特許第6793306号(P6793306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793306
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】果皮酵素処理物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20201119BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20201119BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20201119BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20201119BHJP
【FI】
   A61K36/752
   A61K31/353
   A23L33/10
   A23L5/00 K
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-124024(P2016-124024)
(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公開番号】特開2017-226621(P2017-226621A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−045865(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/070810(WO,A1)
【文献】 Hydrolysis of flavanone glycosides by β-glucosidase from Pyrococcus furiosus and its application to the production of flavanone aglycones from citrus extracts,Journal of agricultural and food chemistry,American Chemical Society,2013年,Vol.61,p.11532-11540
【文献】 岐阜大学紀要,1954年,Vol.4,p4-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 31/00−31/80
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
A23L 5/00−5/49
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果皮を含む柑橘類原料を、乳化剤存在下(ただし、ジメチルスルホキシド非存在下)で、配糖体分解酵素で処理することを特徴とする、フラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物の製造方法。
【請求項2】
配糖体分解酵素がβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素である、請求項1記載の果皮酵素処理物の製造方法。
【請求項3】
乳化剤のHLB値が10〜20である、請求項1又は2に記載の果皮酵素処理物の製造方法。
【請求項4】
ヘスペレチン、ナリンゲニン及びエリオジクチオールのうち1種以上のフラボノイドアグリコンを含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の果皮酵素処理物の製造方法。
【請求項5】
固形分あたり0.6%以上のフラボノイドアグリコンを含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の果皮酵素処理物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法により得られる、固形分あたり0.6%以上のフラボノイドアグリコン果皮酵素処理物。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法により得られる、フラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物を含む飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果皮酵素処理物及びその製造方法、並びに該果皮酵素処理物を用いた飲食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類のフラボノイドは、一般的に果皮に多く存在し、ガン細胞のアポトーシス誘導作用、脂質代謝改善作用、抗炎症作用等の機能性を有することが報告されている。また、該フラボノイドは、柑橘類中では糖と結合した配糖体の形で存在しているが、体内では、摂取後に腸内細菌の酵素により分解されアグリコンとなって吸収される一方で、アグリコン生成能は、各人の腸内細菌叢の違いから、個人差が大きいことが知られている。
【0003】
柑橘類中のフラボノイドの回収方法として、特許文献1には、柑橘類果実の搾汁粕に微生物あるいは酵素を加えて夾雑物を分解処理する工程を含む方法が示されており、酵素としてペクチナーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーセ、リパーゼ等が例示されている。また、特許文献2には、フラボノイド配糖体或いはその共役体をフラボノイドアグリコンに酵素的に転化する方法が示されており、酵素としてグリコシダーゼ、β−グリコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ペクチナーゼ、ヘスペリジナーゼ、アントシアナーゼ、ラムノジアスターゼ、ナリンジアナーゼ及びタカジアスターゼが例示されている。
【0004】
一方、乳化剤を使用した抽出方法としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルを使用し、エチルアルコールおよび水の抽出溶剤混合物を用いて油溶性原料(精油)を抽出し、最終的に香料を製造する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−113871号公報
