特許第6793068号(P6793068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793068
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20201119BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20201119BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20201119BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20201119BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20201119BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   B01J35/04 301A
   B01J35/02 G
   B01D53/94 100
   F01N3/24 LZAB
   F01N3/28 301P
   C04B38/00 303Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-50183(P2017-50183)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-153725(P2018-153725A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 尚哉
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133056(WO,A1)
【文献】 特開2016−196868(JP,A)
【文献】 特開平06−066132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/73,86−90,94−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側面を有する外周側壁と、外周側壁の内側に配設され、一方の底面から他方の底面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する複数の隔壁と、外周側壁の外周側面上に対向配置された一対の端子接続部とを有する柱状のハニカム構造体であって、
セルの流路の方向に垂直な断面において、該一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線と交差する外周側面上の二点間の長さをL1とし、前記外周側壁及び隔壁を通って該二点間を結ぶ最短の経路の長さをL2とすると、1.3≦L2/L1の関係式を満たし
セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に隣接するセル同士は、該直線の方向に対して垂直な方向に延びた直線状の隔壁部分によって区画されるハニカム構造体。
【請求項2】
セルの流路の方向に垂直な断面において、前記最短の経路を通る際に通過する前記直線状の隔壁部分の合計経路長さをL3とすると、0.5≦L3/L1の関係式を満たす請求項に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
セルの流路の方向に垂直な断面において、外周側壁に隣接するセルを除き、各セルは、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に延びた直線状の一対の隔壁部分Aと、該直線の方向に対して垂直な方向に延びた直線状の一対の隔壁部分Bとによって区画される請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に隣接するセル同士のそれぞれの前記一対の隔壁部分Aは、互いに異なる直線上に存在する請求項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に垂直な方向に隣接するセル同士のそれぞれの前記一対の隔壁部分Bは、同一の一対の直線上に存在する請求項又はに記載のハニカム構造体。
【請求項6】
セルの流路の方向に垂直な断面において、各セルの隔壁部分Aの長さは、外周側壁に隣接するセルを除いて等しく、各セルの隔壁部分Bの長さは、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線からの距離が長いセルほど短くなる請求項3〜5の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線を対称軸として、線対称なセル構造を有する請求項1〜の何れか一項に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。とりわけ、排ガス浄化用の触媒を担持し、触媒の活性温度まで早期に昇温させる用途に好適なハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンから排出される排ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害物質の浄化処理のため、一方の底面から他方の底面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する複数の隔壁を有する柱状のハニカム構造体に触媒を担持したものが使用されている。このように、ハニカム構造体に担持した触媒によって排ガスを処理する場合、触媒をその活性温度まで昇温する必要があるが、エンジン始動時には、触媒が活性温度に達していないため、排ガスが十分に浄化されないという問題があった。特に、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HV)は、その走行に、モーターのみによる走行を含むことから、エンジン始動頻度が少なく、エンジン始動時の触媒温度が低いため、エンジン始動直後の排ガス浄化性能が悪化し易い。
【0003】
この問題を解決するため、導電性セラミックスからなる柱状のハニカム構造体に一対の端子を接続し、通電によりハニカム構造体自体を発熱させることで、触媒をエンジン始動前に活性温度まで昇温できるようにした電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCにおいては、触媒効果を十分に得られるようにするために、ハニカム構造体内での温度ムラを少なくして均一な温度分布にすることが望まれている。
