【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年2月9日東京工業大学大岡山キャンパス緑ヶ丘1号館M111において開催された平成28年東京工業大学大学院理工学研究科修士論文発表会で発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1コイルに印加する交流電気信号の周波数を連続的に変化させ、前記解析対象における渦電流により発生した磁界により前記第2コイルに発生した電圧に応じた時系列の電気的状態量を測定する、請求項1または2に記載の解析方法。
前記時系列の電気的状態量をウェーブレット変換することによって得られるウェーブレット係数と前記周波数との関係を求め、前記周波数に対する前記ウェーブレット係数の変化率に基づいて、前記第1周波数および前記第2周波数を決定する、請求項4に記載の解析方法。
コンピュータに、第1電気的状態量および第2電気的状態量に基づいて、解析対象の厚さ方向の特性を解析させる解析プログラムであって、前記第1電気的状態量は、第1周波数の交流電気信号を第1コイルに印加して前記解析対象を励磁させて、前記解析対象に第1渦電流を生成させ、前記第1渦電流により発生した磁界により第2コイルに発生した電圧に基づいて測定され、前記第2電気的状態量は、第2周波数の交流電気信号を前記第1コイルに印加して前記解析対象を励磁させて、前記解析対象に第2渦電流を生成させ、前記第2渦電流により発生した磁界により前記第2コイルに発生した電圧に基づいて測定される、
解析プログラムであって、
前記第1周波数および前記第2周波数は、前記解析対象と同じ材料であり且つ厚さ方向の特性が互いに異なる複数の試験体の各々に対して試験を行うことで設定され、
前記試験は、
周波数を連続的に変化させた交流電気信号を前記第1コイルに印加して前記複数の試験体の各々を励磁し、前記複数の試験体の各々に渦電流を生成し、
前記複数の試験体の各々について、前記渦電流により発生した磁界により前記第2コイルに発生した電圧を検出し、
前記周波数の各々における、前記複数の試験体の各々について検出された前記電圧を比較することで、前記第1周波数および前記第2周波数を設定する、
解析プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
[構成]
以下、図面を参照し、本発明の第1実施形態の解析方法、解析プログラム、および解析装置について説明する。
図1は、本実施形態の解析装置1の一例の機能ブロック図である。解析装置1は、解析対象における、板厚、リフトオフといった各種特性を解析する装置であり、例えば、解析対象となる各種構造物の保守作業を行う作業者によって操作される。解析装置1は、交流電流に応じた磁界により解析対象において発生する渦電流が、解析対象のリフトオフおよび板厚に応じて変化する性質を利用して解析を行う。具体的には、解析装置1は、解析対象の板厚が大きいほど渦電流の変化に伴う検出電圧が大きくなり、リフトオフが大きいほど検出電圧が小さくなる傾向を利用することで腐食状態の検査を行う。
【0018】
解析装置1は、任意の形状の、鉄鋼材,非鉄金属,黒鉛などの様々な導電性材料の解析を行うことができる。なお、解析装置1は、保守作業を行う作業者によって操作される検査装置として使用される他、解析対象となる構造物に予め設置されて検出結果を継続的に外部に出力するようなセンシング機器として使用されてもよい。
【0019】
ここで、「リフトオフ」とは、解析装置1のプローブ(後述する第1コイル12および第2コイル13)と解析対象である導電性材料の構造物の表面との間の距離を言う。例えば、解析対象である導電性材料の構造物の表面に腐食層が形成されている場合、「リフトオフ」とは、解析装置1のプローブと腐食層の表面との距離ではなく、解析装置1のプローブと導電性材料の構造物の表面(腐食層を含まない)との距離を言う。また、解析対象である導電性材料の構造物の表面が塗膜で覆われている場合、「リフトオフ」とは、解析装置1のプローブと塗膜との距離ではなく、解析装置1のプローブと導電性材料の構造物の表面との距離を言う。
【0020】
解析装置1は、例えば、制御部10と、電源部11と、第1コイル12と、第2コイル13と、検出部14と、演算部15(解析部)と、記憶部16とを備える。
【0021】
制御部10は、解析装置1の各部の動作の制御を行う。制御部10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などで実現される。
【0022】
電源部11は、制御部10の制御下において、第1コイル12に交流電流または交流電圧といった交流電気信号を印加する。電源部11は、第1コイル12に印加する交流電気信号の周波数を変更することができる。電源部11は、例えば、交流電源である。
【0023】
