特許第6792926号(P6792926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6792926プレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792926
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/21 20060101AFI20201119BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   E04B1/21 B
   E04B1/58 508A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-143506(P2016-143506)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-12992(P2018-12992A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】松浦 恒久
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−241625(JP,A)
【文献】 特許第6030274(JP,B1)
【文献】 特開2000−257209(JP,A)
【文献】 米国特許第05799528(US,A)
【文献】 特開2012−144936(JP,A)
【文献】 特開2012−046960(JP,A)
【文献】 特開昭62−146332(JP,A)
【文献】 特開2007−092354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/21
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁上下方向に梁高さが拡幅された断面拡幅部を有し、該断面拡幅部に、接合鉄筋の梁側端部が収容保持される梁貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート梁と、前記梁貫通孔と同軸位置に貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、
前記接合鉄筋は、前記プレキャストコンクリート柱側の端部に定着用突起が形成され、該定着用突起が前記貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着保持され、他端が前記プレキャストコンクリート梁の前記梁貫通孔内に定着されたことを特徴とするプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【請求項2】
梁上下方向に梁高さが拡幅された断面拡幅部を有し、該断面拡幅部に、接合鉄筋の梁側端部が収容保持される梁貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート梁と、前記梁貫通孔と同軸位置に貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、
前記接合鉄筋は、ネジ節鉄筋からなり、前記柱貫通孔内に埋設保持されたナットに螺合されて前記貫通孔内に保持され、前記貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着され、他端が前記プレキャストコンクリート梁の前記梁貫通孔内に定着されたことを特徴とするプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【請求項3】
接合鉄筋が梁側端部で梁主筋端部と接合されたハーフプレキャストコンクリート梁と、該ハーフプレキャストコンクリート梁の梁主筋と同軸位置に柱貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記柱貫通孔内に収容、保持された前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、
前記接合鉄筋は、前記プレキャストコンクリート柱側の端部に定着用突起が形成され、該定着用突起が前記柱貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着保持され、他端が前記ハーフプレキャストコンクリート梁側に定着されたことを特徴とするプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【請求項4】
接合鉄筋が梁側端部で梁主筋端部と接合されたハーフプレキャストコンクリート梁と、該ハーフプレキャストコンクリート梁の梁主筋と同軸位置に柱貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記柱貫通孔内に収容、保持された前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、
