特許第6793087号(P6793087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793087熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換材料用粉体、及び熱電変換材料の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793087
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換材料用粉体、及び熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/16 20060101AFI20201119BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   H01L35/16
   C01G19/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-90404(P2017-90404)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-142685(P2018-142685A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2020年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-104667(P2016-104667)
(32)【優先日】2016年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-39037(P2017-39037)
(32)【優先日】2017年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.電気通信回線(学会予稿集)を通じて公開 学会名:日本化学会 第97春季年会(2017) 掲載日:平成29年3月3日 掲載アドレス:https://nenkai.csj.jp/Proceeding/detail/year/2017/lecture_no/1A6−36 2.集会(学会)での発表による公開 集会名:日本化学会 第97春季年会(2017)、発表日:平成29年3月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発/熱電変換材料の技術シーズ発掘小規模研究開発/遷移金属硫化物ナノ粒子熱電変換材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 威夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】前之園 信也
(72)【発明者】
【氏名】小矢野 幹夫
【審査官】 西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−048730(JP,A)
【文献】 特開2016−039372(JP,A)
【文献】 特開2016−004988(JP,A)
【文献】 特開2012−059947(JP,A)
【文献】 特表2013−512311(JP,A)
【文献】 特開2015−017000(JP,A)
【文献】 特開平8−078733(JP,A)
【文献】 TAN, Qing et al.,Enhanced thermoelectric properties of earth-abundant Cu2SnS3 via Indoping effect,Journal of Alloys and Compounds,2016年 2月26日,Vol. 672,pp. 558-563,<DOI: 10.1016/j.jallcom.2016.02.185>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/16
C01G 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、スズ、及び硫黄を含み、
バナジウム、ニオブ、及びタンタルを含まず、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素全体における鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、及びマンガンの含有率の合計が5モル%以下であり、
200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有する、
熱電変換材料。
【請求項2】
銅、スズ、及び硫黄を含み、
バナジウム、ニオブ、及びタンタルを含まず、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素全体における鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、及びマンガンの含有率の合計が5モル%以下であり、
80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する、
熱電変換材料。
【請求項3】
100nm以下の結晶粒径を有する、請求項1又は2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
少なくとも請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電変換材料と、
前記熱電変換材料に接続された導体と、を備えた、
熱電変換素子。
【請求項5】
熱電変換材料用粉体であって、
銅、スズ、及び硫黄を含み、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素全体における鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、及びマンガンの含有率の合計が5モル%以下であり、
100nm以下の粒径を有する粒子を個数基準で80%以上含んでおり
前記熱電変換材料は、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有する、又は、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する、
熱電変換材料用粉体。
【請求項6】
