特許第6793273号(P6793273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793273船舶の航行方法、航行システムおよび船舶
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6793273
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】船舶の航行方法、航行システムおよび船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 27/00 20060101AFI20201119BHJP
   B63B 79/10 20200101ALI20201119BHJP
   B63B 79/20 20200101ALI20201119BHJP
   B63B 39/12 20060101ALI20201119BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20201119BHJP
   B63B 39/03 20060101ALI20201119BHJP
   G01C 21/20 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   B63B27/00 E
   B63B79/10
   B63B79/20
   B63B39/12
   B63B79/40
   B63B39/03 Z
   G01C21/20
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-89305(P2020-89305)
(22)【出願日】2020年5月22日
【審査請求日】2020年6月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平澤 宏章
(72)【発明者】
【氏名】平川 真一
(72)【発明者】
【氏名】宮下 哲治
(72)【発明者】
【氏名】関 紀明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智美
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−142374(JP,A)
【文献】 特表2018−509327(JP,A)
【文献】 特開2004−271486(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103387038(CN,A)
【文献】 特開2004−338580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 27/00
B63B 39/03
B63B 39/12
B63B 79/10
B63B 79/20
B63B 79/40
G01C 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航路において予測される海象に基づき、航路において海象により船舶に生じる実波浪モーメントを見積もり、
船舶の設計の際に設定された設計波浪モーメントの代わりに、前記実波浪モーメントの予測値である予測波浪モーメントに基づいて積付けの計画を行い、
航行時には、船舶に生じるモーメントが設計許容値を超えないように航行を行う、船舶の航行方法。
【請求項2】
前記予測波浪モーメントと、設計波浪モーメントの差分を積付余裕度として算出し、
該積付余裕度に基づき、積付けの変更を行うか否かを判定する、請求項1に記載の船舶の航行方法。
【請求項3】
船舶に生じるモーメントを計測し、
計測値に基づいて把握されるモーメントの値が閾値を超えないように航行を行う、請求項1または2に記載の船舶の航行方法。
【請求項4】
航路の候補における予測波浪モーメントを算出し、
前記予測波浪モーメントが閾値を超えないように航行を行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の船舶の航行方法。
【請求項5】
船舶に生じるモーメントの計測値に基づいて把握されるモーメントの値、または船舶に生じるモーメントの予測値が閾値を超えた場合に、乗員に対し警報を発する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の船舶の航行方法。
【請求項6】
船舶に生じるモーメントの計測値に基づいて把握されるモーメントの値、または船舶に生じるモーメントの予測値が閾値を超えた場合に、モーメントを下げる方法を提示する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の船舶の航行方法。
【請求項7】
モーメントを下げる方法として操船方法を提示する、請求項6に記載の船舶の航行方法。
【請求項8】
モーメントを下げる方法として、予測される波浪モーメントの値が閾値未満の航路を提示する、請求項6または7に記載の船舶の航行方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の船舶の航行方法を実行可能に構成された船舶の航行システム。
【請求項10】
請求項9に記載の船舶の航行システムを適用した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に対し積荷を積み付けたうえで前記船舶を航行する方法、該方法を実行可能なシステム、および該システムを適用した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンテナ船等、積荷を運搬するための船舶は、なるべく多くの積荷を積載しながら、長期の運用に耐え得る強度を確保し得るように設計されている。具体的には、例えば北大西洋の海象下で25年間運用することを想定し、その間に海象条件によって船体に生じ得る最大の荷重モーメント(設計波浪モーメントMw(d)とする)を見積もる。そして、船舶の荷重モーメントの設計許容値の差に応じて、積荷の最大積載量が決定される。すなわち、船舶の荷重モーメントの設計許容値(Maとする)は、下記の式(1)で表される。尚、Ms(d)は、想定する最大積載量の積荷を積み付けた場合に、静水中で船舶の自重と積荷の重量および浮力によって生じる荷重モーメント(設計静水モーメントとする)である。
Ma = Mw(d) + Ms(d) ……(1)
【0003】
