特許第6793280号(P6793280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6793280ココアバター相溶性向上剤およびその製造方法、並びに、ノーテンパリング型チョコレート及びその油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793280
(24)【登録日】2020年11月11日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】ココアバター相溶性向上剤およびその製造方法、並びに、ノーテンパリング型チョコレート及びその油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20201119BHJP
   A23G 1/38 20060101ALI20201119BHJP
   A23G 1/36 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   A23D9/00 500
   A23G1/38
   A23G1/36
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2020-506573(P2020-506573)
(86)(22)【出願日】2019年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2019010098
(87)【国際公開番号】WO2019176964
(87)【国際公開日】20190919
【審査請求日】2020年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-43907(P2018-43907)
(32)【優先日】2018年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 成和
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−006635(JP,A)
【文献】 特開2012−000039(JP,A)
【文献】 特開2010−268749(JP,A)
【文献】 特開2008−148670(JP,A)
【文献】 特開2016−189773(JP,A)
【文献】 特開2017−176100(JP,A)
【文献】 特開2010−148385(JP,A)
【文献】 特開2009−284899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23G
C11B
C11C
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターと共に用いられる、ココアバター相溶性向上剤であって、
該相溶性向上剤は油脂から構成され、
該油脂全体中、XYUを8〜30重量%、Y2Uを0.5〜21重量%、および、YU2を3〜24重量%含有し、
XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が13〜35重量%であり、
XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が30重量%以下であり、
前記油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が5重量%以下である、ココアバター相溶性向上剤。
X:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
Y:炭素数20以上の飽和脂肪酸
U:シス型不飽和脂肪酸
XYU:X,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド
Y2U:Yが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
YU2:Yが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
XXX:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2Y:Xが2分子、Yが1分子結合しているトリグリセリド
XY2:Xが1分子、Yが2分子結合しているトリグリセリド
YYY:Yが3分子結合しているトリグリセリド
ただし、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が25重量%未満で、20℃のSFC(固体脂含量)が25%以上かつ50℃のSFCが5%以下である、チョコレート用油脂のことをいう。
【請求項2】
前記相溶性向上剤を構成する前記油脂は、原料油脂のエステル交換油であり、該原料油脂は、構成脂肪酸全体中、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5重量%以下、および、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下であり、かつ、炭素数16の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数18の飽和脂肪酸を9〜25重量%、炭素数20以上の飽和脂肪酸を10〜35重量%、および、シス型不飽和脂肪酸を25〜55重量%含有する、請求項1に記載のココアバター相溶性向上剤。
【請求項3】
ココアバターと共に用いられるノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物であって、
該油脂組成物全体中、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを11〜95重量%、請求項1または2に記載のココアバター相溶性向上剤を5〜89重量%、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターを0〜41重量%、および、20℃のSFCが25%未満かつ50℃でのSFCが5%未満である物性調整用油脂を0〜84重量%含有し、
ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター/ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターの重量比が1.3以上である、ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物。
ただし、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、請求項1に記載のものであり、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターは、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が25重量%以上、20℃のSFCが25%以上かつ50℃のSFCが5%以下である、チョコレート用油脂のことをいう。
【請求項4】
チョコレートに含まれる油脂全体中のラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター含有量が38〜86重量%のノーテンパリング型チョコレートであって、
該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が32重量%以下であり、
前記油脂全体中、ココアバターを12〜40重量%、および、請求項3に記載のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を5〜88重量%含有し、かつ、XYUを0.4〜6.5重量%、Y2Uを0.1〜1.4重量%、および、YU2を0.2〜3.6重量%含有し、
XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7〜11.4重量%であり、
XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下である、ノーテンパリング型チョコレート。
【請求項5】
ノーテンパリング型チョコレートであって、
該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が32重量%以下であり、
前記油脂全体中、ココアバターを12〜40重量%、請求項1又は2に記載のココアバター相溶性向上剤を4〜43重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38〜86重量%含有し、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が0.3〜3.6である、ノーテンパリング型チョコレート。
【請求項6】
請求項4又は5のいずれか1項に記載のノーテンパリング型チョコレートを含む食品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のココアバター相溶性向上剤を製造する方法であって、