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であるように、銅化合物、スズ化合物、及び硫黄化合物又は単体の硫黄を水中に添加しつつ混合して混合液を調製し、
150〜300℃の温度及び0.5〜9MPaの圧力の環境に前記混合液を所定期間置いて、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率又は80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する熱電変換材料の水熱合成を行う、
熱電変換材料の製造方法。
【請求項7】
前記硫黄化合物は、有機硫黄化合物である、請求項6に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項8】
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であるように、有機溶媒中に銅の塩化物、硝酸銅、酢酸銅、及び銅アセチルアセトナートからなる群より選ばれる少なくとも1つ、スズの塩化物、硝酸スズ、酢酸スズ、及びスズアセチルアセトナートからなる群より選ばれる少なくとも1つ、及び硫黄化合物及び/又は単体の硫黄を含む混合液を調製し、
不活性ガスで満たされた150〜350℃の温度の環境に前記混合液を所定期間置いて、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率又は80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する熱電変換材料の合成を行う、
熱電変換材料の製造方法。
【請求項9】
前記硫黄化合物は有機硫黄化合物である、請求項8に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項10】
前記有機硫黄化合物は液体有機硫黄化合物である、請求項9に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換材料用粉体、及び熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼーベック効果により材料両端の温度差によって電圧を生じさせ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する、又は、ペルチェ効果により電気エネルギーによって温度差を生じさせる熱電変換材料が知られている。熱電変換材料としては、熱エネルギーの高い方から低い方へ電子の移動により電流が生じるn型熱電変換材料と、正孔の移動により電流が生じるp型熱電変換材料とが存在する。
【0003】
近年、熱電変換材料として硫化物が注目されてきている。特に、銅とその他の金属を含む硫化物が熱電変換材料として注目されてきている。例えば、非特許文献1〜4には、それぞれ、Cu12-xNixSb413 tetrahedrite、Cu262632(M=Ge,Sn)
、Cu4InxSn1-x4(x=0-0.02)、並びに、銅、亜鉛、及びスズを含む硫化物(CZTS)の熱電特性が報告されている。また、特許文献1及び2には、銅及びチタンを含む硫化物である熱電変換材料が記載されている。このように、銅と銅以外の特定の金属を含む硫化物は熱電変換材料として望ましい特性を有することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−270907号公報
【特許文献2】特開2003−188425号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Applied Physics,(米), 2013, Vol. 113, 043712
【非特許文献2】Applied Physics Letters,(米), 2014, Vol.105, 132107
【非特許文献3】The Journal of Electronic Materials,(米), 2014, Vol. 43, No. 6, p. 2202-2205
【非特許文献4】Nano Letters,(米), 2012, Vol. 12, No. 2, p. 540-545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱電変換材料の熱電特性を向上させるためには、その熱電変換材料の熱伝導率が小さいことが望ましい。特に、熱電変換材料が使用される環境を考慮すると、200〜400℃における熱伝導率が小さいことが望ましい。熱電変換材料が使用される環境によっては、80〜200℃における熱電変換材料の格子熱伝導率が小さいことが望ましい。
【0007】
非特許文献1によれば、xの値が1.5であるCu12-xNixSb413 tetrahedriteは、200〜400℃(約473〜約673K)の範囲で1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有し、比較的高い無次元性能指数ZTを有している。また、非特許文献2によれば、Cu262632(M=Ge,Sn)は、200〜400℃の範囲で1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有している。しかし、非特許文献1及び2の材料は、Sb(アンチモン)又はV(バナジウム)などの毒性を有する金属を含む必要がある。
【0008】
非特許文献3によれば、Cu4InxSn1-x4(x=0-0.02)の200〜400℃におけ
る熱伝導率は不明であるが、x=0の場合、すなわち、Cu4SnS4の熱伝導率は、300
Kにおいて3.0W/(m・K)よりも大きく、温度の増加とともに上昇している。また、非特許文献4によれば、CZTSの熱伝導率は、200〜400℃において、1.0W/(m・K)よりも大きい。さらに、特許文献1及び2に記載の銅及びチタンを含む硫化物は、室温(28℃)及び700℃において、1.0W/(m・K)よりも大きい熱伝導率を有する。なお、In(インジウム)は毒性を有している。
【0009】
以上の事情に鑑み、本発明は、銅と比較的毒性の低い金属とを使用しつつ、200℃〜400℃において低い熱伝導率を有する熱電変換材料又は80〜200℃において低い格子熱伝導率を有する熱電変換材料を提供することを目的とする。本発明は、このような熱電変換材料を備えた熱電変換素子を提供することを目的とする。本発明は、このような熱電変換材料の製造に適した熱電変換材料用粉体を提供することを目的とする。本発明は、このような熱電変換材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