【0004】
特開2010−229976号公報(特許文献1)では、ハニカム構造体の均一な加熱を目的として、通電発熱用ハニカム体内に体積抵抗率が低い両端面側の電極部と、内側の体積抵抗率が高い発熱部とを設けることが提案されている。
【0005】
特開2012−188958号公報(特許文献2)では、触媒担体を均一に加熱するために、排気の流れ方向と直交する直交断面で見て、触媒担体を挟んで対向する位置に電極を設けることが提案されている。また、触媒担体には、電極中心線と直交する方向に区画することで複数の区画部を設け、これらの区画部では、触媒担体の部位ごとの通電による発熱量が均一に近づくようにそれぞれ異なる体積抵抗率とすることが提案されている。
【0006】
一方、ハニカム構造体のセルの断面形状は四角形や六角形が主流であり、隣接するセル同士は一辺を共有するようにして配列されるのが通常であるが、その他の断面形状も知られている。例えば、特開2002−177793号公報(特許文献3)には、セル断面形状が複雑となることにより、排ガスの流れが乱されやすくなり、浄化性能が向上するとして、正方形、正三角形、正六角形、長方形及び二等辺三角形等の多角形、正六角形内に他の形状を組み合わせた形状、L字形、凸形、十字形、S字形、鼓形等が提案されている。
【0007】
また、特開2006−224031号公報(特許文献4)には、セルの少なくとも1辺は、該1辺を介して少なくとも2つのセルと隣接することが提案されている。当該構成によれば、隔壁が格子状に交差している従来の排ガス浄化触媒用担体基材に比べ、互いに隣接する4つのセルの隔壁が交差する(十文字やすじかいに交わる)部位が減少することが記載されている。その結果、排ガス浄化触媒用担体基材が熱膨張することにより生じる応力の集中を緩和でき、担体基材の破損の発生が抑制されることも当該公報に記載されている。
【0008】
特開2016−196868号公報(特許文献5)には、円筒形状の外壁を備える本体と、前記本体の内側において区画され、前記本体の長手方向に沿って連続する多数のセルとを有し、前記各セルは、前記外壁と同心の一対の円弧壁と、前記外壁の径方向に沿う一対の直線壁とにより区画され、前記本体の長手方向に対して垂直に切断した断面において、前記円弧壁および前記直線壁のうちの少なくとも一方を経由する前記本体の中心と前記外壁との間の最短半径方向経路長さが前記本体の外形形状である円筒の半径である外殻半径寸法よりも大きいセラミックハニカム構造体が提案されている。当該公報には当該セラミックハニカム構造体について以下の効果が記載されている。本体の径方向に隣接する内側のセルと外側のセルとがずれて配置されるので、急激な温度上昇や降下があっても熱によって径方向に大きく膨張や収縮することがなく、圧縮力や引っ張り力に対して十分な強度を得ることができる。また、内側のセルと外側のセルがずれて配置されるので、円弧壁および直線壁を経由する本体の中心と外壁との間の最短半径方向経路長さが大きくなり、通電経路が長くなるので、通電加熱式触媒(EHC)に好適に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−229976号公報
【特許文献2】特開2012−188958号公報
【特許文献3】特開2002−177793号公報
【特許文献4】特開2006−224031号公報
【特許文献5】特開2016−196868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や2に記載の技術においては、均一加熱のため、ハニカム構造体を構成する材料の体積抵抗率を部位によって変化させることを主眼としている。しかしながら、材料を変化させるためには各部位は別々で作製し接合する必要があるため、接合部での破損などの構造信頼性が落ちるおそれがある。このため、体積抵抗率の異なる部位を接合するという手法とは異なる手法によりハニカム構造体の均一加熱性能を高められることができれば有利であろう。
【0011】
特許文献3〜5には、セルの形状や配列について種々の形態が提案されているものの、乱流化や構造強度の向上を主眼としており、均一加熱性の観点での考察が不十分である。また、特許文献3及び4に提案されている排ガス浄化触媒はEHCではない。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、従来とは別異の観点で均一加熱性能を向上させたハニカム構造体を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、柱状ハニカム構造体のセル形状及び配列を一対の端子の位置関係を考慮して構築することで均一発熱性が有意に高まることを見出した。
【0014】
本発明は上記知見に基づき完成したものであり、一側面において、
外周側面を有する外周側壁と、外周側壁の内側に配設され、一方の底面から他方の底面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する複数の隔壁と、外周側壁の外周側面上に対向配置された一対の端子接続部とを有する柱状のハニカム構造体であって、
セルの流路の方向に垂直な断面において、該一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線と交差する外周側面上の二点間の長さをL1とし、前記外周側壁及び隔壁を通って該二点間を結ぶ最短の経路の長さをL2とすると、1.3≦L2/L1の関係式を満たすハニカム構造体である。
【0015】
本発明に係るハニカム構造体の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に隣接するセル同士は、該直線の方向に対して垂直な方向に延びた直線状の隔壁部分によって区画される。
【0016】
本発明に係るハニカム構造体の別の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、前記最短の経路を通る際に通過する前記直線状の隔壁部分の合計経路長さをL3とすると、0.5≦L3/L1の関係式を満たす。
【0017】
