(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施形態
1.1 概要
図1は、一実施形態の表示システム10を示す。表示システム10は、表示部110と、投影部120と、光透過部材130と、を備える。表示部110は、画像を表示するように構成される。投影部120は、画像を構成する光を反射部材(ウインドシールド)101に向けて反射して反射部材101に画像を投影して対象空間400に虚像310を投影するように構成される。光透過部材130は、反射部材101と投影部120との間にある。光透過部材130は、投影部120から反射部材101に向かう光の光軸L10と直交せずに交差する。光透過部材130は、面内位相差よりも大きい厚さ方向位相差を有する。
【0011】
表示システム10では、光透過部材130が面内位相差よりも大きい厚さ方向位相差を有しているために、光透過部材130を通る光は、光透過部材130の面内位相差よりも厚さ方向位相差による影響を受けやすくなる。ここで、光透過部材130の面内位相差による影響が支配的であれば、光透過部材130の厚み軸Az(
図1参照)の周りの回転に対して、虚像310の輝度が約90度の周期で変動する。一方、光透過部材130の厚さ方向位相差による影響が支配的であれば、光透過部材130の厚み軸Azの周りの回転に対して、虚像310の輝度が約180度の周期で変動する。そのため、光透過部材130の面内位相差が厚さ方向位相差以上である場合に比べれば、光透過部材130の外形加工時の形状ずれに対する虚像310の輝度の変動を低減できる。形状ずれとは、例えば、光透過部材130の遅相軸Ax及び進相軸Ay(
図1参照)の実際の方向が所望の方向からずれてしまうことが挙げられる。このような形状ずれは、圧延して面内位相差を持たせた樹脂シートから光透過部材130を打ち抜きにより形成する場合に起こり得る。また、取付時の表示部110と光透過部材130との位置ずれ(光透過部材130の厚さ軸Azの周りの回転)に起因する虚像310の輝度の変動が低減される。このように、表示システム10によれば、光透過部材130の外形加工時の形状ずれや、取付時の表示部110と光透過部材130との位置ずれに対する虚像310の輝度の変動を低減できる。
【0012】
1.2 構成
図2は、移動体としての自動車100を示す。自動車100は、移動体本体としての車体100aと、車体100aに搭載される表示システム10とを備えている。表示システム10は、自動車100において、ヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up Display)として用いられる。特に、表示システム10は、拡張現実(Augmented Reality:AR)HUDである。したがって、表示システム10は、拡張現実(AR)技術を利用して、ユーザ200の視界の前方の風景に虚像310を重ねて表示する。
【0013】
表示システム10は、自動車100の車体(移動体本体)100aのウインドシールド101に下方から画像を投影するように、自動車100の車室内に設置されている。
図2の例では、ウインドシールド101の下方のダッシュボード102内に、表示システム10が配置されている。表示システム10からウインドシールド101に画像が投影されると、反射部材としてのウインドシールド101で反射された画像がユーザ200(運転者)に視認される。
【0014】
表示システム10によれば、ユーザ200は、自動車100の前方(車外)に設定された対象空間400に投影された虚像310を、ウインドシールド101越しに視認する。ここでいう「虚像」は、表示システム10から出射される光がウインドシールド101等の反射物にて発散するとき、その発散光によって、実際に物体があるように結ばれる像を意味する。そのため、自動車100を運転しているユーザ200は、
図3に示すように、自動車100の前方に広がる実空間に重ねて、表示システム10にて投影される虚像310を見ることができる。したがって、表示システム10によれば、例えば、車速情報、ナビゲーション情報、歩行者情報、前方車両情報、車線逸脱情報、及び車両コンディション情報等の、種々の運転支援情報を、虚像310として表示し、ユーザ200に視認させることができる。
図3では、虚像310は、ナビゲーション情報であり、一例として、車線変更を示す矢印を表示している。これにより、ユーザ200は、ウインドシールド101の前方に視線を向けた状態から僅かな視線移動だけで、運転支援情報を視覚的に取得することができる。
【0015】
表示システム10では、対象空間400に形成される虚像310は、表示システム10の光軸500に交差する仮想面501上に形成される。本実施形態では、光軸500は、自動車100の前方の対象空間400において、自動車100の前方の路面600に沿っている。そして、虚像310が形成される仮想面501は、路面600に対して略垂直である。例えば、路面600が水平面である場合には、虚像310は鉛直面に沿って表示されることになる。なお、虚像310が形成される仮想面501は、光軸500に対して傾いていてもよい。光軸500に対する仮想面501の傾きの角度は、特に限定されない。