銅、スズ、及び硫黄を含み、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素
全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下であり、
200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有する、
熱電変換材料を提供する。
【0011】
本発明は、
銅、スズ、及び硫黄を含み、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素
全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下であり、
80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する、
熱電変換材料を提供する。
【0012】
本発明は、
少なくとも上記のいずれかの熱電変換材料と、
上記の熱電変換材料に接続された導体と、を備えた
熱電変換素子を提供する。
【0013】
本発明は、
銅、スズ、及び硫黄を含み、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素
全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下であり、
100nm以下の粒径を有する粒子を個数基準で80%以上含んでいる、熱電変換材料用粉体を提供する。
【0014】
また、本発明は、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であるように、銅化合物
、スズ化合物、及び硫黄化合物又は単体の硫黄を水中に添加しつつ混合して混合液を調製し、
150〜300℃の温度及び0.5〜9MPaの圧力の環境に前記混合液を所定期間置いて熱電変換材料の水熱合成を行う、
熱電変換材料の製造方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、
銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であるように、有機溶媒
中に銅化合物、スズ化合物、及び硫黄化合物及び/又は単体の硫黄を含む混合液を調製し、
不活性ガスで満たされた150〜350℃の温度の環境に前記混合液を所定期間置いて熱電変換材料の合成を行う、
熱電変換材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銅と毒性の少ない金属であるスズとを使用しつつ、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満という低い熱伝導率を有する熱電変換材料を提供できる。また、このような特性を有する熱電変換材料を有利に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、本発明に係る熱電変換素子の一例を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明に係る熱電変換素子の別の一例を示す断面図である。
図2A図2Aは、実施例2に係る熱電変換材料用粉体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図2B図2Bは、実施例3に係る熱電変換材料用粉体のTEM写真である。
図2C図2Cは、実施例4に係る熱電変換材料用粉体のTEM写真である。
図2D図2Dは、実施例5に係る熱電変換材料用粉体のTEM写真である。
図3図3は、実施例2に係るサンプルのHigh Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy(HAADF‐STEM)写真である。
図4A図4Aは、実施例1に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図4B図4Bは、実施例2に係るサンプルのX線回折パターンを示すグラフである。
図5A図5Aは、実施例2に係る熱電変換材料用粉体のX線回折パターンを示すグラフである。
図5B図5Bは、実施例3に係る熱電変換材料用粉体のX線回折パターンを示すグラフである。
図5C図5Cは、実施例4に係る熱電変換材料用粉体のX線回折パターンを示すグラフである。
図5D図5Dは、実施例5に係る熱電変換材料用粉体のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0019】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は、銅、スズ、及び硫黄を含んでいる。すなわち、本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は、複合金属硫化物である。熱電変換材料は、複合金属硫化物であれば特に限定されず、結晶であっても、アモルファスであってもよい。熱電変換材料が結晶である場合、その結晶の構造は特に限定されず、例えば、閃亜鉛鉱型構造、ウルツ鉱型構造、又はこれら以外の構造であってもよい。熱電変換材料が結晶である場合、その結晶の構造は、望ましくは、少なくとも閃亜鉛鉱型構造及びウルツ鉱型構造のいずれか一方又は両方を含んでいる。この場合、熱電変換材料の結晶が常温から400℃程度の温度範囲において安定である。本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料において、銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5である。比A/Bは、望ましくは1〜2.5であり、より望ましくは1.7〜2.3である。また、本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料において、金属元素全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下である。本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料において、金属元素全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率は、例えば4モル%以下である。本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は、銅及びスズ以外の金属元素を実質的に含んでいなくてもよい。また、本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有する。本明細書において、「実質的に含んでいない」とは、原料又は生産設備などの生産上の理由で不可避的に特定の金属元素が混入してしまう場合を除き意図的に特定の金属を含有させないことを意味する。
