(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本願発明者の詳細な検討によれば、特開平8―103434号公報の方法では、検出信号に含まれる皮下散乱成分の割合を低減し、脳まで到達した光の散乱成分の検出量を高めることができる。しかし、この方法では照射点と検出点とを3cm離す必要があり、得られる脳活動分布の空間解像度が低下すると考えられる。
【0008】
一方、近年、TOF(Time-of-Flight)方式で対象物までの距離を測定するための、高速撮影が可能なイメージセンサが開発されている。このようなイメージセンサは時間分割能が高いため、イメージセンサのシャッタを高速に制御することにより、強度が大きい表面反射や皮下散乱成分を大幅に低減して脳内散乱成分を検出することが考えられる。具体的には、パルス光を生体に向けて照射し、生体において反射する光を撮影した場合、生体の表面近傍で反射する光は光路が相対的に短いため、早くイメージセンサに到達し、生体の内部で反射する光は、光路が相対的に長いため、遅れてイメージセンサに到達する。このため、イメージセンサに戻るパルス光のうち、後端部分を検出するように、シャッタを調整することで、比較的光路長が長く、時間遅れを有する脳内散乱成分を効率よく検出することが可能である。時間的に分離検出するこの方法は、照射点直下の脳信号が検出可能であるため、特開平8―103434号公報の方法と比較し、高解像度な脳活動分布を取得することができると考えられる。
【0009】
しかしながら、非接触で対象からの信号を検出する場合、対象が動くとセンサで検出する光信号量が変化し、間違った検出値を出力してしまう。特に、脳血流計測のような非常にわずかな脳内散乱成分を検出する際は、動きによるノイズ成分の影響は高く、脳内散乱成分検出におけるSNを低下させてしまう。このような課題に鑑み、本願発明者は新規な構造を有する撮像装置を想到した。本開示の撮像装置の概要は以下の通りである。
【0010】
本開示の一態様に係る撮像装置は、拡散板を含み、0度より大きい拡散角で拡がるパルス光を対象に向けて発光する光源と、前記対象からの光を受けて電荷に変換する光電変換部、および前記電荷を蓄積する電荷蓄積部とを含み、前記電荷が読み出されることによって電気信号を出力する光検出器と、前記光源および前記光検出器を制御する制御回路と、を備える。前記制御回路は、前記光源に前記パルス光の発光を開始させて所定の時間経過後に前記電荷蓄積部への前記電荷の蓄積を開始させることにより、前記対象からの前記光のうち前記対象の内部で散乱された成分に対応する前記電荷を前記電荷蓄積部に蓄積させる。前記拡散板から前記対象までの距離をR(mm)、前記拡散角をθ(度)、前記パルス光の前記拡散板におけるスポットサイズをd(mm)とすると、次式が成立する。
81.5≦R+d/(2tanθ)
ここで、R,d,θ>0である。
【0011】
本開示の一態様に係る撮像装置は、前記拡散角を調整する拡散角調整機構をさらに備えていてもよい。
【0012】
本開示の一態様に係る撮像装置は、前記パルス光を所望のパターンを有する光に変換するパターン投影部をさらに備えていてもよい。
【0013】
本開示の一態様に係る撮像装置において、前記制御回路は、前記電気信号から、所定のオフセット成分を除去してもよい。
【0014】
本開示の他の態様に係る撮像装置は、対象に向けてパルス光を発光する光源と、光電変換部と前記光電変換部で発生した電荷を蓄積する電荷蓄積部とを有し、前記電荷が読み出されることによって電気信号を出力する光検出器と、制御回路とを備え、前記制御回路は、前記対象と前記光源との間の距離が第1の値のとき、前記光源に前記パルス光の発光を開始させて所定の時間経過後に前記電荷蓄積部への電荷蓄積を開始して第1の電気信号を生成し、前記対象と前記光源との間の距離が前記第1の値と異なる第2の値のとき、前記光源に前記パルス光の発光を開始させて前記所定の時間経過後に前記電荷蓄積部への電荷蓄積を開始して第2の電気信号を生成し、前記所定の時間は、前記第1の電気信号の強度と前記第2の電気信号の強度が同じになるタイミングである。
【0015】
前記第1の値r1と前記第2の値との差Δrは、次式を満たしていてもよい。
【数11】
【0016】
ここで、αは前記対象からの戻り光の電気信号強度の位相変化の減衰係数、kは初期の電気信号強度に対する所望の電気信号変化量の比率である。
【0017】
前記第1の値r1と前記第2の値との差Δrは、次式を満たしていてもよい。
【数14】
【0018】
前記第1の値r1が、100cm、50cm、25cm、20cm、16cm、15cmおよび10、5cmである場合、前記第1の値と第2の値との差Δrが、それぞれ0.
