(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6792972
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びインクジェット記録装置におけるダンパー機構
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
B41J2/175 501
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-141288(P2016-141288)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-12203(P2018-12203A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】307015301
【氏名又は名称】武藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067758
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 綾雄
(72)【発明者】
【氏名】片庭 勇一
【審査官】
高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−046070(JP,A)
【文献】
特開2014−079897(JP,A)
【文献】
特開2003−220712(JP,A)
【文献】
特開2016−083927(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0043076(US,A1)
【文献】
中国実用新案第204605194(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク供給部とインクジェットプリントヘッドとの間に設けられ、インクジェットプリントヘッド内のインクにかかる圧力変動を吸収するためのダンパー機構において、該ダンパー機構のダンパー本体の隔壁の両側に第1のダンパーと、第2のダンパーを設け、前記第1のダンパーと前記第2のダンパーの各圧力室を、前記隔壁の壁面とこれに対向して配置された可撓膜とで構成し、前記第1のダンパーと前記第2のダンパーとを所定の長さを有する圧力抵抗用の流路で連通したことを特徴とするインクジェット記録装置におけるダンパー機構。
【請求項2】
前記インクジェットプリントヘッドが搭載され被印刷媒体を横切る主走査方向に移動するキャリッジに、隔壁と、該隔壁の両面に凹部を形成する筒部とを有するダンパー本体を搭載し、前記筒部の軸方向の両端面に可撓膜を接着し、隔壁の両面側に圧力室を設けて第1のダンパーと第2のダンパーを形成し、前記第1のダンパーに該第1のダンパーの圧力室と連通する第1のインク流通孔を設け、前記第2のダンパーに該第2のダンパーの圧力室と連通する第2のインク流通孔を設け、前記ダンパー本体にインクジェット記録装置本体側のインク供給部に連結する上流側接続パイプとプリントヘッドのインク吐出部に連結する下流側接続パイプとを設け、前記第1のダンパーに該第1のダンパーの圧力室と連通する第3のインク流通孔を設け、前記第2のダンパーに該第2のダンパーの圧力室と連通する第4のインク流通孔を設け、前記第1のダンパーの第3のインク流通孔と前記上流側接続パイプとを前記ダンパー本体に設けた第1の流路を介して連結し、前記第2のダンパーの第4のインク流通孔と前記下流側接続パイプとを前記ダンパー本体に設けた第2の流路を介して連結し、前記第1のダンパーの第1のインク流通孔と前記第2のダンパーの第2のインク流通孔とを前記ダンパー本体に設けた圧力抵抗用の流路によって連通したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置におけるダンパー機構。
【請求項3】
前記隔壁に前記第2のダンパーの圧力室に連通する第2のインク流通孔を設け、前記ダンパー本体の筒部の一方の端面側に円周方向に延びる凹溝と、第1の圧力室の内部のインクを凹溝の一方に導く第1のインク流通孔と、前記凹溝の他方を、前記隔壁に設けた第2の圧力室に連通する第2のインク流通孔に導く流体案内部とを設け、前記凹溝の開口部の上面を部材にて塞ぎ、前記凹溝と、これの開口部を塞ぐ部材と、第1のインク流通孔と、前記流体案内部と、前記隔壁に設けた第2の圧力室に連通する第2のインク流通孔とで、前記ダンパー本体に、前記筒部に沿って延びる細長い流路を形成し、該流路を前記圧力抵抗用の流路としたことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置におけるダンパー機構。
【請求項4】
