金属微粒子は単位体積あたりの表面積である比表面積が大きいため、金属微粒子は熱エネルギーを得て再度活性化し、隣接する金属微粒子を取り込んで金属微粒子が成長し、僅かに粗大化する。粗大化した金属微粒子は、隣接する金属微粒子同士が金属結合し、金属結合した金属微粒子の集まりが多層構造を形成し、可燃性物質を依然として覆う。可燃性物質の表面が、有機化合物の沸点になると有機化合物の気化し、可燃性物質を覆う第二の被膜が蒸発する。この際、可燃性物質は、金属微粒子の多層構造で覆われているため、可燃性物質は依然として外界から遮断されている。また、有機化合物の発火点が沸点より50℃以上高いため、有機化合物の気化が先行し発火することはない。さらに昇温されると、金属微粒子の粗大化がさらに進む。なお、金属微粒子の粗大化に伴い、金属微粒子の数は減少する。金属の融点に近づくと、金属粒子としての境界が消滅し、金属のバルク材からなる被膜に変わる。このため、金属微粒子の多層構造は、金属の融点に近い耐熱性をもって、可燃性物質を気密性の被膜で覆い続け、可燃性物質は自己発火せず着火しない。また、可燃性物質は大気が供給されない状態で熱分解し、熱分解後の物質は、金属微粒子の集まりからなる気密性の被膜で覆われ、外部に排出しない。この結果、可燃性物質が、どのような規模の火災に長時間さらされても、自己発火せず着火しない。また、熱分解で生成された可燃性の物質は、外部に排出されない。なお、金属微粒子は温度が高くなるほど、粗大化し金属微粒子の数は減る。従って、積層した金属微粒子の層の数が少ない場合は、積層した金属微粒子に空隙、つまり、金属微粒子が存在しない空間が発生する。従って、可燃性物質が昇温される最高温度を考慮して、積層された金属微粒子の多層構造の層の厚みを予め増やすことが必要になる。
なお、塗膜が形成された可燃性物質は火災時に昇温されるため、前記した金属化合物の熱分解から始まる諸現象が塗膜で起こるため、事前に熱処理しなくてもよい。つまり、塗膜からアルコールのみを気化させ、この後、可燃性物質を通常の可燃性物質として用いることができる。すなわち、アルコールが気化した後の塗膜の厚みは1ミクロン程度であり、塗膜は可燃性物質の表面の凹凸に入り込んで脱落せず、また、人が塗膜に触れても塗膜の存在が感知できない。また、有機化合物は、大気雰囲気での蒸気圧が極めて小さく、蒸発しない。このため、塗膜が形成された可燃性物質を、通常の可燃性物質として用いて建物に設置し、あるいは、日用品として用いることができる。
以上に説明したように、不燃性塗料が塗布された可燃性物質は、表面を金属に近い耐熱性と気密性とを有する被膜で覆われ、5段落に記載した本発明における課題が解決された。
いっぽう、不燃性塗料の作成は、最初に、熱分解で金属を析出する金属化合物をアルコールに分散すると、金属化合物が分子状態となってアルコールに分散される。これによって、金属の原料が液相化される。次に、有機化合物をアルコール分散液に混合すると、有機化合物がアルコールに溶解ないしは混和するため、有機化合物は金属化合物のアルコール分散液と均一に混ざり合い、可燃性物質に不燃性をもたらす液体から構成される不燃性塗料が製造される。この不燃性塗料の粘度は、有機化合物の粘度と有機化合物の混合割合とに応じて変わり、不燃性塗料を可燃性物質に塗布した塗膜の厚みは、不燃性塗料の粘度で決まる。従って、可燃性物質の材質、形状、大きさ、また、表面の状態に応じて、不燃性塗料の粘度を調整し、さらに、刷毛塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、ロールコーター、浸漬塗りなどの塗布の方法を選択することで、全ての可燃性物質に不燃性塗料からなる塗膜が形成できる。
【0008】
前記した
可燃性物質に不燃性をもたらす方法において、前記した熱分解で金属を析出する金属化合物がオクチル酸金属化合物であり、前記したアルコールがメタノールであり、前記した有機化合物が芳香族カルボン酸エステル類に属する一種類の有機化合物であり、前記オクチル酸金属化合物と前記メタノールと前記芳香族カルボン酸エステル類に属する一種類の有機化合物とを用い、前記した可燃性物質に不燃性をもたらす方法に従って、金属微粒子の集まりからなる多層構造の被膜と、前記有機化合物の被膜とからなる2種類の気密性の被膜で、可燃性物質を覆い、該可燃性物質に不燃性をもたらすことを特徴とする、請求項1に記載した可燃性物質に不燃性をもたらす方法。