6cm以上1.2cm以下、0.7cm以上、1.4cm以下、1.1cm以上2.3cm以下、1.4cm以上2.7cm以下、1.7cm以上3.3cm以下、2.3cm以上4.6cm以下および3cm以上5cm以下であってもよい。
【0019】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部、又はブロック図の機能ブロックの全部又は一部は、半導体装置、半導体集積回路(IC)、又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路によって実行されてもよい。LSI又はICは、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、一つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、若しくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。
【0020】
LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0021】
さらに、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部の機能又は操作は、ソフトウエア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウエアは一つ又は複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウエアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウエアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システム又は装置は、ソフトウエアが記録されている一つ又は複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、及び必要とされるハードウエアデバイス、例えばインタフェース、を備えていても良い。
【0022】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0023】
(実施の形態1)
[撮像装置の構成]
まず、第1の実施形態に係る撮像装置100の構成について、
図1を用いて説明する。
【0024】
撮像装置100は、光源106と、光電変換部110および電荷蓄積部112を含む光検出器108と、制御回路114とを備える。光源106はパルス光である光104を対象102に向けて発光する。対象102に到達した光104は、対象102の表面および内部において反射・拡散・吸収・散乱等の光学現象が生じた後、一部が光検出器108上の光電変換部110に到達する。制御回路114は、プログラムを記憶したメモリおよび演算装置を含み、メモリに記憶されたプログラムを読出し、実行することにより、プログラムの手順にしたがって、光源106に光104の発光を開始させて所定の時間経過後に電荷蓄積部112への電荷蓄積を開始して電気信号を生成する制御を行う。
【0025】
対象102が生体である場合、光源106から発する光104の一部は対象102の内部に到達する。対象102の内部を散乱した光104は散乱により時間遅れが生じるため、撮像装置100に戻るパルス光は、内部を散乱した光104の成分によるテールを含む。対象102の奥深くの情報(例えば頭部での測定では脳に到達した成分)は対象102の表面近傍を散乱した光に比べ光路長が相対的に長くなるため、戻りパルス光の後端よりも遅いテールが撮像装置100に到達するタイミングでシャッタを開始することで検出信号内に含まれる生体奥深くの情報(脳内散乱成分)の割合を高めることができる。ここで、シャッタを開始するとは、電荷蓄積部112への電荷蓄積を開始することである。1回のパルス光測定では感度が不足する場合は、この動作を複数回繰り返し、積算による検出光量増幅を実施する。例えば、数百回〜数百万回の繰り返しである。
【0026】