【0020】
本発明の第1実施形態に係る熱電変換材料は、金属元素全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下であるので、毒性のある金属元素をほとんど含んでいない。銅及びスズは、食器にも使用されているように毒性がほとんどない金属元素である。なお、熱電変換材料は、望ましくは、アンチモン、バナジウム、及びインジウムを実質的に含んでいない。熱電変換材料は、より望ましくは、アンチモン、バナジウム、及びインジウムを全く含んでいない。
【0021】
熱電変換材料の性能を示す指標の一つとして無次元性能指数ZTが知られている。ここで、Zは性能指数を意味し、K-1の次元を有する。また、Tは絶対温度を意味する。無次元性能指数ZTの値が大きいほど、熱電変換材料が高い性能を示す。熱電変換材料の無次元性能指数ZTは、以下の式(1)で定義される。α、σ、及びκは、それぞれ、熱電変換材料の、ゼーベック係数、電気伝導率、及び熱伝導率を意味する。
ZT=α2σT/κ (1)
【0022】
式(1)から分かるように、熱電変換材料の無次元性能指数ZTを向上させるためには、熱伝導率κを低減させることが望ましい。本発明に係る熱電変換材料は、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有し、高い熱電性能を実現する観点から望ましい熱伝導率を有する。
【0023】
第1実施形態に係る熱電変換材料は、例えば100nm以下の結晶粒径を有することが好ましく、具体的には、さらに、熱電変換材料を構成する粒子の結晶粒径の個数基準の平均値が100nm以下であることが好ましく、5nm以上であることが好ましい。熱電変換材料を構成する粒子の結晶粒径の80%以上が100nm以下であることがより一層好ましい。これにより、第1実施形態に係る熱電変換材料は、より確実に、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を達成しやすくなる。熱電変換材料の結晶粒径は、例えば、High Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy(HAADF‐STEM)又はElectron Back-Scatter Diffraction Pattern(EBSD)の方位マッピング像測定によって熱電変換材料の結晶粒界を観察することによって決定できる。個々の粒子の結晶粒径は、面積円相当径である。
【0024】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る熱電変換材料は、銅、スズ、及び硫黄を含んでいる。すなわち、第2実施形態に係る熱電変換材料は、複合金属硫化物である。熱電変換材料は、複合金属硫化物であれば特に限定されず、結晶であっても、アモルファスであってもよい。熱電変換材料が結晶である場合、その結晶の構造は特に限定されず、例えば、閃亜鉛鉱型構造、ウルツ鉱型構造、又はこれら以外の構造であってもよい。熱電変換材料が結晶である場合、その結晶の構造は、望ましくは、少なくとも閃亜鉛鉱型構造及びウルツ鉱型構造のいずれか一方又は両方を含んでいる。この場合、熱電変換材料の結晶が常温から400℃程度の温度範囲において安定である。第2実施形態に係る熱電変換材料において、銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5である。比A/Bは、望ましくは1〜2.5であり、より望ましくは1.7〜2.3である。また、本発明の第2実施形態に係る熱電変換材料において、金属元素全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下である。第2実施形態に係る熱電変換材料は、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する。
【0025】
式(1)に示す熱伝導率κは、キャリア熱伝導率κcarと格子熱伝導率κlatの和として表すことができる。熱電変換材料の性能を高めるためには、特に電気伝導率に無関係な物性値である格子熱伝導率κlatを低減することが望ましい。第2実施形態に係る熱電変換材料は、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有するので、第2実施形態に係る熱電変換材料は、高い性能を発揮しやすい。
【0026】
第2実施形態に係る熱電変換材料において、金属元素全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率は、望ましくは1〜5モル%であり、より望ましくは1〜4モル%であり、さらに望ましくは2〜4モル%である。これにより、熱電変換材料の電気伝導率を大きく損なうことなく熱電変換材料の格子熱伝導率κlatを低減しやすい。例えば、金属元素全体における銅およびスズ以外の金属元素の含有率が5モル%を超えると、結晶構造が変化して電気伝導率が低下してしまう可能性がある。また、金属元素全体における銅およびスズ以外の金属元素の含有率が1モル%未満であると電気伝導率が低くなってしまい、熱電変換材料としての性能が低下してしまう可能性がある。
【0027】
第2実施形態に係る熱電変換材料が銅及びスズ以外の金属元素を含む場合、その金属元素は、例えば、鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、及びマンガンからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。これにより、熱電変換材料の格子熱伝導率κlatをより確実に低減しやすい。第2実施形態に係る熱電変換材料は、望ましくは、銅及びスズ以外の金属元素として鉄、コバルト及び亜鉛の少なくとも一つを含む。
【0028】
