特許第6793074号(P6793074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793074
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】超音波画像処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20201119BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-55313(P2017-55313)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-157872(P2018-157872A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻田 剛啓
【審査官】 冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−005593(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/076744(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0317826(US,A1)
【文献】 特開2016−013438(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0005218(US,A1)
【文献】 特開2002−209880(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0069069(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波のボリュームデータに基づく演算により複数の視線から各視線ごとに得られる輝度情報を画像面内の各画素の画素値とすることにより、画像面内の複数画素の画素値を得る演算手段と、
画像面内の各画素を注目画素とし、注目画素に対応した深さにある立体的な評価領域内を遮蔽部位が占める割合に応じて注目画素の遮蔽度を算出する手段であって、評価領域内を通る各視線ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値を得ることにより、評価領域内を通る複数の視線から得られる複数の差分値に基づいて、注目画素の遮蔽度を算出する遮蔽度算出手段と、
画像面内の複数画素の各々を注目画素として各画素ごとに算出される遮蔽度を用いて当該各画素の画素値を補正して遮蔽処理後の画素値とすることにより、画像面内の複数画素の遮蔽処理後の画素値を得る遮蔽処理手段と、
画像面内の複数画素の遮蔽処理後の画素値に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段と、
を有し、
前記遮蔽処理手段は、前記遮蔽度を用いて各画素の画素値を補正するにあたり、前記超音波画像の拡大率に応じた補正を加えて、当該各画素の遮蔽処理後の画素値を得る、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波画像処理装置において、
前記遮蔽度算出手段は、前記画像面内の2方向に対応したX軸及びY軸と前記各視線の方向に対応したZ軸とにより構成される3次元座標系において、X軸方向とY軸方向とZ軸方向に広がって注目画素に対応した座標を取り囲む3次元領域を前記評価領域とする、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波画像処理装置において、
前記遮蔽度算出手段は、前記評価領域内を通る各視線ごとにZ軸方向の演算結果として前記差分値を算出し、前記評価領域内を通りX軸方向とY軸方向に2次元的に並ぶ複数の視線からZ軸方向の演算結果として得られる複数の前記差分値に基づいて、前記評価領域に対応した注目画素の遮蔽度を算出する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項に記載の超音波画像処理装置において、
前記拡大率が変更されても前記評価領域の実空間内での大きさは固定される、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波画像処理装置において、
