(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体に対する超音波の送受波により超音波画像を形成及び表示する医療用の装置である。超音波診断装置は、一般に、動作モードあるいは診断モードとしてのドプラモード(Dモード)を備えている。ドプラモードとして、PWモード及びCWモードが知られている。
【0003】
ドプラモードでは、受信信号中に含まれるドプラ信号成分に対して周波数解析が適用される。周波数解析の結果としてパワースペクトラムが得られる。各時刻で取得されるパワースペクトラムを表した画像がドプラ波形である。ドプラ波形の横軸は時間軸であり、その縦軸は速度(ドプラ偏移周波数)を表している。ドプラ波形においては、各速度成分のパワーが輝度によって表現される。
【0004】
オートトレース機能を備えた超音波診断装置も知られている。オートトレース機能は、ドプラ波形をトレースするものであり、例えば、ドプラ波形における各時刻のピーク又はピークから所定レベル下がったポイントがトレース点として特定され、特定された複数のトレース点を通る曲線としてトレースラインが生成される。トレースラインの解析により心拍数等を求めることが可能である。なお、ドプラ波形がマニュアルでトレースされることもある。
【0005】
特許文献1には、オートトレース機能によって生成されたトレースラインから複数のピークを検出する超音波診断装置が開示されている。特許文献1には、心拍単位でのトレースラインの区分やテンプレートの利用については開示されていない。特許文献2には、生体に対する電磁波の送受波によって得られた信号からテンプレートを生成し、そのテンプレートと信号との間で相関値を演算する装置が開示されている。その装置では、対象波形に含まれる各ピークを中心として、その前後にわたる所定期間内の波形部分が切り出され、切り出された複数の波形部分を加算平均することにより、テンプレートが生成されている。そのテンプレート生成方法を二峰性波形に対して適用すると、正しいテンプレートを生成できない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
周期的に変動する波形(典型的には上記トレースライン)の解析に際しては、その波形における各単位波形(1周期に相当する部分)又は各単位期間(1周期に相当する期間)を正確に特定し又は区切る必要がある。特に、単位波形が2つの山を有する場合において(つまり二峰性波形において)、各単位波形又は各単位期間を正しく特定することが求められる。そのための手法としてテンプレートマッチング法が知られている。その方法ではテンプレートの良否が弁別精度を左右する。解析対象となった波形との関係で、適正なテンプレートを生成することが求められる。
【0008】
本発明の目的は、テンプレートマッチングを利用して周期的に変動する波形を解析する場合において、その波形に適合したテンプレートを生成できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、テンプレートマッチングを利用して二峰性を有するトレースライン(ドプラ波形トレースライン)を解析する場合において、そのトレースラインに適合したテンプレートを生成できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)実施形態に係る超音波診断装置は、被検体に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて、周期的に変動する波形を生成する信号処理手段と、前記波形に基づいてテンプレートを生成する生成手段と、前記テンプレートを利用して前記波形を解析する解析手段と、を含み、前記生成手段は、前記波形の形態分析により少なくとも1つの基準時相を識別する識別手段と、前記波形の周期分析により周期サンプルを取得する取得手段と、前記少なくとも1つの基準時相及び前記周期サンプルに基づいて前記波形から少なくとも1つの波形部分を切り出し、前記少なくとも1つの波形部分に基づいて前記テンプレートを生成する波形処理手段と、を含む。
【0010】
上記構成によれば、波形の形態解析により少なくとも1つの基準時相(例えば心拍期間の始期)が識別され、また、波形の周期解析により周期サンプル(例えばある心拍期間の時間長)が取得される。形態解析においては、波形における特徴的な形態が探索される。例えば、立ち上がり部分を表す2点として、極大値とその直前の極小値とが特定される。周期解析においては、例えば、自己相関その他の手法により、波形中の特定の1又は複数の単位波形についての時間長(単位期間)が周期サンプルとして解析される。このように求められた基準時相及び周期サンプルを利用して、波形から波形部分が切り出される。例えば、波形に対して、基準時相を開始点とし、周期サンプルに相当する又はそれよりも短い時間長をもった、切り出し区間が設定され、その切り出し区間内の部分が切り出される。切り出された部分に基づいてテンプレートが生成される。切り出された複数の部分に基づいてテンプレートが生成されてもよい。
