(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793039
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ターボ機関の構成部品を液滴侵食から保護する方法、構成部品及びターボ機関
(51)【国際特許分類】
F01D 5/28 20060101AFI20201119BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20201119BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20201119BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20201119BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20201119BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
F01D5/28
F01D9/02 101
C23C14/06 A
C23C14/06 P
C23C14/24 F
C23C16/34
C23C16/30
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-560588(P2016-560588)
(86)(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公表番号】特表2017-521587(P2017-521587A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】EP2015057336
(87)【国際公開番号】WO2015155119
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2018年3月16日
(31)【優先権主張番号】CO2014A000010
(32)【優先日】2014年4月9日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513243790
【氏名又は名称】ヌオーヴォ ピニォーネ ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】NUOVO PIGNONE S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人サカモト・アンド・パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】ジャンノッジ,マッシーモ
(72)【発明者】
【氏名】ベラッチ,ミケランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】イオゼッリ,フェデリーコ
(72)【発明者】
【氏名】マージ,ガブリエーレ
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−255357(JP,A)
【文献】
特表2010−505726(JP,A)
【文献】
特表2014−530958(JP,A)
【文献】
特開2010−235983(JP,A)
【文献】
特開平02−175859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
F01D 5/28
F01D 9/02
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ機関の構成部品を液滴侵食から保護する方法であって、
前記ターボ機関によって処理される液相を含む流体の流れに曝される構成部品の表面の少なくとも一部の領域(S)を保護層で覆うことを含み、前記保護層は、交互に位置する2つの材料の複数の隣接した副層(L1、L2、L3、L4)を備え、
前記材料は、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam1/2未満の低い破壊靱性とを有し、
前記2つの材料のうちの第1の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物であり、前記2つの材料のうちの第2 の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの非化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物である方法。
【請求項2】
前記材料は窒化チタン(TiN)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記覆うことはCVD技術によって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記覆うことはPVD技術、特に陰極アークPVDによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記陰極アークPVDの「ターゲット」(T1、T2、T3、T4、T5、T6)は、覆われる前記構成部品の表面の少なくとも一部の領域の部分を少なくとも前記ターゲットが直接的に又は間接的に見るように配置される、及び/又は形作られる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