一方、船舶を運用する際には、航行中に海象条件によって生じる実際の荷重モーメントと、船舶の自重と積荷の重量および浮力によって生じる実際の荷重モーメントの合計が、船体の許容値を超えないようにする必要がある。その際、海象条件によって生じる荷重モーメント(実波浪モーメントMw(r)とする)を便宜的にMw(d)と見積もって、積荷の量を決定するようにしている。すなわち、船舶に積み付ける積荷の量は、それを積み付けた場合に静水中で生じる荷重モーメント(実静水モーメントMs(r)とする)と、設計波浪モーメントMw(d)との合計値が船舶の設計許容値Maを超えないよう、以下の式(2)を満たす範囲で決定される。
Ms(r) ≦ Ma − Mw(d) ……(2)
【0004】
尚、こうした条件を満たし、船舶の安全な運用を支援するための技術として、例えば下記特許文献1,2に記載の技術が提案されている。これらは、船舶の運用にあたって安全を確保する観点から実施される技術であり、特許文献1には、上記式(2)を満たしつつ積荷の積付けを行うための技術が、特許文献2には、実波浪モーメントMw(r)が実際にMw(d)を超えないように航行を行うための技術が、それぞれ記載されていると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/003708号明細書
【特許文献2】特開2019−12029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、積荷を運搬する船舶にとって、安全の確保はむろん最も重視すべき事項であるが、積荷の積載量をなるべく大きくすることも同様に重要である。しかしながら、従来の船舶においては、積載量の拡充については安全の確保と共に主に設計時に検討され、運用の局面ではほぼ安全面のみが重視される結果、積載量については余力を残した状態で航行が行われるのが実情であった。言い換えれば、設計上は安全を確保しながらそれ以上の積荷を積み込むことが十分に可能な場合であっても、安全面を重視するあまり積載可能な積荷の量が過小に評価されてしまい、これが運送効率の向上の妨げとなっていたのである。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、安全を確保しつつ積荷の運送効率を簡便に向上し得る船舶の航行方法、航行システムおよび船舶を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、航路において予測される海象に基づき、航路において海象により船舶に生じる実波浪モーメントを見積もり、船舶の設計の際に設定された設計波浪モーメントの代わりに、前記実波浪モーメントの予測値である予測波浪モーメントに基づいて積付けの計画を行い、航行時には、船舶に生じるモーメントが設計許容値を超えないように航行を行う、船舶の航行方法にかかるものである。
【0009】
本発明の船舶の航行方法においては、前記予測波浪モーメントと、設計波浪モーメントの差分を積付余裕度として算出し、該積付余裕度に基づき、積付けの変更を行うか否かを判定することができる。
【0010】
本発明の船舶の航行方法においては、船舶に生じるモーメントを計測し、計測値に基づいて把握されるモーメントの値が閾値を超えないように航行を行うことができる。
【0011】
本発明の船舶の航行方法においては、航路の候補における予測波浪モーメントを算出し、前記予測波浪モーメントが閾値を超えないように航行を行うことができる。
【0012】
本発明の船舶の航行方法においては、船舶に生じるモーメントの計測値に基づいて把握されるモーメントの値、または船舶に生じるモーメントの予測値が閾値を超えた場合に、乗員に対し警報を発することができる。
【0013】
本発明の船舶の航行方法においては、船舶に生じるモーメントの計測値に基づいて把握されるモーメントの値、または船舶に生じるモーメントの予測値が閾値を超えた場合に、モーメントを下げる方法を提示することができる。
【0014】
本発明の船舶の航行方法においては、モーメントを下げる方法として操船方法を提示することができる。
【0015】
本発明の船舶の航行方法においては、モーメントを下げる方法として、予測される波浪モーメントの値が閾値未満の航路を提示することができる。
【0016】
また、本発明は、上述の船舶の航行方法を実行可能に構成された船舶の航行システムにかかるものである。
【0017】
また、本発明は、上述の船舶の航行システムを適用した船舶にかかるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の船舶の航行方法、航行システムおよび船舶によれば、安全を確保しつつ積荷の運送効率を簡便に向上し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施による船舶の航行システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】船舶におけるセンサの配置の一例を示す概略側面図である。
図3】センサの配置の一例を示す概略平面図である。
図4】船舶におけるモーメントの分布の一例を示すグラフである。
図5】積付計画の立案手順の一例を示すフローチャートである。
図6】船舶の航行における手順の一例を示すフローチャートである。
図7】船舶に生じるモーメントと、計測されるモーメントの関係を説明するグラフである。
図8】船舶の表示部に表示されるガイド画面の一例を簡略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明の実施による船舶の航行システムの形態の一例を示している。本実施例の場合、船舶Sと陸Lを跨ぐ形でシステムが構築されており、陸L側で立案された積付計画を船舶S側に送信し、船舶S側ではこれに基づいて積付けを行い、さらに積付けの内容を踏まえて航行を実行できるようになっている。
【0022】
陸L側には、航路選択部1、海象データ格納部2、積付計画部3、積付データ格納部4、波浪モーメント計算部5、静水モーメント計算部6、積付余裕度判定部7、表示部8、操作入力部9および通信部10が設けられている。船舶S側には、航路選択部11、海象データ格納部12、積付データ格納部13、波浪モーメント計算部14、モーメント計測部15、計測データ格納部16、モーメント余裕度計算部17、判定部18、表示部19、警報部20、操作入力部21および通信部22が設けられている。
【0023】