前記開口部を塞ぐ部材は、前記可撓膜の可撓部として使用されない外側の部分であり、その部分を溶着することにより作成されることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置におけるダンパー機構。
【請求項5】
前記圧力抵抗用の流路にインクの微小なゴミや気泡を除去するフィルタを設けたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置におけるダンパー機構。
【請求項6】
前記隔壁の、第2の圧力室に連通する第2のインク流通孔にインク内の微小なゴミや気泡を除去するフィルタを配置したことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置におけるダンパー機構。
【請求項7】
インク供給部とインクジェットプリントヘッドとの間に設けられ、インクジェットプリントヘッド内のインクにかかる圧力変動を吸収するためのダンパー機構を備えたインクジェット記録装置において、前記ダンパー機構に、第1のダンパーと、第2のダンパーを設け、前記第1のダンパーと第2のダンパーの各圧力室を、壁面とこれに対向して配置された可撓膜とで構成し、前記第1のダンパーと前記第2のダンパーとを所定の長さを有する圧力抵抗用の流路で連通したことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記圧力抵抗用の流路にインクの微小なゴミや気泡を除去するフィルタを設けたことを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置(プリンター、プロッタなど)に使用するダンパー機構及び該ダンパー機構を使用したインクジェット記録装置に関するものであり、特に大型のインクジェット記録装置に使用することができるダンパー機構及び該ダンパー機構を使用したインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドを用いて被記録媒体に文字や画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。このインクジェット記録装置において、インクジェットヘッドが搭載されたキャリッジを被記録媒体に対して主走査方向に移動させながらインクジェットヘッドのノズルからインクを吐出して所定領域にドットのパターンを印刷し、印刷幅分の主走査が終わると被記録媒体を副走査方向に所定量移動させ、これらの動作を繰り返すことによって所望の全ての領域の印刷を行う構造の装置がある。このような、インクジェットヘッドを走査方向に移動させながらドットパターンを印刷するインクジェット記録装置において、キャリッジに直接インクカートリッジ等を載せていない構造の場合には、インク供給部(カートリッジやインクタンクなど)からインクジェットヘッドまでの距離をインク供給路(インクチューブ等)にて繋いでインクを供給する事が必要となり、その場合にキャリッジの移動によって発生する慣性力によりインク供給路内のインクが移動し、そのインクの圧力変動の影響でインクジェットヘッドのインクの吐出が不安定となったり、またインクが漏れたり、ノズル開口のメニスカスを破壊することで、ノズル抜けを発生するなどの悪影響を起こす場合がある。
このため、インクジェットヘッド内部のインクを適正な圧力範囲に保つ必要があり、そのようなインクジェットヘッドを使用する場合には、インクカートリッジやインクタンク等のインクを貯留した場所からプリントヘッドのインク吐出部までのインク供給路内のインク移動により発生する正圧及び負圧の圧力変動を緩衝し、ヘッド内のインクに影響がでないようにするためにダンパー機構を搭載している装置がある。
此種のダンパー機構においては、インクジェットヘッドの吐出部に対して1つの圧力室を有する機構のものが一般的であるが、インクジェットヘッドのインク吐出部に対して2つの圧力室を設け、2つの圧力室を連通口で連通させて全体を大きな一つの圧力室として動作させることでダンピング容量を向上させたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
また自己封止機能を有する弁構造を用いてインクジェットヘッドへの圧力変動を遮断しておく構造も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−220712号公報
【特許文献2】特開2004−142405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダンパーが1つの場合や、2つの圧力室を連通口で連通させて全体を一つの圧力室として動作させるダンパーを使用する場合、キャリッジの移動により生じる圧力変動は、特に幅の広い印刷媒体に印刷を行う大型のインクジェットプリンタにおいてはヘッドの移動する距離が大きく近年の印刷速度の向上により移動するスピードも速いため、インク供給経路のインク量も増えそのインクに掛かる加速度も大きくなるため、圧力変動も大きくなる傾向がある。そのため大きな圧力変動に対応するために、単独のダンパー機構の可撓膜や張り付き防止用の板バネを強くして対応すると可撓膜の変位が遅れる可能性があり、また弱くした場合には可撓膜の変位の応答性は良くなるが、