【0009】
つまり、
オクチル酸金属化合物は、290℃で熱分解して金属を析出する。また、メタノールに10重量%近くまで分散する。従って、オクチル酸金属化合物は、熱分解で金属を析出する原料になる。なお、有機化合物中に析出したオクチル酸金属化合物の微細結晶は、可燃性物質の表面で、大気が遮断された密閉された領域で熱分解するが、大気雰囲気と同様に、オクチル酸の沸点で熱分解が始まり、290℃で金属を析出して熱分解を完了する。
すなわち、オクチル酸金属化合物を構成するイオンの中で、金属イオンが最も大きい。従って、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合するオクチル酸金属化合物は、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造を持つオクチル酸金属化合物を熱処理すると、オクチル酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。さらに、オクチル酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。こうした有機金属化合物として、オクチル酸金属化合物の他に、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などのカルボン酸金属化合物が存在する。しかし、大気圧において、オクチル酸の沸点は228℃で、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、沸点が最も低く熱分解温度が最も低いオクチル酸金属化合物が最も望ましい。
さらに、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、オクチル酸を強アルカリと反応させるとオクチル酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。
なお、合成樹脂からなる可燃性物質を、オクチル酸金属化合物の熱分解によって、2種類の気密性の被膜で覆う際に、可燃性物質は、オクチル酸金属化合物の微細結晶の集まりと有機化合物とで被覆された状態で290℃まで昇温される。この際、可燃性物質は、大気が遮断され、密閉された領域で290℃まで昇温されるため、合成樹脂の熱分解は起こらない。また、可燃性物質の表面に、予め塗膜が形成されていても、塗膜が発火することも、塗膜熱分解することもない。従って、合成樹脂の性質を不可逆変化させることなく、合成樹脂からなる可燃性物質の表面を、2種類の気密性の被膜で被覆することができる。
また、木材の大気雰囲気における発火点は400−460℃で、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より高い。さらに、木材からなる可燃性物質の表面に、予め塗膜が形成されていても、オクチル酸金属化合物の微細結晶の集まりと有機化合物とで被覆された状態で290℃まで昇温されるため、塗膜が発火することも、塗膜が熱分解することもない。
さらに、大気雰囲気における新聞紙の発火点が290℃で、模造紙の発火点が450℃である。紙からなる可燃性物質も、オクチル酸金属化合物の微細結晶の集まりと有機化合物とで被覆された状態で290℃まで昇温されるため発火しない。また、可燃性物質の表面に、予め塗膜が形成されていても、塗膜が発火することも、塗膜が熱分解することもない。
いっぽう、芳香族カルボン酸エステル類に属する有機化合物に、融点が20℃より低く、メタノールに溶解ないしは混和し、メタノールの20倍以上の粘度を有し、沸点が340℃以上で、発火点が390℃以上である、これら5つの性質を兼備する有機化合物が存在する。このような有機化合物は汎用的な工業用薬品である。