光源106は、例えば、蛍光灯、LED、LD等で構成される。対象102の奥深くの情報と表面近傍の情報を切り分けるには、パルス光の後端が鋭く立ち下がることが望ましいため、LDなどのレーザ光を出射する光源を用いてもよい。また、対象102の血流の酸素化度を測定する場合、光源106には、例えば、生体内をある程度透過し得る近赤外光を用いる。さらに、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を検出するには、2波長の光104を照射してもよい。例えば、光源106は波長750nm近辺の光104と波長850nm近辺の光104とを出射する。このとき、光検出器108は、1つの光電変換部110に対して、複数の電荷蓄積部112を含み、2波長の光を時分割でそれぞれの電荷蓄積部112に蓄積するように構成されていてもよい。電荷蓄積部112を複数設けることで、1フレーム内で複数の異なる情報をほぼ同時に取得することが可能となる。また、異なる波長の情報に限らず、異なる偏光の情報、異なる強度の情報または異なる位相差の情報が同時に取得可能である。このような光検出器108には、例えば、特開2008−89346号公報に開示されている撮像装置を用いることができる。
【0027】
撮像装置100に用いる光検出器108は、光電変換部110と電荷蓄積部112とを含む。光検出器108は、フォトダイオード、光電子倍増管、CCD型・CMOS型のイメージセンサ、単一光子計数型素子であっても、増幅型イメージセンサ(EMCCD、ICCD)であっても構わない。
【0028】
図2における波形(a)は、光検出器108に到達する光信号の時間応答波形である。光源106のパルス幅がある程度小さい場合は、波形(a)は光路長分布と見ることもできる。すなわち、光路長が長い光ほど光検出器108に到達する時刻は遅くなるため、比較的大きいt(遅い時刻)において検出される。つまり、時間応答波形は光路長分布に応じた広がりをもつことになる。
【0029】
図2における波形(b)はシャッタ開始位相Tがそれぞれt1、t2、t3、t4(t1>t2>t3>t4)の場合のシャッタタイミングを示す。シャッタ開始位相Tとは、光源106のパルス光の発光タイミングと、光検出器108のシャッタを開始するタイミングとの時間差である。
図2におけるグラフ(c)は、横軸をシャッタ開始位相Tとし、縦軸を検出される光信号の検出強度Iとした図である。波形(b)およびグラフ(c)に示すように、シャッタ開始位相Tを早めるほど検出される光信号200の検出強度Iは増加する。シャッタ開始位相Tの設定は、照明の発光開始時間で調整してもよいし、センサの電荷蓄積開始時間で調整してもよい。
【0030】
図3Aは、対象102の動きに伴う照射光210の密度変化を表す。光源106が拡がりを持つ放射光の場合、光源106から対象102が離れるに連れて照度(=光強度密度)が低下する。したがって、距離r1からそれよりも遠くの距離r2に対象102が移動した場合、距離r2に対象102が存在するときの対象102上の照射光214の光強度密度は、距離r1に対象102が存在するときの対象102上の照射光212の光強度密度よりも小さくなる。
【0031】
一方、
図3Bは、
図3Aと同じ対象102の動きに対する戻り光220の時間遅れを表す図である。対象102が距離r1から距離r2に移動した場合、光源106から対象102に到達し再度光源106に戻る光の飛行距離は、距離r2に対象102が存在するときの戻り光224のほうが、距離r1に対象102が存在するときの戻り光222よりも長くなる。したがって、戻り光224のほうが戻り光222に比べ光検出器108に遅れて到着する。つまり、光源106から発光後、一定のタイミングでシャッタを開始すると、対象102が距離r1から距離r2に移動すると検出光量が増加する。なお、
図3Bにおいて、矩形の枠は、シャッタが開いている期間を表す。
【0032】
図3Aと
図3Bに示す現象はともに対象102の動きに対する検出信号の誤差要因となるが、負の相関を持つ。すなわち、
図3Aおよび
図3Bに示す現象は対象102の動きに対し相反する誤差要因であるため、本現象を互いに打ち消し合うようにシャッタのタイミングを制御することで対象102の動きによる
図3Aおよび
図3Bに示す現象の影響を相殺することができる。
【0033】
対象102上の光源106からの照射光210の照度は、光源106と対象102との距離の2乗に反比例するため、検出される光信号強度も、光源106と対象102との距離の2乗に反比例する。光源106と対象102との距離1(初期距離)がr