【特許文献2】特表2004−500374号公報
【特許文献3】特開2015−98541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な方法で抽出した柑橘類のフラボノイドは、配糖体として抽出物中に存在しているため、機能性成分として効率的に利用するためには、吸収性に優れたフラボノイドアグリコンとすることが重要である。本発明は、前記に鑑みてなされたものであり、柑橘類のフラボノイドアグリコンを含む果皮酵素処理物及びその製造方法、並びに該果皮酵素処理物を用いた飲食品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、果皮を含む柑橘類原料を、乳化剤存在下で、配糖体分解酵素で処理することで、柑橘類のフラボノイドアグリコン含有量を高められることを見出し、それによって、フラボノイドアグリコンを含む果皮酵素処理物を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]の態様に関する。
[1]果皮を含む柑橘類原料を、乳化剤存在下で、配糖体分解酵素で処理することを特徴とする、フラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物の製造方法。
[2]配糖体分解酵素がβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素である、[1]記載の果皮酵素処理物の製造方法。
[3]乳化剤のHLB値が10〜20である、[1]又は[2]に記載の果皮酵素処理物の製造方法。
[4]ヘスペレチン、ナリンゲニン及びエリオジクチオールのうち1種以上のフラボノイドアグリコンを含む、[1]〜[3]の何れかに記載の果皮酵素処理物の製造方法。
[5]固形分あたり0.6%以上のフラボノイドアグリコンを含む、[1]〜[4]の何れかに記載の果皮酵素処理物の製造方法。
[6][1]〜[5]の何れかに記載の製造方法により得られる、フラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物。
[7][1]〜[5]の何れかに記載の製造方法により得られる、フラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物を含む飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、柑橘類のフラボノイドアグリコンを固形分あたりに多く含む果皮酵素処理物を提供できる。さらに、柑橘類のフラボノイドアグリコン含有量を高めることができ、該フラボノイドアグリコンを多く含む果皮酵素処理物を簡便に製造できる製造方法を提供できる。また、該フラボノイドアグリコンは吸収性に優れているため、飲食品に含ませることで、体内に効率よく吸収され、機能性を効果的に発揮できうるフラボノイドアグリコン含有飲食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、果皮を含む柑橘類原料を、乳化剤存在下で、配糖体分解酵素で処理する工程を含む。例えば、果皮を含む柑橘類原料に乳化剤及び配糖体分解酵素を添加し、加熱する工程を含む製造方法を例示でき、乳化剤添加後及び/又は配糖体分解酵素添加後に混合する工程を含むのが好ましい。
【0011】
本発明に記載の柑橘類は、カンキツ属、キンカン属及びカラタチ属に含まれる植物であれば、生食用品種、調理(加工)用品種又は観賞用品種の何れでもよく、温州ミカン、オレンジ、ネーブル、グレープフルーツ、ブンタン、夏ミカン、ハッサク、シークワーサー、レモン、ダイダイ、キンカン、ユズ、カボス等が例示でき、単独又は二種類以上を組み合わせて使用してもよい。柑橘類原料は、果実、果皮、搾汁粕、加工残渣等、果皮を含む柑橘類原料であればよく、切断、破砕、細砕、粉砕等の処理を行った原料でもよく、前記の原料を乾燥した原料でもよい。
【0012】
本発明に記載の乳化剤は、フラボノイドアグリコン含有量が高められれば特に限定されず、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等、市販の食品用乳化剤を使用することができ、単独又は二種類以上を組み合わせて使用してもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステル又はショ糖脂肪酸エステルが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、リョートー(登録商標)ポリグリエステル(三菱化学フーズ株式会社製)等、ショ糖脂肪酸エステルとしては、リョートーシュガーエステル(三菱化学フーズ株式会社製)等が例示できる。乳化剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance Value、親水性−親油性バランス)が10〜20が好ましく、下限は11以上がより好ましく、上限は18以下がより好ましい。
【0013】
本発明は、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理できればよく、乳化剤は、該酵素処理前又は酵素処理中に添加すればよい。乳化剤の添加割合は、フラボノイドアグリコン含有量が高められれば特に限定されないが、果皮を含む柑橘類原料100重量%に対して、0.2重量%以上が好ましく、0.3重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましく、0.8重量%以上が特に好ましい。また上限は、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましい。
【0014】
配糖体分解酵素は、配糖体のグリコシド結合を切断する活性を有するものであればよく、具体的には、グルコシダーゼ、プリメベロシダーゼ、キシロシダーゼ等を例示できる。中でもグルコシダーゼを好適に用いることができ、特にβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素が好ましい。β−グルコシダーゼ活性を有する酵素は特に限定されるものではなく、ペニシリウム属、アスペルギルス属、シュードモナス属、リゾムコル属、クリプトコッカス属、ミクロバクテリウム属等の微生物由来の酵素が例示できる。酵素製剤としては、アロマーゼ(登録商標)(天野エンザイム株式会社製)、スミチーム(登録商標)BGA(新日本化学工業株式会社製)、ラピダーゼ(登録商標)AR2000(ディー・エス・エムジャパン株式会社製)等が使用できる。さらに、ペクチナーゼ、ナリンギナーゼ、ヘスペリジナーゼ等の他の酵素を併用してもよい。