【0011】
上記構成においては、波形を構成するすべての単位波形について基準時相を個別的に識別することまでは求められず、テンプレート生成という観点から、真である可能性の高い1つの又は幾つかの基準時相が特定されれば十分である。同じく、上記構成においては、波形におけるすべての単位波形について、周期を個別的に特定することまでは求められず、テンプレート生成という観点から、代表的な1つの又は幾つかの単位波形についての周期がサンプル周期として特定されれば十分である。
【0012】
上記構成によれば、波形が形態面及び周期面から解析された上で、それらの解析結果に基づいてテンプレート用の切り出し部分が特定されるので、切り出し部分の特定精度を高められ、ひいては、テンプレートの質を高められる。実施形態においては、形態解析及び周期解析が互いに独立した処理として構成されており、一方の解析結果が他方の解析結果に依存しない、という利点が得られる。
【0013】
実施形態において、前記波形処理手段は、前記波形に対して、前記基準時相を基準としつつ、前記周期サンプルに基づいて切出し期間を設定する設定手段と、前記波形から、前記波形部分として、前記切出し期間内の部分を切り出す切出し手段と、を含む。切出し期間は、周期サンプルに基づいて設定され、望ましくは、周期サンプル以下の期間として切出し期間が設定される。
【0014】
この構成によれば、単位波形内の波形部分の全体ではなく、その波形部分の一部がテンプレートの基礎として利用される。よって、特徴的な部分が支配的となったテンプレートを生成することが可能となる。そのようなテンプレートを利用すれば、特に二峰性波形を解析対象とする場合に、その解析精度を高められる。
【0015】
実施形態において、前記識別手段は、前記波形に含まれる複数の極大値を検出する極大値検出手段と、前記複数の極大値の直前に存在している複数の直前極小値を検出する直前極小値検出手段と、前記複数の直前極小値及び前記複数の極大値により構成される複数の極値ペアの中から1又は複数の優良極値ペアを選抜することにより、1又は複数の基準時相を特定する特定手段と、を含む。
【0016】
この構成によれば、所定の立ち上がり部分を探索することにより、基準時相が識別される。複数の極値ペアから1又は複数の優良極値ペアが選抜されるので、真である可能性の高い基準時相を特定できる。例えば、単位波形に2つの山が認められ、先の山の直前の谷の方が後の山の直前の谷よりも深い(最下レベルが低い)ような場合に、上記構成が効果的に機能する。
【0017】
実施形態において、前記特定手段は、前記極値ペアごとに傾きの度合いを示す評価値を演算する評価値演算部と、前記複数の極値ペアについて演算された複数の評価値に基づいて、前記1又は複数の優良極値ペアを選抜する選抜部と、を含む。評価値として、勾配、極値間の差分、等が利用され得る。
【0018】
実施形態において、前記取得手段は、前記波形に対して、窓サイズを変化させながら、同じ窓サイズを有し且つ所定の位置関係を有する2つの時間窓からなる時間窓ペアを順次設定する手段と、前記順次設定される時間窓ペア内の2つの部分を相互に比較し、2つの部分が適合した時点での窓サイズとして前記周期サンプルを特定する手段と、を含む。この構成によれば、簡便な手法により、周期サンプルを取得することが可能となる。
【0019】
実施形態において、前記時間窓ペアは時間軸方向に連なる2つの時間窓により構成される。窓サイズの変化に際して、2つの時間窓におけるいずれかの箇所を固定してもよいが、そのような固定を行わなくても時間窓ペアは機能する。実施形態において、前記波形は、胎児から得られたドプラ情報を表したドプラ波形に対するトレースにより生成されたトレースラインである。
【0020】
(2)実施形態に係る波形処理方法は、波形に基づいてテンプレートを生成する生成工程と、前記テンプレートを利用して前記波形を解析する解析工程と、を含み、前記生成工程は、前記波形に対して、極大値とその直前に存在する極小値とからなる極値ペアを特定する形態解析を適用し、これにより少なくとも1つの基準時相を識別する工程と、前記少なくとも1つの基準時相に基づいて前記波形から少なくとも1つの波形部分を切り出し、前記少なくとも1つの波形部分に基づいて前記テンプレートを生成する工程と、を含む。
【0021】