陸L側の航路選択部1は、船舶Sの航路の選択を補助する機能を備えている。航路選択部1は、例えばSea-Navi(登録商標)等の情報サービスに接続され、出港地、目的地、経由地や水域、日時等の条件に基づき、各条件に適合する航路の候補を抽出し、提示することができるようになっている。尚、航路選択部1は、Sea-Naviのような外部サービスを利用するのではなく、内部に格納されたライブラリから適当な航路を抽出するように構成されていてもよい。
【0024】
海象データ格納部2は、種々の航路に関する海象データを格納する機能を備えており、航路選択部1により提示された航路に関する海象データを必要に応じて取得できるようになっている。海象データ格納部2に格納される海象データは、例えば気象庁等の外部機関から取得される予報データであってもよいし、過去の海象データであってもよく、その両方であってもよい。
【0025】
積付計画部3は、船舶Sにおける積荷の積付計画を作成する機能を備えており、船舶Sの種類や最大積載量、設計強度、積荷の種類や量といった各条件に基づき、船舶Sに対し、予定している航行時に積載する積荷の総重量や、船内の各区画における積付量等を算出できるようになっている。
【0026】
積付データ格納部4は、積付計画部3によって作成された船舶Sにおける積荷の積付計画に関するデータ(以下、積付データと称する)を格納する機能を備えている。積付データは、例えば、予定している航行における積荷の総重量、船内の各区画における積付量、積み込まれる積荷の種類、また、船舶Sにおける自重の分布、船舶Sに備えた各バラストタンクにおけるバラスト水の漲水量等を含む。
【0027】
波浪モーメント計算部5は、海象データ格納部2に格納された海象データを参照し、航路選択部1によって提示された航路において遭遇すると予測される海象(遭遇海象)を算出する機能を備えている。また、波浪モーメント計算部5は、算出された遭遇海象と、船舶S自体に関する情報(自重や船速、外板形状等)に基づき、該当する航路において船舶Sに生じる波浪モーメント(実波浪モーメントMw(r))の予測値(予測波浪モーメントMw(r)pvとする)を算出する機能を備えている。
【0028】
静水モーメント計算部6は、積付データ格納部4に格納された積付データに基づき、静水において船舶Sの自重、積荷とバラスト水の重量、および浮力により船舶Sに生じる静水モーメントMs(r)を算出する機能を備えている。
【0029】
積付余裕度判定部7は、波浪モーメント計算部5により算出された予測波浪モーメントMw(r)pvと、静水モーメント計算部6により算出された実静水モーメントMs(r)に基づき、追加で積付け可能な余裕分(積付余裕度ΔMとする)を算出する機能を備えている。尚、予測波浪モーメントMw(r)pvや実静水モーメントMs(r)、積付余裕度ΔMの算出については、後に改めて説明する。
【0030】
表示部8は、航路選択部1により提示される航路の情報、海象データ格納部2に格納される海象データ、積付計画部3により作成され、積付データ格納部4に格納される積付データ、波浪モーメント計算部5や静水モーメント計算部6、積付余裕度判定部7の計算結果等の情報、各部への操作を入力するインターフェイス画面、その他の情報等を必要に応じて表示するディスプレイである。
【0031】
操作入力部9は、上述した各部への操作を入力するインターフェイスであり、例えばキーボードやマウス、タッチパネル式のディスプレイ等である。尚、操作入力部9をタッチパネル式のディスプレイとする場合、操作入力部9は表示部8の機能の一部あるいは全部を兼ねることもできる。
【0032】
通信部10は、システムの外部と通信を行う機能を備えており、各種の情報(例えば、航路のデータや海象データ、積付データ等)をやり取りできるようになっている。
【0033】
船舶S側の航路選択部11、海象データ格納部12、積付データ格納部13、波浪モーメント計算部14は、陸L側の航路選択部1、海象データ格納部2、積付データ格納部4、波浪モーメント計算部5と概ね同様の機能を備えている。すなわち、航路選択部11は船舶Sの航路の選択を補助する機能を備え、海象データ格納部12は、種々の航路に関する海象データを格納する機能を備え、積付データ格納部13は陸L側の積付計画部3によって作成された積付データを格納する機能を備えている。尚、積付データ格納部13に格納される積付データは、陸L側の静水モーメント計算部6により算出された実静水モーメントMs(r)も含む。波浪モーメント計算部14は、海象データ格納部12に格納された海象データを参照し、航路選択部11によって提示された航路において遭遇すると予測される海象(遭遇海象)を算出する機能を備えている。
【0034】
モーメント計測部15は、例えばひずみセンサであり、船舶Sに実際に生じるモーメントを計測する機能を備えている。ひずみセンサであるモーメント計測部15を船舶Sに設置する場合、例えば図2図3に示す如く、船体の前後方向に関して複数の位置に各モーメント計測部15を配置し、船舶Sに生じるひずみを計測し、これに基づいて船舶Sに生じるモーメントを把握する。ここでは、船体の前後方向3箇所に、各4個(船体の左右における上下の各位置)のひずみゲージ(モーメント計測部15)を備えた場合を図示している。尚、ひずみゲージあるいはモーメント計測部15の構成や設置数、設置位置等に関しては、ここに示した例に限定されず、船舶Sの構造その他の条件に応じて適宜変更してよい。
【0035】
計測データ格納部16は、モーメント計測部15によって計測された船舶Sの各所のモーメントに関する計測値を計測データとして格納する機能を備えている。
【0036】
モーメント余裕度計算部17は、船舶Sに生じるモーメントの現在値あるいは予測値が、設計値に対してどの程度の余裕を残しているか(これをモーメント余裕度Mmとする)を算出する機能を備えている。具体的には、モーメント余裕度計算部17は、計測データ格納部16に計測データとして格納されたモーメントの計測値や(これを計測モーメントM(r)mvとする)、積付データ格納部13に格納された実静水モーメントMs(r)の値、波浪モーメント計算部14により算出される予測波浪モーメントMw(r)pv等を参照する機能を備えており、船舶Sにおいて計測されたモーメントの値(計測モーメントM(r)mv)、または船舶Sに生じると予測されるモーメントの値を、船舶Sの各所における設計波浪モーメントMw(d)、設計静水モーメントMs(d)あるいは設計許容値Maと照合し、モーメント余裕度Mmを算出する。モーメント余裕度Mmは、例えば以下の式(3)(4)にて表される。ここで、Mmmvは船舶Sに生じるモーメントの計測値に基づいたモーメント余裕度を、Mmpvは船舶Sに生じるモーメントの予測値に基づいたモーメント余裕度を表す。