従って、このような有機化合物を、オクチル酸金属化合物のメタノール分散液に混合すると、有機化合物がメタノールに溶解ないしは混和するため、有機化合物はオクチル酸金属化合物のメタノール分散液と均一に混ざり合い、不燃性塗料を形成する。この不燃性塗料を可燃性物質に塗布し、メタノールを気化させると、オクチル酸金属化合物はメタノールに分散するが有機化合物に分散しないため、オクチル酸金属化合物の微細結晶の集まりが有機化合物中に析出する。さらに、昇温してオクチル酸金属化合物を熱分解すると、微細結晶の大きさに応じた40−60nmの大きさからなる金属微粒子の集まりが析出し、金属微粒子の集まりからなる多層構造で、可燃性物質の表面が覆われる。いっぽう、沸点が340℃以上の有機化合物は、金属微粒子の多層構造からなる被膜の表面を覆う第二の被膜となって、可燃性物質を覆う。このため、有機化合物は不燃性塗料の原料になる。
以上に説明したように、オクチル酸金属化合物と、芳香族カルボン酸エステル類に属する有機化合物と、メタノールとは、不燃性塗料を製造する際の原料になり、また、安価な不燃性塗料を製造する原料である。従って、オクチル酸金属化合物と、芳香族カルボン酸エステル類に属する有機化合物と、メタノールとを用い、6段落に記載した可燃性物質に不燃性をもたらす方法に従って、金属微粒子の集まりからなる多層構造の被膜と、有機化合物の被膜とからなる2種類の気密性の被膜で、可燃性物質を覆い、可燃性物質に不燃性をもたらすことができる。
【0010】
(削除)
【0011】
(削除)
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態1
熱処理で金属を析出する金属化合物の実施形態として、オクチル酸金属化合物が適切であることを説明する。金属化合物は、第一にメタノールに分散し、第二に可燃性物質に塗布された金属化合物が昇温された際に、可燃性物質の表面で熱分解し、金属微粒子集まりを析出する2つの性質を兼備する。ここでは金属をクロムとし、2つの性質を兼備する物質として、オクチル酸クロム化合物が適切であることを説明する。
最初に、分子量が小さい無機クロム化合物のメタノール分散性を説明する。酸化
第二クロムCr
2O
3、塩化クロムCrCl
3、硝酸クロムCr(NO
3)
3などの無機クロム化合物はメタノールに溶解し、クロムイオンCr
3+がメタノール中に溶出するため、メタノールを気化させると、無機クロム化合物の微細結晶は析出せず、無機クロム化合物がクロム微粒子の析出に参加できない。また、硫酸クロムCr(SO
4)
3、酢酸クロムCr(CH
3COO)
3、リン酸クロムCrPO
4などの無機クロム化合物は、メタノールに分散しない。従って、こうした分子量が小さい無機クロム化合物は、メタノールに分散しないので、クロム化合物として適切でない。
ここで、有機クロム化合物について説明する。有機クロム化合物からクロムが生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。つまり、有機クロム化合物を昇温するだけで、熱分解でクロムが析出する。さらに、有機クロム化合物の熱分解温度が低ければ、熱分解温度が低い合成樹脂や、発火点が低い紙からなる可燃性物質を、自己発火せず着火しない性質に変えることができる。さらに、有機クロム化合物の合成が容易であれば、不燃性塗料の安価な原料になる。こうした性質を兼備する有機クロム化合物に、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンがクロムイオンに共有結合するカルボン酸クロム化合物があり、さらに、オクチル酸金属化合物がカルボン酸金属化合物の中で最も熱分解温度が低い。
すなわち、カルボン酸クロム化合物を構成するイオンの中で、最も大きいイオンはクロムイオンである。従って、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、クロムイオンに共有結合すれば、クロムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が、イオン同士の距離の中で最も長い。こうしたカルボン酸クロム化合物を大気雰囲気で昇温させると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボン酸とクロムとに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が飽和脂肪酸で構成されれば、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化した後にクロムが析出する。また、カルボン酸が不飽和脂肪酸であれば、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸クロム化合物が熱分解すると、酸化クロムが析出する。
