(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の温度推定装置は、予めトルクおよび回転数を測定して、同じ量の損失量を実線で繋げたマップである損失量マップを用意する必要がある。したがって、電動機毎にトルクおよび回転数を変化させながら損失量を測定する必要があり、汎用性が高いとは言えなかった。
【0006】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、汎用性の高い電動機のロータの温度推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の実施形態に係る温度推定装置は、トルク計によって検出された、駆動信号に従って動作する電動機の実際のトルクである出力トルクと、トルク演算器が、前記駆動信号と、前記電動機の位置検出信号と、d軸インダクタンスと、q軸インダクタンスと、基準温度における、永久磁石界磁によるd軸電機子巻線と鎖交する磁束に基づいて演算した、基準温度における前記電動機のトルクである演算トルクと、を取得して、前記出力トルクと演算トルクとの差分に基づいて、前記電動機のロータの温度を推定する。
【0008】
また、好ましくは、前記電動機のロータの温度をτ、前記出力トルクをT
out、前記演算トルクをT
ref、前記電動機で用いられる永久磁石の残留磁束密度温度係数をk、および前記基準温度をt
0として、
【数1】
を演算することによって前記電動機のロータの温度を推定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態に係る温度推定装置によれば汎用性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0012】
(電動機の制御システム)
図1は、本実施形態に係る温度推定装置11を用いた電動機1の制御システム20の構成例を示す図である。制御システム20は、例えば自動車用試験システムであるが、これに限らずトルク計が搭載されるあらゆる種類の電動機1の制御システムとして適用可能である。
【0013】
制御システム20は、電動機1と、電力変換器2と、負荷5と、トルク計6と、位置センサ7と、電流検出器8と、温度推定装置11と、電流制御器12と、トルク演算器13と、を備える。
【0014】
図1に示されるように、電動機1は直流交流変換する電力変換器2を用いて給電され、駆動される。本実施形態において電力変換器2は三相PWMインバータである。三相PWMインバータは公知の構成を用いることができる。また、電力変換器2は例えば系統と接続されて使用される。
【0015】
電動機1の出力側には負荷5が接続される。電動機1と負荷5との間には、電動機1の実際のトルクを測定するためのトルク計6が設けられている。トルク計6は電動機1に接続されて、検出した電動機1の出力トルクT
outを温度推定装置11に出力する。トルク計6は例えばフランジ型であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0016】
また、電動機1には位置センサ7が取り付けられている。位置センサ7は、ステータの基準に対してロータの回転位置(回転角θ
m)を検出するものである。位置センサ7に用いられるものとして、例えばエンコーダやレゾルバなどがあるが、これに限定されるものではない。
【0017】
また、電動機1と電力変換器2との間には電流検出器8が接続されている。電流検出器8は、電動機1から電力変換器2に流れる三相電流i
u,i
v,i
wを検出する。
【0018】
電流制御器12は、電流指令(d軸電流指令i
drefおよびq軸電流指令i
qref)を取得して三相電圧指令v
u,v
v,v
wを出力する。また、電流制御器12は、電流検出器8によって検出された三相電流i
u,i
v,i
wと、位置センサ7によって検出された回転角θ
mと、を取得する。ここで、三相電流i
u,i
v,i
wは電動機1の駆動信号の一例である。また、回転角θ
mは電動機1の位置検出信号の一例である。
【0019】
電流制御器12は、二相の電流に変換した三相電流i
u,i
v,i
wが電流指令に一致するように三相電圧指令v
u,v
v,v
wを生成する。電流制御器12は、例えば電流指令と、三相電流i
u,i
v,i
wに基づく電流(d軸電流i
dおよびq軸電流i
q)と、を用いてPI制御を行う。ここで、d軸電流i
dおよびq軸電流i
qは、例えば三相電流i
u,i
v,i
wを三相二相変換して得られるαβ軸系での電流i
αおよびi
βを、更に回転角θ
mを用いて回転座標変換することで得られる。
【0020】
トルク演算器13は、d軸インダクタンスL
dと、q軸インダクタンスL
qと、鎖交磁束φ
20と、を取得する。また、トルク演算器13は、三相電流i
u,i
v,i
wと、回転角θ
mと、を取得する。トルク演算器13は、温度推定装置11に演算トルクT
ref20を出力する。d軸インダクタンスL
d、q軸インダクタンスL
q、および鎖交磁束φ
20は、電動機1で用いられる磁石の特性によって定まる。トルク演算器13は、d軸インダクタンスL
d、q軸インダクタンスL
q、および鎖交磁束φ
20を電動機1の特性を記憶した記憶部(例えば半導体メモリ、磁気メモリ等)から取得してもよい。演算トルクT
ref20は下記の出力トルクの式(1)によって求められる。
【0022】
ここで、pは電動機1で用いられる永久磁石の極対数である。鎖交磁束φ
20は、基準温度(本実施形態においては20℃)における、永久磁石界磁によるd軸電機子巻線と鎖交する磁束である。d軸電流i
dおよびq軸電流i