第2実施形態に係る熱電変換材料は、典型的には、アンチモン、バナジウム、及びインジウムを実質的に含んでおらず、望ましくは、アンチモン、バナジウム、及びインジウムを全く含んでいない。また、第2実施形態に係る熱電変換材料は、銅及びスズ以外の金属元素を実質的に含んでいなくてもよい。
【0029】
第2実施形態に係る熱電変換材料は、例えば100nm以下の結晶粒径を有することが好ましく、具体的には、さらに、熱電変換材料を構成する粒子の結晶粒径の個数基準の平均値が100nm以下であることが好ましく、5nm以上であることが好ましい。熱電変換材料を構成する粒子の結晶粒径の80%以上が100nm以下であることがより一層好ましい。これにより、第1実施形態に係る熱電変換材料は、より確実に、比較的低温である、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を達成しやすくなる。結晶粒径が大きいとκlatが温度の逆数に比例し、ウムクラップ過程による散乱が支配的であるのに対し、結晶粒径が100nm以下まで小さくなるとκlatが温度の逆数に比例せず、ナノグレインによって短波長フォノンがうまく散乱されるためである。個々の粒子の結晶粒径は、面積円相当径である。
【0030】
<熱電変換素子>
第1実施形態に係る熱電変換材料又は第2実施形態に係る熱電変換材料を用いて、熱電変換素子を作製できる。熱電変換素子は、例えば、少なくとも第1実施形態に係る熱電変換材料又は第2実施形態に係る熱電変換材料と、熱電変換材料に接続された導体とを備えている。
【0031】
図1Aに示す通り、熱電変換素子1は、例えば、複数の第一熱電変換材料10と、第一熱電変換材料10と交互に配置された複数の第二熱電変換材料20と、隣り合う第一熱電変換材料10と第二熱電変換材料20とを接続する導体30とを備えている。例えば、複数の第一熱電変換材料10及び複数の第二熱電変換材料20は、導体30によって直列に接続されている。第一熱電変換材料10は、第1実施形態に係る熱電変換材料又は第2実施形態に係る熱電変換材料である。一方、第二熱電変換材料20は、熱電変換素子に使用可能な公知のn型半導体である。図1Aに示す通り、導体10は、例えば所定の基板40a又は基板40b上に配置されている。基板40a及び基板40bのそれぞれは、例えば高い熱伝導率を有するセラミック製の基板である。
【0032】
図1Bに示す通り、熱電変換素子2は、例えば、複数の第一熱電変換材料50と、隣り合う第一熱電変換材料50同士を接続する導体60とを備えている。例えば、複数の第一熱電変換材料50は、導体60によって直列に接続されている。第一熱電変換材料50は、第1実施形態に係る熱電変換材料又は第2実施形態に係る熱電変換材料である。図1Bに示す通り、導体50は、例えば所定の基板70a又は基板70b上に配置されている。基板70a及び基板70bのそれぞれは、例えば高い熱伝導率を有するセラミック製の基板である。
【0033】
<熱電変換材料の製造方法>
本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る熱電変換材料は、例えば、所定の熱電変換材料用粉体を所定の形状に成形した後に成形体を焼結することによって製造できる。これにより、様々な形状の熱電変換材料を製造できる。本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る熱電変換材料の形状は、例えば、直方体状、平板及び円板等の板状、円柱及び角柱等の柱状、又は円筒及び角筒等の筒状である。熱電変換材料用粉体は、例えば、(i)銅、スズ、及び硫黄を含み、(ii)銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であり、かつ、金属元素全体における銅及びスズ以外の金属元素の含有率が5モル%以下であり、(iii)100nm以下の粒径を有する粒子を個数基準で80%以上含んでいる。このような熱電変換材料用粉体を用いることにより、所望の熱伝導率又は格子熱伝導率を有する熱電変換材料を製造できる。特に、熱電変換材料用粉体が上記(iii)のように100nm以下の均一なサイズの粒子を有すると、熱電変換材料用粉体の成形体を均一に焼結できる。また、熱電変換材料用粉体の成形体の焼結温度を低減できる。これにより、所望の熱伝導率又は格子熱伝導率を有する熱電変換材料を製造できる。なお、熱電変換材料用粉体は熱電変換特性を有するので、熱電変換材料用粉体自体が熱電変換材料ということもできる。なお、熱電変換材料用粉体自体の熱伝導率を測定することは困難であるので、熱電変換材料用粉体を所定の形状に成形した後に成形体を焼結することによって熱電変換材料を製造する場合、熱電変換材料の熱伝導率は焼結体の熱伝導率を意味する。
【0034】
上記の(iii)に関し、熱電変換材料用粉体の個数基準の粒径分布は、熱電変換材料用粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、250個以上の粉体粒子の粒径を計測することによって決定できる。なお、各粉体粒子の粒径は最大径(長軸径ともいう)を意味する。
【0035】
上記の(iii)に関し、熱電変換材料用粉体は、100nm以下の粒径を有する粒子を個数基準で、望ましくは90%以上含み、より望ましくは95%以上含んでいる。熱電変換材料用粉体は、80nm以下の粒径を有する粒子を個数基準で、例えば80%以上含み、望ましくは90%以上含み、より望ましくは95%以上含んでいる。熱電変換材料用粉体は、60nm以下の粒径を有する粒子を個数基準で、例えば80%以上含み、望ましくは90%以上含み、より望ましくは95%以上含んでいる。熱電変換材料用粉体は、10nm〜50nmの粒径を有する粒子を個数基準で、例えば80%以上含み、望ましくは90%以上含み、より望ましくは95%以上含んでいる。
【0036】
所定の熱電変換材料用粉体を所定の形状に成形した後に成形体を焼結することによって第1実施形態及び第2実施形態に係る熱電変換材料を製造する場合、焼結体の密度は例えば理論密度の80%以上である。なお、理論密度は、材料が単結晶であると仮定したときの密度である。焼結体の密度は望ましくは85%以上であり、より望ましくは90%以上である。焼結体の密度が理論密度の80%以上であると、焼結体の機械的強度が高く、焼結体の電気伝導率も高まりやすい。このため、熱電変換材料を実用に供しやすい。
【0037】