Mmmv = Ma − (Ms(r) + M(r)mv) ……(3)
Mmpv = Ma − (Ms(r) + Mw(r)pv) ……(4)
【0037】
尚、上に示した数式はあくまで一例であって、例えば式(3)は、計測モーメントM(r)mvの内容によっては以下の形を取る場合もあり得る(計測モーメントM(r)mvについては、後に改めて詳しく説明する)。
Mmmv = Ma − M(r)mv ……(3)
【0038】
判定部18は、モーメント余裕度計算部17により算出されたモーメント余裕度Mmの値に基づき、警報の発報や、適当なガイド画面の表示を行うか否かを判断する機能を備えている。
【0039】
表示部19は、航路選択部11により提示される航路の情報や、海象データ、積付データ、計測データ、各種のモーメントの計算結果といった各種のデータ、システムを構成する各部への操作を入力するインターフェイス画面、その他の情報等を必要に応じて表示するディスプレイである。
【0040】
警報部20は、判定部18の判断に基づき、船舶Sの航行に関わる人員に対し、必要に応じて警報を発報する機能を備えている。警報としては、音による警報や視覚による警報等、適当な形式を設計者が適宜選択し、その内容に応じて警報部20の構成を決定してよい。尚、表示部19が警報部20の機能を兼ねるようにしてもよい。
【0041】
操作入力部21は、上述した各部への操作を入力するインターフェイスであり、例えばキーボードやマウス、タッチパネル式のディスプレイ等である。尚、操作入力部21をタッチパネル式のディスプレイとする場合、操作入力部21は表示部19の機能の一部あるいは全部を兼ねることもできる。
【0042】
通信部22は、システムの外部と通信を行う機能を備えており、各種の情報(例えば、航路のデータや海象データ、積付データ等)を陸L側の通信部10等との間でやり取りできるようになっている。
【0043】
尚、ここでは船舶S側と陸L側を跨ぐ形でシステムを構築し、また陸L側は主に積付計画の立案を行い、船舶S側で積付けに基づいた航行計画を行う場合を例示したが、本発明の船舶の航行システムを実施するにあたり、システム構成はここに示した例に限定されない。例えば、情報処理・通信技術の発達した昨今においては、システムの大部分を船舶S上に構築したり、陸L側と船舶S側とに積付けの計画や航行に関し同等の機能を持たせるといったことも可能である。その他、以下に説明する機能を実現し得る限りにおいて、船舶の航行システムは適宜の構成を取り得る。
【0044】
上述のシステムを用いた積付計画の方法について説明する。本発明は、船舶Sの航行中に生じる波浪モーメント(実波浪モーメントMw(r))を見積もり、これに基づいて積付けの計画を行うことを趣旨としている。すなわち、従来であれば設計許容値Maと設計波浪モーメントMw(d)との差を最大積載量として積付けを行っていたところ(上記式(2)参照)、設計波浪モーメントMw(d)の代わりに実波浪モーメントMw(r)の予測値(予測波浪モーメントMw(r)pv)を用いることで、設計波浪モーメントMw(d)と予測波浪モーメントMw(r)pvの差分(積付余裕度ΔM)にあたる分だけ船舶の設計強度に余裕が生じるので、この分を積付計画に活用するのである。
【0045】
上述のように、設計波浪モーメントMw(d)は、例えば長期にわたる船舶Sの運用期間において、船舶Sに生じると想定される最大の波浪モーメントとして設定される。この値は、船舶S毎に固有の波浪モーメントの最大値であり、現実の多くの航行において、実際に船舶Sに生じる波浪モーメント(実波浪モーメントMw(r))は、設計波浪モーメントMw(d)以下の範囲で航行毎に変動する。つまり、その差分(積付余裕度ΔM)を積付計画に活用し、例えば積付余裕度ΔMにあたる分だけ積荷を多く積載しても安全上の問題はなく、安全を保ったまま積荷の運送効率を向上させることができるのである。
【0046】
例えば、設計波浪モーメントMw(d)と設計静水モーメントMs(d)の合計値が船舶Sにおいて図4に破線で示す如く分布していたとして、仮に従来の方法により設計静水モーメントMs(d)いっぱいまで(すなわち、Ms(r)=Ms(d)となるよう)積付けを行った場合、実波浪モーメントMw(r)と実静水モーメントMs(r)の合計値は、一点鎖線で示す如く設計波浪モーメントMw(d)と設計静水モーメントMs(d)の合計値より低い値で分布する。本実施例では、両者の差(Mw(d)−Mw(r)にあたる値)を積付余裕度ΔMとして算出し、活用するのである。
【0047】
そして、船舶Sを航行する際には、船舶Sに実際に生じるモーメントの少なくとも一部を計測モーメントM(r)mvとして計測し、該計測モーメントM(r)mvに基づいて把握されるモーメント(図4中に、各測定点において把握されるモーメントの値を点として示す)が設計許容値Ma(設計波浪モーメントMw(d)と設計静水モーメントMs(d)の合計値)を超えないよう、適宜航路の選択や操船を行う。言い換えれば、上記式(3)(4)におけるモーメント余裕度の予測値(Mmpv)および実測値(Mmmv)がゼロ未満にならないような航行を行うのである。
【0048】
このような積付け、および航行を実現するには、まず予測波浪モーメントMw(r)pvと、実静水モーメントMs(r)を十分な精度で算出する必要がある。そこで、これらのモーメントの値を算出し、積付計画を立案する手順について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0049】
実波浪モーメントMw(r)を予測するためには、前提として、航路を選択し、その航路で遭遇する海象を予測する必要がある。そこで、まず航路の候補の抽出を行う(ステップS1)。航路選択部1の機能を用い、例えばSea-Navi等の外部サービスを利用し、あるいは航路選択部1に格納された航路の情報から、航路の候補を抽出する。出港地、目的地、経由地や水域等といった条件を入力すると、各条件に適合する航路が抽出され、候補として提示される。
【0050】
続いて、候補として提示された航路に関し、予測される海象を取得する(ステップS2)。海象データ格納部2の機能を用い、過去の同水域、同時季における海象データを参照する。あるいは、気象庁等から提供される予報データを参照する。