第1コイル12は、電源部11から入力された交流電気信号に応じて、交流磁界を発生するドライバコイルである。この交流磁界により検査対象Tが励磁され、検査対象Tに渦状の誘導電流(渦電流EC:Eddy Current)が発生する。
【0024】
第2コイル13は、第1コイル12おいて発生した交流磁界と、渦電流ECに起因して発生した交流磁界と、の双方の影響を受けて励磁され電圧を生成するレシーバコイルである。
【0025】
検出部14は、第2コイル13において発生した電圧に基づく電気的状態量を検出する。例えば、検出部14は、第2コイル13において発生した電圧を測定する電圧計である。
【0026】
演算部15は、記憶部16に記憶されたリフトオフと検出電圧との間の関係を示すリフトオフ参照データおよび板厚と検出電圧との間の関係を示す板厚参照データと、検出部14により検出された検出電圧とに基づいて、検査対象Tの板厚、リフトオフを演算する。
【0027】
記憶部16は、リフトオフ推定周波数f
L(第1周波数)、板厚推定周波数f
t(第2周波数)、リフトオフ参照データ、板厚参照データ、演算部15の演算結果、検出部14の検出結果などを記憶する。記憶部16は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどで実現される。
【0028】
上記の解析装置1の各機能部のうち一部または全部は、プロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されてよい。また、解析装置1の各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実現されてもよい。
【0029】
リフトオフ推定周波数f
Lは、解析対象のリフトオフを推定する場合に第1コイル12に印加される交流電気信号の周波数である。板厚推定周波数f
tは、解析対象の板厚を推定する場合に第1コイル12に印加される交流電気信号の周波数である。リフトオフ推定周波数f
Lおよび板厚推定周波数f
tの各々は、解析対象の材料毎に予め設定されている。リフトオフ推定周波数f
Lおよび板厚推定周波数f
tは、以下のような手順により設定される。
【0030】
[リフトオフ推定周波数f
Lおよび板厚推定周波数f
tの設定]
板厚tとリフトオフLとを調整した複数の試験体に対して試験を行い電圧を検出することで、リフトオフLと板厚tとを推定するのに適したリフトオフ推定周波数f
Lおよび板厚推定周波数f
tを設定する手法を説明する。
図2は、第1コイル12に印加される交流電気信号の周波数と、第2コイル13に生じる検出電圧との関係を示すグラフである。
図2では、板厚t(6mm,9mm)とリフトオフL(0mm,0.1mm,0.3mm)とを変化させた第1から第6試験体に対して測定を行ったデータを示している。比較的高周波域(例えば、周波数100Hz以上)においては、リフトオフLの違いによる検出電圧への影響が大きく表れていることが分かる。具体的には、板厚tが同一(6mm)であり、リフトオフLが互いに異なる第1,第3,第5試験体を比較すると、検出電圧の値に差が生じていることが分かる。
【0031】
リフトオフLの違いによる検出電圧への影響について詳細に説明する。
図3は、第1コイル12に印加される交流電気信号の周波数と、リフトオフLの違いによる検出電圧の差の関係を示すグラフである。
図3における縦軸ΔV
Lは、リフトオフLの違いによる検出電圧の差を示す。具体的には、ΔV
Lは、各周波数において、第2試験体(板厚9mm,リフトオフ0mm)の検出電圧から、第6試験体(板厚9mm,リフトオフ0.3mm)の検出電圧を減算した値を示す。比較的高周波域(例えば、周波数100Hz以上)においては、ΔV
Lの値が大きくなっていることがわかる。すなわち、比較的高周波域においては、リフトオフLの違いによる検出電圧への影響が大きく表れていることが分かる。
【0032】
次に、板厚tの違いによる検出電圧への影響について詳細に説明する。
図4は、第1コイル12に印加される交流電気信号の周波数と、板厚tの違いによる検出電圧の差の関係を示すグラフである。
図4における縦軸ΔV
tは、板厚tの違いによる検出電圧の差を示す。具体的には、ΔV
tは、各周波数において、試験体(板厚9mm,リフトオフ0mm)の検出電圧から、試験体(板厚8mm,リフトオフ0mm)の検出電圧を減算した値を示す。比較的低周波域(例えば、周波数10Hz以下)においては、ΔV
tの値が大きくなっていることがわかる。すなわち、比較的低周波域においては、板厚tの違いによる検出電圧への影響が大きく表れていることが分かる。
【0033】
図5は、第1コイル12に印加される交流電気信号の周波数と、ΔV
t/ΔV
Lとの関係を示すグラフである。
図5より、リフトオフLおよび板厚tの各々が検出電圧にどの程度寄与しているのかが分かる。例えば、500Hz付近の周波数におけるΔV