構成脂肪酸全体中、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5重量%以下、および、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下であり、かつ、炭素数16の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数18の飽和脂肪酸を9〜25重量%、炭素数20以上の飽和脂肪酸を10〜35重量%、および、シス型不飽和脂肪酸を25〜55重量%含有する原料油脂をエステル交換し、ココアバター相溶性向上剤を取得することを特徴とする、ココアバター相溶性向上剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のココアバター相溶性向上剤を製造する方法であって、
請求項7で得られたエステル交換油を、さらに晶析終了時点でのSFCが20%以下となるように無溶剤で晶析分別することで液状部を分取し、ココアバター相溶性向上剤を取得することを特徴とする、ココアバター相溶性向上剤の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ラウリン系のノーテンパリング型ハードバターと共に用いられる、ココアバター相溶性向上剤およびその製造方法に関し、また、該ハードバターを含むノーテンパリング型チョコレート及びその油脂組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートを製造する際にココアバター(以下、CBともいう)と共に配合する油脂、所謂ハードバターは、チョコレート製造時のテンパリングの要否によって、テンパリング型ハードバターとノーテンパリング型ハードバターに大別される。ここで、テンパリングとは、油脂の結晶形を調節するために、溶解したチョコレート類に対し強制的に冷却と再加温を所定の温度下で行なう操作のことをいう。
【0003】
テンパリング型ハードバターは、CBと類似したSUS型トリグリセリドが主な構成成分であり、チョコレート風味への寄与度が高いCBの配合量に制限がないため、風味の良好なチョコレートを作製できる反面、スナップ性や口溶けを良くするためにテンパリング作業を施す必要があり、また、融点、固化速度、柔らかさ等の物性の調整が難しいという難点がある。
【0004】
一方、ノーテンパリング型ハードバターは、非ラウリン系のCBR(CB Replacer)と、ラウリン系のCBS(CB Substitute)に大別される。これらノーテンパリング型ハードバターは、テンパリング型ハードバターと比べると、CBの配合量が少なくなるものの、安価で、かつチョコレート製造時にテンパリングが不要で、融点、固化速度、固さ等の物性調整が容易という利点がある。
【0005】
このうちCBRは、主に植物油脂の部分水素添加油が主成分であり、CBSと比較するとCBとの相溶性が高いため、ノーテンパリング型チョコレート油脂に多く配合することができ、チョコレート風味が良好となる。しかしながら一般にトランス脂肪酸の含量が多く、昨今の健康志向と相反する傾向があった。そこでトランス脂肪酸含量を減らすためにCBRの組成を変更すると、CBとの相溶性が低下し、経時的にCBの粗大結晶が析出(グレイニング)しやすくなる。これを避けるため、CBの使用量を減らすと、チョコレート風味が損なわれてしまう。チョコレートにおいてグレイニングが発生すると、ざらついた食感になり口溶けが悪化すると共に、艶がなくなったり白いブツブツが発生したりして外観も損なわれる。
【0006】
特許文献1および特許文献2では、低トランスで非ラウリン系のノーテンパリング型ハードバター組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−284899号公報
【特許文献2】特開2010−148385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に記載のハードバター組成物はCBとの相溶性が比較的高いと記載されているものの、その効果は不十分であり、幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングを抑制することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、低トランス脂肪酸量であり、CBR:ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを多く含有するノーテンパリング型チョコレートであるにもかかわらず、テンパリング型チョコレート並みにココアバターを多く配合しても幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングが起こり難く、かつ、従来のCBR配合チョコレートと比較して口溶けの良さ、室温(20℃)での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を維持しているチョコレート、並びに、それを作製するために使用可能なCB相溶性向上剤および該向上剤を生産性良く、安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、低トランス脂肪酸量であっても、炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであるXYU、Y2U、およびYU2の各含有量および合計含有量を特定範囲とし、さらに、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量を特定値以下に抑えた油脂組成物は、CBRとココアバターの相溶性を向上させる相溶性向上剤として作用し、少なくともこれら3成分を含むチョコレートは、ココアバターを多く配合しても幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングが起こり難く、かつ、口溶けの良さ、室温での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち第一の本発明は、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターと共に用いられる、ココアバター相溶性向上剤であって、該相溶性向上剤は油脂から構成され、該油脂全体中、XYUを8〜30重量%、Y2Uを0.5〜21重量%、および、YU2を3〜24重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が13〜35重量%であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が30重量%以下であり、前記油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が5重量%以下である、ココアバター相溶性向上剤に関する。
X:炭素数16〜18の飽和脂肪酸
Y:炭素数20以上の飽和脂肪酸
U:シス型不飽和脂肪酸
XYU:X,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド
Y2U:Yが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
YU2:Yが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
XXX:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2Y:Xが2分子、Yが1分子結合しているトリグリセリド
XY2:Xが1分子、Yが2分子結合しているトリグリセリド
YYY:Yが3分子結合しているトリグリセリド
ただし、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が25重量%未満で、20℃のSFC(固体脂含量)が25%以上かつ50℃のSFCが5%以下である、チョコレート用油脂のことをいう。
【0012】
好ましくは、前記相溶性向上剤を構成する前記油脂は、原料油脂のエステル交換油であり、該原料油脂は、構成脂肪酸全体中、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5重量%以下、および、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下であり、かつ、炭素数16の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数18の飽和脂肪酸を9〜25重量%、炭素数20以上の飽和脂肪酸を10〜35重量%、および、シス型不飽和脂肪酸を25〜55重量%含有する。
【0013】
