特許第6793341号(P6793341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6793341
(24)【登録日】2020年11月12日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】熱圧成形用粉末接着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 197/00 20060101AFI20201119BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20201119BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   C09J197/00
   C09J11/06
   C09J11/04
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-57734(P2017-57734)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159021(P2018-159021A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】朝田 鉄平
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−152837(JP,A)
【文献】 特開2012−214687(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/001988(WO,A1)
【文献】 特開2005−103415(JP,A)
【文献】 特公昭48−007851(JP,B1)
【文献】 特開2017−002032(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0152244(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0222463(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理した後に、多価カルボン酸と混合し、加熱処理することを特徴とする半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤の製造方法。
【請求項2】
前記加熱水蒸気処理が過熱水蒸気処理であることを特徴とする請求項1に記載の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法。
【請求項3】
前記木粉と前記多価カルボン酸との混合物に硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムを添加した後に、前記加熱処理をすることを特徴とする請求項1また2に記載の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法。
【請求項4】
前記多価カルボン酸と混合した後の加熱処理の加熱温度が、前記熱圧成形用粉末接着剤の硬化温度より低いことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法。
【請求項5】
前記多価カルボン酸がクエン酸であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱圧成形用粉末接着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱圧成形用接着剤として、バイオマス由来のものが知られており、例えば、カゼインや大豆グルー、ニカワ等が例示される。しかしながら、これらのバイオマス由来の熱圧成形用接着剤では、接着強度等の物性等が必ずしも十分とはいえず、ユリア、メラミン、フェノール等の石油由来熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤に置き換わっていった。現在では、これらの石油由来熱硬化性樹脂を主成分とする接着剤を用いて合板、パーティクルボード、繊維板等の木質ボードが製造されている。
【0003】
このような石油由来熱硬化性樹脂を主成分とする熱圧成形用接着剤には、希釈剤や溶媒として有機溶剤が用いられるとともに、しばしば硬化剤としてホルムアルデヒドが添加されている。このような熱圧成形用接着剤を用いて製造された木質ボードからのホルムアルデヒドの放散が問題となっており、種々の低減策が施されているが、ホルムアルデヒドの放散を完全に抑制することはできていない。また、ホルムアルデヒドを放散しない石油由来熱硬化性樹脂であるイソシアネート系の接着剤も開発されているが、水分との反応や金属との結合等が課題となっており、広くは普及していない。
【0004】
一方、木材や樹皮等に含まれるポリフェノール類であるタンニンやリグニンは、製材やパルプ利用において廃棄物となるため、これを有効利用しようという試みが古くからなされてきた。例えば、タンニンやリグニンは、化学構造がフェノール樹脂に類似していることから、フェノール樹脂と同様にホルムアルデヒドと反応、縮合させて接着剤として用いることが検討されてきた(特許文献1参照)。さらに、フェノール樹脂のメチロール基との反応を期待して、フェノール樹脂にタンニンやリグニンを添加し、フェノール樹脂の高分子骨格の中にこれらのポリフェノール類化合物を取り込む検討もなされてきた(非特許文献1、2参照)。
【0005】
また、タンニンやリグニンの有効利用を目的とする他の試みとしては、例えば、タンニンやリグニンのフェノール性水酸基とポリイソシアネートを反応させてウレタン樹脂とすること等が検討されている(非特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、タンニンやリグニンをホルムアルデヒドと反応させる場合、残留した未反応のホルムアルデヒドや、反応生成物の加水分解によって発生したホルムアルデヒドが雰囲気中に放散されるという問題がある。また、タンニンやリグニンの反応性が、従来のフェノール樹脂よりも低いため、接着強度等の物性と生産性が劣り、前記の技術は広く実用化されていないのが現状である。
【0007】
こうした中、多価カルボン酸及び糖類を主成分とした熱圧成形用接着剤を用いて木質小片からなる木質ボードを製造することが提案されている(特許文献2、3参照)。特許文献3では、さらにパラトルエンスルホン酸やリン酸塩や有機チタン化合物を触媒として添加することが提案されている。