【0015】
酵素処理は水分存在下で実施すればよく、水分は、原料中の水分でもよく、又は添加してもよい。酵素処理時の水分含量は、本発明の酵素処理物が得られれば特に限定されないが、30〜99重量%が好ましく、40〜98重量%がより好ましい。原料に水分を添加する場合は、水性溶媒を使用でき、無機塩、エタノール等を含有する水溶液でもよいが、水が好ましい。水性溶媒がエタノールを含有する場合の含量は、溶媒全体の20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましく、2重量%以下が特に好ましい。
【0016】
酵素処理条件は、配糖体のグリコシド結合が切断される条件であれば特に限定されないが、例えば酵素添加量は、酵素製剤として、果皮を含む柑橘類原料を100重量%とした場合に、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%である。また、処理条件は酵素の最適pH及び温度、並びにpH及び温度安定性を考慮して適宜設定できるが、例えば、pH2〜8、10〜70℃での処理が例示でき、pH3〜7、20〜60℃が好ましい。処理時間は処理条件に応じて適宜調整できるが、例えば、5分間〜30時間が例示でき、10分間〜24時間が好ましい。さらに、70〜120℃、1分間〜6時間又は80〜100℃、3分間〜3時間の加熱工程を追加で行うのが好ましく、酵素の失活やフラボノイドアグリコン含有量を高めることができる。
【0017】
本発明のフラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物は、フラボノイドアグリコンを固形分あたりに高含有していれば特に限定されず、そのままの形態でも利用することができるが、酵素処理後に不織布、メッシュ等を用いたろ過、遠心分離等により固液分離することで得られる液体として利用してもよいし、酵素処理物全体を乾燥させた乾燥物として利用してもよい。液体の場合はさらに濃縮及び/又は乾燥してもよい。乾燥は、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等により行うことができる。
【0018】
上記に記載の方法により本発明のフラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物を製造することができる。本発明の酵素処理物は、柑橘類の果皮由来フラボノイドアグリコンを含んでいれば特に限定されないが、ヘスペレチン、ナリンゲニン及びエリオジクチオールのうちの1種以上を含むのが好ましい。本発明の酵素処理物は、乳化剤添加のみで配糖体分解酵素未処理の果皮抽出物又は配糖体分解酵素処理のみで乳化剤無添加の処理物より多くのフラボノイドアグリコンを含んでいればよく、フラボノイドアグリコン含有量は特に限定されないが、ヘスペレチン、ナリンゲニン、エリオジクチオール等のフラボノイドアグリコンの総量として、固形分あたり0.60重量%以上含むのが好ましく、0.70重量%以上含むのがより好ましく、0.80重量%以上含むのがさらに好ましく、0.90重量%以上含むのが特に好ましい。
【0019】
本発明のフラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物は、そのまま喫食しても良いが、各種飲食品に添加することにより、フラボノイドアグリコン含有果皮酵素処理物を含む、飲食品を製造できる。これにより、該酵素処理物が有する各種機能性成分を容易に各種飲食品に付加することができる。各飲食品への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜20%、より好ましくは0.5〜15%、さらに好ましくは1.0〜10%である。添加する飲食品は特に限定されないが、清涼飲料、ジュース、アルコール飲料等の飲料、ケーキ、キャンデー、チョコレート等の菓子、健康食品、調味料等が例示できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0021】
[実施例1]
(シークワーサー果皮酵素処理物:乳化剤及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートー(登録商標)ポリグリエステルO−15D(HLB:13、三菱化学フーズ株式会社製)2gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチーム(登録商標)AP2(新日本化学工業株式会社製)を0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼ(登録商標)(天野エンザイム株式会社製)を0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、実施品1を120g得た。
【0022】
[実施例2]
(各ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB10以上)におけるシークワーサー果皮酵素処理物)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルL−7D(HLB:17、三菱化学フーズ株式会社製(実施例2−1))、リョートーポリグリエステルM−10D(HLB:15、三菱化学フーズ株式会社製(実施例2−2))又はリョートーポリグリエステルS−24D(HLB:10、三菱化学フーズ株式会社製(実施例2−3))を2g加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を各0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを各0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、実施品2−1〜2−3を各120g得た。