いっぽう、カルボン酸クロム化合物の中で、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子となってクロムイオンに近づいて配位結合するカルボン酸クロム化合物は、クロムイオンと酸素イオンとの距離が短くなり、反対に、酸素イオンがクロムイオンと反対側で結合するイオンとの距離が最も長くなる。このような分子構造を持つカルボン酸クロム化合物の熱分解反応は、酸素イオンがクロムイオンと反対側で結合するイオンとの結合部が最初に分断され、この結果、酸化クロムが析出する。
さらに、カルボン酸クロム化合物は、カルボン酸が最も汎用的な有機酸であるため、合成が容易で最も安価な有機クロム化合物である。つまり、カルボン酸を水酸化ナトリウムなどの強アルカリ溶液中で反応させると、カルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。このカルボン酸アルカリ金属化合物を、硫酸クロムなどの無機クロム化合物と反応させると、カルボン酸クロム化合物が生成される。このため、有機クロム化合物の中で最も安価な有機クロム化合物である。
すなわち、カルボン酸クロム化合物を構成する物質の中で、組成式の中央に位置するクロムイオンCr
3+が最も大きい。従って、クロムイオンCr
3+とカルボキシル基を構成する酸素イオンO
−とが共有結合する場合は、クロムイオンCr
3+と酸素イオンO
−との距離が最大になる。この理由は、クロム原子の3重結合における共有結合半径は103pmであり、酸素原子の2重結合における共有結合半径は57pmであり、炭素原子の2重結合における共有結合半径は67pmであることによる。このような分子構造を持つカルボン酸クロム化合物は、カルボン酸の沸点を超えると、結合距離が最も長いクロムイオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの結合部が最初に分断され、クロムとカルボン酸とに分離する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を伴って気化し、カルボン酸の気化が完了した後にクロムが析出する。
さらに、飽和脂肪酸を構成する炭化水素が長鎖構造である場合は、長鎖が長いほど、つまり、飽和脂肪酸の分子量が大きいほど、飽和脂肪酸の沸点が高く、熱分解温度が高くなる。ちなみに、分子量が200.3であるラウリン酸の大気圧での沸点は296℃であり、分子量が284.5であるステアリン酸の大気圧での沸点は361℃である。
いっぽう、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点が低い。さらに、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸は極性を持つため、分岐鎖構造を有する飽和脂肪酸からなるカルボン酸クロム化合物も極性を持ち、アルコールなどの極性を持つ有機溶剤に相対的に高い割合で分散する。このような分岐構造の飽和脂肪酸としてオクチル酸がある。オクチル酸は構造式がCH
3(CH
2)
3CH(C
2H
5)COOHで示され、CHでCH
3(CH
2)
3とC
2H
5とのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。このため、オクチル酸の大気圧での沸点は228℃で、ラウリン酸より沸点が68℃低い。従って、クロムを析出する原料として、オクチル酸クロムCr(C
7H
15COO)
3が望ましい。オクチル酸クロムは、290℃で熱分解が完了してクロムが析出する。
同様に、銅の原料としてオクチル酸銅Cu(C
7H
15COO)
2が、アルミニウムの原料としてオクチル酸アルミニウムAl(C