本発明に係るハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、外周側壁に隣接するセルを除き、各セルは、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に延びた直線状の一対の隔壁部分Aと、該直線の方向に対して垂直な方向に延びた直線状の一対の隔壁部分Bとによって区画される。
【0018】
本発明に係るハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に隣接するセル同士のそれぞれの前記一対の隔壁部分Aは、互いに異なる直線上に存在する。
【0019】
本発明に係るハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線の方向に垂直な方向に隣接するセル同士のそれぞれの前記一対の隔壁部分Bは、同一の一対の直線上に存在する。
【0020】
本発明に係るハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、各セルの隔壁部分Aの長さは、外周側壁に隣接するセルを除いて等しく、各セルの隔壁部分Bの長さは、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線からの距離が長いセルほど短くなる。
【0021】
本発明に係るハニカム構造体の更に別の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、前記一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線を対称軸として、線対称なセル構造を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、体積抵抗率の異なる部位を接合するという手法を採用しなくても、一対の端子の位置に応じて柱状ハニカム構造体のセル形状及び配列を工夫することにより有意に発熱均一性が改良されたハニカム構造体が得られる。本発明の一実施形態によれば、体積抵抗率の異なる部位を接合する場合に問題となり得る接合部の構造信頼性を犠牲にすることなく、ハニカム構造体の発熱均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1-1】本発明の一実施形態に係るハニカム構造体の側面模式図である。
図1-2】本発明の一実施形態に係るハニカム構造体の底面模式図である。
図1-3】本発明の一実施形態に係るハニカム構造体のセルの断面構造の部分的な模式図である。
図2】隔壁部分Aの長さLA及び隔壁部分Bの長さLBの定義を説明する図である。
図3】本発明の他の実施形態に係るハニカム構造体のセルの断面構造例を示す。
図4-1】比較例1に係るセル断面の部分構造を示す。
図4-2】実施例1に係るセル断面の部分構造を示す。
図4-3】実施例2に係るセル断面の部分構造を示す。
図5】実施例及び比較例におけるハニカム構造体の底面模式図(上図)及びX−X’線断面模式図(下図)である。一対の端子接続部の配置及び温度測定ポイント(A点〜D点)が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0025】
<1.ハニカム構造体>
図1−1には、本発明の一実施形態に係るハニカム構造体100の側面模式図が示されている。図1−2には、本発明の一実施形態に係るハニカム構造体100の底面模式図が示されている。図1−3には、本発明の一実施形態に係るハニカム構造体100のセルの断面構造の部分的な模式図が示されている。図1−1〜図1−3は説明用の模式図に過ぎず、寸法及び縮尺等において正確性を欠くことに留意されたい。ハニカム構造体100の全体形状は柱状であり、外周側面102を有する外周側壁114と、外周側壁114の内側に配設され、第一底面104から第二底面106まで貫通して流路を形成する複数のセル108を区画形成する複数の隔壁110と、外周側壁114に配設された一対の端子接続部112a、112bとを備える。
【0026】
ハニカム構造体100は、導電性を有する材料で構成されている。端子接続部112a、112bに端子を接続して、端子接続部112a、112b間に電圧を印加すると通電してジュール熱により発熱することが可能である。よって、ハニカム構造体100はヒーターとして好適に用いることができる。印加する電圧は12〜900Vが好ましく、64〜600Vが更に好ましいが、印加する電圧は適宜変更可能である。また、ハニカム構造体100に触媒を担持することにより、ハニカム構造体100を触媒体として使用することも可能である。複数のセル108の流路には、例えば、自動車排ガス等の流体を流すことができる。
【0027】
端子接続部112a、112bは端子を接続可能である限りその形態に特に制限はないが、本実施形態においては端子を挿入して固定しやすいように、端子接続部112a、112bはそれぞれ外周側面102に穿設されている。端子接続部112a、112bは、めねじ形状とすることも可能である。なお、図1−2の底面模式図では一対の端子接続部112a、112bは隠れて見えないため、その位置を点線で表している。
【0028】
図1−2を参照すると、一対の端子接続部112a、112bは、ハニカム構造体100を底面視したとき、ハニカム構造体100の中心軸Oを挟んで対向するように配設されているのが均一加熱の観点で好ましい。具体的には、ハニカム構造体100を底面視したとき、一対の端子接続部112a、112bのそれぞれの周方向中心からハニカム構造体100の中心軸Oまで延ばした二つの線分のなす角度θ(0°≦θ≦180°)は、150°≦θ≦180°であることが好ましく、160°≦θ≦180°であることがより好ましく、170°≦θ≦180°であることが更により好ましく、180°であることが最も好ましい。
【0029】
端子接続部112a、112b間に電圧を印加すると、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mの近辺の昇温速度が速く、直線Mから垂直方向に離れて行くにつれて昇温速度が遅くなる傾向にある。電気は最も抵抗の低い経路を優先的に流れるからである。そこで、本実施形態においては、一対の端子接続部112a、112bの間の電気の最短経路を長くすることで直線M付近の電気抵抗を高めている。これにより、直線M付近の電流を減らし、直線Mから離れた場所の電流を増やすことができるので、ハニカム構造体の均一加熱性を高めることができる。
【0030】