待機時にはインクジェットヘッドとインクカートリッジの水頭差による負圧により、可撓膜が初期的に押されることで、変位代が少なくなるため、大きな圧力変動へ十分な対応ができない可能性があり、ダンパー可撓膜の変位遅れが生じた場合には、キャリッジの移動により生じる圧力変動は、初期状態において瞬間的にヘッド内のインクに大きくかかってしまう。この圧力変動をできるだけ小さくするのがインクジェットヘッドの吐出の安定には望ましいのであるが、一つの圧力室では、瞬間的にヘッドの中のインクにかかる圧力伝播の大きさを小さく抑えることができない。
また自己封止機能を有する弁構造を用いた場合には、圧力変動の影響を遮断はできるが内部に弁構造を動かす機構が必要となり、異物の挟み込みにより、常時開状態となる不具合や、弁の固着による常時閉状態となる不具合などが起こる可能性がある。
本発明は、上記問題点を解決することを目的とするものであり、大きな圧力変動への対応が可能で、瞬間的な圧力変動への応答性も良く、しかも構造が簡単で不具合を起こりにくくする事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、インク供給部とインクジェットプリントヘッドとの間に設けられ、インクジェットプリントヘッド内のインクにかかる圧力変動を吸収するためのダンパー機構において、第1のダンパーと、第2のダンパーを設け、前記第1のダンパーと前記第2のダンパーの各圧力室を、壁面とこれに対向して配置された可撓膜とで構成し、前記第1のダンパーと前記第2のダンパーとを所定の長さを有する圧力抵抗用の流路で連結したことを特徴とする。
また本発明は、前記インクジェットプリントヘッドが搭載され被印刷媒体を横切る主走査方向に移動するキャリッジに、隔壁と、該隔壁の両面に凹部を形成する筒部とを有するダンパー本体を搭載し、前記筒部の軸方向の両端面に可撓膜を接着し、隔壁の両面側に圧力室を設けて第1のダンパーと第2のダンパーを形成し、前記第1のダンパーに該ダンパーの圧力室と連通する第1のインク流通孔を設け、前記第2のダンパーに該ダンパーの圧力室と連通する第2のインク流通孔を設け、前記ダンパー本体にインクジェット記録装置本体側のインク供給部に連結する上流側接続パイプとプリントヘッドのインク吐出部に連結する下流側接続パイプとを設け、前記第1のダンパーに該ダンパーの圧力室と連通する第3のインク流通孔を設け、前記第2のダンパーに該ダンパーの圧力室と連通する第4のインク流通孔を設け、前記第1のダンパーの第3のインク流通孔と前記上流側接続パイプとを前記ダンパー本体に設けた第1の流路を介して連結し、前記第2のダンパーの第4のインク流通孔と前記下流側接続パイプとを前記ダンパー本体に設けた第2の流路を介して連結し、前記第1のダンパーの第1のインク流通孔と前記第2のダンパーの第2のインク流通孔とを前記ダンパー本体に設けた圧力抵抗用の流路によって連結したことを特徴とする。
また本発明は、前記隔壁に前記第2のダンパーの圧力室に連通する第2のインク流通孔を設け、前記ダンパー本体の筒部の一方の端面側に円周方向に延びる凹溝と、第1の圧力室の内部のインクを凹溝の一方に導く第1のインク流通孔と、前記凹溝の他方を、前記隔壁に設けた第2の圧力室に連通する第2のインク流通孔に導く流体案内部とを設け、前記凹溝の開口部の上面を部材にて塞ぎ、前記凹溝と、これの開口部を塞ぐ部材と、第1のインク流通孔と、前記流体案内部と、前記隔壁に設けた第2の圧力室に連通する第2のインク流通孔とで、前記ダンパー本体に、前記筒部に沿って延びる細長い流路を形成し、該流路を前記圧力抵抗用の流路としたことを特徴とする。
また本発明は、前記開口部を塞ぐ部材は、前記可撓膜の可撓部として使用されない外側の部分であり、その部分を溶着することにより作成されることを特徴とする。
また本発明は、前記圧力抵抗用の流路にインクの微小なゴミや気泡等を除去するフィルタを設けたことを特徴とする。
また本発明は、前記隔壁の、第2の圧力室に連通する第2のインク流通孔にインク内の微小なゴミや気泡等を除去するフィルタを配置したことを特徴とする。
