(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792958
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】液状物塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05C 1/02 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
B05C1/02 102
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-95687(P2016-95687)
(22)【出願日】2016年5月11日
(65)【公開番号】特開2017-202450(P2017-202450A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】396018508
【氏名又は名称】ファーストケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】落合 堅司
【審査官】
塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−000892(JP,A)
【文献】
特開昭52−126442(JP,A)
【文献】
特開平09−290188(JP,A)
【文献】
実開昭62−063199(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0290899(US,A1)
【文献】
特開平09−315413(JP,A)
【文献】
特開2001−276694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00−3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置(1)で搬送中の物体(2)の上面に自身の外周面を接触させて液状物を塗布する第一のローラ(3)と、前記第一のローラ(3)の外周面に前記液状物を供給するように前記第一のローラ(3)に対向して配置された第二のローラ(4)と、第二のローラ(4)の外周面に前記液状物を供給する液状物供給装置(5)とを少なくとも備えてなる液状物塗布装置であって、前記第一のローラ(3)及び前記第二のローラ(4)は、前記液状物塗布装置のプラットフォームに対してバネを介して揺動可能に連結されたフレーム(63)に回動可能に軸支されており、前記第一のローラ(3)は前記物体(2)の搬送方向と同じ方向に回転され、前記第二のローラ(4)は前記第一のローラ(3)と反対向きに回転され、前記第一のローラ(3)の幅は、前記第二のローラ(4)の幅よりも大きいことを特徴とする液状物塗布装置。
【請求項2】
前記第一のローラ(3)から前記物体(2)の上面に塗布される液状物の膜厚を調整するために、前記液状物供給装置(5)から前記第二のローラ(4)に供給される液状物の量に応じて、前記第一のローラ(3)と前記第二のローラ(4)との間の間隙の寸法(G)を調節する制御装置を備えている、請求項1に記載の液状物塗布装置。
【請求項3】
前記第一のローラ(3)及び前記第二のローラ(4)は、それぞれ、個別に設けられた駆動装置(32、42)によって個別に回転駆動される、請求項2に記載の液状物塗布装置。
【請求項4】
前記第一のローラ(3)の下端部が、前記物体(2)の上面よりも僅かな寸法だけ低く位置するように配置される、請求項1に記載の液状物塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体の表面に液状物の塗膜を塗布する装置に関し、特に、段ボール箱やクラフト紙袋等の紙器の表面の全面又は一部に荷崩れ防止用組成物の塗膜を形成するのに好適な液状物塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パレット上に積み重ねられた段ボール箱等が搬送中に荷崩れするのを防止する方法として、紙器の製造時又は梱包後に、その表面又は底面に、液状のスリップ防止剤を塗布して乾燥させ、段ボール箱等の紙器表面の摩擦係数を高めることが行なわれている。
【0003】
かかるスリップ防止剤を紙器に膜状に塗布する方法としては、スプレー塗布、転写印刷、スクリーン印刷、ドクターブレード塗布、印刷ローラ塗布等の方式が考えられる。
【0004】
スプレー塗布の場合は、紙器と非接触のスプレーガン等のノズルからスリップ防止剤を吐出させればよいので、メインテナンスの労力は軽減されるが、吐出時にミストを発生して周囲の環境を汚し、また、スリップ防止剤も浪費される。
【0005】