具体的には、セル108の流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mと交差する外周側面102上の二点間の長さをL1とし、外周側壁114及び隔壁110を通って該二点間を結ぶ最短の経路の長さをL2とすると、本実施形態に係るハニカム構造体100は1.3≦L2/L1の関係式を満たす(図1−3参照)。図1−3においては、ジグザグに進む太い実線が最短経路を表す。なお、図1−3においては、最短経路は直線Mに対して線対称に2ルート存在する。
【0031】
均一加熱性を高める上では、1.3≦L2/L1であることが好ましく、1.8≦L2/L1であることがより好ましく、2.3≦L2/L1であることが更により好ましい。但し、L2/L1を大きくし過ぎるとハニカム構造体の直線Mの方向に加わる応力に対する強度が低下しやすい。そこで、強度確保の観点からは、L2/L1≦3.8であることが好ましく、L2/L1≦3.3であることがより好ましく、L2/L1≦2.8であることが更により好ましい。
【0032】
外周側壁114及び隔壁110を通る最短経路を長くするという観点からは、セルの流路の方向に垂直な断面において、直線Mに対して垂直な方向に延びた導電経路を有することが好ましい。そこで、本発明に係るハニカム構造体の一実施形態においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線Mの方向に隣接するセル108同士は、該直線Mの方向に対して垂直な方向に延びた直線状の隔壁部分Bによって区画される(図1−3参照)。
【0033】
更に、前記最短の経路を長くするという観点からは、セルの流路の方向に垂直な断面において、前記最短の経路を通る際に通過する前記直線状の隔壁部分Bの合計経路長さをL3とすると、0.5≦L3/L1であることが好ましく、0.8≦L3/L1であることが好ましく、1.0≦L3/L1であることがより好ましく、1.5≦L3/L1であることがより好ましく、2.0≦L3/L1であることが更により好ましい。但し、L3/L1を大きくし過ぎるとハニカム構造体の直線Mの方向に加わる応力に対する強度が低下しやすい。そこで、強度確保の観点からは、L3/L1≦2.6であることが好ましく、L3/L1≦2.4であることがより好ましく、L3/L1≦2.2であることが更により好ましい。図1−3においては、L2から、外周側壁114を通る経路長さと、後述する隔壁部分Aを通る経路長さを控除した長さがL3に等しい。
【0034】
セルの流路方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、四角形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造体に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。構造強度及び加熱均一性を両立させやすいという観点からは、長方形が特に好ましい。
【0035】
均一加熱性を高める上では、端子接続部の位置を考慮してセルの配列方向やセル形状を定めることが重要である。具体的には、図1−3を参照すると、セルの流路の方向に垂直な断面において、外周側壁に隣接するセルを除き、各セル108は、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mの方向に延びた直線状の一対の隔壁部分Aと、該直線Mの方向に対して垂直な方向に延びた直線状の一対の隔壁部分Bとによって区画されることが好ましい。なお、“外周側壁に隣接するセルを除き”としたのは、外周側壁に隣接するセルは少なくとも一部が外周側壁により区画されており、隔壁のみによって区画形成されていないからである。
【0036】
直線Mの近傍のセル、具体的には、直線Mが横切るセル又は直線Mに隣接するセルにおいて、隔壁部分Aの長さLAに対する隔壁部分Bの長さLBの比(LB/LA)は、直線Mの方向に対して垂直な方向に離れた部位の加熱を促進するという観点から、1.5≦LB/LAであることが好ましく、2.0≦LB/LAであることが好ましく、2.5≦LB/LAであることが好ましい。但し、LB/LAを大きくし過ぎるとハニカム構造体の直線Mの方向に加わる応力に対する強度が低下しやすい。そこで、強度確保の観点からは、LB/LA≦4.0であることが好ましく、LB/LA≦3.5であることがより好ましく、LB/LA≦3.0であることが更により好ましい。本明細書において、LA及びLBは、図2に示すように、隔壁部分A及び隔壁部分Bのそれぞれの中央線CA、CBの交差点を端点として測定される。
【0037】
図1−3及び図2において、外周側壁114の厚みをT、隔壁110の厚みをdとし、セルの大きさがすべて同一であるとすると、最短経路L2は以下の(1)〜(4)の和で表される。
(1)直線Mと左側の外周側面の交点から、当該交点に最も近いセルの隔壁部分Aまでの最短経路=((T2+(LB/2)21/2
(2)最短経路における隔壁部分Aの直線M方向の合計長さ=(LA−d)×隔壁部分Aを最短経路が通過する数(詳細は図2参照)
(3)隔壁部分Bの合計経路長さL3=((LB/2−d/2)2+d21/2×隔壁部分Bを最短経路が通過する数(詳細は図2参照)
(4)直線Mと右側の外周側面の交点から、当該交点に最も近いセルの隔壁部分Aまでの最短経路=T
【0038】
また、セル108の流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mの方向に隣接するセル108同士のそれぞれの前記一対の隔壁部分Aは、互いに異なる直線上に存在することが好ましい。当該セル構成を有していることにより、電気は一対の端子接続部112a、112bの間を直線Mに沿って一直線に流れることができず、必ず直線Mに垂直な方向に流れる。つまり、一対の端子接続部112a、112bの間に電圧をかけると、セル108の流路の方向に垂直な断面において、電気は隔壁110をジグザグに流れる。これにより、直線Mに垂直な方向の加熱が促進され、ハニカム構造体の均一加熱性が高まる。
【0039】
また、セル108の流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mの方向に垂直な方向に隣接するセル108同士のそれぞれの一対の隔壁部分Bは、同一の一対の直線上に存在することが好ましい。当該セル構成を有していることにより、電気は直線Mに垂直な方向に流れやすくなるので、直線Mから垂直方向に離れた部位の加熱が促進され、ハニカム構造体の均一加熱性が高まる。
【0040】