1のときの検出される光信号強度をI
1とおくと、光源106と対象102との距離がrのときの検出される光信号強度I
illは次式で表される。
【数1】
【0034】
したがって、対象102上の照射光210の照度変化に起因する検出される光信号変化量ΔI
illは、
【数2】
と表すことができる。ここで、Δrはz方向(光源106−対象102方向)の動き量である。つまり、ΔI
illは初期距離r
1に反比例する。
【0035】
一方、対象102からの戻り光220の飛行距離変化に起因する検出光信号変化量は、光検出器108に到達する戻り光220の時間応答波形に依存する。生体などの散乱媒体を光が通過すると、ランベルトベールの式に従い指数関数的な強度の時間応答が見られることが知られているため、戻り光220の飛行時間(シャッタ開始位相)tの関数として検出される光信号強度I
disは次式で表される。
【数3】
【0036】
ここで、t
1は初期の位相であり、αは対象102の吸収係数・散乱係数および光源106の発するパルス光の鈍りに依存する、つまり、戻り光の検出強度の減衰係数である。例えば、
図2のグラフ(c)の波形を指数関数で表したときの係数である。
【0037】
対象102からの戻り光220の飛行距離変化に起因する検出光信号変化量ΔI
disは、
【数4】
と表すことができる。ここで、Δt=-2Δr/c、cは光速である。数式4より、ΔI
dis
は光信号検出強度の位相変化の傾き(
図2のグラフ(c)の傾き)に比例することがわかる。
【0038】
したがって、対象102の動きに対し検出される光信号の変化を抑えるには、
【数5】
となる位相を初期位相とすればよい。すなわち、
【数6】
を実現する位相位置である。
【0039】
図4Aは、シャッタ開始位相Tと対象102の動きに対する検出される光信号変化量ΔIとの関係を示す。ΔI
illは対象102上の照射光210の照度変化に起因する検出される光信号変化量の絶対値、ΔI
disは対象102からの戻り光220の飛行距離変化に起因する検出光信号変化量の絶対値である。例えば、シャッタ開始位相が遅すぎると(例えば、
図2のグラフ(c)のt=t1に相当)、検出される光は戻り光220の後端から離れた光量変化が小さい位置であるためΔI
ill>ΔI
disとなる。また、シャッタ開始位相が早すぎる場合(例えば、
図2のグラフ(c)のt=t4に相当)、検出される光は戻り光220の後端から離れた光量変化が小さい位置であるためΔI
ill<ΔI
disとなる。
【0040】
図4Bは、対象102の動き量Δrと検出される光信号の検出強度Iの関係を示す図である。シャッタ開始位相を適切に設定することで対象102に動きが発生しても検出される光信号強度を一定に保つことができる。具体的には、数式5あるいは数式6を満たす初期位相で対象102を測定する場合、光源106から対象102までの距離がr1(第1の値)のとき得られる光信号強度と、光源106から対象102までの距離がr2(第2の値)のとき得られる光信号強度とは等しい。このため、光検出器108から出力される電気信号も距離L1のときと距離r2の時とで等しくなる。
【0041】
[初期位相の設定]
初期位相の設定はキャリブレーションで決定する方法と、予め準備したテーブルを用いた方法がある。キャリブレーションによる方法は、さらに、パッシブ方式とアクティブ方式に分類できる。パッシブ方式は対象102を光源106から遠ざかるように動かすか、対象102が人の場合はそのように指示し、検出光量が減少するのであれば、シャッタ開始位相を早め、増加するのであれば遅くする。この動作を、ニュートン法または二分法等を用い効率的に繰り返し、光量変化が無くなればキャリブレーション終了である。対象102を光源106に近づける場合も同様である。アクティブ方式は、対象102を自由に動かし(動いてもらい)、その動きの方向をデバイス側で距離測定により検出することで遠ざかっているのか近づいているのかを判断して、検出光量の増減と整合させてシャッタ開始位相を決定する。距離測定は、撮像装置のパルス光を利用し、TOF(Time of flight)モードを制御回路114で駆動させる、あるいは、ステレオ測距カメラ等の距離測定デバイスを別途設けることで実現できる。
【0042】