t/ΔV
Lの値は10
−5のオーダーとなっていることから、検出電圧の大部分がリフトオフLに起因するものであることがわかる。一方、10Hz付近の周波数におけるΔV
t/ΔV
Lの値は10
−1のオーダーとなっていることから、板厚tに起因する検出電圧への影響もリフトオフLに起因する検出電圧への影響の10%程度を占めていることが分かる。すなわち、高周波域では、検出電圧の大部分がリフトオフLに起因するものであるのに対して、低周波域では、板厚tに起因する影響を含む割合が増加する。上記の内容を考慮し、比較的板厚tに起因する影響を多く含む検出電圧が得られる周波数(板厚推定周波数)f
t(100Hz未満、例えば、10Hz)と、リフトオフLに起因する影響を多く含む(板厚tに起因する影響が殆ど含まれない)検出電圧が得られる周波数(リフトオフ推定周波数)f
L(100Hz〜500Hz程度のΔV
t/ΔV
Lの値がゼロになる付近の周波数帯、例えば、100Hz)とを設定する。
【0034】
図6は、リフトオフ推定周波数f
L(100Hz)の交流電気信号を第1コイル12に印加した場合における、リフトオフ−検出電圧関係を示すグラフである。
図6では、4つの板厚(6mm,7mm,8mm,9mm)の試験体におけるリフトオフ−検出電圧関係を示している。
図6から、板厚tに因らず、ほぼ同様のリフトオフ−検出電圧関係を示していることが分かる。すなわち、リフトオフ推定周波数f
Lにおいては、板厚tの影響が少なく、リフトオフLに起因する影響を多く含む検出電圧が得られることが分かる。ここで、例えば、
図7に示すように、このようにして得られたリフトオフ−検出電圧関係を指数関数で近似して、以下のような式(1)を、リフトオフ参照データとして準備しておくことで、検出電圧の値からリフトオフLを推定することができる。なお、リフトオフ参照データは、解析対象となる部材毎(材料毎)に準備される。
【数1】
ここで、係数a,bは、
図7のグラフから求められる定数である。
【0035】
図8は、板厚推定周波数f
L(10Hz)の交流電気信号を第1コイル12に印加して試験体(リフトオフ0mm)を励磁した場合における、板厚−検出電圧関係の一例を示すグラフである。板厚−検出電圧関係に関しては、線形補間によって多直線で近似を行う。例えば、測定により得られたデータを点0(板厚t
0,検出電圧V
0)と点1(板厚t
1,検出電圧V
1)とすると、その2点間の線形関係を仮定した場合、板厚tと検出電圧との関係は以下の式(2)により表される。
【数2】
【数3】
ここで、係数a,bは以下のとおりである。
【数4】
【数5】
【0036】
板厚−検出電圧関係は、周波数だけでなく、リフトオフLによっても変化することから、係数a,bは、リフトオフLの関数として表す。リフトオフLと係数a,bの関係も上記と同様に線形補間を行うと、以下のように線形1次式として表される。
【数6】
【数7】
ここで、係数c,d,e,fは以下のとおりである。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【0037】
図9に示すように、線形補間によって多直線で近似することより得られた以下の式(12)から(14)を、板厚参照データとして準備しておくことで、検出電圧の値から板厚tを推定することができる。なお、板厚参照データは、解析対象となりうる部材毎(材料毎)かつリフトオフの値毎に複数準備される。
【数12】
【数13】
【数14】
【0038】
なお、上記のリフトオフ参照データおよび板厚参照データは、コンピュータによる解析(シミュレーション)により求めてもよい。また、板厚参照データは、曲線近似により求めてもよい。
【0039】
[処理の流れ]
以下、本実施形態における解析装置1の処理の流れについて、フローチャートに即して説明する。
図10は、解析装置1により実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0040】
まず、作業者は、解析装置1を解析対象となる構造物に近接して配置し、解析装置1に設けられた操作を受け付ける受付部(図示しない)を操作して測定開始を指示する。測定開始の指示を受け付けた解析装置1では、制御部10が、解析対象の材料に応じてリフトオフを推定するためのリフトオフ推定周波数f
L(第1周波数)と、板厚を推定するための板厚推定周波数f
t(第2周波数)とを記憶部16から読み出す(ステップS101)。なお、解析対象となる構造物が、高所、閉所、海中などの空間的制約などによって作業者が近接しづらい場所に存在する場合には、解析装置1を移動式ロボットなどに搭載して、作業者がこの移動式ロボットおよび解析装置1を遠隔操作することにより、測定開始を指示してもよい。
【0041】
次に、制御部10の制御下において、電源部11は、リフトオフ推定周波数f