また本発明は、インク供給部とインクジェットプリントヘッドとの間に設けられ、インクジェットプリントヘッド内のインクにかかる圧力変動を吸収するためのダンパー機構を備えたインクジェット記録装置において、前記ダンパー機構に、第1のダンパーと、第2のダンパーを設け、前記第1のダンパーと第2のダンパーの各圧力室を、壁面とこれに対向して配置された可撓膜とで構成し、前記第1のダンパーと前記第2のダンパーとを所定の長さを有する圧力抵抗用の流路で連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、2つの圧力室にて段階的に圧力変動を減少させるため、瞬間的にインクジェットプリントヘッドにかかる圧力伝播の大きさを小さく抑えることができ、印刷品質を向上させることができ、インクジェットプリントヘッド内のインクへの影響を抑える事が可能になるためインクの吐出を安定させることができ、しかも大きな圧力変動や瞬間的な圧力変動へも対応が可能である。また構造が簡単で不具合が起こりにくいため、インクの安定した吐出とメンテナンスなどに掛かる工数等も少なくなる。また圧力室を壁面に対して表裏に設けその圧力室の外周にインク流路を設けるようにしたので、2つのダンパーを用いしかも圧力室の容量を大きくしても1つのダンパーとして取り扱いが可能であり、ヘッドキャリッジ等に載せる場合もコンパクトに取り付けが可能である。
また可撓膜の一部を利用して溶着時に凹部の上面も一緒に覆うことができるため作成も簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】可撓膜を省略したダンパー機構の説明図である。
【
図2】可撓膜を省略したダンパー機構の外観説明図である。
【
図3】可撓膜を省略したダンパー機構の外観説明図である。
【
図5】ダンパー機構の一部のB−B線断面説明図である。
【
図9】ヘッドのインク吐出部にかかる圧力変動特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の構成を添付図面を参照して詳細に説明する。
図7は、インクジェット記録装置2の概略説明図であり、インクジェット記録装置2は、複数のインクジェットプリントヘッド4が搭載されたキャリッジを被記録媒体に対して主走査方向に移動させながら各プリントヘッド4のノズル部4a(インク吐出部)からインクを吐出して所定領域にドットのパターンを印刷し、印刷幅分の主走査が終わると被記録媒体を副走査方向に所定量移動させ、これらの動作を繰り返すことによって所望の全ての領域の印刷を行うものである。
【0009】
インクジェットプリントヘッド4が搭載されるキャリッジには、インクチューブから成るインク供給路6内のインクに発生する圧力変動を緩衝するダンパー8が搭載されている。ダンパー8は、キャリッジの移動によって発生する慣性力によりインク供給路6内のインクが移動し、これによりプリントヘッド4のインク吐出部4aのノズルの中のインクに掛かる圧力を緩和して、インクの吐出不良やノズルの開口のメニスカスが破壊されるのを防止する。インクジェット記録装置2の本体側に配備されたインクカートリッジなどから成るインク供給部7の液面とプリントヘッド4のインク吐出部4aとの水頭差により、インク供給路6内とプリントヘッド4内のインクは負圧に保持されるためノズルから漏れる事なく、インク供給路6内は負圧に保持され、これによりインクを吐出しないときは、インク吐出部4aのノズルの開口にメニスカスが形成されるように構成されている。
【0010】
本実施形態は、説明の便宜上、1個のダンパーについてのみ説明し、各プリントヘッドごとに用意された他のダンパーの説明は省略する。
図1(A)は、ダンパーの正面説明図、(B)は、背面説明図を示し、それぞれ圧力室の内部を見せるため、可撓膜が省略されている。
図1,2に示すように、ダンパー8は、ダンパー本体10の隔壁12の両側に第1のダンパー14と、第2のダンパー16が形成されている。ダンパー本体10は、円盤状の隔壁12と、これの周囲に形成された筒部18と、筒部18から突出する接続部19,20を備えている。筒部18の一方の開口端側には、開口端の円周方向に沿って所定長さ延びる凹溝22と、凹溝24が形成されている。
【0011】
接続部19には、上流側接続パイプ26が取り付けられ、該パイプ26は、接続部19に設けられた管路28と連通している。管路28は、溝部22の一方側に接続している。上流側接続パイプ26は、インクジェット記録装置2のインク供給路6を構成するチューブに連結している。凹溝22の他方は、筒部18に形成されたインク流通孔30を通じて、第1のダンパー14の圧力室34に連通している。凹溝24の一方は、筒部18に形成されたインク流通孔32を通じて第1のダンパー14の圧力室34に連通している。
【0012】
凹溝24の他方は、
図5に示すように、筒部18に一体的に形成された、中空部を有する流体案内部36に連通している。隔壁12に形成されたインク流通孔38は図示するようにその一方の部分で漏斗状に少し広がっており、案内部36の中空部は、その流通孔38と連通し、凹溝24は、流体案内部36の内部、インク流通孔38を通じて、第2のダンパー16の圧力室40に連通している。隔壁12には、インク流通孔38と対面する位置にSUS(ステンレス)メッシュフィルタ42が接着され、このフィルタ42によって、第2のダンパー16に入ってくるインク中の微小なゴミや気泡等が除去されるように構成されている。