【0008】
上記の特許文献2、3に記載された熱圧成形用接着剤を用いて、例えば、床材等に使用される木質ボードを製造する場合には、原材料の木質小片等に、直接多価カルボン酸及び糖類、さらに触媒等を分散させて混合し、これを熱圧成形して木質ボードとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3796604号公報
【特許文献2】国際公開第2010/001988号
【特許文献3】特開2012−214687号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「木質新素材ハンドブック」技報堂出版p.361
【非特許文献2】「ウッドケミカルスの新展開」シーエムシー出版p.225(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2、3に記載された熱圧成形用接着剤はいずれも液状接着剤であり、木質小片等の木質ボード原料に接着剤を供給した後、接着剤を硬化させるため、接着剤中の水分や有機溶剤を蒸発、乾燥させる工程が必要であった。そのため、作業環境中にホルムアルデヒドが放散されたり、揮発した有機溶剤のエアロゾルが放出されるという問題や、木質ボードの成形時間が長くなるという問題があり、作業環境の向上や、乾燥工程の短縮化による生産性の向上に更なる改良の余地があった。また、特許文献2、3の熱圧成形用接着剤では、接着剤組成物中に糖類、特にスクロースを含有する必要が有り、接着剤原料の製造コスト削減が望まれていた。
【0012】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、低コストで、環境へ負担が少なく、しかも作業環境の向上や乾燥工程の短縮が可能な半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0014】
すなわち、本発明の半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤は、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理した後に、多価カルボン酸と混合し、加熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストで、環境へ負担が少なく、しかも作業環境の向上や乾燥工程の短縮が可能な半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態の半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤の製造方法は、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理した後に、多価カルボン酸と混合し、加熱処理することを特徴としている。
【0017】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法では、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理することにより、木粉中のヘミセルロースの加水分解が生じ、後述の多価カルボン酸と反応可能なオリゴ糖、二糖類、単糖類等の糖類が生じると考えられる。このようなヘミセルロースの加水分解反応は、単に、乾燥機や熱板等の加熱装置を用いて木粉を加熱した場合には認められず、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理といった湿潤条件下で加熱した場合に顕著に確認することができる。そのため、特許文献2、3に記載された熱圧成形用接着剤のように、接着剤原料に直接糖類を配合しなくとも、木粉由来のヘミセルロースが分解されて生じる糖類により、木質小片等を相互に接着可能とするのに十分な接着性を接着剤に付与することができる。このことは、接着剤原料のコストダウンにつながる。
【0018】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法では、木粉の蒸煮処理として、従来公知の方法を適宜使用することができるが、加熱水蒸気のロスを抑え、しかも100℃以上の高温状態を維持することができる点から、オートクレーブ処理を行うことが好ましく考慮される。蒸煮処理時の条件としては、例えば120℃〜200℃の範囲の温度で10分〜30分程度の処理時間とすることが例示される。蒸煮処理時の条件が上記の範囲内であれば、ヘミセルロースを分解させて接着性の付与に必要十分な量の糖類を生成させることが可能である。
【0019】
また、本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法では、加熱水蒸気処理が過熱水蒸気処理であることが好ましく考慮される。過熱水蒸気処理は、従来公知のバッチ式過熱水蒸気処理装置や過熱水蒸気連続炉などの装置を適宜使用して行うことができる。加熱水蒸気処理及び過熱水蒸気処理の条件としては、例えば、120℃〜300℃の範囲の温度で10分〜30分程度の処理時間とすることが例示される。加熱水蒸気処理時及び過熱水蒸気処理時の条件が上記の範囲内であれば、ヘミセルロースを分解させて接着性の付与に必要十分な量の糖類を生成させることが可能である。
【0020】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法において使用可能な木粉として、例えば、間伐材や建築解体材を主とするものが例示される。間伐材由来の木粉としては、例えば、マツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹、又はラワン、カポール、ポプラ等の広葉樹を粉砕したものが例示される。また、建築解体材由来の木粉としては、例えば、木質合板、パーティクルボード、中密度繊維板、配向性ストランドボード等の木質ボードの廃材を粉砕したもの等が例示される。さらに、竹や籾殻等の農産廃棄物を切断、粉砕したものを適宜使用することもできる。このような木粉は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0021】
木粉の粒子径は、特に限定されないものの、粉末接着剤として用いることから、例えば、0.1mm〜2mmの範囲が例示され、分散性を考慮すると粒子径がより小さい方が好ましい。