上記構成によれば、波形に含まれる極値ペア(極大値とその直前の極小値とからなるペア)を特定することにより、つまり、波形に含まれる立ち上がり部分を特定することにより、基準時相が識別される。その基準時相に基づいて、波形から、テンプレート生成用の部分が切り出される。切り出し区間として、基準時相から始まる一定の区間が設定されてもよいし、基準時相を含んだ一定の期間が設定されてもよいし、基準時相を含まない一定の期間が設定されてもよい。その場合、波形の周期解析により、一定の時間幅を適応的に定めるのが望ましい。なお、他の条件に従って一定の時間幅を定めることや一定の時間幅を固定的に定めることも考えられる。基準時相は、特徴的な波形部分から特定される時相である。
【0022】
上記方法は、ハードウエアの機能として又はソフトウエアの機能として、実現され得る。後者の場合、上記波形処理方法を実施するためのプログラムが、可搬型記憶媒体又はネットワークを介して、超音波診断装置又は情報処理装置にインストールされる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、テンプレートマッチングを利用して周期的に変動する波形を解析する場合において、その波形に適合したテンプレートを生成できる。あるいは、本発明によれば、テンプレートマッチングを利用して二峰性を有するトレースラインを解析する場合において、そのトレースラインに適合したテンプレートを生成できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成がブロック図として示されている。この超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、被検者に対する超音波の送受波により超音波画像を形成する装置である。超音波画像として、断層画像(Bモード画像)、ドプラ波形(Dモード画像)、カラーフローマッピング(CFM)画像、等が知られている。ドプラモードとしてPWモード及びCWモードが知られている。以下においては、PWモードを前提としてドプラ情報処理を説明する。なお、本実施形態においては、胎児静脈(特に臍帯に繋がっている静脈管)からドプラ情報が取得されている。もちろん、他のドプラ情報が処理対象になってもよい。
【0027】
図1において、プローブ10は、プローブヘッド、ケーブル及びコネクタによって構成される。コネクタが超音波診断装置本体に対して着脱可能に装着される。プローブヘッドは、例えば、妊婦の腹部表面上に当接される。プローブヘッドは、一次元配列された複数の振動素子からなるアレイ振動子を有している。アレイ振動子によって超音波ビームが形成され、それが電子走査される。電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア方式、等が知られている。電子走査によってビーム走査面Sが形成される。
【0028】
ドプラモードの実行時には、観測方位Mに対して超音波が送受波される。観測方位M上にはサンプルゲートSGが設定される。サンプルゲートSGはドプラ情報を取り出す区間に相当する。一般に、断層画像を観察しながら、観測方位M及びサンプルゲートSGがユーザー設定される。1Dアレイ振動子に代えて、2Dアレイ振動子を設け、生体内の三次元空間からボリュームデータを得るようにしてもよい。
【0029】
送受信回路12は、送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。送信時において、送受信回路12からアレイ振動子へ複数の送信信号が並列的に供給される。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波がアレイ振動子で受波される。これによりアレイ振動子から送受信回路12へ複数の受信信号が並列的に出力される。送受信回路12は、複数のアンプ、複数のA/D変換器、複数の遅延回路、加算回路、等を有する。送受信回路12において、複数の受信信号が整相加算(遅延加算)されて、受信ビームに相当するビームデータが形成される。電子走査方向に並ぶ複数のビームデータにより受信フレームデータが構成される。各ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。
【0030】
断層画像形成部14は、受信フレームデータに基づいて断層画像データを生成する電子回路である。その電子回路は1又は複数のプロセッサを含む。断層画像形成部14は、例えば、検波回路、対数変換回路、フレーム相関回路、デジタルスキャンコンバータ(DSC)等を有する。断層画像データが断層画像形成部14から表示処理部18を経由して表示器26へ送られている。
【0031】
ドプラ波形生成部16は、ドプラモード(具体的にはPWモード)において動作するものである。ドプラ波形生成部16は、直交検波回路、複素FFT演算器、ドプラ波形生成器、等を有する。それらはそれぞれ電子回路である。より詳しくは、ドプラ波形生成部16において、受信信号中に含まれるドプラ情報(ドプラ成分)が取り出され、その周波数解析を行うことによってパワースペクトルが生成される。そして、各時刻において演算されたパワースペクトルに基づいてドプラ波形が生成される。ドプラ波形においては、パワースペクトルを構成する各周波数成分のパワーが輝度によって表現される。ドプラ波形を表すデータが表示処理部18を経由して表示器26に送られている。また、そのデータがドプラ波形処理部20にも送られている。
