特許第6792899号(P6792899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6792899フェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6792899
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】フェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20201119BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20201119BHJP
   C09K 19/40 20060101ALI20201119BHJP
   G02F 1/137 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C07F5/02 DCSP
   C09K11/06
   C09K19/40
   G02F1/137 500
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-150609(P2020-150609)
(22)【出願日】2020年9月8日
【審査請求日】2020年9月8日
(31)【優先権主張番号】201911098964.3
(32)【優先日】2019年11月12日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513324321
【氏名又は名称】大連理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】李 暁蓮
(72)【発明者】
【氏名】黄 俊玲
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第109796479(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第109097028(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第107603271(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第110128455(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(M)で表されるフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物であって、
【化1】
式(M)中、
nは、0、又は1であり、
Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、又はn−オクチル基のうちの一つから選ばれる基である、ことを特徴とするフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物から構成される蛍光二色性染料。
【請求項3】
前記染料は液晶相を有する染料である、ことを特徴とする請求項2に記載の蛍光二色性染料。
【請求項4】
請求項1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を含む液晶染料。
【請求項5】
請求項1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を含む液晶材料。
【請求項6】
前記液晶材料はカラーの液晶材料である、ことを特徴とする請求項5に記載の液晶材料。
【請求項7】
請求項1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を含む蛍光二色性液晶染料が使用された液晶ディスプレイ。
【請求項8】
前記液晶ディスプレイはゲスト・ホスト型液晶ディスプレイである、ことを特徴とする請求項7に記載の液晶ディスプレイ。
【請求項9】
請求項2に記載の蛍光二色性染料をゲスト液晶染料とし、当該ゲスト液晶染料が使用された、ことを特徴とするゲスト・ホスト型液晶ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイ材料の分野に関し、具体的にフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物の製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グローバル的情報化、デジタル化の進展に伴い、電子情報産業はフラットパネルの普及の波を迎えており、ディスプレイの分野での革命が巻き起こされている。一世を風靡したブラウン管(CRT)ディスプレイは次第に薄膜トランジスタ(TFT)液晶ディスプレイに代表されるフラットパネル・ディスプレイに代わられ、フラットパネル・ディスプレイに係る技術と製品はディスプレイの分野の主導的地位を占めるようになっている。理想的なディスプレイは低動作電圧、低エネルギー消耗、小さい体積、軽い質量、高いコントラスト、速い応答速度、広い視野角等の特徴を備えなければならない。ゲスト・ホスト型液晶ディスプレイは近代科学の発展における新しい分野の一つである。
【0003】
ゲスト・ホスト型液晶ディスプレイは、表示情報の色彩が鮮やかで、輝度が高く、コントラストが高く、視野角が広いだけではなく、組み立ての際、1枚だけのポラライザを使用あるいはポラライザを使わなくてもよく、バックライトの光利用率を大幅に向上させることができるので、応用見通しのあるディスプレイと見なされている。特に、近年以来、蛍光二色性液晶化合物の進展と伴い、ゲスト・ホストのディスプレイに適用されつつ、電界放出ディスプレイの鮮やかな色彩や高輝度を液晶ディスプレイの特徴と結合させることにより、エネルギー消耗がより低い携帯電子製品のディスプレイにすることができる。現在、研究されている二色性液晶化合物の構造及び種類が少なく、且つ、既に公開されている二色性液晶化合物もその物理化学的性質に一定の欠点を抱えているので、二色性液晶化合物としての応用に制限がある。例えば、特許文献1は、二色性染料であるアゾ系染料化合物を開示しているが、該アゾ系染料化合物は光不安定性であるため光照後に分解し易く、かつ、水溶性であり、紫外光を吸収するだけで蛍光がない等の欠点がある。また、特許文献2及び特許文献3は、アントラキノン母体を有するアントラキノン系二色性染料化合物を開示しているが、この化合物は、液晶への溶解度が小さく、秩序パラメータが低く、液晶との相容性に欠けているなどの欠点がある。
