(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[光造形用トレイ]
本発明に係る光造形用トレイは、吊り下げ方式の光造形において流動性を有する光硬化性材料を収容するものであり、いわゆる樹脂槽である。光造形用トレイは、光照射面を有するトレイ本体と、トレイ本体の光照射面の反対側の面を覆うとともに光硬化性材料との接触面を有する離型層と、を備える。離型層は、酸素透過性を有する第1樹脂を含む第1樹脂層を少なくとも備え、第1樹脂層は、第1樹脂層中に酸素を供給するために大気中に露出する酸素供給窓を有する。
【0012】
吊り下げ方式の光造形では、少量の光硬化性材料をトレイに収容し、台座を光硬化性材料に浸漬し、トレイの外側の底面側から、台座のパターン形成面に向かって光照射する。このとき、パターン形成面とトレイの内底面との間に存在する光硬化性材料の液膜が硬化され、光硬化パターン(光硬化性材料の硬化物)が形成される。次いで、形成された光硬化パターンとともに台座を上昇させて、光硬化パターンとトレイの内底面との間に光硬化性材料の液膜を再び形成し、この液膜を光硬化させて光硬化パターンを形成する。このような台座の上昇と光照射とを繰り返すことで、光硬化パターンが積層されて、三次元造形体が形成される。トレイの内底面には、光硬化パターンを剥離し易くする目的で、離型層が形成されている。トレイの底部は、照射される光に対する透過性を有する必要があるが、一般的なトレイの場合、内底面からの光硬化パターンの剥離を繰り返すと、離型層に加わる剥離応力が大きくなり、離型層が白化などにより劣化して離型性が損なわれる。
【0013】
そこで、本発明では、酸素透過性を有する第1樹脂を含む第1樹脂層を少なくとも備える離型層で、トレイ本体の光照射面(トレイ本体の外側の底面において光が照射される領域)の反対側の面を覆うとともに、離型層が光硬化性材料との接触面を有するように設計されている。ここで、第1樹脂層は、第1樹脂層中に酸素を供給するために大気中に露出する酸素供給窓を有する。酸素供給窓は、通常、光硬化性材料と接触することなく大気中に露出している。大気や大気中の酸素は、第1樹脂層の酸素供給窓から、第1樹脂層を透過して、トレイ内に導入される。トレイ内に導入された酸素は、第1樹脂層の近傍に存在して、離型層と光硬化性材料との界面付近における光硬化性材料の硬化反応を阻害する。そのため、離型層と光硬化パターンとの接着性が低下して、光硬化パターンを剥離し易くなり、離型層に加わる剥離応力が低減される。よって離型層の白化などの劣化を抑制できる。
【0014】
離型層の光硬化性材料との接触面は、光造形用トレイに光硬化性材料を収容したときに、光硬化性材料と接触することになる領域である。
酸素は、光造形を行う間は継続して、酸素供給窓から導入されることが望ましい。そのため、光造形用トレイに光硬化性材料を収容した後は、酸素供給窓は大気中に露出し続けた状態とすることが好ましい。
【0015】
なお、本発明では、光造形用トレイの構成要素(トレイ本体、離型層、第1樹脂、後述の第2樹脂など)は、少なくとも光が照射される領域においては、照射される光(例えば、紫外光から可視光領域の光)を透過する必要がある。光造形用トレイは、少なくとも光が照射される領域において、例えば、照射される光に対する光線透過率が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
以下、光造形用トレイの構成要素についてより詳細に説明する。
光造形用トレイは、光硬化性材料を収容するトレイ本体と、トレイ本体の光硬化性材料を収容する側の面に配された離型層とを備える。
【0017】
(トレイ本体)
トレイ本体の形状は、光硬化性材料を収容可能である限り特に制限されない。トレイ本体は、例えば、方形や円形などの形状を有する底部と、底部の周縁から高さ方向に延びる側壁とを備えている。トレイ本体は、例えば、皿やバットなどの形状を有している。
【0018】
台座のパターン形成面に向かって光硬化性材料に照射される光を遮らないように、トレイ本体の底部の光照射面およびその近傍の領域(好ましくは台座のパターン形成面の下方に位置する領域)は照射される光を透過可能である。トレイ本体の底部の周縁部や側壁などは特に照射される光を透過可能である必要はないが、トレイ本体全体を照射される光を透過可能(例えば、透明)にしてもよい。