qは、電流制御器12についての説明で述べた通り、三相電流i
u,i
v,i
wおよび回転角θ
mを用いた演算で得られる。式(1)で用いられる係数のうち鎖交磁束φ
20は温度依存性がある。つまり、20℃でない温度における鎖交磁束φは、鎖交磁束φ
20と異なる。一方、d軸インダクタンスL
dおよびq軸インダクタンスL
qは、温度が変わっても変化しない。
【0023】
別の実施例として、トルク演算器13はトルクマップを用いて演算トルクT
ref20を演算してもよい。制御システム20は、電動機1の回転数およびトルク毎の最適なd軸電流i
dおよびq軸電流i
qをテーブル化したトルクマップを用いることがある。トルクマップは例えばシミュレーション結果等に基づいて作成される。トルク演算器13は、上記の式(1)ではなく、三相電流i
u,i
v,i
wおよび回転角θ
mから得たd軸電流i
dおよびq軸電流i
qと、トルクマップと、を用いて演算トルクT
ref20を演算してもよい。
【0024】
温度推定装置11は、出力トルクT
outと、演算トルクT
ref20と、を取得する。また、温度推定装置11は後述する残留磁束密度温度係数kを取得する。温度推定装置11は、電動機1のロータの温度τを演算で求めて(推定して)、信号Wとして出力する。ここで、演算トルクT
ref20は、基準温度(本実施形態においては20℃)における電動機1のトルクの値である。電動機1の温度が20℃よりも上昇すると、鎖交磁束φが式(1)で用いられた鎖交磁束φ
20から変化するので、演算トルクT
ref20より出力トルクT
outが小さくなる。温度推定装置11は、トルク計6によって検出された出力トルクT
outと、演算トルクT
ref20との差分に基づいて、電動機1のロータの温度τを演算で求めることができる。ここで、温度推定装置11は、信号Wとして、演算で求めた温度τに代えて電動機1のロータの温度τが所定の温度(例えば150℃)を超えたことを示すアラート信号を出力してもよい。例えば、制御システム20の動作全般を制御するメインコントローラ(図外)が、温度推定装置11からの信号Wを取得してもよい。そして、メインコントローラは、電動機1のロータの温度τが所定の温度を超えたと判断する場合に、電動機1の出力トルクT
outを抑えるように電流指令を調整したり、保護のために電動機1を停止させたり、してもよい。
【0025】
(温度の演算)
温度推定装置11は、電動機1のロータの温度τを以下に説明する式を用いて演算することができる。電動機1で用いられる永久磁石は、温度特性の一つとして固有の残留磁束密度温度係数k[%/K]を有する。本実施形態において基準温度は20℃であるため、残留磁束密度温度係数kと、電動機1のロータの温度τと、出力トルクT
outと、演算トルクT
ref20と、の間に下記の式(2)の関係が成り立つ。
【0027】
式(2)の左辺は、電動機1のロータの温度τの20℃からの上昇分(τ−20)に残留磁束密度温度係数kを乗じて得られる磁束の変化率[%]を表す。一方、式(2)の右辺のように、磁束の変化率[%]は、20℃のトルク(演算トルクT
ref20)を基準とする出力トルクT
outの変化率としても得られる。よって式(2)が成り立つ。また、式(2)を変形することで下記の式(3)が得られる。
【0029】
温度推定装置11は、式(3)で得られた電動機1のロータの温度τ(または温度τに基づく信号)を信号Wとして出力する。例えば、電動機1にネオジム磁石が用いられるとする。ネオジム磁石の残留磁束密度温度係数kは、一例として−0.1[%/K]である。また、温度推定装置11は、演算トルクT
ref20=80[Nm]、出力トルクT
out=68[Nm]を取得したとする。このとき、温度推定装置11は、式(3)を用いて演算することによって、電動機1のロータの温度τが170℃であると推定する。そして、温度推定装置11は、温度τが170℃であることを示す信号Wを出力する。別の例として、温度推定装置11は、温度τが所定の温度(例えば150℃)を超えたことを示す信号Wを出力する。このとき、信号Wを取得したメインコントローラは、電動機1の出力トルクT
outを抑えるように電流指令を調整してもよい。
【0030】
以上に説明したように、本実施形態に係る温度推定装置11は、トルク計6によって検出された、駆動信号(三相電流i
u,i
v,i
w)に従って動作する電動機1の実際のトルクである出力トルクT
outを取得する。また、温度推定装置11は、トルク演算器13が少なくとも駆動信号(三相電流i
u,i
v,i
w)と電動機1の位置検出信号(回転角θ
m)とに基づいて演算した、基準温度における電動機1のトルクである演算トルクT
ref20を取得する。温度推定装置11は、出力トルクT
outと演算トルクT
ref20との差分に基づいて、電動機1の温度を推定する。この温度の推定には、上記の式(3)が用いられる。
【0031】
本実施形態に係る温度推定装置11は、例えば損失量マップを作成するために予めトルクおよび回転数を測定する必要はない。そのため、特段の準備(損失量マップの作成等)をすることなく、様々な用途の電動機1の制御システム20に適用可能である。つまり、本実施形態に係る温度推定装置11は汎用性が高い。
【0032】
本発明を諸図面や実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0033】
上記の実施形態において、基準温度は20℃であったが、他の温度を基準温度にしてもよい。このとき、基準温度における演算トルクをT
ref、基準温度をt
0として、温度推定装置11は、以下の式(4)によって電動機1のロータの温度τを演算(推定)できる。