【0016】
以下、表示システム10について更に詳細に説明する。表示システム10は、
図4に示すように、表示部110と、投影部120と、光透過部材130と、を備える。また、表示システム10は、偏光部材140と、赤外線吸収部材150と、を備える。
【0017】
表示部110は、画像を表示するように構成される。特に、表示部110は、対象空間400に虚像310として投影される画像を表示するために用いられる。表示部110は、
図1に示すように、画像を表示する表示面110aを有する。本実施形態では、表示面110aは、表示部110の一面における長方形の領域である。表示システム10の小型化の観点からは、表示面110aは表示部110の一面のほぼ全体であることが好ましい。本実施形態では、表示部110は、液晶ディスプレイである。表示部110は、液晶パネルと、液晶パネルのバックライトとして用いられる面光源と、を有する。液晶パネルは、液晶パネルの後側に配置される面光源からの光を選択的に透過させることで、表示部110の表示面110aに画像を形成する。本実施形態において、液晶パネルは、面光源からの光のうち所定方向の成分を透過させて表示面110aに画像を形成する。所定方向の成分は、本実施形態では長方形の液晶パネルの長手方向である。つまり、液晶パネルは自身の長手方向に振動する直線偏光のみを透過させる。このような液晶パネルは、一般に、液晶層、液晶層を挟む一対の配向膜、液晶層に電圧を印加するための一対の透明電極、各画素の色を規定するカラーフィルタ、及び、偏光板などを備える。このような液晶パネルの構造は周知のものでよいから、詳細な説明は省略する。
【0018】
投影部120は、対象空間400に画像(表示部110の表示面110aに表示される画像)に対応する虚像310を投影するために用いられる。投影部120は、表示部110の画像を構成する光を反射部材(ウインドシールド)101に向けて反射して反射部材101に画像を投影して対象空間400に虚像310を投影するように構成される。投影部120は、
図1に示すように、第1光学部材121と、第2光学部材122と、を備える。言い換えれば、投影部120は、第1光学部材121と第2光学部材122とからなる光学系である。
【0019】
第1光学部材121は、表示部110からの光を第2光学部材122に向けて反射するミラーである。第1光学部材121は、
図1に示すように、画像を構成する光を反射する第1反射面121aを有する。第1反射面121aは、表示面110aよりもサイズが大きい。第1光学部材121は、表示部110に対して、第1反射面121aに表示部110の表示面110aの画像が欠けることなく写るように配置される。本実施形態において、第1反射面121aは凸面である。これにより、表示部110の表示面110aに表示された画像からの射出光は、発散角が拡大されて、第2光学部材122に入射する。つまり、画像を構成する光は、第1反射面121aで発散されて、第2反射面122aに入射する。なお、第1反射面121aは、球面又は非球面(自由曲面)であってよい。特に、第1反射面121aは、画像の歪みを補正するように設計された非球面であってよい。また、本実施形態では、第1反射面121aは、第1光学部材121の一面の一部又は全部の領域である。つまり、第1反射面121aは、第1光学部材121の一面において実際に画像を構成する光を反射している領域(有効領域)である。第1光学部材121の大きさは、ユーザ200の視点の位置が想定される範囲(例えばアイボックス)内で移動しても虚像310を欠けずに表示できるように設定されることが好ましい。
【0020】
第2光学部材122は、第1光学部材121からの光を、ウインドシールド101に向けて反射するミラーである。第2光学部材122は、表示部110の表示面110aに形成される(表示される)画像を、ウインドシールド101に投影することで、対象空間400に虚像310を投影する。第2光学部材122は、
図1に示すように、第1反射面121aで反射された光を反射して対象空間400に虚像310を投影する第2反射面122aを有する。第2反射面122aは、第1反射面121aよりもサイズが大きい。第2光学部材122は、第1光学部材121に対して、表示部110の表示面110aの画像が欠けることなく写るように配置される。本実施形態において、第2反射面122aは凹面である。なお、第2反射面122aは、球面又は非球面(自由曲面)であってよい。特に、第2反射面122aは、画像の歪みを補正するように設計された非球面であってよい。また、本実施形態では、第2反射面122aは、第2光学部材122の一面の一部又は全部の領域である。つまり、第2反射面122aは、第2光学部材122の一面において実際に画像を構成する光を反射している領域(有効領域)である。第2光学部材122の大きさは、ユーザ200の視点の位置が想定される範囲(例えばアイボックス)内で移動しても虚像310を欠けずに表示できるように設定されることが好ましい。