【0051】
ステップS2で取得された海象データには、船舶Sが該当する航路で遭遇する最大の波高が含まれる。波高は、航行の快適度や、船舶Sに生じる荷重等に最も直接的に影響する。そこで、ステップS3では、波高の閾値(避航限界)を設定し、該避航限界を超える波高が予測される航路を候補から外す。そして、残った候補の中から実際に航行する航路を選択し、決定する(ステップS4)。
【0052】
一方、積付計画部3では、船舶Sに対する積付けの計画を行う(ステップS5)。積荷の総積載量や、船舶Sの各区画における積荷の積載量、各バラストタンクにおけるバラスト水の漲水量が決定され、積付データとして積付データ格納部4に格納される。
【0053】
波浪モーメント計算部5は、選択された航路で遭遇すると予測される海象に基づき、予測波浪モーメントMw(r)pvを算出する(ステップS6)。
【0054】
予測波浪モーメントMw(r)pvの算出方法として、ストリップ法を用いる場合を説明する。船舶Sに生じる荷重は、縦曲げモーメントによって評価することができ、波浪によって生じる縦曲げモーメントは、下記の式(5)で表すことができる。尚、Hsは波高、χは波向、Tsは波周期である。
Mw/Hs = R(χ,Ts) ……(5)
【0055】
海象(Hs,Ts)は、ステップS2で取得される海象データに含まれる。そこで、これらの値(過去のデータや予報に基づき予測される値)を上記式(5)に代入し、Mwの値を算出する。尚、Mwの値には喫水も影響し、喫水は積付けによって変動するので、Mwの算出には積付データをも参照する。こうして得られたMwの最大値を、航行中に遭遇する実波浪モーメントMw(r)の予測値、すなわち予測波浪モーメントMw(r)pvとする。尚、ストリップ法以外にも、種々の方法を予測波浪モーメントMw(r)pvの算出に用いてもよいことは勿論である。
【0056】
一方、実静水モーメントMs(r)は、航路や海象によらず、積付けによって決まる。静水モーメント計算部6は、積付データ格納部4の積付データを参照し、実静水モーメントMs(r)を算出する(ステップS7)。
【0057】
積付余裕度判定部7では、ステップS6で算出された予測波浪モーメントMw(r)pvと、設計波浪モーメントMw(d)との差分を、積付余裕度ΔMとして算出する(ステップS8)。積付余裕度ΔMは、船舶Sにおける荷重モーメントの設計許容値Maと、航路の状況に鑑み、船舶Sに対しさらに積増しを行ってもよい分である。
【0058】
ここで、さらに別の航路についても積付余裕度ΔMを算出し、これをも参考にして航路を選択するようにしてもよい。例えば、ステップS8で算出した積付余裕度ΔMがさほど大きくなく、別の航路についても検討したい場合や、複数の航路間で積付余裕度ΔMを比較したい場合等に、このような手順が有効である。先のステップS4における航路の選択に際しては、積付余裕度ΔMを判断材料として用いていなかったので、ここで積付余裕度ΔMを算出した後、改めて航路の選択について検討するのである。
【0059】
ステップS8で積付余裕度ΔMを算出したら、ステップS8aに移り、別の航路を検討するか否かを判断する。別の航路を検討する場合には、ステップS4に戻り、提示された選択肢から、先の航路とは別の新たな航路を選択する。新たに選択された航路について再度ステップS6〜S8を実行し、積付余裕度ΔMを算出する。尚、積付けを変更していなければ実静水モーメントMs(r)は変化しないので、ステップS6〜S8の工程を複数回繰り返す場合、2回目以降のステップS7については改めて実行せずとも、前回のステップS7で算出された実静水モーメントMs(r)の値を使用すればよい。
【0060】
こうして1または複数の航路について積付余裕度ΔMを算出したら、該積付余裕度ΔMの値をも参照しつつ、いずれかの時点(それ以上、別の航路を検討しないと判断された時点)でステップS8bに進み、候補の中から航路を決定する。そして、決定された航路について、ステップS9を実行する。ステップS9では、決定された航路に関する積付余裕度ΔMの大きさや、積み込みたい積荷の量等に応じ、ステップS5で一旦立案された積付計画を変更するか否かを判断する。積付けを変更しない場合は積付けを終了するが、変更する場合にはステップS10に進み、積付計画部3で積付計画を変更し、新しい積付データとして積付データ格納部4に格納する。
【0061】
積付けが変更されると、船舶Sに生じる実静水モーメントMs(r)は変化する。また、船舶Sの喫水が変わる結果、予測波浪モーメントMw(r)pvも変化する可能性がある。このため、積付計画を変更したら、改めて予測波浪モーメントMw(r)pvおよび実静水モーメントMs(r)を算出し(ステップS6,S7)、積付余裕度ΔMを算出し(ステップS8)、積付余裕度ΔMの値に応じて、積付計画の変更を行う(ステップS9,S10)。こうして、積付余裕度ΔMの値を基準とし、積増し等、積付計画の変更を簡便に行うことができる。さらに、これを繰り返していくと、船舶Sの設計許容値Maを満足する範囲で実静水モーメントMs(r)が最大となるよう、積付計画が最適化される。
【0062】
船舶S側の各部には、航路の情報や海象データ、積付データ等の必要な情報が格納されている。積付余裕度ΔMに基づいて変更された積付データも、通信部10,22を介して船舶S側に送信され、各部に格納される。船舶S側では、新しい積付データに従って積付けを行う。
【0063】
こうした方法は、種々の船舶Sにおいて、単に算出された積付余裕度ΔMの範囲内で積増しを行う(実静水モーメントMs(r)を、積荷の重量で増大させる)という形で実行することができるが、特にコンテナ船を対象とする場合には、やや異なる方法での運用が有効である。
【0064】
一般に、船舶においては、喫水を保つ目的や、船体に生じる荷重モーメントを是正する目的でバラスト水が船体内に注入される場合があるが、特にコンテナ船では積荷の比重が軽いため、バラスト水が多く注入される機会が多い。そこで、船舶Sがコンテナ船であり、最初の積付計画においてバラスト水が多く注入されているような場合、例えば次に述べる手順で上記の積付計画方法を適用することができる。
【0065】
まず、図3に示すステップS1〜S8の手順を実行し、算出された積付余裕度ΔMの範囲内で積荷の積増しを行う(ステップS9,S10)。このとき、積増しをした区画に関し、積増し分と同じ重量のバラスト水を放出するようにする。このようにすると、実静水モーメントMs(r)の値は積付計画の変更前とあまり変わらず、積付余裕度ΔMは残存するので、さらに積付計画を変更し、積み増しを行うことができる。