第二の本発明は、ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物であって、該油脂組成物全体中、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを11〜95重量%、第一の本発明に係るココアバター相溶性向上剤を5〜89重量%、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターを0〜41重量%、および、20℃のSFCが25%未満かつ50℃でのSFCが5%未満である物性調整用油脂を0〜84重量%含有し、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター/ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターの重量比が1.3以上である、ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物に関する。ただし、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、前記のものであり、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターは、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が25重量%以上、20℃のSFCが25%以上かつ50℃のSFCが5%以下である、チョコレート用油脂のことをいう。
【0014】
第三の本発明は、チョコレートに含まれる油脂全体中のラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター含有量が38〜86重量%のノーテンパリング型チョコレートであって、該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が32重量%以下であり、前記油脂全体中、ココアバターを12〜40重量%、および、第二の発明に係るノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を5〜88重量%含有し、かつ、XYUを0.4〜6.5重量%、Y2Uを0.1〜1.4重量%、および、YU2を0.2〜3.6重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7〜11.4重量%であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下である、ノーテンパリング型チョコレートに関する。
【0015】
別の態様に係る第三の本発明は、ノーテンパリング型チョコレートであって、該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が32重量%以下であり、前記油脂全体中、ココアバターを12〜40重量%、第一の本発明に係るココアバター相溶性向上剤を4〜43重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38〜86重量%含有し、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が0.3〜3.6である、ノーテンパリング型チョコレートに関する。
【0016】
第四の本発明は、第三の本発明に係るノーテンパリング型チョコレートを含む食品に関する。
【0017】
第五の本発明は、第一の本発明に係るココアバター相溶性向上剤を製造する方法であって、構成脂肪酸全体中、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5重量%以下、および、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が5重量%以下であり、かつ、炭素数16の飽和脂肪酸を15〜40重量%、炭素数18の飽和脂肪酸を9〜25重量%、炭素数20以上の飽和脂肪酸を10〜35重量%、および、シス型不飽和脂肪酸を25〜55重量%含有する原料油脂をエステル交換し、ココアバター相溶性向上剤を取得することを特徴とする、ココアバター相溶性向上剤の製造方法に関する。また、これにより得られたエステル交換油を、さらに晶析終了時点でのSFCが20%以下となるように無溶剤で晶析分別することで液状部を分取し、ココアバター相溶性向上剤を取得することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従えば、低トランス脂肪酸量であり、CBRを多く含有するノーテンパリング型チョコレートであるにもかかわらず、テンパリング型チョコレート並みにココアバターを多く配合しても幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングが起こり難く、かつ、従来のCBR配合チョコレートと比較して遜色がない口溶けの良さ、室温(20℃)での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を維持しているチョコレート、並びに、それを作製するために使用可能なCB相溶性向上剤および該向上剤を生産性良く、安価に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
(ココアバター相溶性向上剤)
本発明のココアバター相溶性向上剤(以下、CB相溶性向上剤ともいう)は、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターとココアバターの相溶性を向上させる成分であって、油脂から構成される。油脂は、1分子のグリセリンに対し3分子の脂肪酸がエステル結合してなるトリグリセリドである。トリグリセリドを構成している前記脂肪酸を、油脂中の構成脂肪酸という。また、ココアバターとは、カカオ豆から得られた固形脂で、一般にチョコレート原料として用いられるものである。
【0020】
本願において、「ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター」とは、ノーテンパリング型ハードバターのうち所謂非ラウリン系のCBRを指し、正確には、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体のうち炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が25重量%未満で、20℃のSFC(固体脂含量)が25%以上かつ50℃のSFCが5%以下であるチョコレート用油脂と定義する。これを本願では単にCBRともいう。これに対し、ノーテンパリング型ハードバターのうち所謂、ラウリン系のCBSを、本願では「ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバター」といい、正確には、該ハードバターの油脂の構成脂肪酸全体のうち炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が25重量%以上で、20℃のSFCが25%以上かつ50℃のSFCが5%以下であるチョコレート用油脂と定義する。本願ではこれを単にCBSともいう。炭素数12〜14の飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸が挙げられる。なお、本願では、油脂の構成脂肪酸の組成は、基準油脂分析法2.4.2.1−2013により決定できる。SFCは、IUPAC 2.150(a)に定められた方法に従い、20℃又は50℃で、NMR法により測定できる。
【0021】
本発明のCB相溶性向上剤は、トリグリセリド組成に特徴を有する油脂から構成され、当該油脂全体中、XYUを8〜30重量%、Y2Uを0.5〜21重量%、および、YU2を3〜24重量%含有し、これらXYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が13〜35重量%であることが好ましい。より好ましくは、XYU含有量10〜28重量%、Y2U含有量1.0〜10重量%、YU2含有量5.0〜15重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量16〜34重量%であり、さらに好ましくはXYU含有量12〜25重量%、Y2U含有量2.0〜6.0重量%、YU2含有量7.0〜9.0重量%含有し、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量21〜30重量%である。なお、本願においてトリグリセリド組成は、基準油脂分析試験法2.4.6.2−2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定できる。
【0022】
XYU、XYU、Y2U、YU2の各表記は以下を意味する。X:炭素数16〜18の飽和脂肪酸。Y:炭素数20以上の飽和脂肪酸。U:シス型不飽和脂肪酸。XYU:X,Y,Uが各1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。Y2U:Yが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。YU2:Yが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。炭素数16〜18の飽和脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸が挙げられる。炭素数20以上の飽和脂肪酸としては、例えば、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。シス型不飽和脂肪酸とは、シス体の不飽和脂肪酸を指し、炭素数は特に限定されない。具体的には、オレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0023】