7H
15COO)
3が、鉄の原料としてオクチル酸鉄Fe(C
7H
15COO)
3が、ニッケルの原料としてオクチル酸ニッケルNi(C
7H
15COO)
2が望ましい。このようにオクチル酸金属化合物は様々な金属で構成され、不燃性塗料を構成する金属化合物になる。
ここで、オクチル酸金属化合物としてオクチル酸銅を用い、大気雰囲気と窒素雰囲気との双方における熱分解反応を、5℃/
分の昇温速度で昇温したTG−DTA特性から説明する。なお、TG特性は、昇温に伴うオクチル酸銅の重量変化を連続的に測定した結果であり、DTA特性は、昇温に伴ってオクチル酸銅に発生する熱変化を基準物質との温度差として検出する示差熱分析の結果である。大気雰囲気と窒素雰囲気との双方につて、水分の離脱に依る緩やかな重量減少が終了した後、オクチル酸の沸点である228℃を超えると、明確な重量減少が現れ、温度上昇と共に重量が急減し熱分解が進む。すなわち、大気雰囲気では、278.8℃で発熱量が急増し、発熱量のピークが280.7℃で現れ、285.4℃で発熱現象が終了し、重量が78.5%減少した。いっぽう、窒素雰囲気では、285.3℃で発熱量が急増し、発熱量のピークが289.0℃で現れ、291.3℃で発熱現象が終了し、重量が77.4%減少した。従って、オクチル酸銅の熱分解は、大気雰囲気と窒素雰囲気との双方について、オクチル酸の沸点で熱分解が始まり、290℃で熱分解が終了し、銅を析出すると考えて支障ない。また、オクチル酸銅の熱分解で銅が析出するオクチル酸銅の理論的な重量減少は、81.8重量%であるため、熱分解で銅が析出したと考えて支障ない。また、オクチル酸クロム、オクチル酸アルミニウム、オクチル酸鉄、オクチル酸ニッケルについても、オクチル酸銅と同様の熱分解反応を起こし、金属を析出する。
従って、オクチル酸金属化合物は、液体の有機化合物で外界から遮断された可燃性物質の表面で、オクチル酸金属化合物の微細結晶の熱分解が228℃で始まり、290℃で熱分解が終了し、可燃性物質の表面に金属微粒子の集まりが一斉に析出する。このため、オクチル酸金属化合物は、不燃性塗料の原料になる。
【0014】
実施形態2
第一に融点が20℃より低く、第二にメタノールに溶解ないしは混和し、第三にメタノールの粘度の20倍以上の粘度を有し、第四に沸点が340℃以上で、第五に発火点が390℃以上である、これら5つの性質を兼備する有機化合物に関する実施形態である。これら5つの性質を兼備する有機化合物として、芳香族カルボン酸エステル
類に属する有機化合物が存在する。なお、メタノールは20℃で0.59mPa秒の粘度を持つ。
フタル酸ジブチルC
6H
4(COO(CH
2)
3CH
3)
2は、融点が−35℃で、メタノールに溶解し、沸点が340℃で、発火点が402℃で、粘度が38℃で9.7mPa秒である。フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)C
6H
4(COOC
8H
17)
2は、融点が−50℃で、メタノールに混和し、沸点が386℃で、発火点が400℃で、粘度が20℃で81mPa秒である。なお、こうした芳香族カルボン酸エステルは、プラスチック樹脂やポリマー中の可塑剤、ラッカー、接着剤、塗料、工業用インクなどの可塑剤として使用されている汎用的な工業用薬品である。
【0015】
実施形態3
様々な材質の合成樹脂からなる可燃性物質を、2種類の気密性の被膜で覆う実施形態を、合成樹脂の熱分解から説明する。つまり、オクチル酸金属化合物の微細結晶が熱分解する際に、合成樹脂を構成する高分子の熱分解が始まると、高分子の分子構造が不可逆変化し、合成樹脂からなる可燃性物質が変質し、可燃性物質の商品性が損なわれる。
合成樹脂からなる可燃性物質は、オクチル酸金属化合物の微細結晶の集まりと有機化合物との混合物で被覆された状態で290℃まで昇温される。この際、可燃性物質は、大気が遮断され、密閉された領域で290℃まで昇温される。