【0019】
トレイ本体は、樹脂などの有機材料や、ガラスなどの無機材料で構成される。トレイ本体の光が照射される領域は、樹脂(第3樹脂)やガラスで構成される。トレイ本体を構成する第3樹脂としては、照射される光を透過可能な樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。トレイ本体は、これらの材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。トレイ本体は、必要に応じて、公知の添加剤を含んでもよい。
【0020】
(離型層)
離型層は、トレイ本体の光照射面の反対側の面、すなわち、光硬化性材料を収容する側の面を覆うように配されている。離型層は、光硬化パターンを剥離し易くするために、少なくとも光照射される領域に配されていればよいが、酸素供給窓を大気中に露出した状態となるように配する必要がある。
【0021】
図1および
図2にそれぞれ離型層の酸素供給窓の配置例を示す。
図1は、本発明の一実施形態に係る光造形用トレイの概略縦断面図である。光造形用トレイ1は、バット状のトレイ本体1aと、トレイ本体1aの内側に配された離型層1bとを含む。トレイ本体1aは、光源6からの光Lが照射される光照射面5aを含む外側の底面と、光照射面5aの反対側の面5bを含む内底面とを備える。光造形用トレイ1において、離型層1bは、トレイ本体1aの面5bを含む内底面およびトレイ本体1aの内側壁を覆うように配されている。光造形用トレイ1には、光硬化性材料3が収容されており、離型層1bは、光硬化性材料3との接触面9を有している。
【0022】
光硬化性材料3の硬化パターンは、台座4のパターン形成面4aに形成される。硬化パターンの形成に先立って、台座4を光造形トレイ1の上方から降下させて、台座4の底部に形成されたパターン形成面4aを、光造形用トレイ1に収容された光硬化性材料3に浸漬させる。これにより、パターン形成面4aと光造形用トレイ1の離型層1bとの間には、光硬化性材料3の液膜が形成された状態となる。この状態で、光源6からの光Lが、トレイ本体1aの光照射面5a側から、台座4のパターン形成面4aに向かって照射される。光Lの照射により、パターン形成面4aと離型層1bとの間の光硬化性材料3の液膜が硬化して硬化パターンが形成される。硬化パターン形成後、台座4を上方に引き上げて、硬化パターンを離型層1bから剥離し、次いで、パターン形成面4a(もしくは形成された硬化パターン)と離型層1bとの間に再び液膜を形成する。そして、光Lを照射することにより液膜を硬化させる。硬化パターンの形成と硬化パターンの剥離とを繰り返すことにより、三次元造形体が形成される。
【0023】
離型層1bは、酸素透過性を有する第1樹脂を含む第1樹脂層を少なくとも備えており、第1樹脂層は、酸素供給窓を有する。図示例では、離型層1bは第1樹脂層で形成されており、トレイ本体1aの内面に沿って形成された離型層1bの周縁部(上端部)は、光硬化性材料3の液面から上方に露出した状態となっている。この離型層1bの周縁部は、光硬化性材料3とは接触しておらず、大気中に露出する酸素供給窓2を構成している。この酸素供給層2から離型層1b内に導入された酸素は、離型層1bと光硬化性材料3との界面付近における硬化反応を阻害するため、形成された硬化パターンを離型層1bから剥離し易くなる。
【0024】
図2は、本発明の他の一実施形態に係る光造形用トレイの概略縦断面図である。
図2は、酸素供給窓12が光硬化性材料3の液面よりも下方に位置する場合の例であり、離型層の光照射面側に酸素供給窓が形成されている例である。光造形用トレイ11は、バット状のトレイ本体11aと、トレイ本体11aの内側に配された離型層11bとを含む。トレイ本体11aは、光源6からの光Lが照射される光照射面15aを含む外側の底面と、光照射面15aの反対側の面15bとを備える。光造形用トレイ11において、離型層11bは、トレイ本体11aの面15bを含む内底面の全体を覆うように配されている。光造形用トレイ11には、光硬化性材料3が収容されており、離形層11bは光硬化性材料3との接触面19を有している。光源6からの光Lは、トレイ本体11aの光照射面15a側から台座4のパターン形成面4aに向かって照射されるが、三次元造形体が形成される手順は、