XYUは炭素数16〜18の飽和脂肪酸Xと炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであり、Y2UおよびYU2は、炭素数20以上という長鎖の飽和脂肪酸Yとシス型不飽和脂肪酸Uを含むトリグリセリドであり、これらを上述のように特定量使用してCBに含まれるトリグリセリドSUSと混在させることで、チョコレート中で2鎖長の結晶状態が維持されやすくなるため、グレイニングの発生を抑制することができる。
【0024】
また、本発明のCB相溶性向上剤においては、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量は、少ないほど良く、具体的には、CB相溶性向上剤を構成する油脂全体中、30重量%以下であることが好ましく、27重量%以下がより好ましく、10〜24重量%であることがさらに好ましい。これらXXX、X2Y、XY2およびYYYが多く配合されると、チョコレートの口溶けが悪化する傾向がある。なお、XXX、X2Y、XY2、YYYの各表記は以下を意味する。XXX:Xが3分子結合しているトリグリセリド。X2Y:Xが2分子、Yが1分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。XY2:Xが1分子、Yが2分子結合しているトリグリセリド(各脂肪酸の結合位置は限定されない)。YYY:Yが3分子結合しているトリグリセリド。
【0025】
本発明のCB相溶性向上剤において、トランス脂肪酸含量は、健康面から少ないほど良く、該CB相溶性向上剤を構成する油脂の構成脂肪酸全体中、5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことである。本発明のCB相溶性向上剤はこのようにトランス脂肪酸含量が少ないにも関わらず、幅広い温度帯で長期間にわたってチョコレートのグレイニングを抑制することができる。トランス脂肪酸含量が少ないCB相溶性向上剤は、水素添加した原料油脂を使用しない、又はその使用量を減らすことで製造できる。前記トランス脂肪酸含量は、AOCS Ce 1f−96に準じて測定できる。
【0026】
本発明のCB相溶性向上剤を製造するために用いる原料油脂は、その構成脂肪酸が次の条件(i)および(ii)を満たすことが好ましい。
(i)原料油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が0重量%以上5重量%以下であること。これら短鎖の飽和脂肪酸の含量を少なくしたことで、CB相溶性向上剤をラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターと共に配合してチョコレートを製造した時にも、室温での固化速度が低下することがないため生産性が高く、また、チョコレートのスナップ性も損ねることもない。そのため、安価に、良好な特性を有するノーテンパリング型チョコレートを生産することができる。前記炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量は、好ましくは0重量%以上3重量%以下であり、より好ましくは0重量%以上1重量%以下である。炭素数6〜10の飽和脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸が挙げられる。
【0027】
(ii)原料油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12〜14の飽和脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸)含量が0重量%以上5重量%以下で、炭素数16の飽和脂肪酸(即ちパルミチン酸)を15〜40重量%、炭素数18の飽和脂肪酸(即ちステアリン酸)を9〜25重量%、炭素数20以上の飽和脂肪酸(例えばアラキジン酸、ベヘン酸)を10〜35重量%、および、シス型不飽和脂肪酸を25〜55重量%含有すること。これにより、前述したXYU、Y2U、YU2の含有量の要件を満足するCB相溶性向上剤を得ることが容易になる。前記炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量は、好ましくは0重量%以上4重量%以下、より好ましくは0重量%以上2重量%以下であり、前記炭素数16の飽和脂肪酸を好ましくは18〜36重量%、より好ましくは20〜30重量%、前記炭素数18の飽和脂肪酸を好ましくは10〜20重量%、より好ましくは12〜18重量%、前記炭素数20以上の飽和脂肪酸を好ましくは12〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%、および、前記シス型不飽和脂肪酸を好ましくは30〜50重量%、より好ましくは35〜45重量%含有する。
【0028】
本発明のCB相溶性向上剤は、全体として前記(i)及び(ii)を満足できるよう複種類の原料油脂を準備し、該原料油脂を混合してエステル交換するか、又は、各原料油脂をそれぞれエステル交換してから混合することで得ることができる。さらに、該エステル交換油を、無溶剤で晶析分別して液状部を分取することにより得ることもできる。
【0029】
前記原料油脂は、全体として(i)及び(ii)を満足するものであればよく、その種類は特に限定されない。公知の油脂を適宜選択し、全体として(i)及び(ii)を満足するように各油脂を適切な割合で使用すればよい。
【0030】
本発明のCB相溶性向上剤は、一例として、パーム系油脂とハイエルシン菜種極度硬化油の混合油をエステル交換して得る、または、パーム系油脂とハイエルシン菜種極度硬化油の混合油をエステル交換した後に無溶剤で晶析分別して得ることができるが、これに限定されない。
【0031】
前記原料油脂をエステル交換するにあたっては常法を適用することができる。該エステル交換に用いる触媒としては、食品用途で使用可能な触媒であれば特に種類を問わず使用でき、例えばナトリウムメチラートや、リパーゼ等が挙げられる。リパーゼとしては、通常トリグリセリドのエステル交換に用いられるリパーゼを特に限定なく使用することができる。
【0032】
エステル交換により得られたエステル交換油に対し、溶剤を添加することなく、そのまま、晶析分別を行い、その固体部を除去し、液状部を分取することによってCB相溶性向上剤を製造することができる。晶析分別の方法は常法に従うことができるが、例えば、温調しながら攪拌して結晶を析出させて晶析スラリーを得た後、その晶析スラリーを加圧圧搾装置に導入して圧搾することにより液状部を得ることができる。
【0033】
晶析分別は、晶析スラリーのSFC(=分別度)が20%以下となるように無溶剤で30〜50℃にて晶析した後に分別することで液状部を分取することが好ましい。前記分別度が20%を超えると、液状部の収率が低下するため好ましくない。前記分別度はより好ましくは15%以下、さらに好ましくは12%以下である。
【0034】
(ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物)
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物は、ノーテンパリング型チョコレートを作製するために配合される油脂組成物である。該油脂組成物は、少なくとも、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターと、前述した本発明のCB相溶性向上剤とを含有するものであるが、これらに加えて、任意に、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバター及び/又は物性調整用油脂を含有することができる。本願におけるノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物は、ココアバターを含まないものである。
【0035】
ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは従来公知のものであってよく、上述した定義を満足する限り特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、米ぬか油、コーン油等の液体脂、あるいはパーム油、シア油、及びこれらの分別油などの少なくとも一種を配合した油脂を硬化および/または分別したものや、菜種油、大豆油、米ぬか油、コーン油等の液体脂、あるいはパーム油、シア油、及びこれらの分別油などの少なくとも一種を配合した油脂をエステル交換油および/または分別したものが挙げられる。
【0036】
ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターは、従来公知のものであってよく、上述した定義を満足する限り特に限定されないが、例えば、ヤシ油、パーム核油、これらの油脂の分別油、硬化油、または、エステル交換油等が挙げられる。
【0037】
物性調整用油脂とは、本願でいうハードバターの範疇にはいらない油脂であり、具体的には、20℃のSFCが25%未満かつ50℃でのSFCが5%未満である油脂のことを指す。これらSFCの要件を満足する油脂であれば特に限定されず、食用用途で一般に使用されている油脂を単独で、または、2種類以上を混合して使用することができる。具体的には、パーム油、パーム核油、やし油、シア油、大豆油、綿実油、コーン油、サフラワー油、菜種油、米ぬか油、ゴマ油等の液状油や、乳脂、ラード、魚油等の各種の動植物性油脂、それらの硬化油、分別油、エステル交換油等が挙げられる。