【0004】
従って、性能に優れ、かつ実際応用の条件を満たす新型の二色性液晶化合物についての設計及び合成に関する研究がより重要な課題になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第101016420号明細書
【特許文献2】米国特許第3960750号明細書
【特許文献3】米国特許第3960751号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、先行技術における性能に優れた蛍光二色性液晶化合物が欠如しているとの問題点に鑑みてなされたものであり、赤色蛍光を呈示し、高い蛍光量子の生成率を備え、液晶E7において良好な二色性比及び秩序パラメータを示し、液晶ディスプレイの製品に適用される蛍光二色性液晶化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの目的は、新型の蛍光二色性液晶化合物を提供することにある。
【0008】
本発明のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物は、下記一般式(M)で表される化合物である。
【0009】
【化1】
【0010】
式(M)中、nは、0、又は1であり、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、又はn−オクチル基のうちの一つから選ばれる基である。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、上記蛍光二色性液晶化合物の製造方法を提供することにある。ボロンジピロメテン(borondipyrromethene、BODIPY)を母体として、ソノガシラ(Sonogashira)カップリング反応により2位にフェニルアセチレンの剛性構造を導入し、ビシクロヘキサンの柔軟性の多員環をエステル化反応、Sonogashiraカップリング反応により母体と反応させ、1類のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を合成する。本発明の化合物は、ジクロロメタン中での最大吸収波長が526nm、最大放出波長が567nmであり、赤色蛍光を呈示し、145℃〜185℃で液晶相を有し、液晶E7において良好な二色性比及び秩序パラメータを示す。
【0012】
上記蛍光二色性液晶化合物の製造方法は、以下のステップを含む。
【0013】
2,4−ジメチルピロールと塩化アセチルを原料とし、ジクロロメタンを溶媒として、トリエチルアミンの存在下で、三フッ化ホウ素エーテル錯体との配位によりBODIPY系母体を生成し、BODIPY系母体と1当量のヨードスクシンイミドを反応させ、2位でモノ置換された母体を生成する。2位でモノ置換された母体を、(4−ペンチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル(化合物5)又は(4−プロピルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル(化合物8)とSonogashiraカップリング反応によりカップリングさせ、前記液晶化合物を得る。
【0014】
【化2】
【0015】
上記の(4−ペンチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステルにおいて、ジシクロヘキシルの4位のペンチル基に代えて、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基を用いることもできる。即ち、(4−ペンチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステルに代えて、(4−メチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル、(4−エチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル、(4−プロピルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル、(4−ブチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル、(4−ヘキシルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル、(4−ヘプチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステル、(4−オクチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸エステルを用いてもよい。
【0016】
上記の(4−プロピルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステルにおいて、ジシクロヘキシルの4位のプロピル基に代えて、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基を用いることもできる。即ち、(4−プロピルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステルに代えて、(4−メチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−エチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−ブチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−ペンチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−ヘキシルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−プロピルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−ヘプチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステル、(4−オクチルジシクロヘキシル)4−エチニル安息香酸メチルエステルを用いてもよい。
