(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記機能層は、Cr、Ti、V、Nb、Ta、Ni、Y、Zr、Hf、Si、C、Zn、Cu、Bi、Fe、Mo、W、Ru、Rh、Re、Os、Ir、Pt、Pd、Ag、Au、Co、Mn、Alからなる群から選択される1種若しくは複数種の金属、前記群の何れかの金属の合金、又は、前記群の何れかの金属の化合物を含む請求項1に記載のひずみゲージ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図1のA−A線に沿う断面を示している。
図1及び
図2を参照するに、ひずみゲージ1は、基材10と、機能層20と、抵抗体30と、端子部41とを有している。
【0011】
なお、本実施の形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置することができる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0012】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm〜500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm〜200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0013】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成することができる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0014】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0015】
機能層20は、基材10の上面10aに抵抗体30の下層として形成されている。すなわち、機能層20の平面形状は、
図1に示す抵抗体30の平面形状と略同一である。機能層20の厚さは、例えば、1nm〜100nm程度とすることができる。
【0016】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である抵抗体30の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層20は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗体30の酸化を防止する機能や、基材10と抵抗体30との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層20は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0017】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に抵抗体30がCr(クロム)を含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層20が抵抗体30の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0018】
機能層20の材料は、少なくとも上層である抵抗体30の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0019】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si
3N
4、TiO
2、Ta
2O
5、SiO
2等が挙げられる。
【0020】
抵抗体30は、機能層20の上面に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。なお、
図1では、便宜上、抵抗体30を梨地模様で示している。
【0021】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Ni−Cu(ニッケル銅)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni−Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0022】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr
2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。又、Cr混相膜に、機能層20を構成する材料の一部が拡散されてもよい。この場合、機能層20を構成する材料と窒素とが化合物を形成する場合もある。例えば、機能層20がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0023】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm〜2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α−Crの結晶性)が向上する点で好ましく、1μm以下であると抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0024】
機能層20上に抵抗体30を形成することで、安定な結晶相により抵抗体30を形成できるため、ゲージ特性(ゲージ率、ゲージ率温度係数TCS、及び抵抗温度係数TCR)の安定性を向上することができる。
【0025】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、機能層20を設けることで、α−Cr(アルファクロム)を主成分とする抵抗体30を形成することができる。α−Crは安定な結晶相であるため、ゲージ特性の安定性を向上することができる。
【0026】
ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味する。抵抗体30がCr混相膜である場合、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα−Crを80重量%以上含むことが好ましい。なお、α−Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0027】
又、機能層20を構成する金属(例えば、Ti)がCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性を向上することができる。具体的には、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。
【0028】
端子部41は、抵抗体30の両端部から延在しており、平面視において、抵抗体30よりも拡幅して略矩形状に形成されている。端子部41は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。抵抗体30は、例えば、端子部41の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の端子部41に接続されている。端子部41の上面を、端子部41よりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。なお、抵抗体30と端子部41とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。
【0029】
抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように基材10の上面10aにカバー層60(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。なお、カバー層60は、端子部41を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0030】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm〜30μm程度とすることができる。
【0031】
図3は、第1の実施の形態に係るひずみゲージの製造工程を例示する図であり、