先述したように、直線Mから垂直方向に離れた部位は加熱されにくいが、直線Mから垂直方向に離れた部位のセル密度を高めると、当該部位の電流経路が多くなるので、加熱されやすくなる。そこで、本発明に係るハニカム構造体の一実施形態においては、セル108の流路の方向に垂直な断面において、各セル108の隔壁部分Aの長さLAは、外周側壁114に隣接するセルを除いて等しく、各セル108の隔壁部分Bの長さLBは、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mからの距離が長いセル108ほど短くなる。
【0041】
具体的には、直線Mに垂直な方向に隣接するセル同士のLBは、直線Mから一セル分だけ離れる毎に、LBが1%以上減少することが好ましく、3%以上減少することがより好ましく、5%以上減少することが更に好ましい。但し、減少割合が大きくなりすぎると、直線Mから垂直方向に離れたところにあるセルのセル密度が高くなりすぎて強度が高くなってしまい、加熱時に変形しにくく割れが発生しやすくなる。このため、直線Mに垂直な方向に隣接するセル同士のLBの直線Mから一セル分だけ離れる毎のLBの減少割合は10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることが更により好ましい。
【0042】
均一加熱性を高める観点からは、ハニカム構造体100は、セル108の流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mを対称軸として、線対称なセル構造を有することが好ましい。ハニカム構造体100のセル構造が直線Mを対称軸として線対称であることによって、直線Mから垂直な両方向(図1−2における紙面の上下方向)に均等に電気が流れやすくなるからである。
【0043】
図3の(a)及び(b)には、本発明の他の実施形態に係るハニカム構造体をセルの流路の方向に垂直な断面から見たときの、部分的なセル構造が示されている。
【0044】
図3の(a)に示す実施形態では、各セル108は、隔壁部分A及び隔壁部分Bによって形成される断面視正方形の骨格を有する。また、図3の(a)に示す実施形態では、各セル108は、隔壁部分A及び隔壁部分Bのそれぞれの中点から、直線Mの方向に平行な方向にセル108の内側に向かって延びた一対のフィン116aと、直線Mの方向に垂直な方向にセル108の内側に向かって延びた一対のフィン116bを備える。一対のフィン116aと、一対のフィン116bはそれぞれ所定の間隔を置いて向かい合っており、接触していない。
【0045】
図3の(a)に示す実施形態においても、セル108の流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mの方向に隣接するセル108同士のそれぞれの前記一対の隔壁部分Aは、互いに異なる直線上に存在する。このため、一対の端子接続部112a、112bの間に電圧をかけると、セル108の流路の方向に垂直な断面において、電気は隔壁110をジグザグに流れる。これにより、直線Mに垂直な方向の加熱が促進され、ハニカム構造体の均一加熱性が高まる。
【0046】
図3の(b)に示す実施形態では、各セル108は、隔壁部分A及び隔壁部分Bによって形成される断面視長方形の骨格を有する。また、図3の(b)に示す実施形態では、隔壁部分A及び隔壁部分Bの長さが逆転した二種類のセルが直線Mの方向に平行な方向及び垂直な方向にそれぞれ交互に配列されている。このため、一対の端子接続部112a、112bの間に電圧をかけると、セル108の流路の方向に垂直な断面において、電気は隔壁110をジグザグに流れる。これにより、直線Mに垂直な方向の加熱が促進され、ハニカム構造体の均一加熱性が高まる。
【0047】
セル108を区画形成する隔壁110の厚みdは、0.1〜0.3mmであることが好ましく、0.15〜0.25mmであることがより好ましい。隔壁110の厚みdが0.1mm以上であることで、ハニカム構造体の強度が低下するのを抑制可能である。隔壁110の厚みdが0.3mm以下であることで、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなるのを抑制できる。本発明において、隔壁110の厚みdは、セル108の流路の方向に垂直な断面において、隣接するセル108の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁110を通過する部分の長さとして定義される。
【0048】
ハニカム構造体100の均一加熱性を高めるという観点では、隔壁110の厚みを部位によって変化させるという手法を追加的に採用してもよい。例えば、ハニカム構造体100を底面視したときの一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線M付近の隔壁110の厚みを小さくすることで電気抵抗を高めることが考えられる。しかしながら、隔壁110の厚みを部位によって変化させるという手法は、ハニカム構造体内で強度分布が生じることになる。そのため、本発明に係るハニカム構造体の一実施形態においては、ハニカム構造体100が有する隔壁110はすべて隔壁110の平均厚みに対して±10%以内の厚みを有し、好ましくは±5%以内の厚みを有する。
【0049】
ハニカム構造体100は、セル108の流路方向に垂直な断面において、セル密度が40〜150セル/cm2であることが好ましく、70〜100セル/cm2であることが更に好ましい。セル密度をこのような範囲にすることにより、排ガスを流したときの圧力損失を小さくした状態で、触媒の浄化性能を高くすることができる。セル密度が40セル/cm2より低いと、触媒担持面積が少なくなることがある。セル密度が150セル/cm2より高いと、ハニカム構造体100を触媒担体として用いて、触媒を担持した場合に、排ガスを流したときの圧力損失が大きくなることがある。
【0050】