予め準備したテーブルを用いた方法の場合、対象102の光学特性および戻り光220の波形に応じて、光源106と対象102間の距離と最適なシャッタ開始位相の関係を予めテーブル化しておき、対象102までの距離を測定することでテーブルを参照して一意的に決定する。この方法によれば、予めキャリブレーションを行わなくてよい。
【0043】
測定対象が複数ある場合、対象102の材質および光学特性が類似のものであれば、対象102のうちの一つで初期位相を決定し、他の対象はそれに順ずればよい。一方、対象102の材質が大きく変わる場合、つまり、散乱係数、吸収係数が大きく異なる場合は、光信号強度の位相変化(戻り光220の後端の傾き変化)も異なるため、例えば、対象102ごとに初期位相を決定すればよい。
【0044】
[許容動き範囲]
次に、補正ができる動きの許容範囲について考える。動きによる検出信号の変化量が、検出したい信号変化量(例えば、平静状態からタスクによる血流変化反応)よりも小さければ動きに対するS/N比が1以上となり測定可能であるといえる。検出したい信号変化量をΔI
taskとおくと、S/N比が1以上の条件として次式の関係が得られる。
【数7】
【0045】
数式2、数式4では、ΔI
ill、ΔI
disとも微分値から導出したため線形近似が成立する範囲の動きに適用範囲が制限されるが、許容誤差を求めるために数式1、数式3から再度正確に算出する。
【0046】
光源106と対象102との距離が初期距離r
1からr
2に変化したとすると、数式1から、対象102上の照射光210の照度変化に起因する検出される光信号変化量ΔI
illは、
【数8】
と、表される。一方、対象102からの戻り光220の飛行距離変化に起因する検出光信号変化量ΔI
disは、次式で示される。
【数9】
【0047】
検出したい信号変化量ΔI
taskを、初期の検出される光信号強度I
1のk倍とすると、
【数10】
となる。したがって、数式8、数式9を数式7に代入すると、次式が得られる。
【数11】
【0048】
数式11を満たす範囲のΔrであれば、S/N比は1を超え動き補正が有効であるといえる。つまり、数式5あるいは数式6を満たす初期位相を用い、かつ、光源106から対象102までの距離が互いに異なる2つの距離r1およびr2において対象102を測定する場合、r1およびr2の差Δrが数式11を満たせば、対象102の動きによる検出信号の変化量よりも、対象102から得られる検出したい信号変化量が大きくなり、有効な測定を行うことができる。
【0049】
本願発明者の実験的な検討では、矩形パルス光を光源106から生体に向けて照射した際の戻り光の減衰係数αは1.5[1/ns]であった。例えば、初期距離r
1を16cm、タスクに対する信号変化量の割合kを0.1、光速cを300000000m/sとすると、補正できる動きの許容範囲Δrは±3.3cmである。以下に、初期距離r1と許容動き範囲Δrbの関係を示す。r1として、一般的な測定範囲である5〜100cmとした。
【0051】
表1の範囲であれば、対象102の動きに対し所望の信号変化を検出できる。例えば、
図3Aの距離1と距離2の差が、限界値の半分のΔrb/2(=Δra)以上Δrb以下の範囲として、距離1と距離2の光検出強度を比較すれば、S/Nが1以上となることを確認できる。
【0052】
対象102が数式11または表1の範囲を超えて大きく動いた場合は、初期値をリセットしてもよい。動きが許容範囲外を超えたかどうかは、TOFが可能な撮像装置100を用い、測定期間中定期的にTOFによる対象102までの距離を計測したり、ステレオ測距など別途距離検出機構部を設けたりすることで実現できる。初期値をリセットする場合は、新たな初期値で測定を継続してもよいし、対象102が人の場合、再度はじめから測定をし直す、あるいは促してもよい。
【0053】
対象102での内部散乱が小さく、対象102の表面近傍の光信号を検出する場合、光源106から発生するパルス光の後端を
図2の波形(a)のように予め鈍らせておくことも、対象102の動きの補正に効果的である。予め鈍らせておけば、対象102で散乱による時間遅れがほとんど生じなくても、対象の動きによる光信号の時間遅れによる検出信号の増減量の調整に用いることができる。
【0054】