前記接合鉄筋は、ネジ節鉄筋からなり、前記柱貫通孔内に埋設保持されたナットに螺合されて前記柱貫通孔内に保持され、前記柱貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着され、他端が前記ハーフプレキャストコンクリート梁側に定着されたことを特徴とするプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【請求項5】
前記接合鉄筋は、両端部に定着用突起が形成されたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載のプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【請求項6】
前記貫通孔は、コンクリート内にシース管を埋設して形成されたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載のプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【請求項7】
前記貫通孔は、コンクリート内にシース管と前記ナットと円筒部材とを同軸的に配置して埋設して形成されたことを特徴とする請求項2または請求項4に記載のプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造に係り、プレキャストコンクリート柱にプレキャストコンクリート梁を接合する際に、両者を一体化させる接合鉄筋を用いることで接合作業の効率化を図るようにしたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート製の柱、梁部材を用いた鉄筋コンクリート構造建物において、プレキャストコンクリート柱の柱梁接合部100に3方向からプレキャストコンクリート梁が取り付くような構造部位では、図15に示したように、X通り方向梁101は柱梁接合部100のプレキャストコンクリート柱102と一体的にプレキャストコンクリート部材として構築しておくことができるが、Y通り方向梁103は柱梁接合部100から延出した柱側鉄筋105と梁側鉄筋106とを、梁端部位置で機械式継手107で接続し、プレキャストコンクリート柱102とプレキャストコンクリート梁103との間の梁108を現場打設コンクリート梁とする方法がとられていた。
【0003】
このように、柱、梁部材をプレキャストコンクリート部材で構築しても、各接合部において現場施工作業が発生するため、躯体構築の作業工程の増加につながり、プレキャストコンクリート部材を作用したメリットが生かせないという問題がある。そこで、柱梁接合部に所定の定着長を確保するための接合鉄筋を付加させ、プレキャストコンクリート部材の一体化を図るようにした提案がなされている(特許文献1,特許文献2)。
【0004】
特許文献1には、プレキャストコンクリート柱内に接合鉄筋(ネジ節鉄筋)を配筋するためのシース管と、ネジ節鉄筋と螺合可能な鐔付きナットが埋設されている。よって、特許文献1の発明では、シース管内にナットに螺合された状態で接合鉄筋を配筋し、接合鉄筋と梁主筋端部に配置された機械式継手部材とを接続し、シース管内にモルタル充填を行って柱梁の接合を行うことができる。
【0005】
特許文献2には、通常の梁断面に加え、梁下側にハンチ状段部を設けることで、このハンチ状段部内に梁下側主筋を貫通させ、ハンチ状段部の端部で梁下主筋の端部を定着するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−241625号公報
【特許文献2】特開2007−92354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明では、柱内に接合鉄筋を配筋するために、複数のシース管と鐔付きナットとを柱内の所定位置に設置されているが、鐔付きナットがシース管に挟まれた状態で柱内部に配置されているため、ネジ節鉄筋を鐔付きナットの位置まで完全にねじ込むことが困難である。また、特許文献2に開示された発明では、梁上側主筋は柱内を貫通させる必要があるため、柱、梁を貫通させる貫通孔の施工精度を確保するのが難しい。また梁下側主筋は、ハンチ状段部の端部から定着部が露出してしまうので、完成出来形に問題がある。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、接合鉄筋としてネジ節鉄筋を利用した場合、シース管、鐔付きナットの柱内への設置が容易であるとともに、接合鉄筋を柱内に効率よく配筋でき、さらに柱梁接合部の完成後において、確実に柱梁接合部の構造性能が発揮できるようにしたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の発明は、梁上下方向に梁高さが拡幅された断面拡幅部を有し、該断面拡幅部に、接合鉄筋の梁側端部が収容保持される梁貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート梁と、前記梁貫通孔と同軸位置に貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