複数の視線の各視線ごとに遮蔽部位までの深さを示す深度データを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記遮蔽度算出手段は、前記記憶手段に記憶された深度データを利用して評価領域内を通る各視線ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値を算出する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を送受することにより得られたデータに基づいて超音波画像を形成する超音波画像処理装置の代表例が超音波診断装置である。超音波画像としては、例えばBモード画像やカラードプラ画像などの二次元画像が良く知られている。また、超音波を送受することにより立体的に得られるボリュームデータに基づいて、生体内の組織や胎児などを立体的に映し出す超音波画像(三次元超音波画像)を形成する装置も知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、コンピュータグラフィックスの分野では、アンビエントオクルージョン(環境遮蔽)と呼ばれる画像処理技術が知られている(例えば特許文献2参照)。アンビエントオクルージョンでは、画像内の各画素が周囲のシーンによってどれくらい遮蔽されているのかに応じて各画素における環境光の影響が評価される。アンビエントオクルージョンにより、画像に対して自然な陰影効果を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−5593号公報
【特許文献2】米国特許第8878849号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばアンビエントオクルージョンなどの遮蔽処理(画像処理)を利用することにより超音波画像にも自然な陰影効果を与えることが期待される。しかし、例えばアンビエントオクルージョンなどの遮蔽処理の演算量は膨大であるため、超音波画像に適した遮蔽処理の実現が望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、超音波画像に好適な遮蔽処理を実現することを目的とする。例えば、比較的少ない演算量で自然な陰影効果を得ることができる遮蔽処理の実現が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様として好適な超音波画像処理装置は、超音波のボリュームデータに基づく演算により複数の視線から各視線ごとに得られる輝度情報を画像面内の各画素の画素値とすることにより、画像面内の複数画素の画素値を得る演算手段と、画像面内の各画素を注目画素とし、注目画素に対応した深さにある立体的な評価領域内を遮蔽部位が占める割合に応じて注目画素の遮蔽度を算出する手段であって、評価領域内を通る各視線ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値を得ることにより、評価領域内を通る複数の視線から得られる複数の差分値に基づいて、注目画素の遮蔽度を算出する遮蔽度算出手段と、画像面内の複数画素の各々を注目画素として各画素ごとに算出される遮蔽度を用いて当該各画素の画素値を補正して遮蔽処理後の画素値とすることにより、画像面内の複数画素の遮蔽処理後の画素値を得る遮蔽処理手段と、画像面内の複数画素の遮蔽処理後の画素値に基づいて超音波画像を形成する画像形成手段を有することを特徴とする。
【0008】
上記装置では、評価領域内を通る各視線ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値を得ることにより、評価領域内を通る複数の視線から得られる複数の差分値に基づいて注目画素の遮蔽度が算出される。上記装置によれば、遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値に基づいて遮蔽度が算出されるため、例えば、演算量が膨大な空間積分などの演算を利用して遮蔽度を算出する場合に比べて、演算量を大幅に削減できる。また、上記装置では、各画素ごとに算出される遮蔽度を用いて当該各画素の画素値を補正して遮蔽処理後の画素値が得られる。これにより、例えば自然な陰影をもった超音波画像を形成することができる。
【0009】
例えば、前記遮蔽度算出手段は、前記画像面内の2方向に対応したX軸とY軸と前記各視線の方向に対応したZ軸とにより構成される3次元座標系において、X軸方向とY軸方向とZ軸方向に広がって注目画素に対応した座標を取り囲む3次元領域を前記評価領域とすることが望ましい。Z軸方向は各視線の方向に対応しており、複数の視線が例えばX軸方向とY軸方向によって特定される面内に二次元的に配列される。この構成において、評価領域はX軸方向とY軸方向とZ軸方向に広がっており、複数の視線の幾何学的な配置に適合した評価領域が実現される。なお、評価領域の形状の好適な具体例は直方体または立方体であるがこれらの形状に限定されない。評価領域は、例えばZ軸方向を高さとする柱状(円柱、楕円柱、三角柱、多角柱)などの形状であってもよい。
【0010】