ところで、合成樹脂を構成する高分子の熱分解反応は、酸素ガスが存在する雰囲気と、窒素雰囲気とでは大きく異なる。つまり、酸素ガスが存在する雰囲気での高分子の熱分解は、酸化反応に依る熱分解であるため発熱を伴う。この発熱現象が、酸化されやすい有機物質からなる高分子の熱分解を促進させ、また、熱分解の途上で生成される可燃性ガスが自己発火する。これに対し、窒素雰囲気での熱分解では酸化反応が起こらず、吸熱反応に依る熱分解が起こり、発熱現象が生じない。このため、高分子が熱分解を開始する温度は、酸素ガスが存在する雰囲気に比べて大幅に遅れて高温側にシフトする。例えば、高密度ポリエチレン樹脂を構成する高分子の熱分解は、大気雰囲気では250℃付近で開始するのに対し、窒素雰囲気では400℃付近で開始し、150℃も高温側にシフトする。
窒素雰囲気における他の高分子の熱分解は、ポリアセタール樹脂POMが280℃で熱分解が始まり420℃で終了する。ポリスチレン樹脂PSは350℃で熱分解が始まり460℃付近で終了する。ポリエチレンテレフタレート樹脂PETが425℃で熱分解が始まり480℃付近で終了する。ポリプロピレン樹脂PPが370℃で熱分解が始まり500℃付近で終了する。高密度ポリエチレン樹脂HDPEが400℃で熱分解が始まり520℃付近で終了する。ポリテトラフルオルエチレン樹脂PTFEは490℃で熱分解が始まり640℃付近で終了する。
また、ヘリウムガス雰囲気でポリ塩化ビニル樹脂PVCは、不燃性で有害の塩化水素ガスと、可燃性ガスのベンゼンとナフタレンとの離脱が、吸熱反応を伴って220℃付近から始まり260℃付近で急激に進行し360℃まで続く。この後、420℃付近から吸熱を伴う高分子の熱分解が始まり、可燃性ガスのトルエンとキシレンとを離脱して550℃付近で終了し、固体の残査(灰分)を10%残す。さらに、大気が遮断された高温流体でのノボラック型フェノール樹脂は、260℃付近から可燃性の可塑剤の脱離が始まり、360℃付近まで続き、この後、390℃から吸熱を伴う高分子の熱分解が始まり、可燃性ガスのフェノールやクレゾールなどを生成し、700℃付近で終了し、固体の残査(灰分)を65%残す。
これに対し、本発明における合成樹脂の可燃性物質は、大気が遮断され、密閉された領域で290℃まで昇温される。このため、高分子の熱分解は、窒素ガスや不活性ガスや高温流体での熱分解とは全く異なる。つまり、窒素ガスや不活性ガスや高温流体では、熱分解で生成されたガスは雰囲気中あるいは高温流体中に順次放出されるため、温度の上昇に伴ってガスが生成される熱分解が進む。いっぽう、本発明における合成樹脂は、大気が遮断され、密閉された領域で昇温されるため、熱分解で生成される最初のガスは、極めて狭い領域に閉じ込められ、狭い領域におけるガスの分圧が増大し、その温度での飽和圧力となって熱分解が停止する。従って、熱分解を進めるには、開放された雰囲気における熱分解より大きな熱エネルギーを高分子に与える必要がある。このため、ごく微量のガスが生成された時点で、狭い領域内におけるガスの分圧がその温度での飽和圧力になり、開放された雰囲気に比べて生成されるガスの量は極めて少ない。また、熱分解で生成される2番目以降のガスは、最初のガスが閉じ込められているため、さらに大きな熱エネルギーが供給されないと熱分解が進まない。この結果、大気が遮断され、密閉された領域における合成樹脂は、前記した雰囲気における熱分解温度より、著しく高温側で熱分解が進み、オクチル酸金属化合物の熱分解温度より高い温度で熱分解する。従って、オクチル酸金属化合物の微細結晶が熱分解しても、高分子は熱分解せず、合成樹脂の性質は変わらない。
【0016】
実施例1
オクチル酸クロム(輸入品)とフタル酸ジブチル(昭和エーテル株式会社の製品)とメタノール(試薬一級品)とを原料として用い、不燃性塗料を製造する。最初に、オクチル酸クロムの144.5g(0.3モルに相当)をメタノールに10重量%で分散した。この分散液にフタル酸ジブチルを5重量%の割合で混合して不燃性塗料を製造した。
【0017】
実施例2
厚みが0.95mmのメラミン化粧板(アイカ工業株紙会社の製品XJN2085KV04)を5cm×5cmの大きさで切り出し、実施例1で製造した不燃性塗料に浸漬し、試料を引き上げてメタノールを気化させた。この後、290℃まで昇温し、1分間放置した後に冷却した。この試料を試料1とする。
なおメラミン化粧板は、家具・什器・建具等の強度が必要な部分に使用する表面材料の一種で、メラミン樹脂とフェノール樹脂とをそれぞれ印刷紙・クラフト紙に含浸させ、乾燥させた含浸紙を重ね合わせ、150℃で100kg/cm