本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る熱電変換材料の製造方法の一例について説明する。まず、銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であるように、銅化合物、スズ化合物、及び硫黄化合物又は単体の硫黄を水中に添加しつつ混合して混合液を調製する。次に、150〜300℃の温度及び0.5〜9MPa(メガパスカル)の圧力の環境にその混合液を所定期間置いて水熱合成を行う。これにより、本発明に係る熱電変換材料を製造できる。すなわち、このような製造方法によれば、アンチモン、バナジウム、及びインジウム等の金属元素を含有させなくても、200〜400℃において10W/(m・K)未満の熱伝導率を有する熱電変換材料を製造できる。また、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する熱電変換材料を製造できる。
【0038】
上記の製造方法における銅化合物は、例えば、CuCl及びCuCl2等の塩化物、Cu(NO32等の硝酸銅、又はCu(CH3COO)及びCu(CH3COO)2等の酢酸銅である。上記の製造方法におけるスズ化合物は、例えば、SnCl2及びSnCl4等の塩化物、硝酸スズ、又は酢酸スズである。上記の製造方法における硫黄化合物は、例えば、チオ尿素及びチオアセトアミド等の有機硫黄化合物である。また、熱電変換材料が銅及びスズ以外の金属元素を含む場合、その金属元素の供給源として、例えば、塩化物、硝酸塩、及び酢酸塩などの化合物を用いることができる。混合液の調製は、例えば、常温(20℃±15℃:日本工業規格JIS Z 8703)及び常圧の環境で行われる。
【0039】
上記の製造方法における水熱合成が行われる環境の温度は、望ましくは170〜280℃であり、より望ましくは180〜250℃である。また、この環境の圧力は、望ましくは0.8〜7.5MPaであり、より望ましくは1〜5MPaである。
【0040】
上記の製造方法において、150〜300℃の温度及び0.5〜9MPaの圧力の環境を保つ期間は、例えば、4時間〜100時間である。
【0041】
本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る熱電変換材料の製造方法の別の一例について説明する。まず、銅の原子数Aとスズの原子数Bとの比A/Bが0.5〜2.5であるように、有機溶媒中に銅化合物、スズ化合物、及び硫黄化合物及び/又は単体の硫黄を含む混合液を調製する。次に、不活性ガスで満たされた150〜350℃の温度の環境にその混合液を所定期間置いて熱電変換材料の合成を行う。このようにしても、本発明に係る熱電変換材料を製造できる。すなわち、このような製造方法によれば、アンチモン、バナジウム、及びインジウム等の金属元素を含有させなくても、200〜400℃において1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有する熱電変換材料を製造できる。また、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有する熱電変換材料を製造できる。
【0042】
この製造方法において、銅化合物及びスズ化合物として、水熱合成に係る上記の製造方法で例示した化合物を用いることができる。また、銅化合物及びスズ化合物として、有機溶媒に可溶な銅アセチルアセトナート及びスズアセチルアセトナート等の錯体化合物を用いることもできる。混合液に硫黄化合物が含まれる場合、その硫黄化合物は、例えば、(i)オクタンチオール、デカンチオール、及びドデカンチオール等のチオール、(ii)オクタンジチオール、デカンジチオール、及びドデカンジチオール等のジチオール、(iii)チオ尿素、又は(iv)チオアセトアミド等の有機硫黄化合物である。有機硫黄化合物は、望ましくは、チオール等の液体有機硫黄化合物である。この場合、混合液において、液体有機硫黄化合物が有機溶媒としての役割を果たすことができる。混合液には、液体有機硫黄化合物以外の液体有機化合物が含まれてもよい。そのような液体有機化合物としては、例えば、(i)オレイルアミン等のアミン、(ii)ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、及びオレイン酸等の不飽和脂肪酸、又は(iii)エチレングリコール、トリエチレングリコール、及びテトラエチレングリコール等の多価アルコールを挙げることができる。また、熱電変換材料が銅及びスズ以外の金属元素を含む場合、その金属元素の供給源として、水熱合成に係る上記の製造方法で例示した化合物を用いることができる。また、有機溶媒に可溶なアセチルアセトナート等の金属錯体化合物を用いることもできる。混合液の調製は、例えば、常温及び常圧の環境で行われる。
【0043】
この製造方法において使用される不活性ガスは、混合液に対し不活性である限り特に制限されないが、例えば、アルゴン等の希ガス又は窒素である。混合液が置かれる環境における圧力は、望ましくは常圧である。
【0044】
この製造方法において、不活性ガスで満たされた150〜350℃の温度の環境を保つ期間は、例えば長くとも2時間程度である。
【0045】
上記のいずれかの製造方法によって製造された熱電変換材料は、必要に応じて焼結される。なお、合成された熱電変換材料の表面には、製造工程に由来する不純物が付着していることがあるので、必要に応じて、焼結工程の前に、表面処理剤の交換、洗浄、又は仮焼成などの公知の方法で不純物を熱電変換材料から取り除かれる。特に、表面処理剤の沸点が高い場合、表面処理剤が難分解性である場合、又は表面処理剤が長い炭素鎖を有する場合には、焼結体を作製する際に不純物が残留し、粒子間に空隙ができてしまう場合がある。そこで、表面処理剤を、短いアルキル鎖を有する表面処理剤、低沸点の表面処理剤、又は易分解性の表面処理剤に予め交換しておくことが好ましい。具体的には、焼結温度以下で気化又は分解される表面処理剤に交換すればよい。例えば本材料系においては300℃以下で気化又は分解する表面処理剤に交換することが好ましく、250℃以下で気化又は分解する表面処理剤に交換することが好ましい。また、交換後の表面処理剤の1分子に含まれる炭素原子の数は、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下である。
【0046】