Lの交流電気信号を第1コイル12に印加する(ステップS103)。これにより、第1コイル12には交流磁界(第1磁界)が誘起され、この交流磁界に基づいて解析対象Tにおいて交流の渦電流EC(第1渦電流)が発生する。
【0042】
渦電流ECにより発生した交流磁界と、第1コイル12により発生した交流磁界との双方の磁界の影響を受け、第2コイル13に電圧が発生する。ここで、検出部14は、第2コイル13において発生した電圧(第1検出電圧,第1電気的状態量)を検出する(ステップS105)。検出された第1検出電圧は、記憶部16に記憶される。
【0043】
次に、制御部10の制御下において、電源部11は、板厚推定周波数f
tの交流電気信号を第1コイル12に印加する(ステップS107)。これにより、第1コイル12には交流磁界(第2磁界)が誘起され、この交流磁界に基づいて解析対象Tにおいて交流の渦電流EC(第2渦電流)が発生する。
【0044】
渦電流ECにより発生した交流磁界と、第1コイル12により発生した交流磁界との双方の影響を受け、第2コイル13に電圧が発生する。ここで、検出部14は、第2コイル13において発生した電圧(第2検出電圧,第2電気的状態量)を検出する(ステップS109)。検出された第2検出電圧は、記憶部16に記憶される。
【0045】
次に、演算部15は、記憶部16に記憶された第1検出電圧と、リフトオフ参照データとを用いて、解析対象TのリフトオフLを推定する。具体的には、
図7に示すリフトオフ−検出電圧関係に基づいて、解析対象TのリフトオフLを推定する(ステップS111)。
【0046】
次に、演算部15は、記憶部16に記憶された第2検出電圧と、推定したリフトオフLと関連付けされた板厚参照データとを用いて、解析対象Tの板厚tを推定する。具体的には、
図9に示す板厚−検出電圧関係に基づいて、解析対象Tの板厚tを推定する(ステップS113)。ここで、推定した板厚tおよびリフトオフLを解析装置1に設けられた表示部(図示しない)に表示してもよい。また、推定した板厚tおよびリフトオフLを外部の管理装置に出力してもよい。以上により、本フローチャートの処理を終了する。
【0047】
以上の本実施形態の解析装置1によれば、予め設定されたリフトオフ推定周波数f
Lおよび板厚推定周波数f
tの交流電気信号を用いることで、解析処理を簡易かつ正確に解析対象の特性を解析することができる。また、解析装置1を小型化することができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態における解析装置1は、第1実施形態の解析装置1と比較して、第1コイル12に印加する交流電気信号の周波数の制御方法が異なる。具体的には、第2実施形態における解析装置1は、第1コイル12に印加する交流電気信号の周波数を連続的に変化させる。すなわち、第1コイル12に対してスイープ波による励磁処理を行う。このため、第2実施形態の説明において、上記の第1実施形態と同様の部分には同じ参照番号を付与し、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0049】
[処理の流れ]
以下、本実施形態における解析装置1の処理の流れについて、フローチャートに即して説明する。
図11は、解析装置1により実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0050】
まず、作業者は、解析装置1を解析対象となる各種構造物に近接して配置し、解析装置1に設けられた操作を受け付ける受付部(図示しない)を操作して測定開始を指示する。測定開始の指示を受け付けた解析装置1では、制御部10の制御下において、電源部11が、
図12に示すように周波数を連続的に変化させた交流電気信号(スイープ波)を第1コイル12に印加する(ステップS201)。周波数の浸透深さの関係から、徐々に渦電流ECを深さ方向に浸透させるために、高周波から低周波に変化させる。これにより、第1コイル12には交流磁界が連続的に誘起され、この交流磁界に基づいて解析対象Tにおいて交流の渦電流ECが発生する。
【0051】
渦電流ECにより発生した交流磁界と、第1コイル12により発生した交流磁界との双方の磁界の影響を受け、第2コイル13に電圧が発生する。ここで、検出部14は、第2コイル13において発生した電圧を連続的に検出する(ステップS203)。連続的に検出された電圧(検出電圧波形)は、記憶部16に記憶される。
【0052】
次に、演算部15は、記憶部16に記憶された検出電圧波形(時系列データ)に対してウェーブレット変換を行う(ステップS205)。スイープ波を印加した場合に得られる検出電圧波形は、周波数が一定ではなく、かつ信号が時間的に変化する。そのために、時間−周波数領域で検出結果を表すことができるウェーブレット変換を行う。ウェーブレット変換では、検出結果を局在波(ウェーブレット)に変換する。基準となる局在波をマザーウェーブレットと称し、これが平行移動および伸縮することで構成成分を形成する。周波数に応じて窓幅が変化するために、時間情報を残したまま、周波数領域を表すことができる。すなわち、時間−周波数領域で成分分布を表すことができる。