【0023】
[実施例3]
(各ショ糖脂肪酸エステル(HLB11以上)におけるシークワーサー果皮酵素処理物)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルS−1670(HLB:16、三菱化学フーズ株式会社製(実施例3−1))、リョートーシュガーエステルS−1570(HLB:15、三菱化学フーズ株式会社製(実施例3−2))又はリョートーシュガーエステルS−1170(HLB:11、三菱化学フーズ株式会社製(実施例3−3))を2g加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を各0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを各0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、実施品3−1〜3−3を各120g得た。
【0024】
[実施例4]
(ポリグリセリン脂肪酸エステル各添加量におけるシークワーサー果皮酵素処理物)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM−10D(HLB:15)10g(実施例4−1)、5g(実施例4−2)、2g(実施例4−3)、1g(実施例4−4)、0.5g(実施例4−5)又は0.2g(実施例4−6)を加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を各0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを各0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、実施品4−1〜4−6を各120g得た。
【0025】
[実施例5]
(ショ糖脂肪酸エステル各添加量におけるシークワーサー果皮酵素処理物)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルP−1570(HLB:15)5g(実施例5−1)、2g(実施例5−2)、1g(実施例5−3)、0.5g(実施例5−4)又は0.2g(実施例5−5)を加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を各0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを各0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、実施品5−1〜5−5を各120g得た。
【0026】
[実施例6]
(レモン果皮酵素処理物:乳化剤及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したレモン120gに乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM−10D(HLB:15)6gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.12g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.6g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、ナイロンメッシュ(100メッシュ)を用いて搾汁することで、実施品6を80g得た。
【0027】
[実施例7]
(ユズ果皮酵素処理物:乳化剤及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したユズ果皮70gに、水道水35g及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM−10D(HLB:15)3.5gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.07g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.35g添加して、60℃で1時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、実施品7を75g得た。
【0028】
[実施例8]
(グレープフルーツ果皮酵素処理物:乳化剤及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したグレープフルーツ果皮70gに、水道水35g及び乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルP−1570(HLB:15)1.4gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.07g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.35g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、凍結真空乾燥することで、実施品8(乾燥品)を10g得た。
【0029】
[比較例1]
(シークワーサー果皮抽出物:乳化剤及び配糖体分解酵素無添加)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.1g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、比較品1を120g得た。
【0030】
[比較例2]
(シークワーサー果皮抽出物:乳化剤添加及び配糖体分解酵素無添加)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルO−15D(HLB:13)2gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.1g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、比較品2を120g得た。
【0031】
[比較例3]
(シークワーサー果皮酵素処理物:乳化剤無添加及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、比較品3を120g得た。