【0021】
光透過部材130は、板状である。光透過部材130は、光を複屈折させる性質を有する。つまり、光透過部材130は、
図1に示すように、光透過部材130の表面内において直交する軸である遅相軸Axと進相軸Ayとを有している。更に、光透過部材130は遅相軸Axと進相軸Ayに直交する厚さ軸Azを有している。また、光透過部材130は、面内位相差よりも大きい厚さ方向位相差を有する。このように光透過部材130が面内位相差よりも大きい厚さ方向位相差を有しているために、光透過部材130を通る光は、光透過部材130の面内位相差よりも厚さ方向位相差による影響を受けやすくなると考えられる。ここで、光透過部材130の面内位相差による影響が支配的であれば、虚像310の輝度の変動は約90°周期となるが、光透過部材130の厚さ方向位相差による影響が支配的であれば虚像310の輝度の変動は約180°周期になる。そのため、光透過部材130の面内位相差が厚さ方向位相差以上である場合に比べれば、光透過部材130の位置ずれ(光透過部材130の厚さ軸Azの周りの回転)に起因する虚像310の輝度の変動が低減される。
【0022】
ここで、光透過部材130において、遅相軸Axの方向の屈折率をNx、進相軸Ayの方向の屈折率をNy、厚さ軸Azの方向の屈折率をNzとし、光透過部材130の厚みをdとする。この場合、面内位相差は、(Nx−Ny)×dで与えられる。厚さ方向位相差は、{(Nx+Ny)/2−Nz}×dで与えられる。本実施形態では、面内位相差及び厚さ方向位相差が更に、以下の条件(1)〜(3)を満たすように、光透過部材130の屈折率Nx,Ny,Nzが設定されている。すなわち、条件(1)は、面内位相差が表示部110の画像を構成する光の波長の4分の1より小さいことである。条件(2)は、厚さ方向位相差が表示部110の画像を構成する光の波長の4分の1より大きいことである。条件(3)は、厚さ方向位相差が面内位相差の3倍以上であることである。各条件(1)〜(3)を満たすことで、厚さ方向位相差の影響を面内位相差の影響よりも大きくできて、光透過部材130の位置ずれに対する虚像310の輝度の変動の更なる低減が期待できる。
【0023】
このような光透過部材130の例としては、透光性樹脂(例えば、ポリカーボネート)の圧延により形成された樹脂シートが挙げられる。一例として、Nxは1.59028、Nyは1.59021、Nzは1.58951、dは425[μm]、である。また、表示部110の画像を構成する光の波長は550[nm]を中心とする波長域としている。
【0024】
光透過部材130は、反射部材101と投影部120との間にある。また、光透過部材130は、投影部120から反射部材101に向かう光の光軸L10と直交せずに交差するように配置されている。換言すれば、光軸L10は光透過部材130の厚み軸Azと平行していない。更に別の言い方をすれば、投影部120から反射部材101に向かう光の光透過部材130への入射角は0ではない。
【0025】
偏光部材140は、板状である。偏光部材140は、
図4に示すように、投影部120と光透過部材130との間にある。特に、偏光部材140は、光透過部材130における第2光学部材122側の面にある。偏光部材140は、光透過部材130を透過して投影部120に向かう外光の一部を吸収する性質を有する。これによって、表示部110を熱から保護できる。偏光部材140は、例えば、楕円偏光を直線偏光に変換する偏光子である。偏光部材140は、反射部材101に入射する光の量が最大になるように光(投影部120からの光)を偏光させる。言い換えれば、偏光部材140の透過軸は、光透過部材130を透過して反射部材101に入射する光の量が最大になる成分を透過させるように設定されている。これによって、表示部110を熱から保護しながらも、虚像310の輝度の低下を抑制できる。
【0026】
赤外線吸収部材150は、板状である。赤外線吸収部材150は、
図4に示すように、反射部材101と光透過部材130との間にある。特に、赤外線吸収部材150は、光透過部材130における偏光部材140とは反対側に配置されている。赤外線吸収部材150は、可視光を透過させて赤外線を吸収する性質を有する。これによって、表示部110を熱から保護できる。赤外線吸収部材150は、赤外線を吸収する1以上の層で構成されている。なお、赤外線吸収部材150は、光の偏光に影響を与えないことが好ましい。
【0027】
更に、表示システム10は、筐体160を備える。筐体160は、