【0017】
本発明の液晶化合物は以下のスキーム(化合物M1の製造方法を例とする)により合成することができる。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
【化5】
【0021】
塩化アセチルと2,4−ジメチルピロールをジクロロメタン溶媒中で、遮光、常温下で反応させ、適量のトリエチルアミンを酸結合剤として加え、30分間反応させた後、三フッ化ホウ素エーテル錯体を滴下して反応させ、TLC(薄層クロマトグラフィー)による検出により反応が完全であると確認し、シリカゲルクロマトグラフィーカラムにて分離し、化合物1を得る。
【0022】
さらに、化合物1とヨードスクシンイミド(N−Iodosuccinimide)を1:1〜1:1.5の投入比で加え、ジクロロメタン溶媒中で、撹拌しながら室温下で4h反応させ、TLCによる検出により反応が完全であると確認し、シリカゲルクロマトグラフィーカラムにて分離し、化合物2を得る。
【0023】
さらに、等量のヨード安息香酸と4−ペンチルジシクロヘキシルアルコール(化合物A1)をジクロロメタン溶媒中に加え、次いでN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)と4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)を反応系に加え、常温下で、反応が完全になるまで反応させ、ろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製を行い、化合物3を得る。分離精製する際に用いる溶出液は、石油エーテル(EA):酢酸エチル(PE)=1:10であるのが好ましい。
【0024】
さらに、化合物3を無水トリエチルアミン溶媒に溶解し、触媒用の量のヨウ化第一銅(CuI)、トリフェニルホスフィン(Triphenylphosphine)及びジクロロビス(トリフェニル−ホスフィン)パラジウム(II)(Trans−Dichlorobis(triphenyl−phosphine)Palladium(II))を触媒として加え、次いで等量のトリメチルシリルアセチレンを加え、窒素ガスの雰囲気下において80℃で8h還流しながら反応させ、TLCによる検出により反応が完全であると確認し、シリカゲルクロマトグラフィーカラムにて分離し、化合物4を得る。
【0025】
さらに、化合物4を無水ジクロロメタン溶媒中に溶解し、3倍量の炭酸カリウムを加え、室温下で2h反応させ、TLCによる検出により反応が完全であると確認し、シリカゲルクロマトグラフィーカラムにて分離し、化合物5を得る。
【0026】
さらに、化合物2と化合物5を1:1〜1:1.3のモル比で混合し、触媒用の量のジクロロビス(トリフェニル−ホスフィン)パラジウム(II)、トリフェニルホスフィン、CuI等の触媒を加え、乾燥のトリエチルアミンを酸結合剤及び溶媒として、窒素ガスの雰囲気下で8−10時間還流しながら反応させ、混合物を室温まで冷却し、減圧蒸発により乾燥させ、シリカゲルクロマトグラフィーカラムにて分離し、化合物M1、すなわち前記液晶化合物を固体として得る。シリカゲルクロマトグラフィーカラムにて分離の際に、用いる溶出液はEA:PE=1:20であるのが好ましい。
【0027】
上記製造方法において、原料化合物A1は、4−ペンチルジシクロヘキシルアルコールとして説明したが、本発明において、原料化合物A1を4−プロピルジシクロヘキシルメチルアルコール(化合物A2)に代えてもよく、更に、化合物A1において、ジシクロヘキシルの4位のペンチル基がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基でもよく、化合物A2において、ジシクロヘキシルの4位のプロピル基が、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基であってもよい。
【0028】
本発明は、更に、上記液晶化合物の、蛍光二色性染料としての使用を提供する。
【0029】
本発明は、更に、上記液晶化合物の、液晶相を有する染料としての使用を提供する。
【0030】
本発明は、更に、上記蛍光二色性液晶化合物の、液晶ディスプレイ製品の製造における使用を提供する。上記液晶ディスプレイ製品はゲスト・ホスト型液晶ディスプレイである。具体的には、ゲスト・ホスト型液晶化合物として、ゲスト・ホスト型液晶ディスプレイの製造に適応される。
【0031】
本発明の他の目的は、1類のゲスト・ホスト型液晶ディスプレイを提供することにあり、前記液晶ディスプレイは本発明に記載の蛍光二色性液晶化合物をゲスト液晶化合物とする。
【0032】
本発明は、更に、上記化合物の、液晶材料としての使用を提供し、前記液晶材料はカラーの液晶材料である。
【0033】
本発明は以下のような効果を有する。
【0034】
本発明は、BODIPYを母体として、フェニルアセチレンの剛性構造及びビシクロヘキサンの柔軟性構造をともに備える液晶化合物であり、該液晶化合物は、構造が新規であり、蛍光二色性化合物の種類を豊富にすることに貢献できる。本発明により、機能性の長波長の蛍光液晶化合物が製造でき、該化合物は、低下された粘度、及び向上された二色性比、秩序パラメータ及び誘電異方性などの特徴を有し、液晶ディスプレイの応答時間を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例1、2で製造した液晶化合物の、ジクロロメタン中での紫外吸収スペクトルを示す図。
図2】実施例1、2で製造した液晶化合物の、ジクロロメタン中での蛍光スペクトルを示す図。
図3】実施例1、2で製造した液晶化合物の、液晶E7における紫外偏光スペクトルを示す図、その中、図3Aは化合物M1の紫外偏光スペクトルを示し、図3Bは化合物M2の紫外偏光スペクトルを示す。