2の圧力を加えて積層成形する。メラミン樹脂は大気雰囲気の230−320℃で低分子量の炭化物に分解し、320−475℃において炭化残渣物の熱分解がゆっくり進み、475−570℃において炭化残渣物が燃焼する。従って、フェノール樹脂と同様にメラミン樹脂も、熱分解に伴って燃焼する。
試料1を切断し、切断面を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接表面が観察できる。
最初に、試料1の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。フタル酸ジブチルの層の内側に、40−60nmの大きさからなる粒状の微粒子が9層前後の厚みで積み重なって結合していた。
次に、試料1の断面からの反射電子線について、900−1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で粒子の材質を分析した。いずれの粒状微粒子にも濃淡が認められず、微粒子は単一原子から構成されていることが分かった。
さらに、試料1の断面からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、粒子を構成する元素の種類を分析した。粒状微粒子はクロム原子のみで構成されていたため、試料1は、クロムの粒状微粒子が9層前後の厚みで積層してメラミン化粧板を覆い、この上をフタル酸ジブチルが1μmの厚みからなる被膜を形成して覆ったことが分かった。
図1に試料1の断面を模式的に図示する。メラミン化粧板1の表面に、クロム微粒子2が9層前後の厚みで積み重なって結合し、さらにその表面を、フタル酸ジブチル3の被膜が覆った。
【0018】
実施例3
実施例2で作成した試料1を、840℃の大気雰囲気に5分間放置した。この際、試料1からは火炎や黒煙や異臭は一切発生しなかった。この熱処理後の試料1を試料2として取り出し、試料2の一部を切り出し、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。試料2の表面は緑色がかり、表面は酸化第二クロムCr
2O
3で構成されていた。また、試料2におけるメラミン化粧板は、黒色がかった液状物質と固体の灰分とに分解され、また、メラミン化粧板を覆うクロム微粒子が200nm近くに粗大化し、粗大化した粒子が3層の厚みで熱分解後のメラミン化粧板を覆っていた。
図2に試料2の断面の一部を模式的に図示する。熱分解後のメラミン化粧板4の表面が、クロムの粗粒子5で覆われている状態を示した。
【0019】
実施例4
厚みが2.5mmの天然木突板化粧合板(松本合板株式会社のタモ柾目製品)を、5cm×5cmの大きさで切り出し、実施例1で製造した不燃性塗料に浸漬し、試料を引き上げてメタノールを気化させた。この後、試料を290℃まで昇温し、1分間放置した後に冷却した。この試料を試料3とする。天然木突板化粧板は、床材や建具などの建材や、家具の表面化粧材に用いられており、木材を0.2−0.6mmの厚みで薄くスライスした突板の複数枚を合板に貼合わせ、100℃を超えた温度で接着剤を乾燥する。なお、木材は大気雰囲気で、400−460℃の温度で発火する。
試料3を切断し、切断面を試料1と同様に、電子顕微鏡で観察した。試料3は、試料1と同様に、天然木突板化粧合板の表面を、クロムの粒状微粒子が9層前後の厚みで積み重なって結合し、さらにその表面を、フタル酸ジブチルが1μmの厚みからなる被膜で覆った。
【0020】
実施例5
実施例4で作成した試料3を、840℃の大気雰囲気に5分間放置した。この際、試料3からは火炎や黒煙や異臭は一切発生しなかった。この熱処理後の試料3を試料4として取り出し、試料4の一部を切り出し、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。試料4の表面は、試料2と同様に緑色がかり、表面は酸化
第二クロムCr
2O
3で構成されていた。また、試料4における天然木突板化粧合板は、黒色がかった液状物質と固体の灰分とに分解され、また、天然木突板化粧合板を覆うクロム微粒子が200nm近くに粗大化し、粗大化した粒子が3層の厚みで熱分解後の天然木突板化粧合板を覆っていた。