、前記接合鉄筋は、前記プレキャストコンクリート柱側の端部に定着用突起が形成され、該定着用突起が前記貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着保持され、他端が前記プレキャストコンクリート梁の前記梁貫通孔内に定着されたことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、梁上下方向に梁高さが拡幅された断面拡幅部を有し、該断面拡幅部に、接合鉄筋の梁側端部が収容保持される梁貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート梁と、前記梁貫通孔と同軸位置に貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、前記接合鉄筋は、ネジ節鉄筋からなり、前記柱貫通孔内に埋設保持されたナットに螺合されて前記貫通孔内に保持され、前記貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着され、他端が前記プレキャストコンクリート梁の前記梁貫通孔内に定着されたことを特徴とする。
【0011】
他の発明は、接合鉄筋が梁側端部で梁主筋端部と接合されたハーフプレキャストコンクリート梁と、該ハーフプレキャストコンクリート梁の梁主筋と同軸位置に柱貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記柱貫通孔内に収容、保持された前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、前記接合鉄筋は、前記プレキャストコンクリート柱側の端部に定着用突起が形成され、該定着用突起が前記柱貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着保持され、他端が前記ハーフプレキャストコンクリート梁側に定着されたことを特徴とする
【0012】
さらなる他の発明は、接合鉄筋が梁側端部で梁主筋端部と接合されたハーフプレキャストコンクリート梁と、該ハーフプレキャストコンクリート梁の梁主筋と同軸位置に柱貫通孔が配列、形成されたプレキャストコンクリート柱とが、前記柱貫通孔内に収容、保持された前記接合鉄筋を介して接合されたプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造において、前記接合鉄筋は、ネジ節鉄筋からなり、前記柱貫通孔内に埋設保持されたナットに螺合されて前記柱貫通孔内に保持され、前記柱貫通孔内に充填された充填材によって孔内に定着され、他端が前記ハーフプレキャストコンクリート梁側に定着されたことを特徴とする
【0013】
前記接合鉄筋は、前記断面拡幅部を有するプレキャストコンクリート梁に用いる場合、両端部に定着用突起が形成されることが好ましい。
【0014】
前記第1の発明において、前記貫通孔は、コンクリート内にシース管を埋設して形成することが好ましい。
【0015】
前記第2の発明において、前記貫通孔は、コンクリート内にシース管と前記ナットと円筒部材とを同軸的に配置して埋設して形成することが好ましい。

【0016】
前記第1の発明において、前記定着用突起は、鉄筋端部を加熱軟化させて鉄筋の一部を成形加工して形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の発明としてのプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の第1実施形態を示した柱梁接合部の一部断面図。
図2】第1の発明としてのプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の第2実施形態を示した柱梁接合部の一部断面図。
図3】第1の発明としてのプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の第2実施形態の変形例を示した柱梁接合部の一部断面図。
図4】第1の発明で使用される接合鉄筋の定着用突起の各種形状を示した説明図。
図5図1に示したプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造での柱梁の接合手順を示した施工順序説明図。
図6図2に示したプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造での柱梁の接合手順を示した施工順序説明図。
図7図4(a)に示した定着用突起の成形手順を示した説明図。
図8図4(b)に示した定着用突起の成形手順を示した説明図。
図9図4(c)に示した定着用突起の成形手順を示した説明図。
図10】第2の発明としてのプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の第1の実施形態を示した柱梁接合部の一部断面図。