熱電変換材料は、例えば、所定の形状の型に充填され、加圧されながら焼結される。このように、熱電変換材料を加圧しながら焼結する方法としては、例えば、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)を用いることができる。熱電変換材料の焼結温度は、例えば、150℃〜1500℃であり、望ましくは、200℃〜1000℃である。焼結時間は、例えば、0分〜10分であり、望ましくは、0〜5分である。また、焼結工程の開始から焼結工程中の最高温度に到達するまでに必要な昇温時間は、例えば、2分〜10分である。例えば、熱電変換材料が充填された型の内部の温度を上記の昇温速度で最高温度まで昇温させ、型の内部の温度を最高温度で所定の時間(焼結時間)だけ維持し、その後加熱を停止して焼結体を自然冷却させる。焼結工程中に合成された熱電変換材料を加圧する圧力は、例えば、0.5MPa〜100MPaであり、望ましくは、5MPa〜50MPaである。ペレットのサイズが大きい場合又はペレットの機械的強度を高くする必要がある場合には、均一な焼結体を得るために、焼結時間又は昇温時間をさらに長くすることが好ましい。この焼結工程は、不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気において行うことができる。この焼結工程は、望ましくは真空雰囲気で行われる。このようにして、熱電変換材料を所望の形状に成形して、機械的強度を高めることができると同時に、ナノ粒子のグレインを残したまま焼結できる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0048】
<実施例1>
CuCl233.3mmol(ミリモル)、SnCl416.6mmol、チオ尿素150mmol、及び水100ml(ミリリットル)を混合して撹拌し、CuCl2、SnCl4、及びチオ尿素が均一に溶解した混合液Aを得た。次に、HIRO COMPANY製の水熱合成反応装置の内部の200mlの容積を有する反応器に混合液Aを入れて、1.5MPaの圧力及び190℃の温度の環境で72時間水熱合成を行った。その後、反応器から実施例1に係る熱電変換材料である黒色粉体(実施例1に係る熱電変換材料用粉体)を取り出した。次に、750mgの黒色粉体を直径10mmのダイに充填し、放電プラズマ焼結装置(シンターランド社製、型番:LABOX−125)を用いて、40MPaで加圧しながら真空中で焼結を行った。放電プラズマ焼結装置の通電加熱によって、100℃/分の昇温速度でダイの内部の温度を450℃まで上昇させた。その後50℃/分の昇温速度でダイの内部の温度を500℃まで上昇させ、ダイの内部の温度を500℃で2分間維持した。その後、放電プラズマ焼結装置の通電加熱を停止し、自然冷却により焼結体を室温まで冷却し、ダイから円盤状の焼結体を取り出した。次に、回転研磨機(マルトー社製、製品名:ML-160A、JIS R 6001:1998に基づく粒度:#2000)を用いて焼結体の両面を研磨し、約2mmの厚さを有する実施例1に係るサンプルを作製した。実施例1に係るサンプルの金属元素組成を蛍光X線分析装置(リガク社製、製品名:ZSX PrimusII)を用いて測
定した。その結果、実施例1に係るサンプルは、金属元素として、67mol%のCu及び33mol%のSnを含んでいた。得られた焼結体の密度は理論密度の94%であった。
【0049】
<実施例2>
硝酸銅0.2mmol、酢酸スズ0.1mmol、ドデカンチオール10ml、及びオレイルアミン10mlを混合して撹拌し、硝酸銅及び酢酸スズが均一に分散した混合液Bを得た。次に、アルゴンガスで満たされた空間に混合液Bの入った容器を置き、混合液Bを260℃に加熱しつつ1時間撹拌した。容器の中には、実施例2に係る粉体状の熱電変換材料が合成されていた。その後、容器から実施例2に係る熱電変換材料である粉体(実施例2に係る熱電変換材料用粉体)を取り出した。この合成を何度か繰り返し、その粉体を実施例1と同様にして放電プラズマ焼結装置で焼結し、その焼結体を実施例1と同様にして回転研磨機で研磨した。このようにして、約2mmの厚さを有する実施例2に係るサンプルを作製した。実施例2に係るサンプルの金属元素組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP‐OES)装置(島津製作所社製、製品名:ICPS-7000)を用いて測定した。その結果、実施例2に係るサンプルは、金属元素として、67mol%のCu及び33mol%のSnを含んでいた。得られた焼結体の密度は、理論密度の94%であった。
【0050】
<実施例3>
硝酸銅4.0mmol、酢酸スズ1.8mmol、酢酸亜鉛0.2mmol、ドデカンチオール100ml、及びオレイルアミン100mlを混合して撹拌し、硝酸銅及び酢酸スズが均一に分散した混合液Cを得た。次に、アルゴンガスで満たされた空間に混合液Cの入った容器を置き、混合液Cを260℃に加熱しつつ1時間撹拌することにより粒子が析出した液体が得られた。このようにして得られた液体に、メタノールを加え、5000rpmで5分間遠心分離処理を行って、沈殿物を回収した。回収した沈殿物をヘキサン及びメタノールで洗浄した。その後、得られた沈殿物を50mlのトルエン中に分散させ、この分散液を2.5gのチオ尿素をメタノールに溶解させた溶液と混合し、この混合液を超音波処理にかけ、表面処理剤を置換した。その後、ヘキサン、メタノール、及びトルエンで固形物を洗浄し、さらに、真空乾燥器を用いて固形物を真空乾燥させた。このようにして、実施例3に係る熱電変換材料用粉体が得られた。この合成を何度か繰り返し、実施例3に係る熱電変換材料用粉体を実施例1と同様にして放電プラズマ焼結装置で焼結し、その焼結体を実施例1と同様にして回転研磨機で研磨した。このようにして、約2mmの厚さを有する実施例3に係るサンプルを作製した。実施例3に係るサンプルの金属元素組成をICP‐OES装置(島津製作所社製、製品名:ICPS-7000)を用いて測定した。その結果、実施例3に係るサンプルは、金属元素として、65mol%のCu、31mol%のSn、及び4mol%のZnを含んでいた。得られた焼結体の密度は、理論密度の97%であった。
【0051】
<実施例4>
酢酸亜鉛の代わりに、0.2mmolの酢酸鉄(II)を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例4に係る熱電変換材料用粉体を得た。また、実施例4に係る熱電変換材料用粉体を実施例1と同様にして放電プラズマ焼結装置で焼結し、その焼結体を実施例1と同様にして回転研磨機で研磨した。このようにして、約2mmの厚さを有する実施例4に係るサンプルを作製した。実施例4に係るサンプルの金属元素組成をICP‐OES装置(島津製作所社製、製品名:ICPS-7000)を用いて測定した。その結果、実施例4に係るサンプルは、金属元素として、66mol%のCu、30mol%のSn、及び4mol%のFeを含んでいた。得られた焼結体の密度は、理論密度の97%であった。