【0021】
実施例6
本実施例では、ポリエステル化粧合板を用いた。ポリエステル化粧合板は、メラミン化粧板より耐摩擦性と耐水性とに劣るが安価であるため、家具や建具に用いられている。化粧紙と合板とを貼り合わせたうえにポリエステル樹脂を塗布し、さらにフィルムを掛けてロールで樹脂を伸ばして硬化させたものである。ポリエステル化粧板(アイカ工業株式会社の製品ハイボードRB−5112G)を5cm×5cmの大きさで切り出し、実施例1で製造した不燃性塗料に浸漬し、試料を引き上げてメタノールを気化させた。この後、試料を290℃まで昇温し、1分間放置した後に冷却した。これを試料5とする。なお、ポリエステル樹脂は、大気雰囲気の400℃を超えた温度で熱分解が始まり、可燃性ガスの発生で燃焼する。
試料5を切断し、切断面を試料1と同様に、電子顕微鏡で観察した。試料5は、試料1と同様に、ポリエステル化粧合板の表面を、クロムの粒状微粒子が9層前後の厚みで積み重なって結合し、さらにその表面を、フタル酸ジブチルが1μmの厚みの被膜で覆った。
【0022】
実施例7
実施例6で作成した試料5を、840℃の大気雰囲気に5分間放置した。この際、試料5からは火炎や黒煙や異臭は一切発生しなかった。この熱処理後の試料5を試料6として取り出し、試料6の一部を切り出し、表面と切断面とを電子顕微鏡で観察した。試料6の表面は、試料2と同様に緑色がかり、表面は酸化第二クロムCr
2O
3で構成されていた。また、試料6におけるポリエステル化粧合板は、黒色がかった液状物質と固体の灰分とに分解され、また、ポリエステル化粧合板を覆うクロム微粒子が200nm近くに粗大化し、粗大化した粒子が3層の厚みで熱分解後の天然木突板化粧合板を覆っていた。
【0023】
以上に説明した化粧板は、840℃に昇温しても発火せず、熱分解後の化粧板は、クロム粒子の被膜の内部に留められ、外部に放出されなかった。従って、化粧板は少なくとも840℃の耐熱性と気密性とを有する被膜で覆われた。なお、耐火性の規定の中で最も厳しい規定に、耐火電線の耐火層の絶縁性能がある。この規定は、火災時の非常用電源を確保するために耐火層の絶縁性能が一定時間保たれ、消防法および建築基準法で定める各種非常用設備の配線に規定されている。この規定は、30分間で840℃に達する火災温度曲線による加熱に耐える絶縁性能を持つことが定められている。この最も厳しい規定に基づいて、化粧板を840℃に昇温した。つまり、火災を想定した耐火性の規定の中で840℃が最も高いため、化粧板を大気雰囲気の840℃で燃焼させた。なお、クロムの融点は1907℃と高い。
前記した実施例は、一部の事例に過ぎない。つまり、オクチル酸金属化合物は、クロムに限らず、様々な金属イオンからなるオクチル酸金属化合物を用いることで、可燃性物質の表面を様々な金属微粒子の集まりからなる多層構造で覆う事ができる。
また、可燃性物質は実施例で示した化粧板に限らない。つまり、不燃性塗料は液体で構成され、粘度は、有機化合物の粘度と有機化合物の混合割合に応じて自在に変えられる。このため、可燃性物質の材質、形状、大きさ、また、表面の状態に応じて、粘度を調整し、さらに、刷毛塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、ロールコーター、浸漬塗りなどの塗布の方法を選択すれば、全ての可燃性物質に塗膜が形成できる。また、可燃性物質に塗布した塗膜の厚みは、不燃性塗料の粘度で決まる。さらに、不燃性塗料におけるオクチル酸金属化合物の濃度に応じて、可燃性物質を覆う金属微粒子の多層構造における層の厚みが自在に変えられる。可燃性物質が晒される温度が高温になるほど、金属微粒子の多層構造の層の厚みを厚くすれば、金属微粒子が粗大化しても、粗大化した金属粒子の金属結合で多層構造が形成され、高温時における多層構造の気密性が保たれる。従って、不燃性塗料は、可燃性物質の材質、形状、大きさまた、表面の状態に拘わらず、金属の融点に近い温度まで、可燃性物質が自己発火せず着火しない。また、可燃性物質の熱分解物質が外部に排出されない。こうした画期的な性質を全ての可燃性物質に付与できる不燃性塗料である。