本実施の形態はz方向の動きの補正であるが、対象102のx、yシフトおよびパン、チルトの補正も組み合わせてもよい。これらの動きは、カメラ画像によるモーショントラッキング、対象102に設けた加速度計測などを用いるとよい。カメラ画像は撮像装置100の画像と兼用すれば、センシングデバイスの数を低減できる。検出された動きベクトルから行列演算により対象102の3次元的な動き補正が可能となる。z方向もモーショントラッキングでの補正と組み合わせてもよい。この場合も、本願の初期位相位置を予め最適化しておくことはモーショントラッキング補正の負荷を低減できるため有効である。
【0055】
(実施の形態2)
本実施の形態の撮像装置は、光源106から出射する光の出射角を調整する拡散角調整機構116をさらに備えている点が、実施の形態1の撮像装置と異なっている。ここでは、本実施形態において実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
【0056】
図5Aは、光源の拡散角と照射光210の密度変化との関係を示す。拡散角調整機構116は、光源106が発する照射光210の広がり角を調整する。例えば、拡散板および光学レンズなどで形成される。対象102がAとBの位置に存在する場合を比較すると、動きによる照度変化量は数式2で示されるように光源からの距離に反比例するため、同じ動き量であったとしても位置Aでの検出される光信号強度変化は位置Bよりも小さい。したがって、
図5Cに示すように、位置Aでは光信号検出強度の位相変化の傾きが相対的に小さい位置が最適位相T2となり、位置Bでは傾きが相対的に大きい位置が最適位相T1となる。
【0057】
しかし、光信号200は、最も遅い時刻である、例えば、t=t1において光路長が長い光を含み、早い時刻であるt=t4に向かうにつれて光路長がより短い光を含む。したがって、遅い時刻でシャッタを開示するほど、光信号200に含まれる対象102の深部の情報の割合が増加する。したがって、脳血流成分の比率が高い位置を動き補正の最適位相位置と一致するために、
図5Bに示すように、拡散角調整機構116を用いて、光源の広がり角を調整してもよい。
図5Bの場合、
図5Aと比較し、広がり角が小さいため、位置Bであっても対象102の動きによる照度変化が小さくなる。すなわち、位置Bの最適位相を、
図5Aの位置Aでの最適位相T2と同じにすることが可能となる(
図5C)。拡散角調整機構116はズームレンズ機構を含んでいてもよい。対象102の距離をモニタリングし、距離に応じてリアルタイムに適宜調整可能であるためである。また、シャッタ開始位相が遅すぎると絶対光量が低下し、S/N比が低下する。この場合は、拡散角調整機構116の広がり角を大きくし、最適位相位置を早めるとよい。
【0058】
(実施の形態3)
本実施の撮像装置は、パターン投影部118を光源106の出射面に備えている点が、実施の形態1の撮像装置と異なっている。ここでは、本実施形態において実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
【0059】
図6Aおよび
図6Bは、パターン投影部118で形成される照射パターン例を示す図である。実施の形態1および2の撮像装置では、光源106は、均一な照明光を投影する。これに対し、本実施形態では、光源106から出射する光はパターン投影部118によってリング状のパターンを有する光に変換され、パターン投影部118から投影される。投影される照射パターンにおける光信号検出箇所は、リングの内部、例えばリング中央である。リング状パターンは、リング幅が同じでもよいし、距離に応じて幅を異ならせてもよい。
図6Bは、パターン投影部118からドット状のパターンの光を投影する例を示している。光信号検出箇所は、ドットの間である。ドット状パターンは、ドット径が同じでもよいし、距離に応じて径を異ならせてもよい。
【0060】
パターン投影部118は拡散板、ディフューザ、光学レンズ、遮光板等を含み、光源106から出射する光の一部を遮光したり、収束させたり、反射させるなどによって所望のパターンの光に変換される。
【0061】
(実施の形態4)
本実施の形態の撮像装置は、演算処理部120有する点が、実施の形態の撮像装置と異なっている。ここでは、本実施形態において実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
【0062】