また、前記遮蔽度算出手段は、前記評価領域内を通る各視線ごとにZ軸方向の演算結果として前記差分値を算出し、前記評価領域内を通りX軸方向とY軸方向に2次元的に並ぶ複数の視線からZ軸方向の演算結果として得られる複数の前記差分値に基づいて、前記評価領域に対応した注目画素の遮蔽度を算出することが望ましい。この構成によれば、評価領域内を通る複数の視線から各視線ごとに差分値を得ることにより注目画素の遮蔽度を算出することができる。例えば、評価領域内を通る全ての視線から差分値を得てもよいし、評価領域内を通る全ての視線の中から離散的に選択される複数の視線から差分値を得るようにしてもよい。
【0011】
また、前記遮蔽処理手段は、前記遮蔽度を用いて各画素の画素値を補正するにあたり、前記超音波画像の拡大率に応じた補正を加えて、当該各画素の遮蔽処理後の画素値を得ることが望ましい。この構成によれば、超音波画像の拡大率に応じて遮蔽処理の程度を調整することができる。例えば、拡大率が大きいほど遮蔽の程度を強めることにより、超音波画像の見た目の印象を向上させることができる。
【0012】
また、前記超音波画像処理装置は、複数の視線の各視線ごとに遮蔽部位までの深さを示す深度データを記憶する記憶手段をさらに有し、前記遮蔽度算出手段は、前記記憶手段に記憶された深度データを利用して評価領域内を通る各視線ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値を算出することが望ましい。この構成によれば、記憶手段に記憶された深度データを利用して深さの差分値を算出することができるため、遮蔽度算出手段における演算負荷が低減される。
【0013】
さらに、上述した好適な超音波画像処理装置(望ましい具体例を含む)が備える各部に対応した機能がコンピュータ(タブレット型の端末を含む)により実現されてもよい。例えば、前記演算手段としての機能と、前記遮蔽度算出手段としての機能と、前記遮蔽処理手段としての機能と、前記画像形成手段としての機能をコンピュータに実現させるプログラムにより、コンピュータを上述した好適な超音波画像処理装置として機能させることができる。なお、そのプログラムは、例えば、ディスクやメモリなどのコンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶され、その記憶媒体を介してコンピュータに提供されてもよいし、インターネットなどの電気通信回線を介してコンピュータに提供されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、超音波画像に好適な遮蔽処理が実現される。例えば、本発明の好適な態様によれば、遮蔽部位までの深さと評価領域の境界までの深さの差分値に基づいて遮蔽度を算出することにより、例えば演算量が膨大な空間積分などの演算を利用して遮蔽度を算出する場合に比べて、演算量を大幅に削減できる。また、本発明の好適な態様によれば、各画素ごとに算出される遮蔽度を用いて当該各画素の画素値を補正して遮蔽処理後の画素値を得ることにより、例えば自然な陰影をもった超音波画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の好適な具体例である超音波診断装置の全体構成図である。
図2】レンダリング演算の具体例を示す図である。
図3】立体的な評価領域の具体例を示す図である。
図4】超音波画像の拡大率を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る超音波画像処理装置の好適な具体例である超音波診断装置の全体構成図である。プローブ10は、三次元画像用の超音波探触子であり、例えば胎児などの診断対象を含む三次元空間内において超音波を送受する。例えば、二次元的に配列された複数の振動素子を備える二次元アレイプローブ(マトリクスアレイプローブ)や、一次元的に配列された複数の振動素子を機械的に動かすメカニカルプローブなどがプローブ10の好適な具体例である。
【0017】
送受信部12は、送信ビームフォーマおよび受信ビームフォーマとしての機能を備えている。つまり、送受信部12は、プローブ10が備える複数の振動素子の各々に対して送信信号を出力することにより送信ビームを形成し、さらに、複数の振動素子から得られる複数の受波信号に対して整相加算処理などを施して受信ビームを形成する。
【0018】
また、送受信部12は、例えば、診断対象を含む三次元空間内において、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を立体的に走査する。これにより、診断対象を含む三次元空間内から超音波の受信データが収集される。
【0019】