【0038】
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物におけるラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターの含量は、11〜95重量%が好ましく、33〜85重量%がより好ましく、44〜78重量%がさらに好ましい。また、CB相溶性向上剤の含量は5〜89重量%が好ましく、11〜67重量%がより好ましく、17〜44重量%がさらに好ましい。このような含量で両成分を用いることで、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを含むノーテンパリング型チョコレートにココアバターを多く配合しても幅広い温度帯で長期間にわたってグレイニングが起こり難く、かつ、口溶けの良さ、室温での固化速度の速さ、および良好なスナップ性を維持することができる。
【0039】
また、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターは配合してもよいし、配合しなくともよい任意の成分であり、その含量は0〜41重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜10重量%がさらに好ましい。また、当該ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターよりも、必須成分であるラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを多く配合することが好ましい。ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターは、ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターよりもココアバターとの相溶性が高いため、より多くのカカオ分を配合することができ、チョコレートの風味を豊かにすることができるためである。具体的には、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター/ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターの重量比は1.3以上であることが好ましく、1.5以上がより好ましく、4.0以上がさらに好ましい。ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターは配合されなくてもよいので、上記重量比の上限値は限定されない。
【0040】
さらに物性調整用油脂も配合してもよいし、配合しなくともよい任意の成分であり、その含量は0〜84重量%が好ましく、0〜40重量%がより好ましく、0〜20重量%がさらに好ましい。物性調整用油脂を配合することで、チョコレートを望みの固さに調整することができる。
【0041】
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物は、必要に応じて、油脂以外の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲において含有してもよい。そのような成分としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤、香料、着色料、酸化防止剤等が挙げられる。
【0042】
本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を製造する方法は特に限定されず、該組成物は、加温下(例えば60℃程度)で溶解させた各油脂を調合することで得ることができる。調合後は、溶解状態のままチョコレートの製造に使用してもよいし、冷却して固化させてもよい。冷却条件は特に限定されない。
【0043】
(ノーテンパリング型チョコレート)
本発明のノーテンパリング型チョコレートは、上述した本発明のCB相溶性向上剤を用いて作製したものであってもよいし、上述した本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を用いて作製したものであってもよい。また、これらCB相溶性向上剤およびノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を用いずに作製したものであってもよい。
【0044】
本願でいうチョコレートには、規格面では、「チョコレート類の表示に関する公正取引競争規約」におけるチョコレート規格、準チョコレート規格及びチョコレート利用食品が該当する。配合面では、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレートなどを例示できる。用途面からは、コーティングチョコレート、固形チョコレート、センターチョコレートなどが例示できる。
【0045】
本発明のノーテンパリング型チョコレートは、該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、健康面から、トランス型不飽和脂肪酸含量が3.25重量%以下であることが好ましく、2重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。
【0046】
また、本発明のノーテンパリング型チョコレートは、該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量が5.5重量%以下であることが好ましい。このように短鎖の飽和脂肪酸の含量を少なくすることで、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを含むチョコレートにおいて、室温での固化速度が低下することがなく、また、スナップ性も損ねることもない。前記炭素数6〜10の飽和脂肪酸含量は5.0重量%以下がより好ましく、4.0重量%以下がさらに好ましい。さらに、該チョコレートに含まれる油脂の構成脂肪酸全体中、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が32重量%以下であることが好ましく、15重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0047】
本発明のノーテンパリング型チョコレートは以下に説明する3種類の実施形態のいずれであってもよい。またこれら実施形態を組み合わせたものでもよい。
【0048】
第一の実施形態に係る本発明のノーテンパリング型チョコレートは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター含有量が38〜86重量%であり、その上でココアバターを12〜40重量%、および、本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を5〜88重量%含有し、かつ、XYUを0.4〜6.5重量%、Y2Uを0.1〜1.4重量%、および、YU2を0.2〜3.6重量%含有するものであり、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が0.7〜11.4重量%であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が14.4重量%以下である。好ましくは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター含有量が35〜80重量%であり、その上でココアバターを12〜35重量%、および、本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を12〜88重量%含有し、かつ、XYUを1.0〜6.0重量%、Y2Uを0.2〜1.3重量%、および、YU2を0.3〜3.3重量%含有するものであり、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が1.5〜10.6重量%であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が13重量%以下である。より好ましくは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターが40〜76重量%であり、その上でココアバターを12〜25重量%、および、本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を18〜88重量%含有し、かつ、XYUを1.4〜5.5重量%、Y2Uを0.4〜1.2重量%、および、YU2を0.6〜3.0重量%含有するものであり、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が2.4〜9.7重量%であり、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が12重量%以下である。この実施形態で各トリグリセリドの含有量を規定する意義は、CB相溶性向上剤における各トリグリセリドの含有量に関して説明した意義と同じである。