図11】第2の発明としてのプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の第2の実施形態を示した柱梁接合部の一部断面図。
図12】接合鉄筋のプレキャストコンクリート柱内への設置状態を示した状態説明図。
図13】第2の発明のプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造におけるモルタル充填領域を模式的に示した断面図。
図14】柱内に設置されるシース管、鐔付きナット等の一体化部品の形状例を示した説明図。
図15】従来のプレキャストコンクリート柱梁接合部での現場施工箇所の例を示した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の発明の構成]
以下、第1の発明のプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の全体、部分の構成及び接合方法の手順について、図1図9を参照して説明する。本発明の特徴は、接合鉄筋の端部に定着用突起を設けたことにある。以下では、プレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の全体とともに、この定着用突起の構成、成形方法について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1の発明のプレキャストコンクリート(以下、PCaと略記する。)柱梁部材の接合構造1における第1実施形態の構成を示した一部断面図である。本実施形態の梁20は、梁下部21が工場製作され、梁上部22が現場コンクリート打設により構築されるハーフPCa部材で構成されている。同図にはPCa柱10A内で水平方向に所定間隔をあけて配列されたシース管11からなる貫通孔14内に接合鉄筋15,16が収容され、各接合鉄筋15,16の梁側端部がそれぞれ梁主筋25,26に接合された状態が示されている。このときシース管11内のグラウト充填と梁上部22のコンクリートはまだ施工されていない。PCa柱10A内に配筋された下側接合鉄筋15の梁側端部は、梁下側主筋25の端部に取り付けられたモルタル充填式継手27内に挿入されている。一方、上側接合鉄筋16にはネジ節鉄筋が用いられ、その梁側端部は、あばら筋28に保持された梁上側主筋の端部に取り付けられた機械式継手カプラー29に螺合されている。
【0020】
接合鉄筋15,16の柱内の端部には、図4に例示した定着用突起17が形成されている。図4各図に例示された定着用突起17は、その成形方法によって形状、サイズが異なるが、接合鉄筋15,16に求められる定着効果を想定して、突起の厚み、直径等を決定することが好ましい。
【0021】
ここで、図1に示した接合構造における柱梁の接合手順について、図5各図を参照して説明する。本実施形態において、N階に立設されたPCa柱10Aの柱梁接合部1の所定位置(梁の上下主筋に対応する位置)には、梁主筋25,26の軸線方向に沿ってシース管11を埋設してなる貫通孔14が形成されている。このシース管11は、公知の薄鋼板製スパイラル管で、接合鉄筋15,16の定着用突起17の外径より大きな内径を有する管径サイズが使用されている。柱、梁接合の手順としては、まず図5(a)に示したように、ハーフPCa梁20をPCa柱10Aとの接合位置に吊り込み、サポート5で梁建て込み位置を保持するように支持する(図5(b))。この状態でPCa柱10Aの梁側と反対側面の貫通孔口14aから接合鉄筋15,16を挿入する。上側の接合鉄筋16は、梁上側主筋26の端部に取り付けられた機械式継手カプラー19と螺合可能な長さに設定されている。下側の接合鉄筋15は、下側主筋端部に取り付けられたモルタル充填式継手27内に所定の定着長さだけ挿入可能な長さに設定されている(図5(c))。それぞれの接合鉄筋15,16を梁主筋25,26と接続して梁上部22のコンクリートを現場施工して梁断面を完成させるとともに、接合鉄筋15,16が挿入された状態の柱10内の貫通孔14の空隙部分にグラウト充填19を行い、最終的に上階(N+1)階のPCa柱10Bを吊り込んで、PCa柱10を上下方向に接続する。機械式継手カプラー29内、モルタル充填式継手27内にもモルタル、エポキシ樹脂等の充填材が確実に充填されるように、グラウト供給経路(後述する。)を設けることが好ましい。
【0022】
(第2実施形態)
図2は、第1の発明のPCa柱梁部材の第2実施形態の全体の構成を示した一部断面図である。本実施形態の梁30は、梁全体が工場製作されたフルPCa部材で構成されている。梁は、通常断面部31と、梁端部からの所定範囲の梁上下面に、通常断面に対して梁せいを増加させた断面拡幅部32とから構成されている。断面拡幅部32の断面のPCa柱10Aの貫通孔14に対応する位置に、シース管33を埋設してなる貫通孔34が形成されている。接合鉄筋15,16は、PCa柱内10Aの貫通孔14から断面拡幅部32に形成された貫通孔34内までにわたって保持されている。接合鉄筋15,16の両端には、第1実施形態と同様に図4に示したような定着用突起17が形成されている。
【0023】