【0052】
<実施例5>
酢酸亜鉛の代わりに、0.2mmolのコバルトアセチルアセトナートを用い、洗浄溶媒としてメタノールの代わりにエタノールを使用した以外は、実施例3と同様にして、実施例5に係る熱電変換材料用粉体を得た。また、実施例5に係る熱電変換材料用粉体を実施例1と同様にして放電プラズマ焼結装置で焼結し、その焼結体を実施例1と同様にして回転研磨機で研磨した。このようにして、約2mmの厚さを有する実施例5に係るサンプルを作製した。実施例5に係るサンプルの金属元素組成をICP‐OES装置(島津製作所社製、製品名:ICPS-7000)を用いて測定した。その結果、実施例5に係るサンプルは、金属元素として、61mol%のCu、35mol%のSn、及び4mol%のCoを含んでいた。得られた焼結体の密度は、理論密度の94%であった。
【0053】
<比較例>
銅の粉末1.11g、スズの粉末1.04g、及び硫黄の粉末0.84gをレッチェ社製の遊星ボールミルに入れて、300rpm(revolutions per minute)で9分間回転した後1分間停止する動作を3時間繰り返して粉体を得た。得られた粉体を実施例1と同様にして放電プラズマ焼結装置で焼結し、その焼結体を実施例1と同様にして回転研磨機で研磨した。このようにして、約2mmの厚さを有する比較例に係るサンプルを作製した。得られた焼結体の密度は、理論密度の93%であった。
【0054】
<熱伝導率の測定>
実施例1に係るサンプルを用いて20℃、101℃、201℃、300℃、及び400℃における熱伝導率を測定した。実施例2に係るサンプルを用いて、20℃、98℃、195℃、296℃、及び396℃における熱伝導率を測定した。実施例3に係るサンプルを用いて75℃、125℃、175℃、225℃、275℃、325℃、及び375℃における熱伝導率を測定した。実施例4に係るサンプルを用いて78℃、125℃、174℃、223℃、271℃、321℃、及び369℃における熱伝導率を測定した。実施例5に係るサンプルを用いて101℃、148℃、197℃、245℃、294℃、344℃、及び392℃における熱伝導率を測定した。また、比較例に係るサンプルを用いて20℃、101℃、201℃、300℃、及び400℃における熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定には、レーザーフラッシュ法熱物性測定装置(京都電子工業社製、製品名:LFA-502)を用いた。結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例1及び2に係るサンプルは、200〜400℃において、1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有していた。また、実施例3〜5に係るサンプルは、200〜400℃において、1.0W/(m・K)未満の熱伝導率を有していた。これに対し、比較例に係るサンプルは、200〜400℃において、1.0W/(m・K)を超える熱伝導率を有していた。
【0055】
<電気伝導率の測定>
実施例1〜5及び比較例に係るサンプルを用いて、熱伝導率の測定温度における電気伝導率σを測定した。実施例1〜5及び比較例に係るサンプルに関する電気伝導率σの測定には、熱電特性評価装置(オザワ科学社製、製品名:RZ2001i)又は熱電特性評価装置(アルバック理工社製、製品名:ZEM-3)を用いた。不純物がサンプルの表面に付着している可能性があるので、測定前にサンプルに対し一度400℃まで昇温する前処理を行い、その後測定を行った。
【0056】
<キャリア熱伝導率及び格子熱伝導率の決定>
実施例1〜5及び比較例に係るサンプルに関する電気伝導率σの結果から、下記のWiedemann-Franzの式を用いて実施例1〜5及び比較例に係るサンプルの熱伝導率の測定温度におけるキャリア熱伝導率κcarを算出した。ここで、Lはローレンツ数:2.44×10-8WΩK-2を意味する。実施例1〜5及び比較例に係るサンプルの熱伝導率の測定温度におけるキャリア熱伝導率κlatを、熱伝導率からキャリア熱伝導率κcarを差し引いて決定した。結果を表1に示す。
κcar=LσT
【0057】
表1に示す通り、実施例1〜5に係るサンプルは、80〜200℃において0.8W/(m・K)未満の格子熱伝導率を有することが確認された。一方、比較例に係るサンプルは、例えば、101℃において、0.8以上の格子熱伝導率を有していた。
【0058】
<熱電変換材料用粉体の粒径分布測定>
実施例2〜5に係る熱電変換材料用粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ社製、製品名:H-7100又はH-7650)を用いて観察した。実施例2〜5に係る熱電変換材料用粉体のTEM写真を図2A図2B図2C、及び図2Dにそれぞれ示す。得られた実施例2〜5に係る熱電変換材料用粉体のTEM画像から250個以上の粉体粒子の個数基準の粒径分布及び個数基準の平均粒径(Mean diameter)を決定した。個々の粉体粒子においてその最大径(長軸径)を粒子径と定めた。表2に結果を示す。
【0059】
<結晶粒界の観察>
実施例2に係るサンプルにおける結晶粒界をHAADF―STEMによって観察した。実施例2に係るサンプルのHAADF―STEM写真を図3に示す。図3より、実施例2に係るサンプルは100nm以下の結晶粒径を有していた。
【0060】
<X線回折>
X線回折装置(リガク社製、製品名:MiniFlex600)を用いて、実施例1及び2に係るサンプルのX線回折パターンを得た。X線としてCuKα線を用いた。実施例1及び2に係るサンプルのX線回折パターンを、図4A及び図4Bにそれぞれ示す。実施例1及び2に係るサンプルの結晶構造は主として閃亜鉛鉱型構造であることが確認された。X線回折装置(リガク社製、製品名:MiniFlex600)を用いて、実施例2〜5に係る熱電変換材料用粉体のX線回折パターンを得た。X線としてCuKα線を用いた。実施例2〜5に係る熱電変換材料用粉体のX線回折パターンを、図5A図5B図5C、及び図5Dに示す。実施例2〜5に係る熱電変換材料用粉体の結晶構造は主としてウルツ鉱型構造であることが確認された。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D