遠心圧縮機によって圧縮される液相を含む流体の流れに曝される表面を有する、前記遠心圧縮機の構成部品(60、70)であって、
前記表面の少なくとも一部の領域(S)は保護層で覆われ、前記保護層は、交互に位置する2つの材料の複数の隣接する副層(L1、L2、L3、L4)を備え、前記材料は、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam1/2未満の低い破壊靱性とを有する構成部品。
【請求項7】
流体の流れに曝される前記表面が前記保護層によって全体的に覆われているダイアフラム(70)である、請求項6に記載の構成部品。
【請求項8】
流体の流れに曝される前記表面が前記保護層によって全体的に覆われている開いたインペラである、請求項6に記載の構成部品。
【請求項9】
流体の流れに曝される前記表面が前記保護層によって流路の入口区域及び/又は流路の出口区域のみにおいて覆われている閉じたインペラ(60)である、請求項6に記載の構成部品。
【請求項10】
流体の流れに曝される前記表面が前記保護層によって全体的に覆われている入口ガイドベーンである、請求項6に記載の構成部品。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの構成部品を備える遠心圧縮機。
【請求項12】
請求項6乃至10のいずれか1項に記載の構成部品の組み合わせを備える、請求項11に記載の遠心圧縮機。
【請求項13】
前記構成部品又は各構成部品のバルク材料(S)はマルテンサイト系ステンレス鋼又はニッケルベースの合金又はコバルトベースの合金である、請求項11又は12に記載の遠心圧縮機。
【請求項14】
第1の段階又は複数の段階の少なくともブレードが保護層を有する軸流式圧縮機であって、
前記保護層は、交互に位置する2つの材料の複数の隣接した副層(L1、L2、L3、L4)を備え、
前記材料は、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam1/2未満の低い破壊靱性とを有し、
前記2つの材料のうちの第1の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物であり、前記2つの材料のうちの第2の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの非化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物である軸流式圧縮機。
【請求項15】
第1の段階又は複数の段階の少なくともブレードが保護層を有するスチームタービンであって、
前記保護層は、交互に位置する2つの材料の複数の隣接した副層(L1、L2、L3、L4)を備え、
前記材料は、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam1/2未満の低い破壊靱性とを有し、
前記2つの材料のうちの第1の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物であり、前記2つの材料のうちの第2の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの非化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物であるスチームタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された要旨の実施形態は、ターボ機関の構成部品を液滴侵食から保護する方法と、そのような方法によって保護されたターボ機関の構成部品と、そのような構成部品を備えるターボ機関とに関する。
【背景技術】
【0002】
オイル及びガス用途用のターボ機関の分野において、2つのタイプの侵食、すなわち、SPEと略される固体粒子侵食、及びLDEと略される液滴侵食が、ターボ機関によって処理される作動流体の流れに接触する部分に影響を与える。これら2つのタイプの侵食は、そのような部分の表面に当たる構成要素のちょう度が異なるために、かなり異なっている。そのような部分とは、表面を侵食するとともに衝突後に跳ね返る硬質物体と、表面に打ち付けるとともに衝突後により小さい軟らかい物体に砕かれる軟質物体である。
【0003】
侵食から保護される部分は、全体として耐侵食性の単一の材料から作られることがあり、より頻繁には、耐侵食性材料で作られた保護層で覆われた部分の機能に特に適するような材料で作られた物体から構成されることがある。
【0004】
典型的には、固体粒子侵食から保護するために、靱性のある材料を使用し、一方で液滴侵食から保護するために、硬質材料を使用する。
【0005】
かなり硬い材料は、典型的には打ち付けに十分耐えるほど靱性がないことから、液滴が当たる場合には良い結果を与えない。
【0006】
オイル及びガス用途用のターボ機関の分野において要求される性能が増加しているために、侵食の問題の解決を含む改善された解決策が常に必要とされている。本発明は液滴侵食を扱う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2312018号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、固体粒子侵食は均一に、すなわち、
図1に示されるように侵食速度がほぼ一定に進むと理解している。
【0009】
本発明者らは、液滴侵食は均一には進まないと理解している。