図1の場合と同様である。
【0025】
トレイ本体11aは、底部に形成された孔7を有しており、この孔7を介して、離型層11bは大気と接触した状態となっている。離型層11bの光照射面15a側において、離型層11bの大気と接触した領域は、光硬化性材料3とは接触しておらず、大気中に露出する酸素供給窓12を構成している。
図2でも、離型層11bは、第1樹脂を含む第1樹脂層のみで形成されている。
図1の場合と同様に、酸素供給窓12から離型層11b内に導入された酸素により、形成されたパターンを離型層11bから剥離し易くなる。
【0026】
図3は、本発明のさらに他の一実施形態に係る光造形用トレイの概略底面図である。
図3も、
図2の場合と同様に、酸素供給窓22が光硬化性材料の液面よりも下方に位置する場合の例である。光造形用トレイ21は、
図2の場合と同様に、バット状のトレイ本体21aと、トレイ本体21aの内側に配された離型層とを備えている。
図3は、光造形用トレイ21を、外側の底面(つまり、トレイ本体21aの外側の底面)から見たときの状態を示している。トレイ本体21aの外側の底面は、
図2の場合と同様に、光照射面25aを含む。
【0027】
光造形用トレイ21は、
図3に示すように、外側の底面側から見たときに、光照射面25aを囲うような位置に形成された4つの酸素供給窓22を有している。酸素供給窓22では、トレイ本体21aの底部28は切り抜かれて孔27を形成しており、トレイ本体21aの内側に配された離型層(の光照射面25a側の表面)が、孔27から露出した状態となっている。つまり、離型層の光照射面25a側において、光照射面25aを囲うような位置に4つの酸素供給窓22が形成されている。このような酸素供給窓22は、トレイ本体21aの底部28を、内底面の外縁の4辺にそれぞれ沿って4箇所切り抜くことで孔27を形成し、内底面全体を離型層で覆うことにより形成される。
【0028】
図3の例では、4つの酸素供給窓を形成したが、この場合に限らず、少なくとも1つの酸素供給窓が形成されていればよい。酸素供給窓は、光造形用トレイの底面側から見たときに、トレイ本体の光照射面を囲うような配置となるように離型層の光照射面側に形成すると、酸素供給窓から導入された酸素を、光照射面の上方における光硬化性材料と離型層との界面近傍に供給し易い。
【0029】
図2や
図3の例では、酸素供給窓を形成するための孔を、トレイ本体の底部に形成したが、この場合に限らず、孔は、トレイ本体の側壁に形成してもよい。この場合、離型層は、トレイ本体の内底面を覆うとともに、孔を覆うようにトレイ本体の内側の壁面にも配される。また、酸素供給窓の個数は特に制限されず、少なくとも1つあればよい。
【0030】
離型層は、第1樹脂層のみで構成してもよい。この場合、第1樹脂層が離型性を有する。離型層は、第1樹脂層と、第1樹脂層に積層され、光硬化性材料との接触面を有し、かつ第2樹脂を含む第2樹脂層とを含んでもよい。第2樹脂層は、第1樹脂層よりも光硬化性材料の硬化物に対して高い離型性を有することが好ましい。
【0031】
(第1樹脂層)
第1樹脂層に含まれる第1樹脂は、酸素透過性を有する。第1樹脂は、第1樹脂からなる厚み25μmのフィルムについての酸素透過係数が、例えば、1×10
4cc/m
2・24h・atm以上であることが好ましく、1×10
5cc/m
2・24h・atm以上または1×10
6cc/m
2・24h・atm以上であることがさらに好ましい。なお、第1樹脂層のうち、少なくとも酸素供給窓として大気中に露出する部分に含まれる第1樹脂がこのような酸素透過係数を示すことが好ましい。
なお、上記フィルムの酸素透過係数は、JIS K 7126−1(差圧法)に準拠して測定することができる。
【0032】
第1樹脂としては、ゴム状重合体、フッ素樹脂、スチレン樹脂、オレフィン樹脂などが例示できる。第1樹脂は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。ゴム状重合体としては、例えば、シリコーンゴム、ニトリルゴムなどが好ましい。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレンユニットを含む重合体が好ましい。これらの第1樹脂のうち、照射光に応じて、照射光を透過可能であるものを適宜選択すればよい。第1樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。紫外光〜可視光域の光線に対する透過性が比較的高い観点から、第1樹脂のうち、テトラフルオロエチレンユニットを含む重合体およびシリコーンゴムが好ましい。