図4に示すように、表示部110と投影部120と光透過部材130と赤外線吸収部材150と偏光部材140とを収容する。筐体160は、投影部120から反射部材101に向けて反射された光を通す開口部161を有している。光透過部材130、偏光部材140、及び赤外線吸収部材150は、開口部161を覆うように配置されている。特に、光透過部材130、偏光部材140、及び赤外線吸収部材150は重ねて配置されている。本実施形態において、筐体160は、ダッシュボード102内に配置されている。
【0028】
1.3 効果
光透過部材130の光学的な性質について
図5〜
図8を参照して説明する。
【0029】
図5は、光透過部材130を透過して反射部材101で反射した光による虚像310の輝度の変化を示すグラフである。
図5のグラフの横軸は、光透過部材130の厚さ軸Azに直交する面内における遅相軸Axと光軸L10との間の角度[°]を示す。つまり、角度が0度である場合は光軸L10と遅相軸Axとが一致し、角度が90°である場合は光軸L10と進相軸Ayとが一致する。
図5のグラフの縦軸は、光透過部材130を透過して反射部材101で反射した光による虚像310の輝度を示す。
図5において、G11は、反射部材101で反射される光の全成分の輝度を示し、G12は、反射部材101で反射される光のp成分(水平方向に対して直交する方向の偏光成分)の輝度を示す。
図5から明らかなように、G11及びG12のいずれにおいても、光の輝度は、180度周期で変動している。
図5のグラフから、光透過部材130が面内位相差よりも大きい厚さ方向位相差を有していることで、厚さ方向位相差の影響が面内位相差の影響よりも大きくなることが確認された。よって、光透過部材130の面内位相差が厚さ方向位相差以上である場合に比べれば、光透過部材130の位置ずれ(光透過部材130の厚さ軸Azの周りの回転)に起因する虚像310の輝度の変動が低減される。
【0030】
図6〜
図8は、光透過部材の位相差の角度依存を示すグラフである。
図6〜
図8の縦軸は、光透過部材130により生じる位相差[nm]を示す。
図6〜
図8の各々において、横軸は、投影部120から光透過部材130に向かう光の入射角に対応する角度[°]である。ここで、G21は、光の入射角が、光透過部材130の進相軸Ayと厚み軸Azとで定義される入射面内で変化した場合を示す。つまり、G21において、入射角は、遅相軸Axの周りの角度である。この場合、光透過部材130の厚さ軸Azに直交する面内において、光の光軸L10と進相軸Ayとは一致している。G22は、光の入射角が、光透過部材130の遅相軸Axと厚み軸Azとで定義される入射面内で変化した場合を示す。つまり、G22において、入射角は、進相軸Ay周りの角度である。この場合、光透過部材130の厚さ軸Azに直交する面内において、光の光軸L10と遅相軸Axとは一致している。なお、
図6〜
図8において、面内位相差は70[nm]である。
図6において、厚さ方向位相差は、面内位相差の1.5倍である。
図7において、厚さ方向位相差は、面内位相差の3倍である。
図8において、厚さ方向位相差は、面内位相差の4.5倍である。
図6〜
図8のG21から明らかなように、厚さ方向位相差が面内位相差よりも大きくなるほど、遅相軸Ax周りの入射角の増加に対する位相差の増加の度合いが大きくなる。
図6〜
図8のG22から明らかなように、厚さ方向位相差が面内位相差よりも大きくなるほど、進相軸Ay周りの入射角の増加に対する位相差の減少の度合いが大きくなる。特に、
図6〜
図8のG22により、厚さ方向位相差が面内位相差の3倍以上となれば、光透過部材130の位相差を面内位相差の半分以下に設定することが可能になる。これにより、光透過部材130の位相差の選択範囲を広げることができる。
【0031】
2.変形例
本開示の実施形態は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態の変形例を列挙する。
【0032】
例えば、表示部110に関して、液晶パネルはその長手方向ではなく短手方向や、15°、22°、30°、45°、60°などの斜め方向の光の成分を透過させるように構成されていてもよい。また、表示部110において、表示面110aは必ずしも長方形でなくても良い。
【0033】
例えば、投影部120に関し、第1光学部材121及び第2光学部材122の形状は、変更可能である。例えば、第1光学部材121において重要なのは、第1反射面121aの形状であり、その他の部位の形状は比較的自由に設定してよい。同様に、第2光学部材122において重要なのは、第2反射面122aの形状であり、その他の部位の形状は比較的自由に設定してよい。また、第1反射面121a及び第2反射面122aの形状は、表示面110aに応じて適宜設定され得る。
【0034】
例えば、光透過部材130の配置方法は、上記の例に限定されない。上記実施形態では、光透過部材130では、遅相軸Axが投影部120から反射部材101に向かう光の光軸(L10)に沿っている。この場合、