【0032】
ドプラ波形処理部20は、1又は複数のプロセッサを含む電子回路として構成されている。具体的には、ドプラ波形処理部20は、トレース手段として機能するトレース部22と、解析手段として機能するトレースライン解析部24と、を含む。トレース部22及びトレースライン解析部24がソフトウエアの機能として実現されてもよい。制御部28を構成するCPU及び動作プログラムによって、トレース部22及びトレースライン解析部24が有する機能が実現されてもよい。
【0033】
トレース部22は、ドプラ波形に対してオートトレースを実行し、これによりトレースラインを生成するものである。具体的には、ドプラ波形において、各時刻のピークが特定され、そのピーク又はそのピークを基準に定められる地点がトレース点として定められる。複数のトレース点を繋げることによりトレースラインが生成される。他の手法によってトレースラインが生成されてもよい。マニュアルトレースでトレースラインが生成されてもよい。トレースラインデータが表示処理部18及びトレースライン解析部24へ送られている。
【0034】
上記のドプラ波形生成部16及びトレース部22が信号処理手段として機能する。すなわち、それらによって解析対象となる波形(トレースライン)が生成される。トレースラインは、胎児の心拍に同期して周期的に変動する。
【0035】
トレースライン解析部24は、トレースラインに対する解析を実行するものである。具体的には、トレースライン自身からテンプレートが生成され、そのテンプレートを利用してトレースラインが解析される。これにより、個々の心拍期間が具体的に特定される。その上で、必要に応じて、個々の心拍期間ごとに、ピーク検出、ピークを利用した演算等が実行される。
【0036】
表示処理部18は1又は複数のプロセッサを含む電子回路により構成されている。表示処理部18は、画像合成機能、カラー演算機能等を有する。表示器26は、LCD又は有機ELデバイス等によって構成される。表示器26の画面上には、断層画像、ドプラ波形、トレースライン等が表示される。
【0037】
制御部28は、
図1に示されている各構成を制御する制御手段として機能し、それはCPU及び動作プログラムにより構成される。制御部28には操作パネル30が接続されている。操作パネル30は、トラックボール、スイッチ、キーボード等の入力デバイスを有する。
【0038】
以下、
図2以降の各図を参照しながら、各構成の動作又は作用を説明する。
【0039】
図2には、トレース部の作用が示されている。具体的には、ドプラ波形32に対するオートトレース処理により生成されたトレースライン33が示されている。なお、
図2において、横軸は時間軸であり、縦軸は速度(ドプラ偏移周波数)を表している。ドプラ波形32は、心拍に従って周期的に変動する。これに伴って、トレースライン33も周期的に変動する。
【0040】
図3には、トレースライン解析部24の構成例が示されている。図示の構成例において、トレースライン解析部24は、バッファメモリ34、テンプレート生成部35、マッチング処理部36、及び、波形計測部37を有している。テンプレート生成部35は、テンプレート生成手段として機能し、それは、バッファメモリ34に格納されたトレースラインデータに基づいてテンプレートを生成する。テンプレートの生成に際しては、トレースラインに対する形態解析及び周期解析が実行される。形態解析においては極値ペアが探索及び評価される。周期解析においては時間窓ペアが利用される。それらに関しては後に詳述する。
【0041】
マッチング処理部36及び波形計測部37は解析手段として機能する。具体的には。マッチング処理部36は、トレースラインに対してテンプレートを相対的に移動させつつ、それらの間において相関演算をくり返し実行し、その相関演算結果に基づいてトレースラインにおける各心拍期間を特定しあるいはトレースラインを心拍期間ごとに区切る。その上で、波形計測部37は、トレースライン上において、心拍期間ごとに、ピークを特定する処理、ピークに基づく計測、等を実行する。このように胎児診断において必要となる計測値が演算される。計測結果あるいは演算結果は表示処理部へ送られている。表示器の画面上には計測結果あるいは演算結果が表示される。
【0042】
図4には、