ボリューム構成部20は、三次元空間内から得られた受信データに対してリコンストラクション処理を施すことにより、三次元空間に対応したボリュームデータを形成する。ボリューム構成部20は、走査座標系(例えばrθφ座標系)で得られた受信データに対して、座標変換処理や補間処理などのリコンストラクション処理を施し、直交座標系(例えばxyz座標系)に対応したボリュームデータを形成する。ボリュームデータは、例えば直交座標系のデータ空間内において三次元的に配列された複数のボクセルデータで構成される。
【0020】
レンダリング演算部30は、ボリュームデータを構成する複数のボクセルデータに基づいてレンダリング演算(ボクセル演算)を実行する。
【0021】
図2は、レンダリング演算の具体例を示す図である。レンダリング演算(レンダリング処理)においては、三次元空間に対応したボリュームデータ32の外側に演算上の仮想的な視点が設定され、その視点側からボリュームデータ32に対して複数の視線(レイ)34が設定される。さらに、画像面として機能する演算上のスクリーン36が設定される。なお、図2において、スクリーン36は、ボリュームデータ32を間に挟んで、視点の反対側に図示されているが、ボリュームデータ32よりも視点側に配置されて、後に詳述する深さの基準位置とされてもよい。
【0022】
レンダリング演算では、ボリュームデータ32に対して設定された複数の視線(レイ)の各視線ごとに、その視線に対応した複数のボクセルデータが処理対象となる。例えば、ボリュームデータ32を構成する複数のボクセルデータから、補間処理などにより、各視線に対応した(各視線上に並ぶ)複数のボクセルデータが得られる。
【0023】
図1に戻り、レンダリング演算部30は、輝度のレンダリング演算により、複数の視線から各視線ごとに得られる輝度情報を各画素の画素値とすることにより、スクリーン(画像面)内の複数画素の画素値を得る。これにより、スクリーンを投影面とする輝度情報の投影画像データが形成される。
【0024】
輝度のレンダリング処理では、各視線ごとに、視点側からその視線に対応した複数のボクセルデータ(ボクセルの輝度情報)に対して、不透明度(オパシティ)を用いたレンダリング法に基づくボクセル演算が逐次的に実行される。そして、各視線ごとに最終のボクセル演算の結果としてその視線に対応した輝度情報が決定され、複数の視線から各視線ごとに得られる輝度情報をスクリーン内の各画素にマッピングすることにより、スクリーンを投影面とする輝度情報の投影画像データが形成される。輝度情報の投影画像データは遮蔽処理部60に出力される。
【0025】
また、レンダリング演算部30は、複数の視線から各視線ごとに得られる深度情報を各画素に対応付けた深度情報の投影画像データを形成する。深度情報の投影画像データの好適な具体例は、特許文献1に記載される距離投影画像データである。
【0026】
レンダリング演算部30は、例えば特許文献1の第0023段落等に詳述される距離のレンダリング処理を実行して、複数の視線の各視線ごとに距離Doutを算出し、各視線ごとに算出される距離Doutをスクリーン(画像面)内の各画素に対応付けることにより、スクリーンを投影面とする距離投影画像データを得る。距離Doutは、例えば数1式により算出される。
【0027】
【数1】
【0028】
数1式において、距離Dは各視線上に存在するi番目(iは自然数)のボクセルの距離であり、例えばボリュームデータ内のボクセルピッチから算定される。Aは各視線上に存在するi番目のボクセルの輝度値に対応した不透明度であり、また、不透明度の積算値であるAout−1は数2式により算出される。
【0029】
【数2】
【0030】
距離のレンダリング処理により算出される距離Doutは、各視線上に並ぶ複数のボクセルの距離Dを不透明度Aを利用して積算したものであり、その視線上における輝度のレンダリング処理と同じ条件(Aout=1または視線上の最終ボクセル)で積算が終了する。
【0031】
距離Doutは、各視線上における基準位置(例えばボリュームデータよりも視点側に設定されるスクリーンの位置)からの積算距離であり、各視線上において基準位置側から見た深さに対応する。そこで、例えば複数の視線の各視線ごとに算出された距離Doutが各視線の深度データとして、深度データ記憶部40に記憶される。
【0032】
遮蔽処理部60は、レンダリング演算により得られた超音波画像、例えば胎児等の診断対象を立体的に表現した輝度情報の投影画像データに対して、陰影効果を与えるための遮蔽処理を実行する。自然な陰影効果を得るために、超音波画像内の注目点が周囲の環境からの光である環境光の影響をどの程度受けているのかが評価される。その評価において、例えば、アンビエントオクルージョン(環境遮蔽)の考え方を利用することが望ましい。
【0033】
アンビエントオクルージョン(環境遮蔽)では、注目点が周囲の環境によってどのくらい遮蔽されているのかを検討する。つまり注目点における遮蔽度(遮蔽の程度)が評価される。その遮蔽度を評価する数値の具体例が遮蔽率であり、遮蔽率算出部50において算出される。