【0066】
尚、積増し分のバラスト水を削減する場合、仮に実静水モーメントMs(r)の値が変化しないとすれば、理論上、本実施例のように積付余裕度ΔMを考慮せずとも積増しを行うことは可能である。しかしながら、実際に積付けを行う場合、船体におけるバラストタンクの位置は貨物を乗せる位置とは異なるため、仮に積増しをした区画のなるべく近くに位置するバラストタンクのバラスト水を削減したとしても、実静水モーメントMs(r)の値は多少変化してしまう。このため、算出された積付余裕度ΔMを念頭に置かずに積増しをしようとすると、どの程度の積増しであれば許容できるのかについての基準が存在しないので、バラスト水を削減したとしても結果的に積載量が許容値を超過してしまう可能性が排除できない。本実施例のように積付余裕度ΔMを用いれば、支障のない範囲で安全に積増しを行うことができる。
【0067】
また、積付余裕度ΔMをバラスト水の削減のために利用するという形での運用も可能である。コンテナ船では、上述のように船体に生じる荷重モーメントを是正する目的でバラスト水が注入される場合があり、この場合、バラスト水の荷重は実静水モーメントMs(r)を小さくする向きに作用する。すなわち、このバラスト水の漲水量を削減すれば実静水モーメントMs(r)は増大するのであるが、上記方法によって算出された積付余裕度ΔMを、バラスト水の削減による実静水モーメントMs(r)の増大に充てるのである。すなわち、積付余裕度ΔMの範囲内で、船舶S内のバラスト水を放出すればよい。
【0068】
こうした運用は、例えばバラスト水はタンク内に残っているが、貨物スペースの制約等によりそれ以上のコンテナを積み込むことができなくなったような場合や、単にそれ以上積み込むべき貨物がなくなった場合等に有効である。このようにすると、バラスト水の少ない状態でコンテナ船である船舶Sを航行させることができ、船舶S全体の重量を減らした燃費の良い航行が可能となる。無論、上に説明した「積荷の積増し分のバラスト水の削減」と、「積付余裕度ΔMの範囲内でのバラスト水の削減」を適宜併用してもよい。あるいは単に、バラスト水の削減はせず、積付余裕度ΔMの範囲内で積増しのみを行ってもよいことは勿論である。
【0069】
尚、上述の如き積付余裕度ΔMは、航行を開始する前の積付けの際だけでなく、航行中にも活用することができる。すなわち、航行中におけるバラスト水の注排水は積付けの変更の一種として捉えることができ、船体に生じるモーメントに影響するので、航行中にバラスト水の注排水が必要になった場合、これを積付余裕度ΔMの範囲内で行うといった活用が可能である。
【0070】
続いて、上述の手順で積付けを行った船舶Sを航行させる際の手順について、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0071】
船舶Sの航行中、モーメント計測部15では、船舶Sの各所に生じるモーメントを時々刻々計測する(ステップS11)。モーメント計測部15により取得された値は、計測データとして計測データ格納部16に格納される。
【0072】
ここで、モーメント計測部15により取得される計測モーメントM(r)mvについて説明する。
【0073】
船舶Sに実際に生じるモーメントの変動の一例を図7に示す。ここでは、空荷の状態の船舶Sに対し、時刻tから時刻tまで積付けを行い、その後の時刻tに航行を開始する、といった場合を仮定している。
【0074】
船舶Sに生じるモーメントを縦曲げモーメントとして評価し、サギングによるモーメントを負、ホギングによるモーメントを正とすると、おおよその傾向として、浮力によるモーメントは正、積荷の重量によるモーメントは、船体の前後方向に関し中央部付近に積まれる積荷については負、両端部付近に積まれる積荷については正となる。空荷の状態(時刻t)において、船舶Sには浮力により正のモーメントが生じている。ここから時刻tにかけて積付けを行っていくと、船舶Sに積み込まれる積荷の重量は全体として負のモーメントを発生させ、これにより正のモーメントが打ち消され、さらに負のモーメントが加わっていく。時刻tにおいて船舶Sに生じているモーメントは、積付けの済んだ状態における静水モーメントである。積付け計画の通りに積付けを行った場合、この時点で船舶Sに生じているモーメントは、図5に示す手順において、ステップS7で最終的に算出された実静水モーメントMs(r)と理論上一致する。尚、ここに説明した積付けに伴うモーメントの推移はあくまで一例であって、必ずしも上に述べた通りにモーメントが変動するとは限らない。積荷の位置や量によっては、例えば積荷によるモーメントの合計が正の値を取る場合もあり得る。
【0075】
船舶Sが航行を開始すると(時刻t以降)、船舶Sには実波浪モーメントMw(r)が発生する。実波浪モーメントMw(r)は航行中、時々刻々変動し、時刻t〜時刻tの間におけるモーメントの値(Ms(r))をベース値とすると、実波浪モーメントMw(r)は前記ベースラインとの差として表れる。実波浪モーメントMw(r)を縦曲げモーメントとして把握する場合、該実波浪モーメントMw(r)は、ホギング時には正の値を、サギング時には負の値を取る。
【0076】
航行中、ひずみゲージであるモーメント計測部15により計測モーメントM(r)mvとして検出されるモーメントの計測値は、上述した過程において、どの時点を基準に設定するかによって異なる。仮に、積付けの途中、積荷によるモーメントが浮力によるモーメントをちょうど打ち消す時点(時刻t)で計測値をゼロにセットした場合、その後の航行中(時刻t以降)に取得される計測値(計測モーメントM(r)mv)は、実静水モーメントMs(r)と、実波浪モーメントMw(r)の合計値である。
【0077】
しかしながら、現実には、時刻tを特定するのは困難であり、実際にはそれ以外のタイミングでモーメント計測部15の計測値をゼロにセットすることになる。例えば、積込み作業中にゼロセットを行い、そのタイミングが時刻t〜時刻tの間であった場合(図7中に時刻tとして示す)、時刻t以降に取得される計測値は、実静水モーメントMw(r)の一部(図中にMsとして示す値)と、実波浪モーメントMs(r)の合計である。また、例えば時刻tから時刻tまでの間の時点(図7中に時刻tとして示す)に計測値をゼロにセットした場合、時刻t以降に取得される計測値は、実波浪モーメントMw(r)のみである。