【0032】
[比較例4]
(各ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB9以下)におけるシークワーサー果皮酵素処理物)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルS−28D(HLB:9、三菱化学株式会社製(比較例4−1))又はリョートーポリグリエステルO−50D(HLB:7、三菱化学株式会社製(比較例4−2))を2g加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を各0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを各0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、比較品4−1及び4−2を各120g得た。
【0033】
[比較例5]
(各ショ糖脂肪酸エステル(HLB9以下)におけるシークワーサー果皮酵素処理物)
粉砕処理したシークワーサー果皮100gに、水道水50g及び乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルであるリョートーシュガーエステルS−970(HLB:9、三菱化学株式会社製(比較例5−1))、リョートーシュガーエステルS−770(HLB:7、三菱化学株式会社製(比較例5−2))又はリョートーシュガーエステルS−570(HLB:5、三菱化学株式会社製(比較例5−3))を2g加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を各0.1g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを各0.5g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、比較品5−1〜5−3を各120g得た。
【0034】
[比較例6]
(レモン果皮抽出物:乳化剤添加及び配糖体分解酵素無添加)
粉砕処理したレモン120gに、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM−10D(HLB:15)6gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.12g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、ナイロンメッシュ(100メッシュ)を用いて搾汁することで、比較品6を80g得た。
【0035】
[比較例7]
(ユズ果皮酵素処理物:乳化剤後添加及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したユズ果皮70gに、水道水35gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.07g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.35g添加して、60℃で1時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行い、続いて乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルであるリョートーポリグリエステルM−10D(HLB:15)3.5gを加えて混合し、60℃で1時間処理した後、不織布を用いて搾汁することで、比較品7を75g得た。
【0036】
[比較例8]
(ユズ果皮酵素処理物:乳化剤無添加及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したユズ果皮70gに、水道水35gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.07g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.35g添加して、60℃で1時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、不織布を用いて搾汁することで、比較品8を75g得た。
【0037】
[比較例9]
(グレープフルーツ果皮酵素処理物:乳化剤無添加及び配糖体分解酵素添加)
粉砕処理したグレープフルーツ果皮70gに、水道水35gを加えて混合した後、ペクチナーゼ製剤であるスミチームAP2を0.07g及び配糖体分解酵素としてβ−グルコシダーゼ製剤であるアロマーゼを0.35g添加して、60℃で2時間酵素処理を行った。次いで、80℃で15分間酵素失活処理を行った後、凍結真空乾燥することで、比較品9(乾燥品)を9g得た。
【0038】
[評価試験]
実施品1、2−1〜2−3、3−1〜3−3、4−1〜4−6、5−1〜5−5及び6〜8、並びに比較品1〜3、4−1、4−2、5−1〜5−3及び6〜9について、果皮を含む柑橘類原料に対する乳化剤添加割合(%)、ペクチナーゼ製剤添加割合(%)及び配糖体分解酵素添加割合(%)を表1〜8に示した。また、実施品及び比較品中の固形分を常圧加熱乾燥法により測定し、さらに、HPLCを用いてフラボノイドアグリコン(ヘスペレチン、ナリンゲニン及びエリオジクチオール)含有量を下記測定条件にて測定し、固形分あたりの値として表1〜8に示した。なお、表1〜5記載の試料は何れもナリンゲニン及びエリオジクチオールは不検出だった。また、表7記載の試料は何れもエリオジクチオールは不検出で、表8記載の試料は何れもヘスペレチン及びエリオジクチオールは不検出だった。
【0039】
<HPLC測定条件:ヘスペレチン、ナリンゲニン又はエリオジクチオール>
検出器:UV検出器(紫外波長260nm)
カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
移動相A:15容量%アセトニトリル水溶液(0.1容量%リン酸含有)
移動相B:40容量%アセトニトリル水溶液(0.1容量%リン酸含有)
グラジエント:移動相Aから移動相Bへのグラジエント(45分間)
流速:1.0ml/分
カラム温度:40℃