【0033】
シリコーンゴムには、付加型と縮合型とがあるが、酸素透過性が高く、離型層の高い離型性を確保し易い観点からは、付加型のシリコーンゴムを用いることが好ましい。テトラフルオロエチレンユニットを含む重合体には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンユニットを含む共重合体が含まれる。テトラフルオロエチレンユニットを含む共重合体としては、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)共重合体などが好ましい。
【0034】
第1樹脂層は、第1樹脂を含むコーティング剤を、トレイ本体の内面に塗布し、乾燥することにより形成してもよく、第1樹脂を含むフィルムをトレイ本体の内面に貼り付けることにより形成してもよい。
第1樹脂層の厚みは、例えば、10μm〜5cmであり、100μm〜4cmであることが好ましい。
【0035】
酸素供給窓の面積は、第1樹脂層への酸素の導入量に影響する。離型層の光硬化性材料との接触面の面積(S1)に対する酸素供給窓の面積(S2)の比(=S2/S1)は、例えば、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。酸素供給窓の面積比がこのような範囲である場合、第1樹脂層に多くの酸素を導入し易いため、光硬化性材料の硬化物を離型層から剥離し易い。
【0036】
離型層には、高い酸素透過性と、光硬化性材料の硬化物に対する高い離型性とが求められるが、第1樹脂層のみでこれらの特性を両立し難い場合には、第1樹脂層で高い酸素透過性を確保しつつ、高い離型性を有する第2樹脂層が、光硬化性材料との接触面を有するように第1樹脂層に積層することが好ましい。
【0037】
離型層は、必要に応じて、第1樹脂層を2層構造などの多層構造としてもよい。この場合、酸素供給窓の位置にもよるが、第1樹脂層全体として高い酸素透過性を確保できるように各層を構成する樹脂を選択することが好ましい。例えば、第1樹脂層が2層構造を有する場合、第1樹脂層のトレイ本体側の層を構成する樹脂としては、フッ素樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体など)を用い、光硬化性材料との接触面側の層(第2樹脂層を含む場合は第2樹脂層側の層)を構成する樹脂としては、シリコーンゴムなどのゴム状重合体やフッ素樹脂を用いてもよい。
【0038】
(第2樹脂層)
第2樹脂層は、酸素透過性を有する第2樹脂を含む。第2樹脂は、照射光を透過可能であることが好ましい。また、第2樹脂層を設ける場合、離型層(第2樹脂層)と光硬化性材料との界面における硬化反応を阻害する観点から、第1樹脂層内に酸素供給窓から導入された酸素を、第2樹脂層を通じて、第2樹脂層と光硬化性材料との界面付近に供給する必要がある。このような観点からは、第2樹脂としては、第1樹脂について例示したものから選択して用いることが好ましい。
【0039】
高い酸素透過性を確保する観点からは、第2樹脂の酸素透過係数は、第1樹脂について記載した範囲から選択できる。第2樹脂としては、シリコーンゴムなどのゴム状重合体を用いることが好ましい。
【0040】
高い離型性が得られ易い観点からは、第2樹脂として、フッ素樹脂を用いることが好ましい。この場合、第2樹脂の酸素透過係数は、第1樹脂の酸素透過係数ほど高くなくてもよい。照射光に対する高い透過性と高い離型性とを確保し易い観点からは、フッ素樹脂のうち、テトラフルオロエチレンユニットを含む重合体を用いることが好ましく、第1樹脂について例示したテトラフルオロエチレンユニットを含む共重合体(中でも、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)共重合体など)が好ましい。このような第2樹脂を含む第2樹脂層を設ける場合、第1樹脂としてシリコーンゴムなどのゴム状重合体を含む第1樹脂層を用いることで、高い酸素透過性を確保することが好ましい。