【0013】
筒部18の他方の開口端側には、開口部の円周方向に沿って所定長さ延びる凹溝44が形成されている。凹溝44の一方は、筒部18の、前記インク流通孔38から離れた位置に形成された、インク流通孔46に接続し、凹溝44の他方は、接続部20に設けられた管路48の一方と接続している。管路48の他方は、接続部20に固設された下流側接続パイプ50に接続し、該接続パイプ50は、プリントヘッド4に連結するインク供給管52に連結している。ダンパー本体10には、筒部18によって、両側の面に凹部が形成されており、この凹部の開口をフィルム状の可撓膜52,54によって封止することで一端面が可撓膜52,54で画成された圧力室34,40が形成されている。なお可撓膜52,54は外と内に十分撓む事ができる状態に余裕をもって封止されている。
【0014】
第1及び第2のダンパー14,16の圧力室34,40内へのインクの充填は、ヘッドをキャッピング機構により密封した後にポンプによりインク吐出部4aのノズル開口からインクを吸引することにより行われる。
この吸引によりインクカートリッジ7内に保管されているインクがインク供給路6を通り、第1の流路62、ダンパー8の第1のダンパーの圧力室34、圧力抵抗用流路66、インク流通孔38、フイルタ42、第2のダンパーの圧力室40、第2の流路64と通過し、プリントヘッド4に入り、インク吐出部4aから多少インクを引き出す程度まで吸引する事によりインクの充填を行う。
【0015】
吸引が終了するとインクカートリッジ7とプリントヘッド4の水頭値の差によって、経路内のインクは負圧に保持されインク吐出部4aからインクが吐出できる状態となる。なおこの段階では第1のダンパーの圧力室34、第2のダンパーの圧力室40の可撓膜は板ばね56,58に規制され若干凹んだ状態にて維持されインクが充填された状態になる。その後ヘッドからのインクの吐出に伴いインクがインクジェットヘッド4の方向に供給されるため、第1のダンパーの圧力室34および第2のダンパーの圧力室40のインクが減少し、その減少によってインクカートリッジ7のインクが供給され定期的に必要な量のインクがプリントヘッド4に充填される。
【0016】
例えばキャッピング機構による吸引やヘッドのインクの吐出により、第1及び第2のダンパー14,16の圧力室34,40内のインクが吸引されることで、可撓膜52,54がダンパー本体10の隔壁12に張りついてしまうと、上流からのインク供給路を可撓膜が塞いでしまうことで、インク供給に支障が出る可能性がある。この場合、第1及び第2のダンパー14,16の圧力室34,40内のインクのほとんどが排出されてしまい、ノズル抜けの原因となる。
【0017】
このため、第1及び第2の板ばね56,58を所定のクリアランスを形成する位置に配置することによって可撓膜52,54のダンパー本体10の隔壁12への当接を規制している。板ばね56,58は、屈折部を、筒部18の開口縁部に設けられた係合凹部60,61に係合して配置され、可撓膜52,54が板ばね56,58に貼り付いた位置になった場合でも第1および第2のダンパー14.16の圧力室34,40にはインクが所定量充填されるようになっており、この部分からさらなる変位が可能であり、また可撓膜52が隔壁12に貼り付かないようにもしている。可撓膜52,54は、筒部18の開口縁部に熱溶着等により接合される。
【0018】
凹溝22,24,44及び流体案内部36は、可撓膜52,54によって開口部が封止され、これら凹溝22,24,44及び流体案内部36と可撓膜52,54によって筒部18の両端面に、凹溝22,24,44及び流体案内部36に沿って、細長状の所定の長さを有する管路から成る第1の流路62、第2の流路64及び圧力抵抗用の流路66が形成される。前記開口部を塞ぐのは、前記可撓膜52,54の、可撓部として使用されない外側の部分であり、その部分をダンパー本体10に溶着することにより流路が作成される。
【0019】
本実施形態では可撓膜を溶着することで圧力室と溝部の両方を一緒に覆うようにしているため作成も簡単であり、また透明な部材等を用いれば中のインクの状態等も把握できる。
上記した構成において、第1及び第2のダンパー14,16の圧力室34,40には、インク吐出部4a内のインクの初期充填動作によって、第1及び第2のダンパー14,16の圧力室34,40のインク流通孔32,46を超える部分までインクが充填される。
【0020】