標品:ヘスペレチン(東京化成工業株式会社製)、ナリンゲニン(和光純薬工業株式会社製)又はエリオジクチオール(和光純薬工業株式会社製)を80%アセトニトリル水溶液に溶解した後、適宜希釈し、各検量線を作成した。
検体:各試料を80%アセトニトリル水溶液で、適宜希釈したもの。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より、シークワーサー果皮について、乳化剤及び配糖体分解酵素無添加で処理した比較品1、並びに乳化剤添加及び配糖体分解酵素無添加で処理した比較品2は何れもヘスペレチンが不検出だったのに対し、配糖体分解酵素を添加して処理した実施品1及び比較品3ではヘスペレチンが検出された。さらに、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理した実施品1の固形分あたりのヘスペレチン含有量は、乳化剤非存在下で配糖体分解酵素により処理した比較品3に比べて約2倍高かった。よって、シークワーサー果皮について、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理することで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、シークワーサー果皮について、乳化剤として、HLBが10〜17のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた実施品2−1〜2−3の固形分あたりのヘスペレチン含有量は、HLBが7又は9のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた比較品4−1又は4−2に比べて約1.5〜2.4倍高かった。よって、シークワーサー果皮について、乳化剤として、HLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0044】
【表3】
【0045】
表3より、シークワーサー果皮について、乳化剤として、HLBが11〜16のショ糖脂肪酸エステルを用いた実施品3−1〜3−3の固形分あたりのヘスペレチン含有量は、HLBが5〜9のショ糖脂肪酸エステルを用いた比較品5−1〜5−3に比べて約1.3〜2.4倍高かった。よって、シークワーサー果皮について、乳化剤として、HLBが11以上のショ糖脂肪酸エステルを用いることで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0046】
【表4】
【0047】
表4より、シークワーサー果皮について、原料に対して乳化剤として0.2%〜10%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:15)を添加することで、何れもヘスペレチンが検出されることが分かった。さらに、0.2%〜10%のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:15)を添加した実施品4−1〜4−6の固形分あたりのヘスペレチン含有量は、乳化剤非存在下で配糖体分解酵素により処理した表1の比較品3に比べて約1.2〜2.1倍高かった。よって、シークワーサー果皮について、乳化剤として、原料に対して0.2%以上のポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:15)を添加することで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0048】
【表5】
【0049】
表5より、シークワーサー果皮について、原料に対して乳化剤として0.2%〜5%のショ糖脂肪酸エステル(HLB:15)を添加することで、何れもヘスペレチンが検出されることが分かった。さらに、0.2%〜5%のショ糖脂肪酸エステル(HLB:15)を添加した実施品5−1〜5−5の固形分あたりのヘスペレチン含有量は、乳化剤非存在下で配糖体分解酵素により処理した表1の比較品3に比べて約1.2〜1.6倍高かった。よって、シークワーサー果皮について、乳化剤として、原料に対して0.2%以上のショ糖脂肪酸エステル(HLB:15)を添加することで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0050】
【表6】
【0051】
表6より、レモンについて、乳化剤存在下で配糖体分解酵素無添加で処理した比較品6はヘスペレチン、ナリンゲニン及びエリオジクチオールが不検出だったのに対し、乳化剤存在下で配糖体分解酵素を添加して処理した実施品6ではヘスペレチン、ナリンゲニン及びエリオジクチオールが検出された。よって、レモンについて、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理することで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0052】
【表7】
【0053】
表7より、ユズ果皮について、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理した実施品7の固形分あたりのヘスペレチン及びナリンゲニンの合計含有量は、乳化剤非存在下で配糖体分解酵素により処理し、酵素を失活させた後に乳化剤を添加した比較品7及び乳化剤非存在下で配糖体分解酵素により処理した比較品8に比べて約1.6倍高かった。よって、ユズ果皮について、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理することで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。
【0054】
【表8】
【0055】
表8より、グレープフルーツ果皮について、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理した実施品8の固形分あたりのナリンゲニンの含有量は、乳化剤非存在下で配糖体分解酵素により処理した比較品9に比べて約2.2倍高かった。よって、グレープフルーツ果皮について、乳化剤存在下で配糖体分解酵素により処理することで、フラボノイドアグリコン含有量を高めることができることが分かった。さらに、酵素処理物を搾汁せず乾燥させた乾燥品においてもフラボノイドアグリコンを高含有することが分かった。