図3に示したテンプレート生成部35の構成例が示されている。テンプレート生成部35にはトレースラインデータ38が入力されている。必要に応じて、トレースラインデータ38に対しては前処理が施される。前処理については後に説明する。テンプレート生成部35は、取得手段として機能する周期サンプル取得部40、識別手段として機能する基準時相識別部42、及び、波形処理手段(設定手段、切り出し手段及び合成手段)として機能する波形処理部44を有している。周期サンプル取得部40と基準時相識別部42は、互いに独立して並列的に処理を行う。換言すれば、一方が他方に依存して動作するものではない。
【0043】
周期サンプル取得部40は、トレースラインに含まれる周期を周期サンプルとして取得するモジュールである。具体的には、周期サンプル取得部40は、時間窓ペア設定部46、自己相関部48、及び、周期サンプル演算部50を有する。時間窓ペア設定部46は、後に詳述するように、トレースラインに対して、窓サイズを可変しながら、時間窓ペアを繰り返し設定する。時間窓ペアは、時間軸方向に連接した2つの時間窓により構成されるものであり、それらの窓サイズは常に同一である。窓サイズの最小値はτ-minで指定されている。τ-minは、例えば、健常胎児の最大心拍数を基準に定められる。設定された2つの時間窓の中から2つの波形部分が切り出され、それらに対して自己相関部48が相関演算(自己相関演算)を適用する。窓サイズの拡大に伴って相関演算をくり返し実行した結果として、相関値の変化を示す相関値曲線が生成される。その相関値として、例えば、SAD(Sum of Absolute Difference)を加算数で除することにより、規格化相関値が求められる。
【0044】
周期サンプル演算部50は、窓サイズの拡大に伴って得られる相関値曲線に基づいて周期サンプルを演算する。本実施形態において、周期サンプルは、トレースラインに含まれる1又は複数の心拍期間についての周期(又は幾つかの周期の平均値)であり、トレースライン全体としての周期の平均値ではない。後述するように、この段階においては、厳密なる周期演算までは不要である。演算された周期サンプルを示す数値情報が波形処理部44へ送られている。周期の情報を得られる限りにおいて、自己相関法以外の方法を利用してもよい。例えば、トレースラインの周波数解析により、その基本周期を演算するようにしてもよい。
【0045】
基準時相識別部42は、トレースラインにおいて1又は複数の基準時相を識別するものである。基準時相は、本実施形態において、各心拍期間において認められる最初の立ち上がり部分の開始点が存在する時相であり、各心拍期間の始期である。それは、最初の極大値の直前に存在する極小値が存在する時相であり、それはa点とも呼ばれている。他の時相をもって基準時相としてもよい。例えば、最初の極大値(S点とも呼ばれる)が存在する時相を基準時相としてもよい。
【0046】
より詳しくは、基準時相識別部42は、極大値検出手段として機能する極大値検出部52、直前極小値検出手段として機能する直前極小値検出部54、評価値演算手段として機能する勾配演算部56、及び、選抜手段として機能する選抜部58を有する。勾配演算部56及び選抜部58はそれら全体として特定手段として機能する。
【0047】
極大値検出部52は、トレースライン上において、極大値条件を満たす極大値を検出するものである。具体的には、本実施形態では、第1閾値を超える極大値だけが検出される。第1閾値は、トレースライン中の最大値に係数α1(≦1.0)を乗じた値である。α1として、例えば、0.70、0.75、0.80といった数値があげられる。
【0048】
直前極小値検出部54は、直前極小値条件を満たす極小値を検出するものである。具体的には、本実施形態では、極大値の直前に存在する極小値であって、第2閾値よりも小さい極小値だけが直前極小値として検出される。第2閾値は、トレースライン中の最大値に係数α2(≦1.0)を乗じた値である。α2として、例えば、0.20、0.25、0.30といった数値があげられる。直前極小値が検出された場合、その直前極小値とそれに続く極大値とが極値ペアを構成する。極値ペアは、心拍期間内の最初の立ち上がり部分の両端を定義するものである。心拍期間内の他の特徴部分を特定するようにしてもよい。
【0049】
勾配演算部56は、極値ペア(つまり立ち上がり部分)ごとに評価値として勾配を演算するモジュールである。その際においては、除外条件に従って、勾配の演算対象となる極値ペアを絞り込むようにしてもよい。勾配に変えて、直前極小値と極大値との間における縦軸上の差分、直線距離、経路長、時間差等を評価値としてもよい。選抜部58は、演算された複数の勾配(勾配列)を大きい順に並べ替えるソート機能を有する。並べ替え後の勾配列の中から、上位一定割合k1の複数の勾配が取り出される。一定割合k1は、例えば、1割、2割又は3割である。取り出された複数の勾配(優良勾配と言い得る)に対応する複数の極値ペア(優良極値ペアと言い得る)が特定される。このように選抜方式を採用することにより、真である可能性の高い極値ペアだけが絞り込まれる。個々の極値ペアは、基準時相(心拍期間の始期)を特定するものであるから、この選抜は複数の有力な基準時相の絞り込みを意味する。絞り込まれた複数の基準時相を特定する情報が波形処理部44へ送られる。