図4】実施例1、2で製造した液晶化合物の、液晶E7における蛍光偏光スペクトルを示す図、その中、図4Aは化合物M1の蛍光偏光スペクトルを示し、図4Bは化合物M2の蛍光偏光スペクトルを示す。
図5】実施例1で製造した液晶化合物の、示差走査熱量測定結果を示す図。
図6】実施例2で製造した液晶化合物の、示差走査熱量測定結果を示す図。
図7】実施例1で製造した液晶化合物の、主体液晶E7における応答時間測定結果を示す図。
図8】実施例2で製造した液晶化合物の、主体液晶E7における応答時間測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
下記の非制限性の実施例は、普通の当業者が本発明を全面的に理解するように説明するものであり、いかなる形態で本発明を制限するものではない。
【0037】
(実施例1)
蛍光二色性液晶化合物M1の合成
(1)中間体1(化合物1)の合成
中間体1(化合物1)は以下のスキームにより合成することができる。
【0038】
【化6】
【0039】
250mLの三口フラスコの中に塩化アセチル1mL、2,4−ジメチルピロール3mL、ジクロロメタン100mLを加え、室温下で、遮光、窒素ガスの雰囲気下において撹拌しながら反応させ、TLC(薄層クロマトグラフィー)による検出により反応が完全であると確認できると、次いでトリエチルアミンを6mL投入し、一定の時間後、三フッ化ホウ素エーテル錯体を1滴ずつ9mL加え、TLCの検出により反応が完全であると確認し、混合物を室温まで冷却させ、石油エーテル−酢酸エチルを溶出液としてクロマトグラフィーカラムにて精製を行い、1.5gの中間体1を赤色固体として得、収率は40%である。融点は161.3−162.0℃である。
【0040】
(2)中間体2(化合物2)の合成
中間体2(化合物2)は以下のスキームにより合成することができる。
【0041】
【化7】
【0042】
50mLの二口フラスコの中に393.2mg(1.5mmol)の化合物1、ヨードスクシンイミド338mg(1.5mmol)、ジクロロメタン20mLを加え、温室で撹拌しながら反応させ、TLCによる検出により反応が完全であると確認し、石油エーテル−酢酸エチルを溶出液としてクロマトグラフィーカラムにて精製を行い、419mgの中間体2を赤色固体として得、収率は72%である。融点は194.1−194.4℃である。
【0043】
(3)中間体3(化合物3)の合成
中間体3(化合物3)は以下のスキームにより合成することができる。
【0044】
【化8】
【0045】
50mLの二口フラスコの中に4−ペンチルジシクロヘキシルアルコール(A1)756.8mg(3mmol)、ヨード安息香酸991.8mg(4mmol)を加え、20mLの乾燥のジクロロメタンに溶かし、次いでN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)0.9g(9mmol)と4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)120mg(2mmol)を反応系に加え、常温下で2h反応させた後、石油エーテル:酢酸エチル=60:1(V/V)を溶出液としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製を行い、1.25gの中間体3を白色固体として得、収率は89%である。
【0046】
(4)中間体4(化合物4)の合成
中間体4(化合物4)は以下のスキームにより合成することができる。
【0047】
【化9】
【0048】
50mLの丸底二口フラスコの中に中間体3を1.25g加え、次いで乾燥のトリエチルアミンを12mL加え、ヨウ化第一銅20mg、トリフェニルホスフィン38mg及びジクロロビス(トリフェニル−ホスフィン)パラジウム(II)28mgを触媒として加え、窒素ガスを保護気体として還流させ、3回空気を置換した後、注射器を使ってトリメチルシリルアセチレンを0.45mL加え、80℃で2h反応させる。石油エーテル:酢酸エチル=40:1(V/V)を溶出液としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製を行い、減圧蒸発により溶媒を除去し、841mgの中間体4を白色固体として得、収率は80%である。
【0049】
(5)中間体5(化合物5)の合成
中間体5(化合物5)は以下のスキームにより合成することができる。
【0050】
【化10】
【0051】
50mLの二口フラスコの中に841mgの中間体4を加え、次いで炭酸カリウム1.13g(8mmol)、無水アルコール20mLを加え、常温下で1h反応させた後、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離し、石油エーテル:酢酸エチル=40:1(V/V)を溶出液として用い、570mgの中間体5を白色固体として得、収率は75%である。
【0052】
(5)目的化合物M1の合成
50mLの丸底二口フラスコの中に304mg(0.8mmol)の中間体5と272mg(0.7mmol)の中間体2を加え、さらに乾燥のトリエチルアミンを20mL加え、ヨウ化第一銅8mg、トリフェニルホスフィン15mg及びジクロロビス(トリフェニル−ホスフィン)パラジウム(II)7mgを触媒として加え、還流しながら8h反応させる。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離し、石油エーテル:酢酸エチル=20:1(V/V)を溶出液として用い、179mgの目的化合物M1を赤色固体として得、収率は40%である。
【0053】
【化11】
【0054】
HNMR(400MHz,CDCl)δ8.00(d,J=8.4Hz,2H),7.54(d,J=8.2Hz,2H),6.13(s,1H),5.30(s,1H),2.92(d,J=29.0Hz,3H),2.60(dd,J=39.0,9.8Hz,9H),2.44(s,3H),2.13(d,J=14.3Hz,2H),1.76(dd,J=27.4,13.1Hz,6H),1.56(s,6H),1.49−1.40(m,2H),1.25(s,8H),1.15(d,J=11.4Hz,3H),0.90−0.86(m,3H).