ハニカム構造体100の外周側壁114を設けることは、ハニカム構造体100の構造強度を確保し、また、セル108を流れる流体が外周側面102から漏洩するのを防止する観点で有用である。具体的には、外周側壁114の厚みTは好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.15mm以上、更により好ましくは0.2mm以上である。但し、外周側壁114を厚くしすぎると高強度になりすぎてしまい、隔壁110との強度バランスが崩れて耐熱衝撃性が低下することから、外周側壁114の厚みTは好ましくは1.0mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下であり、更により好ましくは0.5mm以下である。ここで、外周側壁114の厚みTは、厚みを測定しようとする外周側壁114の箇所をセルの流路方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周側面102の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。図1−2に外周側壁114の厚みTの測定箇所を例示的に示す。
【0051】
ハニカム構造体100は導電性を有する限り特に材質に制限はなく、金属やセラミックス等を使用可能である。特に、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造体100の材質は、珪素−炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするものであることが好ましく、珪素−炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが更に好ましい。ハニカム構造体100の材質が、珪素−炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造体100が、珪素−炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素−炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。ハニカム構造体100の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、ハニカム構造体100が、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0052】
ハニカム構造体100の材質が、珪素−炭化珪素複合材である場合、ハニカム構造体100に含有される「骨材としての炭化珪素粒子の質量」と、ハニカム構造体100に含有される「結合材としての珪素の質量」との合計に対する、ハニカム構造体100に含有される「結合材としての珪素の質量」の比率が、10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることが更に好ましい。10質量%より低いと、ハニカム構造体の強度が低下することがある。40質量%より高いと、焼成時に形状を保持できないことがある。
【0053】
ハニカム構造体100は、ジュール熱により発熱するものであり、その電気抵抗率については特に制限はないが、例えば、ハニカム構造体100の電気抵抗率は、1〜200Ωcmであることが好ましく、10〜100Ωcmであることが更に好ましい。また、ハニカム構造体100を使用する用途に合わせて、ハニカム構造体100の電気抵抗率を選択することもできる。本発明において、ハニカム構造体100の電気抵抗率は、四端子法により400℃で測定した値とする。
【0054】
ハニカム構造体100の均一加熱性を高めるという観点では、ハニカム構造体100の材質を部位によって変化させるという手法を追加的に採用してもよい。例えば、ハニカム構造体100を底面視したときの一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線M付近の隔壁110を構成する材料の電気抵抗率を高めることが考えられる。しかしながら、ハニカム構造体100の材質を部位によって変化させるという手法は、先述した通り、複数の部品を接合する必要があることから、ハニカム構造体100の構造強度を低下させるおそれがある。そのため、本発明に係るハニカム構造体100は一実施形態において、すべての隔壁を同一材料で構成することができる。本発明に係るハニカム構造体100は別の一実施形態において、すべての隔壁110及び外周側壁114を同一材料で構成することができる。本発明に係るハニカム構造体100は更に別の一実施形態において、すべての構成要素を同一材料で構成することができる。この場合、ハニカム構造体100は何れの部位においても材料組成が実質同一であり、一体成形可能である。
【0055】
隔壁110は多孔質とすることができる。隔壁110の気孔率は、35〜60%であることが好ましく、35〜45%であることが更に好ましい。気孔率が、35%未満であると、焼成時の変形が大きくなってしまうことがある。気孔率が60%を超えるとハニカム構造体の強度が低下することがある。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0056】
ハニカム構造体100の隔壁110の平均細孔径は、2〜15μmであることが好ましく、4〜8μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μmより小さいと、電気抵抗率が大きくなりすぎることがある。平均細孔径が15μmより大きいと、電気抵抗率が小さくなりすぎることがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0057】
ハニカム構造体100の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体100の大きさは、耐熱性(外周方向外壁部に入るクラック)の理由により、底面の面積が2000〜20000mm2であることが好ましく、5000〜15000mm2であることが更に好ましい。
【0058】
<2.ハニカム構造体の製造方法>
次に、本発明のハニカム構造体を製造する方法について例示的に説明するが、本発明のハニカム構造体の製造方法については、以下に説明する製造方法に限定されることはない。本発明のハニカム構造体の製造方法は一実施形態において、ハニカム成形体を得る工程と、ハニカム成形体を焼成する工程とを含む。
【0059】