【0078】
ただし、いずれの場合であっても、計測モーメントM(r)mvの値から実波浪モーメントMw(r)を把握し、これにより、船舶Sに生じているモーメントを把握することができる。すなわち、時刻tから時刻tまでの間のいずれかの時点における計測値をベース値として記録しておけば、時刻t以降に検出される計測モーメントM(r)mvの値と、前記ベース値の差として、現に生じている実波浪モーメントMw(r)を把握することができる。また、実静水モーメントMs(r)としては、図5に示す手順において、ステップS7で最終的に算出された値を用いればよい。こうして、ゼロセットのタイミングによらず、船舶Sに生じているモーメントを把握することができる。
【0079】
ステップS12では、ステップS11で取得されたモーメントの値に関する判定を行う。ここでは、モーメント計測部15による計測値(計測モーメントM(r)mv)に基づいて把握されるモーメントの値が、予め設定された閾値を上回っているか否かを判定する。例えば、上述のように計測モーメントM(r)mvに基づいて実波浪モーメントMw(r)の値を把握し、これと閾値を比較する。ここで判定の基準とする前記閾値としては、例えば設計許容度Maから実静水モーメントMs(r)を引いた差分(Ma−Ms(r))を使用してもよいし、あるいは、船舶Sに生じるモーメントが実際に設計許容値Maを超過してしまうことのないよう、余裕を持ってMa−Ms(r)未満の適当な値に設定された閾値を使用してもよい。
【0080】
尚、ここで判定に用いるモーメントの値や閾値は、上に説明した以外にも適宜設定することができる。例えば、計測モーメントM(r)mvに基づいて把握された実波浪モーメントMw(r)と実静水モーメントMs(r)の合計値を、設計許容値Maあるいはそれ未満の適当な閾値と比較してもよい。あるいは、例えばモーメント余裕度計算部17で上記式(3)に基づき算出したモーメント余裕度Mmの実測値Mmmvが、ゼロ(あるいは、余裕を持ってゼロ以上の適当な値に設定された閾値)を下回るか否かによって行うこともできる。尚、Mmmvの算出式は場合に応じて異なる。例えば、実波浪モーメントMw(r)のみを計測モーメントM(r)mvとして検出する場合、Mmmv
Mmmv = Ma − (Ms(r) + M(r)mv
である。また、例えば実波浪モーメントMw(r)と実静水モーメントMs(r)の合計を計測モーメントM(r)mvとして検出する場合、Mmmv
Mmmv = Ma − M(r)mv
と表される。
【0081】
モーメントが閾値以内であった場合、ステップS11に戻って計測モーメントM(r)mvの取得を続ける。計測モーメントM(r)mvに基づいて把握されるモーメントの値が閾値を上回った場合はステップS13,S14に進み、警報部20による警報の発報、表示部19による操船のガイドを行う。尚、ステップS13,S14の内容については後に改めて説明する。
【0082】
以上はモーメントの計測値(計測モーメントM(r)mv)に基づいた操船支援であるが、一方で、モーメントの予測値(予測波浪モーメントMw(r)pv、あるいは、これと実静水モーメントMs(r)の合計値)に基づいた操船支援も行う。船舶S側の波浪モーメント計算部14では、航路選択部11、海象データ格納部12、積付データ格納部13を参照し、現在地から目的地に到着するために選択し得る航路の候補と、それぞれについて予測される海象データ、および積付データ(これには、実静水モーメントMs(r)が含まれる)を取得する(ステップS15)。また、波浪モーメント計算部14は、ステップS11においてモーメント計測部15により取得された計測モーメントM(r)mvを取得する(ステップS16)。
【0083】
波浪モーメント計算部14は、取得した上記各データに基づき、各航路の候補において予測される波浪モーメントMw(r)の値(予測波浪モーメントMw(r)pv)を算出する(ステップS17)。予測波浪モーメントMw(r)pvは、上に述べたストリップ法、あるいはその他の適当な方法によって計算することができる。また、予測波浪モーメントMw(r)pvを算出する計算式は、船舶Sに生じるモーメントの計測値である計測モーメントM(r)mvと照らし合わせ、より正確に予測波浪モーメントMw(r)pvを算出できるよう、随時補正してもよい。
【0084】
続いて、算出されたモーメントの予測値に関する判定を行う(ステップS18)。ここでは、例えば波浪モーメント計算部14により算出された波浪モーメントの予測値(予測波浪モーメントMw(r)pv)と、実静水モーメントMs(r)の合計値(すなわち、船体に生じると予測されるモーメントの値)が、予め設定された閾値を上回っているか否かを判定する。ここで判定の基準とする閾値としては、例えば設計許容値Maを使用することができる。あるいは、今後選択する航路において、船舶Sに生じるモーメントの合計値が実際に設計許容値Maを超過してしまう可能性を低めるため、余裕を持って設計許容値Maに満たない適当な値に設定された閾値を使用してもよい。また、このステップS18における判定は、例えばモーメント余裕度計算部17で上記式(4)に基づき算出したモーメント余裕度Mmの予測値Mmpvがゼロ(あるいは、余裕を持ってゼロ以上の適当な値に設定された閾値)を下回るか否かによって行うこともできる。あるいは、予測波浪モーメントMw(r)pvが設計波浪モーメントMw(d)やMa−Ms(r)(もしくは、それらに満たない適当な値に設定された閾値)を上回るか否かによって行ってもよい。
【0085】
今後選択し得る航路のいずれにおいてもモーメントが閾値以内であれば、ステップS15に戻り、各種データの取得、予測波浪モーメントMw(r)pvの算出を繰り返す。モーメントの予測値が閾値を上回った場合は、ステップS13,S14に進む。
【0086】
ステップS13,S14では、計測モーメントM(r)mvに基づいて把握されるモーメントの値(計測モーメントM(r)mvそのものでもよいし、計測モーメントM(r)mvから求められる実波浪モーメントMw(r)、あるいは実静水モーメントとMs(r)と実波浪モーメントMw(r)の合計値でもよい)が閾値を超過した場合、またはモーメントの予測値(予測波浪モーメントMw(r)pvでもよいし、予測波浪モーメントMw(r)pvと実静水モーメントMs(r)の合計値でもよい)が閾値を超過した場合に、これらが閾値を超過している旨の警報を警報部20から発報し(ステップS13)、また、各モーメントが閾値を下回るような操船方法あるいは運行方法を提示する(ステップS14)。尚、警報の内容や提示される操船方法、運行方法の内容は、いずれのモーメントが閾値を超過しているのか、超過の幅はどの程度か、等の各条件によって適宜変更してよい。