また、搬送中の紙器の上面にスリップ防止剤を吐出させてブロワーなどで拡布する方法も提案されているが、均一に塗布することは困難であり、周囲の環境を汚すという問題もあり、これを防止するには装置の複雑化は避けられなかった(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
一方、印刷ローラ塗布の場合は、周囲の環境汚染等の問題を解決でき、テーパーローラを用いることにより、均一に塗布することができ、メインテナンスも容易になることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−128214号公報
【特許文献2】特開2003−200093号公報
【特許文献3】特開2006−212545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、テーパーローラを用いる特許文献3に記載の塗布装置は、装置が大型であり、設置コストが高くなり、製品の生産量が少ない場合は採算が合わないという問題があった。そこで、本発明は、印刷ローラを用いた塗布装置であって、液状物の塗膜を均一に帯状に塗布でき、かつ、比較的安価に設置できるものを提供することを目的とする。
【0009】
本発明者は、第一のローラを搬送中の物体の上面に自身の外周面を接触させて液状物を塗布するように吊り下げるとともに、第一のローラよりも幅の狭い第二のローラを第一のローラの外周面に液状物を供給するように第一のローラに対向して配置し、第一のローラを物体の搬送方向と同じ方向に回転させ、第二のローラを第一のローラと反対向きに回転させておくことにより、物体の上面に液状物の塗膜を均一に塗布でき、かつ、比較的安価に装置を設置できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の一局面によれば、搬送装置で搬送中の物体の上面に自身の外周面を接触させて液状物を塗布するように吊り下げられた第一のローラと、前記第一のローラの外周面に前記液状物を供給するように前記第一のローラに対向して配置された第二のローラと、第二のローラの外周面に前記液状物を供給する液状物供給装置とを少なくとも備えてなり、前記第一のローラは前記物体の搬送方向と同じ方向に回転され、前記第二のローラは前記第一のローラと反対向きに回転され、前記第一のローラの幅は、前記第二のローラの幅よりも大きいことを特徴とする液状物塗布装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液状物塗布装置によれば、第一のローラを吊り下げて、搬送中の物体の上面に自身の外周面を接触させるようにしたので、第一のローラは、その自重で物体の上面を押圧することにより、その外周面に供給された液状物を物体の上面に転写して、液状物の塗膜を形成することができる。また、第一のローラと第二のローラを互いに対向させて配置するとともに、互いに反対方向に回転するようにしたので、第一のローラの外周面に必要量の液状物を保持させることができる。また、第二のローラとして、幅が第一のローラの幅よりも小さいものを用い、第一のローラの外周面に液状物を供給するようにしたので、物体の上面に液状物の塗膜を均一に形成できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の液状物塗布装置の第一の実施形態を示す概略斜視図である。
【
図2】本発明の液状物塗布装置の第二の実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明するが、本発明は該実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
図1を参照して、本発明の第一の実施形態を説明する。
【0015】
図1の装置は、物体2として段ボール箱を用い、その上面に液状物を塗布するように構成された装置であり、より詳細には、段ボール箱2を積み重ねた時に段ボール箱2同士が相互にスリップして荷崩れするのを防止するために、搬送装置1で搬送中の段ボール箱2の上面に荷崩れ防止用組成物すなわちスリップ防止剤の塗膜21を形成するための装置である。図示の例では、搬送装置1としてローラコンベアが用いられているが、ベルトコンベアなども使用でき、搬送装置1はこれらのみに制限されるものではない。
【0016】
さらに、
図1の装置は、搬送装置1の上方に、液状物であるスリップ防止剤の液体を段ボール箱3の上面に塗布するための第一のローラ3を備え、第一のローラ3の外周面に液状物を供給するための第二のローラ4が第一のローラ3の上方に対向して配置されている。第一のローラ3及び第二のローラ4としては、公知のゴムローラ、金属ローラなどを使用することができ、金属ローラの外周面にゴムシートや布を被覆したものであってもよい。
【0017】