演算処理部120は、光検出器108で得られた信号からオフセット成分を除去する処理を実施する。オフセット成分とは、戻り光220を検出する際にどの位相でシャッタを開始しても含まれる一定のノイズ成分である。オフセット成分は、例えば、光電変換部110から電荷蓄積部112への電荷蓄積を停止している状態であっても光電変換された電荷の一部が、電荷蓄積部112に漏れることによって生じる。また、電荷蓄積部112を覆うように光を遮断する遮光膜の隙間を通過する成分なども含まれる。オフセット成分が大きく発生すると、ΔI
disがΔI
illと比較し大幅に低下するため、最適位相位置が大きくシフトしたり、最適位相位置が存在しなくなったりする。したがって、演算処理部120は、オフセット成分を別途見積り、演算処理で差し引く処理を実施する。
【0063】
(実施の形態5)
本実施の形態の撮像装置は、照射光210の拡散角がある条件式を満たしている。ここでは、本実施形態において実施の形態1と同様の内容についての詳細な説明は省略する。
【0064】
図7は、シャッタ開始位相と光の飛行距離変動による検出光信号変化量との関係を示す図である。
図7の横軸はシャッタ開始位相を表わし、縦軸は光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disを表わしている。光の飛行距離変動は、撮像装置100への光の到達時間変動に対応する。
図7に示すように、光源106から矩形パルス光が発せられる場合、矩形パルス光の後端以前でシャッタを開始しても、光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disは一定である。また、
図7に示すように、シャッタ開始位相が矩形パルス光の後端以降である場合、シャッタ開始位相の増加に伴い、光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disは減少する。したがって、光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disには上限がある。
【0065】
また、シャッタ開始位相がパルス光後端における光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disの下がり始め以降である場合に、撮像装置100は対象102の内部散乱情報を効果的に取得することができる。以上のことから、照射光210の照度変化に起因する検出光信号変化量ΔI
illを光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disで相殺することにより、対象102の動きによる検出光量の変化を低減させる場合、本実施の形態の撮像装置は、ΔI
ill≦ΔI
disとなる条件を少なくとも満たす。
【0066】
図8は、本実施の形態の撮像装置100における光源106から対象102に照射される照射光210の拡散角θと対象102までの距離との関係を表した図である。光源106は拡散板300を備えている。照射光210の拡散板300上のスポットの直径をd[mm]、拡散板300から対象102までの距離をR[mm]と定義すると、上記の条件ΔI
ill≦ΔI
disは、
【数12】
となる。ただし、cは光速である。
【0067】
ここで、生体での実測結果としてα=2.7[1/ns]、光速c=3×10
8[m]、Δrとしてヒトの平均的な体動レベルである10[mm]を代入すると、数式13が導かれる。
(数13)
81.5≦R+d/(2tanθ)
(数13)
ただし、R,d,θ>0である。
【0068】
ここで、微小距離変動としてΔr=10[mm]を代入したが、これは本人が意識的に静止した際の変動量に相当する。この条件を満たせば、パルス光後端において、照射光210の照度変化に起因する検出光信号変化量ΔI
illを光の飛行距離変動による検出光信号変化量ΔI
disで打ち消すことができる解が存在する。
【0069】
図9は、数式13の左辺から右辺を減算した値の一例を表わしている。ここでは、d=5mmとして、拡散板300から対象102までの距離Rと照射光210の拡散角θとをパラメータとしたときの値を算出している。表の値がマイナスである場合は、数式13を満たしていないことを意味している。
図9を参照すると、例えば、対象102までの距離Rが50mmである場合には、照射光Iiの拡散角θΘが4°以下であれば、数式13を満たすことが分かる。