【0034】
遮蔽率算出部50は、スクリーン(画像面)内の各画素を注目画素とし、注目画素に対応した深さにある立体的な評価領域内を遮蔽部位が占める割合に応じて、その注目画素の遮蔽率を算出する。
【0035】
図3は、立体的な評価領域の具体例を示す図である。図3には、矩形(立方体)の評価領域52が図示されている。図3に示すXYZ座標系において、X軸はスクリーン36の横方向に対応しており、Y軸はスクリーン36の縦方向に対応している。また、Z軸は、スクリーン36に対して直交する各視線34の方向に対応している。
【0036】
図3に示す具体例の評価領域52は、注目画素の深さに対応した座標Pを中心として、X軸Y軸Z軸の各軸方向の幅が(2K+1)個(Kは自然数)のサンプル点に対応した矩形領域(立方体)である。例えばX軸方向に(2K+1)本かつY軸方向に(2K+1)本の合計(2K+1)×(2K+1)本の視線34が評価領域52を通過する。
【0037】
遮蔽率算出部50(図1)は、評価領域52内を通る各視線34ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域52の境界までの深さの差分値を得ることにより、評価領域52内を通る複数の視線34から得られる複数の差分値に基づいて注目画素の遮蔽率を算出する。
【0038】
遮蔽率算出部50は、深度データ記憶部40(図1)に記憶された深度データを利用して評価領域52内を通る各視線34ごとに遮蔽部位までの深さと評価領域52の境界までの深さの差分値を算出する。
【0039】
深度データ記憶部40には、複数の視線34の各視線34ごとに遮蔽部位までの深さを示す深度データが記憶される。例えばレンダリング演算部30(図1)における距離のレンダリング処理により、各視線34ごとに算出された距離Doutが深度データの好適な具体例であり、各視線34ごとに算出された距離Doutが遮蔽部位までの深さとされる。
【0040】
遮蔽率算出部50は、深度データ記憶部40に記憶された深度データに基づいて、例えば数3式を利用することにより、座標(x,y)の注目画素の遮蔽率k(x,y)を算出する。
【0041】
【数3】
【0042】
数3式において、z(x+i,y+j)は座標(x+i,y+j)を通る視線34の深度データである。z(x,y)は座標(x,y)を通る視線34の深度データであり、注目画素の深さに対応する。また(z(x,y)−K)は、注目画素の深さz(x,y)よりも距離Kだけ浅い位置の深さであり、評価領域52の開始面のz座標(Z軸上の位置)となる。
【0043】
また、X軸方向のサンプル番号(サンプルとなる視線を特定する番号)のiは−Kから+Kの範囲の値であり、Y軸方向のサンプル番号(サンプルとなる視線を特定する番号)のjも−Kから+Kの範囲の値となる。
【0044】
数3式を利用した演算では、評価領域52内を通る全ての視線34を対象とすることが望ましい。なお、数3式の演算は、評価領域52内を遮蔽部位が占める割合(比)を評価するものであるため、評価領域52内を通る全ての視線34を対象とせずに離散的にサンプリングされた複数の視線34のみを対象として演算を簡略化してもよい。
【0045】
数3式を利用した演算において、Z軸方向つまり視線方向については、深さの差分値が利用されるため、視線方向に並ぶ全点(全ボクセル)をサンプリング対象とした場合に相当する演算結果を得ることができる。
【0046】
遮蔽率算出部50は、スクリーン36内の全画素の各々を注目画素とし、例えば数3式を利用して各画素ごとに遮蔽率を算出する。
【0047】
図1に戻り、遮蔽処理部60は、レンダリング演算部30による輝度のレンダリング演算により得られた超音波画像、例えば胎児等の診断対象を立体的に表現した輝度情報の投影画像データに対して陰影効果を与えるための遮蔽処理を実行する。遮蔽処理部60は、遮蔽率算出部50によりスクリーン内の各画素ごとに算出された遮蔽率を用いて、その画素の画素値を補正して遮蔽処理後の画素値とすることにより、スクリーン内の全画素についての遮蔽処理後の画素値を得る。
【0048】
遮蔽処理部60は、例えば数4式を利用することにより、スクリーン内の各画素に関する遮蔽処理後の画素値(輝度値)を算出する。
【0049】
【数4】
【0050】
数4式において、Iorg(x,y)は、スクリーン内の座標(x,y)にある画素の遮蔽処理前の画素値(輝度値)であり、k(x,y)は座標(x,y)にある画素の遮蔽率であり、Inew(x,y)は座標(x,y)にある画素の遮蔽処理後の画素値(輝度値)である。
【0051】
遮蔽処理部60は、スクリーン内の全画素、つまり輝度情報の投影画像データを構成する全画素を対象とし、各画素ごとに例えば数4式により遮蔽処理後の画素値を算出する。
【0052】