ここで、図2に示した接合構造における柱梁の接合手順について、図6各図を参照して説明する。本実施形態において、N階に立設されたPCa柱10Aの柱梁接合部1の所定位置(梁30の断面拡幅部32に対応する位置)には第1実施形態に開示されたものと同等のシース管33を埋設してなる貫通孔34が形成されている。本実施形態でも、図6(a)に示したように、フルPCa梁30をPCa柱10Aとの接合位置に吊り込み、サポート5で梁建て込み位置を保持するように支持する(図6(b))。この状態で梁30の断面拡幅部32の貫通孔口34aから接合鉄筋15,16を挿入し、断面拡幅部32と柱内10Aとにわたって保持させる(図6(c))。その後上階(N+1)階のPCa柱10Bを吊り込んで、PCa柱10を上下方向に接続する。最終的に、接合鉄筋15,16が挿入された状態のPCa柱10の貫通孔14と断面拡幅部32の貫通孔34の空隙部分にグラウト充填19を行う(図6(d))。
【0024】
(第2実施形態の変形例)
図3は、第1の発明のPCa柱梁部材の第2実施形態の変形例の全体構成を示した一部断面図である。本変形例も梁全体が工場製作された、通常断面梁31からなるフルPCa部材の梁で構成されている。図1と同様にPCa柱10A内には貫通孔14が配列されている。この貫通孔14と連通する梁内には上下主筋35,36の梁軸線側の内側位置に配列された鉄筋保持孔37,37が形成されている。接合鉄筋15,16は、PCa柱10Aの貫通孔14内と通常断面梁31の端面から所定範囲にわたって形成された鉄筋保持孔37内にわたり収容、保持されている。接合鉄筋15,16の両端には、第1実施形態と同様に定着用突起17が形成されている。この変形例では、接合鉄筋15,16は、梁30が接合される柱10の側面と反対側面から挿入される。
【0025】
[定着用突起の構成]
図4各図は、接合鉄筋15(16、以後符号15のみを付して説明する。)の端部に形成された定着用突起17の例を示した説明図である。各定着用突起17は、その成形方法の相違によって形状等が異なる。各定着用突起17の成形手順について図7図9を参照して簡単に説明する。図7各図は、高周波誘導加熱を利用して定着用突起17を成形する手順を示している。この方法では、まず鉄筋端部15aに高周波誘導加熱装置40の誘導加熱用コイル41を被せ、高周波誘導加熱によって鉄筋端部15aを加熱する(図7(a)、(b))。加熱され軟化した鉄筋端部15aに成形型42を押し当てることにより、型形状に倣った定着用突起17を形成する(図7(c)、(d))。本成形方法によれば、鉄筋端を熱間加圧成形することによって十分な強度を有する突起を鉄筋母材と一体的に形成することができる。図8各図は、摩擦圧接法によって定着用突起17を成形する手順を示している。この方法では、まず鉄筋端部15aを成形型43の端面に押し当てて成形型43を高速で回転して鉄筋15と摺り合わせる(図8(a))。このときに生じる摩擦熱によって鉄筋端部15aを軟化させ、軟化した鉄筋端部15aを成形型43に押圧して膨らみ部を成形し、必要に応じて整形して定着用突起17とする(図8(b)〜(d))。この方法によれば、加熱源を用いずに鉄筋を軟化させることができる。図9各図は、鉄筋端部15aに膨らみ部15bを形成し、この膨らみ部15bを整形加工して定着用突起17を成形する手順を示している。この成形方法では、一度に2本の鉄筋15の端部に定着用突起17を形成することができる。当接させた鉄筋15の端部15aを加圧して圧接した状態で圧接部位を加熱すると、圧接境界面に関して対称なこぶ状の膨らみ部15bが形成される(図9(a)、(b))。その後、圧接状態にある2個の膨らみ部15bを一体的に回転切削装置(図示せず)によって整形し(図9(c))、2本の鉄筋15の端部に所定の対称形状をなす定着用突起17を形成する。剥離面15cで2本の鉄筋15を分離することで、それぞれの端部に同形をなす定着用突起17を有する接合鉄筋15を得ることができる(図9(d))。
【0026】
[第2の発明の構成]
以下、第2の発明のプレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の全体、部分の構成について、図10図14を参照して説明する。本発明の特徴は、接合鉄筋にネジ節鉄筋を採用し、PCa柱内に、ネジ節鉄筋と螺合するナットをシース管の軸線方向に沿って配置した一体部材を埋設した点にある。以下、プレキャストコンクリート柱梁部材の接合構造の全体構成について説明する。
【0027】
(第1実施形態)
図10は、第2の発明のPCa柱梁部材の接合構造1の第1実施形態の構成を示した一部断面図である。本実施形態の梁は、梁上部が現場コンクリート打設により構築されるハーフPCa部材で構成されている。同図にはPCa柱10A内に配列されたシース管11によって形成された貫通孔14内にネジ節鉄筋からなる接合鉄筋15,16がナット51に螺合された状態で保持され、さらに各接合鉄筋15,16の梁側端部がそれぞれ梁主筋25,26に接合された状態が示されている。PCa柱10A内に配筋された下側接合鉄筋15の梁側端部は、梁下側主筋の端部に取り付けられたねじ節鉄筋継手またはモルタル充填式継手からなる継手27内に挿入されている。一方、上側接合鉄筋16は、梁上側主筋の端部の機械式継手カプラー29に螺合されている。