図2に示されているように、基本的には材料損失がない、いわゆる「潜伏期間」である最初の期間P1があり、材料損失がかなり急速に且つ直線的を超えるように増える中間の期間P2があり、侵食速度がほぼ一定である最終の期間P3がある。保護層を使用する場合、保護層の幅に依存して通常は期間P1及び期間P2の一部の合計に相当する時間の後に保護層が完全に取り除かれる。
図3を参照のこと。
【0010】
本発明者らは、基材にしっかりと接続された硬質材料の厚く(例えば、数十ミクロン)小型の保護層を認識することが非常に難しいと理解している。通常は、そのような層の厚さは、数ミクロンにしか達しないことがあり、そのため、その侵食の保護の影響は比較的短い。
【0011】
本発明者らは、高い硬度及び低い破壊靱性を有する異なる材料の複数の副層から構成された保護層を使用することによって驚くべきことに、最初の「潜伏期間」はあるが、その後の侵食が非常にゆっくり且つほぼ直線的に進むことを発見した。
図4を参照のこと。その現象の簡単な説明によれば、様々な副層がゆっくりと次々に侵食される。
【0012】
さらに、各副層は、小型で下の副層にしっかりと接続されている。このため、厚い保護層で物体を覆うことができる。そのような層の厚さは70ミクロンに達し、このため、その保護効果は比較的長い。
【0013】
微細な粒子、中程度の粒子、及び大きな粒子による侵食から保護するために高い硬度及び低い靱性を有する異なる材料の複数の副層から構成された保護層を、いくつかのコーティング供給者が最近、市販し始めていることは言及に値する。
【0014】
とにかく、上述した理由でそのような層が液滴侵食に関する良好な結果をもたらしたであろうことを当業者は期待できていない。
【0015】
本発明者らは、高い硬度及び低い破壊靱性を有する異なる材料の複数の副層から構成された保護層をターボ機関、特に遠心圧縮機や、特に(ただしこれのみではない)それらの閉じた遠心インペラに使用することを考えた。
【0016】
そのような層を塗布(してその層の精密な各副層に)するのに使用される好ましい技術は、PVDと略される物理気相堆積、より具体的には、陰極アークPVDであり、又は、CVDと略される化学気相堆積である。
【0017】
閉じた遠心インペラに関して、液滴侵食によって最も影響を受ける流路表面の領域が入口区域及び出口区域であることに留意されたい。すなわち、PVDは視野方向プロセスであるが、幸いにも、これらの区域について、「ターゲット」が直接的又は間接的に(すなわち、インペラの連続的な回転を通して)見え、且つ覆われ得るように、「ターゲット」を配置し形作ることができる。
【0018】
第1の例示的な実施形態は、液滴侵食からターボ機関の構成部品を保護する方法に関し、この方法は、ターボ機関によって処理される液相を含む流体の流れに曝される構成部品の表面の少なくとも一部の領域を保護層で覆うことを含み、保護層は、異なる材料の複数の隣接した副層を備え、それらの材料は、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam
1/2未満の低い破壊靱性とを有している。
【0019】
それらの材料は2つであり、交互に配置されている。
【0020】
それらの2つの材料のうちの第1の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物である。
【0021】
それらの2つの材料のうちの第2の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの非化学量論的窒化物、炭化物又はホウ化物である。第2の例示的な実施形態は、遠心圧縮機によって圧縮される液相を含む流体の流れに曝される表面を有した遠心圧縮機の構成部品に関し、その表面の少なくとも一部の領域が保護層で覆われ、保護層は、交互に位置する2つの材料の複数の隣接する副層を備え、それらの材料は、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam
1/2未満の低い破壊靱性とを有している。
【0022】
第3の例示的な実施形態は、上述したような少なくとも1つの構成部品を備えるターボ機関に関し、上述した方法が適用されている。
【0023】
本発明は、添付の図面と共に検討される例示的な実施形態についての以下の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】バルク材料に関して、固体粒子侵食による材料損失の時間に対するプロットを示す図である。
【
図2】バルク材料に関して、液滴侵食による材料損失の時間に対するプロットを示す図である。
【
図3】単一の材料の層に関して、液滴侵食による材料損失の時間に対するプロットを示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による複数の副層で作られた層に関して、液滴侵食による材料損失の時間に対するプロットを示す図である。
【
図5】ターボ機関の構成部品の表面を覆う本発明による層の実施形態の模式的な断面図である。
【
図6】本発明による閉じた遠心インペラの実施形態の模式的な断面図である。
【
図7】本発明によるダイアフラムの模式的な断面図である(遠心インペラも示されている)。
【
図8】本発明による閉じた遠心インペラの実施形態を作製するための第1の可能な陰極アークPVD工程を模式的に示す図である。
【
図9】本発明による閉じた遠心インペラの実施形態を作製するための第2の可能な陰極アークPVD工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