【0053】
例えば、以下の式(15)で表される連続ウェーブレット変換を使用することができる。
【数15】
ここで、以下のとおりである。
x(t):元信号
W
ψ[x(t)]:ウェーブレット係数
a:スケールパラメータ
b:シフトパラメータ
ψ(t):マザーウェーブレット
また、マザーウェーブレットとして、以下の式(16)で表されるメキシカンハットを使用することができる。
【数16】
【0054】
図13は、検出電圧波形をウェーブレット変換することにより得られた周波数−ウェーブレット係数関係を示すグラフである。
図13では、板厚t(6mm,9mm)とリフトオフL(0mm,0.1mm,0.3mm)とを変化させた第1から第6試験体における周波数−ウェーブレット係数関係を示している。
【0055】
次に、演算部15は、
図13に示すウェーブレット変換により得られた周波数−ウェーブレット係数関係に基づいて、板厚推定周波数f
tと、リフトオフ推定周波数f
Lとを決定する(ステップS207)。具体的には、周波数に対するウェーブレット係数の変化率に基づいて、板厚推定周波数f
tと、リフトオフ推定周波数f
Lとを決定する。例えば、
図13において、板厚tに起因する影響が多く含まれる比較的低周波域の周波数(100Hz未満、例えば、周波数10Hz)を板厚推定周波数f
tと決定し、リフトオフLに起因する影響を多く含む(板厚tに起因する影響が殆ど含まれない)比較的高周波域の周波数(100Hz〜500Hz程度、例えば、周波数100Hz)をリフトオフ推定周波数f
Lと決定する。
【0056】
ここで、記憶部16には、リフトオフ参照データとして、リフトオフLが互いに異なる複数の試験体の各々にスイープ波を励磁することにより得られた複数の波形データが記憶されている。このリフトオフ参照データは、リフトオフ−ウェーブレット係数関係を示したものである。また、記憶部16には、板厚参照データとして、リフトオフLおよび板厚tが互いに異なる複数の試験体の各々にスイープ波を励磁することにより得られた複数の波形データが記憶されている。この板厚参照データは、板厚−ウェーブレット係数関係を示したものである。
【0057】
演算部15は、上記のウェーブレット変換により得られた周波数−ウェーブレット係数関係と、リフトオフ推定周波数f
Lと、記憶部16に記憶されたリフトオフ参照データとを用いて、解析対象TのリフトオフLを推定する(ステップS209)。次に、演算部15は、上記のウェーブレット変換により得られた周波数−ウェーブレット係数関係と、板厚推定周波数f
tと、推定したリフトオフLに関連付けされた板厚参照データとを用いて、解析対象Tの板厚tを推定する(ステップS211)。ここで、推定した板厚tおよびリフトオフLを解析装置1に設けられた表示部(図示しない)に表示してもよい。また、推定した板厚tおよびリフトオフLを外部の管理装置に出力してもよい。以上により、本フローチャートの処理を終了する。
【0058】
以上の本実施形態の解析装置1によれば、解析処理を簡易かつ正確に解析対象の特性を解析することができる。また、本実施形態では、スイープ波を第1コイル12に印加した結果に応じて、リフトオフ推定周波数f
Lおよび板厚推定周波数f
tが動的に設定されるため、様々な解析対象に対する解析処理を実現することができる。
【0059】
また、本実施形態においては、解析処理としてリフトオフおよび板厚を解析する場合を例に説明したが、解析装置1は、解析対象の深さ方向の構造を走査(スキャニング)することもできる。すなわち、スイープ波を第1コイル12に印加しつつ電圧を検出し、この検出結果と、予め記憶部16に記憶された正常な(欠陥のない)試験体の参照データとを比較することで、解析対象の内部状態、例えば、空洞、亀裂などの欠陥の有無を検知することができる。
【0060】
また、本実施形態においては、周波数−ウェーブレット係数関係に基づいて板厚推定周波数f
tおよびリフトオフ推定周波数f
Lを決定する例を説明した。しかしながら、板厚推定周波数f
tおよびリフトオフ推定周波数f
Lを使用せずに、検出結果と、参照データとを直接比較することで解析対象の特性を解析してもよい。
【0061】
また、上記のいくつかの実施形態においては、第1コイル12に印加する交流電気信号として正弦波またはスイープ波を印加する例を説明したが、2段階の周波数を利用する周波数ステップ波を用いてもよい。また、解析装置1が単一の装置である例を説明したが、解析装置1は複数の装置により構成されるものであってもよい。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。