【0050】
波形処理部44は、選抜された複数の基準時相及び演算された周期サンプルに基づいて、トレースラインに対して複数の切り出し区間を設定し、それらの中から波形部分を切り出す。また、切り出された複数の波形部分を合成することにより、トレース波形を生成する。各切り出し区間の時間長は、周期サンプルに対して係数k2(≦1.0)を乗ずることにより決定される。例えば、係数k2は、0.2〜0.8の範囲内において選択される。例えば0.5が選択される。トレースラインにおける個々の心拍期間に着目した場合、その前半において特徴的な波形部分が認められるので、本実施形態では、切り出し対象となった心拍期間における概ね前半に相当する波形部分が切り出される。切り出し区間の大きさを胎児週数等によって決める変形例、切り出し区間の大きさを一定値に固定する変形例等も考えられる。いずれの場合においても、トレースラインを前提とした場合、基準時相である始期から始まる、1心拍周期未満の区間として、切り出し区間を定めるのが望ましい。切り出された複数の波形部分は、基本的に、共通の又は類似した形態を有する。その形態は、トレースライン上において、繰り返し現れる形態である。複数の波形部分を合成する際には加算平均等の処理が実行される。合成後の波形に対して平滑化処理等を適用してもよい。
【0051】
以上のように生成されたテンプレートを利用してトレースラインに対する解析が実行される。その解析にはトレースラインを心拍期間ごとに区切る処理が含まれる。本実施形態によれば、トレースラインに含まれる周期的な形態を反映した高品位のテンプレートを生成できるので、トレースラインの解析精度を高められる。
【0052】
次に、
図5乃至
図12を用いて、テンプレートの生成等について、より具体的に説明する。
【0053】
図5には、前処理の一例が示されている。前処理は、テンプレート生成前にトレースライン62に対して実施される処理であって、必要に応じて実施されるものである。
図5には前処理としてのベースラインシフト70が示されている。具体的には、トレースライン62中において最小値64が特定され、その最小値64に一致するように、ベースライン66が上方又は下方へ平行に動かされる。
図5には、シフト後のベースライン68が示されている。このベースライン68は、トレースライン62の処理上、縦軸における0レベルを規定するものである。これにより各種の計算を簡易に行える。そのようなベースラインシフトを行うことなく、各種の計算を行うことも可能である。
【0054】
また、この段階において、マニュアルで又は自動的に、トレースライン62の一部分を処理対象として指定できるように構成してもよいし、あるいは、トレースライン62の一部分(例えば符号71で示す範囲)を処理対象から除外する指定を行えるように構成してもよい。
【0055】
図6には、前処理の他の例が示されている。図示の例では、トレースライン62Aがベースラインの負側に生じている。このような場合、トレースライン62Aを符号72で示すようにベースラインを中心として反転させ、反転後のトレースラインを処理対象としてもよい。
【0056】
図7には、時間窓ペアの作用が示されている。上段の(A)は処理開始時の状態を示しており、下段の(B)は処理途中(拡大途中)の状態を示している。両方とも同じトレースライン74が描かれている。処理開始時においては、最小の窓サイズτ-minが設定される。時間窓ペアは、第1時間窓W1と第2時間窓W2とからなる。それらは時間軸方向に連結されており、初期状態において、それぞれ最小の窓サイズτ-minを有する。ラインL0は第1時間窓W1の一方端位置を示しており、ラインL1は第1時間窓W1の他方端位置且つ第2時間窓W2の一方端位置を示しており、ラインL2は第2時間窓W2の他方端位置を示している。本実施形態では、第1時間窓W1の一方端位置(つまりラインL0)が固定されている。窓サイズの拡大に伴い、第1時間窓W1の他方端位置且つ第2時間窓W2の一方端位置(つまりラインL1)が紙面右方向に移動する。同時に、その2倍の移動量で、第2時間窓W2の他方端位置(つまりラインL2)が紙面右方向に移動する。時間窓ペア1回の移動当たり、増分ΔτだけラインL1が移動し、2×ΔτだけラインL2が移動する。(B)には、それぞれの時間窓W1,W2内に1周期に相当する波形部分が含まれている状態が示されている。時間窓W1,W2を特定する3つのラインL0,L1’,L2’が表されている。
【0057】