【0041】
第2樹脂層は、第1樹脂層のトレイ本体とは反対側の表面に、第2樹脂を含むコーティング剤を塗布し、乾燥することにより形成してもよく、第2樹脂を含むフィルムを貼り付けることにより形成してもよい。また、第1樹脂層に第2樹脂層を積層した積層フィルムを、第1樹脂層がトレイ本体の内面に接触するように貼り付けることにより離型層を形成してもよい。
第2樹脂層の厚みは、例えば、1〜1,000μmであり、10〜100μmであることが好ましい。
【0042】
離型層の厚みは、例えば、1μm〜6cmの範囲から選択できる。
離型層は、必要に応じて、公知の添加剤を含むことができる。
【0043】
離型層において、高い離型性が得られ易い観点からは、光硬化性材料との接触面の光硬化性材料に対する接触角が高い方が好ましい。このような離型層は、一般に、水に対する接触角も高いため、本明細書では、光硬化性材料に対する接触角に代えて、水に対する接触角を用いてその離型性を表すものとする。離型層の光硬化性材料との接触面の水に対する接触角は、例えば、90°よりも大きいことが好ましく、95°以上であることがさらに好ましく、100°以上であってもよい。
【0044】
(光硬化性材料)
光造形用トレイに収容される光硬化性材料は、光硬化性モノマー、光硬化性前駆体(光硬化性オリゴマー、光硬化性プレポリマーなど)を含んでおり、さらに光重合開始剤を含む場合もある。光硬化性材料は流動性を有し、通常、室温で液状である。
【0045】
光硬化性モノマーとしては、光照射により発生したラジカルやカチオンなどの作用により硬化または重合可能なモノマーが使用される。ラジカル重合光硬化性モノマーとしては、重合性の官能基を複数有する多官能性モノマーが好ましい。光硬化性モノマーにおける重合性官能基の個数は、例えば、2〜8個である。重合性官能基としては、ビニル基、アリル基などの重合性炭素−炭素不飽和結合を有する基、エポキシ基などが例示できる。
【0046】
なお、ラジカルにより硬化または重合可能な材料を用いる場合、離型層と光硬化性材料との間の界面付近における硬化反応は、第1樹脂層に導入された酸素により阻害される。
【0047】
より具体的には、光硬化性モノマーとしては、例えば、アクリル系モノマーなどのラジカル重合性モノマー、エポキシ系モノマー、ビニル系モノマー、ジエン系モノマーなどのカチオン重合性モノマーなどが挙げられる。光硬化性モノマーは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
アクリル系モノマーとしては、例えば、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルが使用される。ポリオールは、例えば、脂肪族ポリオールであってもよく、芳香環または脂肪族環を有してもよい。なお、本明細書中、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリレートと総称する。
【0049】
ビニル系モノマーとしては、ポリオールポリ(ビニルエーテル)などのビニルエーテル、スチレンなどの芳香族ビニルモノマー、ビニルアルコキシシランなどが例示できる。ポリオールポリ(ビニルエーテル)を構成するポリオールとしては、アクリル系モノマーについて例示したポリオールが例示される。
ジエン系モノマーとしては、例えば、イソプレン、ブタジエンなどが挙げられる。
【0050】
エポキシ系モノマーとしては、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を挙げることができる。エポキシ系モノマーは、例えば、エポキシシクロヘキサン環または2,3−エポキシプロピロキシ基を含むものであってよい。
【0051】