【0028】
ここで、本発明の、ネジ節鉄筋をPCa柱10A内に保持するシース管11と鐔付きナットの一体部材50の構成と、PCa柱10A内にネジ節鉄筋を保持した状態について、図12図14(a−1)、(a−2)を参照して説明する。図12には、PCa柱10A内に配列されたシース管と鐔付きナットの一体部材50と、この一体部材50に保持されたネジ節鉄筋からなる接合鉄筋15,16が示されている。この一体部材50において、図14(a−1)に示したように、シース管11端部に取り付けれた接合キャップ54によって、シース管11が鐔付きナット51に接続され、さらに鐔付きナット51の鐔部分には、鐔51aを収容可能な円筒部材53が装着されている。この円筒部材53はネジ節鉄筋15(16)をPCa柱10A内にねじ込む際の作業スペースをPCa柱10A内に形成する役割を果たしている。この一体部材50が図12に示したように、PCa柱10A内に所定ピッチで配列されている。さらに図12には一体部材50に挿入し、一体部材50の鐔付きナット51のナット51b部分にネジ節鉄筋15を螺合させ、ネジ節鉄筋15をPCa柱10Aの反対側に所定長さだけ突出させて保持した状態が示されている。このように、一体部材50の円筒部材53を設けることによってPCa柱10Aの端面に形成された作業スペースを利用してネジ節鉄筋15をPCa柱10A内に容易にねじ込むことができる。
【0029】
(第2実施形態)
図11は、第2の発明のPCa柱10A梁部材の第2実施形態の全体の構成を示した一部断面図である。本実施形態の梁30も工場製作されたフルPCa部材で構成されている。接合鉄筋15,16には、第1実施形態と同様に図10に示したのと同じネジ節鉄筋が使用されている。接合鉄筋15,16は、図10と同様にPCa柱10A内に配列された貫通孔を構成する一体部材50のシース管11内に収容され、鐔付きナット51によってシース管11内に保持されている。また、梁端部からの所定範囲の梁上下面に、通常断面梁31に対して梁せいを増加させた断面拡幅部32が形成されている。この断面拡幅部32にもPCa柱10A内の貫通孔14に対応する位置に埋設されたシース管33からなる貫通孔34が形成されている。PCa柱10A内に配筋された上下の接合鉄筋15,16は、PCa柱10A内の鐔付きナットに保持され、さらに断面拡幅部32に形成された貫通孔34内にわたって収容、保持されている。
【0030】
[接合構造内でのグラウト充填状態および供給経路]
図13は、第2の発明の第1実施形態を例にして、接合構造1でのグラウト充填状態とグラウトを供給するための経路を模式的に示した断面図である。同図に示したように、PCa柱10A内において、梁上側主筋26と接合される接合鉄筋16を収容するシース管11内と鐔付きナット51内の貫通孔14とにグラウト19が充填されるが、鐔付きナット51内にグラウト19を確実に充填するために、ナット51の雌ねじ部にグラウト充填用スロット63を形成することが好ましい。またグラウト経路の注入口61に対して梁上側主筋26に連なるシース管11の梁側と、梁下側主筋25側のモルタル充填式継手27の一部に、部材外まで延在する空気抜き経路62を設け、グラウト充填時の施工性を確保することが好ましい。一方、梁下側主筋25と接合される接合鉄筋15のグラウト供給経路では、注入口61からシース管11内を通る経路に加え、モルタル充填式継手27の内部27aと梁20と柱10との接合面3にも同時にグラウト19が供給される経路を設けることが好ましい。
【0031】
[一体部材の変形例]
図14(b−1)、(b−2)は一体部材50の変形例の構成を示している。同図に示したように、鐔付きナット51の長さ方向の中央位置に鐔51aを配置し、鐔51aの両側にナット51bを配置した。また、シース管11の接合キャップ54と同様に、円筒部材53にも接合キャップ53aを形成し、鐔51aを挟んだ状態でシース管11と円筒部材53とをナット51bに被せるようにして全体を一体化させることができる。これにより、各部材の一体性が高められ、PCa柱10Aの柱梁接合部のコンクリート打設時において、型枠内に一体部材50を確実に保持させることができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 柱梁接合部(接合構造)
10,10A,10B PCa柱
11,33,38 シース管
14,34,37 貫通孔
15,16 接合鉄筋
17 定着用突起
20,30 PCa梁
25 梁下側主筋
26 梁上側主筋
27 モルタル充填式継手
29 機械式継手カプラー
31 通常断面梁
32 断面拡幅部
50 一体部材
51 鐔付きナット
53 円筒部材
図1
図2
図3
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図10
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