ハニカム成形体の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム成形体の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10〜40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3〜50μmが好ましく、3〜40μmが更に好ましい。金属珪素(金属珪素粉末)の平均粒子径は、2〜35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素(金属珪素粒子)の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。尚、これは、ハニカム構造体の材質を、珪素−炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造体の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0060】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0〜10.0質量部であることが好ましい。
【0061】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20〜60質量部であることが好ましい。
【0062】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1〜2.0質量部であることが好ましい。
【0063】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5〜10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10〜30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。30μmより大きいと、成形時に口金に詰まることがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0064】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形して、隔壁及び外周側壁を備えたハニカム成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム成形体について、乾燥を行うことが好ましい。以下、乾燥後のハニカム成形体を「ハニカム乾燥体」と称することがある。ハニカム成形体(又は、ハニカム乾燥体)の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム成形体の両底部を切断して所望の長さとすることができる。
【0065】
次いで、上記のようにして得られたハニカム成形体の外周側面に一対の端子接続部を穿孔機等によって形成することができる。一対の端子接続部は、焼成後に形成してもよいが、廃棄材の増加や研磨治具の摩耗が懸念されるため、焼成前に形成することが好ましい。
【0066】
次いで、ハニカム成形体を焼成して、ハニカム焼成体を得る。焼成を行う前に、ハニカム成形体を乾燥してもよい。また、焼成の前に、充填材用原料中のバインダ等を除去するため、脱脂を行ってもよい。焼成条件としては、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400〜1500℃で、1〜20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200〜1350℃で、1〜10時間、酸化処理を行うことが好ましい。脱脂及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0068】
<比較例1>
(1.円柱状の坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミック原料を調製した。そして、セラミック原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素、金属珪素及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0069】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
得られた円柱状の坏土を図4−1に示す碁盤目状の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの流路方向に垂直な断面における各セル形状が正方形である円柱状ハニカム成形体を得た。このハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、両底面を所定量切断して、ハニカム乾燥体を作製した。
【0070】
(3.端子接続部の形成)
次に、図5に示すように、底面視におけるハニカム乾燥体の中心軸Oを挟んで対向する外周側面102の高さ方向中央部に円筒状の一対の端子接続部112a、112bを穿孔機によって穿設した。なお、図5の底面模式図では一対の端子接続部112a、112bは内側に隠れて見えないため点線で表している。また、図5においては、簡単のため、ハニカム構造体のセル構造の記載は省略している。
【0071】
(4.焼成)
次に、ハニカム乾燥体を、脱脂し、焼成し、更に酸化処理してハニカム構造体を得た。脱脂の条件は、酸化雰囲気下、550℃、3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下、1450℃、2時間とした。酸化処理の条件は、酸化雰囲気下、1300℃、1時間とした。
【0072】
得られたハニカム構造体の各種寸法は、ハニカム乾燥体とほぼ同じであった。ハニカム構造体は、底面が直径120mmの円形であり、高さ(セルの流路方向における長さ)が10mmであった。セル密度は62セル/cm2であり、隔壁の厚みはすべて0.127mmであり、隔壁の気孔率は45%であり、隔壁の平均細孔径は8.6μmであった。外周側壁の厚みは何れの測定箇所においても0.35mmであった。
【0073】
(5.加熱時の温度分布測定)
得られたハニカム構造体について、一対の端子接続部112a、112bにそれぞれ端子を接続し、両端子に電圧を印加して電気エネルギー(400W)を20秒間投入したときの、ハニカム構造体の部位毎の温度のばらつきを調査した。温度の測定点は、図5に示すA点〜D点の4点とし、電気エネルギーの投入を開始してから20秒経過時の各測定点の温度を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
(6.耐熱衝撃性試験)