【0049】
第二の実施形態に係る本発明のノーテンパリング型チョコレートは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12〜40重量%、本発明のCB相溶性向上剤を4〜43重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを38〜86重量%含有し、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が0.3〜3.6であるものである。好ましくは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12〜35重量%、本発明のCB相溶性向上剤を10〜39重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを45〜80重量%含有し、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が1.0〜3.0であるものである。より好ましくは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12〜25重量%、本発明のCB相溶性向上剤を15〜35重量%、および、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを50〜76重量%含有し、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が1.2〜2.5であるものである。
【0050】
第三の実施形態に係る本発明のノーテンパリング型チョコレートは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12〜40重量%、および、本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を含有するものであり、該油脂組成物は、該油脂組成物に含まれる前記CB相溶性向上剤の含量が、前記チョコレートに含まれる油脂全体中、4〜43重量%となり、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が0.3〜3.6となるような量で含まれる。好ましくは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12〜35重量%、および、本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を含有するものであり、該油脂組成物は、該油脂組成物に含まれる前記CB相溶性向上剤の含量が、前記チョコレートに含まれる油脂全体中、10〜39重量%となり、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が1.0〜3.0となるような量で含まれる。より好ましくは、該チョコレートに含まれる油脂全体中、ココアバターを12〜25重量%、および、本発明のノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を含有するものであり、該油脂組成物は、該油脂組成物に含まれる前記CB相溶性向上剤の含量が、前記チョコレートに含まれる油脂全体中、15〜35重量%となり、前記ココアバター相溶性向上剤/ココアバターの重量比が1.2〜2.5となるような量で含まれる。
【0051】
本発明のチョコレートは、テンパリングを行なわずに製造することができる。その製造方法は一般的なノーテンパリング型チョコレートの製造方法と同様であってよい。例えば、各原料成分を任意の割合で混合し、既知の方法によりロール処理及びコンチング処理して得ることができる。また、上述した油脂成分に加えて、一般的にチョコレートに配合される材料を配合してもよい。そのような材料としては、カカオマス、ココアパウダー、糖類、乳製品、シロップ、洋酒等の呈味材、乳化剤、香料、着色料、酸化防止剤等が挙げられる。
【0052】
本発明のノーテンパリング型チョコレートは、これを含む食品とすることもできる。そのような食品としては、例えば、ケーキ、パン、ビスケット、パイ、饅頭等の種々の和洋菓子、ベーカリー製品、菓子類や、果物を用いた菓子類が挙げられる。またチョコレートの用途には限定はないが、コーティング用、チョコチップ用、ベーカリー生地練り込み用、菓子生地練り込み用、センタークリーム用、サンドクリーム用、ディップクリーム用等が挙げられる。本発明の相溶性向上剤は、幅広い温度帯でグレイニングを抑制できることから、上記食品の中でも特に、常温で流通する食品に好適である。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(脂肪酸組成の測定方法)
油脂の構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2.4.2.1−2013により決定した。
【0055】
(トリグリセリド組成の測定方法)
トリグリセリド組成は、基準油脂分析法2.4.6.2−2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定した。
【0056】
(SFCの測定方法)
SFCは、IUPAC 2.150(a)に定められた方法に従い、20℃又は50℃で、NMR法により測定した。
【0057】
(分別度の測定方法)
分別度とは、30〜50℃で無溶剤で晶析して得られた晶析固液混合油(スラリー)のSFC値である。分別度の好ましい範囲は0.1〜20%である。前記分別度のSFC値は、スラリーをサンプリングした直後に、NMR法にて測定した。p−NMR装置の測定セル内は40℃に保持した。
【0058】
(収率の算出方法)
収率とは、原料油脂から得られた相溶性向上剤の重量%のことである。収率の好ましい範囲は50〜99.9%である。前記収率は、得られた相溶性向上剤の重量を原料油脂の合計重量で除した数値を百分率(%)換算することで算出した。
【0059】
(製造例1)ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターの作製
60℃で融解した「ハイベルF40LT」(カネカ製)80重量部と、60℃で融解したヨウ素価63のパーム分別軟質部のランダムエステル交換油(カネカ製)20重量部を混合後、急冷捏和装置にて捏和して、出口温度20℃でダンボールに充填して、ラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバターを得た。得られたハードバターは、炭素数12〜14の飽和脂肪酸含量が1.3重量%、20℃のSFCが69.6%、50℃のSFCが0.1%であった。
【0060】
(実施例1)相溶性向上剤1の作製
原料油脂として、ヨウ素価63のパーム分別軟質部(カネカ製)80重量部およびハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)20重量部とをセパラブルフラスコに入れ、100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行い、前記油脂中の水分を100ppmに調整した。その後、前記混合油脂(パーム分別軟質部:ハイエルシン菜種油の極度硬化油=80:20)100重量部に対しナトリウムメチラートを0.2重量部添加し、真空状態のまま90℃で20分間撹拌した。撹拌を停止し、真空を開放した後、前記混合油脂100重量部に対し100重量部の中性水(pH7.6(以下、全て同じpH))を、油層の上からシャワーリングしながら注いで、該油脂と中性水とを接触させた。そのまま60分間静置して油層、乳化層、及び水層を十分に分離させた後に、フラスコ下部から水層と乳化層とを排出し、油層を得た。得られた油層100重量部に対し白土(水澤化学製、NF−X)を2重量部加え100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行った後、ろ紙(Advantec製、定性ろ紙No1)を通過させ、脱色油を得た。得られた脱色油を常法の通り水蒸気蒸留(250℃、200Pa、60分)により脱臭処理し、相溶性向上剤1を得た。表2に示す。
【0061】
(実施例2)相溶性向上剤2の作製
ヨウ素価63のパーム分別軟質部とハイエルシン菜種油の極度硬化油の使用量をそれぞれ、67重量部と33重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤2を得た。表2に示す。
【0062】
(比較例1)相溶性向上剤3の作製
ヨウ素価63のパーム分別軟質部とハイエルシン菜種油の極度硬化油の使用量をそれぞれ、50重量部と50重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤3を得た。表2に示す。
【0063】
(比較例2)相溶性向上剤4の作製
ヨウ素価63のパーム分別軟質部とハイエルシン菜種油の極度硬化油の使用量をそれぞれ、89重量部と11重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤4を得た。表2に示す。
【0064】
(比較例3)相溶性向上剤5の作製