【0087】
例えばステップS13では、船舶Sに発生しているモーメントの合計値(Ms(r)+Mw(r))が設計許容値Maに近づいているとか、あるいは今後航行する予定の航路のいずれかにおいて、船舶Sに生じると予測されるモーメントが設計許容値Maを上回る可能性があるといった旨の警報を、ブザーや回転灯、その他の方法によって通知する。
【0088】
また、ステップS14では、船舶Sに生じているモーメント、あるいは生じると予測されるモーメントを低下させるため、例えば船速を変更したり、船体の向きを波向に沿った向きに変更するといった方法を表示部19に表示する。また、例えば図7に示すようなガイド画面を、表示部19に表示してもよい。ここに示した例では、R1の符号にて示した航路において、今後モーメントが許容値に近づく(あるいは上回る)可能性があり、また、その他の航路R2,R3については、今のところそのような予測はない旨が表示されている。乗員は、このガイド画面を参照し、航路R2,R3のいずれかを選択すればよい。尚、ここに示したガイド画面はあくまで一例であって、表示されるガイド画面は、必要とされる情報やその他の条件に応じて適宜変更し得る。例えば、モーメント余裕度Mmの予測値Mmpvの大小に応じて航路の安全度を評価し、それを航路毎に表示してもよい。
【0089】
ステップS13,S14が終わったら、フローを一旦終了する。あるいは、ステップS11およびステップS15以降の手順を再度繰り返してもよい。
【0090】
上述の如き方法およびシステムを実施するにあたっては、例えば安全の確保あるいは積載量の拡充のために船体やその他の構造を変更するような必要はなく、既存の船舶にも容易に適用し、積荷の運送効率の向上を図ることができる。
【0091】
以上のように、上記本実施例の船舶の航行方法においては、航路において予測される海象に基づき、航路において海象により船舶Sに生じる実波浪モーメントMw(r)を見積もり、実波浪モーメントMw(r)の予測値である予測波浪モーメントMw(r)pvに基づいて積付けの計画を行い、航行時には、船舶Sに生じるモーメントが設計許容値Maを超えないように航行を行うようにしている。このようにすれば、船舶S毎に固有の設計波浪モーメントMw(d)の代わりに、それ以下の値の実波浪モーメントMw(r)を用いて積付けを計画すると共に、航行時に計測モーメントM(r)mvが設計波浪モーメントMw(d)と設計静水モーメントMs(d)の合計値を超えないようにすることで、安全を保ったまま積荷の運送効率を向上させることができる。
【0092】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、予測波浪モーメントMw(r)pvと、設計波浪モーメントMw(d)の差分を積付余裕度ΔMとして算出し、該積付余裕度ΔMに基づき、積付けの変更を行うか否かを判定している。このようにすれば、積付余裕度ΔMを基準とし、簡便に積付計画を変更することができる。
【0093】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、船舶Sに生じるモーメントを計測し、計測値(計測モーメントM(r)mv)に基づいて把握されるモーメントの値が閾値を超えないように航行を行うことができる。
【0094】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、航路の候補における予測波浪モーメントMw(r)pvを算出し、予測波浪モーメントMw(r)pvが閾値を超えないように航行を行うことができる。
【0095】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、船舶Sに生じるモーメントの計測値に基づいて把握されるモーメントの値、または船舶Sに生じるモーメントの予測値が閾値を超えた場合に、乗員に対し警報を発することができる。
【0096】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、船舶Sに生じるモーメントの計測値に基づいて把握されるモーメントの値、または船舶Sに生じるモーメントの予測値が閾値を超えた場合に、モーメントを下げる方法を提示することができる。
【0097】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、モーメントを下げる方法として操船方法を提示することができる。
【0098】
また、本実施例の船舶の航行方法においては、モーメントを下げる方法として、予測される波浪モーメントの値が閾値未満の航路を提示することができる。
【0099】
また、上記本実施例の船舶の航行システムは、上述の船舶の航行方法を実行可能に構成されているので、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0100】
また、上記本実施例の船舶は、上述の船舶の航行システムを適用されているので、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0101】
したがって、上記本実施例によれば、安全を確保しつつ積荷の運送効率を簡便に向上し得る。
【0102】
尚、本発明の船舶の航行方法、航行システムおよび船舶は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0103】
Ma 設計許容値
Mw(d) 設計波浪モーメント
Mw(r) 実波浪モーメント
Mw(r)pv 予測波浪モーメント
M(r)mv 計測モーメント
ΔM 積付余裕度
S 船舶
【要約】
【課題】安全を確保しつつ積荷の運送効率を簡便に向上し得る船舶の航行方法、航行システムおよび船舶を提供する。
【解決手段】航路において予測される海象に基づき、航路において海象により船舶Sに生じる実波浪モーメントMw(r)を見積もり、実波浪モーメントMw(r)の予測値である予測波浪モーメントMw(r)pvに基づいて積付けの計画を行い、航行時には、船舶Sに生じるモーメントが設計許容値Maを超えないように航行を行う。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8