例示的な実施形態の後続する詳細な説明は、添付の図面に言及する。異なる図面における同じ参照番号は、同一又は同様の構成要素と同一視する。後続する詳細な説明は本発明を限定しない。その代わり、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0026】
本明細書を通しての言及「1つの実施形態」又は「ある実施形態」は、ある実施形態に関連して記述される特定の特徴、構造、又は特性が、開示された主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な個所で現れるフレーズ「1つの実施形態」又は「ある実施形態」は、必ずしも同じ実施形態に言及しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において適当な方法で組み合わされてもよい。
【0027】
図5は、ターボ機関の構成部品の表面を覆う本発明による層の実施形態の模式的な断面を示している。この図において、符号Sは基材、すなわち、構成部品の本体に相当し、実質的に同じ幅を有し保護層を構成する4つの重ねられた副層L1、L2、L3、L4がある。
【0028】
副層L1、L2、L3、L4は異なる材料からなり、それらの材料の全ては、1000〜3000HVの範囲の高い硬度と、20MPam
1/2未満の低い破壊靱性とを有している。
【0029】
副層の材料は、1つ以上の基材の窒化物、炭化物、及びホウ化物(好ましくは、窒化物及び炭化物)からなる群から選択され、これらの基材は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、及びバナジウム(好ましくは、チタン、クロム、タングステン、及びアルミニウム)からなる群から選択される。
【0030】
典型的には、保護層は、交互に位置する2つの材料の複数の隣接する副層を備えており、2つの材料のうちの第1の材料及び2つの材料のうちの第2の材料は、チタン、ジルコニウム、クロム、タングステン、アルミニウム、又はバナジウムの窒化物、炭化物、又はホウ化物であり、そのような材料の例は、TiN及びTiAlNである。
図5を参照すると、例えば、副層L1及びL3が第1の材料で作られ、副層L2及びL4が第2の材料で作られている。
【0031】
図5の実施形態では、副層L1及びL3が化学量論的組成物の化合物(特にTiN)から作られ、副層L2及びL4が非化学量論的組成物の同じ化合物(特にTiN)から作られており、これらの2つの材料は、わずかに異なる高い硬度と、わずかに異なる低い靱性とを有している。これらの副層は、非化学量論的組成物による低い靱性と、化学量論的組成物による高い硬度とを有する保護を生じる。
【0032】
そのような副層の幅は、異なっていても、実質的に等しくてもよく、0.1ミクロンから5.0ミクロンの範囲、好ましくは0.3ミクロンから3.0ミクロンの範囲であり、異なっている場合には、一方が例えば0.5ミクロンで他方が例えば2.0又は2.5ミクロンである。
【0033】
副層の合計の数は、最小の2から最大の30まで変わることがあり、より典型的な値は5〜10の範囲である。
【0034】
保護層の合計の幅は、最小の10ミクロンから最大の70ミクロンまで変わることがあり、より典型的な値は15〜30ミクロンの範囲である。
【0035】
本発明による構成部品を覆うことを実現するための非常に効果的な第1の方法は、CVDと略される「化学気相堆積」として知られる技術によるものである。
【0036】
本発明による構成部品を覆うことを実現するための非常に効果的な第2の方法は、PVDと略される「物理気相堆積」、より具体的には陰極アークPVDとして知られる技術によるものである。
【0037】
知られているように、陰極アークPVD技術は、覆われる部分の上の堆積を実現するために「ターゲット」を使用し、典型的には、その「ターゲット」は、堆積によって覆われる部分の領域を少なくともそのターゲットが直接見るように、配置される、及び/又は形作られる。
【0038】
本発明によれば、ターゲットの位置及び形をたとえ適切に検討したとしても、覆われる構成部品の表面の領域のいくらかに到達が難しいことがあるので、PVD処理中の構成部品の回転は、到達が困難な領域に有利に使用することができ(これは、以下においてより明らかになるであろう)、この意味で、堆積によって覆われる部分の領域を少なくともそのターゲットが間接的に見るように、その「ターゲット」が配置される、及び/又は形作られると言うことができる。
【0039】
第1の副層、すなわち、基材(
図5のS)に結合された副層(
図5のL1)は、基材への層の接着を最適化するために他の副層と全く異なるようにしなければならない。例えば、第1の副層は、ENPと略される無電解ニッケルめっき又は電解めっきによって作られる厚いニッケル「ストライク」でもよい。
【0040】
本発明による層は、ターボ機関の任意の部分、例えば、遠心圧縮機、軸流式圧縮機、及びスチームタービンの、液滴の衝突に曝される選択された部分に塗布することができ、圧縮機の場合では、液滴は最初の段階で起こりやすく、スチームタービンの場合では、液滴は最終の段階で起こりやすい。
【0041】
本発明による保護層が最も役立つ用途の1つは、遠心圧縮機である。
【0042】
遠心圧縮機では、それらの少なくともいくつか(液滴から構成され得る及び/又は液滴に戻り得る水を作動流体が含むもの)において、本発明による保護層で全体的に、又は、より頻繁には部分的に覆うことができる多くの構成部品がある。