原料油脂として、ローエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)50重量部とアクターM2(理研ビタミン製)50重量部を使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤5を得た。表2に示す。
【0065】
(実施例3)相溶性向上剤6の作製
原料油脂として、ヨウ素価63のパーム分別軟質部(カネカ製)67重量部およびハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)33重量部とをセパラブルフラスコに入れ、100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行い、前記油脂中の水分を100ppmに調整した。その後、前記混合油脂(パーム分別軟質部:ハイエルシン菜種油の極度硬化油=67:33)100重量部に対しナトリウムメチラートを0.2重量部添加し、真空状態のまま90℃で20分間撹拌した。撹拌を停止し、真空を開放した後、前記混合油脂100重量部に対し100重量部の中性水(pH7.6(以下、全て同じpH))を、油層の上からシャワーリングしながら注いで、該油脂と中性水とを接触させた。そのまま60分間静置して油層、乳化層、及び水層を十分に分離させた後に、フラスコ下部から水層と乳化層とを排出し、油層を得た。得られた油層100重量部に対し白土(水澤化学製、NF−X)を2重量部加え100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行った後、ろ紙(Advantec製、定性ろ紙No1)を通過させて脱色油を得た。
【0066】
得られた脱色油を、溶剤を用いずに、溶解状態から42.5℃で24時間100rpmで攪拌しながら分別度が11.5%となるまで結晶を析出させた後に、フィルタープレスにて1.5MPaの条件で分別を行い、分別液状部を得た。得られた分別液状部を常法の通り水蒸気蒸留(250℃、200Pa、60分)により脱臭処理し、相溶性向上剤6を得た。表3に示す。
【0067】
(実施例4)相溶性向上剤7の作製
分別度を19.5%に変更した以外は実施例3と同様の手法によって相溶性向上剤7を得た。表3に示す。
【0068】
(実施例5)相溶性向上剤8の作製
ヨウ素価63のパーム分別軟質部とハイエルシン菜種油の極度硬化油の使用量をそれぞれ、55重量部と45重量部に変更した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤8を得た。表4に示す。
【0069】
(実施例6)相溶性向上剤9の作製
原料油脂として、ハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)20重量部およびヨウ素価50のパーム油(カネカ製)80重量部を使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤9を得た。表4に示す。
【0070】
(比較例4)相溶性向上剤10の作製
原料油脂として、ハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)33重量部およびヨウ素価27のパーム核オレイン(カネカ製)67重量部を使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤10を得た。表4に示す。
【0071】
(比較例5)相溶性向上剤11の作製
ヨウ素価33のパーム分別ステアリン(カネカ製)のみをセパラブルフラスコに入れ、100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行い、前記油脂中の水分を100ppmに調整した。その後、前記油脂100重量部に対しナトリウムメチラートを0.2重量部添加し、真空状態のまま90℃で20分間撹拌した。撹拌を停止し、真空を開放した後、前記混合油脂100重量部に対し100重量部の中性水(pH7.6(以下、全て同じpH))を、油層の上からシャワーリングしながら注いで、該油脂と中性水とを接触させた。そのまま60分間静置して油層、乳化層、及び水層を十分に分離させた後に、フラスコ下部から水層と乳化層とを排出し、油層を得た。得られた油層100重量部に対し白土(水澤化学製、NF−X)を2重量部加え100rpmの撹拌速度で撹拌しながら、90℃、真空状態(500Pa)の条件下で加熱真空脱水を行った後、ろ紙(Advantec製、定性ろ紙No1)を通過させて脱色油を得た。
【0072】
得られた脱色油を、溶剤を用いずに、溶解状態から43.5℃で24時間100rpmで攪拌しながら分別度が20.0%となるまで結晶を析出させた後に、フィルタープレスにて1.5MPaの条件で分別を行い、分別液状部を得た。得られた分別液状部を常法の通り水蒸気蒸留(250℃、200Pa、60分)により脱臭処理し、相溶性向上剤11を得た。表4に示す。
【0073】
(比較例6)相溶性向上剤12の作製
原料油脂として、ローエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)60重量部およびコーン油(カネカ製)40重量部を使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤12を得た。表4に示す。
【0074】
(比較例7)相溶性向上剤13の作製
原料油脂として、シアオレイン(カネカ製)のみを使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤13を得た。表5に示す。
【0075】
(比較例8)相溶性向上剤14の作製
原料油脂として、シアオレイン(カネカ製)67重量部およびヨウ素価50のパーム油の極度硬化油(カネカ製)33重量部を使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤14を得た。表5に示す。
【0076】
(比較例9)相溶性向上剤15の作製
原料油脂として、ヨウ素価63のパーム分別軟質部(カネカ製)のみを使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤15を得た。表5に示す。
【0077】
(比較例10)相溶性向上剤16の作製
ハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)を相溶性向上剤16として使用した。表5に示す。
【0078】
(比較例11)相溶性向上剤17の作製
原料油脂として、ハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)33重量部およびハイオレイックひまわり油(カネカ製)67重量部を使用した以外は、実施例1と同様の手法によって相溶性向上剤17を得た。表5に示す。
【0079】
実施例1〜6および比較例1〜11で得られた相溶性向上剤について、トリグリセリド組成と脂肪酸組成を測定し、その結果を表2〜5に示した。
【0080】
(ノーテンパリング型チョコレートの作製)
実施例1〜6および比較例1〜11のチョコレートは、それぞれ、各実施例および比較例で得られた相溶性向上剤を用いて、表1のチョコレート配合1に従って作製した。
【0081】
また、後述する口溶け及びスナップ性の評価において比較対象のための基準として使用する「従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレート」は、表1のチョコレート配合2に従って作製した。この「従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレート」に関する口溶け及びスナップ性の評価は、参考例1として表2に示した。
【0082】
【表1】

表1では以下の成分を用いた。これらの成分は後述する表6でも同様である。
カカオマス:Dezaan cocoamas(ADM社製、ココアバター含有量55%)
ココアパウダー:Dezaan cocoapowder(ADM社製、ココアバター含有量22.5%)
ココアバター:Deodorised cocoa butter(PT.ASIA.COCOA.INDONESIA社製)
ラウリン系油脂低含有ハードバター:製造例1で得たラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター
全粉乳:油分26%の全脂粉乳
脱脂粉乳:油分1%の脱脂粉乳
砂糖:粉糖(愛国産業製)
レシチン:Yelkin TS(ADM社製)
バニリン:リグニンバニリン(高砂香料工業製)
【0083】
(実施例7〜8及び比較例12〜13)
実施例7〜8及び比較例12〜13のチョコレートは、実施例2で得られた相溶性向上剤2を用いて、表6の配合に従って作製した。実施例7〜8および比較例12〜13で得られたチョコレートについて、トリグリセリド組成と脂肪酸組成を測定し、その結果を表6に示した。
【0084】
チョコレートの作製においては、常法に従って、各成分のミキシング、ロール掛け、及びコンチングを行った後にφ50mmの丸型皿に流し入れ、20℃の恒温槽に入れて1週間静置して固化させ、ノーテンパリング型チョコレートを得た。
【0085】
以上で得られたチョコレートを、以下に示す各評価に供した。結果を表2〜3及び5〜6に示す。