光硬化前駆体としては、前記例示の光重合性モノマーのオリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ジアリルフタレートプレポリマーなどが例示できる。これらは、光重合によりさらに高分子量化が可能である。ジアリルフタレートプレポリマーは、複数のジアリルフタレートユニットが連なったオリゴマーまたはポリマーである。ジアリルフタレートプレポリマーは、一種のジアリルフタレートユニットを含んでもよく、二種以上のジアリルフタレートユニットを含んでもよい。二種以上のジアリルフタレートユニットとは、例えば、アリルオキシカルボニル基の置換位置が異なる複数のジアリルフタレートユニットが挙げられる。なお、o−ジアリルフタレートユニットの連結鎖を含むオルソ型ジアリルフタレートプレポリマー、m−ジアリルフタレートユニットの連結鎖を含むイソ型ジアリルフタレートプレポリマーなどを用いてもよい。
【0052】
光硬化性前駆体の重量平均分子量は、例えば、5,000〜150,000であり、10,000〜150,000または30,000〜150,000であってもよい。
【0053】
光重合開始剤は、光の作用により活性化して、光硬化性モノマーおよび/または前駆体の重合を開始させる。光重合開始剤としては、例えば、光の作用によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤のほか、光の作用により酸(またはカチオン)を生成するもの(具体的には、カチオン発生剤)が挙げられる。光重合開始剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。光重合開始剤は、光硬化性モノマーのタイプ、例えば、ラジカル重合性であるか、カチオン重合性であるかなどに応じて選択してもよい。ラジカル重合開始剤(ラジカル光重合開始剤)としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。
【0054】
光硬化性材料は、さらに、その他の公知の硬化性樹脂などを含んでもよい。
また、光硬化性材料は、公知の添加剤を含むことができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
(1)トレイの作製
第1樹脂としての型取り用シリコーン付加型硬化ゴム(信越化学工業(株)製、KE−1603−A/B)を攪拌し、減圧下で脱泡することにより透明で粘稠な液体を得た。得られた液体を、トレイ本体としてのアクリル樹脂製のバット(縦10cm×横10cm×深さ5cm)に入れて、中央に、板材(縦8cm×横8cm×高さ3cm)を押し込み、室温で24時間静置して硬化させることにより第1樹脂層からなる離型層を形成した。板材を取り除くことにより、
図1に示すようなトレイを完成させた。第1樹脂層の厚みは1cmであり、水に対する接触角は95°であった。
なお、第1樹脂からなるフィルム(厚み25μm)を作製し、JIS K 7126−1(差圧法)に準拠して酸素透過係数を求めたところ、7×10
5cc/m
2・24h・atmであった。
【0057】
(2)評価
上記(1)で得られたトレイを用いて以下の評価を行った。
(a)離型層の酸素透過性
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100質量部に対して、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤(BASF社製、Irgacure819)3質量部を添加し、80℃で加熱することにより均一な液状材料(光硬化性材料)を得た。
光硬化性材料を、上記(1)で得られたトレイに、離型層の上縁部(酸素供給窓)を大気中に露出させた状態で入れ、ガラス板で光硬化性材料の液面を覆った。この状態で、全体を1mmHg(≒133.3Pa)に減圧して10分間保持した。このとき、離型層から光硬化性材料中への気体の流入を目視で観察した。気体の流入が観察されたものをA、気体の流入が観察されなかったものをBとして評価した。なお、離型層の光硬化性材料との接触面の面積(S1)に対する酸素供給窓の面積(S2)の比(=S2/S1)は、0.2であった。
【0058】
(b)硬化物の剥離性
上記(1)で得られたトレイを、DLP(登録商標、Digital Light Processing)方式のプロジェクタ光源を利用するパターニング装置の樹脂槽として用いて、光造形を行い、離型層からの硬化物の剥離性について評価した。
より具体的には、トレイに、上記(a)で調製したものと同じ光硬化性材料を、酸素供給窓が大気中に露出した状態で収容し、パターニング装置にセットした。パターニング装置の台座(プラットフォーム)のパターン形成面を、下向きに、トレイ内の光硬化性材料に浸漬させ、パターン形成面とトレイの離型層との間に厚み150μmの液膜を形成した。この液膜に対して、トレイの下方から光源より、露光波長405nmの光を照度0.2mW/cm