【0043】
遠心圧縮機の構成部品は、インペラと、液相を含む流体の流れに曝されるとともに保護層によって覆われる表面とであってもよく、流路の全内表面に相当してもよい。閉じたインペラ(すなわち、単一の部品として実現されるもの)の場合、液相を含む流体の流れに曝されるとともに保護層によって覆われる表面は、流路の入口区域のみの表面及び/又は流路の出口区域のみの表面、より詳細には、ブレードの表面に相当する。
図6は、閉じた遠心インペラ60(単一の部品として実現されるもの)と、2つのその流路61及び62とを示しており、点63、64及び65は入口区域に属するとともに点66、67及び68は出口区域に属し、点63及び67はハブ上にあり、点64及び68はブレード上にあり、点65及び66は側板上にあり、点63は、
図5がこの点の拡大図であることを強調するために円として示されており、これらの点63、64、65、66、67及び68は、本発明によるLDE保護を有することが特に有利である例示的な点であり、この場合、基材S、すなわちインペラの本体は、例えばマルテンサイト系ステンレス鋼又はニッケルベースの合金又はコバルトベースの合金で作られてもよい。
【0044】
第1のインペラが通常、LDEによって最も影響を受ける圧縮機の構成部品であることに留意されたい。
【0045】
遠心圧縮機の構成部品はダイアフラムであってもよく、この場合、液相を含む流体の流れに曝されるとともに保護層によって覆われる表面は、戻り流路の全内表面に相当し得る。
図7は、
図6のインペラ60に連結されたダイアフラム70(例えばナット及びボルトによって互いに固定される複数の部品として実現されるもの)と、戻り流路71とを示し、点73、74、75及び76は、本発明によるLDE保護を有することが特に有利である例示的な点であり、点73は、戻り流路71の最初のU字形状の部分の最初の部分の外表面上にあり、点74は、戻り流路71の最初のU字形状の部分の中間の部分の外表面上にあり(この点は、いわゆる「カウンターケース」上に位置する)、点75及び76はそれぞれ、戻り流路71のブレード上の始めと終わりとにある。
【0046】
遠心圧縮機の構成部品は、IGVと略される入口ガイドベーン(すなわち、第1の圧縮段階の上流に位置する構成部品)であってもよく、この場合、液相を含む流体の流れに曝されるとともに保護層によって覆われる表面は、構成部品の全表面に相当し得る。この構成部品は、いずれの図にも示されていない。
【0047】
製造コストを低減するために、本発明に従って覆うことは構成部品のいくつかの部分(LDEによってより影響を受ける部分)上のみ、例えば、ダイアフラムの戻り流路のブレード、又は、IGVのベーン上で行えることに留意されたい。
【0048】
本発明による保護層が硬く壊れやすいことを覚えておくことが重要である。このため、例えば、そのような保護層を有する2つの部品が互いに接触し互いに固定されると、それらの保護層は圧縮されないことが有利であり得、この場合、接触する領域の少なくとも一方、好ましくは両方は、そのような保護層がない。
【0049】
図8は、本発明による閉じた遠心インペラ60の実施形態を製造するための第1の可能な陰極アークPVD工程、より具体的には覆う工程をかなり模式的に示している。
【0050】
図8では、閉じたインペラ60は水平に配置されている。
【0051】
開いたインペラの場合、開いた側が下を向くようにインペラを置くことが有利であり、一般的に、覆われる任意の表面がPVT又はCVD処理中に下を向いていることが有利である。
【0052】
多くの「ターゲット」の2つをT1及びT2と名付け、覆う工程の間、インペラ60をその対称軸の周りに回転させる。
【0053】
図8では、構成部品上に最終的に堆積する、構成部品に向かう材料の流れを矢印が示している。その材料は、インペラ60の流路内に流入し、流路の出口区域を覆う。流路の出口領域を覆うことを改善するために、インペラ60を、第1の回転方向(
図8A)に従って、次いで第2の回転方向(
図8B)に従って回転させる。この回転によって、ターゲットT1及びT2が直接には見ない流路の内表面の領域も覆うことができる。
【0054】
図9は、本発明による閉じた遠心インペラ60の実施形態を作製するための第2の可能な陰極アークPVD工程、より具体的には覆う工程をかなり模式的に示している。
【0055】
図9では、閉じたインペラ60が鉛直に配置され、このため、第2の閉じたインペラ90を配置することができ、覆う工程の間、閉じたインペラ60及び閉じたインペラ90を両方とも、それらの対称軸に垂直な軸の周りに回転させる。
【0056】
多くの「ターゲット」のうち6つを、T1、T2、T3、T4、T5及びT6と名付ける。
【0057】
図9では、両方の構成部品上に最終的に堆積する、構成部品に向かう材料の流れを矢印が示している。その材料は、インペラ60及び90の流路内に流入し、流路の入口区域を覆う。流路の入口領域を覆うことを改善するために、インペラ60及び90を、第1の回転方向(
図9A)に従って、次いで第2の回転方向(
図9B)に従って回転させる。この回転によって、ターゲットT1、T2、T3、T4、T5及びT6が直接には見ない流路の内表面の領域も覆うことができる。
【符号の説明】
【0058】
60 インペラ(構成部品)
61、62 流路
70 ダイアフラム(構成部品)
71 流路
90 インペラ
L1、L2、L3、L4 副層
S 基材
T1、T2、T3、T4、T5、T6 ターゲット