【0022】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法において使用可能な多価カルボン酸は、複数のカルボキシル基を有している化合物であれば特に限定されない。これらの多価カルボン酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、フタル酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を挙げることができる。また、グルタル酸(1,5−ペンタン二酸)、グルコン酸、グルタコン酸、ペンテン二酸等も挙げられる。さらに、これらの多価カルボン酸の無水物も使用できる。中でも、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、セバシン酸、イタコン酸等は、植物を原料として製造しているため、より好適に用いことができ、特に、多価カルボン酸がクエン酸であることがさらに好ましく考慮される。植物を原料とする多価カルボン酸を用いる場合、化石資源の使用が抑制できるため、環境へ負担が少なく熱圧成形用粉末接着剤を得ることができる。これらの多価カルボン酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。なお、多価カルボン酸は、文献によってはポリカルボン酸と表記される場合もある。
【0023】
このような熱圧成形用粉末接着剤の製造方法において、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理し、多価カルボン酸と混合して得られる混合物を加熱処理した場合、以下の反応が生じ、接着性を有する反応生成物が生成されると推定される。
【0024】
すなわち、木粉由来のヘミセルロースの分解物であるオリゴ糖や、スクロース等の二糖類の酸加水分解が進行する。この酸加水分解によりグルコースやフルクトース等の単糖類が生じ、これらの単糖類が多価カルボン酸との共存下で加熱されることにより、脱水反応が生じる。特に、単糖類であるフルクトースの脱水反応により、反応生成物として5−(ヒドロキシメチル)フルフラールが生じる。糖変性物の一種であるフルフラールは、さらなる加熱により、熱硬化性樹脂のフラン樹脂となり、フラン樹脂は多価カルボン酸の存在下で硬化可能となる。このため、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理し、多価カルボン酸と混合して得られる混合物を熱硬化性の接着剤として用いることができる。また、単糖類の中でもグルコースは、脱水縮合反応により糖エステルポリマーとなり、木質ボードの原料である木質小片間の空隙に充填されて硬化する。このため、前記フラン樹脂と同様に、糖エステルポリマーを熱硬化性の接着剤として用いることができる。なお、加熱処理後の多価カルボン酸は顕著な変性はないものと考えられ、多価カルボン酸のままの形で残存する。
【0025】
木粉と多価カルボン酸の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、熱圧成形用粉末接着剤全量に対して木粉が80〜20質量%程度、多価カルボン酸が20〜80質量%程度であることが考慮される。木粉と多価カルボン酸の配合割合が上記の範囲内であれば、得られる熱圧成形用粉末接着剤に接着性を付与するために必要十分なフラン樹脂及び糖エステルポリマーを生成することが可能である。また、得られる熱圧成形用粉末接着剤を半硬化状態(いわゆるBステージ)とすることができ、取り扱いが容易となる。
【0026】
木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理し、多価カルボン酸と混合して得られる混合物を加熱処理する際の温度条件は、特に限定されないが、例えば、100℃〜200℃の範囲が例示される。
【0027】
このように、木粉を蒸煮処理又は加熱水蒸気処理し、多価カルボン酸と混合して得られる混合物を加熱処理し、次いで、必要に応じて粉末化することにより、半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤を得ることができる。粉末化の方法としては、粉砕機等の従来公知の粉末化手段を用いて粉末化する方法等が例示される。また、熱圧成形用粉末接着剤の機能を損なわない限り、賦形剤等を配合することも考慮される。
【0028】
また、上記のとおりの加熱処理による反応が完了した状態の多価カルボン酸及び糖変性物の反応生成物を接着性成分として含有する接着剤原料は、水溶性を示し、かつ熱可塑性の性状を示す。このため、一旦、水中に前記接着剤原料を分散させた後、従来公知の方法で乾燥、粉末化することにより、半硬化状態にある熱圧成形用粉末接着剤を得ることもできる。
【0029】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法では、木粉を蒸煮処理または加熱水蒸気処理し、多価カルボン酸と混合して得られる混合物に、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムを添加することが好ましく考慮される。硫酸アンモニウムや塩化アンモニウムは、本発明の熱圧成形用粉末接着剤を用いて木質ボードを製造する際に、木質ボードの原料である木質小片中のセルロースの水酸基と多価カルボン酸とのエステル化反応を促進させる反応触媒として配合するものである。
【0030】
通常、多価カルボン酸と、木質小片中のセルロースの水酸基とのエステル化反応は、比較的ゆっくりと時間をかけて進行する。そこで、触媒として少なくとも硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムを配合することにより、エステル化の反応時間を短縮することができる。
【0031】
硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの配合割合は特に限定されるものではないが、通常、熱圧成形用粉末接着剤全量に対して20質量%以下、好ましくは10質量%未満であることが考慮される。触媒の配合割合を上記の範囲とすることにより、エステル化の反応時間をより短縮することができ、得られる木質ボードの耐水性を向上させることが可能となる。なお、これらの反応触媒は比較的酸性の弱い塩であるため母材の強度は維持される。
【0032】