得られたハニカム構造体について、一対の端子接続部112a、112bにそれぞれ端子を接続し、両端子に電圧を印加して、底面視におけるハニカム構造体の中心軸Oの温度を表3に記載の各設定温度まで5分で昇温し、その後、常温まで5分で冷却した。同一の加熱冷却試験を3個のハニカム構造体に対して行い、各ハニカム構造体についてクラックの有無を目視で確認し、割れが発生した個数を調査した。結果を表3に示す。
【0075】
<実施例1>
(1.円柱状の坏土の作製)
比較例1と同様の手順により円柱状の坏土を作製した。
【0076】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
図4−2に示す構造をもつレンガ積み形状の口金を使用した他は、比較例1と同様の手順によりハニカム乾燥体を作製した。
【0077】
(3.端子接続部の形成)
比較例1と同様の手順により端子接続部を形成した。
【0078】
(4.焼成)
比較例1と同様の手順により、ハニカム乾燥体を、脱脂し、焼成し、更に酸化処理してハニカム構造体を得た。
【0079】
得られたハニカム構造体の各種寸法は、ハニカム乾燥体とほぼ同じであった。該ハニカム構造体のセル構造に関するパラメータを表1に示す。表1中の記号の意味は先述した通りである。
A:隔壁部分Aの長さ
*隔壁部分Aとは、各セルを区画形成する隔壁のうち、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mの方向に延びた直線状の隔壁部分を指す。
B:隔壁部分Bの長さ
*隔壁部分Bとは、各セルを区画形成する隔壁のうち、直線Mの方向に対して垂直な方向に延びた直線状の隔壁部分を指す。
1:一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mと交差する外周側面102上の二点間の長さ
2:外周側壁114及び隔壁110を通って該二点間を結ぶ最短経路の長さ
3:最短経路を通る際に通過する隔壁部分Bの合計経路長さ
【0080】
このハニカム構造体においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mに垂直な方向に隣接するセル同士のLBは、直線Mからの距離に関わらずすべて同一であった。
【0081】
(5.加熱時の温度分布測定)
得られたハニカム構造体について、比較例1と同様の方法で加熱時の温度分布を測定した。結果を表2に示す。
【0082】
(6.耐熱衝撃性試験)
得られたハニカム構造体について、比較例1と同様の方法で耐熱衝撃性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0083】
<実施例2>
(1.円柱状の坏土の作製)
比較例1と同様の手順により円柱状の坏土を作製した。
【0084】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
図4−3に示す構造をもつレンガ積み形状の口金を使用した他は、比較例1と同様の手順によりハニカム乾燥体を作製した。
【0085】
(3.端子接続部の形成)
比較例1と同様の手順により端子接続部を形成した。
【0086】
(4.焼成)
比較例1と同様の手順により、ハニカム乾燥体を、脱脂し、焼成し、更に酸化処理してハニカム構造体を得た。
【0087】
得られたハニカム構造体の各種寸法は、ハニカム乾燥体とほぼ同じであった。該ハニカム構造体のセル構造に関するパラメータを表1に示す。
【0088】
このハニカム構造体においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mに垂直な方向に隣接するセル同士のLBは、直線Mからの距離が1セル分だけ離れる毎に、1/1.02=約98%の長さに減少する(つまり、減少割合は2%)。表1中の実施例2におけるLBの値は、直線Mに最も近いセル(直線Mが横切るセル又は直線Mに隣接するセル)のLBを指している。
【0089】
(5.加熱時の温度分布測定)
得られたハニカム構造体について、比較例1と同様の方法で加熱時の温度分布を測定した。結果を表2に示す。
【0090】
(6.耐熱衝撃性試験)
得られたハニカム構造体について、比較例1と同様の方法で耐熱衝撃性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0091】
<実施例3>
(1.円柱状の坏土の作製)
比較例1と同様の手順により円柱状の坏土を作製した。
【0092】
(2.ハニカム乾燥体の作製)
図4−2に示す構造をもつレンガ積み形状の口金を使用した他は、比較例1と同様の手順によりハニカム乾燥体を作製した。
【0093】
(3.端子接続部の形成)
比較例1と同様の手順により端子接続部を形成した。
【0094】
(4.焼成)
比較例1と同様の手順により、ハニカム乾燥体を、脱脂し、焼成し、更に酸化処理してハニカム構造体を得た。
【0095】
得られたハニカム構造体の各種寸法は、ハニカム乾燥体とほぼ同じであった。該ハニカム構造体のセル構造に関するパラメータを表1に示す。
【0096】
このハニカム構造体においては、セルの流路の方向に垂直な断面において、一対の端子接続部112a、112bの周方向中心同士を結ぶ直線Mに垂直な方向に隣接するセル同士のLBは、直線Mからの距離に関わらずすべて同一であった。
【0097】
(5.加熱時の温度分布測定)
得られたハニカム構造体について、比較例1と同様の方法で加熱時の温度分布を測定した。結果を表2に示す。
【0098】
(6.耐熱衝撃性試験)
得られたハニカム構造体について、比較例1と同様の方法で耐熱衝撃性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
<考察>
実施例及び比較例の何れも一対の端子接続部の周方向中心同士を結ぶ直線Mの近辺の昇温速度が速く、直線Mから垂直方向に離れて行くにつれて昇温速度が遅かった。しかしながら、実施例1〜3ではA点とC点の温度差が比較例1に比べて小さく、均一加熱性能が向上したことが分かる。直線Mから離れるにつれてLBが徐々に短くなる実施例2は実施例1よりも均一加熱性能が高かった。また、L2/L1が好適化されていた実施例3は均一加熱性能が最も優れていた。
【符号の説明】
【0103】
100 ハニカム構造体
102 外周側面
104 第一底面
106 第二底面
108 セル
110 隔壁
112a、112b 端子接続部
114 外周側壁
116a、116b フィン
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5