【0055】
13CNMR(126MHz,CDCl)δ165.61,156.40,154.66,143.07,142.00,140.35,133.51,130.94,129.93,129.59,128.17,122.49,122.40,114.32,95.34,85.43,74.56,53.41,42.80,42.33,37.88,37.51,33.58,32.26,32.04,30.25,29.71,28.00,26.67,22.72,17.42,16.67,15.77,14.62,14.11,13.44.
【0056】
融点は166℃で、透明点は185℃である。TOFMSEI+はC4051BFで、計算値は640.4012、測定値は640.4004である。
【0057】
(実施例2)
蛍光二色性液晶化合物M2の合成
(1)中間体6(化合物6)の合成
4−ペンチルジシクロヘキシルアルコールに代えて、4−プロピルジシクロヘキシルメチルアルコール(A2)715mg(3mmol)を用いる以外に、実施例1においての中間体3の合成に係る操作ステップと同様に行い、1166mgの中間体6を白色固体として得、収率は83%である。
【0058】
(2)中間体7(化合物7)の合成
中間体3に代えて、1166mgの中間体6を用いる以外に、実施例1においての中間体4の合成に係る操作ステップと同様に行い、873mgの中間体7を白色固体として得、収率は80%である。
【0059】
(3)中間体8の合成
中間体4に代えて、873mgの中間体7を用いる以外に、実施例1においての中間体5の合成に係る操作ステップと同様に行い、503mgの中間体8を白色固体として得、収率は69%である。
【0060】
【化12】
【0061】
(4)目的化合物M2の合成
中間体5に代えて、293mg(0.8mmol)の中間体8を用いる以外に、実施例1においての目的化合物M1の合成に係る操作ステップと同様に行い、153.5mgの目的化合物M2をオレンジ色固体として得、収率は35%である。
【0062】
【化13】
【0063】
HNMR(400MHz,CDCl)δ8.03(d,J=8.1Hz,2H),7.57(d,J=8.1Hz,2H),6.15(s,1H),4.14(d,J=7.0Hz,2H),2.73−2.43(m,11H),2.06(s,4H),1.83−1.56(m,8H),1.46(dd,J=13.4,6.2Hz,1H),1.27(t,J=11.1Hz,8H),1.20−1.11(m,3H),1.09−1.02(m,4H),0.98(t,J=7.4Hz,2H),0.89(t,J=7.2Hz,3H).
【0064】
13CNMR(126MHz,CDCl)δ166.16,156.43,154.61,143.11,142.00,140.33,131.00,129.50,128.31,122.50,95.27,85.56,70.29,43.39,39.83,37.56,33.60,30.08,30.03,29.35,20.04,17.52,16.67,15.85,14.63,14.43,13.44.
【0065】
融点は145℃で、透明点は168℃である。TOFLD+はC3949BFで、計算値は626.3855で、測定値は626.3846である。
【0066】
本発明の蛍光二色性液晶化合物の性質測定
(1)液晶化合物のジクロロメタン中におけるスペクトル特性の測定
液晶化合物のスペクトル特性の測定は以下の条件により行う。
液晶化合物の測定濃度:液晶化合物の異なる溶媒中での濃度は1.0×10−5mol/Lである。
【0067】
液晶化合物の蛍光量子収率は以下のようにして求める。
液晶化合物の蛍光量子収率Φ値の測定:ローダミンB溶液を基準とし、式(1)に代入して計算する。
【0068】
【数1】
【0069】
式(1)中、Φ(sample)、Φ(standard)はそれぞれ測定試料と標準物質の蛍光量子収率を示し、Abs(standard)、Abs(sample)はそれぞれ標準物質と測定試料の励起波長での吸収値を示し、Flu(sample)、Flu(standard)はそれぞれ測定試料と標準物質の蛍光強度を示す。
【0070】
化合物M1、M2についての測定結果は以下の通りである。
【0071】
【表1】
【0072】
液晶化合物Mの吸収波長は526nmで、最大放出波長は567nmであり、赤色の蛍光を示し、純色表示の実現が可能であり、蛍光量子収率はそれぞれ0.37、0.32である。
【0073】
(2)液晶化合物の液晶においての偏光スペクトル特徴の測定
主体液晶はE7であり、液晶化合物Mを質量濃度が0.5%(w/w)の割合で、液晶に入れてセル化し、液晶化合物の液晶セルの配向層の平行方向における吸光度A//と垂直方向における吸光度A、平行方向における蛍光強度F//と垂直方向における蛍光強度Fをそれぞれ測定し、以下の式(2)、(3)、(4)、(5)により液晶化合物の液晶においての吸収秩序パラメータS、吸収二色性比D及び蛍光秩序パラメータS、蛍光二色性比Dを算出する。
【0074】
【数2】
【0075】
【数3】
【0076】
【数4】
【0077】
【数5】
【0078】
化合物M1、M2の偏光スペクトルの測定結果は以下の通りである。