図5のG11からわかるように、光透過部材130を透過し反射部材101で反射される光の全成分の輝度がピークをとる。よって、裸眼での視認に適した虚像310の表示が可能になる。一方、光透過部材130では、進相軸Ayが投影部120から反射部材101に向かう光の光軸L10に沿っていてもよい。この場合、
図5のG12からわかるように、光透過部材130を透過し反射部材101で反射される光のp成分の輝度がピークをとる。一般に、サングラスなどの偏光グラスは、p成分を透過しs成分(水平方向の偏光成分)を遮断するものが多い。よって、よって、サングラスなどの偏光グラスでの視認に適した虚像310の表示が可能になる。また、光透過部材130では、遅相軸Ax及び進相軸Ayが投影部120から反射部材101に向かう光の光軸(L10)と45°で交差してよく、この場合、裸眼と偏光グラス使用時との虚像310の輝度の差を低減できる。
【0035】
例えば、光透過部材130は、1枚の樹脂シートではなく重ねられた複数枚の樹脂シートで構成されていてもよい。つまり、光透過部材130は、単層構造であっても複層構造であってもよい。光透過部材130の材料は、ポリカーボネートに限定されず、アクリルその他の周知の透光性樹脂材料であってよい。
【0036】
例えば、光透過部材130は、必ずしも条件(1)〜(3)の全てを満たしている必要はなく、少なくとも、厚み方向位相差が面内位相差よりも大きければよい。つまり、光透過部材130の屈折率Nx,Ny,Nzは、(Nx+Ny)/2−Nz>Nx−Nyを満たしてさえいれば、特に限定されない。
【0037】
例えば、光透過部材130の形状は上記の例に限定されない。光透過部材130は、必ずしも矩形の板状である必要はなく、円形や矩形以外の多角形の板状であってもよい。更に、光透過部材130は、平坦ではなく、湾曲していてもよい。一例として、光透過部材130は、筐体160の外側を向いた面が凹面となるように湾曲していてよい。これによって、ウインドシールド101を透過した太陽光線が光透過部材130で反射されてアイボックスに入射する可能性を低減できる。また、光透過部材130は必ずしも厚みが一様である必要はない。光透過部材130の形状を適宜調整することによって、投影部120により生じ得る収差の低減等の光学的な機能を付与することができる。
【0038】
例えば、光透過部材130には表面処理がされていてもよい。表面処理によって、例えば、赤外線を反射する膜、可視光の反射を低減する膜、光透過部材130の表面を保護する膜等を形成してもよい。
【0039】
例えば、偏光部材140は必須ではない。
【0040】
例えば、赤外線吸収部材150は投影部120と光透過部材130の間、投影部120と偏光部材140の間、光透過部材130と偏光部材140の間に配置されていてもよい。また赤外線吸収部材150は必須ではない。なお、赤外線吸収部材150と同等の赤外線を吸収する機能を有する添加剤を光透過部材130内に含有させていてもよい。つまり、光透過部材130が赤外線吸収部材150を兼ねてもよい。
【0041】
例えば、表示システム10は、自動車100の進行方向の前方に設定された対象空間400に虚像310を投影する構成に限らず、例えば、自動車100の進行方向の側方、後方、又は上方等に虚像310を投影してもよい。また、投影部120は、中間像を形成するためのリレー光学系を含んでいてもよいし、リレー光学系を含んでいなくてもよい。
【0042】
例えば、表示システム10は、自動車100に用いられるヘッドアップディスプレイに限らず、例えば、二輪車、電車、航空機、建設機械、及び船舶等、自動車100以外の移動体にも適用可能である。さらに、表示システム10は、移動体に限らず、例えば、アミューズメント施設で用いられてもよい。
【0043】
3.態様
上記実施形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の第1〜第10の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0044】
第1の態様の表示システム(10)は、表示部(110)と、投影部(120)と、光透過部材(130)と、を備える。前記表示部(110)は、画像を表示するように構成される。前記投影部(120)は、前記画像を構成する光を反射部材(101)に向けて反射して前記反射部材(101)に前記画像を投影して対象空間(400)に虚像(310)を投影するように構成される。前記光透過部材(130)は、板状である。前記光透過部材(130)は、前記反射部材(101)と前記投影部(120)との間にある。前記光透過部材(130)は、前記投影部(120)から前記反射部材(101)に向かう前記光の光軸(L10)と直交せずに交差する。前記光透過部材(130)は、面内位相差よりも大きい厚さ方向位相差を有する。第1の態様によれば、光透過部材(130)の外形加工時の形状ずれや、取付時の表示部(110)と光透過部材(130)との位置ずれに対する虚像(310)の輝度の変動を低減できる。
【0045】