図1の装置では、第一のローラ3は、同一の軸31に固定された一対の円筒状のローラ3a,3bからなり、第二のローラ4は、同一の軸41に固定された一対の円筒状のローラ4a,4bからなる。段ボール箱2の上面にスリップ防止剤の塗膜21を均一に形成できるように、ローラ4a,4bの幅は、ローラ3a,3bの幅よりも小さくされている。ローラ3a,3b及びローラ4a,4bの直径は、同じである。そして、ローラ3a,3bは、それぞれ、ローラ4a,4bに対向して配置されており、より具体的には、段ボール箱2の搬送方向に見て、ローラ4a,4bはそれぞれ対向するローラ3a,3bの幅内に収まるように、すなわち、ローラ4a,4bの外周面の全幅がローラ3a,3bの外周面に対向するように配置されている。
図1に示されるように、ローラ4a,4bは、段ボール箱2の搬送方向に見て、それぞれ対向するローラ3a,3bのほぼ中央に位置することが好ましい。ローラの軸31及び41は、何れも、搬送装置1の上面と平行し、かつ、段ボール箱2の搬送方向と直交して延びるように配置されている。軸31及び軸41は、それぞれ、その一端部に、これらを回転駆動させるための駆動装置32,42を備え、第一のローラ3及び第二のローラ4を互いに独立して回転駆動できるようにしている。
図1の装置では、装置全体の重量バランスの観点から、駆動装置32及び駆動装置42は、それぞれ、軸31及び軸41の異なる側の端部に設けられているが、場合によっては、同じ側の端部に設けることもできる。
【0018】
本発明では、第一のローラ3及び第二のローラ4は、液状物塗布装置のプラットフォームに対して揺動可能に取り付けられたフレーム63に軸支されることが好ましい。
図1の装置の場合、装置の基礎部材であるプラットフォーム60に固定された枠体61のヒンジ部62a,62bに軸支されて、段ボール箱2の搬送方向に揺動可能に配置されたフレーム63が設けられている。第一のローラ3は、フレーム63の搬送方向下流側端部に固定された一対のアーム64a,64bの下方端部に形成された軸受65a,65bに軸31を挿通させて回転可能に支持されている。第二のローラ4は、アーム64a,64bよりもやや搬送方向上流側に固定された一対のアーム66a,66bの下方端部に形成された軸受67a,67bに軸41を挿通させて回転可能に支持されている。アーム64a,64b,66a,66bの上方端部はねじ切りされており、この上方端部をフレーム63に設けられた孔に挿通させ、ボルト68,69によりフレーム63に固定している。第二のローラ4の上方には、その外周面に液状物を供給するための液状物供給装置5が配置されており、
図1の装置では、液状物供給装置5は2つのユニット5a,5bからなり、ローラ4a,4bのそれぞれの外周面にスリップ防止剤の液体が供給されるように、それぞれのユニット5a,5bがローラ4a,4bの上方でフレーム63に固定されている。フレーム63は、第一のローラ3、第二のローラ4、液状物供給装置5等の自重により、ヒンジ部62a,62b回りに下方に回転するように動くが、
図3を参照して後で詳述するように、ヒンジ部62a,62bの両側で枠体61とフレーム63との間に架け渡されたバネ71,72によって、第一のローラ3の外周面が段ボール箱2の上面を適度に押圧するように調整されている。
【0019】
次に、
図2を参照して、本発明の第二の実施形態を説明する。
【0020】
図2の実施形態は、第一のローラ3及び第二のローラ4が何れも単一のローラからなり、液状物供給装置5が3つのユニット5a,5b,5cからなること以外、
図1の実施形態を同様である。
図2の装置の場合も、段ボール箱2の上面にスリップ防止剤の塗膜21を均一に形成できるように、第二のローラ4の幅は、第一のローラ3の幅よりも小さくされている。第一のローラ3及び第二のローラ4の直径は、同じである。
図1の実施形態は、物体2の上面の一部に数本の帯状に液状物21を塗布するために好適であるのに対し、
図2の実施形態は、物体2の上面のほぼ全面に液状物21を塗布するために好適である。なお、本発明において、第二のローラ4,4a,4bの幅は、対向する第一のローラ3,3a,3bの幅の0.25〜0.66であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.5である。また、本発明において、第二のローラ4,4a,4bの各ローラに対して設ける液状物供給装置5のユニット数に制限はなく、
図1のように一つのローラに対して1ユニットであっても、
図2のように一つのローラに対して3ユニットであってもよく、所望の厚さの塗膜21を形成するに必要な液状物の量が確保できるユニット数であればよい。
【0021】
次に、
図3を参照して、
図1及び
図2の装置の動作を説明する。
【0022】