【0079】
【表2】
【0080】
M1、M2は液晶E7において比較的良好な二色性比と秩序パラメータを示している。M1の吸収秩序パラメータは0.60で、吸収二色性比は5.54であり、蛍光秩序パラメータは0.62で、蛍光二色性比は5.95である。M2の吸収秩序パラメータは0.59で、吸収二色性比は5.26であり、蛍光秩序パラメータは0.61で、蛍光二色性比は5.60である。
【0081】
(3)二色性液晶化合物Mの液晶挙動について
製造された液晶化合物Mシリーズの化合物に対して、示差熱走査を行い、得られた示差走査熱量測定結果は図5−6に示す。化合物M1は昇温過程においての166−185℃で液晶相を示し、冷却の時には147−178℃で液晶相を示し、化合物M2は昇温過程においての145−168℃で液晶相を示し、冷却の時には140−169℃で液晶相を示している。
【0082】
(4)液晶化合物Mシリーズの主体液晶E7に対する影響について
液晶応答時間の測定:主体液晶はE7のままであり、測定用の液晶セルの上下基板が互いに平行に配置され、液晶化合物Mを質量濃度が0.5%(w/w)の割合で主体液晶E7に入れてセル化し、ゲストである化合物Mの主体液晶E7に対する影響をそれぞれ測定する。
【0083】
波長が515nmの緑色光を光源として、液晶分子の配向と互いに垂直するように液晶セルの片側にポラライザを置いて、検出器により光源の透過状況を収集する。検査の時、試料の駆動電圧は0−10V、相対輝度の10%から90%までの時間は上昇時間tで、90%から10%までの時間は降下時間tであり、応答時間はtとtの和で、すなわちt+t=tとなる。
【0084】
ゲストである化合物Mシリーズの主体液晶E7においての応答時間は図7−8に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
蛍光二色性液晶化合物Mは、液晶の応答時間を変更させることができ、主体液晶E7の応答時間を短縮させる。応答時間が一番速いのはM2を混ぜる主体液晶E7であり、最速の約10.95msに短縮することができる。
【0087】
(付記)
(付記1)
一般式(M)で表されるフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物であって、
【化14】
式(M)中、
nは、0、又は1であり、
Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、又はn−オクチル基のうちの一つから選ばれる基である、ことを特徴とするフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物。
【0088】
(付記2)
付記1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物から構成される蛍光二色性染料。
【0089】
(付記3)
前記染料は液晶相を有する染料である、ことを特徴とする付記2に記載の蛍光二色性染料。
【0090】
(付記4)
付記1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を含む液晶染料。
【0091】
(付記5)
付記1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を含む液晶材料。
【0092】
(付記6)
前記液晶材料はカラーの液晶材料である、ことを特徴とする付記5に記載の液晶材料。
【0093】
(付記7)
付記1に記載のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を含む蛍光二色性液晶染料が使用された液晶ディスプレイ。
【0094】
(付記8)
前記液晶ディスプレイはゲスト・ホスト型液晶ディスプレイである、ことを特徴とする付記7に記載の液晶ディスプレイ。
【0095】
(付記9)
付記2に記載の蛍光二色性染料をゲスト液晶染料とし、当該ゲスト液晶染料が使用された、ことを特徴とするゲスト・ホスト型液晶ディスプレイ。
【要約】
本発明は、一般式(M)で表されるフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物及びその使用を提供し、式中、nは0、又は1であり、Rはメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基のうちの一種から選ばれる基である。本発明はボロンジピロメテン(BODIPY)を母体として、ソノガシラカップリング反応により2位にフェニルアセチレンの剛性構造を導入し、ビシクロヘキサンの柔軟性の多員環をエステル化反応、ソノガシラカップリング反応により母体と反応させ、1類のフェニルエチニルボロンジピロメテン系蛍光二色性液晶化合物を合成する。本発明の化合物はジクロロメタン中での最大吸収波長が526nm、最大放出波長が567nm、赤色蛍光を示し、145℃〜185℃で液晶相を有し、液晶E7において良好な二色性比及び秩序パラメータを示す。
【選択図】なし
図1
図2
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図8