インクジェットプリントヘッド4が印刷するために主走査方向の移動を行うと、インク吐出部4a内のインクに正圧及び負圧の圧力変化が起こる。このとき、圧力変化に伴って可撓膜52,54が弾性変形、すなわち、第1及び第2のダンパー14,16の容積を変化させることにより、圧力変動を緩衝させ、インク吐出部4a内のインクに略一定の負圧を安定的に維持することができる。
【0021】
この第1及び第2のダンパー14,16の容積を変化させる可撓膜52,54の変形方向としては、インクジェットプリントヘッド4の移動に伴いインクチューブ内から掛かる圧力が高くなる場合には可撓膜52,54は容積を大きくする方向(膨らむ方向)に移動し、圧力が低くなる場合には容積を減少させる方向(凹む方向)に移動する。
【0022】
このように可撓膜52,54が変形することによって、ダンパー8は、インクジェットプリントヘッド4の加速及び減速や移動方向に対応して、インク供給路6内にあるインクの圧力変動を緩衝させ、インク吐出部4a内のインクに圧力変動の影響がでないようにすることにより吐出を安定させることで、印刷品質を向上することができる。
次に、インクジェットプリントヘッドの加速及び減速により、初期的にヘッドに過大にかかる圧力伝播を抑える動作について
図8及び
図9を参照して説明する。
【0023】
図9の横軸は時間、縦軸は圧力を示している。
図9は、ダンパーがない場合にプリントヘッドにかかる圧力変動曲線(A)と、ダンパーが1個の場合のプリントヘッドに掛かる圧力変動曲線(B)と、本実施形態に示す、2つのダンパーを、圧力抵抗となる流路66と、メッシュフィルタ42を介して連通した場合のプリントヘッドにかかる圧力変動曲線(C)を示している。プリントヘッドにかかる圧力変動はできるだけ小さいことが望ましい。
図8(A)に示すようにダンパーが1個の場合には、ダンパー(D)の上流側で生じた圧力変動△Pがダンパー(D)の圧力室に掛かるが、同じように連通しているプリントヘッド4側にも均等に掛かる。その後ダンパーの可撓膜が変位して圧力変動は緩衝されるが瞬間的にはダンパー(D)の可撓膜の変位が追いつかないため、緩衝できなかった圧力差分に関してはプリントヘッドのインク吐出部4a側への影響が出てしまう。
【0024】
これに対して、本実施形態では、
図8(B)に示すように、圧力変動△Pは、管路28を通じて、まず、第1のダンパー1の圧力室に伝達される。次に、第1のダンパー1の圧力室の圧力変動△Pは、流路66に伝達され、ここで細く長い流路とフイルタが存在しているために、この構造の存在によって圧力損失が生じ、圧力変動△Pは、△P’に減少する。流路66を通じて、圧力変動△P’は第2のダンパー2に伝達され、接続パイプ50を通じてプリントヘッド4に伝達される。
【0025】
ダンパー1の上流側の圧力変動△Pと、プリントヘッド4に伝達される圧力変動△P’は、△P’<△Pとなり、ダンパー1個の場合、あるいは複数のダンパー間に圧力の抵抗となる流路66を設けない場合に比し、本実施形態では、プリントヘッド4側に掛かる圧力変動を少なくする事ができ、また瞬間的に掛かる圧力変動も抑える事ができる。大きな圧力変動を緩衝するにはダンパー機構の可撓膜やバネなどを強くする必要があるが、その場合は応答性が悪くなるため、瞬間的な圧力変動の応答性が悪くなる。
【0026】
本実施形態では、2つのダンパー機構を直列に並べてその間に圧力を損失させる構造を設けることで、可撓膜やバネなどを単独に設ける場合ほど強くする必要が無いため瞬間的な応答性は良くなり、ダンパーの可撓膜が変位するまでにかかる圧力を小さくする事ができる。
本実施形態では、圧力に対して抵抗となる流路を2つのダンパーが背中合わせに一体的に形成された複合ダンパー本体に形成したが、2つのダンパーを一体的に形成した構成に特に限定されるものではなく、2つ又は複数のダンパーを別個に形成し、これらをチューブやパイプ等の細い圧力抵抗用の管路で直列に連結する構成としても良い。
また実施例では第1と第2のダンパーを同じ構造を用いているが、特に同じでなくとも良く、たとえば第1と第2のダンパーで圧力室の容量を変えたり、可撓膜や板ばねなどの強さを個々に変えても良いなど必要に応じて使用すればよい。
【符号の説明】
【0027】
2 インクジェット記録装置
4 プリントヘッド
4a インク吐出部
6 インク供給路
7 インク供給部
8 ダンパー
10 ダンパー本体
12 隔壁
14 第1のダンパー
16 第2のダンパー
18 筒部
19 接続部
20 接続部
22 凹溝
24 凹溝
26 上流側接続パイプ
28 管路
30 インク流通孔
32 インク流通孔
34 圧力室
36 流体案内部
38 インク流通孔
40 圧力室
42 フィルタ
44 凹溝
46 インク流通孔
48 管路
50 下流側接続パイプ
52 可撓膜
54 可撓膜
56 板ばね
58 板ばね
60 係合凹部
61 係合凹部
62 第1の流路
64 第2の流路
66 圧力抵抗用流路