画像形成部70は、スクリーン内の複数画素の遮蔽処理後の画素値に基づいて超音波画像を形成する。画像形成部70は、例えば、遮蔽処理部60から得られる、輝度情報の投影画像データを構成する全画素についての遮蔽処理後の画素値(輝度値)に基づいて、超音波画像を形成する。これにより、例えば胎児等の診断対象を立体的に表現しつつ自然な陰影効果をもった超音波画像が形成されて表示部72に表示される。
【0053】
なお、遮蔽処理部60は、遮蔽率を用いて各画素の画素値を補正するにあたり、超音波画像の拡大率に応じた補正を加えて、その画素の遮蔽処理後の画素値を得るようにしてもよい。
【0054】
図4は、超音波画像の拡大率を説明するための図である。図4には、拡大前と拡大後の超音波画像の具体例が図示されている。拡大前と拡大後の超音波画像は互いに同じ診断対象を映し出した画像である。例えば、拡大前の画像として胎児の体を全体的に表示した超音波画像が形成され、拡大後の画像として同じ胎児の顔を大きく映し出した超音波画像が形成される。
【0055】
拡大率Sは、例えば「S=D/D」と定義される。ここで、Dは拡大前の診断対象の表示サイズ(例えば表示部72の表示画面上における大きさ)であり、Dは同じ診断対象の拡大後の表示サイズである。
【0056】
超音波画像の拡大率Sに応じた補正を加える場合、遮蔽処理部60は、例えば数5式を利用して、スクリーン内の各画素に関する遮蔽処理後の画素値(輝度値)を算出する。
【0057】
【数5】
【0058】
数5式において、Iorg(x,y)は、スクリーン内の座標(x,y)にある画素の遮蔽処理前の画素値(輝度値)であり、k(x,y)は座標(x,y)にある画素の遮蔽率であり、Sは拡大率であり、Inew(x,y)は座標(x,y)にある画素の遮蔽処理後の画素値(輝度値)である。
【0059】
超音波画像の拡大率に応じた補正を加えて、例えば表示サイズに比例して遮蔽された位置の暗さを増加させることにより、例えば医師や検査技師等のユーザの目には、表示サイズが大きいほど遮蔽された影が増加することとなり、さらに臨場感を伴った陰影の効果を与えることができる。
【0060】
なお、超音波画像の拡大率に応じて、複数の視線34(図3)の密度が変更されてもよい。例えば、拡大率が大きいほど複数の視線34の密度が高められてもよい。例えば、拡大後の画像として胎児の顔を大きく映し出した超音波画像を形成する場合に、胎児の顔に対応した領域に複数の視線34が集中的に配置される。また、超音波画像の拡大前と拡大後において、実空間内における評価領域52(図3)の大きさは固定することが望ましいものの、必要に応じて実空間内における評価領域52の大きさが調整されてもよい。
【0061】
図1に戻り、制御部100は、図1の超音波診断装置内を全体的に制御する。制御部100による全体的な制御には、操作デバイス80を介して医師や検査技師などのユーザから受け付けた指示も反映される。
【0062】
図1に示す構成のうち、送受信部12,ボリューム構成部20,レンダリング演算部30,遮蔽率算出部50,遮蔽処理部60,画像形成部70の各部は、例えば、電気電子回路やプロセッサ等のハードウェアを利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。また上記各部に対応した機能の少なくとも一部がコンピュータにより実現されてもよい。つまり、上記各部に対応した機能の少なくとも一部が、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現されてもよい。
【0063】
深度データ記憶部40は、半導体メモリやハードディスクドライブなどの記憶デバイスにより実現できる。表示部72の好適な具体例は液晶ディスプレイや有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ等である。操作デバイス80は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル、その他のスイッチ類等のうちの少なくとも一つにより実現できる。そして、制御部100は、例えば、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現することができる。
【0064】
また、図1に示す構成のうち、例えばレンダリング演算部30と遮蔽率算出部50と遮蔽処理部60と画像形成部70の機能をコンピュータにより実現し、そのコンピュータを超音波画像処理装置として機能させてもよい。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0066】
10 プローブ、12 送受信部、20 ボリューム構成部、30 レンダリング演算部、40 深度データ記憶部、50 遮蔽率算出部、60 遮蔽処理部、70 画像形成部、72 表示部、80 操作デバイス、100 制御部。
図1
図2
図3
図4