図2に対応する断面を示している。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、
図3(a)に示す工程では、基材10を準備し、基材10の上面10aに機能層20を形成する。基材10及び機能層20の材料や厚さは、前述の通りである。
【0032】
機能層20は、例えば、機能層20を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜することができる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層20が成膜されるため、機能層20の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0033】
但し、これは、機能層20の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層20を成膜してもよい。例えば、機能層20の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層20を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0034】
次に、
図3(b)に示す工程では、機能層20の上面全体に抵抗体30及び端子部41を形成後、フォトリソグラフィによって機能層20並びに抵抗体30及び端子部41を
図1に示す平面形状にパターニングする。抵抗体30及び端子部41の材料や厚さは、前述の通りである。抵抗体30と端子部41とは、同一材料により一体に形成することができる。抵抗体30及び端子部41は、例えば、抵抗体30及び端子部41を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。抵抗体30及び端子部41は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0035】
機能層20の材料と抵抗体30及び端子部41の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層20としてTiを用い、抵抗体30及び端子部41としてα−Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜することが可能である。
【0036】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、抵抗体30及び端子部41を成膜することができる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、抵抗体30及び端子部41を成膜してもよい。
【0037】
これらの方法では、Tiからなる機能層20がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα−Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層20を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。
【0038】
なお、抵抗体30がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層20は、抵抗体30の結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗体30の酸化を防止する機能、及び基材10と抵抗体30との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層20として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0039】
図3(b)に示す工程の後、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製することができる。カバー層60は、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0040】
このように、抵抗体30の下層に機能層20を設けることにより、抵抗体30の結晶成長を促進することが可能となり、安定な結晶相からなる抵抗体30を作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上することができる。又、機能層20を構成する材料が抵抗体30に拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上することができる。
【0041】
[実施例1]
まず、事前実験として、厚さ25μmのポリイミド樹脂からなる基材10の上面10aに、コンベンショナルスパッタ法により機能層20としてTiを真空成膜した。この際、複数の膜厚を狙ってTiを成膜した5個のサンプルを作製した。
【0042】
次に、作製した5個のサンプルについて蛍光X線(XRF:X‐ray Fluorescence)分析を行い、
図4に示す結果を得た。
図4のX線ピークよりTiの存在が確認され、X線ピークにおける各々のサンプルのX線強度より、1nm〜100nmの範囲でTi膜の膜厚が制御できることが確認された。
【0043】
次に、実施例1として、厚さ25μmのポリイミド樹脂からなる基材10の上面10aに、コンベンショナルスパッタ法により機能層20として膜厚が3nmのTiを真空成膜した。
【0044】
続いて、機能層20の上面全体にマグネトロンスパッタ法により抵抗体30及び端子部41としてCr混相膜を成膜後、機能層20並びに抵抗体30及び端子部41をフォトリソグラフィによって
図1のようにパターニングした。
【0045】
又、比較例1として、厚さ25μmのポリイミド樹脂からなる基材10の上面10aに、機能層20を形成せずに、マグネトロンスパッタ法により抵抗体30及び端子部41としてCr混相膜を成膜し、フォトリソグラフィによって
図1のようにパターニングした。なお、実施例1のサンプルと比較例1のサンプルにおいて、抵抗体30及び端子部41の成膜条件は全て同一である。
【0046】
次に、実施例1のサンプルと比較例1のサンプルについて、X線回折(XRD:X‐ray diffraction)評価を行い、
図5に示す結果を得た。
図5は、2θの回折角度が36〜48度の範囲におけるX線回折パターンであり、実施例1の回折ピークは比較例1の回折ピークよりも右側にシフトしている。又、実施例1の回折ピークは比較例1の回折ピークよりも高くなっている。
【0047】
実施例1の回折ピークは、α−Cr(110)の回折線の近傍に位置しており、Tiからなる機能層20を設けたことにより、α−Crの結晶成長が促進されてα−Crを主成分とするCr混相膜が形成されたものと考えられる。
【0048】
次に、実施例1のサンプルと比較例1のサンプルを複数個作製し、ゲージ特性を測定した。その結果、実施例1の各サンプルのゲージ率は14〜16であったのに対し、比較例1の各サンプルのゲージ率は10未満であった。
【0049】
又、実施例1の各サンプルのゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRが−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内であったのに対し、比較例1の各サンプルのゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRは−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内には入らなかった。
【0050】
このように、Tiからなる機能層20を設けたことにより、α−Crの結晶成長が促進されてα−Crを主成分とするCr混相膜が形成され、ゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを−1000ppm/℃〜+1000ppm/℃の範囲内とするひずみゲージが作製された。なお、Cr混相膜へのTiの拡散効果がゲージ特性の向上に寄与していると考えられる。
【0051】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。