2で60秒間面露光し、液膜を硬化させた。得られた硬化物を台座ごと引き上げて、トレイの離型層から剥離させた。このとき、離型層から硬化物を容易に剥離できた場合をA、剥離に手間取ったり、きれいに剥離できなかったりした場合をBとして評価した。なお、S2/S1比は、0.2であった。
【0059】
参考例1
図4は、
図3の光造形トレイに用いたトレイ本体の概略上面図である。
図4に示すように、トレイ本体21aとしてのアクリル樹脂製のバット(縦10cm×横10cm×深さ5cm)の底部28を、光照射面とは反対側の面25bを囲むように内底面の外縁の4辺にそれぞれ沿って、4箇所切り抜き、孔27を形成した。バットの内底面全体を覆うように、第1樹脂層として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(ダイキン工業(株)製、ネオフロンPFA)のフィルム(厚み12μm)を配した。次いで、このフィルム上に、実施例1で用いたものと同じ粘稠な液体を流し込み、室温で24時間静置して硬化させることにより、シリコーンゴムで形成された第2樹脂層を積層し、
図2に示すようなトレイを完成させた。第2樹脂層の厚みは12μmであり、水に対する接触角は96°であった。第1樹脂からなるフィルム(厚み25μm)の酸素透過係数(JIS K 7126−1(差圧法)に準拠)は、2×10
4cc/m
2・24h・atmであった。
【0060】
得られたトレイを用いて、実施例1と同様の評価を行った。ただし、第2樹脂層の第1樹脂層とは反対側の面は、光硬化性材料で完全に覆われた状態とした。実施例2では、孔27の部分において、第1樹脂層の大気中に露出した領域が酸素供給窓に相当する。S2/S1比は、0.2であった。
【0061】
実施例2
実施例1で用いたものと同じトレイ本体を用い、実施例1と同様にして、第1樹脂を形成した。次に、第1樹脂層が配置されたトレイ本体の内底面全体を覆うように、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)共重合体(テフロン(登録商標)AF2400)のフィルム(厚み50μm)を第1樹脂層上に積層して、第2樹脂層を形成した。第2樹脂層の水に対する接触角は105°であった。第2樹脂からなるフィルム(厚み25μm)の酸素透過係数(JIS K 7126−1(差圧法)に準拠)は、1.8×10
7cc/m
2・24h・atmであった。このようにして、第1樹脂層および第2樹脂層を有する離型層を備えるトレイを完成させた。得られたトレイを用いること以外は、
参考例1と同様にして評価を行った。
【0062】
比較例1
板材を押し込むことなく、離型層を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてトレイを完成させた。比較例1のトレイでは、アクリル樹脂製のバットの内底面のみにシリコーンゴムの離型層(第1樹脂層)が配されていた。第1樹脂層の厚みは、300μmであり、水に対する接触角は90°であった。得られたトレイを用いること以外は、
参考例1と同様にして評価を行った。比較例1では、離型層が大気中に露出する酸素供給窓は形成しなかった。
実施例、参考例および比較例の結果を表1に示す。実施例
1は、A
1であり、参考例1は、
A2であり、実施例2はA3であり、比較例1はB1である。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、比較例1では、離型層から光硬化性材料中への気体の流入は見られず、離型層から硬化物を剥離し難かった。これに対して、酸素供給窓を備える実施例
および参考例では、離型層から光硬化性材料への気体の流入が確認され、離型層から硬化物を容易に剥離することができた。
【0065】
実施例1の評価(b)において、液膜の硬化と硬化物の剥離とを100回繰り返して、離型層の白化の程度を目視で確認した。比較例1についても同様に白化の程度を確認した。その結果、実施例1では離型層に変化は見られなかったのに対し、比較例1では離型層が白く濁った状態となった。