窓サイズごとに、時間窓W1に含まれる波形部分と時間窓W2に含まれる波形部分との間で相関演算が実行される。具体的には、上述したように、相関値として、規格化されたSADが演算される。他の相関値が演算されてもよい。(B)に示した状態において、相関値が最良となる(SADの場合、極小値となり、0に近付く)。なお、ラインL0が固定されていたが、他のラインが固定されてもよく、あるいは、必要に応じて、連接条件が満たされる限りにおいて時間窓ペアの全体を移動させてもよい。いずれの場合においても、窓サイズの変化に伴って、以下に説明する相関値の周期的な変化が得られる。
【0058】
図8には、相関値の変化が示されている。横軸は窓サイズτを表している。縦軸は規格化SADを示している。曲線80は、窓サイズτを徐々に拡大させた場合における相関値の変化を表すものである。曲線80には複数の谷が認められ、各谷の最下点(下ピーク)が特定される。複数の最下点における隣接相互間の幅(時間長)T1,T2,T3を平均化することにより、周期サンプルが演算される。単一の幅として、又は、単一の半値幅の2倍として、周期サンプルを取得するようにしてもよい。例えば、最初に極小値となった時点でのτから周期サンプルが特定されてもよい。1周期以外の周期(1/2周期等)を示す周期サンプルが取得されてもよい。ここでは目安としての周期が周期サンプルとして得られれば十分である。曲線80に平滑化処理を施したものが曲線82である。曲線82に基づいて周期サンプルが演算されてもよい。なお、曲線82の開始点が最小の窓サイズτ-minに相当している。
【0059】
図9には、極値ペアの検出方法が示されている。トレースライン84は、複数の心拍期間に対応した複数の単位波形の連なりとして構成されており、各単位波形は概ね2つの大きな山を有する(二峰性)。最初の山の手前に深い谷が存在しており、2つの山の間にも比較的に浅い谷が存在している。トレースライン84の下部には複数の小さい山が認められる。
【0060】
極値探索に先立って、トレースライン84の中で最大値86が特定され(図示の例では極大値90aが最大値であり、それが特定される)、それを基準として、第1閾値87が設定される。具体的には、最大値86に対して、係数α1(例えば0.75)を乗ずることによって、第1閾値87が算出される。これにより、最大値86から第1閾値87までの範囲として、極大値検出範囲88が定められる。同様に、最大値86に対して、係数α2(例えば0.25)を乗ずることによって、第2閾値100が定められる。これにより、最小値(最小値89にフィッティングされたベースラインに相当する0)から第2閾値100までの範囲として、直前極小値検出範囲102が定められる。
【0061】
以上を前提として、最初に、トレースライン84において、第1閾値87を超える極大値90a,90b,90c,90d,90e,90f,90gが検出される。第1閾値87を超えない極大値92は検出対象から除外される。通常、2つ目の山のピーク(極大値)は1つ目の山のピーク(極大値)よりも低いので、2つ目の山のピークが検出対象から除外される可能性を高められる。もっとも、図示のように、第1閾値を比較的に低く設定した場合や疾患例においては2つの目の山のピークも条件を満たす極大値として検出され得る。なお、閾値設定により、トレースラインの下部に存在する細かいピークは検出対象外となる。
【0062】
極大値検出後、あるいは、それと並行して直前極小値検出が実行される。具体的には、極大値の直前にある極小値であって、第2閾値100よりも小さい極小値が直前極小値94a,94b,94c,94dとして特定される。極小値96a,96b,96c,96dは、第2閾値100以上であるために検出対象から除外される。これにより、2つ目の山の前側の立ち上がり部分が検出対象とされてしまう可能性を低減できる。直前極小値94a,94b,94c,94dと、それらに対応する極大値90a,90b,90c,90d,90e,90f,90gと、の間でペアリングを行うことにより、複数の極値ペアが構成される。具体的には、本実施形態では、例えば、極値ペア(90a-94a)、極値ペア(90e-94a)、極値ペア(90b-94b)、極値ペア(90f-94b)、極値ペア(90c-94c)、極値ペア(90d-94d)、極値ペア(90g-94d)が構成される。この段階では、極値ペア(90a-94a)のような隣接関係にある極値ペアの他に、(90e-94a)のような非隣接関係にある極値ペアも特定され得る。もっとも、この段階において、極値ペア候補となった直前極小値と極大値との間に他の極大値が含まれる等の除外条件を適用することにより、非隣接関係にある隣接ペアを除外してもよい。
【0063】