第2の態様の表示システム(10)は、第1の態様との組み合わせにより実現され得る。第2の態様では、前記面内位相差は、前記表示部(110)の前記画像を構成する光の波長の4分の1より小さい。第2の態様によれば、厚さ方向位相差の影響を面内位相差の影響よりも大きくできて、光透過部材(130)の位置ずれに対する虚像(310)の輝度の変動の更なる低減が期待できる。
【0046】
第3の態様の表示システム(10)は、第1又は第2の態様との組み合わせにより実現され得る。第3の態様では、前記厚さ方向位相差は、前記表示部(110)の前記画像を構成する光の波長の4分の1より大きい。第3の態様によれば、厚さ方向位相差の影響を面内位相差の影響よりも大きくできて、光透過部材(130)の位置ずれに対する虚像(310)の輝度の変動の更なる低減が期待できる。
【0047】
第4の態様の表示システム(10)は、第1〜第3の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第4の態様では、前記厚さ方向位相差は、前記面内位相差の3倍以上である。第4の態様によれば、厚さ方向位相差の影響を面内位相差の影響よりも大きくできて、光透過部材(130)の位置ずれに対する虚像(310)の輝度の変動の更なる低減が期待できる。
【0048】
第5の態様の表示システム(10)は、第1〜第4の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第5の態様では、前記表示システム(10)は、前記投影部(120)と前記光透過部材(130)との間にあって、前記光透過部材(130)を透過して前記投影部(120)に向かう外光の一部を吸収する偏光部材(140)を更に備える。第5の態様によれば、表示部(110)を熱から保護できる。更に、偏光部材(140)は、反射部材(101)に入射する光の量が最大になるように光(投影部(120)からの光)を偏光させてもよい。
【0049】
第6の態様の表示システム(10)は、第1〜第5の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第6の態様では、前記表示システム(10)は、前記反射部材(101)と前記投影部(120)との間にあって、赤外線を吸収する赤外線吸収部材(150)を更に備える。第6の態様によれば、表示部(110)を熱から保護できる。
【0050】
第7の態様の表示システム(10)は、第1〜第6の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第7の態様では、前記表示システム(10)は、前記表示部(110)と前記投影部(120)とを収容する筐体(160)を更に備える。前記筐体(160)は、前記投影部(120)から前記反射部材(101)に向けて反射された前記光を通す開口部(161)を有する。前記光透過部材(130)は、前記開口部(161)を覆う。第7の態様によれば、光透過部材(130)を表示部(110)及び投影部(120)を覆うカバーとして利用できる。
【0051】
第8の態様の表示システム(10)は、第1〜第7の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第8の態様では、前記光透過部材(130)は、湾曲している。第8の態様によれば、虚像(310)を視認するユーザに向けて対象空間(400)からの光を反射する可能性を低減できる。
【0052】
第9の態様の表示システム(10)は、第1〜第8の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第9の態様では、前記光透過部材(130)は、進相軸(Ay)及び遅相軸(Ax)を有する。前記遅相軸(Ax)が、前記投影部(120)から前記反射部材(101)に向かう前記光の光軸(L10)に沿っている。第9の態様によれば、裸眼での視認に適した虚像(310)の表示が可能になる。
【0053】
第10の態様の表示システム(10)は、第1〜第8の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第10の態様では、前記光透過部材(130)は、進相軸(Ay)及び遅相軸(Ax)を有する。前記進相軸(Ay)が、前記投影部(120)から前記反射部材(101)に向かう前記光の光軸(L10)に沿っている。第10の態様によれば、サングラスなどの偏光グラスでの視認に適した虚像(310)の表示が可能になる。
【0054】
第11の態様の移動体(100)は、第1〜第10の態様のいずれか一つの表示システム(10)と、前記反射部材(101)を有する移動体本体(100a)と、を備える。前記表示システム(10)は、前記移動体本体(100a)に搭載される。第11の態様によれば、光透過部材(130)の外形加工時の形状ずれや、取付時の表示部(110)と光透過部材(130)との位置ずれに対する虚像(310)の輝度の変動を低減できる。