このようにして得られた熱圧成形用粉末接着剤を、前述のとおり木質小片の集合体と混合してさらに加熱すると、熱圧成形用粉末接着剤の硬化反応が進行し、完全に硬化が完了する。この硬化反応では、前記フラン樹脂や前記糖エステルポリマー等の糖変性物の反応生成物は、比較的分子量が大きく、靭性的な補助接着剤として働く。一方、多価カルボン酸は、木質小片中のセルロースの水酸基とエステル化反応を起こし、比較的分子量が小さい状態で強固に硬化する。すなわち、本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤を用いて木質ボードを製造すると、糖変性物の反応生成物と多価カルボン酸の各々異なる硬化反応により、曲げ強度を損なうことなく実用に耐えうる耐水性を有する木質ボードを製造することができる。
【0033】
また、本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法により得られる接着剤は、上記のように、反応系内に有機溶剤やホルムアルデヒドを含まず、また、分解によってホルムアルデヒドが発生する第3級アミン等を含んでいない。そのため、ホルムアルデヒドの放散を抑制することができる。また、接着剤由来の有機溶剤のエアロゾルの放散も抑制することができる。さらにまた、材料として一般に入手しやすい木粉と多価カルボン酸とを用い、しかも従来のバイオマス由来の接着剤に添加されている糖類を外部から供給する必要がないため、接着剤の原材料費を低減することができ、低コストで熱圧成形用粉末接着剤を製造することが可能である。
【0034】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の製造方法では、熱圧成形用粉末接着剤の効果を阻害しない範囲において、上記以外の成分として、増粘剤、反応促進剤等の他の成分を含有していてもよい。また、エステル化反応の触媒としては、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムのみに限定するものではなく、パラトルエンスルホン酸等の他の触媒を併用してもよい。
【0035】
本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤を用いた木質ボードの製造は、木質ボードの原料となる木質小片の集合体に熱圧成形用粉末接着剤を供給して熱圧成形することにより行われる。
【0036】
熱圧成形における成形圧力、成形温度、成形時間等は、木質小片の種類、形状や表面性状、木質ボードの厚さ等により適宜設定される。木質ボードとしての物性が低下しないことや、反応速度が低下しにくく硬化が十分となりやすいこと等を考慮すると、成形温度、すなわち熱圧成形用粉末接着剤の硬化温度は、例えば、140〜230℃の範囲であることが好ましい。すなわち、多価カルボン酸と混合した後の加熱処理の加熱温度が、熱圧成形用粉末接着剤の硬化温度より低いことが好ましく考慮される。このようにして、加熱処理の条件を、硬化成形時の加熱温度よりマイルドにすることにより、熱圧成形用粉末接着剤を半硬化状態とすることが可能となる。
【0037】
また、熱圧成形用粉末接着剤と被着材の木質小片とを十分に圧着し木質ボードの強度を向上させることや、成形性等を考慮すると、成形圧力は、例えば、0.5〜4MPaの範囲であることが好ましい。
【0038】
木質ボード原料の木質小片としては、草木等の木部、樹皮、種子、葉等から得られるものを用いることができる。例えば、木質ストランド、木質チップ、木質繊維、植物繊維、市場で入手可能な植物粉末(例えば、樹皮粉末)、リサイクル材等を粉砕して得られたチップ等が挙げられる。このような木質小片の集合体を、本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤により接着して製造した木質ボードとしては、例えば、パーティクルボード、繊維ボード、MDF等が例示される。
【0039】
なお、上記実施形態では、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムの触媒を用いる場合、木粉を蒸煮処理または加熱水蒸気処理し、多価カルボン酸と混合して得られる混合物に触媒を混合、加熱処理して熱圧成形用粉末接着剤としたが、触媒を予め木質小片に分散させておくこともできる。
【0040】
木質小片の集合体に硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムの触媒を分散させる方法としては、触媒の水分散液を用いる方法、触媒の粉体を用いる方法等が挙げられる。なお、触媒の水分散液とは、触媒が水に溶解又は均一に分散した液を意味する。
【0041】
触媒の水分散液を用いる方法は、例えば、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの触媒の水分散液と、木質小片の集合体とを混合した後、乾燥することによって行うことができる。乾燥は、養生して気乾状態とすることが好ましいが、指触乾燥状態でもよい。
【0042】
また、母材である木質小片のセルロースの水酸基と多価カルボン酸とのエステル化反応の活性を促進する点を考慮すると、触媒の水分散液の濃度が5質量%以上であることが好ましい。触媒の水分散液と、木質小片の集合体とを混合する方法としては、スプレー等で触媒の水分散液を木質小片の集合体に散布する方法、触媒の水分散液中に木質小片の集合体を含浸する方法等が挙げられる。
【0043】
触媒の粉体を用いる方法では、触媒の粉体と、木質小片の集合体とを混合することによって、木質小片の集合体に触媒を分散させることができる。混合方法としては、触媒の粉体を木質小片の集合体に散布し、必要に応じて機械的に混合する方法等が挙げられる。
【0044】
触媒を予め木質小片に分散させておくことによっても、触媒を含まない本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤の使用によって、反応性を良好にすることが可能となる。
【0045】
以上に説明した本実施形態の熱圧成形用粉末接着剤によれば低コストで、環境へ負担が少なく、しかも作業環境の向上や乾燥工程の短縮が可能な熱圧成形用粉末接着剤を提供することができる。
【0046】
なお、熱圧成形用粉末接着剤の被着材としては、木質小片に限定されるものではなく、例えば、突板や薄板などの木質板状部材を用いてもよい。また、成形する形状も、ボードに限定されるものではなく、立体形状の成形品を成形してもよい。