続いて、極値ペアごとに勾配104a,104bが演算される。勾配104a,104bは、極値ペアを構成する直前極小値と極大値とを通過するラインの傾きである。複数の勾配が計算された後、それらが大きい順で並べ替えられる。つまりソートされる。並び換え後の上位k2(例えば2割)に含まれる複数の優良極値ペア(あるいは複数の優良直前極小値)が特定される。上位所定数だけを選抜するのは真である可能性の高いものだけを特定するためである。通常、1つ目の立ち上がりの勾配の方が2つ目の立ち上がりの勾配よりも急峻であるので、上記選抜によれば、2つ目の立ち上がりに相当するものが選ばれてしまう可能性を小さくできる。以上から、複数の基準時相として、複数の始期を特定することが可能となる。すべての心拍期間について始期が特定されるわけではなく、真である可能性が高いものだけが選ばれることになる。
【0064】
図10には、トレースライン106に関して、選抜された幾つかの勾配(極値ペア)110,112,114が示されている。各始期(直前極小値)を開始点とし、周期サンプルで特定される時間長を有する期間として、個々の心拍期間116A,116B,116Cが特定される。それらは目安となるものであり、つまり、切り出し区間の計算上の基礎となるものである。実際には、心拍期間116A,116B,116Cが有する時間長に対して係数k2を乗ずることにより、切り出し区間118A,118B,118Cの時間長が定められる。それらの切り出し区間118A,118B,118Cは、心拍期間116A,116B,116Cの始期からはじまる期間であり、概ね前半に相当する。図示の例では、各期間内に概ね2つの山が入っている。1つの山だけが入るように区間設定を行うことも可能である。
【0065】
図11には、トレースライン120に対して設定された目安としての心拍期間122、及び、切り出し区間124が示されている。符号126で示すように、切り出し区間124から波形部分128aが切り出される。他の複数の切り出し区間から複数の波形部分128b,128cが切り出される。それらの波形部分128a,128b,128cを加算平均することにより、テンプレート130が生成される。テンプレート130は、複数の切り出し区間内において認められる標準的な波形であって、トレースライン上において繰り返し現れる特徴的な形態が反映されたものである。合成後のテンプレートに対して平滑化処理を適用してもよい。
【0066】
図12には、トレースラインの解析処理が示されている。具体的には、
図12の上段にはトレースライン132が示されており、
図12の下段には相関値の変化を示す曲線134が示されている。上記のように生成されたテンプレート135を時間軸方向に移動させながら、各移動位置において、トレースライン132とテンプレート135との間で相関演算を実行することにより、曲線134が描かれる。ちなみに、図示の例では、順次設定されるテンプレートの先頭に対応する位置に相関値がプロットされている。
【0067】
曲線134には、幾つかの急峻な谷136が含まれる。各谷136の最下点(下ピーク)が最良相関値に相当している。複数の下ピークがそれぞれ心拍期間の区切りとなり、トレースライン132が心拍期間単位で区分される。ラインt1―t9はそれぞれ心拍期間の始期又は区切りを示している。なお、個々の心拍期間の区切りをマニュアルで修正できるように構成してもよい。
【0068】
各心拍期間が個別的に特定された後、必要に応じて、トレースラインに対する計測が実施される。例えば、特定の心拍期間について時間長T4が計測される。あるいは、各心拍期間について時間長が計測される。それらの計測結果から、瞬時心拍数又は平均心拍数が演算される。また必要に応じて、特定の心拍期間あるいはすべての心拍期間において、最初のピーク点がS点として検出され、2番目のピーク点がD点として検出され、それに続く極小値としてa点が検出される。ある心拍期間において検出されたS点と、1つ前の心拍期間において検出されたa点と、がベアリング対象となる。もちろん、すでに特定されている極大値及び直前極小値を援用するようにしてもよい。それらの点に基づいて別の計測値が演算されてもよい。
【0069】
上記実施形態によれば、テンプレートマッチングを利用して周期的に変動する波形を解析する場合において、その波形に適合したテンプレートを生成できる。特に、二峰性を有するトレースラインを解析する場合において、そのトレースラインに適合したテンプレートを生成できる。上述した極値ペア探索方法及び周期取得方法はそれぞれ単独で採用し得るものであり、また、それぞれを他の技術と組み合わせて利用することが可能である。
【0070】
上記で説明した各処理はいずれも例示に過ぎず、実際の装置構成に応じて、適宜修正することが可能である。上記実施形態において、トレースラインの端部についてまでテンプレートを利用したマッチング処理を適用したい場合には、例えば、テンプレートの時間軸方向サイズを小さくしてもよい。あるいは、トレースラインを見かけ上延長させてもよい。トレースライン以外の波形を解析対象としてもよい。例えば、時間軸上において周期的に変化する他の波形、あるいは、空間軸上において周期的に変化する波形を解析対象としてもよい。