【0086】
(相溶性の評価方法)
熟練したパネラー1人が、各温度条件(10℃、15℃、又は、20℃)で3ヶ月間保管したチョコレート1〜22(n=3)の表面を観察し、以下の基準に従って評価した。
5点:白い斑点(ブツブツ)が無く、艶がある
4点:白い斑点(ブツブツ)が無く、艶が無い
3点:白い斑点(ブツブツ)は無いが、表面に若干の凸凹が見られる
2点:白い斑点(ブツブツ)が生じている
1点:白い斑点(ブツブツ)が多数生じている。
【0087】
(作業性(チョコレートの乾き)の評価方法)
チョコレートを作製する際に、コンチング直後の融解状態のチョコレートを20℃で10分間静置した後の乾きについて、10人の熟練したパネラーが以下の基準に従って評価し、その平均点を記載した。
5点:触れてもチョコレートが手に全く付着せず、乾きが非常に良い
4点:触れてもチョコレートがほとんど付着せず、乾きが良い
3点:触れるとチョコレートがわずかに付着し、乾きは普通
2点:触れるとチョコレートがやや付着し、乾きが悪い
1点:触れるとチョコレートが多く付着し、乾きが非常に悪い
【0088】
(口溶けの評価方法)
型に流し入れ、20℃の恒温槽に入れて1週間静置して固化させた後のノーテンパリング型チョコレートの口溶けについて、10人の熟練したパネラーが以下の基準に従って評価し、その平均点を記載した。
5点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートと同等で口溶けが非常に良い
4点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートとほぼ同等で口溶けが良い
3点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートにはやや劣り口溶けがやや悪いが許容範囲内
2点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣り口溶けが悪い
1点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣り口溶けが非常に悪い
【0089】
(スナップ性の評価方法)
型に流し入れ、20℃の恒温槽に入れて1週間静置して固化させた後のノーテンパリング型チョコレートのスナップ性について、10人の熟練したパネラーが以下の基準に従って評価し、その平均点を記載した。ここでいうスナップ性とは、チョコレートを食した時にパリッと割れる食感のことである。
5点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートと同等でスナップ性が非常に良い
4点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートとほぼ同等でスナップ性が良い
3点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートにはやや劣りスナップ性がやや悪いが許容範囲内
2点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣りスナップ性が悪い
1点:従来のCBR配合ノーテンパリング型チョコレートに劣りスナップ性が非常に悪い
【0090】
(相溶性向上剤の生産性の評価方法)
相溶性向上剤の生産性は、相溶性向上剤製造時の分別工程の有無、及び、収率に基づいて以下の基準で評価した。
5点:非常に良好 分別工程が無く収率が75%以上
4点:良好 分別工程が有り収率が75%以上
3点:許容範囲内 分別工程が有り収率が50%以上75%未満
2点:悪い 分別工程が有り収率が25%以上50%未満
1点:非常に悪い 分別工程が有り収率が25%未満
【0091】
(総合評価)
チョコレートの評価及び相溶性向上剤の評価のうち最低点数を四捨五入して総合評価とした。
以下の表中、各油脂は以下のものである。
油脂A:ヨウ素価63のパーム分別軟質部(カネカ製)
油脂B:ハイエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)
油脂C:ローエルシン菜種油の極度硬化油(カネカ製)
油脂D:アクターM2(理研ビタミン製)
油脂E:ヨウ素価50のパーム油(カネカ製)
油脂F:ヨウ素価27のパーム核オレイン(カネカ製)
油脂G:ヨウ素価33のパーム分別ステアリン(カネカ製)
油脂H:コーン油(カネカ製)
油脂I:シアオレイン(カネカ製)
油脂J:ヨウ素価50のパーム油の極度硬化油(カネカ製)
油脂K:ハイオレイックひまわり油(カネカ製)
【0092】
【表2】
【0093】
表2より、実施例1及び2のチョコレートはいずれも良好な結果が得られているが、実施例2のチョコレートは、実施例1のチョコレートと比較して、XYU含量、Y2U含量、YU2含量、並びに、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量いずれも多く、相溶性に関してより優れていた。一方、比較例1のチョコレートは、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が多く、口溶けの点で不十分なものであった。比較例2のチョコレートは、Y2U含量、並びに、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が少なく、相溶性の点で不十分なものであり、いずれの試験温度でもグレイニングが発生した。比較例3のチョコレートは、XYU、Y2UおよびYU2がいずれも含まれておらず、固化速度が低く作業性が悪く、また、スナップ性が不十分であった。
【0094】
【表3】
【0095】
表3より、実施例3及び4のチョコレートはいずれも良好な結果が得られているが、XXX、X2Y、XY2およびYYYの合計含有量が実施例2のチョコレートよりも低く、相溶性向上剤の生産性の点で実施例2のチョコレートよりもやや低い結果が得られた。
【0096】
【表4】
【0097】
表4より、実施例5及び6のチョコレートはいずれも良好な結果が得られているが、実施例2のチョコレートと比較すると口溶けおよびスナップ性の点でやや劣る結果が得られた。比較例4〜6のチョコレートは、XYU、Y2UおよびYU2の各含量が少ないか、または含まれておらず、相溶性の点で不十分なものであり、いずれか又は全ての試験温度でグレイニングが発生した。
【0098】
【表5】
【0099】
表5より、比較例7〜10のチョコレートは、XYU、Y2UおよびYU2の各含量が少ないか、または含まれておらず、相溶性の点で不十分なものであり、いずれの試験温度でもグレイニングが発生した。加えて比較例10のチョコレートは、口溶けやスナップ性も不十分なものであった。比較例11のチョコレートは、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量が多く、相溶性の点で不十分なものであり、20℃での保管時にグレイニングが発生した。
【0100】
【表6】
【0101】
表6より、実施例7のチョコレートは相溶性の点でやや低い結果が得られ、実施例8のチョコレートは作業性や、口溶け、スナップ性の点でやや低い結果が得られたが、いずれも商品として販売できるレベルのものであった。比較例12のチョコレートはXYU含量、Y2U含量、YU2含量、並びに、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量がいずれも少なく、相溶性の点で不十分なものであり、いずれの試験温度でもグレイニングが発生した。比較例13のチョコレートは、XYU含量、Y2U含量、YU2含量、並びに、XYU、Y2UおよびYU2の合計含有量がいずれも多く、作業性がやや悪いことに加えて、口溶けとスナップ性が不十分なものであった。
【0102】
(実施例9) ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物の作製
製造例1で得たラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター50重量部、相溶性向上剤2(実施例2)50重量部を溶解・混合後、攪拌しながら冷却して、ノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物を作製した。得られたノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物のラウリン系油脂低含有ノーテンパリング型ハードバター/ラウリン系油脂高含有ノーテンパリング型ハードバターの重量比は∞(無限大)である。
【0103】
(実施例10) ノーテンパリング型チョコレートの作製
表6の配合に従ってノーテンパリング型チョコレートを作製した。即ち、チョコレート20(実施例8)のラウリン系油脂低含有ハードバター:13.135重量部と相溶性向上剤2:13.135重量部をノーテンパリング型チョコレート用油脂組成物(実施例9):26.27重量部に変えた以外は、実施例8と同様にして、ノーテンパリング型チョコレートを作製した。得られたチョコレートの評価結果を表6に示した。
【0104】
表6の結果から、実施例10のチョコレートは作業性や、口溶け、スナップ性の点でやや低い結果が得られたが、いずれも商品として販売できるレベルのものであった。