図3は、本発明の液状物塗布装置を、段ボール箱2が搬送されてくる直前の状態で示している。第一のローラ3は、その外周面が搬送されてくる段ボール箱2の上面に接触するように配置されていればよいが、好ましくは、
図3に示すように、第一のローラ3の下端部が、搬送されてくる段ボール箱2の上面よりも僅かな寸法だけ低く位置するように配置される。この場合、
図3でこの寸法を表わす間隔Hは、1〜10mmであることが好ましい。この間隔Hは、バネ71,72の弾性率を調整したり、アーム64a,64bの位置をボルト68で変更したりすることで調整できる。
【0023】
段ボール箱2が搬送される直前までに、第一のローラ3の外周面に十分な量の液状物の層が形成されているようにすることが必要である。そのために、液状物供給装置5から第二のローラ4に十分な量の液状物を供給し、第一のローラ3と第二のローラ4との間隙周辺に液状物溜まりが形成されるようにしておくことが好ましい。この液状物溜まりは、
図3に示すように、第一のローラ3と第二のローラ4を反対向きに回転させるとともに、第二のローラ4に十分な量の液状物を供給することにより形成させることができる。液状物溜まりが形成されている場合、第一のローラ3の外周面に十分な量の液状物21の層が形成されていることを意味する。第一のローラ3の外周面に保持される液状物の量は、第一のローラ3と第二のローラ4との間隙の寸法Gを調節することにより変更することができ、通常、寸法Gを大きくすると第一のローラの外周面に形成される液状物の層の厚さが増し、該一のローラの外周面に保持される液状物の量を増加させることができる。この寸法Gは、液状物の性状によっても異なるが、5mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.05mm〜0.5mmであることがさらにより好ましい。この寸法Gは、アーム64a,64bの位置をボルト68で変更したり、アーム66a,66bの位置をボルト69で変更したりすることで調整できる。また、液状物供給装置5から第二のローラ4に供給される液状物の量に応じて、第一のローラ3と間隙の寸法Gを調節する制御装置を設けて、自動的に寸法Gを調節できるようにしてもよい。
【0024】
かくして、
図3に示す間隔H及び間隙の寸法Gを搬送されてくる段ボール箱2に応じて適切に調整した状態にした後、段ボール箱2が搬送されてくると、第一のローラ3が段ボール箱2の上流側の側面から上記間隔Hだけ乗り上げるようにして段ボール箱2の上面に接触する。その際、バネ71及び72の作用により、第一のローラ3は段ボール箱2の上面を押圧しながら回転するので、第一のローラ3の外周面に形成されていた液状物3の層が段ボール箱2の上面に転写され、段ボール箱2の上面に液状物の塗膜21が均一に形成される。第一のローラ3の段ボール箱2の上面に対する押圧力の点から、
図3のフレーム63の揺動角度θは0〜40度の間に設定することが好ましい。
【0025】
上記の塗膜形成時には、第一のローラ3は段ボール箱2の搬送方向と同じ向きに回転させることが必要であり、第二のローラ4は上述の通り、インクの液溜まりを形成させるために、第一のローラ3と反対向きに回転させる必要がある。第一のローラ3と第二のローラ4はそれぞれの駆動装置32,42によって別個に回転され、その速度も、適宜、個別に設定することができる。特に、第一のローラ3の回転速度は、段ボール2の上面を押圧するのに適した回転速度に設定することが好ましい。駆動装置32,42としては、モータが挙げられるが、これに限られるものではなく、それ以外の動力伝達機構を用いてもよい。
【0026】
上記スリップ防止剤としては、液状のものであれば特に制限はないが、ゴム成分と造膜性ポリマーとを含有し、必要に応じて、コロイダルシリカなどの摩擦係数増強材を添加したスリップ防止剤が好ましい。かかるスリップ防止剤は、特開平10-53742号公報や特開平11-217535号公報に記載されており、詳細については、これらの公報を参照されたい。なお、本発明で使用する液状物は、50〜10,000cps(50〜10,000mPa・s)程度の粘度を備えていることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の液状物塗布装置は、ローラコンベアなどの搬送装置により搬送中の物体、たとえば、段ボール箱の上面に液状物を均一に塗布するのに好適である。
【符号の説明】
【0028】
1 搬送装置
2 段ボール箱
21 塗膜
3,3a,3b 第一のローラ
4,4a,4b 第二のローラ
5 液状物供給装置
31,41 軸
32,42 駆動装置
60 プラットフォーム
61 枠体
62a,62b ヒンジ部
63 フレーム
64a,64b,66a,66b アーム
65a,65b,67a,67b 軸受
68,69 ボルト
71,72 バネ
H 間隔
G 間隙の寸法